SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ WHEN THE MAN COMES ARROUND 9-1


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《EPISODE9:Till Armageddon no shalam no shalom》

――北アイルランド アーマー州 モーテル・オクトーバー

「そのままで聞いてもらって構わん。……今後の作戦を変更する」
ソファに座り脚を組むサムナーは、唐突に切り出した。
ベッドに腰掛けて太腿の傷に包帯を巻く防人は、サムナーの方へ顔を向けた。
火渡は相変わらず憮然とした表情で腕を組んだままドアのそばの壁にもたれており、
千歳はジュリアンの右肩に包帯を巻いている。
ここはアーマー州の最大人口都市ラーガンから程近い、国道沿いのモーテル。
アンデルセンの奇襲を何とか振り切った五人は、車を替え、道を変え、この場所へと落ち着いていた。
否、“落ち着いていた”という言葉は相応しくない。
五人の頭の中には、つい先程までのアンデルセンの姿が焼きついている。
どれ程の速度で車を走らせようが、どんな道を通ろうが、また車の前にフラリとアンデルセンが
現れそうな気がしてならなかった。
そして、こうしている今にも部屋に飛び込んでくるのではないか、という神経症(ノイローゼ)染みた想念が
どうしても振り払えない。
それはサムナーの言動にも表れていた。彼自身、表面上は冷静に振舞おうと必死に努めている。
「あの場所にアンデルセンが姿を現した事からもわかるように、我々は国境を越えた瞬間から
イスカリオテの連中に捕捉されている。
どうやって我々の国境入りを察知したのか知らんが……クソッ!」
自分の想定範囲外の行動を取ったアンデルセンに対して、怒り、苛立ち、そして動揺が隠し切れない。
何度も何度も自問自答と計算を繰り返し、その度に自分の策に納得して自信を得る。
しかし、またすぐに「もしかしたら……」という不安が頭をもたげてしまう。
そんな感情がサムナーを焦らせた。
「こうしている間にもアンデルセンが我々を追跡している可能性は高い。
テロリスト共を襲撃するタイミングを充分に図ろうと思っていたが、もうそんな悠長な事も言ってられん」
サムナーは芝居掛かった重々しさで、四人に言い渡す。


「今から十分間の休憩の後、すぐに出発、夜明けを待たずテロリスト共の本拠(ホーム)を急襲する。
場所はここからおよそ北東20km程の所にあるラーガン市。その外れにある小さな輸入貿易会社が
所有する六階建てのビルだ。無論それは表向きで、実際は奴らのダミー会社に過ぎん」
更にニヤリと口角を吊り上げると、この男らしい冷酷かつ傲慢な言葉を吐いた。
「突入と同時に殲滅を開始する。殺せ、躊躇無くな。
そしてテロリスト共を皆殺しにした後、改めてアンデルセンを迎え撃つ。
まあ、その時は君達の出番など無いだろうがね……」
少なくとも、防人・火渡・千歳の三人は気づき始めている。
車上の決闘の際や、その後のサムナーの態度から、彼の自信過剰な物言いには若干の虚勢が
入り混じっていると。
「了解……」
口を開いたのは防人だけだった。
「よし。わかったなら……少し休むといい。私は出発まで外を見張る」
サムナーはそれだけ言うと、足早に部屋から出て行った。
“自分の眼に見える仕事は、すべて自分の手で行わなければ気が済まない”
完璧主義者にありがちな発想に基づいての行動だが、この場合は不安感によるものも
多分に含まれているようだ。

部屋に残ったのは四人の若者。
やがて、千歳がこの暗さと緊張感の入り混じった部屋に似合わぬ明るい声で言った。
「神経も骨も大丈夫だわ。三角筋を筋繊維に沿って浅く貫通しただけみたい。見た目よりずっと軽傷よ」
包帯を巻き終わったジュリアンの肩を優しく撫で、慈愛に満ちた笑顔を彼に向ける。
大概の男なら妙な勘違いを起こしてしてしまいそうな笑顔だ。
「ありがとうございます……」
だがジュリアンは消え入りそうな小さな声で礼を言っただけで、モソモソと服を着始めた。
いつもの明るさは影も形も見当たらない。
防人は二人に近づくと、ジュリアンの肩に手を置き、彼を気遣う言葉を掛ける。
「大したケガじゃなくて、本当に良かった」
ウィンストンに彼の身を任されたというのに、完全に守りきる事が出来なかった。
防人はそれを痛烈に悔いている。
それに比べれば、自分の拳がアンデルセンに大したダメージを与えられなかった事など霞んでしまう。

「僕、先に車に戻ってますから……」
ジュリアンは防人の言葉には答えず、というよりもまるで防人から顔を背けるように立ち上がり、
ドアの方へ向かう。
「お、おい……! 待てよ、ジュリアン」
彼の不可解な態度に慌てた防人もまた立ち上がり、後を追おうとする。
だが無情にもドアは乾いた音を立てて、静かに閉められた。
「ほっといてやんな」
出て行くジュリアンを横目で追っていた火渡が、防人を制止する。
やや、飽きれ気味の態度だ。ジュリアンにも、防人にも。
「ヘコみてえんなら好きなだけヘコましときゃいいのさ。さっきみてえな命(タマ)の取り合いになりゃあ、
嫌でもメソメソしてなんかいられなくなるんだからよ」
「けど……」
防人は、ウィンストンに言われたのだ。

『だからよ……。アイツの事を、よろしく頼む……』

それでなくとも、ジュリアンは戦闘要員ではないエージェントだ。
彼を守るのは絶対の役目だと、防人は自身に誓っている。
だが火渡は防人を軽く睨むと、彼の心の内を読んだかのような言葉を放った。
「……お前がウィンストンのオッサンに何を言われたかは知らねえけどよ」
“オッサン”という言葉に、火渡なりの親しみがこもっている。
「そうやって兄貴ヅラしてアイツを追っかけ回して、気ィ遣って、甘やかして――」
火渡は壁から離れると、懐から煙草を一本取り出す。
しかし、その煙草は大戦士長執務室のシガレットケースに入っていたものだ。
大方、出発前に失敬してきたのだろう。
「――どっかにキン○マ落としてきたようなカマ野郎にしちまうのを、あのオッサンが
望んでるとは思えねえな」
「キ、キン……」
千歳は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
そんな事は気にも留めない火渡は、人差し指に灯る炎で煙草に火を点けると、煙を吐き出しながら
言葉を続ける。
「別にあのオッサンじゃなくてもいいや。例えば、照星サンがお前の立場だったとしたらっつーか、
照星サンはどうやって俺達を育てたかっつーか。つまりよォ……」
話の方向性が火渡にはまるで似合わないものになってきたが、防人は友の忠告に真剣に耳を傾ける。
珍しげに眼を丸くする千歳も、やや身を乗り出し気味に火渡の話を聞こうとする。
「だから、何つーか、問題はよ……」
千歳は更にグッと身を乗り出す。
「……やっぱ、やめた」
おかしな外し方をされた千歳はそのまま前方につんのめり、テーブルに額をぶつけてしまった。
「イタタタタ……」
「慣れねえ事考えると、頭が痛くなってきちまうからな」
火渡は、額を押さえてうずくまる千歳に「アホか」という視線を向けながら、話を終わらせてしまった。
「もぉ……! こっちの頭が痛いよ!」

自分の考えを言葉に出来なかったのか、それともあえて口にはしなかったのか。
それでも火渡が何を言わんとしているのか、防人は何と無しにだが気づいていた。
そして、自分が「よろしく頼む」というウィンストンの言葉に、思い違いをしていたという事にも。
火渡や防人の思考を代弁するのなら、こういう言葉になるのかもしれない。
『問題は“本人が何を望み、何を選択するか”。それと“何が本人を成長させるか”』



「僕にも、力があったら……。防人サンやサムナー戦士長みたいな力が……。ジョンみたいな、
力が、あったら……」
ジュリアンは自分達が乗ってきた車のタイヤにもたれて、地面に座り込んでいた。
そして、止めどなく涙が流れてくる。次から次へと。
嗚咽も、しゃくり上げるような情け無い声も、止まらない。
「どうして、僕は……こんな……」
ジュリアンの脳裏には様々な感情が激しく渦巻いていた。


“恐怖”“苦痛”“哀しみ”“後悔”“無力感”“諦念”“絶望”
それらが源泉となり、彼の両眼から涸れる事無く涙を溢れさせる。
だが、そんな感情の中に混じって、新たな負の感情が生まれつつあった。
自分自身でもまるで気づかぬ程の小さな小さなものではあったが、確実に芽吹いていた。
それは“怒り”だ。
あまりにも無力な自分への。そして、そんな自分を見下げる人間達への。
「力が欲しい……。力が……。そうすれば……――」
「力が欲しいか?」
突然の声に驚いたジュリアンが顔を上げると、目の前にはサムナーが立っていた。
「サ、サムナー戦士長……」
慌てて立ち上がり、気をつけの姿勢を取る。だが、涙も鼻水もすぐに止まるものではない。
「敵と戦えるだけの力が欲しいのか? エージェントのお前が」
サムナーの残酷な質問に、ジュリアンは涙声で答える。
何故、こんな質問をするのか。だが、今ならばどの場面よりも正直に答えられる気がした。
ずっと胸の中に仕舞い、厳重に施錠し続けてきた“望み”を。
「はい……。もう、見ているだけも足手まといも、嫌なんです……」
また涙が流れ落ち、何度も声が詰まる。
「僕は、戦士になりたかったんです……。エージェントなんかじゃなく、ウィンストン大戦士長のような
戦士に……。ずっと……今も……」
ジュリアンの心の底からの告白を、サムナーは表情一つ変えず聞いていた。
そして、彼の涙が収まりかけるのを待って、言葉を掛けた。
「そうか……。そこまで“力”を渇望して止まないのなら――」
サムナーは懐を探り、何かを取り出す。
「――お前に“力”をくれてやろう。敵と戦える力を。敵を打ち倒す“武器”をな」
「え!? ほ、本当ですか!?」
あまりにも意外なサムナーの言葉に、ジュリアンは喜びよりも驚きの声を上げた。
「ああ……。コレだ」
手渡されたのは、10cm四方程の金属製の箱だった。
特に装飾が施されている訳でもない。何の変哲も無いただの箱だ。
「コレが……武器?」
ジュリアンは不審げな顔で箱を振ったり、裏返したりしている。
「そうだ。お前の身体に、お前の肉体に合わせて作られた、お前だけにしか扱えない最高の“武器”だ。
渡す事は無いと思っていたが……。持ってきておいて正解だったようだな」
「この箱がそんなに凄い物なんですか……?」
どこからどう見てもただの箱だ。
しかし、箱というからには中身が入っているに違いない。
ジュリアンは中を確かめようと箱を開けかけたが、サムナーがそれを遮った。
「ああーっと……! 今、開けてはダメだ。真の死地に立った時、真の窮地に陥った時に開けるんだ。
そんな場面でこそ、この武器は真価を発揮するからな」
一体、どんな武器なのだろう。この大きさの箱という事は……。
もしかしたら核鉄だろうか? もし、そうなら自分も皆と一緒に戦える。
そうであって欲しい。いや、そうに違いない。
明る過ぎると言っていい空想を展開させるジュリアンの両肩を、サムナーの両手がそっと包んだ。
「お前の、戦う力を求める熱意と、『守られるだけではいたくない』という意志に心を打たれたのだよ。
言わばこれは、私からの贈り物(ギフト)だ」
ジュリアンはこれ以上無いくらいに眼を輝かせた。
ずっと自分を疎ましがっていると思っていたサムナーの優しい言葉に。
そして言葉だけではなく、自分の“望み”を、“願い”を形にしてくれた事に。
サムナーの人格への評価は一変し、彼への悪感情は氷解してしまった。
「僕……。僕、サムナー戦士長の事を誤解してました! 本当にありがとうございます!」
「なあに、気にするな。お前は可愛い部下だからな。それと……この事はあの三人には言うんじゃないぞ?」
サムナーはジュリアンの耳元に顔を寄せ、低い声を更に低くさせて言った。
「私と、お前だけの、“秘密”だ……」
「ハ、ハイッ!」

喜色満面で掌の中の箱を愛でるジュリアンは、気づいていなかった。
自分を見下ろすサムナーの眼つきに、表情に。
戦団のラボでよく眼にするであろう、研究者が実験動物(ラット)に向けるそれと同じである事に。
気の毒な話だ。
ジュリアンが“真に何を望んでいたのか”を一番理解していたのが、この男だったのだから。
――アーマー州 アイルランド共和国との国境付近

国境監視所からやや離れた場所に、二人の神父が立っていた。
だが、ただの神父ではない。彼らはヴァチカン特務局第13課の武装神父である。
武装神父と言っても今回の任務は戦闘ではなく、アンデルセン神父のサポート役ではあったが。
そのうちの一人が引っ切り無しに携帯電話をリダイアルして耳に当てていたが、帰ってくるのは
通話不能の自動音声のみだった。
「ダメだ、やはり繋がらない。アンデルセン神父に何かあったのか……?」
携帯電話を片手に多少焦り気味の神父とは対照的に、もう一人の神父は幾分余裕のある表情を浮かべている。
彼は同僚を落ち着かせる為に、“誰の事を心配しているか”再確認させてみた。
「しかし、な……。考えてもみろ。アンデルセン神父が“窮地に立たされている”だとか、
“命の危機に晒されている”なんて姿が想像出来るか?」
言われた方は口元に手を当て、虚空に眼を遣り考えてみる。
だが、彼の鬼のような形相と「どっちが化物だ?」と思いたくなる戦いっぷりしか頭に浮かんでこない。
「……いや、まったく想像出来んな」
「だろう? ここは焦らず、他の武装神父隊やヨハネの連中と密に連絡を取り合った方がいい。
もしかしたら、そのうちアンデルセン神父の方から『標的はすべて殺した』と連絡が入るかもしれんしな」
「フム……。それもそうだ」
アンデルセンの人間離れした強さを知っているだけに、どうしても楽観的になってしまう。
それはこの二人に限らず、第13課に属する人間なら誰でもそうだろう。
アンデルセンの上司である次期第13課局長エンリコ・マクスウェル司教ですら例外ではない。

ふと足音が聞こえる。よく耳を澄まさなければ聞き逃してしまう程の小さな足音が。
話がまとまり、ではここから離れようかという二人の神父に近づく人物がいたのだ。
その人物が二人に問い掛けた。足音と同じように小さく、それでいて意志の強さを感じる声で。
「アンデルセン神父はどこです」
二人に問い掛けたのは、ショートヘアに眼鏡をかけた若く美しい女性だった。
青い髪、青い眼、青を基調にしたカソック(※ワンピース状の聖職衣)。
眼鏡の奥に光るその眼は、冷たい表情の源となっているようだ。


「シ、シエル……!」
「何故貴様がここにいる! いつ日本から……――」
洗礼名、シエル。
目の前の神父達やアンデルセンと同じ、ヴァチカン特務局第13課“イスカリオテ”の所属であり、
“弓”の異名を持つ実力者である。
現在は、別名“アカシャの蛇”と呼ばれる吸血鬼ロアを追って日本に潜入している最中だった。
その彼女が何故この北アイルランドにいるのか。神父の問いはもっともな事だった。
だがシエルはそれを黙殺し、再び言葉少なに尋ねる。
「アンデルセン神父は?」
「クッ……。錬金の戦士共を追って、単独行動に移られた。今はどこにおられるかわからない。
携帯電話も繋がらん」
連絡の途絶という弱みのある二人組は、歯噛みしながら不承不承答える。
「まったく……仕様の無い人ですね。標的を殺す事しか頭に無い、猪武者なところは相変わらずですか……」
まさに“仕様が無い”と形容するのがピッタリの微笑を浮かべたシエルだったが、
二人の神父はそれを侮蔑の嘲笑と受け取った。
二人は、シエルの言葉が終わるか終わらないかの内に、素早く銃を抜いた。
「今の発言を取り消すんだな……。あの方への誹謗は我らが許さんぞ!!
……大体貴様、何の用があってここに来た!?」
第13課の武装神父の中ではリーダー格であるアンデルセンを慕う者は多い。
この二人も“彼への侮辱は我への侮辱”というクチなのだろう。
だが、自身に向けられた銃口を前に、シエルは平然と答える。
「私は、彼への次の任務を伝えに来ただけです。『シチリア島にて手配中の分類A吸血鬼を捕捉。
現任務が完了次第、討滅に向かえ』と」
「フン、それだけではあるまい。常日頃からあの方と反目し合っている貴様の事だ、何か魂胆があって
この北アイルランドに来たのだろう」
確かに“銃剣”アンデルセンと“弓”シエルは犬猿の仲、というのが第13課では定説になっている。
だが、それは正確ではない。
シエルの血塗られた“過去”、そしてそこから来る“能力”を知ったアンデルセンが一方的に
彼女を敵視しているだけだ。
シエルはシエルで、そんなアンデルセンと距離を置いているのである。


「……」
シエルは軽く溜息を吐くと無言で二人に背を向け、元来た道を歩き出した。
彼女の心中は誰も察し得ない。
「待て! どこへ行く!」
「あなた方がアンデルセン神父の動向を把握していない以上、ここにいても仕方ありません。
私が自力で彼を探します」
振り返りもせず申し渡すシエルへ向かって、神父の一人が悪罵を投げつける。
「魔術師め……。貴様なんぞ異端共……いや、化物共と何ら変わらん」
夜の闇に包まれてゆきながら、シエルは独りごちる。

「百も承知です……」






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