SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ WHEN THE MAN COMES ARROUND 47-3


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《EPISODE10:Voices calling and voices crying,some are born and some are dying》

――ズーロッパ・トレーディング・ファーム・ビルまであと3分程の車中

「見えてきたな……。アレが目標のビルだ」

ハンドルを握るサムナーが顎で指し示す先には、やや古びた六階建てのビルがそびえていた。
窓からは幾つかの明かりが洩れてはいるものの静寂に包まれており、まるでビル全体が眠っているかのようだ。
だが、それとは対照的に車中の五人には、今回の任務のクライマックスに相応しい緊張が張り詰めていた。
戦闘開始の瞬間が刻一刻と迫っている。
防人と千歳の心臓が早鐘のように打たれる。それは使命感か、高揚感か、恐怖感か。
どちらかというと火渡の方が落ち着いているように見えなくもない。
しかし、それも彼の性格を鑑みれば“噴火前の火山”といったところなのだろうが。
そしてどういう訳か、ジュリアンは休憩中の落ち込みようがどこかに行ってしまったように、
ハツラツとした明るさを取り戻している。
バッキンガム宮殿衛兵の標準装備でもあるL85 IWアサルトライフルを胸に抱え、ここに到着するまでの道々も
あんなに毛嫌いしていたサムナーとにこやかに言葉を交わしていた。
防人は複雑な心境に陥っている。
チームプレイなのだから、理解し合えない者と親交を深められたのは重畳という他無い。
だが自分が知らぬ間に、一体何があったというのか。
気を許す事が出来ないサムナーが相手だけに、前にも増してジュリアンの身が心配だ。

その時、突然カーラジオの電源が入り、スピーカーから不明瞭な音声が小さく流れ出した。
誰もスイッチなど入れていないというのに。
『Chris......vincit......nat......istus......perat......』
耳障りなノイズにまぎれて、何か歌のようなものが聴こえてくる。
「何だ……!? パウエル、お前何かしたか?」
「い、いえ! 触ってもいませんよ!」
やがて時間が経つにつれてノイズが若干薄れ、その音声は次第に意味を持つものとなっていった。
複数の男声による荘厳な合唱。ラテン語で織り成される神への賛美。
これは、“カトリック聖歌”だ。


『Christus vincit, Christus regnat, Christus, Christus imperat.
Tempora bona veniant, pax Christi veniat, regnum Christi veniat...』
(キリストは勝ち、キリストは支配し、キリストは、キリストは君臨される。
幸福な時が来るように、キリストの平和が来るように、キリストの御国が来るように……)

本来、神々しく美しいものである筈の聖歌が、そぐわないシチュエーションとノイズのせいか、
何ともおぞましく不気味に聞こえる。
「やだ……。気持ち悪い……」
千歳は思わず背中を丸めて、寒くもないのに我が身を抱えてしまった。
いや、千歳だけではない。
火渡を除いた四人全員が、背筋に走る正体不明の悪寒を禁じえなかった。
「クソ、故障か? もう到着するというのに……!」
サムナーは苛立ちを隠しきれず、カーラジオをバンバンと乱暴に叩く。
他の四人の手前、余裕のある態度を示していたいが、この怪現象がどうしても“ある人物”を連想させてしまうのだ。
そうこうしているうちに音声は徐々に小さくなり、それに代わってノイズが大半を占め、やがてそれすらも消えた。
また、静寂が戻ってきた。
「止まり……ましたね……」
「フン、これだから安物は嫌なんだ」
ホッと安心したように見えなくもないサムナーが彼らしい罵り言葉を吐く頃には、車はビルの敷地内に進入していた。
車が停車し、エンジンが切られる。
「さあ諸君、いよいよだ……。既に銃口が向けられている可能性は充分にある。全員、武装錬金を発動しておけ」
「はい……!」
防人と千歳は息を呑みつつ、応答する。
火渡は相変わらず無言のままだ。
一瞬、火渡を睨みつけたサムナーだったが、すぐに視線をジュリアンに移す。
「パウエル。せいぜい足手まといにならんよう、全力を尽くすんだな……」
「ハイ!」
棘のある言葉にも元気よく答えるジュリアン。
五者五様の思惑、そして闘志は、如何なる戦闘絵巻を展開させるのか。
車のドアが開けられ、五人は戦いの地に降り立った。




ビル内五階の廊下ではパトリックの命令を受け取った八人が、各々の部署に着こうと激しく動き回っていた。
しかし、八人の動作はその激しさに似合わず、粛々と理路整然としたものだ。
物音を一切立てず、最低限の明かりの中で滑らかに戦闘準備を整えていく。
ある者はライフルのマガジンをセットする。ある者はグレネードランチャーのストラップを肩に回す。
ある者はワイヤーをベルトに取り付ける。ある者は手榴弾を腰に挿す。

そんな中、パトリックの副官でもあるザックがいち早く装備を整えて、他のメンバーに声を掛けた。
「お前ら! 最も優先するべきは何だ!?」
「「「敵をブチ殺す!!」」」
全員が声を揃えて答える。
「俺達が守るべきものは!?」
「「「アイルランド人の誇りとパトリックの命さ!!」」」
「その為に俺達は!?」
「「「死ぬんだ!!」」」
「ようし、俺達に与えら――」
熱き誓いは、突然響き渡った耳をつんざくような破砕音で遮られた。
それは音に止まらず、ガラスの破片のシャワーが八人全員に降り注ぐ。
廊下に面した窓ガラスという窓ガラスがすべて割れ砕け散ったのだ
「うおおッ!?」
「何だってんだ、畜生!」
「窓が全部割れちまったぞ!」
「クソッ! 奴ら、迫撃砲でも使ってきやがったか!?」
ザックが外を確認しようと窓に駆け寄った瞬間、無数の紙片が窓の外から勢いよく飛び込んできた。
幾百、幾千の紙片が廊下中に舞い踊る。
「おい、何だよコレは!」
「落ち着け! 落ち着くんだ!」
ザックは皆を落ち着かせようと声を張り上げながら、宙を舞う紙片を掴み取り、書かれている文字に眼を落とした。
「『われ罪なきの血を売りて罪を犯したり――』って……。こ、これは、聖書……?」
紙片の正体は聖書だ。無数の聖書のページが、風も無いこの廊下で我が物顔に吹き荒れているのだ。

「がッ……!」
突然、メンバーの一人が奇妙な声を上げて、床に倒れ込んだ。
「ゲム!」
ザックは警戒しつつ、倒れた仲間に近寄った。
「お、おい……」
既に事切れている。
彼のこめかみに突き立った“あるもの”が、その命を持ち去ったのだ。
「こ、これは……バッ、バ、銃剣(バヨネット)!!」

「ぐうッ!」
「おごァ!」
続けて二人のメンバーが断末魔の叫びを上げて崩れ落ちた。
一人は額に、もう一人は口中に、銃剣が深々と突き刺さっている。
「トニー! アンドリュー! 畜生ッ!!」
残った者達は銃を構え、誰が指示するでもなく自然に円形防御を組んでいた。
荒れ狂う聖書のページに視界を阻まれ、銃剣がどこから飛んでくるかわからない。
それ以前に銃剣の持ち主はどこにいるというのだ。

不規則に乱れ飛ぶ紙片は、やがて意思を持つかのように、ある一定の動きを見せ始めた。
竜巻を思わせる大きな円を描いて飛び始めたのだ。
そして、その円の中央では床から天井に向かって、まるで噴水のように紙片が吹き上げられている。
その中から、紙片の動きに合わせて一塊の“闇”がせり上がって来た。
ズルゥリと粘性の音を立てて、闇は何事かを呟きながら大きさを増していく。
「Death is swallowed up in victory... O death, where is thy victory... O death, where is thy sting...」
闇は徐々に人の形を成し始めた。魁偉な男の輪郭を成し始めた。
それはもう既に闇ではなく、人影だ。
さらに影の中から鈍く放たれる幾つかの光。
光を放っているのは、眼鏡。十字架(クルス)。そして、両の手に握られた、銃剣。



「奴は……!」
「遂に来やがったか……」
「ヴァチカン……第13課イスカリオテ……!」
「し、神父……」

「アレクサンド・アンデルセン!!」

闇と影のローブを脱ぎ捨てるが如く、アンデルセンは薄明かりの下、遂にその姿を現した。
「ハアァハハハハハァ……」
アンデルセンの視線は、瞬時にその場にいるテロリスト全員を捉えた。自分が仕留めるべき獲物達全員を。
「う、撃て……!」
常識の範疇を遥かに超えた出現の仕方に、あっけに取られていたザックがやっとの思いで発声した。
他の者も我に帰ると同時に、殺人者である己の性質を取り戻す。
「そ、そうだ、撃て! 撃て撃て撃て撃て撃てェ!! 撃てェエエエエエ!!!!」
「ウオォオオオオオオオオオオ!!」
銃声と雄叫びの中、弾雹弾雨が一斉にアンデルセンに浴びせられる。
頭といわず、胴体といわず、手足といわず。
しかし、幾多の銃創は次の着弾を待たず、瞬時に再生されていく。
アンデルセンは涼しい顔、いや歓喜に満ちた顔で引き金を引き続けるテロリスト達を眺めている。
そのうち、好き勝手に発砲させる事に飽きたのか、アンデルセンは両手に下げた銃剣をゆっくりと構え、
静かに歩みを進め始めた。
罪深き背信者達に向かって。


「我に求めよ。さらば汝に諸々の国を嗣業として与え地の果てを汝の物として与えん」
「死ね! 死にやがれクソ神父がァ! この俺がブッ殺してやる!! テメエなんざ――うぐォ!」

「汝、黒鉄の杖をもて彼らを打ち破り、陶工の器物のごとくに打ち砕かんと」
「アラン!? 野ァ郎ォオオ! 殺してやる! 殺してやるぞテメエェエエエ!! 殺し――ぐあッ!」

「されば汝ら諸々の王よさとかれ、地の審判人よ、教えを受けよ」
「畜生(ファック)! 畜生(ファック)! 何なんだテメエはァ!! 何で死なねえんだ!! クソッタ――あがッ!」

「恐れをもて主につかえ、おののきをもて喜べ。子に接吻せよ」
「うわあああ!! 来るな! 来るな化物ォ! 来るんじゃねえ!! ああ神様ァ!! 神さ――ぐえェ!」

「恐らくは彼は怒りを放ち、汝ら途に滅びん。その怒りは速やかに燃ゆベければ」
「パトリック! 聴こえてるかパトリック! 逃げろ! コイツは本物の化物だ! 早く逃げ――がはァ!」

廊下は全き血の静寂に包まれていた。
首を落とされた者。顔を二つに打ち割られた者。胸板を貫かれた者。
声を発する者は一人もいない。彼らが発するのは血と臓腑の悪臭だけ。
アンデルセンは満足気に指で眼鏡を押し上げた。
だが、この素晴らしき静寂を打ち破る無粋な者がいた。
副官ザックだった物体が握り締める無線機だ。無線機の向こうにいるパトリックだ。
『おいザック! 何があった!? 答えろ! ポール! ジェイ! 一体どうし――』
アンデルセンは無線機をグシャリと踏み潰し、結びの一節を唱えた。

「全て彼により頼む者は幸いなり……。――AMEN」





[続]