そのマンション襲撃の後始末は他の戦士長の管轄だったから筋からいえば別に防人衛が心痛を覚える必要はなかった
のだけれど、例えば誰かが事後処理の進捗具合──といっても手がかりのなさを再確認するだけの空虚なやりとり──を
囁きあっているのを聞くだけでもう覆面の奥が蒼い哀惜で、だからだから剣持真希士は当惑した。
のだけれど、例えば誰かが事後処理の進捗具合──といっても手がかりのなさを再確認するだけの空虚なやりとり──を
囁きあっているのを聞くだけでもう覆面の奥が蒼い哀惜で、だからだから剣持真希士は当惑した。
「燻ってんのさ。奴はずっと」
橙色の光輝のなか面白くなさそうに呟いたのは火渡赤馬。何かの任務で珍しく同じ班になった彼がこれまた珍しくかつて
の同輩評をさほど親しくもない真希士に漏らしたのは、会話の端緒が、この時まだ新人(ルーキー)に毛が生えた程度の
後輩への文句づけだったからで、それはやがて師匠筋の防人へのダメ出しにスライドした。
の同輩評をさほど親しくもない真希士に漏らしたのは、会話の端緒が、この時まだ新人(ルーキー)に毛が生えた程度の
後輩への文句づけだったからで、それはやがて師匠筋の防人へのダメ出しにスライドした。
「燻ってんのさ。奴はずっと」
とはつまり日頃抱えているかつての朋輩への他愛もない不満の表れなのだろう。
「アイツは昔、世界の総てを救うヒーローを目指していた。今でこそ与えられた任務のなか最良の結果を出すとか何とか
ぬかしやがってるが本心は違うぜ。あのクソッタレは今でも心のどこかで思ってるんだよ。任務がどうとか条件がどうとか
知ったこっちゃねえ、『総てを救いたい』『努力して何もかも救いたい』……ってな」
ぬかしやがってるが本心は違うぜ。あのクソッタレは今でも心のどこかで思ってるんだよ。任務がどうとか条件がどうとか
知ったこっちゃねえ、『総てを救いたい』『努力して何もかも救いたい』……ってな」
つまり救えなかった命、手の届かない場所で消えてしまった命さえ防人は惜しみ、悲しんでいる。
火渡の言葉はまるで自らを語っているようで、それゆえ真希士の心に強く残った。
「ヘッ。なのにそれができねーって勝手に決めつけてやがる。奴は一度しくじってんだよ。あ? 違ーよ。テメーが遭った飛行
機事故じゃねェ。島だ。村落がたった一人残して全滅しちまった事件。コツコツ積み上げてきた努力が全く通じなかったってん
で打ちひしがれてんだよ勝手にな。燻ってるっつーのはソコなんだよ。どうにもならねえ不条理に見舞われながらまだ昔の夢、
切り捨てられずにいる癖に、事件前みたく全力で挑むコトもできねえ。なんでかって? 大勢を守り切れず死なせたからだよ。
以前のままいるのが耐えきれねえのさ。贖罪意識だの罪悪感だのでな」
機事故じゃねェ。島だ。村落がたった一人残して全滅しちまった事件。コツコツ積み上げてきた努力が全く通じなかったってん
で打ちひしがれてんだよ勝手にな。燻ってるっつーのはソコなんだよ。どうにもならねえ不条理に見舞われながらまだ昔の夢、
切り捨てられずにいる癖に、事件前みたく全力で挑むコトもできねえ。なんでかって? 大勢を守り切れず死なせたからだよ。
以前のままいるのが耐えきれねえのさ。贖罪意識だの罪悪感だのでな」
「けど俺にいわせりゃその程度のコトにへこたれて失くすようなー自分(テメエ)で何ができるっつー話だ」
「そうだろーが!」
「世界総てを救うとか吹いときながら島一つで諦めちまったような奴に何ができる!?!」
「いい加減むかしのコトなんざ切り捨てろよ! 下らねえ無力感と一緒によ!!」
とにかく軽い回想から現生へ帰還した剣持真希士が愕然と硬直したのは、先を歩いていた筈の先輩──鉤爪──の姿が
忽然と消えていたからだ。
忽然と消えていたからだ。
(オレ様不覚! 山道ヒマだからってヨソ事考えすぎ!)
しかしヘコたれない。時は平成、文化繁栄。胸元からスルスル携帯電話を取り出すや速攻で電話。
「すまねえ。あー本当悪い悪い」
ややイラつき気味な先輩戦士の声にかんらかんらと笑って謝ると方針はすぐさま固まった。
「分かった。集合は予定通り山頂だな。標的──…共同体のアジトがあるっつー。地図? ある! あるから大丈夫だって!」
そして携帯電話を切り、踵を返した瞬間──…
筋肉の鎧を纏う巨大な体が何かと衝突した。
「あだーーーーー!!!」
次いで舞い上がった声はとても柔らかく……可愛らしい。
吹っ飛んでいくのは少女だった。小柄で、タキシード姿でシルクハット、お下げ髪の。
「あ! 悪ぃ!! ……? ?? てか何で女のコ? 山だし平日だし昼だし……」
目を白黒させるのは相手も同じで、声にならない弁明を漏らしている。
「とゆーか」
少女の下半身はロバだった。蹄のある四本の足が地面をばたつき何とか立ち上がるころ、剣持真希士の野犬のような
瞳がいっそう鋭くなった。
瞳がいっそう鋭くなった。
「ホムンクルスかお前! ブツかったのは攻撃か!!?」
「ぎぃやあああ! そそそそーではありますが人様に害悪なそうという存在ではありませぬ! ぶつかったのも元をただせば
追跡のため、無銘くん追いし追跡モードに気を取られておりましたがゆえの衝突」
「ぎぃやあああ! そそそそーではありますが人様に害悪なそうという存在ではありませぬ! ぶつかったのも元をただせば
追跡のため、無銘くん追いし追跡モードに気を取られておりましたがゆえの衝突」
状況が混迷を極め始めたのは、剣持真希士愛用の第三の腕──西洋大剣の武装錬金・アンシャッター=ブラザーフッド。
肩甲骨の辺りから生えるアームが変則的な太刀筋を描く──が金切り声をあげながら小札零を狙い撃った時だ。
肩甲骨の辺りから生えるアームが変則的な太刀筋を描く──が金切り声をあげながら小札零を狙い撃った時だ。
『流星群よ! 百撃を裂けえええええええええええ!!』
茂みの中から、金粉のような形した無数のエネルギー波動が、大ぶりの剣をズガチロと舐め尽し軌道を変えた。大鉈で
捌かれたような不自然な圧力が真希士の右肩を襲う。筋と蝶番が絶叫を上げるなかしかし彼は第三の腕を以て骨をねじ
込む。はたして剣の軌道は当初の予定どおり小札を狙い撃ったが切り裂いたのは陽炎で、気づけば新手が彼女ともども
走り去ってゆく。ガサリという音は頭上からで、先ほど光波をブッぱなした存在が、樹上で猛然、遠ざかる。
捌かれたような不自然な圧力が真希士の右肩を襲う。筋と蝶番が絶叫を上げるなかしかし彼は第三の腕を以て骨をねじ
込む。はたして剣の軌道は当初の予定どおり小札を狙い撃ったが切り裂いたのは陽炎で、気づけば新手が彼女ともども
走り去ってゆく。ガサリという音は頭上からで、先ほど光波をブッぱなした存在が、樹上で猛然、遠ざかる。
「フ。まさか戦士まで来ているとはな」
「あうあうあーー!! 当然といいますかなんといいますか!!」
「追ってくるじゃんアイツ!! どすんのよご主人! 」
『と!! とりあえず追跡は中止! 鳩尾のところにまで来られないよう』
「あうあうあーー!! 当然といいますかなんといいますか!!」
「追ってくるじゃんアイツ!! どすんのよご主人! 」
『と!! とりあえず追跡は中止! 鳩尾のところにまで来られないよう』
山頂とは真逆の方向へ駆けだす音楽隊を、剣持真希士が追い始めたのは、もちろん彼らへの勘違いあらばこそだ。
「標的発見! この山にいるとかいう共同体はアイツらだな! 鉤爪さんとの待ち合わせ場所と逆方向行ってんのは好都合
か不都合か分からねーけどとりあえず追うッ!」
か不都合か分からねーけどとりあえず追うッ!」
実際のところ真希士の標的はすでに総角たちが殲滅している。もっとも真希士以外の戦士が”そう”だが、彼らにとってホム
ンクルスは見敵必殺、所属素性がどうであれ出逢ったが最後、殺しにかかるほかありえない。
ンクルスは見敵必殺、所属素性がどうであれ出逢ったが最後、殺しにかかるほかありえない。
アンシャッター=ブラザーフッドの特性は筋力増強。ただでさえ鳥型ホムンクルスに走って追いつけるまで鍛え抜かれた
大腿部がさらに異様な膨張を見せる。大型トレーラーのような馬力が生まれ彼は加速の頂点へ達した。
大腿部がさらに異様な膨張を見せる。大型トレーラーのような馬力が生まれ彼は加速の頂点へ達した。
振り切るのは不可能。音楽隊がやむを得ず攻勢に転じたのは、追跡開始から126秒後──…
「1年……。行方不明だった間……お姉ちゃんに何が起こったのか……なぜお父さんたちを殺すほど……変わってしまっ
たのか……その辺は……よく……分かりません……」
たのか……その辺は……よく……分かりません……」
「確かなのは…………調整体で……ヤギの要素が入ってて……ときどきめえめえいうのと……
「『組織』に……入っていた……ぐらいです」
「そのあたりにしておけ”りばーす”」
「両親殺すつもりはなかったんじゃなくて?」
「両親殺すつもりはなかったんじゃなくて?」
笑いが、やんだ。青空は歩くのをやめたらしい。
三つ編みを解放されたおかげで自由になった首を動かす。聞きなれぬ声。それが放たれた方へと。
まず光の目に入ったのは黒ブレザーの少女だった。先ほどまでパーティの舞台だった机の上であぐらをかき、銃撃で破
壊されたケーキの破片をもぐもぐと食べていた。
三つ編みを解放されたおかげで自由になった首を動かす。聞きなれぬ声。それが放たれた方へと。
まず光の目に入ったのは黒ブレザーの少女だった。先ほどまでパーティの舞台だった机の上であぐらをかき、銃撃で破
壊されたケーキの破片をもぐもぐと食べていた。
「その人の名前は……」
「イオイソゴ=キシャク」
乱杭じみた皓歯も露に唸りを上げる小型犬に、玉置は多少面くらったようだった。
いつしか広場の丸太の上に並んで腰かけている玉城と無銘である。後者に至ってはもう何度かポシェットへ無遠慮に手
を突っ込み、ビーフージャーキーを引きずり出していた。
そんな和やかな雰囲気を崩すほど”イオイソゴ”なる存在は『無銘にとっても』悪辣なのだろうか。疑問を抱きつつ質問する。
「……知りあい、ですか」
「忘れるものか!! 奴こそ我をこの体に押し込めた張本人の1人!!! 貴様らの組織の幹部にして忌々しき忍び!」
「イオイソゴ=キシャク」
乱杭じみた皓歯も露に唸りを上げる小型犬に、玉置は多少面くらったようだった。
いつしか広場の丸太の上に並んで腰かけている玉城と無銘である。後者に至ってはもう何度かポシェットへ無遠慮に手
を突っ込み、ビーフージャーキーを引きずり出していた。
そんな和やかな雰囲気を崩すほど”イオイソゴ”なる存在は『無銘にとっても』悪辣なのだろうか。疑問を抱きつつ質問する。
「……知りあい、ですか」
「忘れるものか!! 奴こそ我をこの体に押し込めた張本人の1人!!! 貴様らの組織の幹部にして忌々しき忍び!」
「ぬ?」
視線に気付いた少女──イオイソゴは咀嚼をやめ、決まりが悪そうに低い鼻を掻いた。
「おおすまん。こりゃヌシの”けえき”じゃったか?」
震えながらやっとのコトで頷くと、「転がっておった故つい口をつけてしもうた。許せよ」とその少女は立ち上がった。
背丈は玉城と同じぐらいかそれ以下。だが雰囲気はいかにもカビ臭い。
「そもそも”りばーす”よ。ヌシはこのまんしょん襲撃に最後まで反対して暴れておったではないか」
「…………」
青空は息を呑んだようだった。義妹だから分かる。「自分の失敗に気付いた」。そういう反応だ。
「鎮めるためわしらまれふぃっく3人──そこらの共同体なら単騎で潰せる幹部級を3人も出張らせておいてじゃな」
『私の家族にだけには手を出さない……そ、そう約束してくれたわよね。それで私も落ち着いたのよね』
銃撃。もうすっかり穴だらけの部屋に描かれた新たな文字は心持ち震えているようだった。
それを認めたイオイソゴ、たっぷり意地の悪い笑みを浮かべた。
「ああ。にも関わらずこの有様」
頭を踏み砕かれた死体、首なし死体、そして生首。それを順に目で追うイソイソゴは「ああひどい」「ああむごい」というわ
ざとらしい嘆息をひっきりなしに漏らしてみせた。からかっている。玉城は背筋の凍る思いだった。あれほど荒れ狂い両親
を事もなげに殺した姉を……弄んでいる。事実青空は嘲られるたび青ざめているようだった。
『違うのよ……。殺すつもりはなかったの。でも声が小さいって地雷踏まれたから、ついカッとなって』
「ほほう? わざわざ盟主様にまで直訴した挙句が? 冥王星の嬢ちゃんの腕へしおった結果が?」
ついカッとなって何もかも台無しにしたと? もはやへたり込み体育ずわりで俯く青空に容赦のない詰問が降り注ぐ。
だが責めている訳ではない。玉城は見た。詰問の最中でもいっこう半笑いをやめぬイオイソゴを。また身震いが起こる。容
姿も背丈も7歳の玉城と変わりないのに、イオイソゴという少女は明らかに子供ではない。ただならぬ雰囲気を纏っている。
詰問はただ相手の弱みを抉って、体よく苛めるためだけにしているのだろう。そう思った。
ぐうの音も出ない。そんな様子で黙り込んだ青空は抱えた膝に顔を密着させているため、詳しい表情は分からなかったが、
本当ひたすら後悔しているようだった。
視線に気付いた少女──イオイソゴは咀嚼をやめ、決まりが悪そうに低い鼻を掻いた。
「おおすまん。こりゃヌシの”けえき”じゃったか?」
震えながらやっとのコトで頷くと、「転がっておった故つい口をつけてしもうた。許せよ」とその少女は立ち上がった。
背丈は玉城と同じぐらいかそれ以下。だが雰囲気はいかにもカビ臭い。
「そもそも”りばーす”よ。ヌシはこのまんしょん襲撃に最後まで反対して暴れておったではないか」
「…………」
青空は息を呑んだようだった。義妹だから分かる。「自分の失敗に気付いた」。そういう反応だ。
「鎮めるためわしらまれふぃっく3人──そこらの共同体なら単騎で潰せる幹部級を3人も出張らせておいてじゃな」
『私の家族にだけには手を出さない……そ、そう約束してくれたわよね。それで私も落ち着いたのよね』
銃撃。もうすっかり穴だらけの部屋に描かれた新たな文字は心持ち震えているようだった。
それを認めたイオイソゴ、たっぷり意地の悪い笑みを浮かべた。
「ああ。にも関わらずこの有様」
頭を踏み砕かれた死体、首なし死体、そして生首。それを順に目で追うイソイソゴは「ああひどい」「ああむごい」というわ
ざとらしい嘆息をひっきりなしに漏らしてみせた。からかっている。玉城は背筋の凍る思いだった。あれほど荒れ狂い両親
を事もなげに殺した姉を……弄んでいる。事実青空は嘲られるたび青ざめているようだった。
『違うのよ……。殺すつもりはなかったの。でも声が小さいって地雷踏まれたから、ついカッとなって』
「ほほう? わざわざ盟主様にまで直訴した挙句が? 冥王星の嬢ちゃんの腕へしおった結果が?」
ついカッとなって何もかも台無しにしたと? もはやへたり込み体育ずわりで俯く青空に容赦のない詰問が降り注ぐ。
だが責めている訳ではない。玉城は見た。詰問の最中でもいっこう半笑いをやめぬイオイソゴを。また身震いが起こる。容
姿も背丈も7歳の玉城と変わりないのに、イオイソゴという少女は明らかに子供ではない。ただならぬ雰囲気を纏っている。
詰問はただ相手の弱みを抉って、体よく苛めるためだけにしているのだろう。そう思った。
ぐうの音も出ない。そんな様子で黙り込んだ青空は抱えた膝に顔を密着させているため、詳しい表情は分からなかったが、
本当ひたすら後悔しているようだった。
ビーフジャーキーを呑みこんだ無銘は腕組みをしてしばし考えると、呆れたように呟く。
「いや、その反応はおかしい。話から察するに貴様の姉は父と義母を恨んでいるのではなかったのか?」
「いや、その反応はおかしい。話から察するに貴様の姉は父と義母を恨んでいるのではなかったのか?」
「本音の一つではあるが全てではない……という奴じゃよ」
桃色の舌が人差し指のクリームをペロリと舐めとった。もがもがと口を動かし甘味を堪能するコト10秒後、彼女はひどく
しけった口調でやれやれと呟いた。
「色々喚いておったようじゃが、実は完全に憎んでいた訳ではなくての。こやつは激発を孕んでおる割には理知的なのじゃ。
恨みこそあれそれに引きずられるのも宜しくないと悟っておったよ」
次の言葉を聞いた時、玉城は腕の中の物体を悲しみととともに強く抱きしめた。
しけった口調でやれやれと呟いた。
「色々喚いておったようじゃが、実は完全に憎んでいた訳ではなくての。こやつは激発を孕んでおる割には理知的なのじゃ。
恨みこそあれそれに引きずられるのも宜しくないと悟っておったよ」
次の言葉を聞いた時、玉城は腕の中の物体を悲しみととともに強く抱きしめた。
「きっかけは”てれび”じゃったかの。それに出たこやつの義母が必死に探している姿を見て幾分感情を和らげたようじゃった」
不快感がチワワの顔に広がった。
「詭弁だな。現に貴様の姉は義母を殺したではないか。そうしておいて実は殺したくなかっただと? 世迷いごとも大概に
しろ」
「…………私も……同じ事を……聞きました。すると……」
「詭弁だな。現に貴様の姉は義母を殺したではないか。そうしておいて実は殺したくなかっただと? 世迷いごとも大概に
しろ」
「…………私も……同じ事を……聞きました。すると……」
「若いのう。人間という奴はじゃな、常に白黒はっきり分かれておるわけではないよ。憎んでいるが愛している。愛しているが
憎んでいる。そういう不合理で未分化な感情を抱えたまま共に暮らしていく……。それが家族ではないのかの? だからこそ
こやつは家族の助命を嘆願した」
とここでイオイソゴは玉城に歩み寄り、得意気にクリームの芳香漂う人差し指をビシっと突き出した。
「ヌシの姉はいったじゃろ? やり直そう、また一緒に暮らそうというようなコトを?」
憎んでいる。そういう不合理で未分化な感情を抱えたまま共に暮らしていく……。それが家族ではないのかの? だからこそ
こやつは家族の助命を嘆願した」
とここでイオイソゴは玉城に歩み寄り、得意気にクリームの芳香漂う人差し指をビシっと突き出した。
「ヌシの姉はいったじゃろ? やり直そう、また一緒に暮らそうというようなコトを?」
『色々迷惑かけてゴメンね。ちょっと変なコトやっちゃってこのマンションの人らもたぶん全滅しちゃったけど……もし良かったら
また一緒に暮らしてくれる?』
また一緒に暮らしてくれる?』
玉城は気付いた。先ほど書かれた文字を茫然と眺めているコトに。
「お姉ちゃんは…………お父さんたちと……もう一度暮らしたかった……ようです」
「だが欠点を抉る言葉を吐かれつい逆上し……怒りゆえに薄汚い方の本音を吐き散らかしながら虐殺に至ったと?」
頷く玉城に三度目の呻き。無銘には理解しがたい。彼にしてみれば、放置された青空は父と義母を憎むのが当然であり
憎むのならすぐさま殺すべきなのだ。されど話を聞く限りでは確かに青空は一旦同居を提案した。やり直しを提言した。少
年無銘にしてみればそこにこそ罠があるべきなのだが、どうもスッキリとまとまらない。やはり欠如の指摘に「ついカッとなっ
て」やってしまったのだろうか。それにしてはいささか凄惨すぎるが……。
「だが欠点を抉る言葉を吐かれつい逆上し……怒りゆえに薄汚い方の本音を吐き散らかしながら虐殺に至ったと?」
頷く玉城に三度目の呻き。無銘には理解しがたい。彼にしてみれば、放置された青空は父と義母を憎むのが当然であり
憎むのならすぐさま殺すべきなのだ。されど話を聞く限りでは確かに青空は一旦同居を提案した。やり直しを提言した。少
年無銘にしてみればそこにこそ罠があるべきなのだが、どうもスッキリとまとまらない。やはり欠如の指摘に「ついカッとなっ
て」やってしまったのだろうか。それにしてはいささか凄惨すぎるが……。
「とはいえじゃな。感情をどうするコトもできず理想を破壊してしまうというのまた人間らしくはあるじゃろう。そういう齟齬じゃよ。
人をより進化させ、うまい料理を作らせるのは。だからわしは人間という奴が大好きじゃ。何より……旨いしの」
そういって、すみれ色のポニーテールにかんざしを挿す古風な少女はからからと笑った。
人をより進化させ、うまい料理を作らせるのは。だからわしは人間という奴が大好きじゃ。何より……旨いしの」
そういって、すみれ色のポニーテールにかんざしを挿す古風な少女はからからと笑った。
「後で聞いた話ですが…………お姉ちゃんはただ……自分の気持ちを伝えたかった……ようです……。でも伝えるために
は喋るより先に…………手を出す方が……気持ち良くて……確実だから…………どうしても……止まれないらしい……
です」
しばし無銘は呆気に取られた。口を半開きにしたまま虚ろな瞳をじつと眺め続けた。風が吹き、木々が揺れた。その音を
どこか遠い世界のように感じながらようやく自我を取り戻した無銘は、からからに乾いた口からやっとの思いで感想を述べた。
「なんと厄介な女だ」
「…………ぷっ」
両腕のないどこかの彫像のような少女に初めて人間じみた変化が訪れたのはこの時だ。不必要な言葉は決してこぼす
まいとばかり閉じられていた唇が綻び、慎ましい忍び笑いを漏らし始めた。
「何だ」
憮然とした様子のチワワに玉城は染み通るような微笑を向けた。
「実は……私もちょっとそう思ってます。だから……おかしくて……」
(わからん。彼奴の感情が……我には分からん)
両親を殺した相手を語っているのに、どうして笑えるのか。それが無銘には分からない。
「たった1人の…………家族だから……です」
玉城は、青い空を見上げた。虚ろな瞳にわずかばかりの光が灯ったとき、無銘の心は青く疼いた。
「チワワさんにとって厄介でも……それが私の…………お姉ちゃん……です」
彼女は青空を懐かしんでいるようだった。切なげで今にも消えていきそうな少女の横顔に、無銘は言い知れぬ感覚を覚
え、慌てて目を逸らした。
「ま、いまどきの若人風にいえば”れあ”なのじゃよ”りばーす”は。大人しいが長年の鬱屈で限りのない感情を宿してしもう
ておる。”ぐれいずぃんぐ”めが色欲でわしが大食とすればな、りばーすは……とごめんなさい息が切れました」
へぁへぁとか細い息をつく少女の芳しい口の香りを、しかし無銘は大至急で回避した。具体的には不安定な丸太の上で不安
定な姿勢を取って、落下した。後頭部に灼熱が走り、目から星が出る思いだった。
先ほどから慌ててばかりだと不覚を悔いる少年無銘である。
「大丈夫……ですか?」
「憤怒」
「はい?」
「貴様の姉の罪科だ。七つの大罪とやらにイオイソゴどもを当てはめた場合、貴様の姉は恐らく憤怒に該当する。嫉妬も
近いが話を聞く限り妬みよりも怒りの方が遥かに大きい」
「…………そうです」
は喋るより先に…………手を出す方が……気持ち良くて……確実だから…………どうしても……止まれないらしい……
です」
しばし無銘は呆気に取られた。口を半開きにしたまま虚ろな瞳をじつと眺め続けた。風が吹き、木々が揺れた。その音を
どこか遠い世界のように感じながらようやく自我を取り戻した無銘は、からからに乾いた口からやっとの思いで感想を述べた。
「なんと厄介な女だ」
「…………ぷっ」
両腕のないどこかの彫像のような少女に初めて人間じみた変化が訪れたのはこの時だ。不必要な言葉は決してこぼす
まいとばかり閉じられていた唇が綻び、慎ましい忍び笑いを漏らし始めた。
「何だ」
憮然とした様子のチワワに玉城は染み通るような微笑を向けた。
「実は……私もちょっとそう思ってます。だから……おかしくて……」
(わからん。彼奴の感情が……我には分からん)
両親を殺した相手を語っているのに、どうして笑えるのか。それが無銘には分からない。
「たった1人の…………家族だから……です」
玉城は、青い空を見上げた。虚ろな瞳にわずかばかりの光が灯ったとき、無銘の心は青く疼いた。
「チワワさんにとって厄介でも……それが私の…………お姉ちゃん……です」
彼女は青空を懐かしんでいるようだった。切なげで今にも消えていきそうな少女の横顔に、無銘は言い知れぬ感覚を覚
え、慌てて目を逸らした。
「ま、いまどきの若人風にいえば”れあ”なのじゃよ”りばーす”は。大人しいが長年の鬱屈で限りのない感情を宿してしもう
ておる。”ぐれいずぃんぐ”めが色欲でわしが大食とすればな、りばーすは……とごめんなさい息が切れました」
へぁへぁとか細い息をつく少女の芳しい口の香りを、しかし無銘は大至急で回避した。具体的には不安定な丸太の上で不安
定な姿勢を取って、落下した。後頭部に灼熱が走り、目から星が出る思いだった。
先ほどから慌ててばかりだと不覚を悔いる少年無銘である。
「大丈夫……ですか?」
「憤怒」
「はい?」
「貴様の姉の罪科だ。七つの大罪とやらにイオイソゴどもを当てはめた場合、貴様の姉は恐らく憤怒に該当する。嫉妬も
近いが話を聞く限り妬みよりも怒りの方が遥かに大きい」
「…………そうです」
「よってじゃな。憤怒を宿しておるが故に、ひとたび激発すると止まらんのじゃ」
「ご老人」
「わしら幹部級、そこらの共同体なら単騎で殲滅できる”まれふぃっく”でも窘めるのに苦労する」
「ご老人?」
「最弱の呼び声高き冥王星の嬢ちゃんとて武装錬金の特性と限りない愛をふる活用すれば負けはない」
「ワタクシを無視しないでくださる?」
「平素は大人しく”さぶましんがん”がなければ鈴虫のように可愛らしく囁かざるを得ん”りばーす”とて『武装錬金の特性』を
使えば、手練れた錬金の戦士10人ばかりを相手にしようとヒケは取らん。かの坂口照星は流石に無理としても、火渡赤馬・
防人衛くらすなれば十分に対抗できよう」
「はいはいそうですわね。われらが盟主様から離反したかつての『月』……総角主税とてひとたび”マシーン”の武装錬金特
性を喰らえば勝ち目はありません。わかりましたからワタクシの話を聞いて下さりませんこと?」
「ご老人」
「わしら幹部級、そこらの共同体なら単騎で殲滅できる”まれふぃっく”でも窘めるのに苦労する」
「ご老人?」
「最弱の呼び声高き冥王星の嬢ちゃんとて武装錬金の特性と限りない愛をふる活用すれば負けはない」
「ワタクシを無視しないでくださる?」
「平素は大人しく”さぶましんがん”がなければ鈴虫のように可愛らしく囁かざるを得ん”りばーす”とて『武装錬金の特性』を
使えば、手練れた錬金の戦士10人ばかりを相手にしようとヒケは取らん。かの坂口照星は流石に無理としても、火渡赤馬・
防人衛くらすなれば十分に対抗できよう」
「はいはいそうですわね。われらが盟主様から離反したかつての『月』……総角主税とてひとたび”マシーン”の武装錬金特
性を喰らえば勝ち目はありません。わかりましたからワタクシの話を聞いて下さりませんこと?」
「大口を」
よっと丸太に後ろ足をひっかけながら鳩尾無銘は毒づいた。
「その者たちのコトなら師父から聞き及び知っている。片や火炎同化。片や絶対防御。かような物を打破できる武装錬金の
特性などあろう筈がない。ましてかの師父が敗れるなどと……!」
「はあ」
拳を固めて気焔をあげるに鐶はついていけないようだった。
「とにかく……です。えーと」
よっと丸太に後ろ足をひっかけながら鳩尾無銘は毒づいた。
「その者たちのコトなら師父から聞き及び知っている。片や火炎同化。片や絶対防御。かような物を打破できる武装錬金の
特性などあろう筈がない。ましてかの師父が敗れるなどと……!」
「はあ」
拳を固めて気焔をあげるに鐶はついていけないようだった。
「とにかく……です。えーと」
玉城はきゃぴきゃぴと身を揺すらせながらその時のイオイソゴを再現した。
「だがわしらの盟主様は違うぞ! わしのハッピーアイスクリームで全身磁性流体にされようと”りばーす”の武装錬金の
特性を浴びようと、必ず勝つ! 最弱にして最高! いかな武装錬金の特性といえど、盟主様には決して通じんのじゃ」
特性を浴びようと、必ず勝つ! 最弱にして最高! いかな武装錬金の特性といえど、盟主様には決して通じんのじゃ」
そして若いお姉さんが私とイオイソゴさんの間に割って入って来ました……。玉城はそう説明した。
「ご老人? 長話も結構ですけど、そろそろ本題に入るべきじゃなくて」
イオイソゴに気を取られるあまり見逃していたが、彼女同様テーブルに腰掛けていたらしい。
薄汚れた白衣とムチをあしらったヘアバンドが印象的なキツネ目の美女が腰をくゆらせながらやってきた。
「ま、戦団のお馬鹿さんたちと一戦交えたいっていうなら止めはしませんわよ。何しろここ戦団のOBが運営してるトコです
もの。一般人の入居者からカネ巻き上げて戦団の運営費に充てていますから、そろそろ戦士がすっ飛んでくる頃かと
立ちながらも紅茶をすすり左手のコースターに白磁のカップをかちりと当てたのは──…
イオイソゴに気を取られるあまり見逃していたが、彼女同様テーブルに腰掛けていたらしい。
薄汚れた白衣とムチをあしらったヘアバンドが印象的なキツネ目の美女が腰をくゆらせながらやってきた。
「ま、戦団のお馬鹿さんたちと一戦交えたいっていうなら止めはしませんわよ。何しろここ戦団のOBが運営してるトコです
もの。一般人の入居者からカネ巻き上げて戦団の運営費に充てていますから、そろそろ戦士がすっ飛んでくる頃かと
立ちながらも紅茶をすすり左手のコースターに白磁のカップをかちりと当てたのは──…
「やはりグレイズィング=メディックか」
「また……知りあい、ですか」
「我の出産に立ち会った者だ。単純にいえば色狂いの残虐魔。奴めに我の実母は生きながらに腹を裂かれホムンクルス
幼体を埋め込まれた」
「また……知りあい、ですか」
「我の出産に立ち会った者だ。単純にいえば色狂いの残虐魔。奴めに我の実母は生きながらに腹を裂かれホムンクルス
幼体を埋め込まれた」
「ワタクシとしては別に駆けつけてくるお馬鹿さんたちブチ殺して中途半端に蘇生して! 身動き封じた上で犯して尊厳傷付
けても構いませんけどね! 性別? え? 愛の行為に性別なんて関係ありませんわよ? それはともかく、ふふ。台所に
あるありふれた器具でも拷問はできますから、倒した戦士たちで実演してみましょうか?」
「分かったから向こうでやってくれんかの。お前がでしゃばってくると痛くて気持ちの悪い話題になって困るんじゃが」
じっとりとした半眼に抗議されたグレイズィングは、しかし一層双眸を輝かせた。
「ヤッていいんですの!? で、でもお仕事中なのよん今は。駄目よダメダメ。職務と性欲はわけなきゃダメなの」
やがてぶるぶると震え出したグレイズィングは何故か股間の辺りに手をやったり離しながら部屋の外へ出て行った。
やがて荒い息とか細い叫びが木霊しはじめたが、玉城には何が起こっているかまったくわからなかった。
「ま、とにかく後はこのまんしょんに火を放ち全焼させるだけじゃな。されば戦団へのカネは断たれる。ふぉふぉ。こういう
地味ーな兵糧攻めみたいな行為であれど、積み重ねれば戦団は疲弊する。よってわしらはここを狙ったのじゃ」
「……のですか?」
「ふぉ?」
「ここの人達に……恨みは……なかったん………ですか?」
玉城は精いっぱい声を震わす。つい今しがた両親を殺されたばかりで混乱の中にいるが、それでも問いかけには抗議
の気分がとても大きい。
けても構いませんけどね! 性別? え? 愛の行為に性別なんて関係ありませんわよ? それはともかく、ふふ。台所に
あるありふれた器具でも拷問はできますから、倒した戦士たちで実演してみましょうか?」
「分かったから向こうでやってくれんかの。お前がでしゃばってくると痛くて気持ちの悪い話題になって困るんじゃが」
じっとりとした半眼に抗議されたグレイズィングは、しかし一層双眸を輝かせた。
「ヤッていいんですの!? で、でもお仕事中なのよん今は。駄目よダメダメ。職務と性欲はわけなきゃダメなの」
やがてぶるぶると震え出したグレイズィングは何故か股間の辺りに手をやったり離しながら部屋の外へ出て行った。
やがて荒い息とか細い叫びが木霊しはじめたが、玉城には何が起こっているかまったくわからなかった。
「ま、とにかく後はこのまんしょんに火を放ち全焼させるだけじゃな。されば戦団へのカネは断たれる。ふぉふぉ。こういう
地味ーな兵糧攻めみたいな行為であれど、積み重ねれば戦団は疲弊する。よってわしらはここを狙ったのじゃ」
「……のですか?」
「ふぉ?」
「ここの人達に……恨みは……なかったん………ですか?」
玉城は精いっぱい声を震わす。つい今しがた両親を殺されたばかりで混乱の中にいるが、それでも問いかけには抗議
の気分がとても大きい。
一緒に食事した人もいる。ちょうど1階上には友達が住んでいる。名前は知らないがいつも同じ時間パンジーに水をやる
おじいさんは見ているだけで大好きだった。誰もかれも玉城家の不幸──青空の失踪──を悼み、助けてくれたわけでは
ないけれど、それでも玉城は自分をとりまく環境が、そこにいる人たちが……好きだった。
おじいさんは見ているだけで大好きだった。誰もかれも玉城家の不幸──青空の失踪──を悼み、助けてくれたわけでは
ないけれど、それでも玉城は自分をとりまく環境が、そこにいる人たちが……好きだった。
ゆえに凛然と張られた声を浴びるイオイソゴは一瞬軽く目を落としたが──…
すぐさま黒々とした微笑を顔一面に広げた。幼くも愛らしいがだからこそ玉城は怖気に震う。
「ないよ。食糧にさえせん。ただ間接的にとはいえ戦団の運営費を捻出しているが為、かかる目に遭って貰っただけじゃよ」
からからとした口調には何ら罪悪が見られない。やるべきだからやった。柔らかな声は明らかにそう告げていた。
「なんにせよ潮時かの。盟主様からも事を荒立てるなといわれておる。引くぞ”りばーす”」
『私絶賛ヘコみ中なの。もうちょっと放っておいて……放っておいて(ぐすん』
膝の前に『描かれた』文字を見た玉城光は心底感心した。姉は体育ずわりで俯いたまま習字コンクールで金賞が取れそう
なほど綺麗な文字をサブマシンガンの弾痕で生産している。
「ないよ。食糧にさえせん。ただ間接的にとはいえ戦団の運営費を捻出しているが為、かかる目に遭って貰っただけじゃよ」
からからとした口調には何ら罪悪が見られない。やるべきだからやった。柔らかな声は明らかにそう告げていた。
「なんにせよ潮時かの。盟主様からも事を荒立てるなといわれておる。引くぞ”りばーす”」
『私絶賛ヘコみ中なの。もうちょっと放っておいて……放っておいて(ぐすん』
膝の前に『描かれた』文字を見た玉城光は心底感心した。姉は体育ずわりで俯いたまま習字コンクールで金賞が取れそう
なほど綺麗な文字をサブマシンガンの弾痕で生産している。
「と、感心していたら……イオイソゴさんにお腹を殴られて……気絶、しました」
そうか、とだけ頷いて無銘は別な質問をした。
「さっきから気になっているが、その『リバース』というのは何だ?」
「お姉ちゃんのコードネーム……らしいです。リバース=イングラム。それがお姉ちゃんの……今の名前……です」
「奴らの命名則か。我らが大鎧の部位名を抱くように、奴らは武装錬金の種類を名字に」
「そして目覚めた私は──…」
「さっきから気になっているが、その『リバース』というのは何だ?」
「お姉ちゃんのコードネーム……らしいです。リバース=イングラム。それがお姉ちゃんの……今の名前……です」
「奴らの命名則か。我らが大鎧の部位名を抱くように、奴らは武装錬金の種類を名字に」
「そして目覚めた私は──…」