「気を取り直して……」
狼娘が不敵な笑いを浮かべた。
「お主たち、ここに何をしにきたのだワン?」
「姉貴を取り返しに来たのさ。大人しく捕まれ」
度胸では栄子も負けてはいない。
棒きれを構えて、狼娘に対峙する。
「もし、暴れるというなら……」
栄子の両脇から早苗と鮎美が体を乗り出してきた。
その手には栄子と同じく、棒きれが握られている。
そして、栄子たちに囲まれるように、狼娘の肉体が眠り姫よろしく鎮座している。
「――お前の"本体"を叩く!」
一陣の風が吹いた。気がした。
栄子たちが目を開けると、そこには狼娘の肉体を抱きかかえた千鶴=狼娘の姿があった。
高速で移動して肉体を奪還したのだ。
「誰が何を叩くだワン?」
狼娘は笑みを崩さない。
「この肉体のポテンシャルは素晴らしいの一言だワン。
お主たちが何をしようとも、わたしの前には、触れることなく消え去るのだワン」
狼娘が不敵な笑いを浮かべた。
「お主たち、ここに何をしにきたのだワン?」
「姉貴を取り返しに来たのさ。大人しく捕まれ」
度胸では栄子も負けてはいない。
棒きれを構えて、狼娘に対峙する。
「もし、暴れるというなら……」
栄子の両脇から早苗と鮎美が体を乗り出してきた。
その手には栄子と同じく、棒きれが握られている。
そして、栄子たちに囲まれるように、狼娘の肉体が眠り姫よろしく鎮座している。
「――お前の"本体"を叩く!」
一陣の風が吹いた。気がした。
栄子たちが目を開けると、そこには狼娘の肉体を抱きかかえた千鶴=狼娘の姿があった。
高速で移動して肉体を奪還したのだ。
「誰が何を叩くだワン?」
狼娘は笑みを崩さない。
「この肉体のポテンシャルは素晴らしいの一言だワン。
お主たちが何をしようとも、わたしの前には、触れることなく消え去るのだワン」
狼娘が木の上までジャンプした。
追いかけようとした栄子たちを目で制す。
「勘違いするなだワン。逃げるわけじゃない。
この肉体をちょっと置いてくるだけだワン。
お主たちからは何が飛び出すか分からない。
ここはきっちり、始末させてもらうだワン」
千鶴=狼娘は消え去った。
嵐の前の静寂。
沈黙を、栄子が破る。
「作戦A(肉体人質作戦)はダメだったな。作戦Bに移ろう」
「えっ、でも……」
鮎美が心痛そうな声を上げた。
「心配するな、何とかなるさ。
それに相沢千鶴はわたしの姉貴なんだ」
千鶴=狼娘が帰ってきた。
その容姿は見たところ、栄子たち"普通の人間"と変わりない。
狼娘を助けようとして逆に噛まれた、牙の痕が痛々しいが、長い黒髪の美しい女性である。
しかしその実際は、鍛え抜かれた歴戦の(その詳細はここでは書かないが)肉体だった。
対する相沢栄子は、多少運動神経がいいだけの少女にすぎない。
両者は森の中、すこんと抜けた広間の中心で対峙する。
相沢たけるが緊張のあまり、腰が抜けそうになって、体勢を立て直す。
木の葉が踏まれて、ちりっという音がした。
追いかけようとした栄子たちを目で制す。
「勘違いするなだワン。逃げるわけじゃない。
この肉体をちょっと置いてくるだけだワン。
お主たちからは何が飛び出すか分からない。
ここはきっちり、始末させてもらうだワン」
千鶴=狼娘は消え去った。
嵐の前の静寂。
沈黙を、栄子が破る。
「作戦A(肉体人質作戦)はダメだったな。作戦Bに移ろう」
「えっ、でも……」
鮎美が心痛そうな声を上げた。
「心配するな、何とかなるさ。
それに相沢千鶴はわたしの姉貴なんだ」
千鶴=狼娘が帰ってきた。
その容姿は見たところ、栄子たち"普通の人間"と変わりない。
狼娘を助けようとして逆に噛まれた、牙の痕が痛々しいが、長い黒髪の美しい女性である。
しかしその実際は、鍛え抜かれた歴戦の(その詳細はここでは書かないが)肉体だった。
対する相沢栄子は、多少運動神経がいいだけの少女にすぎない。
両者は森の中、すこんと抜けた広間の中心で対峙する。
相沢たけるが緊張のあまり、腰が抜けそうになって、体勢を立て直す。
木の葉が踏まれて、ちりっという音がした。
そのとき両者が動き出した。
圧倒的なスピードで距離を詰めるのは千鶴=狼娘だ。
栄子は木の枝を構え、バットをスイングするように、千鶴=狼娘を迎え撃つ。
狼娘はジャンプしてよける。
しかしそれが、栄子の狙いだった。ジャンプしたくなるように横なぎに振ったのだ。
「空中では動きが取れないだろ! 行け!」
早苗と鮎美が空中めがけて投石する。
しかし千鶴=狼娘は宙に浮いた状態で、体のひねりを使って石を払いのけた。
千鶴=狼娘が回転ジャンプをしたアイススケートのような着地をする。
そしてあろうことか、栄子たちに向かって拍手した。
「見事にわたしの初撃をしのいだワンね」
その表情は攻撃を防がれたというのに、勝ち誇ったようだ。
「相当わたしの"スピード"を警戒していると見えるだワン。
よけられない状況を作るのに腐心している。
警戒も当然だワン。わたしのスピードは――」
「"姉貴の"だ」
栄子が鋭く言った。
「勝手にお前の手柄にしてんじゃねえ」
千鶴=狼娘は笑顔を崩さない。
しかしその裏で何かが変わった。
そして千鶴=狼娘の姿が消えた。
栄子が叫ぶ。
「来るぞ!」
圧倒的なスピードで距離を詰めるのは千鶴=狼娘だ。
栄子は木の枝を構え、バットをスイングするように、千鶴=狼娘を迎え撃つ。
狼娘はジャンプしてよける。
しかしそれが、栄子の狙いだった。ジャンプしたくなるように横なぎに振ったのだ。
「空中では動きが取れないだろ! 行け!」
早苗と鮎美が空中めがけて投石する。
しかし千鶴=狼娘は宙に浮いた状態で、体のひねりを使って石を払いのけた。
千鶴=狼娘が回転ジャンプをしたアイススケートのような着地をする。
そしてあろうことか、栄子たちに向かって拍手した。
「見事にわたしの初撃をしのいだワンね」
その表情は攻撃を防がれたというのに、勝ち誇ったようだ。
「相当わたしの"スピード"を警戒していると見えるだワン。
よけられない状況を作るのに腐心している。
警戒も当然だワン。わたしのスピードは――」
「"姉貴の"だ」
栄子が鋭く言った。
「勝手にお前の手柄にしてんじゃねえ」
千鶴=狼娘は笑顔を崩さない。
しかしその裏で何かが変わった。
そして千鶴=狼娘の姿が消えた。
栄子が叫ぶ。
「来るぞ!」
つづく