SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 「演劇をしよう!!」(中編) (6)


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「あ、ありがと垂れ目。も、もうダイジョブ。いやそのまだダイジョブじゃないけどダイジョブじゃん」

 たしなめるコト249秒。香美は少し落ち着いてきたらしくいまは体育座り。太ももの後ろで手を組む彼女の横に剛太はい
て複雑な表情だ。

(ああクソ。なんで俺こいつの都合に付き合ってんだろ。ホムンクルスだしそもそも斗貴子先輩じゃないし!)

 戦士である以上ホムンクルスには冷淡であるべきだ。でなければ本分が果たせぬ。武装を行使し殄滅(てんめつ)する守
護者の本分が。さらに香美は斗貴子ではない。心身とも魅力に富み岡倉などは存分に鼻下を伸ばしているが、しかし剛太の
抱える恋慕はそういう系統ではない。存外、精神的箇所から出発タイプなのだ。斗貴子は心の支えだ。それだけでもう女神で
他の追随を許さない。よって香美が対象外なのは言うまでもないが……。

(………………)

 チラリと香美の横顔を見る。後頭部をさすっているのは貴信の安否をみるためか。反応はないらしく不安は消えない。

(コイツさっき……)

 剛太の心がわずかだが香美めがけ揺らぎ始めているのは意外だが斗貴子のせいである。交点。女神を原点とする感傷
や信条が冷淡も選別を熱く溶かしていく。鐶光との戦いで早坂桜花の手を取り校内を疾駆したときもそれがあった。


(泣いてたよな。暗いの怖いって)


 いま、剛太らしくもない激しい感情が体内に満ちていく。「女を泣かせる奴は大嫌い」。メイドカフェでの騒動、最後の
最後に鋭く言い放ったのはもちろんカズキを指してのコトだ。彼は斗貴子を置き去って一人勝手に月へと消えた。

 だから彼女は泣いた。あらゆる繕いを捨て憧憬からかけ離れた場所で。流した。大粒の涙を。

 そのとめどなさを間近で感じたから、月へ向かい無力な怒声を張り上げたから。

(女泣かせる奴は嫌いだ。大嫌いだ)

 ここで戦士の本分がどうこうと言い繕い香美を放置するコトは簡単だ。義理からいえば斗貴子ほど慮ってやる必要もない。

(けど)

 そうすれば香美は泣くだろう。暗い倉庫の片隅でいつ目覚めるとも分からぬ貴信を待ちさめざめと。

(我慢できるか!! やってみろ、俺はあの激甘アタマと一緒になる!!)

 最も腹立たしくそして悲しいのは彼だけ名前を呼ばれたからだ。

 月めがけ飛び立った直後、斗貴子はただただ連呼した。「カズキ……」「カズキ……」。

 ……………………すぐ傍にいる後輩は呼ばなかった。もしこのとき顔を見上げ呼ばわりそして表情で苦しさを訴えてくれ
たら剛太の心痛は致命的敗北感めがけ激増しなかっただろう。カズキを許せぬ感情の何割かは(情けない話かも知れない
が)、そういう圧倒的優位を誇りながら、あっさりと斗貴子を捨てそして泣かせた事実にある。


「…………?」


 香美は鼻をピクリと動かした。そしてしばらく首を振った後視線を落とし……少しだけ強く泣いた。

「あ、ありがと」

 剛太の手が自分のそれに絡まっているのを見た瞬間込み上げたのはもちろん感涙で、以降ベクトルは好転、上へ。

「…………うるせェ。騒がれちゃメーワクなんだよ。静かにしろ。握手じゃねーからな」

 彼はまったく目を合わそうともしないが香美はまったく気にしない。「~♪」。楽しげに腕を握ったり揺らしたりだ。

 横目でチラチラ伺うその様子はまったくモチーフ通りで、それがかねてよりの懸案打開のとっかかり、橋頭保になった。

「つーかお前なんで暗がりが怖い訳? ネコだろ?」

 ややぶっきらぼうに話を仕掛けたのは葛藤のせいだ。カズキのようになりたくはないが、しかしそれでもやはり斗貴子では
ないホムンクルスの少女にニコニコ親切ぶりたくもない。

「う??? なにあんた突然?」


 香美は胡乱気に眉をしかめたがすぐ何かに気づいた。

「あ!! 分かった!! あんたカウンセリングやろーとしてるじゃん!」
「あ!?」
 乱雑な声を張り上げたのは図星だからだ。しかし意外。なぜネコにその概念があるのか。
「そりゃああんたあやちゃんとかもりもり(総角)が根掘り葉掘りアーダコーダ聞いてきたからじゃん! でなんであんたらそんなん
聞くじゃんゆうたらさ、聞いてさ、聞いてさ、げーいん突き止めて直すって」
 にも関わらず怯えている。つまり仲間たちでさえ治せなかった訳だ。いかに自分が軽々しく踏み込んだか痛感する剛太とは
裏腹に、香美の表情は明度を増す。野性的な双眸は山吹色の輝きを帯び口は綻び八重歯が覗く。だから、剛太は──…
「あんたもそれしてくれる。手も握ってくれとるし、いい奴じゃん、いい奴!!」
「………………」
「? どーしたじゃん急にボーっとして?」
「し!! 知るか!
 額にコツリと堅い感触が走った瞬間、彼は器用にも座ったまま横ばしりし距離を取る。見た。おでこを当てる香美を。熱でも
測りにきたのだろう。瞬間間近に迫ったネコ少女のカオは剛太をしっかと捉えていて。いちめん無邪気な信頼に暖かく潤んで
いて。だから必要以上に動揺した。

(クソ。どーかしてたぞ俺)

 心臓の弁がやかましい異音を奏でる。極彩色のしこりが痞(つか)えたようであらゆる感覚がそこへ向く。

(コイツがいつも通りになったとき)

(なんでホッとしたんだよ俺。ただうるせェだけなのになんで…………)

 ありていにいえば少年はただドキドキしていた。

 発動するのは斗貴子を除けば桜花がその膨らみを、惜しげもなく押しつけてきたとき以来だ。と描くと剛太の女性観はい
ささか浮ついたものに見えてしまうがしかし違う。絶世の美人たる桜花が誘惑的な盛り上がりを背筋にやってようやく斗貴
子の何気ない仕草に匹敵するのだ。つまり浮つくどころか不動、揺らめかすには相当の女性的力学がいる。

 香美の涙を結果的にだが止めた。たったそれだけの事実に少年は心揺らめかせつつ……喜んだ。

 一瞬去来した機微はつまり友人を持つものなら節目節目で味合うものだ。思いやりが感傷と混じり合い共有を経て陽へ至
る。人間が最も尊ぶ、しかしどこにでも有り触れたプロセス、類似事例などそれこそ鐶戦で桜花と味わい、その弟ともつい最
近メイドカフェで体験したというのに、剛太はまるで割り切れない。相手がホムンクルスというのもあるがそれ以上に見目愛ら
しい少女だから余計。
 だから幾分元気の戻ってきた香美にどこかでホッとしつつそんな自分が許容できない剛太だ。韜晦、いっそう不機嫌にな
るべく努める。なまじ頭だけ回る精神的未熟の少年はときとしてバカげた矛盾や葛藤を自ら作り苦しむのだ。

「あー。なんか怒らせた?」
「別に」

 覗き込む澄んだ瞳から目を逸らす。香美は香美で追及せず、本題へ。

「だってさだってさ……だってさ、あたしさっき怖いのに……めちゃんこ怖い目に遭わされてさ」
(さっき……? あ、昔ってコトか)
 香美にとって過去は総て『さっき』。いつだったか貴信にそう聞いた。


 やがて語られる彼らの過去は香美を通してだから断片的で多大に類推し辛いものだぅたが。

 どうにか剛太はまとめた。

(つまりアレか。俺たちがもうすぐ戦うレティクルの幹部。『火星』と『月』。そいつらが些細なきっかけで栴檀貴信とコイツを
攫い──…)

 加虐のすえホムンクルスにした。当時まだネコだった香美は幼体となり紆余曲折を経ていまの体へ。



「それでもご主人さ、あたしをさ、辛いのに守ってくれたし、悪いことしたらメッって怒ってくれたしさ、元のままでいてくれた
からさ」

 まったく人の来る気配のない蒼黒い倉庫の中、香美は語る。語り続ける。

「一緒なら暗いのも狭いのも高いのも何とかガマンできる訳。一緒だからさ、助けてくれたコト思い出せて……平気じゃん」


 だがひとたび貴信が意識を失えば。


「……怖いの。ホント、怖いの」

「怖いの思い出すから怖いっつーのもあるけどさ、さっきご主人すごくすごく怖い顔しててさ、ソレ思い出すとこの辺が」

 剛太がまたも香美に不覚を取ったのは、しなやかな動きがあっという間に距離を詰め肉薄したからだ。あっと目をむく
頃にはもう遅い。とても男性(貴信)と体を共有しているとは信じがたい半透明の白い腕が剛太の手を取り

「この辺がきゅーってなって……苦しい」

 タンクトップをまろやかに盛り上げる巨大な弾力に導いた。

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」

 剛太の脳髄は真っ白になった。斗貴子曰く噛み合えば頼りになる歯車は火花と白煙の中こなごなに吹っ飛ばされあらゆる
言語と運動は消除の憂き目。にも関わらず暖かな柔らかさを受容したのは原生の、男性的な本能が捨てるに惜しいとみな
したからか。混乱は香美がそこに手をやる50秒間たっぷり続いた。

「でもさ。でもいまは垂れ目いるから平気じゃん。ご主人にも早く起きて欲しいけどさ、あんただとなんか安心する」
「なんでだよ。つーかお前なんで俺にばっか構うんだよ?」
「んーーーーーー。わからん!!」

 そういって香美は笑う。からからとした何も考えてなさそうな笑顔は斗貴子とまったく真逆なのにいまは見とれそうで直視で
きない。

「というかいい加減垂れ目っつーのやめろ。な? 俺の名前は中村剛太だっつーの。おかしなあだ名で馴れ馴れしくすんな」
「無理!!」
「即答かよ!!?」
「だってあんたの名前なんか長い。きっとずっと思い出せん!!」



 そのやり取りから1分後、彼らは倉庫から脱出した。

「礼なれば結構である!! 及公常に救いを求められている! 本日この刻限を持ちあらたな救いが1つまた生まれたとい
う輝かしき事実!! それだけでもうお腹いっぱいであらせられるんだから礼はむしろ害毒というかむしろ罵ってくれまいか!!
されば救ったにも関わらず痛恨なるものが心抉ったというコトになり要するに試練! 大衆の持つおぞましさの毒にいかほど
及公耐えられるかというアレになり新たな戦いが今日より始まる! ん!! じゃあアレだ誰も永劫救われん方がかえって
及公の進化あくなき向上のためにいいかも知れんのでもう一度倉庫入ってくだせえや少年少女、オナシャス!!」」
「断る」

 たまたま通りがかったというリヴォルハインに冷えた目でキッパリ告げるころやっと貴信が復帰した。

「あのさ。アイツちょっとお前に依存しすぎじゃね? お前いなくなったら大変だろ」
『ハハハ!! つまりアレだな少年戦士!! 僕に万が一のコトがあったら香美が泣く! それがいやだから来る戦いは
何としても生き残れっていいたい訳だな!!』
「ち!! ちげーっての!! 俺がいいてェのはお前抜きでも静かになるよう躾けろってコト!!」
『フフフ!! 言いだす以上、貴方にも協力すべき責務がある!! つまり僕が寝てるとき支えになるよう親交をだな!!』
「断る!! ホムンクルスなんかとベタベタしてみろ!! 斗貴子先輩に嫌われる!!」
『まぁそれはそれとしてだな!! 僕は昔から香美は素敵なお婿さん貰うべきだと思っている!! ネコ時代からだが人間
形態を得た今でも気持ちは変わらない!!!』
「俺になれとか言ったら殴るぞ? つかお前がなりゃいいだろ。飼い主も亭主も似たようなもんだ」
『い!! いやその発言はどうか!! 世の中の夫婦さんたちを敵に回すぞ慎むべきだ!!! だいたい僕にとって香美
は娘みたいなもんだ!! 懐いてるからどーこうしようってのは嫌だ!! 絶対に嫌だ!!』
「……いま気づいたけどお前」
『何だ!!』
「元の体戻れてもすっげー損するタイプじゃね?」
『いうなそれをオオオオオオオオオオオオオオ!!』
「あー。薄々気づいてた訳ね」
『分かってる!! トモダチいない僕が唯一心通わせられる香美をお嫁さんに出したら何も残らないなあってのは!!』
「飼い猫の親交うんぬんよりまず自分のコトをどーにかしろよ……」
『あーあー聞こえない!! 聞こえないぞオオオオ!! しかし運が良かったな少年戦士!!』
「あ?」
『こんな誰もこなそうなところにたまたま人が通りかかった!! しかもその人っていうのが部外者、生徒でさえ来るかどーか
怪しいトコに今日たまたま挨拶に来てた劇団の人が来た! ハハ!! どれほどの確率なんだろーな!!』

(確かになんかヘンだな。そもそも俺たち……)
(倉庫の中で静かにしてたぞ? アイツがその、ヘンなコトしやがるもんだから、俺なにも言えなくて固まってたのに)
(迷いなく倉庫開けやがった。突然のコトで気にも留めてなかったけど)

(なんかヘンだ)

 しかし同時に剛太の優れた思考力は矛盾が敵意の証明になりえないのをあっという間に弾き出した。そうではないか。
結果からいえばリヴォルハインは剛太と香美を暗闇から助け出した。仮に閉じ込めた当人だとしても、或いは閉じ込めら
ているのをしばし黙殺していたとしても、助けたという事実に変わりはない。もし閉じ込めらている最中巨大なデメリット
──例えば斗貴子が敵襲を受け傷ついたり──があったら疑念はますます強まるが、されど隔絶されている間、外の
時間はふだん通りに流れている。何も起こっていない。何も害を受けていない。だからこそ剛太は結論を下す。

(考えすぎか? 単に運が良かっただけかもな)

「くしゅん」

 香美は鼻水を飛ばした。

「細菌感染、ベンリすぎですこの上なく」
「彼らもやはりノット社員!! である!! されどされど及公にかかれば所在をつかむなどたやすい!!」
「で、いつもの救いうんぬんですかぁ?」
「そである!! なんか困っているようだったから及公自ら扉を開かれお助けになった!!」

 直接人を害さない傲慢はこの時期ひそかに戦士たちを犯しつつあった。
 そして、パピヨンも──…