第九十三話「ラグナロク・前編」
そこは宇宙。数多の星々が煌く漆黒の世界。
だが、それは贋物の輝きだ。自然に生まれたものではなく、人為的に造られたもの。
それを造り出した男が、その人工宇宙の中心で佇んでいた。
彼は待っている。己の敵が、ここまでやってくるのを。
―――宇宙に乱れが生まれた。乱れの中からやってくる。彼の敵が。彼を打ち滅ぼさんとする者たちが。
「・・・待っていましたよ、皆さん」
ならば自分はそれに応えよう。その全身全霊を持ってして、全てに終止符を打とう。
だが、それは贋物の輝きだ。自然に生まれたものではなく、人為的に造られたもの。
それを造り出した男が、その人工宇宙の中心で佇んでいた。
彼は待っている。己の敵が、ここまでやってくるのを。
―――宇宙に乱れが生まれた。乱れの中からやってくる。彼の敵が。彼を打ち滅ぼさんとする者たちが。
「・・・待っていましたよ、皆さん」
ならば自分はそれに応えよう。その全身全霊を持ってして、全てに終止符を打とう。
「・・・で、どうしよう、ドラえもん」
いざ決戦の地へ、と意気込んでやってきたものの、以前経験したグランゾン・Fの戦闘力を思い出すと、とてもじゃ
ないが勝てるものではないと思ってしまうのび太であった。
そして、ドラえもんの回答は―――
「あいつは、合体することであれほどの力を手に入れたんだ。なら・・・対抗策は一つしかないよ」
ダイザンダーの腹部に取り付けられた巨大四次元ポケット。そこから取り出したる物。
「合体に対抗するには・・・合体しかない!<ウルトラミキサー・改良型>!」
ダイザンダーが掲げたそれからチューブがその場の全ての機体に伸びていく。ミキサーの中でそれらは掻き混ぜられ、
合わされ、新たな形を取っていく。
この間、ほんのコンマ数秒。そしてグランゾン・Fにも劣らぬ超存在が顕現した。
「融合機神―――<バキスレイオス>!」
いざ決戦の地へ、と意気込んでやってきたものの、以前経験したグランゾン・Fの戦闘力を思い出すと、とてもじゃ
ないが勝てるものではないと思ってしまうのび太であった。
そして、ドラえもんの回答は―――
「あいつは、合体することであれほどの力を手に入れたんだ。なら・・・対抗策は一つしかないよ」
ダイザンダーの腹部に取り付けられた巨大四次元ポケット。そこから取り出したる物。
「合体に対抗するには・・・合体しかない!<ウルトラミキサー・改良型>!」
ダイザンダーが掲げたそれからチューブがその場の全ての機体に伸びていく。ミキサーの中でそれらは掻き混ぜられ、
合わされ、新たな形を取っていく。
この間、ほんのコンマ数秒。そしてグランゾン・Fにも劣らぬ超存在が顕現した。
「融合機神―――<バキスレイオス>!」
バキスレイオス―――
ダイザンダーを始めとして、全ての機体が融合した姿。融合した機体の全ての特性、武装を備えた上で、オリジナルを
遥かに凌駕した性能を有する機神。
パイロットも融合し、一人の人間になっているが、人格は全て独立して存在している。
それはもはや機械の領域を超えた存在。グランゾン・Fをデウス・エクス・マキナと評するならば―――
バキスレイオスもまた、デウス・エクス・マキナだ。
グランゾン・Fとバキスレイオス。二対の超存在がしばし睨み合う。
「・・・こうして顔を突き合わせているだけでは、話も進みませんね」
グランゾン・Fの右手が黒い光に包まれた。その光は形を取り、巨大な剣に変形していく。
「―――<グランワームソード>!」
その感触を確かめるかのように、一振り、二振り。そして、構える。
「では、行きましょうか―――」
それに呼応するように、バキスレイオスが虚空に手を伸ばす。
「憎悪の空より来たりて―――」
それは、言霊。それは、祈り。
「正しき怒りを胸に―――」
それが呼ぶのは、魔を断つもの。
「我等は魔を断つ剣を取る!」
無から現れた穢れなき刃を、バキスレイオスは掴み取った。
「―――汝、無垢なる刃―――<デモンベイン>!」
同時にバキスレイオスが疾風の速さで駆け抜けた。グランゾン・Fとの距離は一瞬で零となり、同時に互いの斬撃が
交錯する。
一閃。互いに受け止めあう。
二閃。デモンベインがグランゾン・Fの胸部を僅かに斬り裂く。
三閃。グランワームソードがバキスレイオスの顔面に一筋の傷を付けた。
ダイザンダーを始めとして、全ての機体が融合した姿。融合した機体の全ての特性、武装を備えた上で、オリジナルを
遥かに凌駕した性能を有する機神。
パイロットも融合し、一人の人間になっているが、人格は全て独立して存在している。
それはもはや機械の領域を超えた存在。グランゾン・Fをデウス・エクス・マキナと評するならば―――
バキスレイオスもまた、デウス・エクス・マキナだ。
グランゾン・Fとバキスレイオス。二対の超存在がしばし睨み合う。
「・・・こうして顔を突き合わせているだけでは、話も進みませんね」
グランゾン・Fの右手が黒い光に包まれた。その光は形を取り、巨大な剣に変形していく。
「―――<グランワームソード>!」
その感触を確かめるかのように、一振り、二振り。そして、構える。
「では、行きましょうか―――」
それに呼応するように、バキスレイオスが虚空に手を伸ばす。
「憎悪の空より来たりて―――」
それは、言霊。それは、祈り。
「正しき怒りを胸に―――」
それが呼ぶのは、魔を断つもの。
「我等は魔を断つ剣を取る!」
無から現れた穢れなき刃を、バキスレイオスは掴み取った。
「―――汝、無垢なる刃―――<デモンベイン>!」
同時にバキスレイオスが疾風の速さで駆け抜けた。グランゾン・Fとの距離は一瞬で零となり、同時に互いの斬撃が
交錯する。
一閃。互いに受け止めあう。
二閃。デモンベインがグランゾン・Fの胸部を僅かに斬り裂く。
三閃。グランワームソードがバキスレイオスの顔面に一筋の傷を付けた。
しかし、その程度の傷はどちらにとってもダメージとは言えない。瞬きすらできぬほどの間に自己修復が完了する。
やがて高速の剣戟が光速の剣戟に変わり、それすら凌駕し神速へと至った。
数千数万の斬撃の応酬の果て、押し勝ったのはバキスレイオス。グランワームソードを弾き飛ばし、グランゾン・Fに
力の限り斬りかかる!
グランゾン・Fの右腕が断ち切られた。次いで左腕。更にデモンベインを振り翳したところで、凄まじい衝撃が襲った。
バキスレイオスの装甲が、大きく抉り取られている。
「ふっ・・・惜しかったですねえ、今のは」
一瞬にして再生を終えた両腕を誇示するように掲げて、シュウが嘲笑する。
「では、反撃といきましょうか」
グランゾン・Fが掌に重力場を発生させた。そしてそれを撃ち出すのではなく、掌に宿したまま殴りかかる。
重力波を纏った掌底による一撃で、バキスレイオスの装甲がひしゃげた。
<グ・・・グラビティ張り手って奴か!?>
マサキが彼独特の妙なネーミングセンスを発揮するが、それにツッコミを入れる余裕などない。連撃に次ぐ連撃に
翻弄されつつも、距離を取って態勢を立て直す。それと同時にバキスレイオスの全身から砲門が展開した。
そして、その砲撃に敵を撃ち貫く強固なイメージを与える。搭載されたラムダ・ドライバによってそれは物理的な力に
変換された。そして、閃光!
「―――フルバースト!」
幾条もの閃光がグランゾン・Fを貫く。装甲が焼け、溶け、爛れる。それから回復する一瞬の隙を見逃さない。
加速。加速。さらに加速。
「バキスレイオスの機動性なら―――こんなことだってできるんだ!」
バキスレイオスが最大速度に達した瞬間、その姿が三機に増えた。本当に分身したわけではない。あまりの速度に、残像が
発生したのだ。そして一気に襲い掛かる!
「―――<ジェットストリーム・アタック>!」
ありえるはずのない単体での連携。本来ならば三機で行う攻撃を、たった一機で行うことすらバキスレイオスには可能だ。
だがこれでも、グランゾン・Fに与えたダメージはそこまで大きくはない。じきに修復を終えてしまうことだろう。
さらに追い討ちをかけようとしたところで、動きが止まった。その理由はグランゾン・Fから放たれる、凄まじい鬼気。
「確かにあなたたちは強い・・・しかし、それでも私に勝てる確立など、万に一つもありません」
グランゾン・Fの両掌から溢れる、膨大なエネルギー。
「あなたたちの存在を、この宇宙から抹消してあげます」
それをバキスレイオスに向けて、一気に撃ち出す!
「<縮退砲>―――発射!」
「!?くっ・・・!」
回避は、間に合わない。咄嗟にデモンベインを掲げ、防御結界<旧神の印>を発動させる。同時に、縮退砲が直撃する。
世界すら破壊せんばかりのその威力―――<旧神の印>でも防ぎきれず、バキスレイオスは大きく弾き飛ばされた。
ボディから黒煙が吹き上がり、内部動力系が異常をきたす。
だが、バキスレイオスとて並の機体ではない。これほどの損傷でも、ほとんど一瞬で回復可能だ。
一瞬。それはすなわち―――
この戦闘においては、あまりにも度し難い、間抜けなほどに大きな隙だった。
その一瞬で再びグランワームソードを手にしたグランゾン・Fが肉薄する。そして、コクピット目掛けてその切っ先を
突き出し―――そこで、バキスレイオスの拳に打ち払われた。
「なに!?」
「これ、物凄く疲れるからあんまりやりたくないけど―――そうも言ってらんないか」
そう言って、さらに連続で殴りつける。たまらずグランゾン・Fは飛び退き、バキスレイオスの様子を伺った。
既に損傷は全快している。そして機体を包む、神々しいまでの光。
「ちっ・・・<ポゼッション>を使いましたか。しかし、それもその場しのぎにしかなりませんよ」
「だよね・・・」
強力だが、パイロットの体力を容赦なく奪ってしまうポゼッションは長期戦にはまるで向かない。短時間で効果が切れる
上に、切れた後はまるで余力が残らない。敵を倒しきれなければ、そこで終わりだ。
「だけど・・・このまま行くよ!」
「むっ!?」
バキスレイオスが右手にデモンベインを持ち、さらに左手にもう一振りの剣を出現させた。
「デモンベイン、ディスカッター・・・」
同時に、その姿が掻き消える。あまりの速度に、視認ができなくなったのだ。
そしてグランゾン・Fに放たれる、超神速の剣技。
「―――<二刀流・乱舞の太刀>!」
「くっ・・・!」
態勢を大きく崩したところに、更に攻撃を仕掛ける。
「まだ終わりじゃない・・・!」
距離を取り、両腕を大きく開く。両掌に宿る、莫大なエネルギー。掌を合わせ、それを突き出す姿勢で、突撃する!
「―――<ヘル・アンド・ヘヴン>!」
エネルギーの余波で周りの星々を打ち砕きながら、グランゾン・Fに全力でぶつかっていった。エネルギーの奔流が
グランゾン・Fを包み、破壊していく。
だが、荒れ狂うエネルギーが不意に止んだ。バキスレイオスはといえば、両手を突き出した姿勢のまま硬直している。
ポゼッションの副作用―――あまりにも激しいエネルギーの消費のせいだった。そして、パイロットの体力も、底を
尽きている。
今のバキスレイオスは、まさに鋼鉄の棺桶と化してしまっていた。
「ククク・・・残念でしたね」
ゆっくりと態勢を整え、バキスレイオスを遠巻きにする。もはや、勝利は揺ぎ無いものとなった。
パイロットの体力も、機体のエネルギーも尽きた今、それが当然の帰結―――だが。
「・・・そうでも・・・ないよ・・・」
僅かに残った力で、腹部の巨大四次元ポケットの中身をまさぐり、何かを取り出した。デフォルメされたカエルだか何か
の絵がプリントされたシップ薬のような物体だ。そしてそれを自らのボディに貼り付ける。
「―――<ケロンパス>!」
瞬時に機体のエネルギーが全快した。続けて、パイロットの体力も完全回復する。
ケロンパス。一瞬にして全ての疲れを取り去る道具であり、機械に使えばそのエネルギーも回復する。そして、もう一つ
の効果がある。
「一度使ったケロンパスを他の奴に張ると―――そいつに全部の疲労を渡せる!」
言って、ケロンパスを投げつけた。重力や空気抵抗があればそんなシップなど飛ぶはずもないが、それらがない宇宙では
問題がない。投擲されたケロンパスはグランゾン・Fに向かって、勢いよく飛んでいった。
「ちっ!こんなものを喰らうと本気で思っているのですか!?」
避けるまでもなく、ケロンパスは粉々に吹き飛ばされた。しかし、それは計算の内だ。ほんの少し隙ができれば、それで
よかった。
グランゾン・Fと逆方向に推進し、大きく距離を取った。そして、デモンベインを構える。
「デモンベイン―――姿を変えろ!」
それに応じるかのように、デモンベインが―――魔を断つ剣が、その姿を大きく変化させる。そしてバキスレイオスの手に
現れたのは、二丁拳銃。
一つは紅色の銃。即ち、全てを焼き尽くす業火。
「炎の魔銃―――<クトゥグア>!」
もう一つは銀色の銃。即ち、全てを凍て付かせる絶対零度。
「冷気の魔銃―――<イタクァ>!」
同時に、トリガーを引き絞る。クトゥグアからは灼熱の弾丸が、イタクァからは冷気の弾丸が放たれた。
対極の二つの力が、グランゾン・Fに容赦なく襲い掛かる。
「この程度の攻撃など・・・!」
シュウはそれを完全に見切り、あっさりとかわす―――だが、イタクァの弾丸は軌道を変化させ、再びグランゾン・Fに
向かう。
「これは・・・追尾弾か!」
思わぬ攻撃に、動きが乱れる。そこに、再び放たれたクトゥグアの弾丸が次々と炸裂した。
直線的で見切られやすいが、その威力はグランゾン・Fの装甲を易々と破壊するほどだった。
「ちいっ・・・やってくれますね」
流石に息を荒くし、シュウが呟く。そして、縮退砲の構えに入った。
「今度は完全に直撃させる―――そうなれば、如何にバキスレイオスといえど、破壊することは造作もありません」
「それは、どうかな?クトゥグア、イタクァ―――<神獣形態>!」
二丁の拳銃が姿を変えた。
獄炎を纏う巨大な獣―――クトゥグア。
氷雪を纏う巨大な竜―――イタクァ。
二対の神獣が、グランゾン・Fに向かって突進する!
「<縮退砲>―――発射!」
そして二体を迎え撃つ、破滅の一撃。
絶大な力がぶつかり合い、そして―――
宇宙が、歪んだ。
「え・・・?」
比喩表現でもなんでもない。文字通り、宇宙が歪んでいるのだ。
「どうやら今の衝撃で、次元震を引き起こしてしまったようですね・・・」
「じ、次元震!?」
「時空間が歪んで、別の世界への扉―――次元断層に飲み込まれるということですよ。つまり、異世界に飛ばされる
ということです!」
「な、何だって!?ちょっと、どうにかならないの!?」
「どうにもなりませんよ。ククク・・・まあいいでしょう。どこで戦うにしろ、結局同じこと―――」
その言葉を、最後まで聞くことはできなかった。バキスレイオスとグランゾン・Fは次元断層に飲み込まれ、別次元へと
消えていった。
やがて高速の剣戟が光速の剣戟に変わり、それすら凌駕し神速へと至った。
数千数万の斬撃の応酬の果て、押し勝ったのはバキスレイオス。グランワームソードを弾き飛ばし、グランゾン・Fに
力の限り斬りかかる!
グランゾン・Fの右腕が断ち切られた。次いで左腕。更にデモンベインを振り翳したところで、凄まじい衝撃が襲った。
バキスレイオスの装甲が、大きく抉り取られている。
「ふっ・・・惜しかったですねえ、今のは」
一瞬にして再生を終えた両腕を誇示するように掲げて、シュウが嘲笑する。
「では、反撃といきましょうか」
グランゾン・Fが掌に重力場を発生させた。そしてそれを撃ち出すのではなく、掌に宿したまま殴りかかる。
重力波を纏った掌底による一撃で、バキスレイオスの装甲がひしゃげた。
<グ・・・グラビティ張り手って奴か!?>
マサキが彼独特の妙なネーミングセンスを発揮するが、それにツッコミを入れる余裕などない。連撃に次ぐ連撃に
翻弄されつつも、距離を取って態勢を立て直す。それと同時にバキスレイオスの全身から砲門が展開した。
そして、その砲撃に敵を撃ち貫く強固なイメージを与える。搭載されたラムダ・ドライバによってそれは物理的な力に
変換された。そして、閃光!
「―――フルバースト!」
幾条もの閃光がグランゾン・Fを貫く。装甲が焼け、溶け、爛れる。それから回復する一瞬の隙を見逃さない。
加速。加速。さらに加速。
「バキスレイオスの機動性なら―――こんなことだってできるんだ!」
バキスレイオスが最大速度に達した瞬間、その姿が三機に増えた。本当に分身したわけではない。あまりの速度に、残像が
発生したのだ。そして一気に襲い掛かる!
「―――<ジェットストリーム・アタック>!」
ありえるはずのない単体での連携。本来ならば三機で行う攻撃を、たった一機で行うことすらバキスレイオスには可能だ。
だがこれでも、グランゾン・Fに与えたダメージはそこまで大きくはない。じきに修復を終えてしまうことだろう。
さらに追い討ちをかけようとしたところで、動きが止まった。その理由はグランゾン・Fから放たれる、凄まじい鬼気。
「確かにあなたたちは強い・・・しかし、それでも私に勝てる確立など、万に一つもありません」
グランゾン・Fの両掌から溢れる、膨大なエネルギー。
「あなたたちの存在を、この宇宙から抹消してあげます」
それをバキスレイオスに向けて、一気に撃ち出す!
「<縮退砲>―――発射!」
「!?くっ・・・!」
回避は、間に合わない。咄嗟にデモンベインを掲げ、防御結界<旧神の印>を発動させる。同時に、縮退砲が直撃する。
世界すら破壊せんばかりのその威力―――<旧神の印>でも防ぎきれず、バキスレイオスは大きく弾き飛ばされた。
ボディから黒煙が吹き上がり、内部動力系が異常をきたす。
だが、バキスレイオスとて並の機体ではない。これほどの損傷でも、ほとんど一瞬で回復可能だ。
一瞬。それはすなわち―――
この戦闘においては、あまりにも度し難い、間抜けなほどに大きな隙だった。
その一瞬で再びグランワームソードを手にしたグランゾン・Fが肉薄する。そして、コクピット目掛けてその切っ先を
突き出し―――そこで、バキスレイオスの拳に打ち払われた。
「なに!?」
「これ、物凄く疲れるからあんまりやりたくないけど―――そうも言ってらんないか」
そう言って、さらに連続で殴りつける。たまらずグランゾン・Fは飛び退き、バキスレイオスの様子を伺った。
既に損傷は全快している。そして機体を包む、神々しいまでの光。
「ちっ・・・<ポゼッション>を使いましたか。しかし、それもその場しのぎにしかなりませんよ」
「だよね・・・」
強力だが、パイロットの体力を容赦なく奪ってしまうポゼッションは長期戦にはまるで向かない。短時間で効果が切れる
上に、切れた後はまるで余力が残らない。敵を倒しきれなければ、そこで終わりだ。
「だけど・・・このまま行くよ!」
「むっ!?」
バキスレイオスが右手にデモンベインを持ち、さらに左手にもう一振りの剣を出現させた。
「デモンベイン、ディスカッター・・・」
同時に、その姿が掻き消える。あまりの速度に、視認ができなくなったのだ。
そしてグランゾン・Fに放たれる、超神速の剣技。
「―――<二刀流・乱舞の太刀>!」
「くっ・・・!」
態勢を大きく崩したところに、更に攻撃を仕掛ける。
「まだ終わりじゃない・・・!」
距離を取り、両腕を大きく開く。両掌に宿る、莫大なエネルギー。掌を合わせ、それを突き出す姿勢で、突撃する!
「―――<ヘル・アンド・ヘヴン>!」
エネルギーの余波で周りの星々を打ち砕きながら、グランゾン・Fに全力でぶつかっていった。エネルギーの奔流が
グランゾン・Fを包み、破壊していく。
だが、荒れ狂うエネルギーが不意に止んだ。バキスレイオスはといえば、両手を突き出した姿勢のまま硬直している。
ポゼッションの副作用―――あまりにも激しいエネルギーの消費のせいだった。そして、パイロットの体力も、底を
尽きている。
今のバキスレイオスは、まさに鋼鉄の棺桶と化してしまっていた。
「ククク・・・残念でしたね」
ゆっくりと態勢を整え、バキスレイオスを遠巻きにする。もはや、勝利は揺ぎ無いものとなった。
パイロットの体力も、機体のエネルギーも尽きた今、それが当然の帰結―――だが。
「・・・そうでも・・・ないよ・・・」
僅かに残った力で、腹部の巨大四次元ポケットの中身をまさぐり、何かを取り出した。デフォルメされたカエルだか何か
の絵がプリントされたシップ薬のような物体だ。そしてそれを自らのボディに貼り付ける。
「―――<ケロンパス>!」
瞬時に機体のエネルギーが全快した。続けて、パイロットの体力も完全回復する。
ケロンパス。一瞬にして全ての疲れを取り去る道具であり、機械に使えばそのエネルギーも回復する。そして、もう一つ
の効果がある。
「一度使ったケロンパスを他の奴に張ると―――そいつに全部の疲労を渡せる!」
言って、ケロンパスを投げつけた。重力や空気抵抗があればそんなシップなど飛ぶはずもないが、それらがない宇宙では
問題がない。投擲されたケロンパスはグランゾン・Fに向かって、勢いよく飛んでいった。
「ちっ!こんなものを喰らうと本気で思っているのですか!?」
避けるまでもなく、ケロンパスは粉々に吹き飛ばされた。しかし、それは計算の内だ。ほんの少し隙ができれば、それで
よかった。
グランゾン・Fと逆方向に推進し、大きく距離を取った。そして、デモンベインを構える。
「デモンベイン―――姿を変えろ!」
それに応じるかのように、デモンベインが―――魔を断つ剣が、その姿を大きく変化させる。そしてバキスレイオスの手に
現れたのは、二丁拳銃。
一つは紅色の銃。即ち、全てを焼き尽くす業火。
「炎の魔銃―――<クトゥグア>!」
もう一つは銀色の銃。即ち、全てを凍て付かせる絶対零度。
「冷気の魔銃―――<イタクァ>!」
同時に、トリガーを引き絞る。クトゥグアからは灼熱の弾丸が、イタクァからは冷気の弾丸が放たれた。
対極の二つの力が、グランゾン・Fに容赦なく襲い掛かる。
「この程度の攻撃など・・・!」
シュウはそれを完全に見切り、あっさりとかわす―――だが、イタクァの弾丸は軌道を変化させ、再びグランゾン・Fに
向かう。
「これは・・・追尾弾か!」
思わぬ攻撃に、動きが乱れる。そこに、再び放たれたクトゥグアの弾丸が次々と炸裂した。
直線的で見切られやすいが、その威力はグランゾン・Fの装甲を易々と破壊するほどだった。
「ちいっ・・・やってくれますね」
流石に息を荒くし、シュウが呟く。そして、縮退砲の構えに入った。
「今度は完全に直撃させる―――そうなれば、如何にバキスレイオスといえど、破壊することは造作もありません」
「それは、どうかな?クトゥグア、イタクァ―――<神獣形態>!」
二丁の拳銃が姿を変えた。
獄炎を纏う巨大な獣―――クトゥグア。
氷雪を纏う巨大な竜―――イタクァ。
二対の神獣が、グランゾン・Fに向かって突進する!
「<縮退砲>―――発射!」
そして二体を迎え撃つ、破滅の一撃。
絶大な力がぶつかり合い、そして―――
宇宙が、歪んだ。
「え・・・?」
比喩表現でもなんでもない。文字通り、宇宙が歪んでいるのだ。
「どうやら今の衝撃で、次元震を引き起こしてしまったようですね・・・」
「じ、次元震!?」
「時空間が歪んで、別の世界への扉―――次元断層に飲み込まれるということですよ。つまり、異世界に飛ばされる
ということです!」
「な、何だって!?ちょっと、どうにかならないの!?」
「どうにもなりませんよ。ククク・・・まあいいでしょう。どこで戦うにしろ、結局同じこと―――」
その言葉を、最後まで聞くことはできなかった。バキスレイオスとグランゾン・Fは次元断層に飲み込まれ、別次元へと
消えていった。