SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 戦闘神話11-1


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part.11
エドワード・エルリックが来日したのは、四月も半ばを過ぎ、
五月に程近い頃だった。
彼は預かり知らぬことだが、
カズキがホムンクルス・パピヨンとの壮絶な死闘を演じた翌日である。
ギリシアからの移動中、ジュリアン・ソロの緊急通告により探し物の一つが減った為、
尋ね人への接触が主任務となったのだ。

エドワードとしては焦る気持ちは大きい。
この世界に来て二年目の春だ。
田舎育ちの彼としては、春は晴れやか且つ忙しい季節だという認識がある。
国家錬金術師となって以来、旅先で春の訪れを実感することが多いが、
それでも生まれ育った東部の田舎の風景を仰ぎ見ることは多かった。
同時に、詮無きことだが焦慮の感が強くなる季節でもある。
自分のことはどうでも良い、一時も速く弟を元の身体に、そして自分の体を元に戻す。
そのためだけに軍の狗と蔑まれる覚悟を決めたのだから。

「まったく、先に言えっつうの…」

現在、エドワードは隻腕ではない。
サイボーグ兵士計画というものがかつて存在した。その計画の成果の一つがこの義肢だ。
軍産複合体にも一枚噛んでいるソロ家だからこそ用意できたのだが、特筆すべきは、この軽さだ。
「元の世界」で使っていた鋼鉄の義手は剛性には長けていたが、
精緻な動きを求めるにはいささか荷が克ちすぎた。
なにより、比重がどうしても義手側の右によってしまうのだ。
幸か不幸か、左足も義足であったため、一応まっすぐとした姿勢を保つことはできたが。
だが、いかに高性能であっても、これは武器だ。
人を殺すための道具だ。人を生かすための道具ではない。
接合部が妙に冷えるのは、おそらく心の部分がそう思っているからだろう。
エドワード・エルリックはさらにうんざりとして、漸く現実に目を向けた。
警戒色のビニルテープで閉ざされた蝶野邸の門扉、
警備する警官、
銀成市警のパトカーと科捜研のバン、
聞き込みにまわる刑事、
未だにざわつきを濃くする巷間、
蛭のようにまとわりつくマスコミの群れ、
コンビニに立ち寄り、新聞を開けばそこには扇情的な見出しと共にこう書かれている。
『銀成市で謎の大量失踪事件?』『暴力団も関与か?旧家の謎!銃声と共に消えた住人!』と。
つまりは…。

「いきなり手がかりが途絶えた…」

絶望的な声色で、エドワードは呟いた。
蝶野翁と接触して欲しい、といわれたモノの、
調べてみると当の蝶野翁は大正前に亡くなっているし。
その研究足跡を知るだろう彼の遺族は、事件性の高い集団失踪と来た。
ジュリアン・ソロは目的の品のほうをさっさと手に入れてしまっていて、
踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂と言ったところだ。
ここでジュリアン・ソロから見放されたら、元の世界へ返る折角の手がかりが消えてしまう。
だが、諦めたら「鋼の錬金術師」の名が廃ると言うものだろう。
今ここに彼の弟が居たなら、エドワードをこう評しただろう。またなんか悪事を思いついた、と。



その日の晩、人気の絶えた蝶野邸に魔法のように人が現れた。
闘争本能を武器に変える特殊合金・核金、それを与えられた錬金の戦士であると同時に、
錬金戦団亜細亜支部の誇る潜入・調査のエキスパート、楯山千歳だ。
錬金戦団団員、とくに嚆矢たる錬金の戦士は慢性的な人員不足に苦しんでいる。
いくら成り手が多くとも、錬金の戦士の証である核金は、
各支部ごとに割り当て数が決まっているのも一因だ。
亜細亜支部は最後に裏切りの戦士が消息を絶った場所であるが故に、
他支部に比べて核金に数的余裕があり、
更に安定した実力から諸外国の錬金戦団からも信の厚い
戦士長・キャプテンブラボーや、
この時点では九州のホムンクルス・コミューンを殲滅中の
奇兵とでもいうべき戦士長・火渡の存在の為、
攻撃力という点では一歩先んずるものがあるが、それでも人員不足は否めない。
戦闘とは攻撃だけしていればいいという物でもない、
故に、一人の戦士が複数の任務を並行してこなさなければならないケースは多々発生する。
彼女、楯山千歳もその一例だ。
彼女の本来の任務は、大戦士長坂口照星直属の各支部、駐留所との連絡員であり、戦闘分析である。
同時に百年前、裏切りの戦士討伐の際不明になった核金捜索の任務と、
そして、こうした突発的な事件の調査といった複数任務対応要員も兼ねているのだ。
彼女の武装錬金がそういった事例にたいして非常に有効であったことも、
彼女の多忙さの一因でもあるのだが。
因みに、現在待機状態にある津村斗貴子嬢は、
核金捜索とホムンクルス抹殺任務の二つを請け負っていた。
十代中盤の彼女ですら、複数任務が割り当てられている事を鑑みれば、
自ずと人員不足の程が分かるものだろう。

日中、警官や捜査員でごった返していた蝶野邸は、まさしく幽霊屋敷のように静まり返っていた。
戦士長・防人衛こと、キャプテンブラボーが先んじてホムンクルス精製器を回収していたものの、
ホムンクルスパピヨン・蝶野攻爵の研究の全てが回収できたわけではないのだ。
今回、彼女に与えられた任務はホムンクルスパピヨンの研究の回収と、
彼の知識の源泉の調査である。
何も無いところからホムンクルス精製を成すことが出来るとしたら、それこそ奇跡だ。
亜細亜支部の最高統括者であり、
先任の犬飼翁がかつて率いていた「犬飼部隊」の筆頭戦士でもあった坂口照星は、
彼の知識の源泉が存在することを確信しており、楯山千歳にその捜索を命じたのだ。
学生寮の蝶野攻爵の部屋は先日の戦闘で消し飛んでしまっている為、
一応の確認といった趣きが大きかったが…。

時を同じくして、エドワードエルリックもまた、蝶野邸へと侵入していた。

千歳は攻爵の元私室、現在は彼の弟である次郎の部屋から捜索を開始した。
もはや何も残ってはいないだろうが、一応念のため、である。
黒い感情で埋め尽くされた次郎の日記を見つけた時には、彼女は暗澹とした気分になった。
コンプレックスの無い人間はいない、だが、
これほどまでに露な人間もそうある者ではなかっただろう。
後半、つい四日前の記述では兄に代わって家督を継ぐことが内定し、
それを喜ぶ内容が書かれていたことが、千歳をさらに暗澹たる気分へといざなった。
確かに彼は過剰なまでのコンプレックスに侵されていただろう、
だが、それが死な無ければいけないほどとは千歳には思えなかった。
千歳に家族はいない。

強いていえば、旧照星部隊の面々、防人と火渡が兄弟、隊長であった照星が父、のようなものだろう。
だからこそ、彼女の中で家族というのは理想化される傾向にあった。
赤銅島事件以降、彼女は怜悧な仮面を被り続けているが、
それでも、深層には少女のような無垢を隠している。
世は理不尽と虚しく哀しく嘲笑う火渡や、
防人衛の名を捨てて飄々と振舞うブラボーも、その深層に無垢を抱えているのだろう。
無垢とは、屈託なさとは、時としてこの上なく惨酷だ。
己の内もつからこそ目を背けたくなる。否定したくなる。
日記には、蝶野次郎という少年の悲しい純粋さがあった。
父親に認めてもらいたくても、
彼ら蝶野家が創設に携わっていた歴史ある銀成学園に通うことすら出来なかった彼は、
仕方なく進学した公立高校で、まさしく血の滲むような努力をして生徒会長の地位を手にし、
この国の最高学府への進学を目ざして日々精進していた事が赤裸々に綴られていた。
それでも、尚、蝶野次郎の中の兄攻爵は強大だった。
兄ならこんなミスはしなかったはずだ、兄ならこの程度らくらくとこなしていた筈だ。
そんな記述はすべて筆圧が係り過ぎたのか、乱れた筆跡だった。
なんと歪な愛情だったのだろう。
次郎自身が死んだ今となっても彼を縛り続けているのだから。
いかに否定しようとしても、肉親という名の縛鎖は軋みをあげて締め上げる。
蝶野刺爵や蝶野次郎が全身全霊をもって否定せしめんとした蝶野攻爵の存在は、
それ故強く彼らを締め上げる。

そんな蝶野次郎の残滓は、千歳の怜悧の仮面を貫くだけの力があったのだ。
その一瞬が敵を彼女の内懐へと呼び込んでいた。
彼女らしからぬミスだ。
床板の軋む音と。
「武装錬金」という千歳の発声は全く同時だった。

潜入および情報捜索を主任務とする千歳は、
敵の情報を可能な限り読み取り、
そこから敵の戦闘スタイルを推測し、対応する。
ブラボーほど徒手格闘に特化しているわけでも、火渡ほど強大な武装錬金をもたない彼女が、
あの照星直属の部下として過ごせてきた理由が此処にある。
所謂、先読みと言われる技術だが、彼女のそれは最早超能力の領域である。
相手が何を仕掛けるか、どういった技か、
どういった種類のホムンクルスか、
どういった攻撃を得意とするか、
それを一瞬で読み取る洞察力、直観力、想像力といった面こそ、彼女の真骨頂なのである。

がきん、と金属同士が噛みあう音。
楯山千歳の投擲した己の武装錬金・ヘルメスドライブが、敵の右腕に叩き込まれた音である。
まるでブーメランのように楕円軌道を描いて彼女の手元に戻ったのと、
金属音が蝶野次郎の部屋に響いたのはまったく同時であり、
その瞬間、千歳は三角跳びの要領で天井を蹴り。敵にむかって飛び蹴りを加えていた。
蹴りを交わした人物の金髪が数本宙にまうが、それに構う間は両者ともない。

千歳、相手を視認。
性別→男
   →頭髪は金
    →目の色・不明
身長→160cm前後
   →服装は黒系
    →隠し武器の類は見られず
得物→徒手
    →攻撃は格闘系統と判断
     →右腕に金属音
      →ガントレットの類の武装錬金か?
一瞬の攻防で千歳が判断したのは、以上である。
故に。

「…ッ!」

迷うことなく近接格闘へと移行。
ある程度の重量を持った武装は、うち懐に入り込まれると非常に弱い。それを踏まえてである。
千歳、遭遇直後で微妙に崩れた敵の態勢を見逃さず、敵の顎にむけて右手掌打。
敵、首を捻ってかわす。が、千歳敵の頭髪を掴みとる。
敵、そこで対応開始。拳で千歳の右ひじを破壊せんとするも、
髪の毛を掴まれた態勢の為、力入らず。
千歳、そのまま手前へ敵を引きずり落とし、敵の脳幹部に左肘鉄。
敵、バランスを崩すがタックルへと以降。
千歳、かわしきれずに倒される。



「殺ったッ!」


マウントポジション。
エドワード・エルリックは激痛に顔をしかめながらも、
敵を組み敷くことに成功していた。
だが、そこで大きな問題に直面していた。

「おん、な?」

エドワード・エルリック18歳、童貞である。

千歳はその声で敵の性格を掴んだ。
少年なのだ。
故に、緊張が解かれるのも感じ取っていた。
瞬間、エドワードは鳩尾に衝撃を受け、反吐を撒き散らしながら宙を舞った。

千歳がその脚をあげ、満身の力をこめて畳に叩きつける。
その反動を利用して、エドワードの矮躯に彼女の武装錬金・
ヘルメスドライブを突き刺していたのだ。
臓器そのものを打ち抜く技であり、嘗て濃尾最強を誇った流派にも存在したこの技は、
金的よりも効果的にマウントポジションから脱出する手段でもある。
瞬間移動装置にして盾でもあるヘルメスドライブの硬度は、実は非常に高い。
堅牢なホムンクルスの表皮を突き破ることも可能であり、
章印を打てばホムンクルスを倒すことも可能である。
そんなものを人体に叩きつけられれば無事ではすまない。
だが千歳は、少年だろうが老人だろうが、
一切の容赦もなくヘルメスドライブを打ち込むことが出来る。
それが、彼女の覚悟の表れであり、覚悟の形でもあるのだ。


千歳は、エドワードが態勢を整える前に勝負を決めたかったが、予想外の事態に見舞われる。

「…ッ!」

エドワードが懐から取り出したものが千歳の眼前で炸裂する。
手榴弾?
 →炸裂弾
  →…

千歳の思考がそこまで展開した瞬間、それは強烈な音と光を放った。
スタン・グレネードという、暴徒鎮圧用に生み出された非殺傷兵器である。
強烈な音と閃光によって相手の戦闘力を封じるこの近代兵器によって生み出された、間。
それはエドワードが逃亡するのに十分なものだった。
不利とみるや即時撤退。
この敵は手ごわい。そう思うと、千歳はヘルメスドライブを展開してその場を去った。
要らぬ詮索を受けないようにするためだった。
あの音に気がつかぬようでは、警官とはいえないのだから。

千歳が蝶野次郎の日記を失った事を知ったのは、
ヘルメスドライブのワープが完了した直後である。
そして、ゆがんだ少年の心情が、エドワードの心をえぐるのだった。




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