ジュネが飛び出していく斗貴子を止めなかったのは、アテナに制されたせいであった。
緊迫した二人の空気に割り込んでいった斗貴子を横目で追いながら、その理由を問う。
「アテナ……?なぜ……」
「これをあなたに」
私の問いにスッと笑みを消し、こちらを真っ直ぐに見据えたアテナが右手を差し出した。
「これは……!」
見覚えのある六角形の物体。
表面に何も記されていない――――本物ならばナンバーが刻まれているはずのソレは、数日前にアテナがジュネに託し、斗貴子との接触のきっかけとして使わせたモノ。偽の、核鉄。
何故今になってこんな物を……。
困惑気味にアテナを見返した私は、その瞬間息をのんだ。
瞬く間に膨れあがる――――神の小宇宙。
目前の少女が、“城戸沙織”から“女神アテナ”へと変わる。
「女神アテナの名の下に……カメレオン星座の聖闘士、ジュネに命じます」
アテナの声は決して大きなものではない。
なのに圧倒的な威圧感を持つその声に、知らず知らず冷や汗が頬を伝う。
なおも膨らみ続けるアテナの小宇宙が雨を弾き、側に立つジュネの髪や衣服の湿り気までもを蒸発させる。
その強大な小宇宙にやっと我に返った私は、慌てて自分の唯一神へ跪き頭を垂れた。
「私はこれから紅薔薇さまと共に瞳子様の元へと向かいます。あなたに与える命令は三つ。一つは、これから現れるホムンクルスをこの学園内で殲滅すること。二つ目は、あなたはあくまでも斗貴子さんのサポートに徹すること。三つ目は」
そこで言葉を句切り、アテナは偽の核鉄を私に握らせた。
「三つ目は、先程の二つが終わったのなら……コレを持ってお聖堂へお行きなさい。わかりましたね?」
「はい」
「それと……」
アテナが指先が私の頬に触れ、緩やかに導かれるままに顔を上げる。
「あなたがこの試練を無事に乗り越えることを信じています。……死んではなりませんよ、ジュネ」
「……はい」
アテナの言葉の真意はわからない。
だが、その声音からアテナの真剣さを、視線からわずかな憂いを感じ、この命令の意味を問うことは憚られた。
緊迫した二人の空気に割り込んでいった斗貴子を横目で追いながら、その理由を問う。
「アテナ……?なぜ……」
「これをあなたに」
私の問いにスッと笑みを消し、こちらを真っ直ぐに見据えたアテナが右手を差し出した。
「これは……!」
見覚えのある六角形の物体。
表面に何も記されていない――――本物ならばナンバーが刻まれているはずのソレは、数日前にアテナがジュネに託し、斗貴子との接触のきっかけとして使わせたモノ。偽の、核鉄。
何故今になってこんな物を……。
困惑気味にアテナを見返した私は、その瞬間息をのんだ。
瞬く間に膨れあがる――――神の小宇宙。
目前の少女が、“城戸沙織”から“女神アテナ”へと変わる。
「女神アテナの名の下に……カメレオン星座の聖闘士、ジュネに命じます」
アテナの声は決して大きなものではない。
なのに圧倒的な威圧感を持つその声に、知らず知らず冷や汗が頬を伝う。
なおも膨らみ続けるアテナの小宇宙が雨を弾き、側に立つジュネの髪や衣服の湿り気までもを蒸発させる。
その強大な小宇宙にやっと我に返った私は、慌てて自分の唯一神へ跪き頭を垂れた。
「私はこれから紅薔薇さまと共に瞳子様の元へと向かいます。あなたに与える命令は三つ。一つは、これから現れるホムンクルスをこの学園内で殲滅すること。二つ目は、あなたはあくまでも斗貴子さんのサポートに徹すること。三つ目は」
そこで言葉を句切り、アテナは偽の核鉄を私に握らせた。
「三つ目は、先程の二つが終わったのなら……コレを持ってお聖堂へお行きなさい。わかりましたね?」
「はい」
「それと……」
アテナが指先が私の頬に触れ、緩やかに導かれるままに顔を上げる。
「あなたがこの試練を無事に乗り越えることを信じています。……死んではなりませんよ、ジュネ」
「……はい」
アテナの言葉の真意はわからない。
だが、その声音からアテナの真剣さを、視線からわずかな憂いを感じ、この命令の意味を問うことは憚られた。
「……来ましたね」
僅かに眉間を寄せたアテナが唐突に呟く。
この言葉の意味はわかるので、私はしっかりと頷き返した。
先程から自分の感覚に引っかかるものが、こちらへと近付いてきている。
「はい。…………四人……四体と呼ぶべきでしょうか。恐らくホムンクルスだと思いますが異常な小宇宙が近づいています」
明らかに人間が持つモノとは違う小宇宙を纏った何かは、もうすぐそこまで来ている。
僅かに眉間を寄せたアテナが唐突に呟く。
この言葉の意味はわかるので、私はしっかりと頷き返した。
先程から自分の感覚に引っかかるものが、こちらへと近付いてきている。
「はい。…………四人……四体と呼ぶべきでしょうか。恐らくホムンクルスだと思いますが異常な小宇宙が近づいています」
明らかに人間が持つモノとは違う小宇宙を纏った何かは、もうすぐそこまで来ている。
「嘘つき!!」
ヒステリックな声に視線を戻す。
例の少女が斗貴子と紅薔薇さまに背を向けて走り出す。
投げ捨てられた傘を蹴飛ばし、斗貴子が走り去る少女を追いかける。が……。
足を止められた斗貴子と紅薔薇さまの前には、走り去ったはずのあの少女がいた。
しかも四人。違うのは髪の長さだけで後は全く同じ容姿だ。
「アテナ、あれは……」
「恐らくは……人に在らざる者……。“オリジナル”の萌奈美さんは行ってしまわれたようですね」
私の問いに少しずれた答えを返し、アテナは潜んでいたお聖堂の影から足を踏み出した。
紅薔薇さまと斗貴子、ホムンクルス達との距離は数メートル。
その短い距離を一歩進む毎に、小宇宙を高まらせていくアテナの後を慌てて追いかける。
「紅薔薇さま」
「沙織ちゃん?!ジュネさんも……!どうしてここに……」
振り向いた紅薔薇さまが驚いた声を上げた。だが。
「……そうか……沙織ちゃん……」
アテナを見つめ、一人納得したような言葉を漏らす。
ホムンクルス達から目を逸らさない斗貴子とは対照的に、紅薔薇さまは完全にアテナと向かい合う。
人食いの化け物を目前にし、それらに背中を見せるという行為は自分には理解できるかねるが、紅薔薇さまは真っ直ぐにアテナを見つめている。
一体何を考えているのだろうか。
「沙織ちゃん、瞳子の居場所を知っているよね?」
紅薔薇さまの口調はとてもはっきりしていた。
私にもわかる。
紅薔薇さまのこの言葉は……“質問”ではなく確信を持った“確認”だ。
例の少女が斗貴子と紅薔薇さまに背を向けて走り出す。
投げ捨てられた傘を蹴飛ばし、斗貴子が走り去る少女を追いかける。が……。
足を止められた斗貴子と紅薔薇さまの前には、走り去ったはずのあの少女がいた。
しかも四人。違うのは髪の長さだけで後は全く同じ容姿だ。
「アテナ、あれは……」
「恐らくは……人に在らざる者……。“オリジナル”の萌奈美さんは行ってしまわれたようですね」
私の問いに少しずれた答えを返し、アテナは潜んでいたお聖堂の影から足を踏み出した。
紅薔薇さまと斗貴子、ホムンクルス達との距離は数メートル。
その短い距離を一歩進む毎に、小宇宙を高まらせていくアテナの後を慌てて追いかける。
「紅薔薇さま」
「沙織ちゃん?!ジュネさんも……!どうしてここに……」
振り向いた紅薔薇さまが驚いた声を上げた。だが。
「……そうか……沙織ちゃん……」
アテナを見つめ、一人納得したような言葉を漏らす。
ホムンクルス達から目を逸らさない斗貴子とは対照的に、紅薔薇さまは完全にアテナと向かい合う。
人食いの化け物を目前にし、それらに背中を見せるという行為は自分には理解できるかねるが、紅薔薇さまは真っ直ぐにアテナを見つめている。
一体何を考えているのだろうか。
「沙織ちゃん、瞳子の居場所を知っているよね?」
紅薔薇さまの口調はとてもはっきりしていた。
私にもわかる。
紅薔薇さまのこの言葉は……“質問”ではなく確信を持った“確認”だ。
「ええ。……共に来てくださいますか?」
「もちろん」
紅薔薇さまの言葉に訝しむことなく返答するアテナと、危険を伴うだろう行動に即答した紅薔薇さまの間に、目には見えない、だけど確かに感じられる小宇宙の風のようなモノが吹いた。
「では参りましょうか。ジュネ、斗貴子さん。後はお願いします。頼みましたよ」
アテナが紅薔薇さまに触れる。
一瞬、小宇宙が弾けたかと思ったらもうその場にアテナと紅薔薇さまの姿はなくなっていた。
「……どこに行ったんだ?」
相変わらずホムンクルス達から視線を外さない斗貴子が低い声を発した。
「瞳子の救出に向かわれた。私達のやるべき事はこいつらを倒すことだ」
完結に事実を伝えると、斗貴子はチラリとこちらに視線を向ける。
「……大丈夫なのか?」
「あちらは心配ないだろう。シャイナさんも行っているし、恐らく魔鈴さんも……」
魔鈴さんの今回の任務は紅薔薇様の警護だ。
魔鈴さんならアテナの小宇宙の後を追うことなど容易いだろう。
アテナも紅薔薇さまと共にいるのであれば無茶はしないだろうし。
それに…………アテナの護衛として彼もいる。
心配はいらない。
私は、与えられた命令を果たすことだけを考えればいい。
「ここで始末をつけるぞ」
「言われなくてもそのつもりだ」
低い声で告げた宣言に予想通りの答えが返ってくる。
少しだけ笑ってしまった口元をすぐに引き締め、私は四人……いや、四体のホムンクルスを睨み付けた。
「もちろん」
紅薔薇さまの言葉に訝しむことなく返答するアテナと、危険を伴うだろう行動に即答した紅薔薇さまの間に、目には見えない、だけど確かに感じられる小宇宙の風のようなモノが吹いた。
「では参りましょうか。ジュネ、斗貴子さん。後はお願いします。頼みましたよ」
アテナが紅薔薇さまに触れる。
一瞬、小宇宙が弾けたかと思ったらもうその場にアテナと紅薔薇さまの姿はなくなっていた。
「……どこに行ったんだ?」
相変わらずホムンクルス達から視線を外さない斗貴子が低い声を発した。
「瞳子の救出に向かわれた。私達のやるべき事はこいつらを倒すことだ」
完結に事実を伝えると、斗貴子はチラリとこちらに視線を向ける。
「……大丈夫なのか?」
「あちらは心配ないだろう。シャイナさんも行っているし、恐らく魔鈴さんも……」
魔鈴さんの今回の任務は紅薔薇様の警護だ。
魔鈴さんならアテナの小宇宙の後を追うことなど容易いだろう。
アテナも紅薔薇さまと共にいるのであれば無茶はしないだろうし。
それに…………アテナの護衛として彼もいる。
心配はいらない。
私は、与えられた命令を果たすことだけを考えればいい。
「ここで始末をつけるぞ」
「言われなくてもそのつもりだ」
低い声で告げた宣言に予想通りの答えが返ってくる。
少しだけ笑ってしまった口元をすぐに引き締め、私は四人……いや、四体のホムンクルスを睨み付けた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
咆吼。そして、斗貴子が跳ぶ。
四本の死神鎌が細雨の中で閃く。
その切っ先が四体のホムンクルスを捉え――――一直線に向かう。
だが。
「なっ……!」
斗貴子はかなりのスピードで突っ込んでいったはずだ。
だが、地面と水平に振るわれた四本の刃が、一本ずつ四体のホムンクルスに取り押さえられている。
四本の死神鎌が細雨の中で閃く。
その切っ先が四体のホムンクルスを捉え――――一直線に向かう。
だが。
「なっ……!」
斗貴子はかなりのスピードで突っ込んでいったはずだ。
だが、地面と水平に振るわれた四本の刃が、一本ずつ四体のホムンクルスに取り押さえられている。
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ――――――――」
邪気のない、四つの同じ笑顔。
「お父様から聞いたの」
「斗貴子さんが、いい物を持っているって」
同じ声が同じ呼吸で同じ言葉を紡ぐ。
四人の少女は同じ瞳で斗貴子を見つめる。
「ね、斗貴子さん」
「核鉄持っているのでしょう?」
「核鉄」
「ちょうだい――――――――」
クスクスクスクスと耳障りな笑い声が響く。
一体から伸びた大きな食物がこよられ、鋭い錐となり斗貴子へ突きつけられる。
(どうする……?助けにはいるか?)
シュル、と鞭を手にし、少し迷う。
そのまま右手を挙げ鞭を振るおうとした私は、中途半端な体勢で動きを止めた。
真っ直ぐに敵を見据える斗貴子の瞳は、状況を何一つ諦めていない。
(もうちょい様子を見るか……)
私がその気になれば手助けなど一瞬で出来る。
だがそれは、本当にそれが必要な時だけしかしてはいけない。
でなければ……斗貴子の戦士としてのプライドを傷つけるばかりか、「強くなりたい」という彼女の願いまで砕くことになってしまう。
「強くなるために必要なモノは……信念と、基本。そして…………実戦だ」
だから、実戦を経て一段上に昇ろうとしている斗貴子を邪魔してはいけない。
私に出来ることは彼女を見守り、必要なときに必要なだけ手助けをすることだけだ。
(彼女を信じろ!)
瞬の時にはできなかった、信じたいと思う人を信じること。
あの頃より少し強くなった私なら――――――――出来る。
(斗貴子はきっと……もっと、強くなれる……!こんなところで負けはしない!)
「核鉄ちょうだい!!」
葉の錐が斗貴子の額に突き立てられ、思わず自分の拳に力を込めたその時。
「……武装練金、解除!!」
予想外の言葉が発せられた。
邪気のない、四つの同じ笑顔。
「お父様から聞いたの」
「斗貴子さんが、いい物を持っているって」
同じ声が同じ呼吸で同じ言葉を紡ぐ。
四人の少女は同じ瞳で斗貴子を見つめる。
「ね、斗貴子さん」
「核鉄持っているのでしょう?」
「核鉄」
「ちょうだい――――――――」
クスクスクスクスと耳障りな笑い声が響く。
一体から伸びた大きな食物がこよられ、鋭い錐となり斗貴子へ突きつけられる。
(どうする……?助けにはいるか?)
シュル、と鞭を手にし、少し迷う。
そのまま右手を挙げ鞭を振るおうとした私は、中途半端な体勢で動きを止めた。
真っ直ぐに敵を見据える斗貴子の瞳は、状況を何一つ諦めていない。
(もうちょい様子を見るか……)
私がその気になれば手助けなど一瞬で出来る。
だがそれは、本当にそれが必要な時だけしかしてはいけない。
でなければ……斗貴子の戦士としてのプライドを傷つけるばかりか、「強くなりたい」という彼女の願いまで砕くことになってしまう。
「強くなるために必要なモノは……信念と、基本。そして…………実戦だ」
だから、実戦を経て一段上に昇ろうとしている斗貴子を邪魔してはいけない。
私に出来ることは彼女を見守り、必要なときに必要なだけ手助けをすることだけだ。
(彼女を信じろ!)
瞬の時にはできなかった、信じたいと思う人を信じること。
あの頃より少し強くなった私なら――――――――出来る。
(斗貴子はきっと……もっと、強くなれる……!こんなところで負けはしない!)
「核鉄ちょうだい!!」
葉の錐が斗貴子の額に突き立てられ、思わず自分の拳に力を込めたその時。
「……武装練金、解除!!」
予想外の言葉が発せられた。
斗貴子の声と共に処刑鎌はその姿を元の核鉄へと変え――――――――斗貴子の掌に収まる。
突然に掴んでいた物を失い、ホムンクルス達がバランスを崩す。
上半身を捻り錐をかわした斗貴子が、再び叫ぶ。
「武装練金!」
その言葉が終わる頃には、再度武器と化した核鉄がホムンクルスの一体を貫いていた。
しかも心臓を貫くと同時に額の章印を突き刺している。
「無音、無動作の武装練金の発動は戦士の必須条件。そして」
一体の額に突き刺した刃をそのまま横にスライドさせ、すぐそばのもう一体の首を刎ねる。
首だけとなったホムンクルスが上げる悲鳴を踏みつぶすように、四本の鎌が転がる首の脳天に突き立てられた。
「……バルキリースカートの特性は高速な精密機動……。得意な戦闘は対多人数、だ」
「……なるほどねぇ」
思わず納得してしまうのは、誤解とはいえ一度戦闘を交わしたからだろうか。
それとも――――“対多人数”が自分の鞭の特徴と一致するからか。
「……後、二体」
斗貴子の鋭い瞳に捉えられた残りのホムンクルスが息をのむ。
(この分だと私の出番はなさそうだな)
明らかにホムンクルスを上回る斗貴子の戦闘力に、安堵のため息をつこうとした時。
「――――っ!」
振り向いた拍子に揺れた三つ編みに、何かがかする。
(飛び道具……。この前のアイツか?)
あのお茶会の日の戦いで逃がしてしまった、もう一体のホムンクルス。
確かアイツは遠くから何かを跳ばす力を持っていたはずだ。
間髪入れずに襲ってくる弾丸をかわしながらぐるりと周囲を見渡す。
(敵の居場所は……わかる……!)
異常な小宇宙が、私の感覚に引っかかっている。
「……上!」
飛んできた弾丸を拳で叩き落とし、私はお聖堂の屋根まで一気に跳躍した。
「なっ……!どうして……?!」
お聖堂の屋根に立つ十字架を背にした彼女――――“上原萌奈美”がその顔を驚愕に固まらせる。
「傷一つついていないなんて……!あなた一体何者なの?!それにどうしてここがわかるの?!」
「あんなスピードの弾丸を避けるくらい、聖闘士にとっては朝飯前さ。私は」
驚愕から立ち直り、美しい顔を台無しにするような憎悪の表情となった彼女を真っ直ぐに睨み付ける。
突然に掴んでいた物を失い、ホムンクルス達がバランスを崩す。
上半身を捻り錐をかわした斗貴子が、再び叫ぶ。
「武装練金!」
その言葉が終わる頃には、再度武器と化した核鉄がホムンクルスの一体を貫いていた。
しかも心臓を貫くと同時に額の章印を突き刺している。
「無音、無動作の武装練金の発動は戦士の必須条件。そして」
一体の額に突き刺した刃をそのまま横にスライドさせ、すぐそばのもう一体の首を刎ねる。
首だけとなったホムンクルスが上げる悲鳴を踏みつぶすように、四本の鎌が転がる首の脳天に突き立てられた。
「……バルキリースカートの特性は高速な精密機動……。得意な戦闘は対多人数、だ」
「……なるほどねぇ」
思わず納得してしまうのは、誤解とはいえ一度戦闘を交わしたからだろうか。
それとも――――“対多人数”が自分の鞭の特徴と一致するからか。
「……後、二体」
斗貴子の鋭い瞳に捉えられた残りのホムンクルスが息をのむ。
(この分だと私の出番はなさそうだな)
明らかにホムンクルスを上回る斗貴子の戦闘力に、安堵のため息をつこうとした時。
「――――っ!」
振り向いた拍子に揺れた三つ編みに、何かがかする。
(飛び道具……。この前のアイツか?)
あのお茶会の日の戦いで逃がしてしまった、もう一体のホムンクルス。
確かアイツは遠くから何かを跳ばす力を持っていたはずだ。
間髪入れずに襲ってくる弾丸をかわしながらぐるりと周囲を見渡す。
(敵の居場所は……わかる……!)
異常な小宇宙が、私の感覚に引っかかっている。
「……上!」
飛んできた弾丸を拳で叩き落とし、私はお聖堂の屋根まで一気に跳躍した。
「なっ……!どうして……?!」
お聖堂の屋根に立つ十字架を背にした彼女――――“上原萌奈美”がその顔を驚愕に固まらせる。
「傷一つついていないなんて……!あなた一体何者なの?!それにどうしてここがわかるの?!」
「あんなスピードの弾丸を避けるくらい、聖闘士にとっては朝飯前さ。私は」
驚愕から立ち直り、美しい顔を台無しにするような憎悪の表情となった彼女を真っ直ぐに睨み付ける。
「私はアテナの聖闘士……カメレオン座のジュネ。地上の正義と平和を守る戦士だ!」
ヒュン、と雨を切り、鞭が私の両手に収まる。
「オマエには色々聞きたいことがあるんだ。捕獲させてもらう」
なぜ、このホムンクルス達は皆同じ顔をしているのか。
今、この学園内に何体のホムンクルスが侵入しているのか。
目的は。
組織に属しているのであればその規模は。首謀者は。
そして…………瞳子の安否は。
「セイント……?自分のことを“聖人”だなんて……随分とおこがましいこと」
「そっちの“セイント”じゃないんだけどね」
チラリと眼下に視線をやると、斗貴子が二体のホムンクルスを相手に雄叫びをあげている。
(錬金術とやらがない状態でどこまでやれるかわからないけど……)
戦闘能力は私の方が圧倒的に上だ。
だが私には錬金術の力はない。
それはつまりホムンクルスに致命傷を与えることが出来ないということだ。
目的は捕獲だが……このハンデはかなりこちらに不利となるだろう。
(だけど、それでも)
――――――――――――斗貴子の戦いの邪魔はさせない。
水分を含んだ金色の三つ編みがゆらりと持ち上がる。
ゆっくりと、だが確実に、私は私の中の小宇宙を燃やし始める。
ヒュン、と雨を切り、鞭が私の両手に収まる。
「オマエには色々聞きたいことがあるんだ。捕獲させてもらう」
なぜ、このホムンクルス達は皆同じ顔をしているのか。
今、この学園内に何体のホムンクルスが侵入しているのか。
目的は。
組織に属しているのであればその規模は。首謀者は。
そして…………瞳子の安否は。
「セイント……?自分のことを“聖人”だなんて……随分とおこがましいこと」
「そっちの“セイント”じゃないんだけどね」
チラリと眼下に視線をやると、斗貴子が二体のホムンクルスを相手に雄叫びをあげている。
(錬金術とやらがない状態でどこまでやれるかわからないけど……)
戦闘能力は私の方が圧倒的に上だ。
だが私には錬金術の力はない。
それはつまりホムンクルスに致命傷を与えることが出来ないということだ。
目的は捕獲だが……このハンデはかなりこちらに不利となるだろう。
(だけど、それでも)
――――――――――――斗貴子の戦いの邪魔はさせない。
水分を含んだ金色の三つ編みがゆらりと持ち上がる。
ゆっくりと、だが確実に、私は私の中の小宇宙を燃やし始める。