序章・2 ギガゾンビ、再び
異世界の少女、桃華とテラを始めとする四人が出会った瞬間から、少し時間軸をずらして。
ここは未来世界のとある場所。そこには厳重な警備が敷かれた巨大な建物があった。
それはタイムパトロール直轄の刑務所。時間犯罪者のみを集めた特殊施設。
そこで、歴史を揺り動かすほどの大事件が起きようとしていた―――!
ここは未来世界のとある場所。そこには厳重な警備が敷かれた巨大な建物があった。
それはタイムパトロール直轄の刑務所。時間犯罪者のみを集めた特殊施設。
そこで、歴史を揺り動かすほどの大事件が起きようとしていた―――!
それは、ドラム缶だった。誰がどう見たってドラム缶だった。言い訳のしようもなくドラム缶であった。
但し、ただのドラム缶ではなかった。全長数十メートルはあろうか。途方も無くデカかった!
そして、全身に取り付けられた凶悪な武装の数々。砲門・ミサイル・何でもござれ!
何よりも―――ドリル!腕の代わりなのだろうか、規格外にぶっとい凶悪なドリルが激しく自己主張していた。
そんな途轍もないドラム缶が、今まさにここで、大暴れしていたのである!
その猛威の前に、屈強な看守や警備員たちも逃げ惑うばかりであった。
「な・・・なんなんだアレは~~~~~!?」
「ははは・・・こりゃ夢だ・・・夢だようん・・・ドラム缶が・・・そんなわけないって・・・ははは・・・」
あまりの事態に現実逃避する者まで現れる始末である。そんな彼らを悠然と見下ろし、ドラム缶の中で一人の男と少女が
高笑いする。
「ふっふっふっふ・・・はっはっはっはっ・・・ひゃ~~~~ははははは!こんの凡人共めが、我輩たちと戦おうなどとは
片腹痛いのであーる!ん・・・あれ・・・ほんとにズキズキする・・・というわけで心配なので病院行って検査を受けたら
悪性腫瘍発見!ガーン!」
「しかしその時少女の涙が奇跡を呼ぶロボ!頬に落ちる純粋なる涙によって博士復活!腫瘍はさっぱりなくなったロボ!
そして博士は叫ぶロボ!お前が好きだ!お前がほしいぃぃぃぃーーーーっ!」
「我輩たち大勝利!希望の未来へレッツらゴー!であーーーーーーる!」
「何言ってんだこいつらー!?」
エキセントリックを通り越して何だかよく分からないオーラを放つ、近づきたくない(近寄りがたいとは意味が違う)
タイプの男。白衣に身を包み、科学者然としてはいるが、その肉体は格闘家顔負けに無意味に逞しかった。
彼は触覚状になった髪の毛をピコピコ動かし、とても放送出来ないような笑顔で手にしたギターを激しく掻き鳴らし、テロ
行為に精を出していた。そして奇妙な語尾で個性をアピールしている少女。見た目はかなりの美少女だが、その実態はこれ
である。やっぱりお近づきにはなりたくない。
「ちくしょう貴様ら、何者だ!?名を名乗れ!」
勇敢な警備員が(よせばいいのに)一歩前に進み出て、ビシッと指差しながら言い放った。
但し、ただのドラム缶ではなかった。全長数十メートルはあろうか。途方も無くデカかった!
そして、全身に取り付けられた凶悪な武装の数々。砲門・ミサイル・何でもござれ!
何よりも―――ドリル!腕の代わりなのだろうか、規格外にぶっとい凶悪なドリルが激しく自己主張していた。
そんな途轍もないドラム缶が、今まさにここで、大暴れしていたのである!
その猛威の前に、屈強な看守や警備員たちも逃げ惑うばかりであった。
「な・・・なんなんだアレは~~~~~!?」
「ははは・・・こりゃ夢だ・・・夢だようん・・・ドラム缶が・・・そんなわけないって・・・ははは・・・」
あまりの事態に現実逃避する者まで現れる始末である。そんな彼らを悠然と見下ろし、ドラム缶の中で一人の男と少女が
高笑いする。
「ふっふっふっふ・・・はっはっはっはっ・・・ひゃ~~~~ははははは!こんの凡人共めが、我輩たちと戦おうなどとは
片腹痛いのであーる!ん・・・あれ・・・ほんとにズキズキする・・・というわけで心配なので病院行って検査を受けたら
悪性腫瘍発見!ガーン!」
「しかしその時少女の涙が奇跡を呼ぶロボ!頬に落ちる純粋なる涙によって博士復活!腫瘍はさっぱりなくなったロボ!
そして博士は叫ぶロボ!お前が好きだ!お前がほしいぃぃぃぃーーーーっ!」
「我輩たち大勝利!希望の未来へレッツらゴー!であーーーーーーる!」
「何言ってんだこいつらー!?」
エキセントリックを通り越して何だかよく分からないオーラを放つ、近づきたくない(近寄りがたいとは意味が違う)
タイプの男。白衣に身を包み、科学者然としてはいるが、その肉体は格闘家顔負けに無意味に逞しかった。
彼は触覚状になった髪の毛をピコピコ動かし、とても放送出来ないような笑顔で手にしたギターを激しく掻き鳴らし、テロ
行為に精を出していた。そして奇妙な語尾で個性をアピールしている少女。見た目はかなりの美少女だが、その実態はこれ
である。やっぱりお近づきにはなりたくない。
「ちくしょう貴様ら、何者だ!?名を名乗れ!」
勇敢な警備員が(よせばいいのに)一歩前に進み出て、ビシッと指差しながら言い放った。
そしてそれに対する返答は―――
「名無しキャラめ!死ねェであーる!」
ミサイルが飛んだ。直撃した。
「ぎゃああああああーーーーーっ!」
―――教訓。名無しキャラがかっこいいことをすると、死亡フラグが立つ。
「ふっ・・・心配するな。我輩は無益な殺生は好まぬ。峰打ちであーる!」
「ミサイルぶち込んどいて何が峰打ちだー!?」
しかし実際にミサイルをぶち込まれた男はちゃんと生きていた。もう何ていうか、そう、理不尽だった。
「まあそいつの言うことにも一理ある。我輩としたことが名前も名乗らずこりゃ失礼!でもそんなお茶目さんなところが
我輩の萌え~なポイントというかチャームポイントというかそんな感じだと思うのであーる!テヘッ!
というわけでまずは自己紹介といくであーる!皆様初めまして!我輩はあなたの街のマッド・サイエンティスト!その名も
ドクタァァァァァァァ・ウェェェェェェェスト!であ~る!今後とも一つよろしくであーる!」
「そして博士製作の人造人間にして助手のエルザだロボ!不束者ですがよろしくロボ~!」
その名を聞いた者たちは、一様に顔を強張らせた。
「ドクター・・・ウェスト・・・!?ま、まさか・・・あの・・・!」
―――その名は誰もが知っていた。未来世界に生きるものなら、まず誰であろうと一度は耳にする程の名前だ。
曰く、学問の歴史を悉く塗り替えた男。
曰く、人類史最高の天才。
曰く、空前絶後の頭脳。
曰く、神すら打ち破る大科学者。
曰く、常識の壁を軽々とぶち砕く偉大なる可能性。
曰く―――その全ての賞賛をぶち壊してなお余りあるキ○ガイ!
「ひゃーはっはっはっは!国家権力の犬共めが!この大・天・才!ドクター・ウェスト製作のスーパーウェスト無敵ロボ
28號~そしてとし子は今~の前に砕け散るであ~る!」
「とし子って誰ー!?」
看守や警備員たちのツッコミを無視して、巨大なドラム缶―――スーパー(略)はドリルを振り翳して暴れまわる!
「ふははははははは!バキスレ進出記念にいつもより多く廻しておりま~~~~す(ドリルを)!」
「運命の歯車もまたこのドリルのように廻り続けるのみだロボー!」
エルザもまたウェストに劣らずノリノリであった。
そして、この凄惨でありながら恐ろしくシュールなテロ行為の陰で、蠢く者たちがいた―――
「ちくしょう・・・不届き者め!」
ちょっと暑苦しい顔をした若い警備員―――名前は仮にネスとしよう。どうせこの場限りだ―――が、毒づきながら同僚と
共に刑務所の通路を走り抜ける。外でドラム缶とキ○ガイが暴れている・・・そんなわけの分からない事態にパニックに陥り
ながらも、ネスは使命感に燃えていた。
彼は職務精神の強い男である。そんな彼の仕事場を土足で荒らすような輩を、捨て置くわけにはいかない!
そしてネスは、己を奮い立たせようと、吼えた。
「俺たちに喧嘩を売ったこと・・・後悔させてやる!」
「名無しキャラめ!死ねェであーる!」
ミサイルが飛んだ。直撃した。
「ぎゃああああああーーーーーっ!」
―――教訓。名無しキャラがかっこいいことをすると、死亡フラグが立つ。
「ふっ・・・心配するな。我輩は無益な殺生は好まぬ。峰打ちであーる!」
「ミサイルぶち込んどいて何が峰打ちだー!?」
しかし実際にミサイルをぶち込まれた男はちゃんと生きていた。もう何ていうか、そう、理不尽だった。
「まあそいつの言うことにも一理ある。我輩としたことが名前も名乗らずこりゃ失礼!でもそんなお茶目さんなところが
我輩の萌え~なポイントというかチャームポイントというかそんな感じだと思うのであーる!テヘッ!
というわけでまずは自己紹介といくであーる!皆様初めまして!我輩はあなたの街のマッド・サイエンティスト!その名も
ドクタァァァァァァァ・ウェェェェェェェスト!であ~る!今後とも一つよろしくであーる!」
「そして博士製作の人造人間にして助手のエルザだロボ!不束者ですがよろしくロボ~!」
その名を聞いた者たちは、一様に顔を強張らせた。
「ドクター・・・ウェスト・・・!?ま、まさか・・・あの・・・!」
―――その名は誰もが知っていた。未来世界に生きるものなら、まず誰であろうと一度は耳にする程の名前だ。
曰く、学問の歴史を悉く塗り替えた男。
曰く、人類史最高の天才。
曰く、空前絶後の頭脳。
曰く、神すら打ち破る大科学者。
曰く、常識の壁を軽々とぶち砕く偉大なる可能性。
曰く―――その全ての賞賛をぶち壊してなお余りあるキ○ガイ!
「ひゃーはっはっはっは!国家権力の犬共めが!この大・天・才!ドクター・ウェスト製作のスーパーウェスト無敵ロボ
28號~そしてとし子は今~の前に砕け散るであ~る!」
「とし子って誰ー!?」
看守や警備員たちのツッコミを無視して、巨大なドラム缶―――スーパー(略)はドリルを振り翳して暴れまわる!
「ふははははははは!バキスレ進出記念にいつもより多く廻しておりま~~~~す(ドリルを)!」
「運命の歯車もまたこのドリルのように廻り続けるのみだロボー!」
エルザもまたウェストに劣らずノリノリであった。
そして、この凄惨でありながら恐ろしくシュールなテロ行為の陰で、蠢く者たちがいた―――
「ちくしょう・・・不届き者め!」
ちょっと暑苦しい顔をした若い警備員―――名前は仮にネスとしよう。どうせこの場限りだ―――が、毒づきながら同僚と
共に刑務所の通路を走り抜ける。外でドラム缶とキ○ガイが暴れている・・・そんなわけの分からない事態にパニックに陥り
ながらも、ネスは使命感に燃えていた。
彼は職務精神の強い男である。そんな彼の仕事場を土足で荒らすような輩を、捨て置くわけにはいかない!
そしてネスは、己を奮い立たせようと、吼えた。
「俺たちに喧嘩を売ったこと・・・後悔させてやる!」
「―――へえ、後悔させてもらおうじゃないのさ」
突如響いたその声に、ピタッ、と全員の足が止まる。そして物陰からゆっくりと姿を現したのは―――
「・・・子供、だと?」
立っていたのは三人の子供。ゴスロリ服とでも言うのか?奇妙な印象の服に身を包んでいた。内訳は少女が二人に
少年が一人―――そう、ティス、デスピニス、ラリアーだ。
もっともネスたちには、彼女らの名前など知ったことではなかったが。
ティスはニィッと、不敵な笑みを浮かべた。
「ボーっとしてんじゃないよ―――おじさん!」
瞬間、彼女の小さな体躯が弾丸の如き速度で飛び込んできた。標的になった警備員はそれに反応する間もなく、腹部に
強烈な掌底を喰らって悶絶する。
それに続き、更に二人が宙を十数メートルほど吹っ飛んでいった。直前まで彼らが立っていた場所には、デスピニスと
ラリアーが代わりに存在していた。一連の動きを見切れた者は、誰一人いない。
一体どうすればこんな速度で動けるのか、一体どうすればこんな小さな子供が大の大人を吹っ飛ばせるのか―――
真っ先に考えられるのはひみつ道具の使用だが、それはない。この建物内部には脱獄防止のため、職員登録されている
人物以外はあらゆるひみつ道具の類が使えないように特殊な電波が流されている。
つまり―――この子供たちは、素の状態であれだけの動きができるということだ!
「き、貴様らぁっ!」
相手がただの子供ではないと認識し、一斉に銃を引き抜く警備員たち。
「―――大人しく投降しろ!でなければ・・・」
「・・・子供、だと?」
立っていたのは三人の子供。ゴスロリ服とでも言うのか?奇妙な印象の服に身を包んでいた。内訳は少女が二人に
少年が一人―――そう、ティス、デスピニス、ラリアーだ。
もっともネスたちには、彼女らの名前など知ったことではなかったが。
ティスはニィッと、不敵な笑みを浮かべた。
「ボーっとしてんじゃないよ―――おじさん!」
瞬間、彼女の小さな体躯が弾丸の如き速度で飛び込んできた。標的になった警備員はそれに反応する間もなく、腹部に
強烈な掌底を喰らって悶絶する。
それに続き、更に二人が宙を十数メートルほど吹っ飛んでいった。直前まで彼らが立っていた場所には、デスピニスと
ラリアーが代わりに存在していた。一連の動きを見切れた者は、誰一人いない。
一体どうすればこんな速度で動けるのか、一体どうすればこんな小さな子供が大の大人を吹っ飛ばせるのか―――
真っ先に考えられるのはひみつ道具の使用だが、それはない。この建物内部には脱獄防止のため、職員登録されている
人物以外はあらゆるひみつ道具の類が使えないように特殊な電波が流されている。
つまり―――この子供たちは、素の状態であれだけの動きができるということだ!
「き、貴様らぁっ!」
相手がただの子供ではないと認識し、一斉に銃を引き抜く警備員たち。
「―――大人しく投降しろ!でなければ・・・」
「無駄ですよ」
ラリアーがあっさりと言い放った。
「そんな物じゃ、僕たちは殺せない。だから、通してくれませんか?僕たちだってあんまり手荒なことはしたくないん
です。さっきの人たちも、命に関わるような痛めつけ方はしていません。だから―――」
「ふざけるなっ!」
激昂した一人が引鉄を引き、それが伝染したように一斉に銃弾が放たれた。それは三人の身体を容赦なく襲い―――
「・・・だから・・・無駄だって言ったのに・・・」
何も、起こらなかった。何も―――起こらなかった。変わっていることとすれば、デスピニスが凄まじい速度で腕を
動かしていたことくらいだ。
目を丸くする警備員たちの前で、デスピニスが握り締めていた掌をゆっくりと開いた。ポロポロと何かが落ちる。
「こんなものじゃ、私たちには届かない―――遅すぎる」
それは、漫画やアニメではよく見る光景だった。音速で飛んでくる銃弾を、素手で掴み取る―――
しかしそれを、現実に行える怪物がいようとは。
「あ・・・あ・・・」
言葉にならない呻き声を漏らしつつ、ネスはそれでも、銃を向けた。例え相手が何者であったとしても、背を向ける
わけにはいかない。彼は本当に、職務精神の強い男だった。
―――しかし、それは目の前の理不尽そのもののような相手には何の意味もなかった。
全員が打ち倒されるのに、それから十秒もかからなかった。
―――そして。
「テラ姉、済んだからもう出てきていいよ」
事が終わって、ティスは不意に物陰に向かって呼びかけた。警備員たちは気付かなかったようだが、そこにはもう
一人隠れていたのだ。出てきたのは、清楚な雰囲気の美少女―――テラ。
彼女は倒れた警備員たちを気遣わしげに見つめる。それを感じ取ったのか、ティスはぽりぽりと頭を掻いた。
「心配しなくても、気絶させただけだよ。殺しちゃいないし、後遺症が残るようなこともしてない」
「だからといって・・・あなたたちは、それでいいの?」
テラはポツリと呟く。ティスたちは、ぎょっとしたように顔を見合わせた。
「いくらお父様のためでも、こんなこと―――」
「言わないで、テラ姉さん」
ラリアーがテラの言葉を遮った。
「僕たち三人は、あの方に<造っていただいた>んです。だから・・・」
「私たちは、あの方のお役に立ちたい・・・それだけです。例え、それが悪いことであっても」
デスピニスがそれに続く。ティスもこくこくと頷き、二人に同意する。
テラはそれを見て、何も言えなくなった。この子達は、自分の行為が悪と分かった上で、そしてそれに罪悪感を
覚えてなお、前に進もうとしている。間違った道と知っていて。
―――ならば自分は、どうすればいいのだろう。
堂々巡りに陥るテラを尻目に、三人は先へ先へと進んでいく。テラは慌ててそれを追おうとして―――
「ぎゃふん!」
顔面から派手に転んだ。
―――ちなみに普通なら転ぶ要素などない場所であった。
黒髪の清楚な美少女、テラ。意外とドジっ子属性だった。
「・・・テラ姉。何もないところで転ぶってタイプの萌えは、もう古いと思うんだ。ついでにぎゃふんも」
律儀にツッコミを入れるティスだった。
ラリアーがあっさりと言い放った。
「そんな物じゃ、僕たちは殺せない。だから、通してくれませんか?僕たちだってあんまり手荒なことはしたくないん
です。さっきの人たちも、命に関わるような痛めつけ方はしていません。だから―――」
「ふざけるなっ!」
激昂した一人が引鉄を引き、それが伝染したように一斉に銃弾が放たれた。それは三人の身体を容赦なく襲い―――
「・・・だから・・・無駄だって言ったのに・・・」
何も、起こらなかった。何も―――起こらなかった。変わっていることとすれば、デスピニスが凄まじい速度で腕を
動かしていたことくらいだ。
目を丸くする警備員たちの前で、デスピニスが握り締めていた掌をゆっくりと開いた。ポロポロと何かが落ちる。
「こんなものじゃ、私たちには届かない―――遅すぎる」
それは、漫画やアニメではよく見る光景だった。音速で飛んでくる銃弾を、素手で掴み取る―――
しかしそれを、現実に行える怪物がいようとは。
「あ・・・あ・・・」
言葉にならない呻き声を漏らしつつ、ネスはそれでも、銃を向けた。例え相手が何者であったとしても、背を向ける
わけにはいかない。彼は本当に、職務精神の強い男だった。
―――しかし、それは目の前の理不尽そのもののような相手には何の意味もなかった。
全員が打ち倒されるのに、それから十秒もかからなかった。
―――そして。
「テラ姉、済んだからもう出てきていいよ」
事が終わって、ティスは不意に物陰に向かって呼びかけた。警備員たちは気付かなかったようだが、そこにはもう
一人隠れていたのだ。出てきたのは、清楚な雰囲気の美少女―――テラ。
彼女は倒れた警備員たちを気遣わしげに見つめる。それを感じ取ったのか、ティスはぽりぽりと頭を掻いた。
「心配しなくても、気絶させただけだよ。殺しちゃいないし、後遺症が残るようなこともしてない」
「だからといって・・・あなたたちは、それでいいの?」
テラはポツリと呟く。ティスたちは、ぎょっとしたように顔を見合わせた。
「いくらお父様のためでも、こんなこと―――」
「言わないで、テラ姉さん」
ラリアーがテラの言葉を遮った。
「僕たち三人は、あの方に<造っていただいた>んです。だから・・・」
「私たちは、あの方のお役に立ちたい・・・それだけです。例え、それが悪いことであっても」
デスピニスがそれに続く。ティスもこくこくと頷き、二人に同意する。
テラはそれを見て、何も言えなくなった。この子達は、自分の行為が悪と分かった上で、そしてそれに罪悪感を
覚えてなお、前に進もうとしている。間違った道と知っていて。
―――ならば自分は、どうすればいいのだろう。
堂々巡りに陥るテラを尻目に、三人は先へ先へと進んでいく。テラは慌ててそれを追おうとして―――
「ぎゃふん!」
顔面から派手に転んだ。
―――ちなみに普通なら転ぶ要素などない場所であった。
黒髪の清楚な美少女、テラ。意外とドジっ子属性だった。
「・・・テラ姉。何もないところで転ぶってタイプの萌えは、もう古いと思うんだ。ついでにぎゃふんも」
律儀にツッコミを入れるティスだった。
歩くこと、数分。
「誰もいない―――どうやら、さっきの連中以外は全員外にかかりっきりみたいだね」
もう少し派手なドンパチも予想していたが、どうやらウェストたちが上手く皆の目を引き付けてくれているようだ。
「・・・あの方の知り合いとはいえ、あんなキ○ガイに物を頼むなんざ不安だったけど、意外にやるじゃない」
「そりゃそうだよ。何せあの人、頭の良さなら文句なく世界一だからね・・・キ○ガイだけど」
「ウェスト博士とエルザさんに感謝します・・・キ○ガイですけど」
「みんな、そんなこと言っちゃ駄目よ・・・確かに、その・・・キ○ガイだけど・・・」
―――どうやらこの四人もウェストのアレさは身に染みて分かっているようだった。
そうこうしている内に、ティスたちは一つの扉の前で立ち止まる。ちょっとやそっとでは開きそうもない、いかにも
頑丈そうな代物だ。
「おーし・・・じゃあ、いくとするか。デスピニス、ラリアー。手伝って」
三人が腕捲りをして扉に手を添え、腹に力を入れて無理矢理扉を開けようと試みる。グギギギギ・・・と、とても扉
が開く音とは思えない地響きと共に、ゆっくりとそれが開かれていった。
―――扉の奥に、誰かがいる。初老の男だ。彼は俯かせていた顔をゆっくりと上げた。憔悴しきった顔だったが、
四人の姿を見た瞬間に、僅かに精気が蘇る。
「おお・・・お前たちは・・・!」
彼はよろよろと四人に歩み寄ろうとして、つんのめる。倒れそうになった身体を、ティスたちが慌てて抱き抱えた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「む・・・心配いらん。何せこのような暮らしだからな。少々身体が弱ってしまってな・・・なに、直に元通り動ける
ようになるじゃろう」
「・・・申し訳ございません。もっと早く来ていれば・・・」
悔やむように呟くデスピニスの頭を、彼はそっと撫でた。そこにはまるで、父が娘に向けるような愛情が篭っている。
次にティスとラリアー、そしてテラに視線をやった。そこにもデスピニスに見せたものと同じ感情が宿っていた。
彼を知るものが今の光景を見れば、驚くだろう。彼はこの刑務所に収容されている者たちの中でも、大物犯罪者の部類
に属するものなのだから。
そんな彼が、この四人にはまるでごく普通の父親のように接している。
歪ではあっても―――彼らの間には、確かに絆が存在しているようだった。
「テラ・・・ティス・・・ラリアー・・・デスピニス・・・正直、ここまでして来てくれるとは思っていなかったよ」
「私は・・・」
「誰もいない―――どうやら、さっきの連中以外は全員外にかかりっきりみたいだね」
もう少し派手なドンパチも予想していたが、どうやらウェストたちが上手く皆の目を引き付けてくれているようだ。
「・・・あの方の知り合いとはいえ、あんなキ○ガイに物を頼むなんざ不安だったけど、意外にやるじゃない」
「そりゃそうだよ。何せあの人、頭の良さなら文句なく世界一だからね・・・キ○ガイだけど」
「ウェスト博士とエルザさんに感謝します・・・キ○ガイですけど」
「みんな、そんなこと言っちゃ駄目よ・・・確かに、その・・・キ○ガイだけど・・・」
―――どうやらこの四人もウェストのアレさは身に染みて分かっているようだった。
そうこうしている内に、ティスたちは一つの扉の前で立ち止まる。ちょっとやそっとでは開きそうもない、いかにも
頑丈そうな代物だ。
「おーし・・・じゃあ、いくとするか。デスピニス、ラリアー。手伝って」
三人が腕捲りをして扉に手を添え、腹に力を入れて無理矢理扉を開けようと試みる。グギギギギ・・・と、とても扉
が開く音とは思えない地響きと共に、ゆっくりとそれが開かれていった。
―――扉の奥に、誰かがいる。初老の男だ。彼は俯かせていた顔をゆっくりと上げた。憔悴しきった顔だったが、
四人の姿を見た瞬間に、僅かに精気が蘇る。
「おお・・・お前たちは・・・!」
彼はよろよろと四人に歩み寄ろうとして、つんのめる。倒れそうになった身体を、ティスたちが慌てて抱き抱えた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「む・・・心配いらん。何せこのような暮らしだからな。少々身体が弱ってしまってな・・・なに、直に元通り動ける
ようになるじゃろう」
「・・・申し訳ございません。もっと早く来ていれば・・・」
悔やむように呟くデスピニスの頭を、彼はそっと撫でた。そこにはまるで、父が娘に向けるような愛情が篭っている。
次にティスとラリアー、そしてテラに視線をやった。そこにもデスピニスに見せたものと同じ感情が宿っていた。
彼を知るものが今の光景を見れば、驚くだろう。彼はこの刑務所に収容されている者たちの中でも、大物犯罪者の部類
に属するものなのだから。
そんな彼が、この四人にはまるでごく普通の父親のように接している。
歪ではあっても―――彼らの間には、確かに絆が存在しているようだった。
「テラ・・・ティス・・・ラリアー・・・デスピニス・・・正直、ここまでして来てくれるとは思っていなかったよ」
「私は・・・」
テラは、迷いながらも答えた。
「私は―――あなたの娘ですもの。それに、この子たちだって」
「そうだよ」
ティスが続けた。
「あたいたちはテラ姉と違って、本当の子供じゃないけど・・・けど、本当の家族だって、そう思ってるもの」
「そう・・・そうか。ふふふ・・・ありがとうよ。お前たちと一緒なら、何でも出来そうな気がしてきたよ」
彼はそう言って、笑った。それは意外なほどに人間味溢れる笑顔だった。
「それでは―――改めて」
ティスは、彼の名を呼んだ。
「―――お迎えに上がりました、ギガゾンビ様」
「私は―――あなたの娘ですもの。それに、この子たちだって」
「そうだよ」
ティスが続けた。
「あたいたちはテラ姉と違って、本当の子供じゃないけど・・・けど、本当の家族だって、そう思ってるもの」
「そう・・・そうか。ふふふ・・・ありがとうよ。お前たちと一緒なら、何でも出来そうな気がしてきたよ」
彼はそう言って、笑った。それは意外なほどに人間味溢れる笑顔だった。
「それでは―――改めて」
ティスは、彼の名を呼んだ。
「―――お迎えに上がりました、ギガゾンビ様」
―――ギガゾンビを連れて刑務所を脱出し、彼らは人気のない路地裏にやってきた。
あのキ○ガイとは、ここで落ち合う約束だ。目立つわけにはいかないので、人目のつかない場所を選んだ
―――はずだったのだが。
「いっえぇぇ~~~~~~い!そこ行く凡人共、耳の穴やら鼻の穴やらとても口には出せない穴やらかっぽじって
よ~~~~く聞きやがれ!我輩は大!天!才!ドクター・ウェストであ~~~~~る!」
「博士ったらいきなり卑猥だロボー!」
馬鹿二人、目立っていた。無茶苦茶に目立っていやがった。人気のない路地裏のはずなのに、道行く人々の冷たい
視線を浴びまくりだ。
「・・・・・・おい、キチ・・・じゃなくて、ウェスト博士。それにエルザさん」
「お?やっとこ来たであるか、遅いであーる。待ちくたびれて我輩寝ちゃうところだったであーる!ああエルザ、
ぼくなんだか眠くなってきたよ・・・」
「ああ、大変ロボ!博士がルーベンスの絵の前でおちんちん丸出しの天使様に連れてかれちゃうロボ~!」
もはやツッコむ気も怒る気も失せてしまった。こいつらはもう、とにかく、アレすぎる。
「・・・ふん、相変わらずだな、ウェスト」
「お?貴様は我がマッド・サイエンティスト仲間のギガゾンビ!どうやら無事に脱獄できたようであるな」
「ああ、この子たちと、ついでに貴様のおかげか。一応礼は言うとしよう」
あのキ○ガイとは、ここで落ち合う約束だ。目立つわけにはいかないので、人目のつかない場所を選んだ
―――はずだったのだが。
「いっえぇぇ~~~~~~い!そこ行く凡人共、耳の穴やら鼻の穴やらとても口には出せない穴やらかっぽじって
よ~~~~く聞きやがれ!我輩は大!天!才!ドクター・ウェストであ~~~~~る!」
「博士ったらいきなり卑猥だロボー!」
馬鹿二人、目立っていた。無茶苦茶に目立っていやがった。人気のない路地裏のはずなのに、道行く人々の冷たい
視線を浴びまくりだ。
「・・・・・・おい、キチ・・・じゃなくて、ウェスト博士。それにエルザさん」
「お?やっとこ来たであるか、遅いであーる。待ちくたびれて我輩寝ちゃうところだったであーる!ああエルザ、
ぼくなんだか眠くなってきたよ・・・」
「ああ、大変ロボ!博士がルーベンスの絵の前でおちんちん丸出しの天使様に連れてかれちゃうロボ~!」
もはやツッコむ気も怒る気も失せてしまった。こいつらはもう、とにかく、アレすぎる。
「・・・ふん、相変わらずだな、ウェスト」
「お?貴様は我がマッド・サイエンティスト仲間のギガゾンビ!どうやら無事に脱獄できたようであるな」
「ああ、この子たちと、ついでに貴様のおかげか。一応礼は言うとしよう」
「は~~~っはっはっはっはっは!ついでどころか99%は我輩のおかげであーる!まあいい。ここまで騒ぎを
大きくした上、貴様は脱獄囚。さっさとこの時代からオサラバであ~~~る!というわけで、こんなものを用意
したのである」
ウェストが懐から、小さな機械を取り出した。それは―――
「こいつは時間移動はおろか、異世界間の移動すら可能とする道具、CPS(クロスゲート・パラダイム・システム)
という代物であーる。とあるルートでデータだけ手に入れたので、ちょちょいと作ってやったのであーる。
こいつを使って異世界に身を潜めれば、タイムパトロールとておいそれとは追ってこれまい。それとついでに、
これも渡しておくのであーる」
ウェストが差し出したのは、一枚のディスク。それをギガゾンビは受け取った。
「それには貴様の開発していた二つの機密・・・<亜空間破壊装置>と<死者蘇生装置>のデータをまるごと入れて
おいたである。精々有意義に使うがよかろう」
「ほお・・・気が利くな、ウェスト」
「ひゃ~~っはっはっは!こんなこともあろうかと用意しておいたのであ~~~~る!ふふふ・・・ふふふふふ!
こんなこともあろうかとぉぉぉぉぉ!」
どうやら一度言ってみたかった台詞のようである。
「・・・で、どんな世界に行くんですか?」
ラリアーが眉間を指で押さえて頭痛を堪えながら(理由は言うまでもない)尋ねた。
「それはこれから決めるのであーる。とりあえずは、適当に選んでしまうのもよかろう。なーに、人生行き当たり
ばったりくらいで丁度いいのであ~る!嗚呼、我輩たちはただ流されゆくのみ・・・♪川の流れのよ~に~♪
大きくした上、貴様は脱獄囚。さっさとこの時代からオサラバであ~~~る!というわけで、こんなものを用意
したのである」
ウェストが懐から、小さな機械を取り出した。それは―――
「こいつは時間移動はおろか、異世界間の移動すら可能とする道具、CPS(クロスゲート・パラダイム・システム)
という代物であーる。とあるルートでデータだけ手に入れたので、ちょちょいと作ってやったのであーる。
こいつを使って異世界に身を潜めれば、タイムパトロールとておいそれとは追ってこれまい。それとついでに、
これも渡しておくのであーる」
ウェストが差し出したのは、一枚のディスク。それをギガゾンビは受け取った。
「それには貴様の開発していた二つの機密・・・<亜空間破壊装置>と<死者蘇生装置>のデータをまるごと入れて
おいたである。精々有意義に使うがよかろう」
「ほお・・・気が利くな、ウェスト」
「ひゃ~~っはっはっは!こんなこともあろうかと用意しておいたのであ~~~~る!ふふふ・・・ふふふふふ!
こんなこともあろうかとぉぉぉぉぉ!」
どうやら一度言ってみたかった台詞のようである。
「・・・で、どんな世界に行くんですか?」
ラリアーが眉間を指で押さえて頭痛を堪えながら(理由は言うまでもない)尋ねた。
「それはこれから決めるのであーる。とりあえずは、適当に選んでしまうのもよかろう。なーに、人生行き当たり
ばったりくらいで丁度いいのであ~る!嗚呼、我輩たちはただ流されゆくのみ・・・♪川の流れのよ~に~♪
- ドドドドド・・・ん?何?この音。はっ!滝だ!
我輩は必死に抵抗したが激しくなる川の流れの前には無力だった。哀れ我輩は滝に飲まれ真っ逆さま!
どうやら我輩は黄泉の国への片道切符を手にしてしまったようである・・・」
「ざんねん!はかせのぼうけんはここでおわってしまったロボ!」
「・・・シャドウゲイトやってるとこ悪いんだけどさ、さっさと行こうよ。こんなことで捕まっちまったら馬鹿らしい
じゃないのさ」
「その通りだな。では行くとするか・・・」
ギガゾンビが、手の内のディスクを知らず知らずに強く握り締めた。
「―――我らの新天地へと!」
どうやら我輩は黄泉の国への片道切符を手にしてしまったようである・・・」
「ざんねん!はかせのぼうけんはここでおわってしまったロボ!」
「・・・シャドウゲイトやってるとこ悪いんだけどさ、さっさと行こうよ。こんなことで捕まっちまったら馬鹿らしい
じゃないのさ」
「その通りだな。では行くとするか・・・」
ギガゾンビが、手の内のディスクを知らず知らずに強く握り締めた。
「―――我らの新天地へと!」
―――そして、災厄の芽は異世界へとばら撒かれる。