――北アイルランド アーマー州ラーガン ズーロッパ・トレーディング・ファーム・ビル
ラーガン市内の外れにある六階建てのビル。
ビルに掲げられた看板には『ZOOROPA Trading Firm』とある。
この中小輸入貿易会社ビルの六階、暗く長い廊下を一人の少女が歩いていた。
黒のタンクトップにモスグリーンのアーミーパンツ、手には自動小銃アーマライトAR‐18、
そして頭にはそれらとは不釣合いなフリル付きカチューシャとリボン。
ブリギット・マクラウドは自身の15年間の人生と、これまで歩んできた闘士としての道をボンヤリと振り返りながら、
意味も無く廊下を行き来している。
ビルに掲げられた看板には『ZOOROPA Trading Firm』とある。
この中小輸入貿易会社ビルの六階、暗く長い廊下を一人の少女が歩いていた。
黒のタンクトップにモスグリーンのアーミーパンツ、手には自動小銃アーマライトAR‐18、
そして頭にはそれらとは不釣合いなフリル付きカチューシャとリボン。
ブリギット・マクラウドは自身の15年間の人生と、これまで歩んできた闘士としての道をボンヤリと振り返りながら、
意味も無く廊下を行き来している。
自分は人を撃ち殺し、刺し殺し、爆死させてきた。
これまでもそうだったし、これからもそうなのだろう。
ただ、近頃は何かがおかしい。
突然、莫大な活動資金を提供してきた“協力者”。
自分を妹同然にからかい、可愛がってくれた“ギャラクシアン兄弟”は化物に姿を変えた。
そして、その彼らをなぶり殺したヴァチカンの“神父”。
憧れるだけで近寄り難かった“パトリック”は取り乱したり、沈み込んだり、そうかと思えば
またいつものように冷静で冷酷なリーダーらしさを取り戻したり。
まるでNew Real IRAが現実とは違う異世界に迷い込んでしまったかのようだ。
出口も見えず、正体のわからない何かが迫っている。
これまでもそうだったし、これからもそうなのだろう。
ただ、近頃は何かがおかしい。
突然、莫大な活動資金を提供してきた“協力者”。
自分を妹同然にからかい、可愛がってくれた“ギャラクシアン兄弟”は化物に姿を変えた。
そして、その彼らをなぶり殺したヴァチカンの“神父”。
憧れるだけで近寄り難かった“パトリック”は取り乱したり、沈み込んだり、そうかと思えば
またいつものように冷静で冷酷なリーダーらしさを取り戻したり。
まるでNew Real IRAが現実とは違う異世界に迷い込んでしまったかのようだ。
出口も見えず、正体のわからない何かが迫っている。
しかし、それでもブリギットは信じて疑わない。
パトリック・オコーネルはIRAに、そして自分の前に降り立った“救い主”だと。
十字架(アーマライト)を肌身離さず、祈り(闘争)を続けていれば、きっと神の御国(統一アイルランド)をもたらしてくれると。
もしかしたら彼はアイルランドにキリスト教を広めた守護聖人“聖パトリック”の
生まれ変わりかもしれない、と馬鹿な空想さえも抱いている。
そして、彼女の無意味な廊下の往復が二ケタに達した時、静かに声を掛ける者がいた。
「眠れないのか?」
当のパトリック本人だ。コツリ、コツリと足音を鳴らしながら、ゆっくり近づいてくる。
アルスター・コートにジーンズ。この格好だけはいつもどおり。無精髭の中の唇は微笑を形作っていた。
「ううん、別に……」
あまり言葉を交わした事が無いだけに、こうやって面と向かうと緊張に身が固くなる。
だがパトリックはブリギットから少し離れ、壁に寄り掛かった。
そして彼女とは眼を合わせず、独り言のように話し始める。
「夜が明ければ午前中には“協力者”が来る」
「うん……」
気の利いた言葉も浮かばず、ただ曖昧な返事をするブリギット。
「何を企んでいるかは知らんが、奴には今日で死んでもらう」
「うん……」
「それに、あのヴァチカンの化物神父とも戦う事になるだろうな」
「うん……」
「ブリギット……」
「ん……?」
「お前は抜けろ」
パトリック・オコーネルはIRAに、そして自分の前に降り立った“救い主”だと。
十字架(アーマライト)を肌身離さず、祈り(闘争)を続けていれば、きっと神の御国(統一アイルランド)をもたらしてくれると。
もしかしたら彼はアイルランドにキリスト教を広めた守護聖人“聖パトリック”の
生まれ変わりかもしれない、と馬鹿な空想さえも抱いている。
そして、彼女の無意味な廊下の往復が二ケタに達した時、静かに声を掛ける者がいた。
「眠れないのか?」
当のパトリック本人だ。コツリ、コツリと足音を鳴らしながら、ゆっくり近づいてくる。
アルスター・コートにジーンズ。この格好だけはいつもどおり。無精髭の中の唇は微笑を形作っていた。
「ううん、別に……」
あまり言葉を交わした事が無いだけに、こうやって面と向かうと緊張に身が固くなる。
だがパトリックはブリギットから少し離れ、壁に寄り掛かった。
そして彼女とは眼を合わせず、独り言のように話し始める。
「夜が明ければ午前中には“協力者”が来る」
「うん……」
気の利いた言葉も浮かばず、ただ曖昧な返事をするブリギット。
「何を企んでいるかは知らんが、奴には今日で死んでもらう」
「うん……」
「それに、あのヴァチカンの化物神父とも戦う事になるだろうな」
「うん……」
「ブリギット……」
「ん……?」
「お前は抜けろ」
「!?」
予想もし得なかった言葉を聞き、ブリギットは驚きに眼を見開き、開いた口が塞がらない。
だがパトリックは驚愕するブリギットなど意に関せず、淡々と話を続ける。
「俺の部屋の金庫に、ファーストトラスト銀行の貸金庫の鍵が入ってる。貸金庫の中身は協力者の
寄越した俺達の活動資金だ。残りは僅かだがな……。それを持ってこの街を――」
「何を言ってるの!?」
ブリギットはパトリックの言葉を打ち消すように、激しく疑問を投げ掛けた。
それも当然だろう。
僅かに死を恐れる様子を見せた部下を簡単に殺した、闘争の権化のような首領。
無言の突撃しか配下の者達に求めない残酷さ。戦闘に要する人員数よりも戦意高揚を優先させる無軌道さ。
その彼が、ブリギットに「組織を抜けろ」などとまるで甘い事を言う。
「私も一緒に戦うわ! 最後まで!」
ブリギットは彼に駆け寄り、すがりつく。
「私を育ててくれた人達は教えてくれたわ! 両親の顔も知らない私に!
『母とは爆薬(コンポジション)。父とは銃(アーマライト)』だって! 私には戦いがすべてなのよ! 私には戦いしかないのよ!」
「聞け、ブリギット……」
パトリックは瞑目し、言葉少なに何かを諭そうとする。
だがブリギットは耳を貸さない。
「そして、あなたに出会えたわ! 私にとっての救い主はあなたよ! パトリック!
あなただから、あなただから今まで付いてきた……! これからだって、どこへでも付いていくわ!
最後まで一緒に戦うわ!!」
喚き続けるブリギット。
それを聞いているのか聞いていないのか、パトリックは訥々たる口調で語り始める。
「“命の価値”ってもんがある……。俺や、お前の……」
だがパトリックは驚愕するブリギットなど意に関せず、淡々と話を続ける。
「俺の部屋の金庫に、ファーストトラスト銀行の貸金庫の鍵が入ってる。貸金庫の中身は協力者の
寄越した俺達の活動資金だ。残りは僅かだがな……。それを持ってこの街を――」
「何を言ってるの!?」
ブリギットはパトリックの言葉を打ち消すように、激しく疑問を投げ掛けた。
それも当然だろう。
僅かに死を恐れる様子を見せた部下を簡単に殺した、闘争の権化のような首領。
無言の突撃しか配下の者達に求めない残酷さ。戦闘に要する人員数よりも戦意高揚を優先させる無軌道さ。
その彼が、ブリギットに「組織を抜けろ」などとまるで甘い事を言う。
「私も一緒に戦うわ! 最後まで!」
ブリギットは彼に駆け寄り、すがりつく。
「私を育ててくれた人達は教えてくれたわ! 両親の顔も知らない私に!
『母とは爆薬(コンポジション)。父とは銃(アーマライト)』だって! 私には戦いがすべてなのよ! 私には戦いしかないのよ!」
「聞け、ブリギット……」
パトリックは瞑目し、言葉少なに何かを諭そうとする。
だがブリギットは耳を貸さない。
「そして、あなたに出会えたわ! 私にとっての救い主はあなたよ! パトリック!
あなただから、あなただから今まで付いてきた……! これからだって、どこへでも付いていくわ!
最後まで一緒に戦うわ!!」
喚き続けるブリギット。
それを聞いているのか聞いていないのか、パトリックは訥々たる口調で語り始める。
「“命の価値”ってもんがある……。俺や、お前の……」
“命”
過激派の急先鋒である彼に、これほど似合わない言葉があるだろうか。
「何よ、それ! わかんない!」
「聞くんだ……。俺はいずれ死ぬ。下の階の奴らも。戦って、闘って、斗って、死ぬ。死ぬ為に戦うんだ。
俺達が命を賭けてイギリス人やプロテスタントを滅ぼした後は、俺達よりオツムの出来のいい連中が
国を創るんだろう。“政治”ってヤツをやるんだろう。
俺は小学校も出てないボンクラだが、これだけはわかる。
“新しい平和なアイルランドに闘士(オレタチ)なんて必要無い”
だから、俺が、俺達がその土台を作るのさ。“政治”の。“統一アイルランド”の。
その為に俺達は死ななきゃならん。いや、新しいアイルランドに俺達みたいな奴らは生きてちゃいけないんだ。
それが、俺の“命の価値”さ……」
「だから、私だって――」
「お前は生きろ」
今度はパトリックが彼女の言葉を打ち消した。“死”に己の価値を見出す闘士にあるまじき言葉で。
「生きて、子を産め。闘争の種を産み増やせ。死を恐れない兵士を育てろ。祖国を愛する闘士を育てろ。
お前一人でも十人も産めば、分隊が出来る。お前ら女達がいれば、一個小隊なんてすぐさ。
お前ら女達がいれば、この北アイルランドに無敵の“大隊”を作り上げる事だって不可能じゃない……――」
大きく厚い掌がブリギットの両肩に置かれる。
「ブリテンを滅ぼすべき兵士を、統一アイルランドを創るべき若者を育てろ。それが、お前の“命の価値”だ。
闘士の俺にも為政者達にも出来ない事を、お前がやるんだ。その“命”を使って……」
ここまで話すと、パトリックは満面の笑みを浮かべた。
「この任務、任せたぜ」
「何よ、それ! わかんない!」
「聞くんだ……。俺はいずれ死ぬ。下の階の奴らも。戦って、闘って、斗って、死ぬ。死ぬ為に戦うんだ。
俺達が命を賭けてイギリス人やプロテスタントを滅ぼした後は、俺達よりオツムの出来のいい連中が
国を創るんだろう。“政治”ってヤツをやるんだろう。
俺は小学校も出てないボンクラだが、これだけはわかる。
“新しい平和なアイルランドに闘士(オレタチ)なんて必要無い”
だから、俺が、俺達がその土台を作るのさ。“政治”の。“統一アイルランド”の。
その為に俺達は死ななきゃならん。いや、新しいアイルランドに俺達みたいな奴らは生きてちゃいけないんだ。
それが、俺の“命の価値”さ……」
「だから、私だって――」
「お前は生きろ」
今度はパトリックが彼女の言葉を打ち消した。“死”に己の価値を見出す闘士にあるまじき言葉で。
「生きて、子を産め。闘争の種を産み増やせ。死を恐れない兵士を育てろ。祖国を愛する闘士を育てろ。
お前一人でも十人も産めば、分隊が出来る。お前ら女達がいれば、一個小隊なんてすぐさ。
お前ら女達がいれば、この北アイルランドに無敵の“大隊”を作り上げる事だって不可能じゃない……――」
大きく厚い掌がブリギットの両肩に置かれる。
「ブリテンを滅ぼすべき兵士を、統一アイルランドを創るべき若者を育てろ。それが、お前の“命の価値”だ。
闘士の俺にも為政者達にも出来ない事を、お前がやるんだ。その“命”を使って……」
ここまで話すと、パトリックは満面の笑みを浮かべた。
「この任務、任せたぜ」
ブリギットは気づいていた。
この会話が始まってから今まで、パトリックの口からは『New Real IRA』という言葉が出てこない。
ただの一度も。
パトリックはわかっているのだ。
自分達はここで死ぬという事を。New Real IRAはここで終わりだという事を。
そして、自分に“未来”を託そうとしている。
“IRA”の未来を。アイルランドの未来を。
この会話が始まってから今まで、パトリックの口からは『New Real IRA』という言葉が出てこない。
ただの一度も。
パトリックはわかっているのだ。
自分達はここで死ぬという事を。New Real IRAはここで終わりだという事を。
そして、自分に“未来”を託そうとしている。
“IRA”の未来を。アイルランドの未来を。
ブリギットはパトリックの顔を見上げ、彼の瞳を覗き込んだ。
鮮やかなグリーンの瞳は輝きも生気も無く、ガラス玉のように眼窩に収まっていた。
本能のままに獲物に襲い掛かるホオジロザメのそれに似ている。
よかった。人殺しの眼のままだ。狂人の眼のままだ。
涙なんか流していたら絶対に承知しないとこだった。
鮮やかなグリーンの瞳は輝きも生気も無く、ガラス玉のように眼窩に収まっていた。
本能のままに獲物に襲い掛かるホオジロザメのそれに似ている。
よかった。人殺しの眼のままだ。狂人の眼のままだ。
涙なんか流していたら絶対に承知しないとこだった。
おそらく、今の今まで誰にも明かした事の無かった彼の胸の内。
誰もが自分達の、それぞれの“本当”の存在意義なんて考えもしなかっただろう。彼以外は。
聞かない訳にはいかない。彼の“理想”を。彼の“願い”を。
それに……。そうだ、リーダーである彼の“命令”は絶対。それが掟だった。
ブリギットはパトリックの眼を見つめたまま、小さく微笑んで頷いた。
「……わかったわ」
そして、アーマライトを軽く持ち上げる。
「“コレ”は、持っていっていいんでしょ……?」
「もちろんさ。俺達の魂だからな……」
その言葉を聞くとブリギットは彼からゆっくりと離れ、エレベーターに向かって歩き出した。
別離の言葉も、抱擁も無い。そんなものは何の意味も持たないからだ。
パトリックは彼女の事を忘れてしまうのだろう。彼の生きる世界は流れる時間さえも狂っている。
“過去”も“未来”も無い。ただ“現在”の繰り返し。この一瞬の、繰り返し。
誰もが自分達の、それぞれの“本当”の存在意義なんて考えもしなかっただろう。彼以外は。
聞かない訳にはいかない。彼の“理想”を。彼の“願い”を。
それに……。そうだ、リーダーである彼の“命令”は絶対。それが掟だった。
ブリギットはパトリックの眼を見つめたまま、小さく微笑んで頷いた。
「……わかったわ」
そして、アーマライトを軽く持ち上げる。
「“コレ”は、持っていっていいんでしょ……?」
「もちろんさ。俺達の魂だからな……」
その言葉を聞くとブリギットは彼からゆっくりと離れ、エレベーターに向かって歩き出した。
別離の言葉も、抱擁も無い。そんなものは何の意味も持たないからだ。
パトリックは彼女の事を忘れてしまうのだろう。彼の生きる世界は流れる時間さえも狂っている。
“過去”も“未来”も無い。ただ“現在”の繰り返し。この一瞬の、繰り返し。
だが、少女の心は僅かに揺らいだ。感傷に負けてしまった。
ブリギットは最後に小さく問い掛けた。立ち止まらず、振り向かず。
「ねえ……。また、会えるかな……」
パトリックもまた彼女の方へは振り返らない。
「ああ、地獄でな……。俺は一足先に行って、お前を待ってるぜ……」
返事は聞こえてこない。足音は遠ざかり、小さくなっていく。
そのまま、少女の気配は消えて無くなった。
「ねえ……。また、会えるかな……」
パトリックもまた彼女の方へは振り返らない。
「ああ、地獄でな……。俺は一足先に行って、お前を待ってるぜ……」
返事は聞こえてこない。足音は遠ざかり、小さくなっていく。
そのまま、少女の気配は消えて無くなった。
やがて、彼の狂った時計がまた回り始めた。“現在”がやってきた。
『きょ、協力者が来ました……! 青いセダン車で敷地内に侵入。四人、仲間を連れています。』
見張りからの突然の無線連絡に、パトリックの闘争本能は瞬時にして沸きあがった。
「まだ夜明け前だというのに、しかも仲間を連れて……。やはり、殺る気か……!」
ギリギリと歯軋りをしながら腰の無線機を引き抜くと、一階に待機する十数名の部下達に呼び掛ける。
「わかった。……いいか、一階にいる者はそのまま待機していろ」
そして、少し間を置き、一階にたむろしている連中とは毛色の違う者達に呼び掛けた。
「聞いたな? 出番だ、同志達(フレンズ)」
ワンフロア下の五階にはパトリック子飼いの部下達が待機している。
二十年近くに渡って苦楽を共にしてきた同志達だ。
しかし、長い時はその数を確実に減らしていった。今や彼らは十指に満たない。
英軍や警官に殺された者、逮捕された者、脱走した者、組織内で粛清された者。
では、脱落していった者達と今の彼らの違いは何だ? 何故彼らは生き残っているのか?
答えは簡単過ぎる。
それは“生き残ったから”だ。
『きょ、協力者が来ました……! 青いセダン車で敷地内に侵入。四人、仲間を連れています。』
見張りからの突然の無線連絡に、パトリックの闘争本能は瞬時にして沸きあがった。
「まだ夜明け前だというのに、しかも仲間を連れて……。やはり、殺る気か……!」
ギリギリと歯軋りをしながら腰の無線機を引き抜くと、一階に待機する十数名の部下達に呼び掛ける。
「わかった。……いいか、一階にいる者はそのまま待機していろ」
そして、少し間を置き、一階にたむろしている連中とは毛色の違う者達に呼び掛けた。
「聞いたな? 出番だ、同志達(フレンズ)」
ワンフロア下の五階にはパトリック子飼いの部下達が待機している。
二十年近くに渡って苦楽を共にしてきた同志達だ。
しかし、長い時はその数を確実に減らしていった。今や彼らは十指に満たない。
英軍や警官に殺された者、逮捕された者、脱走した者、組織内で粛清された者。
では、脱落していった者達と今の彼らの違いは何だ? 何故彼らは生き残っているのか?
答えは簡単過ぎる。
それは“生き残ったから”だ。
「ザック。お前は一階の連中を指揮して、奴らを正面から迎え撃て。なるべくビル内深くに誘き寄せろ」
『了解』
「アンディ、ゲム、ジェイ。お前らはその援護だ」
『了解』
「ポール、トニー、アラン、アンドリュー。奴らがある程度ビル内に入り込んだら、
窓からワイヤーを使って降下し、背後から挟撃しろ。タイミングを誤るなよ」
『了解』
『了解』
「アンディ、ゲム、ジェイ。お前らはその援護だ」
『了解』
「ポール、トニー、アラン、アンドリュー。奴らがある程度ビル内に入り込んだら、
窓からワイヤーを使って降下し、背後から挟撃しろ。タイミングを誤るなよ」
『了解』
必要な命令は出し終わった。
パトリックはこの同志達に何か声を掛けてやりたかった。
しかし特には思いつかない。こんなものだ。思えばこれが日常なのだから。
「以上だ(オーバー)」
無線機を腰に挿すと、パトリックは窓から外を見た。
成る程、見張りの言うとおり一台の車がビルの前で停車した。
だが、すぐに眼を離し、この北アイルランドを覆う夜空に眼を向ける。
空は未だ深い闇に包まれている。しかし、夜の闇が深ければ深い程、暁もまた近い。
パトリックはこの同志達に何か声を掛けてやりたかった。
しかし特には思いつかない。こんなものだ。思えばこれが日常なのだから。
「以上だ(オーバー)」
無線機を腰に挿すと、パトリックは窓から外を見た。
成る程、見張りの言うとおり一台の車がビルの前で停車した。
だが、すぐに眼を離し、この北アイルランドを覆う夜空に眼を向ける。
空は未だ深い闇に包まれている。しかし、夜の闇が深ければ深い程、暁もまた近い。
「もうすぐ夜が明けるな……。朝が、来る。皆殺しの朝(ドーン・オブ・ザ・デッド)が……。
皆、死ぬ……。俺達も、奴らも、誰も、彼も。それは……そういう事だ」
皆、死ぬ……。俺達も、奴らも、誰も、彼も。それは……そういう事だ」