SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 第006話 「時間も分からない暗闇の中で」 1-2


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 当事者 1

 二茹極(にじょきょく)貴信は回想する。
 もしあの日雨が降っていなければ、自分はもっと違う運命を辿っていただろう。

……と。

 中学2年のころ母親と死別した二茹極貴信は内に熱さを秘めた気弱な青年へと成長した。父の影響かも知れない。父と
きたら40の半ばを過ぎてなおヒラだった。フィリピンの企業相手に液晶の売り上げをグングン伸ばす部長、とっくに役職2
つ分は上に行った同期、入社して間もないが「使いやすい」先輩を嗅ぎわけるに長けた女子社員。彼らに頤使(いし)され
ても文句一ついえず「はい、はいっ」と甲高い声で応じあくせくと走りまわる。それが貴信の父だった。

 そんな彼にも誇れる物が2つあった。

 1つは名字である。
 二茹極。
 このひどく変わった名字は生来のものではない。妻の物である。「山田じゃ本当冴えないでしょ? あたしの名字あげるっ!」
という(仕事にきりきり舞いする度助けてくれた元後輩からの)プロポーズを機に獲得した。
 もう1つはこの平凡な男らしく「家庭」である。
 妻1人子1人というまったく平凡な家庭あらばこそ、彼はヒラの頤使に耐えられたといえよう。
 そして彼が勤務していたのは液晶メーカーだが、生産の遅延や手直しといった緊急事態で人手が必要にならば真っ先に
現場応援を志願し、不眠不休で──熟練工よりは劣るが、「同じ会社の人が困っている時に止まっていられるか!」、事務
畑の人間にしては恐るべき熱意で──状況打開に臨む程度の気概はあった。

 困難から逃げるな。
 常に男らしくあれ。

 父の教えを貴信は心に深く刻んだ。

 そんな父も二茹極貴信が高校2年になる頃死んだ。膵臓ガンだった。「ははは今年もヒラで終わったのねー。はいはい泣
かない泣かないっ!」。大晦日の夜に笑って肩をバンバン叩いてくれる妻が死んで以来、彼は目に見えて老けこんだ。さす
がに心配する貴信が精密検査を薦めたのが高校1年の夏休み。だが父は「だだだ大丈夫だっ! そんな事より勉強する
んだ! 最初が大事だ! 再来年は受験だろう!」と甲高い声を震わせた。その時の黄ばんだ顔を思い返すたび貴信は
思う。病状を悟っていた、と。
 父は8ヶ月後入院。「例え1年前に来ていても今頃死んでいた」。医者がそう唸るほど手の施しようがなく……半月も経た
ず息を引き取った。

 残された貴信。悩んだ末、一人暮らしを決意した。
 身寄りはほぼいないに等しかったが(父方の祖父母は死去。母方の祖母と曾祖母は九州で元気よく暮らしていた)、授業
料や生活費の心配もなかった。父の遺産。仮に卒業後の大学生活でバイトもせず遊び呆けて2年留年したとしてなお何とか
なるだけの莫大な貯金。それを見るたび──病苦に耐え、社内で低い扱いを受けながらも必死に貯めたであろう父の姿を
描くたび──貴信は父譲りの目(レモン型)に涙を浮かべ、学業専念への思いを強めた。

 とはいえ高校生活。馴染み辛い部分も多々あった。


【父譲りの気弱さは人見知りへ転化する!】


 話しかけれらてもどう踏み込めばいいか分からない。あまりズカズカ踏み込んでいくのは失礼だろうし、思わぬ逆鱗にふ
れ怒られるのは恐ろしい。かといって黙りこくるのは無礼だ。答えたい。だが何をいえばいい? 

(豆知識! 豆知識はどうだ! 結局トモダチ一人もできなかった中学時代の昼休み、足しげく通った図書室で得た豆知識!
あれを披露すれば話のタネになるかも知れないぞ! というか僕はそのために豆知識を得たんだ! だ、だだだがそういえ
ば中学3年の時それやって「ふ、ふぅ~ん」と会話が途切れたのは何度だっけなあ! マズいっ、ヤバい! 豆知識披露云々
で構築できるほど人間関係は甘くないのか! でもこの人の言ってること、アイドル? Cougar? その人のことはよく分か
らないから上手く返せない! それを伝えて「ふぅ~ん」で会話が途切れたら気まずい! どうすれば!)

迷いが募り、気が焦る。

 遺伝のカテゴライズを肉体精神の2つとすれば、それらはどうも片方への配慮ありきで成立しないようだ。いうなれば各個
ばらばらアトランダム、あちらがああだからこうしよう。そういう調整感情がない。精神は精神の理由のみで遺伝し肉体状態
を鑑みない。肉体の方もまた然り。
 女だてらに鎖分銅を嗜みサバゲを趣味とする(夢中になりすぎて崖から落ちて死んだ)母。
 彼女からの遺伝ほど、次の言葉ほど、貴信をますます追い詰めたものはない。


「いい貴信? 考える事はいいけど、それだけじゃ駄目。テンションを上げて行動するのも大事よッッッ!!」


「大声……ですか。それがお母さん譲りの……私でいう……伊予弁、みたいな」
『そうだ!! 僕は人と話す時はテンションを上げる!! 上げなければどうにもならないからなッ!!』
「はぁ……」
 部屋に響く激しい息使いをぼんやりと聞き流す。貴信の大声などとっくに聞きなれた鐶だ。元々活発な性格でもある。さ
ほど気にはならないが──…

(お姉ちゃんのような……性格の人……にとっては……)

 気弱な癖に声だけは大きい。精神と肉体の遺伝乖離。

 そんな彼を面白がる者こそいれ、親密な交際対象に設定する者はいなかった。

「一緒にいると疲れる」

 それが周囲の貴信に対する率直な評価だった。
 つまり彼は変な人で、やり辛い。特に会話が面白い訳でもない。
 顔も異相だ。レモン目に鉤鼻。良く見ると髪型だけは流行のものだがそれで誤魔化せないほど10代にしては老けた顔。
 善良だが心身ともある種強烈。時に的外れな豆知識を披露するだけ。
 そんな男が、である。果たして交友範囲の中核を成せるだろうか?

 貴信も最初の頃は自分なりに自分を変えてみようと努力した。
 ジョークをいい、自分を晒し、進級を期にいわゆる「明るい人」にならんと気を張ってみた。

 だが、気を張れば張るほど声がでかくなり、周囲をますますうるさがらせた。
 その反応が実は繊細な貴信の心を傷つけ、段々段々と「自分を変える」努力が嫌になっていく。
 そうなるともう悪循環。
 気のいい若者たちが何かのイベントに貴信を誘うとする。
 本当は行きたくて仕方ない貴信だが、何をやっても上手くいかない状態。
 彼は暗澹たる気分で未来予想図を描いた。
 自分は「浮いている」。だから行かない。合コンだろうと歓迎会だろうと季節外れのキャンプだろうと焼き肉屋での会合だ
ろうと。人混みから外れた場所でぽつりと佇み、全体的な笑いが巻き起これば声量控え目の追従笑いを密かに交える。
 それ位しかできそうにないし、後で怯える事だって予期していた。

「なんでアイツ居たんだ?」。

 陰口を囁かれるのではないか、と。
 むろん人間というのは言うほど悪辣ではない。異分子とて極度の害悪をもたらさなければ「そういう人」だという認識の下
少なくても迫害じみた接触はしない。それが薄皮一枚の向こうにある「打ち解けてない」感触を孕んでいるにしろ、悪感情や
譴咎(けんきゅう)の証明にはならない。
 冷静な見方をすれば誘いに乗り、若者らしいイベントを楽しみ、少しずつでも心を開いていけば孤独は解消されるもので
あろう。

(でも…………性格は……余程の事をしないと……例えば毎日毎日サブマシンガンで……全身に穴を開けたり……ステー
キのお皿を頭に投げつけたり……しないと……変わりません。…………そして戻すのにすごく苦労して……傷ついて……
明るい人を見るたび……私は……ダメなんだ……ってしゅんとします……。お姉ちゃんの…………あほ)

 一辺倒なやり方、教本通りの矯正で性格が治るのなら苦労はしない。
 誰にも話しかけず、踏みこまぬ方が楽といえば楽なのだ。勇気を振り絞った結果が改善に結びつかぬは絶望……。

 とにかく話しかけてくる者は減る一方。

(が、学業に専念するんだ。泣くな貴信。トモダチが皆無なのは昔からじゃないか……!!)

 でも恋人は欲しいし寂しい事にも変わりはない。

 心持ち薄暗く見える学生食堂の片隅でぽつねんと食事を取りながら窓を見る。

 小雨が降っていた。緑の弾丸型のコノテガシワにぐるりと囲まれた運動場は重苦しく湿気を孕み、ところどころに銀と輝く薄
い水溜りさえできている。バラバラ。豆をこぼしたような音。それが貴信の耳を垂直にブッ叩く。どよめき。雨具を持っていな
いという悲嘆、午後のマラソン中止が確定した歓喜。ささやかな滝がガラスの表面で何万粒もの水滴に粉砕される。目撃。
貴信は煮魚をゆっくりと呑みこんだ。雨が強まっている。やむ気配はない。雨具の持ちあわせも、ない。折り畳み傘なら一本
持っていたがクライメイト(もう名前も忘れた。最近来ていない)に貸したきり。友情の始まりを仄かに期待したのに……。名
称孤食の水っぽくも塩辛いソース付きサワラの切り身が食道内部を滑り落ちる。拡がる水溜りはもう黄土色。
 ガラスの向こうに広がる空は陰鬱なまでに蒼黒い。

 季節は、梅雨だった。




 当事者 2

「貴信さんと会ったのは……どんな時……ですか?」

 なんかさなんかさ。さっきさ。最初はあったかかった訳よ。もさもさしたいい匂いがデンとそこにあってさ、んで周りでみゅー
みゅー変な声あがってててさ、それとおしあいへしあいしながらいい匂いにしゃぶりついてたじゃん。あたし! よーわからん
けどコリコリするいい匂いにしゃぶりつくとおいしいもんでてきてお腹いっぱいになってとろーんとした気分になって、んでぐー
すか寝れる訳よ。時々あったかいのがあたしの体じとじとと這いまわってさ、よくわからんけど気持ち良かった訳よ。

(あ……。赤ちゃんの頃の話……です。兄弟たちとお母さんのおっぱい吸ったり……舐めて貰ったり……) 

 でもなんか急にせまくて暗い場所にとじこめられたじゃんあたしら? あ、あたしらっつーのはさ、回りでみゅーみゅーやって
る奴らでさ! んー。そうじゃん、アレあたしのきょうだいじゃん! でもデカくてあったかくていー匂いのアレ! アレなんつーん
だっけ。なんだっけ。えーと。えーと。ちょい待ち。思い出すじゃん。んむ゛む゛む゛む゛む゛む゛…………? があ! よー分からん!
よーわからんけどさ、そっちはおらんくなったじゃん! 

(お母さんと引き離されて……兄弟たちと段ボールに入れられて……捨てられた……よう、です)

 でさ、でさ、寒いわけよ。鳴けばデカくてあったかいの来るかと思ったけど全然そんな気配ないしさ、周りはだんだん静かに
なってくし、静かになると寒いわけよ! ヘンな臭いだってしたし! そのうち上から冷たいのがくるし下だってびしゃびしゃだし
とにかく寒いわけよ。お腹もへってたけどさ、寒いのは本当ダメじゃん。そしたらもうあたししか鳴いてないわけじゃん。どー
したろーかと思いながらまあ鳴くしかできない訳でさ? デカいのきたら寒くないって鳴いてたワケよ。

(段ボールごと道路……? とにかくどこかに捨てられた……ようです。そして……兄弟さん達が……死んで……雨が降って
きて……大ピンチ……だったようです)

 あたしがご主人とあったのはさっきじゃん。あぁと……そう、そうじゃん! 寒くてびしゃびしゃで鳴いてる時!




 当事者 1

 学校前のコンビニで肩を落とす。購買でも痛感したが、やはり誰しも考える事は同じ。傘はもう総て売り切れだ。自動ドアを
モーゼのごとく分割し外に出る。雨は絶賛継続中。今年の最高雨量に迫る勢いだ。ため息交じりに黒くて薄い鞄を頭上に
掲げたのは走るためだが、しかしすぐやめた。走ったとしても自宅までは20分ほどかかるだろう。自転車通学の弊害をひ
しひしと感じる。おお馬力なき安価なる2輪車、それで土砂降りの中へ躍り込むのは自ら課す死刑執行に等しい。今日は
休みだ自転車。置き場で待ってろ自転車。考えをめぐらす。バスは? そもそも自宅近くにまで通っていれば自転車通学を
選択しない。タクシー。持ちあわせは2千円弱。本来これで週末まで過ごす予定だった。使いたくはない。コンビニにあるA
TMからポンと資金を引き出せば乗れるだろうが、父の苦労を考えるとできない。

「ここでタクシーを呼ぶのは簡単だ! だが安易な手段でもある! 安易な手段にばかり頼るようになれば男としてはお仕舞い
だし何より浪費癖が染みつく! いいやいいやの積み重ねでお父さんの遺産を食いつぶすんだ! 考えろ! 僕という奴
には無限のエネルギーがあるっ! それを使えばタクシーなど頼らず雨を凌げる!」

 揃えた人差し指と中指で空をナナメに切る。たまたま店にやってきた一塊のクラスメイトが訝しげに貴信を見た。やって
しまった。絶対ヘンな人だと思われている。叫ぶ前に来てくれたら傘借りれたかも知れないのに……。

(僕は、アホだ!!)

 まずは自力でどうにかしよう……半泣きで頭抱える貴信の視界の右端、数百メートルほど先に白い建造物が目に入った。
 コンビニの右隣は空き地が続いているため──かつてそこには巨大な学生寮があった。だが去年の秋ごろ何者かによっ
て解体された。一晩明けたらそこは瓦礫の山で入居者全員はいまだ行方不明。家族に配慮し再発を危惧し、事件解決ま
で寮再建の目途は立っていない、という話を貴信は思い出した──視界が開けている。緩やかなカーブを描く道の遥か先
にある”白い建造物”が見えたのは謎の寮解体のおかげだろう。
 特殊な形だ。”それ”は雨粒にけぶりつつ歩道から数メートル上空に浮かんでいる。手前から奥に向かって真っ白な柱が
等間隔に並び、どうやらそれで支えられているようだ。
 アーケード。さらに目を凝らすと「○○商店街」という看板もついている。赤と青の文字が交互に踊っているのはいかにも昭和
から平成初期にできたというレトロな雰囲気だ。貴信はあまりそこへ行った事がない。家とは反対方向だからだ。
 ただしアーケードは非常に魅力的だった。雨は激しい。濃紺の駐車場は全面絶え間なき白い破裂に見舞われ、その飛沫
が制服のズボンをずっくりと濡らしていく。コンビニのすぐ前、ゴミ箱の横にいても水気ときたらお構いなしにやってくる。
 そんな状況における「雨のない場所」は魅力的だ。
 商店街というのもいい。傘の1本カッパの1つぐらい売ってる店もあるだろう。
(いずれも安価な耐久消費財だ。手持ちで買える。長く使うのを前提にすれば父の遺産を浪費した事にはならない)

 二茹極(にじょきょく)貴信は回想する。
 もしあの日雨が降っていなければ、自分はもっと違う運命を辿っていただろう。

……と。



 そして彼は。

 アーケードに入った。



『冷たい北風 2人を近付ける季節』

 季節外れの歌が、流れている。

『絶好調 真冬の恋 スピードに乗って』

 歩く。5分。10分。傘のある店はまだ見つからない。

『勇気と愛が世界を救う 絶対いつか出会えるはずなの』

(ははっ! 誰だっけかなこの歌手さん! いずれにしろ季節外れだ! 選曲担当の趣味なのか!!)

 本屋、CDショップ……店を覗きこむたび落胆を繰り返す。

 更に歩くこと10分。


「ありがとうございますー」

 人懐っこい老婆の声を浴びながら雑貨屋を出る。ようやく手に入れた傘。それを見ながら吐息をつく。

(結局商店街の端まできたな……!)

 厳密にいえば端から2軒目という感じだ。雑貨屋の隣にはこじんまりとしたコインランドリーがある。貴信に恩恵と季節外れ
の歌をたっぷり与えたアーケードはちょうどコインランドリーの前辺りで途切れ、商店街の終焉を示している。

「さ、帰ろ──…」


「みゅー、みゅー」


 小さな声だった。いまだ降り続く雨の激しい音にかき消されそうな音。
 むしろ耳に届いたのが不思議に思えるほどの小さな声。

 何故貴信がその声を聴き取れたかは分からない。ただ声を聞いた瞬間思った。

 ネコが居て、助けを求めている。

(事情は分からないが!!)

 父譲りのレモン型の瞳で辺りを数度ギョロリと睨めつける。

(助けなくては男じゃないぞ!!)

音の出所はすぐ分かった。

(雑貨屋とコインランドリーの間!)

 人一人がやっと通れそうな通路。声はその奥から響いていた。




「で、進んで行ったら段ボールがあって開けたら香美が居た! という訳だ!!」




「……他の兄弟たちは駄目か! だが君だけは助けてみせるぞ! 声を聞いたのは何かの縁だ!!」

 段ボールに手を突っ込む。両手で掬いあげた子猫はまだ生後間もない。目も開かず耳も立たず、まるでネズミか何かのようだ。
 恐るべき冷たさが掌に拡がり、貴信は顔をしかめた。息が浅い。抵抗する気配さえない。
 もたもたしていれば命を失う。誰の目から見ても明らかだった。

(獣医さんに運ぶのが最良か! ……ははっ! 結局タクシー呼ぶ羽目になったな!! まあいい!! こういう支出なら)

 父も許してくれるだろう。

 雑貨屋に駆け込む。事情を話しタクシーを呼ぶために。店の老婆──年齢のせいですぐ隣からの鳴き声を聞き逃していた
のだろう──が出してくれたタオルで全身を丹念にぬぐう。カイロを買い、布越しに当ててやる。
「お客さん、このネコちゃん飼うんですか?」
 老婆が間延びした声で聴く。しまった。貴信は思う。そこまでは考えていなかった。だからといって獣医で健康になったから
と放逐するのはあまりにあまりだろう。
 そもそも。
 貴信はそろそろ一人暮らしと一人ぼっちが辛くなってきていた。
 家族も、友人も、恋人も。
 親密な者はだれ一人としていなかった。


「だから……香美さんと……暮らそうと……」


 貴信は頷いた。



「そうだ! 名前をつけてやろう!」





 当事者 2

(よーわからんけどうるさい……でも…………)



 当事者 1

「このアーケードから流れる季節外れの歌!! その歌い手さんにちなんで!!」


「『香美』、というのはどうだア!!」




 当事者 2

(よーわからんけど……あったかい)

 ごつごつした掌にくるまれながら、そう思った。