SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 永遠の扉 第011話 2


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第011話 「READY STEADY GO!」  (2)

「さて……戦士・剛太。キミにここへ来てもらったのは他でもない」
「あ、ハイ」
斗貴子からさっと視線を防人に移し、剛太は居ずまいを正した。
が、それでもあまり上司に報告する態度にはやや不足。
新人ゆえの未成熟と形而上の軽さは敬語一つ位では補えないようだ。
そも、上司を目の前に斗貴子へでれでれと話しかけるのも良いとはいえない。
とはいえそれを咎めるほど防人は狭量ではない。
むしろ推奨し、時には自ら悪ノリして斗貴子を悩ますコトもしばしばである。
「キミには1つ──…」
「待って防人君」
それまで影のように黙っていた千歳が防人の言葉を遮り、引き戸へと歩いた。
4畳半ほどの寄宿舎管理人室、秘密の話には不向きである。
というのもここは生徒の部屋と同じく廊下に直接面しており、引き戸一枚に耳を当てれば中
の様子が丸分かりなのである。
その引き戸が千歳にがらりと開けられると、意外な3人が現われた。
「わ、やっぱりバレた。ごめんなさいー」
とバツが悪そうな微笑は河合沙織。
フリルのついたスカートから幼い膝小僧を覗かせて、ちょこんと座っている。
「でもどうして!? 私たち完全に気配を断ってたよねびっきー」
こちらは武藤まひろ。沙織の2つ後ろで立って、信じられないという顔をしている。
どうやらこの3人、階段状に並んで部屋の内部を伺っていたらしい。
「……無理だと思うよそういうの」
最後はヴィクトリア。沙織とまひろの間で膝立ちをしている。
いつものように猫を被っているが、戦士たちを見る眼差しはかすかに冷たい。
その中で剛太だけはヴィクトリアを見ると、「ん?」と瞬きをした。
「こらこら。大事な話をしてるんだ。盗み聞きはよくないな」
「ゴメン。さーちゃんに誘われて、つい。あ、秋水先輩もいた!」
まひろは謝ると、ちょっと嬉しそうに手を振った。
秋水も軽く手を上げて応じようとしたが、桜花の微妙な態度を気にしたのか目礼で留めた。
「まったく。戦士長のいう通りだ。あまりこちらの事情を探るな。また巻き込まれても知らないぞ」
腕組みをしながら厳しくいう斗貴子だが、かえって沙織の興味を引き立てたらしい。
「斗貴子先輩。戦士長ってなんですか!? やっぱりブラボーさんも仲間だったり!?」
「う……」
斗貴子はしまったという顔をした。
(そういえば俺の素性はまだ明かしてなかったな)
思い返せばカズキと斗貴子は銀成学園での決戦時、まひろや沙織、千里を始めとする友人
一同に戦士であるコトを明かしたが、その際別の場所でムーンフェイスと交戦中だった防人
(寄宿舎管理人としてはキャプテンブラボーという別名で通している)については別だ。
「んー。まぁなんだ。ブラボーな役職とだけいっておこうか。もっとももうすぐ引退するが」
「え~。もっと知りたい」
「これ以上はヒミツ! なぜならそっちの方が」
「カッコいいから? そうだよね。やっぱまっぴーから聞いた通り。えーと。とにかく、盗み聞き
してゴメンなさい」
沙織は立ち上がるとスカートの裾をぱんぱんと払った。
「……分かっているとは思うけど」
引き戸の近くで千歳は底の見えない神秘的な瞳を、沙織に向けた。
「うん。他の人にはナイショにしとく」
「そうだよ沙織」
ヴィクトリアもいちおう話を合わす。戦士たちの手前、あまり露骨に猫をかぶらないように。
そんなあどけない表情を見た剛太の中で何かが弾けた。
「あ───!! お前はあの時の!!」
「なんだ剛太!! うるさいぞ!」
剛太は垂れがちな眼を驚きいっぱいに見開いてヴィクトリアを指差した。
「ほ、ほら! 斗貴子先輩覚えてるでしょ!? アイツ、ニュートンアップル女学院にいたホ」
剛太の呼吸はそこで途切れた。
例えるなら相棒を射殺されたアバッキオの未来のように終わった。
なぜならば桐の枝よりなめらかな十指が背後よりにょきりと伸びて、ノド声で叫ぶ口を優雅に
塞いだからだ。
彼は仰天したまま背後を見ようとした。もっとも人間の視野は一般に

片目で約160度程度、両目だと200度 (Wikiより)

といわれているからすぐ後ろの人物をみるコトは叶わない。
ただ口に当たるなめらかな指の感触に驚くばかりである。
剛太が知っているものといえば、斗貴子の凶器じみた指ぐらいである。
使い込まれた鋭利なそれは、奇麗な外見とは裏腹に鈍器がごとく硬い。
それに比べていま口を塞いでいる指の感触はどうであろう。
斗貴子以外に無関心な剛太ではあるが、つい唾液をつけまいと余計な配慮をしてしまった。
「あらあら。顔見知り?」
桜花はくすりと微笑むと、剛太の口に当てた指を始点に体を密着させた。
(せっかくのチャンスだし、少しちょっかいをかけようかしら。さっき私をあしらった罰よ)
悪戯っぽいを笑みを浮かべて、桜花は自分という存在の中でかなりの自信を持っている部位
を、剛太の背中に押し付けた。
具体的にいうと、胸である。
B88という脅威の質量が、煤けた背中に当たってぐにゃりと押しつぶれた。
「ちょ、な、なにを……」
「ほら、女のコを指差して大声を出すのは失礼じゃなくて? デリケートなんだからもっと優し
く扱ってあげないと」
「そ、そうじゃなくて」
剛太は顔を真赤にして一生懸命後ろを見ようともがくが、口を塞ぐ手に妨げられ動けない。
そしてもがけばもがくほど、背中にある柔らかな2つの膨らみがめいめい別方向に動くのが
分かり、艶かしい感触に抵抗の意思も拒絶の意思も奪われていく。
柔らかくも弾力に富み、微細な動きを押し返しては押し潰され押し返しては押し潰され……
あぁ。斗貴子先輩が生八ツ橋ならばこちらはメロン。いやそれ以上。
太陽と地球ぐらいあるかも知れない。

(…………)
秋水は色を成した。桜花の目論見は分からないが、とてもとても色を成した。
桜花はそんな様子にすごく満足した。
溜飲を下げるのが主目的だったが、秋水の気が自分に向いたのは予想外に嬉しい。
それで気が済んだのか、剛太の口から手を離してくすくす笑った。
(またやってみようかしら)
笑いながらもヴィクトリアを見てウィンクした。正体を隠してあげたといいたいのだろう。
(恩着せがましい)
ヴィクトリアは実に不快だ。そもそも桜花のような気質の女性は好みではない。
男性に媚を売っているように見えるからだ。
夫のためだけに100年間ずっと研究に没頭した母をどこかで理想にしているヴィクトリアに
とっては受け入れようがない。
それを抜きにすれば恐らくただの同族嫌悪だろう。桜花もヴィクトリアも猫かぶりの腹黒だ。
相違点を挙げるとすれば、腹黒の性質だ。
桜花は高層ビルから地上の人間を見下してくすくす笑う生まれついての令嬢。
キャパシティがあり、よほどのコトでは取り乱さずやんわりと毒を吐く。
反面。
ヴィクトリアは地べたで幸福な人間を睨んでイライラしているツギハギ装備の没落貴族。
常に窮々としており、大声こそ上げないが毒舌には凄まじい敵意がこもっている。
さて、そういう人間たちを憎む少女が1人いる。
こちらも腹黒だが、ブッ殺すと心の中で思ったのならその時すでに行動は終わっているッ!
てな調子の直情径行型だ。毒舌などない。殺戮あるのみ。
それは斗貴子だ。桜花のおふざけが面白くないらしい。
「私の後輩をからかうのはやめろ。どうせそういう気もないクセに」
(俺が? 斗貴子先輩の? なんか嬉しい!)
剛太はバカみたいな勘違いをして頬を緩めた。
桜花に抱きつかれたコトにそうしたと秋水は勘違いをし、内心穏やかではない。
ああ。なんというコトか。徐々に関係が入り組みつつあり、ややこしい。
「あらあら。そういう気がないのは津村さんも同じじゃなくて?」
「何の話だ」
(そりゃないですよ先輩。少しはこう、やきもちぐらい焼いてくれたって)
剛太はがくりとうなだれた。
「わー。なんだかすごいコトになってる。ちーちんも来れば良かったのにね。予習なんかより
こっちの方が面白いのに」
部屋の様子は沙織にとってとても興味を惹くものらしく、童顔が興奮の朱に染まる。
「お楽しみのところ悪いが、そろそろ部屋に戻ってくれないかなガールズ」
「おーけー。よく分からないけど頑張ってね秋水先輩! 斗貴子さんも桜花先輩も!」
まひろの聞き分けは実にいい。沙織とヴィクトリアを率いてさっさと立ち去った。

防人は目を細めると、ふぅ~っと軽く息を吐いた。
「ま、ココはこんなところだ戦士・剛太。楽しいからお前も来たらどうだ?」
「お言葉ですが防人戦士長。俺は戦士一本でやってくつもりです。今さら学校生活なんてやっ
ても仕方ないですよ。というかココはなんなんですか。信奉者が仲間にいてホムンクルスが
普通に暮らしてる場所なんて聞いたコトも」
上司相手ゆえに多少の隠蔽はあるが、剛太は非常に嫌悪感丸出しだ。
(こういうコばっかりね)
千歳はこの場にいる少年少女の共通項を見出した。どうも全員、世界への関心が薄い。
彼女と防人、火渡が若かりし頃、「世界を守るんだ」という理念で一致していたのを考えると、
果たして上手く連携できるか千歳は少し不安でもある。
「その辺りの事情はおいおい話すとして、なぁ剛太」
防人は突然真剣な顔をして、剛太の肩を叩いた。
すわ、何か余計なコトをいったかと視線を落とし怯える剛太に、ささやき声が届いた。
「戦士・斗貴子はしばらくココにいるぞ」
「え」
「そしたらどうだ。彼女とブラァボーな学園生活が送れるぞ」
剛太はいまだ桜花の感触残る口を押さえて考えた。
弁当を忘れた斗貴子に焼きそばパンをおごるのはどうか。
そして後で、「ありがとう剛太。助かった」などとお礼をいわれるのだ。笑顔で。
文化祭や部活動といった種々様々なイベントを共にこなせるではないか。
何か運ぶ用事が出来たとき、さりげなく斗貴子の分まで持つのだ。
そして後で、「ありがとう剛太。助かった」などとお礼をいわれるのだ。笑顔で。
体育祭なんかもっといい。
優勝をかけて争う相手は強豪3年A組、勝負は最後のリレーに委ねられたぁ!
しかし見舞われる突然の不幸、アンカーの選手がアクシデントで怪我をして参加不可能!
すわ優勝は絶望的かと沈む斗貴子の肩を、笑顔でぽんと叩いてこういうのだ。
「大丈夫っすよ。まだ俺がいますから。もちろん、モーターギアは使いません」
そしてリレー本番は一進一退で、決着はアンカーしだい。いいも悪いもリモコンしだい。
だが相手のアンカーは強い。速い。やはり負けかと落ち込んだところに「剛太頑張れぇ」と
斗貴子の声援が飛んで持ち直してすごい速度が出て追い抜いて勝って爆発して秋水死亡。
そして後で、「ありがとう剛太。助かった」などとお礼をいわれるのだ。笑顔で。
見詰め合う斗貴子と剛太。やがて先輩の腕が後輩の首に巻きつき唇が──…
(いいかも)
剛太はぽうっと天井を眺めて、それから防人と拳をガシリと付き合わせた。
「さすが防人戦士長、話が分かる」
セリエを自由にしていいと許可をもらった兵士のようなコトをいう。
「そうだろうそうだろう。で、任務の話だが──…」

閑静な住宅街を10分ほど歩くと、急に視界が開けた。
どうやら河原につきあたったらしい。
コンクリートに舗装された土手の向うで、広くも狭くもない川が緩やかにせせらいでいる。
左手には橋が見えた。3分も歩けば着くだろう。
どうやら大きな道路から伸びているらしく、赤やオレンジをした車のライトがまずまずの交通量
で通り過ぎているのが見えた。
その活発さとは裏腹に、塗装の剥げた橋台が銀の月光にうっすら照らされ物寂しい。
(戦士たちを撹乱しにくる敵を追跡。できれば斃す。っと)
剛太たちの用事は橋にはない。正反対の右手方向である。
直線と見まごうほど緩やかな湾曲を描く道の先では、濃紺色のベールの中でもそれと分かる
ほど無数の影が充満している。
聞くところによると山に入る道らしく、影はそこに茂る木であるらしい。
なるほど、道の先では中空の3分の2を占めるほど大きな影が連なり、物言わぬ星々の見
せ場を無残に奪っている。
「そだ。任務の概要でも確認しときます? ずっと黙ったままだとヒマでしょ斗貴子先輩」
剛太は斗貴子に話しかけた。彼女は、新人1人じゃ危ないというコトで同伴している。
「……」
「先輩?」
剛太は見た。夜空を悲しそうに見上げている斗貴子を。
その仕草にどうしようもなく心が痛む剛太である。
彼は見たコトがある。
カズキが月に消えた直後、鋭い瞳を涙でぐしゃぐしゃにして、本当にただの女のコとして泣き
じゃくる斗貴子の姿を。
そういう涙を流させたカズキを「許せねェ」と思う反面、そういう涙を流させるほど重要な存在
たりえた彼が羨ましい。
好意は世界の誰より抱いている。努力だって他の戦士より重ねてきた。付き合いだって長い。
にもかかわらず斗貴子の心は自分には向いていない。
並んで歩いているいまこの時だって、目線が自分に向いていない。
悲しみから救ってやれる術もない。
夏にも関わらず剛太はひどく胸が冷たい感じがした。
「あ、ああ。すまない」
斗貴子は務めて表情を引き締めると、剛太を見すえた。
「キミはさっき作戦に組み込まれたばかりで分かってない部分もあるだろう。私がもう1度教
えてやる」
現金なモノで、見られただけで剛太は嬉しい心持ちだ。ただし斗貴子の優先順位という物を
無視した、一種の現実逃避的な喜びであり、それが分かるから笑っていても物寂しい。
「いいか。この街にはいま、『もう1つの調整体』とかいう物騒な物が眠っている。これは未完
成版ですら、ひ弱な信奉者を並みのホムンクルス以上に仕立て上げる物だ。だから目覚める
前に倒しておかなくてはならない。だが現在、その所在は分からない。だから」
「えーと。割符でしたっけ? そのもう1つの何とかを起動するのに必要な道具」
「ああ。数は全部で6つ。うち1つは私たちの手にある。これを先に総て回収し、ホムンクルス
が『もう1つの調整体』を起動できなくしてしまう──… それが今回の任務の目的だ」
「なるほど。で、その割符を探しているところにすばしっこいのが邪魔しにきて難航している
から俺が呼ばれたって訳ですね」
「その通りだ。キミはすぐ納得してくれるから助かる」
斗貴子はカズキの変に物分りの悪いトコロを思い出し、ため息混じりに答えた。
「そしていま目指しているのは神社だ」
神社、といえばいま正に総角たちがねぐらにしている場所である。
つまり斗貴子たちは期せずして敵の本拠に向かいつつあるのだが、そうとは知らず……

「1つ質問していいですか先輩」
剛太は気楽な様子で口を開いた。
「何だ」
「敵を追跡するにしても、2人の速さがバラバラだったら意味ないでしょ」
「確かに一理ある」
仮に剛太1人が追いついたとしても、結果的に逃走を許したり、もしくは返り討ちにされては
意味がない。
だから斗貴子と共に行動し、2対1でかかるのが基本的な方針だ。
2人いれば敵が増えたとしても袋叩きだけは免れる。
余談ではあるが、剛太の立たされている状況は日露戦争時のロシア艦隊に似ている。
艦隊は常に一番速度の遅い戦艦に合わせて進軍する。
ゆえに各戦艦の速度はほぼ同じでなくてはならない。
でなくば一番速い戦艦が一番遅い戦艦の速度に遭わせるハメになり、能力を十全に発揮で
きなくなると坂の上の雲で読んだから間違いない。
「手でもつなぐか?」
斗貴子はぶっきらぼうに呟いた。
「それもいいですけど、走ってる最中にモーターギアが当たったら危ないでしょ? だから俺
さっきからずっと考えてました。斗貴子先輩のために!」
最後の、「斗貴子先輩のために!」はすごい真剣さを込めたのだが、斗貴子には伝わらない。
「……またキミはおかしなコトを考えてるんじゃないだろうな」
「いいえ。俺はいっつも真剣。斗貴子先輩のためなら何だってしますし考えます」
「あぁもういいから、さっさと本題に移れ。こうしてる間にも敵が出てくるかも知れないんだぞ」
月光に影を落として2人並んで歩いていく。
「おんぶ」
「は?」
「ほらこの前、武藤と防人戦士長が戦ったときに俺、斗貴子先輩をおんぶしてモーターギアで
走ったでしょ」
「そーだったか? 手を繋いで横浜を自力で走っていたような気がするが」
斗貴子は記憶を辿ってみるがどうもはっきりしない。
考えてみればあの後、目の前で防人が五千百度の炎に呑まれたり突如現われた坂口照星
からカズキ再殺の一時中断を告げられたりと色々目まぐるしかった。
だから記憶が流され気味だ。だいたい、斗貴子の中で「記憶」という要素はあまり判然としない。
7年前の惨劇以前の記憶はなく、祖父母や両親、家に仕えていた気のいい老人たちや住み
込みの男のコ、同級生たちのコトは全く思い出せない。
だからひょっとすると剛太のいう「おんぶ」もされていたかもしれないし、剛太の勘違いかも知
れない。

「しましたよ。だから敵を追いかけるときは遠慮なくおぶさっ」
剛太の頭に拳骨が炸裂し、そのまま彼は道路に沈められた。
「断る! も、もし人に見られたらどうするんだ! もうちょっと人目を偲べ!」
「ふぁ、ふぁい」
立ち上がりながら大きなタンコブを一さすり。しかしこういう暴力的コミュニケーションが剛太
には心地よい。桜花の胸より斗貴子の拳骨の方がやや嬉しい。
ちなみに斗貴子がおんぶという行為に怒っているのは、数ヶ月前カズキに強制的におんぶ
をされて、山道から電車の中、街から寄宿舎へと1日以上もその姿を衆人の目に晒されてい
たからである。
当時はわりと本気で「もういい。死なせて」と落ち込み、まひろのズレた励ましに呆れたりもし
ていた。
「でも斗貴子先輩がおぶさっていたら、追跡しながら攻撃できますよ。ほら、移動は俺が担当
して、あとはバルスカで。ねっ。名案でしょ」
斗貴子は無言でバルキリースカートを発動した。
包丁のような原始的なフォルムの刃物に幾何学模様と可動肢を与えた異形の武器が、斗
貴子のしなやかな大腿部から自生し、蒸し暑い夏の夜に凍えるような恐怖を撒いている。
「すみません! いってみただけです!」
上官にビビり倒す新兵よろしく、剛太はぴんと直立不動して謝罪の構え。
そんな彼に容赦なく刃物は注ぎ。
「あっちゃー。奇襲失敗」
『悪事など成功するためしがないっ!! 男なら正々堂々真っ向勝負が一番ッ!!』
「あたしいちおう女のコだけど、まーそんな感じ?」
聞きなれない声に剛太は、だんだん状況がつかめてきた。
バルキリースカートは剛太の両肩の上や小脇の横でピタリと止まっている。
そして背後にはホムンクルスがはなつ独特の気配。
「ったく。さっそく敵に背後を取られるとは情けない! おかしな話に熱中しているからだ!」
「す、すみません。けどっ!!」
ポケットに手を突っ込み核鉄を展開!!
戦輪(チャクラム)の武装錬金、モーターギア!!
発動を悟ったのかホムンクルスは間合いの外へと跳躍。その距離約20m。
が!
響く小川のせせらぎをギュンと切り裂き、モーターギアが肉迫する!
「うげ。ふつーの状態で受け止めちゃすごく痛そう」
奇麗に着地したホムンクルス──栴檀香美──は猛烈なうねりの気配に眉をしかめた。
ツンツンの髪の毛と豊満なバストと生意気そうな目つきが特徴の少女である。
『はーっはっは! 僕の武装錬金で弾くか香美!?』
「うんニャ。これくらいならあたし本来の姿でじゅーぶんっ!」
楽しげに八重歯をむき出す香美の手で、何かが光った。
と見るや次の瞬間!!
ギアを模した戦輪(チャクラム)が、剛太の頬と右腕を掠めていた。
(な……!? いったいどうやって弾いたんだ!?)
「にゃららたったらぁー! だい・せい・こぉ~!」
巨大な掌を宙に突き出して、香美は満面の笑みだ。
掌はともかく丸い。人間の指を4本にしてもこもこ太らせればこうなるだろう。
そして指の先端にはピンク色の肉球が付属している。
肉球は手の平にも3つ。ここからは毛が無造作にもじゃーっと生えており、総じていえるのは
無機質なホムンクルスでありながら、ふわふわぷにぷに~なフォルムというコトである。
そして香美の頭の上で、三角形の器官が2つ、ぴょこぴょこと動いた。
これは大きな大きな耳である。
ホムンクルスだけありやや無機質だが、モチーフとはあまり遜色ない。
最後に、香美の腰の辺りから、パイプを組み合わせたような物体がひょこひょこ動く。
嬉しいときはピンと立ち、驚いたときは膨らむ器官。いまはピンと立っている。
「ホラあたしってネコ型ホムンクルスじゃん? だから肉球で弾いたりっ!」
ネコ耳と肉球としっぽ装備の香美は、顔を洗うと大きな生あくびをした。