SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ ヴィクティム・レッド 46-2


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 医療セクションに到達したキース・シルバーは、頭上から降り注ぐけたたましいアラートを聞いた。
「ふん、やっと発令したか……」
 腕時計をちらと見、自分がその命令を下してからのタイムラグに軽い不満を覚える。
エグリゴリの危機管理体制について若干の修正が必要かもしれない、と。
 だがそれも全てが終わってからの話であり、今はその元凶を取り除くことが最優先だ。
 そう判断したシルバーは思考を打ち切ってさらに歩みを早めた。
『アラート42。アラート42。現在、当施設内において深刻なサイコハザードが発生しています。
危険レベル3。現時刻より、当施設に第三次警報が発令されます。
職員は所定のマニュアルに従って各自避難してください。ルートは19、103、330を推奨。
これより210秒後に施設内の全隔壁を封鎖、ロックコードをシャッフルします。
災害発生源は動性のため、接近遭遇は可能な限り回避してください。
発生源は人間。外見的特徴、ヨーロピアン系の少年。金髪、碧眼、身長5フィート2/8、やや痩躯。グリーンの検査衣を着用。
被験者名──』


『──クリフ・ギルバート』
「ああ、これだよ」
 スピーカーから流れる無機質な声に耳を傾けていたレッドは、その声に少年の方を見た。
「……なんだと?」
 聞くまでもなかった。この警告が伝える『動性発生源』の特徴は、今目の前にいる少年と完璧に合致していた。
「だから、これが僕の名前さ」
 少年──クリフ・ギルバートはいともあっさりと言った。
それはまるで銀行窓口の順番待ちをしている主婦が「あら、わたしの番だわ」とでも言うような気安さで。
「そう言えば、僕は君の名前を知らないね。教えてくれないか?」
「……キース・レッド」
「そうか、じゃあレッド。早く僕を妹のところに案内してくれないか?」
 耳を劈くような警報が鳴り響くなか、クリフのまとう雰囲気が、とてつもなく凶暴なものへと変化していた。
逆らえば殺す、そういった感じの有無を言わせぬ殺気が彼の身体全体から発散されていた。
 だが、天邪鬼なレッドにとってそれはまったくの逆効果であり、口の端を歪めて吐き捨てる。
「『やっぱ気が変わった』って言ったらどうする気だ?」
 その言葉にクリフは目を丸くし、そして、
「へえ……」
 これ以上ないくらいに晴れやかに、にっこりと笑った。
 次の瞬間には不可視の圧力が怒涛のようにレッドを襲い、気味の悪い音を立てて両腕があらぬ方向へ捻じ曲がった。
「がっ……!」
 思わず膝を落としたレッドの頭上から、家臣に下知を垂れる王者のように傲慢な声が降ってくる。
「いけないなあ……そんなわがままを言うもんじゃないよ。
一度案内してくれると言ったものを、そんな簡単に引っくり返すなんて不親切が過ぎるんじゃないかい? え?」
「てめえ……サイコキノか……」
「そんなことはどうでもいいだろう? 君は僕を案内してくれればそれでいいんだ。そうすれば命だけは助けてあげるよ」
 だらりと垂れ下がったレッドの腕を見下ろしながら、どこか嬉しそうにクリフがうそぶく。
 己の力を他者に見せつけるのが、たまらなく楽しいとでも言いたげであった。
 腕を苛む激痛に耐え、脂汗をだらだら流しながらも、レッドはやっとのことで言葉を搾り出す。
「──なよ」
「え? なんだって?」
「ふざけんなよ、バァカ」
「おいおい、それはないだろう」
 今度は背中から強大な圧力を加えられ、地面に押しつぶされる。床に亀裂が蜘蛛の巣のように走った。
 彼の念動力は圧倒的だった。この空間全てが彼の暴力的な意思に満たされていた。
 その気になれば、きっと目に見える範囲全てを吹き飛ばすこともできるだろう。
 レッドはその力の差を感じながらも、その一方で、彼の態度に激しい嫌悪感を抱いていた。
 その嫌な感じは、誰かに似ているような気がした。
「がっかりだよ。君も他の大人たちのように、上っ面でしか物事を見てくれないのかい?
あんなチャチな放送一つで、妹に会いたいという僕の気持ちを踏みにじるのかい?
なあ、僕はなにかおかしいことを言っているかな」
「ズレてるよな……てめえはよ」
「なんだって?」
 不思議そうに聞き返すクリフの表情が、さぁっと蒼ざめる。
「お、お前……僕の力に……」
 レッドは立ち上がろうとしていた。
 今この空間を支配するクリフの意志に逆らい、他者を抑圧する残酷な力を捻じ曲げ、己の意志を貫こうとしていた。
「倒れろよ!」
 クリフの収斂された意識が叩きつけられ、今度こそレッドの全身が致命的なまでに捻り曲げられる。
 だが、それ以上の復元力でもってレッドの骨格が、筋肉が、元の姿を取り戻そうとしていた。
 今さらながらクリフは気が付く。
 レッドの顔面、体表面に、奇怪な幾何学的紋様が浮かび上がっていることを。
 彼の体組織が、人間のそれとは思えない奇妙な感触のものに変質していることを。
「てめえ、よ──」
 あえぎ、レッドがつぶやく。
「人にモノを頼むのにその態度はないんじゃねーのか?」
 クリフの視界が怒りで真っ赤に染まる。
「ふざっ、けるなぁ!」


 なんの前触れもなく発令されたアラートに、セピアは驚いてスピーカーを見上げた。
 ARMS『モックタートル』を発動させ、周囲を警戒する。
 そこにはなんの異常も──いや。
 今まで感じたことのない異様なエネルギーを、ここから直線距離でわずか数十メートルの位置で検出した。
 何枚も壁を隔てた向こうのことなので、その詳細は把握できない。
「きゃ……」
 セピアは強烈なARMS共振波をその肌に感じる。誰かが、いや、まず間違いなくレッドが、ARMSを戦闘状態で解放したのだ。
 体中を駆け巡る、びりびりとくる振動に耐え切れず、セピアは床にへたり込む。
 こっちのARMSの状態を制御して共振を押さえ込むが、まだむずがゆい感じが身体の表面を這いずり回っていた。
「なんなのよ、もう……」
 さっきからやかましい放送と併せて考えるに、レッドは今その『発生源』とやらと戦っているのだろう。
 レッドの元に駆けつけることを即座に思いつくが、それより先にこの子を非難させなければ──と思い直し、
「とにかく、どこか安全な場所まで避難しましょう……ってユーゴー? どうしたの!?」
 セピアのすぐ横で、ユーゴー・ギルバートも同じように床にうずくまっていた。
 だがそれはセピアのそれとは比べ物にならないくらいに深刻そうなもので、頭を抱えてがたがたと震えていた。
「ユーゴー、どうしたの? しっかりして、お願い」
 言いながら、誰よりもしっかりしなければならないのはわたしだろう、とセピアは内心で自分の不甲斐なさを呪った。
 セピアにはなにもできない。なぜ彼女が苦しんでいるのか、それすらも分からなかった。
 桜色だった唇を紫に変えて、虚ろに「兄さん」と繰り返すだけのユーゴーの背を、ただ半べそをかきながら撫でるだけであった。
「ああ……どうしたらいいの……?」
 だが、誰に分かるだろう。ユーゴー・ギルバートはクリフ・ギルバートの発する攻撃的な思念に当てられているのであり、
いわば彼の凶悪なサイコキネシスをダイレクトに受信しているのだということを。
 お互いが未熟な能力者であり血と魂を分けた兄妹だからこそ起こった偶然の産物であり、
それは彼らを研究していたPSIラボの研究者すらも予想していなかった現象だった。