SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 第097話 「演劇をしよう!!」(後編) (4)


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 桜花たちと別れた無銘と鐶はそのあとしばらくデパートをウロウロした。

 デート、である。鐶は浮かれていた。

(なう! いっつぁしょーたい!! 最高のシチュエーション!!)

 未来なんて見えない、だから目の前だけを見つめて突き進むだけさなのである。


 まず巨大ロボットがカイジュウと戦うハリウッドの映画を見た。

(おお……スパロボにはない…………大迫力……です)
(頑張れ忍者ロボ! 頑張るのだー!!)


 次に向かったのはブティックショップ。無銘は、柄にもなく鐶の服を一緒に選んだ。

「き、貴様はいつも羽毛だからな。実は服きとらん。服に見えるのは毛だ。体毛……なのだ」
「どうして……そこで……赤くなる……の……ですか?」
「黙れダマレエ!! とにかくいまは銀成の制服着てるが、この際だ、服着る習慣をつけろ!」
「……でも…………戦ったら……破れ……ます……。すっぽん……ぽん……です」
 七分袖やフレアスカートといった着衣、に見える羽毛はなかなか頑丈。激しい動きにも耐えうる強度だ。鐶は強い。速い。
並みの服はついていけずすぐ滅失……と思い当たった無銘、黙り込む。
「…………光を……乱反射して……ステルス迷彩……やったり…………、蓄えた毒……滲ませて…………触れるだけで
注入したり…………できます……」
 羽毛の方が何かと便利。鐶の主張に押し黙る。
「……」
「その沈黙は……裸になって参っちんぐ……が、いいなあの……沈黙……ですか? それとも、困るヤバイやっぱ羽毛のが
いいの……沈黙……ですか?」
「貴様!! そーいう問いかけされたら、まるで我が裸目当てで着衣すすめてるようではないか!!」
「真意はどうあれ……羽毛でも……服でも…………私の露出は……高い……です」
「うぐ」
「無銘くんの……えっち」
「違う!!」
「本当に?」
 鐶は一歩歩み出た。
「…………」
 無銘は後ずさった。
「本当に?」
 更に鐶が前進。いやそのと口中でモガモガ言いつつ無銘が立ち止まったのは、まさに不退転の覚悟、けして退かぬと言う
意思表示だが、しかし虚ろな少女はなお間合いを詰めてくる。後ろに向かって弓なりに曲げた背中が全身のバランスを崩す
までさほどの時間はかからなかった。背後へと数歩たたらを踏む。反射的に手を伸ばしたのは商品の、服の、ハンガーで、
それは敢え無く崩れ行く体勢の慣性に巻き込まれる。ジャっと指先をすっぽ抜け飛んだ服を鐶は冷然たる無表情で掴み
元の位置へ。同じコトを何度か繰り返すうちとうとう壁際に追い詰められる少年忍者。まるでカラクリ屋敷の回転扉でも
探すように両手を広げ適当な場所をバタバタ叩いてみるが無論虎口を脱するには至らない。鐶はあくまで無表情のまま
歩みを止め「で?」と聞いた。声に感情がこもらないのは元よりだが、かかる奇妙な威圧の中では一際に恐ろしいとみえ
とうとう無銘は観念した。ギリリと歯噛みし、目を落とし、
「…………興味が、な、無い訳はない。我とて男、本能はある」
 苦悩の表情で呟く少年。少女は大仰に両手を広げた。
「爆弾……発言ですね……。びっくり……です。恥ずかしいけれど…………無銘くんなら……おk……です」
「で!! でも服着てちゃんと隠して欲しいというのも本音だ!!」
「おkは……スルーですか……?」
 鐶はションボリした。せっかくのアプローチが無視されて悲しかった。よく分からないが傷つけたようで、だから無銘は
慌てた。
「しなかったらまた我を苛むだろうが!! そもうら若き女子が肌を露にするのは嬉しいが! 嬉しいが、日本国に生きる
ものならもっと慎むべきなのだ!!」
「…………それはまた……複雑……ですね……。えっちな……癖に……」
 唇に人差し指を当てつつ鐶。淡くけぶった靄よりもボヤーとしている。無銘、馬鹿にされた気がしてヤケになる。
「っさい!! この際ブッちゃけるとだな!! 龕灯!! あれ、女湯とかに密かに忍ばせたらどーなるんだろうっていう
好奇心は確かにある!! 桃源郷見れるんじゃないか桃源郷見れるんじゃないかっていつもドキドキしてる!!」
「確かにアレは……映像記録……と再生……できますが……。やったの……ですか?」
「しとらん!!! 人としてダメであろうそれ! かなり駄目だ!!」
「…………夢を壊すようですが……女湯の……お客さん比率…………40代以上がほとんど…………です」
 電撃に打たれたように硬直する無銘。「わ、わかいおねーさんはいないのか」、目も唇もまっしろにして切れ切れに喘いだ。
よほどショックだったらしい。しかし鐶は容赦なく現実を突きつける。
「10代……20代の…………ギャルたちが……キャッキャウフフしてる……訳……ない……です………………。そりゃ、
私や……小札さんや…………後頭部に…………リーダーと無銘くんに……向こう半日は……絶対めざめないよう……
念入りにリンチされアブクを吹く……貴信さんを貼り付けてる……香美さんは…………キャッキャウフフして…………お胸
を……後ろから持ったり……触ったり……してますけど……そーいうのは…………住所不定の……訳ありの……女のコ
じゃなきゃしない……です」
 普通の若い女性は家で入浴する、集団でくる道理などない。だから覗いても無駄……宣告が進むたび無銘は目に見えて
消沈していく。はじめ白目を剥いていたのが、うつむき、やがて頭を抱えて座り込んだ。
 鐶はそんな彼に優しい眼差しを送り、そっと頭を撫で
「あと……さらりと言ってますが……女湯”とか”って……なんですか……?」
 死体蹴りを敢行。無銘の肩が大きく跳ねた。余罪を追及するとても厳しい尋問だった。
「他にもまだどこか覗きたいの……ですか……? どき……どき……。場所によっては…………すごく………………ヤバ
イ……です……。無銘くん、パピヨンさんぶっちぎって……変態さん……です……。どき……どき…………」
 うっすら頬を染めてソワソワする鐶。顔をあげた無銘は一瞬キョトリとした。
「…………。意外とこーいう話題に免疫あるのな貴様……」
 瞳のせいで儚げな鐶。日陰が似合いそうな雰囲気は言い換えれば清楚清純。瞥見の限りではエロスなど拒むか恥らう
かだろう。しかし意外や意外。喰い付いているではないか。
「私……一時期……レティクルに居ましたが…………近場にですね……グレイズィングさんが……」
「もうええわ。その一言で総て分かった」
 グレイズィングは無銘をチワワの体にした忌むべき仇のひとりだ。総角曰く、性欲の権化・変態女医。
「あ、あやつめ!! 穢れを知らぬ少女に悪影響あたえおって! あたえおって!!」
 少年はどうコメントしていいか分からない。とりあえず糾弾してみるが語気は思ったより飛ばない。勢いナシだ。
「……あと……お姉ちゃんも……お風呂場で……裸の私を……裸で……押し倒したり…………」
「も、もうええわ!」
 想像しかけた無銘はぶるぶると首を振って打ち消した。煩悩退散煩悩退散。仕掛けた方がどぎまぎしている。
「……もし…………口が……ハヤブサほど……尖らなければ……貞操……やばかった……です」
「食い破った!? 義姉の顔面食い破った!?」
 鐶は耳まで赤くして無言で頷いた。恥らうべきところなのかソレ? 困惑の少年におずおずと少女は言う。
「とにかく……興味がある……お年頃……です。無銘くんはどう……ですか」
 ここで「皆無だ!!」と切って捨てればカッコいいが、やったところでまた先ほどの二の舞、壁際に追い詰められるのは目
に見えている。白状する、素直に。
「ドキドキするのは否めんが……」
 ふと視線を移す。4つの瞳が捉えたのは女性のマネキン。下着姿だ。ただそれだけの光景に揃って薄く頬を染めるふたり。
「やばい……ですね」
「やばいな。これはやばい。やばすぎだ」
「ムチャクチャやばい……です」
「やばすぎて却ってやばくないんじゃないかとさえ思える」
「そこを狙ってガッとやばさをもたらすやばさ……です」
「油断したところを狙うのか。やばいな。虎視眈々ぶりがやばい」
「やばい……です」
 異口同音にやばいを連呼する。巡回していた店員さんは「可愛いなあこのコたち」とほっこりした。
「あ……! 覗き……。…………いってやろ……いってやろ……小札さんに……いってやろ…………」
「時間差攻撃やめろ!! 覗きなぞしとらん! そう言っているだろう!! あと母上にいうのやめろ!!」
「そう……ですね。無銘くんは…………覗きとか……しません……」
「分かってくれたか!!」
「貴信さんと……河原で……たまたま落ちてた……いかがわしい本を……ドキドキしながら……知らんぷりしながら……
……こいつさえ居なくなれば大っぴらに見れるのにとばかり……お互い不毛な牽制しつつ……横目でチラチラ…………
見るのが……精一杯……です」
「見てたのか!?」
「そして2人が消えたあと堂々と拾い上げ去り行く金髪の美丈夫。胸には2枚の認識票……」
「師父!!? 師父であろこやつ絶対!!  お戯れも大概にです師父!!」
「向かった先はゴミ捨て場……本を……捨てます。ぽんと捨てて……去っていき……」
「なんだ良かった。えっちな本ネコババする師父はいなかった」
「迷わずコンビニに直行……同じ本を……買います……」
「確かに載ってた人、母上にどっか似てたけど! 似てたけれども!!」
「……アジトの誰もいない部屋に戻ります。本を広げ……ます。肉体に劇的な変化……訪れます」
「もういい! もう師父はそっとしてやれ!! 男子なら誰でも起こし得る出来事なのだ!!」
「なんと……虚ろな瞳の少女に変身……です」
「なんだ貴様だったのか……って何で化けた!?! え、なに、何が目的でそーいうコトしたのだ!?」
「つまり……私に……可愛いカッコ……して欲しい……ですか?」
「まさかの閑話休題!! 何がどうつまり!? 謎めっちゃまる残りどーして師父に変身だ!?!」
「女のコは…………誰でも……変身……します……よ?」
「それっぽく綺麗にまとめるなあ!!」

 とにかく服を買うコトに。


「べ!! 別に貴様の姿なんぞどうなろうが知らんし!! コレすなわち憐憫なのだ!! お前裸足だし!」
「はぁ」
「たまには真っ当な服を着させてやらねば哀れで仕方ない。お前裸足だし!」
「はぁ」
「……え、えと。お前裸足だし! お前裸足だし!」
 暖簾に腕押し、こんにゃくのような鐶に業を煮やし地団太踏みつつ指差し連発。
「じゃあ……まず……ブーツ履きます」
「鐶の姿が消えた!? いったいどこへ……!!」
「えー……。足で……判別してるん……ですか……。えー。えー。えー……です」
 おたおたと探す無銘をただじっとりしたノーハイライトの半眼で見る。あのコゆるキャラだ可愛いとは買い物にきた女子大生
たちの弁。

 で、無銘。

 清楚なワンピースに、リボン付の麦わら帽子という森ガールな鐶に見とれたり。
 浴衣でうちわ持った少女の白いうなじにドキドキしたり。
 からかい半分で、髪をおろしウサギの耳よりピンと立った黄色いリボンをつけ、アイドルの着るようなフリフリした衣装を
着せたら、瞳のせいで全体的にだるーんとしていて、つい爆笑したり。(マイク投げつけられても止まらなかった。涙目でじっ
とり睨まれても床に膝つき腹を抱えて笑っていた)

 ありがとうございましたを背中に浴びながら店を出るふたり。無銘の両手には大きめの紙バッグ。当たり前のように持って
いる。ポシェットあるのに……虚ろな目に満ちるは余りある好意。
「ありがとう……です。あと、全部……お買い上げ……です」
「くっ! すまぬフリル……!! 我が遊び半分で着せたばかりに……!! 紫色の瘴気を噴くハメに……!!」
 好意が一気にストップ安だ。
「似合います…………。特異体質で……ぐすっ。話題のアイドルに化ければ……ぐすすん……かなり、ひくっ、似合うです……」
「くそう。鐶も傷つきフリルも尊厳も奪われた。何と言う忌まわしき出逢い。作ったのは我、罪の重さをまじに感じる」
 2人ともに哀切。特に右の鐶はすっかり湿気っている。鼻や瞳が汁気いっぱいだ。
「…………ぐす。しみじみ語られると……余計傷つき……ます。……いいです。無銘くんがそーなら……私にも考えが……」
「なんだ? 宴会の余興で着るのか?」
「それは……貴信さんに……させ、ます」
「させるのか……」
 想像した無銘の顔が古色蒼然とする。笑えない、おぞましい、モザイク必須の物体が、ステージ上で飛んだり跳ねたり歌っ
たりだ。
「…………というか、我たちは、栴檀の片割れを少し粗末に扱いすぎではないか?」
「言われてみれば、そう……ですね」
「奴とて一生懸命生きているのだ。根はいい奴なのだ。我がチワワだったころ、諜報任務で遠くへ行くとき必ずフィラリアの
薬くれたし。わざわざ手近な獣医さんで貰ってな。なかなか出来るコトではない」
「…………ひょっとして嬉しかったですか?」
「別に。我はホムンクルスだし。フツーの蚊に刺されて病気なったりせんし」
 誰かが捨てたのだろう。床に転がっていた丸いレシートを蹴る無銘。「ただ、悪でない以上ちゃんと向き合うのが忍びだ」
とだけ言う。些細だが心優しい配慮を思い出し、急に罪悪感に見舞われたらしい。鐶も同じだった。
「そう……ですね……。今度香美さんが……お風呂入るとき……貴信さんへのリンチ……止めます……」
「そうだな!! どうせ女風呂におねーさん居ないしそれ位ならばいいだろう!」
 ただし母上(小札)の裸見たら殴る!! 右拳を左手キャッチャーにパシリ打ち込む無銘。
 気勢は俄かに上がったが、鐶としては少々面白くない。
(…………私の裸は……どうでも……いいと?)
 けして貴信が嫌いという訳ではない。確かに見られて恥ずかしくはあるが、香美と体を共有している以上、画像情報が
彼に行くのは「そういうもの」と割り切れる。しかし男である。無銘は、他の男に、鐶の裸を見られて平気だと言うのだ。
(小札さんには……必死……なのに)
 なので鐶は頑張って、なるたけ眉毛をいからせて
「反省して……いませんね。謝るなら今、ですよ。私……いま……激おこ……ですよ」
 拳をのっそりと掲げてみせた。無銘は軽捷なものでターっと正面に回り込んで得意満面、少女をビシィっと指差した。腕を
通る紙バッグの輪がいくつかシャカシャカ跳ねた。
「ククっ! 何か知らんがやってみるがいい! 人間形態になったいま貴様なんぞ怖くないからなバーカバーカ!!」
「む……。火に油注ぐ……の……ですか。謝らないと……こっちにも……考え……あります」
「なんだぁ~~? 力押しか鐶! でも言って勝てず暴力に頼るのは負けだからな! ま・け!!」
 暴力反対暴力反対。いよいよ調子乗って囃し立てる無銘はまったく小学校低学年。本当は10歳で、そろそろ高学年なの
に(しかも学籍だけ見れば銀成学園に通う高校生)、コレである。誰が負けか分かったものではない。
 鐶はしばらく冷ややかに少年を見ていたが、やがて口を開く。
「1人で……歩きますよ」
「えっ」
 ぼそり呟かれた言葉は、ひどく鋭く、だから無銘は目をまろくした。人混みで、クッション越しに心臓を銃撃されたような、
唐突で意外すぎる致命的冷酷が脳髄を駆け巡った。
「無銘くんが……どうしてもというから……道案内させてあげているのです……。それをもう……なしに……します。契約
解除……です。せいぜい職にあぶれるがいい……です」
「ごめんなさい」
 鐶を1人にしたらドコへいくか分からない。無銘は頭を下げた。
(というか何で微妙に上から目線なのだ。方向音痴の癖に……)

 もちろん自覚はない。鐶としては「1人で大丈夫なのにどうしてみな過保護なのだろう」といつも首をひねっている。
 それでも無銘が一緒に歩いてくれるのは嬉しいから、目下黙認している。本人目線では「してやっている」。
 なら別に断る必要はない。ただ、無銘が、同行に対し妙に必死だから、ついからかいたくなった。

 わざとらしくツンとそっぽを向く。(謝る無銘にちょっと揺らいで、一瞬申し訳ないカオもした)
「あぶれるがいい……です。派遣村で土粥でも喰ってろ……です」
「この言い草!!」
 頭を抱える無銘。どう対処していいか分からないようだ。認め気が済み、ぎこちなくだが矛引く鐶。
「……フンだ……です。でも土粥はかわいそうなので特別にステーキに……してやる……です」
「ステーキ!! じゃあ忍者飯はあるのか!?」
「ご一緒に……ポテトも……いかがですか……?」
「ハイ!」
「あと……ビーフージャーキー食べます……?」
「おうとも!!」
 よく分からないうちに険悪になってよく分からないうちに和解した。「姉弟? 仲いいわね」。主婦がひとり笑いながら通り
すぎた。



 お次はミリタリーショップだ。『鳥の変形の参考に』と、いろいろなサバゲグッズやモデルガンを眺め回す鐶。無銘としても
忍者活動に使えるものはないか目を皿だ。忍びとはアリモノを使う人種。時代に適合すべきなのだ。いつまでも水蜘蛛だの
五色米だのに拘るのはナンセンスだというのが目下の持論。かさばらないならレーション大いに結構だ。そも秋水に負けた
苦い記憶もある。ここいらでパワーアップ、忍び六具あたり現代チックにナイズドするのも悪くない……ワイヤーフックや医
療パックなどに目移りする。

 で、見つけたのが──…

「ダミーバルーン……ですか?」
「使え! 鐶お前が使え!!」
 無銘はハッハと目を輝かせている。変わり身の術でも想像して興奮しているのだろう。そういうところはまだ子供で、可愛い
部分なのだが、
「なぜ……無銘くんが……使わないの……ですか?」
 そこは謎だった。でもあっけなく氷解した。「変わり身といえば服着た丸太! で、手裏剣が刺さる!」。王道への拘り故だ。

 ダミーバルーンは全項130cmほど。ほぼ3頭身で、四肢は亀のように短い。素材名の表記もあったがやたら長く鐶の記憶
に残らなかった。ただNASAでも使われている最新鋭のもので、防弾防刃、これまた最新鋭のレーザー兵器でなければ破
れないという。

「概要を読んだがどうやらこやつ、水素やヘリウムも注入可能!」
 空中戦にぴったりだろう。会心の笑みで頷く無銘だが、鐶の方は気が乗らない。並みの攻撃は回避できるし、受けても例の
年齢操作と換羽の相乗、瀕死時における自動回復がある。
「……クロムクレイドルトゥグレイブを使えば……かさばりませんが……」
 ノーともイエスとも取れる曖昧な表現でお茶を濁す。無銘は気をよくして二の句を継ぎ始める。「生きてた頃のお父さんが時々
こうだった」、的外れな嗜好の押し付けに論理を重ねいかにも自分が正しいと見せかける、男性特有の、鬱陶しいアレに、
 なおも続く正当化。真黒な半眼をやや垂らす鐶の頬にわずかだが血管が浮かぶ。
(ああ……。うぜえ……です)
 なかなか強烈でスゴいコトを考えたのは、父が、むかしこの論法で、プレゼントを安く買い叩いたせい。何歳の誕生日だった
か、鐶は超合金製のコンバトラーVをねだった。しかし父ときたら、廉価版の、プラスチック製の、合体も分離もできない、
ビッグブラストディバイダーはおろか超電磁ヨーヨーすらついておらぬチャチなコンバトラーVを口八丁かつ手前味噌な論法で
『いかにもこちらがいいよう』言い含め、買った。勿論この場合の「いい」はつまるところ彼の財布の中身に直結していた。当時
かれはスナックの悪い女に入れあげており、資金は僅かでも必要だった。切り詰められるものは少しでも切り詰めたかった。
超合金に比べ1万円は安い廉価版は救世主だった。
(2ヵ月後。スナックの攻略対象は痴情の縺れとかで情夫に刺し殺された。鐶の父は一時期容疑者として強く取り調べた)。
 とにかく幼心にドロリとしたものが感じられる理不尽な説得だった。鐶はショックでかなり泣いた。
 リバース(青空)は、日頃ヒイキされている義妹が珍しく冷遇されたのを『ちょっと嬉しくてざまあとか思う反面、小さいながら
に一生懸命、家族の手伝いをしている罪なき子がそんな目に遭うのは不憫だし可哀想だし、何より彼女まで自分と同じ思
いさせる必要ないんじゃないか。でも報われるのは不愉快』という、実に愛憎入り混じる複雑な笑顔で見ていた。
 なお、次のクリスマスの朝、鐶の枕元にあったのは超合金製コンバトラーV。誰がサンタか今もって不明である。

 長いがそういう経歴がある。「いかにも自分のみ正しく見せかける」セールストークアレルギーを有している。
 であるから、無銘が強引に推奨するダミーバルーン購入には到底気乗りしない。買い物ひとつとっても、男女の性差、好み
の違いは致命的なまでに埋めがたい。論理に頼るものほど、そういう、根本に広がる生物学を無視する。自分のため”だけ”
弁を振るうきらいがある。
(適当なところ……で、断り……ましょう。そう……しましょう)
「見ろ」、無銘はPOPを指差した。人と、無数の点と、赤の目立つPOPだった。


『尖った金属片を入れれば指向性散弾になります。(有効範囲 …… 爆破角度60度 水平距離30~50m 高さ2m)』


「買い……です」
「だろッ!! だろ!! 指向性散弾なのだ!! 買うしかない!!」
「ないのです……。(断言)
 見た目小学生な彼らが食いつくべき要素ではないが……。無銘がはしゃぎ鐶も頷く。
 が。
「あ!!」
「どうした鐶!」
「コレ……20万円……です」
 値段を見て驚愕する。無銘も同じだった。
「なんだと!! 20万円といったら──…」
「私と無銘くんのお年玉20年分…………!!」
「どうしよう高い!!」
「高いです……!!」
 ふたりは心底困ったように顔を見合わせ、ついでポケットをペチペチ叩き始めた。持ち合わせが無いか調べたが、出てくる
のは当然小銭ばかりなり。しめて金158円、牛丼の一杯も買えぬ。
「鐶貴様、そのポシェットにこう……ないのか!! お金!!」
 もちろん彼らはホムンクルスで、ちょっとその気になれば簡単に強奪できる。店員も警察も難なく振り切れる。のだが、真剣
に購入を検討する辺り良くも悪くも子供である。
 鐶はポンと手を打った。
「ポシェット……ですか。そういえば……レアモノ……入ってます」
「ほう!!」
 無銘の瞳が輝いた。骨董品が好きなので、掘り出し物には反応よしだ。
「お姉ちゃんが……ウィルさんから貰った奴で……私の好きなゲームの……特別レアバージョン、です。ゲーム買った人の
うち……2000人にしか当たらない……シリーズ2作目の……アドバンス版……です……」
「よく分からんが高そう!!」
「高そう……です!」
 さっそくケータイを開き相場検索。画面を覗くふたりの顔がみるみると輝いた。
「すごいぞ高値で売れる!! これならダミーバルーン買えるかもだ!!」
「お姉ちゃんが……プレゼントしてくれた奴……ですが……別にゲーム自体は……PS版がありますし…………だいたい
戦闘シーン飛ばせない旧作など……2度としたくないので……いいです、…………売りましょう」
 恐ろしく冷淡なことを言いながら(監視カメラ越しに読み取ったリバースはくず折れて泣いた)、ケータイをすばやく操作する
鐶。「イケます」と胸を張った。
「そうかいけるかコレで買えるか!」
「ええ…………。まずヤフオクで……出品者になるための……いろいろな登録をします……。3週間もあれば……完了……
です。出品から……落札までは……2週間……ですね…………。さらにそこから落札者さんからが振り込むまで……」
「3日後! 決戦は3日後!! そんな待てぬわ!!」
 くそうどうにかならぬのか。呻きながら財布を開く。小札から貰ったそれに入っているお金が残りいくらかなどはとっくに
把握している無銘だ。ダミーバルーン買えるほどはない。わかっていながらなお未練がましく財布のあちこちを見ていた
無銘。ふと何やら固い感触を感じ手を止める。……財布の生地の裏に何か埋め込まれている!! 手刀で薄く小さな
切り口を作る。滑り落ちたのはやや厚い長方形。プラスチック製で、銀の立体的な数字が刻まれている。
「クレジットカード……ですね」
 気のない返事を漏らしつつどうすればいいか悩む無銘の前で、紙片が一枚、一拍遅れでひらり舞って落ちていく。
 すわ! 掴み広げた無銘に映るのは──…


『フ。限度額は無制限。なにか高いもの欲しがったら買ってやれ。副長ゆえの役得……という奴だ』


「師父最高ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「やったバンザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!! です!!」

 ふたりは満面の笑みで手に手を取り合いピョンピョン跳ねた。赤い三つ編みが元気いっぱいに上下した。


「ベアリング!! ベアリング入れられるぞなもし!!」
「ゾナモシなのだあーーー!!!




 実にアフターサービスのいい店だった。その場で水素と、クジャクに変形した時でてくるベアリング(もちろん錬金術性)と、
いろんな戦場で拾った大きめのガラス片をぱんぱんに詰め込んだ。
 店員はサムズアップした
「お客さん通だねえ! でも君たち未成年者は無能力者だから、クレカでの買い物成立しないよ!」
「何をいうか!! 違法スレスレの物品売る奴が何をいうか!!」
「…………たぶん……アウト……です……。指向性散弾……ぶっぱ……できる……ゴム風船…………。売っていいもんじゃ
…………ありません」
「そこ分かってて買うなんてお客さん通だねえ!」
 店員は、筋肉がボンレスハムかというぐらいパンパンに詰まった横に広い中年男性だった。世界が銀に反射する黒いサ
ングラスをつけ、黄土色の頬髭ボーボーしている姿ときたら、アメリカの赤茶けた荒野を貫く幹線道路をハーレーで抜けてい
くのがこの生物の宿命ではないかというぐらいアウトローだった。ブラックの革ジャン姿だった。
「とにかくそのトシで指向性散弾を必要としているんだ。君たちには何か人にいえない事情があるんだろう。分かった。売る
よ。仮に保護者さんが契約解除を申し立ててもそのバルーンは君たちにあげよう」
「なんか……いい話に……なってきました……」
「戦場にいけない俺の分までコイツを役立ててくれ!!」
「取引してるの違法物品だけどな。まあそれでも礼はいうわ。ありがとう……なのだ」
「染まるぜ日本? 俺の店からベガス色によ~~」
 ショットガンを構える姿が実に決まっていた。

 鐶は(ベガスってドコでしょうか。西日暮里?)とか思いつつトイレの個室に行く。
 そしてダミーバルーンをキドニーダガーの年齢操作で小さくしポシェットへ。


 ミリタリーショップは30分後、銀成警察に摘発され即日閉店と相成った。
 軍事転用できるヤバイものを数多く取り扱っていたのがアダとなった。


「クク。レティクルの誰が喰らうか楽しみだ……」
「多分……というか絶対……出番ないと……思いますが…………使えたら……使えます」


 きたる戦いで役立つかどうかは、のちの、お話。