SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 過去編第004話 1-6


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(口に入れたのは1個です。あれも1個分。だから飲み干したのはフェイク……。わざと隙を作って攻めさせようとか、この
上なく性格悪いです)
 べっと吐き散らかされた白い粘塊はあたかも唾棄すべき嘘だらけとばかり供述書をねっとり汚した。
「毀損を承知でいわせてもらおうか。ヌシは義妹を逃がした。もちろん義妹自身その自覚はないよ。ただ迷って、帰れなくなっ
た。そう思っておるだけじゃ。だがヌシは違うな? 方向音痴である事を承知の上で世に放った。不手際に見せかけて放逐
した……当たらずとも遠からずというところじゃろう」
『ただの不手際です。私の』
「じゃあどうしてヌシの自動人形は火薬の匂いがしとるのじゃあ?」
 低い鼻がスンスンと動き始めた瞬間、青空は微かに体を震わせた。いつの間にか豊かな肢体すれすれに幼い高齢者が
まとわりつきしきりに自動人形を嗅いでいる。静観していたクライマックスさえいつ動いたか見えぬ早業だった。
「そういえば川の水の匂いもするのう。え? これらの匂いはどこでついたというのじゃ? 今日のヌシはいつも通り研究室
……阿呆の末席に粉かけられたのを除けば戦闘不参加じゃ。独逸の馬鈴薯つぶしの新鮮な匂いを川のそれで薄めるよ
うな必要性はない。ひひっ。匂い一つとて追及すればどんどんボロが出ようなぁ……」
 身長130cmもないあどけない少女──どの交通機関も無料で乗れそうなほど幼い──が遥かに大きい青空の顎に手を
当て下向かせた。つま先を精一杯伸ばしているのはそれなりに愛らしいが、顔ときたら袋のネズミをいたぶるネコのそれだ。
嗜虐心をたっぷり満たしてやる、半眼は暗い愉悦に満ちていて、ぞっとするような色香さえ漂わせていた。それに見られた
笑顔がぎこちない波を打ち始めた。
(まさか……自動人形をあのコのポシェットに潜ませ、ポテトマッシャーで携帯電話や発信機を破壊したというのですか?
或いはそれに近いコトを──)
 だとすれば大問題ではないか。ただの不手際ではない。意図的な放逐だ。青空にやられた腕と歯の痛みも忘れてクライ
マックスは戦慄した。イオイソゴの言う通り玉城光は妬ましくなるほどの実力者。それをわざと野に放ったとすればこれはも
う属する組織に対する限りない不義だ。
(この上なくヤバいですリバースちゃん。悪の組織でそれはやっちゃダメですよぉ! うーらぎりものめーって感じで粛清さ
れちゃいます。それがお約束なのです。あああ、ど、どうなっちゃうんですかあ)
「…………」
「そもそも貴様は義妹に対し最大の手ぬかりをしておるよな? え?」
 クライマックスは見た。からからとした声が笑いとともに跳ね上がった瞬間、清楚な美貌に少なからぬ動揺が走ったのを。
「告げさえすれば我々に絶対の忠義を誓い、たとえ単身千里の果てへ行こうと必ず戻れる努力をする。振り返り振り返り地図
を描き、石の目印を落としていく……そうさせるほどの事実をヌシは義妹にひた隠しておったではないか」
 青空の指が動きかけた。
「……っと。反論は良いよ」
 しなやかな腕を紅葉のように小さい手がスルリと撫でた。目を細めた少女はそのまま愛しげに青空の腕や銃身に同じ事を
施し、うすぼんやりとした笑みを浮かべた。何もかも破滅しても構わない。そんな笑いだった。
「証言は集めておる。貴様は誰にも彼にも『妹には内緒よ』と釘を刺しておったそうではないか。何なら連れてこようかの? 
ヌシと懇意の天王星に火星水星金星に月……5体揃えばかの破壊男爵ばすたーばろんさえ斃せる錚々たる証言者どもをのう」
 元気よく大きくなっていく声とは裏腹に、その調子は段々と厳寒のどこかへ近づいていくようだった。当事者ならぬクライ
マックスには何の話か理解しがたい。だが笑顔が確実に色を失くしていくのが見えた。それはトリックを暴かれ厳しい追及を
受ける犯人の反応だった。イオイソゴは青空にとって致命的な何かを暴きつつあるようだった。
(でも、一体……リバースちゃんは何を隠していたんですか?)
「簡単で、単純だがひどく意外な事じゃよ」
 息を呑んだクライマックスの「背中だった辺り」から気泡が1つ舞いあがった。心を読まれた。そんな気がした。

「ヌシの義妹、玉城光の両親は生きておる」

「にも関わらず伏せていた。違うか?」

「…………
 青空は無言のままだ。

(そんな)
 風の噂程度だがクライマックスは知っている。
 青空が最後まで反対──止めに入ったアラサーの腕さえ折った──したマンション襲撃。その最中彼女は
(わざわざ盟主様にまで助命を嘆願した実のお父さんと義理のお母さんを)
 惨殺した。
(それがどうして生き──…)
 あっ、とクライマックスは息を呑んだ。あの時惨殺された。だがいまは生きている。
 矛盾しているが、その矛盾を解消する魔法のような能力をクライマックスは知っている。
 知っている、どころの話じゃない。マンション襲撃まえ折られた腕を修復したのもまた、「魔法のような能力」……。

「そう。奴もまたあの場に居た」

(グレイズィングさん! そして衛生兵の武装錬金、ハズオブラブ!(愛のため息))
 キツネ目の美人女医を思い描きながら、クライマックスは叫びたい気持ちだった。

「あれは死後24時間以内の死体なれば蘇生が可能……。例え娘に頭を潰されても、首をば落とされたとしても……治る。
なんの問題もなく、な。よって彼らは今も生きておる。それもほむんくるすではなく、ただの人間として」
 忘れたとはいわせんぞ。イオイソゴはやんわりと青空に呼びかけた。
「彼らを蘇らせるよう懇願したのは他ならぬヌシ。そしてそれは聞き入れられた。当て身を食らい眠る義妹のすぐ傍で」
(そして、お父さんやお母さんが生きているコトを知っていれば、リバースちゃんの妹は絶対に戻ってくる努力をこの上なく
した筈です)
「繰り返しいうぞ。蘇生を告げさえすればヌシの妹は行く道において振り返り振り返り地図を作り、自ら発信機を守り抜くぐら
いのコトは絶対にした。わしならいうよ。『保護しておる』。それだけでいい。それ以上の脅し文句は必要無い。あとは手間味
噌そら恐ろしいの危機感に任せればいい」
 つまりは人質。逃げればどうなるかという脅しの材料だ。
「にも関わらずヌシは奴を御するに格好の情報を伏せておった。管理意識があるなれば真っ先に伝え、叛意を殺ぐべきだった
というのにな。つくづくお粗末。つくづく不可解。あらゆる要素を繋ぎ合わせれば、ヌシが義妹を放逐したがっていたようにしか
見えぬ」
 笑顔の、果てしなく綻ぶ口から長い吐息が漏れた。
『凡ミスの積み重ねなんだけど、そればっか主張しても埒が開きそうにないわねー。何をすれば満足してくれるのかしら?』
「本音をいえ。わしは別に妹を放逐した事自体は責めんよ。盟主様とて「たまには失敗もあるだろう」と笑ってお許しになっ
ておる。第一いかに強かろうとヌシの妹はまだ7歳……。憐憫の情に駆られ逃がしたくなるのも無理からぬ」
『言わなければ?』
「粛清じゃよ」

 転瞬、影も見せずに動いたのは相対する両者の腕である。攻防はまさに刹那の出来事、傍観していたクライマックスにさ
え「2人の腕がやや上がった」としか見えぬやり取り。
 だが確かに攻撃意思は両者の間で膨れ上がり、破裂した。
「…………」
 静止画のごとく立ちすくんでいた青空が片膝をついた。同時にイオイソゴの背後にサブマシンガンと自動人形が落下し、
死に切れぬ勢いの赴くまま床を空しく旋回した。
「ほう」
 背後にチロリと視線を向けたイオイソゴは目をまろくした。想定外。そんな驚きを込めて彼女はゆっくりと青空を見た。
 ひどい有様だ。クライマックスは目を覆いたい思いだった。
 笑顔の少女。その膝から下は磁性流体としてとろかされ、不気味な粘塊として床にへばりついている。両腕もまた溶けた
バターよろしくだ。巨大で、生々しい肌色した粘液の玉がピチャリ、ピチャリと落ちていく。とっくに肘までの腕が縮むさま、
誠に著しい。
(負けた……いえ。というより」
 クライマックスは気付いた。

”なぜ、サブマシンガンと自動人形がイオイソゴの背後に飛んでいる”

 攻撃を浴びた結果そうなった……という様子ではない。かといって変則的な攻撃にも見えない。
(まさか……)
「武器を捨てよるとはな。何のつもりじゃ?」
 幾分柔らかくなった口調はしかしわずかだが驚きも含んでいる。それに呼応するように、青空は口を開いた。
「あのコだけだもの」
 謎めいた言葉。だがクライマックスはそれよりもむしろ、初めて聞く玲瓏たる声の方に戦慄した。元声優の彼女でさえ商売
仲間が発すれば妬まざるをえないほど透明感のある声だった。清楚で、可憐で、どことなく哀愁に満ちた声。泣きゲーのヒロ
インをやらせれば絶対ムーブメントを起こせるとさえ思った。
「あのっ! リバースちゃん? 私いま同人エロゲ作ってるんですがっ!」
「な、なに? エロ……?」
 声を張り上げたクライマックスを、青空は笑顔のままキョドキョドと見返した。今の彼女はどこか気弱な印象だ。それに気を
良くしたクライマックスは「押し切れる!」とばかり捲し立て始めた。
「そうです。エロゲですっ! 可愛い男のコの喘ぎ声を入れてくれませんか! こうですね、見た目女のコな、なよなよ~とした
この上なく小動物系男のコ! そのコが逞しい俺様系のイケメンさんにがっつんがっつんこの上なく責められて泣きじゃくっ
たりするのですっ! そのコの役を、是非! 私では出せない味! リバースちゃんならこの上なく出せます!」
「え、その……いや。遠慮します……」
 蚊の囁くような声だ。それを聞いてクライマックスはますます「くーっ!」と唸りを上げた。
「これはいい! これはいいです! サブマシンガン持って字ぃ刻んでる時のこまっしゃくれった態度なんてクソですよ!
もっとこう基本はおどおどびくびく! 一歩退いて震えてるような儚さがいいんじゃないですかあ! DVDの特典とかドラマCD
の後の座談会! あれで清楚な役やってる筈の声優さんが意外にギャルっぽかったり「なーんも考えてない」感じのただの
若い女の人だったりすると幻滅しますよね! 私はそうですかなりそうですこの上なくっ!」
「な、なんの話をしてるのクライマックスさん?」
 引き攣った笑みを浮かべ、青空はズルリと(片足が粘液状態なので)後ずさった。
「やっぱ清楚な役には清楚な人を! そりゃあ学び励んだ演技の文法で清楚な役を演出するコトはできますよ! でもそ
れは本当にモノにしたとはいえません! 元の性格が合致してる、天然自然の清楚がそれをマイクに吹きこんでこそ、こ
うテレビ見てる人達の心に突き刺さってキャラソンCDとかバンスカバンスカこの上なく売れるんじゃあないですか! 或い
は清楚じゃなかった人が役にのめり込むあまり清楚と化す! それもありです! 要は心からの一致ですっっっ!」
「あのー?」
 青空は見た。ゲル状のクライマックスの背中から、彼女の幻影が立ち上るのを。それは陶酔しきった表情で胸に手を
当て、時々くるくると回ったり大仰な身振り手振りをしているようだった。
「上っ面なぞっただけの演技なんてのはこの上なく人の心に残りません! 生き馬の目を抜く声優業界では到底生き残れ
ません! 心からしてキャラに合い心からキャラを愛して愛するあまりその物と化す! 総ての熱気や感動はそこからこの
上なく生まれるのです! 文法に従って声出すんじゃありません! 声を出して文法を作りだすんです! だ・か・ら!」
 幻影がぱあっと微笑みながら青空に手を伸ばした。
「一緒にBLやりましょう! この上なく一緒に腐って業界へ殴り込みましょうよお!」
「ちょっと黙れくらいまっくす」
「ぐおはおおおおおおおおおおおお!」
 ゲル状のクライマックスがねじれてどこかへ飛んでいった。後で青空は知ったが、磁力を使って適当な場所へ飛ばした
らしい。

「いま、”あのコだけ”といったが……何の話じゃ?」
 しゃがみ込むイオイソゴを青空はしばらく見つめ──…唇をきゅっと吸いこんでからようやくポツリポツリと喋り出した。
「だって、ずっと私に話しかけてくれたのは……あのコだけなんだよ?」
「ほう? だから逃がしたとヌシはいいたいのか?」
「うん……。ずっと考えて……やっと気付いたの。あのコだけは……ずっと私に話しかけてきてくれたって。どんなに無視し
ても頬を叩いても、弾丸を撃ち込んでも……私に話しかけてきてくれたの……。でも、私があのコにしたコトは……」

 目の前で両親を殺し。

 ホムンクルスにし。

 5倍速で老いる体にした。

「何も……いい事をしてあげられなかったから。何の選択肢も与えないで……私だけに縛りつけていたから……可哀相で……
だから、だから…………お義母さんたちの事は黙って……」
「逃げやすくし、選択肢を与えた、か。その言葉、自白と受け止めていいか?」
「……」
 こくこくとあどけなく頷いてから、青空は縋るような上目遣いでイオイソゴを見つめた。笑顔はとっくにやめている。義妹の
今後を憂えるあまり、笑っている余裕がない……そう見てとったイオイソゴは「やれやれ」と横髪をかき上げた。
「結局わしの推測どおりかよ。なればゴチャゴチャ抜かさずとっとと白状すれば良かったものを」
「だ、だって……喋っていいことなんて本来一つもないんだよ? わたしは……ずっと、ずっと、喋るたび聞き返されて……
『なんだコイツ』みたいな目で見られて……お父さんたちにも構って貰えなかったから……本音、なんて……」
「いえようワケがない、と。矛盾しとるな。今は本音を吐露しとる癖に」
 青空は俯いた。どう喋っていいか分からないらしい。瞳は限りなく潤み、か細い息を懸命につきながら「あの、その」と頼り
なく震えている。これがあの憤怒の化身かとイオイソゴは──実は何度か見ているがそれでもやはり──目を見張る思い
だ。
「本音をいったのは……あのコを逃がしたコトで、イオイソゴさんたちに損害を与えてしまったから……だよ」
「損害……? ああ、あれほどの力量の者を独断でどこかへやってしまったコトか。まあ確かに会社でいうなら高価な備品
を行方不明にしてしまったようなモノじゃからの」
「信じて貰えないかも知れないけど……盟主様のために働きたいのは私も同じ……だよ?
「じゃろうな。或いは最も感銘を受けておるのがヌシかも知れん」
「そして私は他の人たちに迷惑をかけるのは嫌い。でも光ちゃんはどうしても逃がしたかったの。まだ小さいから……もっと
自由な生活をさせて、世界を見て、その上で私に協力するかどうか……決めて欲しかったの」
「じゃがその結果、わしらに損害を及ぼす羽目になった。ゆえにサブマシンガンを捨て、敢えてわしの耆著を浴びたと。いわば
アレはヌシなりの落とし前か。本音を語るのは、あれ以上の言い繕いが道義に反するゆえ……」
「ごめん……なさい」

 しとやかに呟く青空にイオイソゴは軽く思う。

「他の人に迷惑をかけるのは嫌い」? 

(ひひっ。さんざ家庭崩壊やらかしておいてよくもまあ……)

 青空にとって彼らは人以下の「誰も助けないから離散させる方が世のため」という報復対象にすぎぬのか。

 何にせよ、組織人としての帰属意識だけはあるらしい。帰属する組織の質はともかく、そこで共に過ごす仲間に対しては
それなりに遠慮がちで真摯らしい。……もっともその真摯さが一般社会にどれだけ迷惑を掛けるか。
(穏やかで可憐なようでいて、根はすっかり狂っておるようじゃの。義妹への情愛も含めて)
 何発弾丸をブチ込みどれほど精神を歪めたか。しかもそれが青空にとっての普通な『伝え方』と来ているから始末が悪い。
 光を始めてぶった時気付いた「伝えるコトの素晴らしさ」。その快美に見入られるまま彼女は衝動を発散し続けた。或いは
始めて本音を打ち明けれた義妹は特別な存在で、それ故に大事で、愛すべき対象だからこそ他の人より多く──大事な
家族にほど多くの言葉を話すように──弾丸をブチ込んだのかも知れない。

(ま、反省もしておるようじゃがの。最近では義妹との会話にさぶましんがんは使わんらしい。ぴこぴこはんまーとやらで
軽く叩いたり宥めたりしておるという。りばーすにとって重要なのは『伝える事』であって『痛めつける事』ではない。後者
だけが目的と言うなら、義妹はとっくに反乱を起こし、姉妹相討った挙句どちらかが死んでおるよ)

 奇妙な姉妹だとイオイソゴは思う。傍目から見れば姉が妹を痛めつけているだけなのに、彼女らの間には決して切れぬ
絆があるらしい。玉城光は姉を、その美しい長所も妖気漂う異常な短所も何もかもひっくるめて愛しているようだった。
 だからこそ青空も、身の危険と引き換えに選択肢を与えたのだろう。

(……家族というのはいいのう。半ば孤児(みなしご)じゃったわしには羨ましいよ)

 低い鼻をくしゅりと鳴らし、イオイソゴは青空に向かい合った。
「ヌシの気持ちはよく分かった。あまり褒められたやり口ではないが、それも若さゆえの過ちとして処理しておこう」
 ふわふわとしたウェーブの下で限りない喜色と、「それに浸っていいのだろうか」という葛藤が浮かんだ。
「とはいえ2度目はないぞ? 生半(なまなか)な情愛で完成品を逃がす癖(へき)を付けられてはたまらん。盟主様はそれ
もまた循環の内とお認めになるじゃろうが、わしの考えは違う。組織は厳然と律されて然るべき。一度や二度の例外的な感
情を認める事はあっても、それを慢性化させ、恒常的なるナァナァで箍(たが)を緩めていっては話にならぬ」

「”自滅する組織”とはつまりそれじゃ。故にわしはこの件において釘を刺す。それが盟主様にお仕えする忍びの……務め」
「…………」
「妹を放逐した事自体は否定せん。じゃがどうしてもそうしたいのならわしらに相談すべきじゃった。肉親を戦わせたくない
というなら相応の真っ当な処置ぐらいやってやるわい。安全な場所へ退避させ、戦闘とは無縁の生活を送らせて……。あ
れだけの戦力が除却されるのは正直痛いが、功績あるヌシに対し融通の一つもせんというのは組織としてマズかろう」
「…………」
「…………」
「そもそも”方向音痴で行方不明になりました!では抜本的な解決にならんよ。そうじゃろう? 捜索隊が結成され、差し向
けられればどうなる? せっかくの決意と覚悟で逃がした妹が舞い戻ってしまうではないか。そうなってはヌシと引き離され
よう。監督不行き届きの姉に誰が貴重な戦力を任したいと思うものかよ……じゃ。ウソを吐いたばかりにますます悪い状況
になる」
「…………」
「家族を想うヌシの感情自体は分かるよ。わしは父御(ててご)の名しか知らぬゆえ、家族にはずっとずっと憧れておる。
なればこそ妹を戦わせたくない気持ちは理解できる。だがそれは素直に吐露し、打ち明けるべき物じゃった。隠し立て、
独断で逃がすような真似は正直ヌシのためにならん。これは他の件でも同じ。「喋っていいことなんて本来一つもない」な
どと心を鎖すでない。わしや天王星、盟主様ならば必ず耳を傾けよう。じゃから二律背反に悩んだとき、独断にだけは
走るな。それがヌシ自身のためじゃ。な?」
「はい……」
 あやすような言葉にいくぶん心を動かされたのだろう。青空は真珠のような涙を眦に浮かべながら、微笑した。

「分かればいい。後はわしが始末をつける。ヌシは研究室に戻って今まで通り過ごすがよい」