SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 第006話 「時間も分からない暗闇の中で」 1-6


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 当事者 3




 冗談じゃない。


『最後に残った戦士』は叫びたい気持ちで走っていた。

 廃工場の敷地はすでに出た。いまは全力疾走仲。視界の横をギュンギュン過ぎるは高い塀。世界と工場、区切る塀。

 来るときはここを8人で通り過ぎた。
 まず頬傷の戦士がやられた。次に2名。次に茶髪。向かっていった3人も恐らくは、もう。
(7人が瞬く間にやられた。俺が最後の1人)

「お前は逃げろ。やられた連中の核鉄を回収し、戦団に連絡しろ」

 走るたび、ポケットの中で3つの核鉄が小うるさく打ち合う。戦闘初期に死んだ奴らの所有物。よく戦闘のドサクサにまぎ
れ回収できたものだと思う。

「ハシビロコウの足を凍らせた時に」

 落ちている核鉄にも氷を伸ばし、引きよせた。もしそれを見咎められていたらタダでは済まなかっただろう。
 世界に100しかない核鉄は、戦士にとってもホムンクルスにとっても重要な物。
 もし相手の戦士殺戮が目的ではなく手段──核鉄を奪うための──に過ぎなかったら、回収を見逃す道理はない。

 角を曲がる。素早く滑りこみ、背を預け、首を伸ばし、元来た道を伺う。ハシビロコウが追ってくる気配はない。空も然り。
(だが、あの分解能力にかかれば障害物は障害物足り得ない。捕捉されれば最短距離で突っ込まれる……。急ごう)
 急ぎの時ほど携帯電話は通じない。
 火急の時だ。とっくに戦団へ連絡を入れている。駆けながら掛けている。だが圏外。工場の中でも、前でも。
 角を過ぎたあたりでやっとアンテナが1本立ったが、そこで悠長に突っ立って長電話という訳にもいかない。

 どこかで何かが爆発する音がした。

 例えれば中学生が遊びで使う爆竹のような。ぱーんと弾けるだけの、聞くからに弱々しい爆発音。

(?)

 違和感が過ったが、追及する猶予はない。

 駆ける。
 駆ける。
 駆ける。

 ハシビロコウのいる工場から、少しでも遠くへ向かって。


 自分はよく言われる。20の半ばをすぎたにしては「冷えている」。
 短く切った髪の下でいつもうっすら閉じている目はドライでクールな人間の証だとさえ言われた。
 だから「闇を凍らせ操れる」、軍靴の武装錬金を発動できるのだ。
 仲間を見捨てて逃げるいまの状況を許せるのだ。
 彼らへの哀惜と復仇の念は胸の中で渦巻いているが、全滅だけは避けなければならない。
(全滅を避け、敵の情報を伝え、新たな犠牲者が出ぬよう対策を練り、ひとつでも多くの核鉄を戦団に戻す)
 それが敗北への対処なのだ。直近の犠牲者3人はそのために戦った。『足止め』をした。

 また、爆発音が響いた。しかしそれは些か遠かった。工場を挟んだ更に反対方向からしているようだった。

 ともすればあのハシビロコウは自分を見失っているのかもしれない。
 息をひそめ、足音を殺して走る。
 先ほど同様「闇が降りている」地面を凍らせて滑っても良かったが、その痕跡を辿られては元も子もない。機動力は鳥の
方が上なのだ。
 正しい方向性を与えてしまうと、勝ち目はない。
 一時の速さと優位に目が眩むあまり重要な証拠を渡してはならない。

 ここは昭和の残滓だった。高度経済成長期を支えた工場が、時代に取り残された廃工場が密集し、フクザツな地形を
形作っていた。
 幸い地理については作戦前しっかり叩きこんでいる。
 袋小路に迷い込み、敵に追いつかれる心配は絶対にない。
 繁華街へ最短距離で駆ける。携帯電話が通じずとも繁華街なら連絡手段は幾らでもある。
 駆けるうち行く手を阻む高い塀が見えた。袋小路だ。事務棟だろう、高いビルが塀に密着している。
 常人ならまず絶望の地理条件だが、

 予測の範疇だ。

 迷い込んだのではない。着いたのだ。

 塀の少し前を蹴る。果たしてつま先にコツリとした感触が当たった。
 ロッククライマーは山肌にあるわずかな隙間に指を引っ掛け登攀(とうはん)するというが、自分もそれだった。闇を蹴れ
ばその形に「凍る」。つま先の形にヘコんだ氷はこの上ない足がかりだ。それをバウンドさせる。浮遊。6mの塀が既に眼下だ。
(造作もないコトだ。震脚の衝撃で長距離を凍らせる事に比べれば)
 闇を凍らせ足場を作り──まるで階梯を登るように、時々は跳ね──事務棟屋上へ向って跳んでいく。障害物が意味を
なさないのは自分も同じだった。だからこそ、仲間は逃げ役を任せたのだろう。空間を凍らせる場合、痕跡は地面ほど露骨
でもない。辿られはしない。

 また爆発音が響いた。それはやや自分に近づいているようだったが、1kmほど離れているようだった。

 疑問が浮かぶ。相手の能力は「分解」。無論その対象によっては爆発も起こるだろうが、

(3度連続で……? 妙だな)

 思案に暮れつつ飛び移ったビルの屋上から見えたのは、ネオン犇(ひしめ)く街通り。
 時計を見る。駆けた甲斐があった。
 予定より5分早く繁華街に到達している。目的は半ば達せられたといっていい。





 不自由な両手と両足の代わりにと、母は様々な物を買ってくれた。
 何より嬉しいのはシリーズ物のぬいぐるみがまるっと1揃えでやってきた時だ。
 1揃えというのはつまり欠損のない物であり、家族全員がキチンと揃っているような物だ。
 その完璧ぶり、寂しさのなさは眺めていて本当に感動的だった。
 逆に1つでも欠けているシリーズ物を見ると途轍もなく寂しい。
 もし手違いで残りの1つがお店に残っていたとしたら。そう考えると奇妙な罪悪感に見舞われた。
「みんなで楽しくやっていたのに、自分のせいで他のみんなが取り上げられ、1人ぼっちでショーケースにいるとしたら」
 それはとても申し訳のないコトだった。考えるだけでベッドの中で泣くほど、寂しかった。
 それを母に伝えるとどんなに忙しくても残り1つを買ってきてれる。
 良かった。ショーケースの中で1人ぼっちじゃない。みんながいる。安堵する思いだった。

 屋敷の使用人たちも家庭教師も、自分にとっては大事な家族だった。
 ショーケースに取り残され不自由な思いをしている自分に救いをくれる、大事な大事な人たちだった。

 物事を問わず、『奪う』という行為は良くない。それが自分の信条だった。
 ちゃんと揃っている物から一部分だけを奪い、不完全な状態で放置するのは良くない。
 隣に、或いは近くにあるべき物がないのは寂しく、辛い事だと思うのだ。
 武装錬金は人の精神、闘争本能から発現する。
『強欲』を満たすのにピッタリな特性は、きっと幼少時代の思いが育んだのだろう。






 コンビニを見つけ、公衆電話を見つけ、いよいよラストスパートに入ろうとした戦士に。




 違和感再び。




 7人の仲間を殺したハシビロコウに似た、嫌な感じが全身を貫いた。

 周囲を見回す。人通りは多い。コンビニに入る者出てくる者、前の歩道を行き交う者。
 みな、殺意はない。携帯電話をいじったり横の連れあいと軽口を叩きあったり、或いは無言で足早に歩いたり。
 嫌な感じの出所は彼らではなかった。
 にも関わらず、恐るべき感触はいまだ全身を包んでいる。
 理由は不明。だからこその戦闘準備。
 ダブル武装錬金。
 軍靴にはやや不向きだが、やらないよりはマシだった。
 幸い、ポケットには核鉄がある。
 それも、3つだ。

 3つも、ある。



【物事を問わず、『奪う』という行為は良くない。それが自分の信条だった】

【ちゃんと揃っている物から一部分だけを奪い、不完全な状態で放置するのは良くない】

【隣に、或いは近くにあるべき物がないのは寂しく、辛い事だと思うのだ】



 戦士は、見た。



 核鉄を入れているポケットの前に、「目」が浮かんでいるのを。
 彼は慄然とした。公衆電話に駆け寄るという使命を、一瞬だけだが忘却した。
 ひどく大きな目だった。掌大の核鉄とほぼ同じぐらいだ。
 しかも黒眼の両側に稲妻のような瑕が刻み込まれているのは、つくづく異様で──…

 3つも、ある。

 更によく見るとそれは、何かの渦の中から自分を凝視しているようだった。
 なぜなら。
 確かに見た。
 3つの眼が、息を呑み後ずさった自分を、

 『目で追った』のを。




【世界に100個しかない核鉄も、例外ではない】




 戦士は踵を返し、全速力で駆けだした。
 決して平静ではない。5枚ばかりの100円玉を抜き取った財布が地面に落ち小銭と紙幣をばら撒いた。
 落とした携帯電話さえ踏み砕き、彼は公衆電話目がけてありったけの速度で駆けた。

(あの目はなんだ? 分解とは違う。何の能力? 楯山千歳と同じレーダー系列? それとも……?)

 怜悧ゆえの錯綜を意思の力で振り払い、走る。
 まずは戦団に連絡だ、連絡をしなくてはならない。硬貨を電話に叩きこみ乱暴な手つきで戦団へコールする。
 ダブル武装錬金を使うという選択肢は、とっくに忘れ去っていた。

「早く出ろ! こちら糸罔(いとあみ)部隊! ほぼ全滅、生き残りは俺1人! 増援を! 核鉄回収を!!」




【幼少期に揃えたシリーズもののぬいぐるみのように、揃えなくてはならない】





 視界が急速に戦士へ近づいていく。映画とかでよく見る光景だ。何か、ひた走る怪物が獲物に迫る時の急速なズーム
アップ。相手が画面を見て怯え叫んでいれば完璧だが、あいにく電話口で喚くばかりだ。期待に沿わない。
 とにかく、急速なズームアップは止まらない。
 ただしいま私が見ている光景……カメラの作った物じゃない。




 目を宿した奇妙な渦。それが通話中の、半狂乱の戦士めがけ轟然と疾駆する。

「敵は2人ッ! うち1人は『火星』! ハシビロコウ! 応答しろ、ディプレスは生きている! クソッタレ! 早く出ろ!」

 悪態さえ付き、公衆電話を叩く彼のポケットの前で、渦は止まった。

「俺は見られている! 長くは持たんぞ! ディプレスは生きている! 頼むから出ろ、出てくれ! 伝えさせてくれ!」

 視線が合う。
 一瞬恐怖に硬直した彼の顔がみるみると紅潮した。次に罵声──まったく聞くに堪えない、非・理性的な──が飛び出し、
軍靴が渦めがけ振り上げられた。

 彼にとって不幸だったのは、ここが繁華街だというコトだ。コンビニの蛍光灯やネオン、街灯の光が交錯するこの場所に
凍らせるべき闇は一片たりとなかった。もし闇夜の中であれば、勝敗はともかく、戦う余地ぐらい生まれただろう。

 渦の中で目が消え、代わりに。

 赤い円筒が3つ、跳び出した。
 渦1つにつき1つの円筒が。
 500mlのコーラ缶に似たそれは、
 戦士の顔面に容赦なく直撃し、
 2つの眼球を潰し
 鼻骨を陥没させ
 喰い込んで
 大爆発し
 殺した。




 一拍遅れ、乾いた小さな破裂音が繁華街に響いた。



 顔面が弾けた戦士は慣性の赴くまま足を高く、高く高く高く頭上まで振り抜きどうと倒れ伏した。
 柔道の受け身のようだった。騒ぎを聞きつけコンビニから出てきた店員は後にそう証言した。


「連絡受理しました。糸罔(いとあみ)部隊、応答せよ。定時連絡がなかった。何かあったのか?」

「応答せよ」
「応答せよ」
「応答せよ」

 糸で垂れる蜘蛛の如くぶら下がる緑の受話器の下で、戦士のポケットが内側から爆ぜた。
 3つの核鉄が飛び、3つの渦に吸い込まれ、そして消えた。
 入れ替わるように再び目と渦が現れた。今度は死体の足元に。剥きだしの素足の上で目が核鉄を捉えた。武装解除され
た軍靴のなれの果てを、捉えた。そして渦が怪しくさざめき、再び核鉄を吸いこんだ。

「いまの音は何だ?」
「応答せよ」
「応答せよ」
「応答せよ」

 戦士の死骸は……永久に応えるコトはなかった。
 代わりに蜘蛛の子のように繁華街のあちこちからやってきた群衆に取り囲まれ、悲鳴と好奇と写メール撮影の餌食となった。






「楽しーんだよなあww信念って奴を理w不w尽wにw砕いてやるのはwwwww」

「一生懸命積み重ねても、横合いからカンタンに崩されますよって知らせてやんのは!」

「ブヒヒwww 見ろよwww さっきの戦士のグロ画像、もうネットに上げられてやがるwwwwww」

 自分を守ってくれる側の人間とも知らず、好奇心という名の侮辱を死体に振る舞っている。ディプレスは大爆笑だ。

「とにかくぜぇーいーん、解体(バラし)かんりょー! 理由? なにやられようと立ち上がって頑張るから。そーいう奴らいると
オイラどものような挫折人間が相対的にクwズwっwちwまwうwwww 世間はいいます立ち直れる人間は確かにいる、それが
できないのは勇気がなくて臆病で、とかくとにかくお前が悪い! と!!!」

「ハッ! 訳のわからんアホのせーで真っ当な努力フイにされた悲しみも失意も燃え尽きも何ら一切補償しねえのに、世の
中って奴ぁ落伍者ばかり悪とする、本当、憂鬱だっぜ!」



 暗い空間で相方の独白を聞きながら、核鉄を眺める。今日はいい日だった。100ある核鉄のうち8つが手に入った。
 触れる事はできないけれど、属する組織に核鉄が貯まっていく。それだけで最高だ。
 離れ離れだった100の核鉄が集まるのを想像すると暖かい気分になれた。
 欠如は、埋められるべきだ。

「しかし『デッド』、相変わらずお前の能力はマジ便利wwwwww 逃げる奴なんざ楽勝で追跡できるwww

 ディプレスはそういうが、あまり便利といえる特性ではなかった。逃げた戦士がたまたま条件を満たしていた。それだけだ。
 しかも条件が満たされてようやく、人間がやるような地道なローラー作戦をしなくてはならない。
 正直言って自覚がある。逃げる相手を追跡するにはまったく不向きだ。

 もっともそれは単体ならば……だ。もし仲間の武装錬金がサポートしてくれるなら、『条件』を満たしてくれるなら……。
 或いは追跡向きになるかも知れない。私の『ムーンライトインセクト』は。

 とにかくだ。もし彼が、戦士達が無欲であれば自分の武装錬金が猛威を震うコトはなかっただろう。
 戦団が100ある核鉄を『奪わず』、最初から私の属する組織に納めていれば、あの戦士とて死なずに済んだに違いない。
 よって戦団は悪だ。『奪う側』だ。
 だから。
 あの戦士の顔面を爆破した時は、すこぶる気持ちが良かった。

 奪う側にいる人間は、殺してもいい。




「ん? ん? ほーう。なるほど手違いで奪われたのかwwwww じゃあ思い知らせてやらねえとなあwwwwww」

 自分のいま抱えている問題を相方に話すと、彼は上機嫌で乗った。

 本当にゲスで。
 クズで。
 自虐的で。
 無慈悲で。

 およそ褒められた部分のない相方だが、研究や戦闘がらみだと俄然頼りになる。そこだけは、認めている。

 彼の武装錬金「スピリットレス」(いくじなし)は攻防に秀でた武装錬金だ。
 基本形状は神火飛鴉(しんかひあ)を模した鳥と航空機の中間のようなフォルムで、ちょっとした大型ラジコン飛行機ほど
の大きさだ。
 特性は分解。
 生物や金属、人口建造物はいわずもがな、ホムンクルスや武装錬金も例外ではない。さらにエネルギーを絡めた攻撃や
炎、毒ガスといった類の「実体のない攻撃」でさえ分解できる。
 研究班の調べでは、ディプレスの憂鬱な精神が武装錬金生成時に未知の暗黒物質へと変換され、それがプネウマとか
いう「物体を繋ぐ」物質を破壊しているらしい。

 ウワサによればその能力、かつて人工衛星からの強烈な極太レーザーを真正面から受け切り、難なく分解しきったともいう。

 それが事実かどうかはさておき、研究と戦闘において頼りになるのは事実。
 さっきの戦闘にしても、私は(核鉄目当てで)伏兵として工場の隅っちょに転がっていたが、まったく出番がなかった。ちな
みに武装錬金を発動した状態で共同体殲滅の辺りから「居た」が、誰もまったく気にしてくれへんかったけど……。ぐすん。
 やったコトとといえばラスイチの追跡のみだ。あとは全部ディプレスが片付けた。
 月並みな感想だが、あんな恐ろしい能力を躊躇なく得手勝手に使える性根の腐り加減。相方の私でさえ恐ろしい。
 正直、私事に彼を借り出すのは恐ろしくもあるが……。
 諸事情で「手足」になる仲間が必要だから、仕方ない。

 申し出から2時間とかからず、ディプレスは最初の原因を取り除いた。


「ああ、憂鬱だ。入れ替わりに入ったバイト店員にちゃんと引き継ぎしないからwwwwwwwwwww」

 あとは、「奪われた物を奪い返す」だけだ。

「なぜ……なぜ……娘は先月、やっと立てるようになったばかりだったのに……」」

 ブザマな嗚咽と悲痛な叫びが装甲一枚向こうから響く。ある店でバイトしている彼はしゃくりあげているらしかった。
 確かに、私の顔の傍にある半透明の「フタ」には赤黒い液体がべっとりと付いている。ディプレスの分解作業の成果だろ
う。乳児と、その母親の出し尽くした体液が洒脱なカーペットをすっかり汚している。
 困った。
 迷惑料代わりに売ろうと思っていたのだが、様々な清掃コストが発生してしまった。
 まったく。入室した時から目を付けていたのに。バイトで妻子養っている割には高価そうだったのに。
 ああうるさい。泣くな。
 泣くヒマがあるならカーペットから血糊を抜いて、私に少しでも多くの迷惑料を払えるよう務めるべきだ。
 しょせんバイトだ。商売に対する気構えというものがまるでない。
 こいつが最初にした失敗から分かっていたコトだが、やはり奪う側の人間はどこまでいってもダメだ。
 はぁ。血だけ分解しろってディプレスにいっても、絶対カーペットまでやるやろうしなぁ。奴はそーいうやっちゃ。


 とりあえず私は、ディプレスにある物を出すよう提示した。

 すると30過ぎのバイトは、息を呑んだ。


「あ、あるならどうして俺の家族を……」


 まあ確かにそうだろう。現物は、ある。ただし奪われたものその物ではない。


「ばーかwwww あいつと商売しといてミスったお前がわーるーいwwwwwwwww それに、大量生産品でも分子的にはまっ
たく違うもんなんだよwww あいつはその辺こだわるからなあwwwww」

 下卑た囃しを聞くたび嫌になる。相方をやっているのは足として便利だからだ。相方以上の付き合いは決してしたくない。
例えばグレイズィングとかイオイソゴとかいった幹部連中も相当性根が腐っているが、ディプレスに比べればまだ「理知」
という奴は持っている。彼女らの前歴には同情すべき点もあるし、イソゴちゃんは妹みたいでキュートだ。メ、メールアドレ
スの交換ぐらいならしたってもええよ? 仲良くしたいとかそういうのじゃなくて同じ幹部だから緊急連絡先ぐらいはホラ知っとい
た方がえーやろ。で、たまーにしょーもない話してちょっとずつ絆深めたりとか、ええやん? いまは空席の海王星とか冥王
星も女のコがやったらええねん。嬉しいわあ、そうなったら。幹部連中の男の人はみんな話あわへんもん。ウィル君はイケ
メンやけどめんどくさがりやからあまり仲良くできひんし、ディプ公はアホやし、天王星死んだし、土星はただのバケモンやし。
 盟主様だけやわ。男の人でメールきたら嬉しいの。

……。

……。

……。

 え、ええと。

 それはともかく。
 モノにはそれぞれの人生がある。例えば別々の店からシリーズ物を1本1本取り寄せて全部揃えるコトに意義は見出せ
ない。同じ店に入荷された以上、それらはきっと家族なのだ。家族のうち1つだけが買われ後がずっと棚ざらしというのは
良くない。まったく良くない。同じ店にある物は、全部一緒に買うべきなのだ。

 別の店でたまたま1種類だけ残っていたモノ。

 それを、地面に置く。
 念ずる。
 装甲の向こう側で「開く」音がした。次いで爆音。
 私の武装錬金の特性……繰り返すが、単体ならば、逃げる相手はとても追跡しづらい。
 条件を満たしていても、だ。

 逆に、1か所に留まっている相手ならば容易に捕捉できる。
 諸々の情報から一気に場所を絞り込み、特性の餌食に出来る。
 宝探しは得意だ。装甲の暗い内側にパネルが表示された。

 ……うわ。結構ある。人気やからなー。

 っといけない。首を振り気を引き締めよう。欠如が埋められるか否かの瀬戸際だ。しっかりしなくては。

「ん? 売った奴の風体と情報? おしっ、オイラが聞いてやるwwww」

 いろいろとヒドい音がした。自業自得や。ウチは取り置き頼んだんやで。約束破るとかなあ、ヒドいわ! めっちゃ泣いた
んやで……。

 う、うん。駄目だ。思考はもっと冷静でないと。

「あいつ吐いたぞ。売った奴の住所と名前w もともと会員で、変わった名字だから覚えていたらしいw」

 悲鳴が妙な途切れ方をしたのは気にしないでおこう。多分一家全滅。ああまたカーペット汚れとる。もう売れへんなあ……。

 モニター越しにメモが見えた。見なれた相方の文字はひどく達筆だ。確か書道5段とか。ウィルの奴もいってたけど、あの
性格で字が綺麗というのは腹立たしい。ま、ウィルの場合、『むかしの恋人』が字ぃ上手かったからからな。ディプレスが同じ
特技持ってるのは感情的に許せないんだろう。

 もっとも字が汚いならそれはそれで嫌だ。そもそも、達筆を見せつけられるコト自体が腹立たしい。

「……あんた、初対面の時からウチが字ぃ書けへんの知っとるやろ」
「えw マwジw じゃあ練習しなきゃ! ねえ、ねえっ!」

 煽りは無視。目的に向かってのみ進む事とする。

「名前は……二茹極貴信か」

 別のモニターにここら一帯の地図を映す。次にここを中心にした円を重ねる。円の半径はそのまま射程範囲だ。その中で
赤く点滅する点は「さっき爆破した物」と同じ物を示している。いま一度、地図を見る。二茹極貴信とかいう奴の住所は円の
かなり外だ。とりあえず、そこから一番近い点を爆破する。範囲が広がった。古いマルと新しいマルが雪だるまのように重なっ
た。だが惜しい。二茹極貴信の住所は新しい円からちょっとだけ離れている。爆破はもう1回必要だ。二茹極貴信の住所に
一番近いところを。大丈夫。周囲に人がいないかどうかは確認済みだ。さっきの戦士のように殺したりはしない。ちょっと爆
竹鳴らす程度の爆発だ……。

 円が、二茹極貴信の住所を覆った。




  当事者 1&2

 貴信と香美がいつものようにCDを聞いていると、プレーヤーの上に目が現れた。
 目は渦の中でネコと飼い主を見比べると、そのまま退き……。
 代わりに強烈な吸引力を以て、2人を引きずりこんだ。








「…………貴信さん達がホムンクルスになったのは」
『そう! その後だ!!』









 羸砲ヌヌ行は語る。武藤ソウヤに滔々と。




「彼らが体を共有するに到ったのは、君のご母堂の故郷が『ああなった』頃だ。ピッタリ同時ではないけれどほとんど同じ
頃なんだ。ウィルが改変した時系列において火渡赤馬と毒島華花が出逢ったのもまた……この頃。正史がどうかは知ら
ないよ。改変後の、イレギュラーな歴史において出逢ったのはこの頃……例の西山絡みさ」

「西山といえば彼の武装錬金……ギガントマーチだったかな。総角主税が、もう1つの調整体をめぐる戦いの端々でアレを
使えたのは、だいたいこの頃のお陰なんだ。……そ。出逢った。出逢っていた。これもまたウィルの歴史改変による歪みの
1つさ」