SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 永遠の扉 過去編 第002話 (1-1)


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 妹の誕生によって玉城青空が最初に被った被害はインフルエンザだった。
 小学校卒業を控えた冬、生後間もない妹──玉城光──が原因不明の高熱で入院した。義母は泊まり込みで看病し、
多忙な実父は会社から病院に直行し、家で少し寝てからまた出勤という生活をするようになった。
 青空は、結果からいえば放置された。

「もうすぐお姉ちゃんになるんだし自分のコトは自分でやってね」

とは病院へ行く義母が放った伊予弁の翻訳結果だが、青空自身は心から素直に従うコトにした。もし病気が長引いて、
妹のノドがつぶれ自分のようになっては大変だと思ったのだ。もともと自立的で、周りに迷惑を掛けたがらない──言いか
えれば他人に頼れない──性格である。誰も待っていない暗い自宅の鍵を開ける日々を受け入れた。(この頃祖父母は
4人とも死没していた)
 だがある朝起きると、ぞっと寒気に覆われるのを感じた。カゼのようだった。休もうと思ったが、学校へ電話を入れるのは
怖かった。彼女が電話すると大抵の場合、相手から「もっと大きな声で」といわれるのだ。それはとても怖く、嫌だった。普段
代わりに電話してくれる義母は病院にいた。電話はできない。悩んだ末、青空は学校へ行った。声を出し、それを他者に
咎められるコトは恐怖だった。無理をして悪寒や微熱の餌食になるより恐怖だった。小学校最後のテストも近かった。ど
のテストもあと1回100点を取れば6年連続満点だった。それさえ取れば最近妹だけに向きがちな父の関心も取り戻せる。
頑張ったねって褒めて貰える。だから学校行って勉強しなきゃいけない。まだ子供だった青空はそう信じていた。

 だからきっと大丈夫。ただの風邪。すぐ治る。そう信じて登校した。

 なのに授業には身が入らない。無情にも熱は時限ごとに高まり青空を苦しめた。苦しみながらも、脂汗をかきながらも、
青空は顔面に微笑を張り続けた。体調不良に気付かれれば話しかけられる。そうすると応対しなくてはならない。応対すれ
ばまた「もっと大きな声で」といわれる。大きな声。頼みもしないのに父の再婚によって転がり込んできた義母は頼みもしな
いのに青空へ発声練習をさせた。大きな声で。もっと大きな声で。実母が乳幼児期に絞めた首が畸形をきたしていても、
それを知っていても、『大きな声で』。どうやら快活なる赤茶髪の義母は性格面からの刺激で肉体面の不備が万事解決する
と信じているようだった。義理といえ家族であるから欠如を直してあげたいと思っているようだった。そして自身が快活であ
るが故に快活さは総てを解決する万能の代物だと信じているようだった。
 だから青空にいう。「愛の鞭」「あなたを思って敢えて厳しく」……そんな顔で。
 引っ込み思案だから声が出ない。気が弱いから声が出ない。大人しすぎるから声が出ない。そうやって青空を否定し、ひ
と通り傷付けてからこう締めくくるのだ。彼女は。

だからその性格直したらどう?

ファイト!

 青空は陰鬱なる気分であらゆる医療と発声法に関してズブの素人である筈の義母を講師と崇め、或いは崇めさせられ
何度も何度も、それこそ声帯から血を吐く思いで大声を出そうと努力した。或いは、させられた。

 結果は、出なかった。

 というより「これ以上続けても意味がない」そう思った青空が、ある日頑な無言の拒否を見せた。
 現代医学で治らなくても気の持ちようで必ず治る、親切顔で根拠のない楽観論を振りかざしていた義母は青空に幻滅した
ようだった。少なくても発声練習を持ちかけることはなくなった。以来生じた微妙な溝。電話を代わりにかけてもらう時のえも
いわれぬ反応。大きな声で。もっと大きな声で。それが出せたら引っ込み思案にも弱気にも大人しすぎにもならない。逆だっ
た。内面がそうだから大声が出ないのではなく実母に喉首を破滅させられたから内面がそうなった。そうなったからせめて
誰にも迷惑かけないよう様々な努力と我慢──もっとレベルの高い私立の中学校へ行きたかったが妹の誕生が家計にも
たらす影響を鑑み密かに断念した──を重ねているのではないか。憤慨がよぎった。恐らく生涯初めての憤慨が。

 頼みもしない発声練習で静かな内面を散々痛めつけてきたからますます声が出せなくなった。

 と。


熱はとうに3時限目中盤で39度を超え、帰りの会になっても下がる気配がない。錯乱している。灼熱の世界で青空は思っ
た。授業の内容はすでに頭にない。代わりに義母先生のくそ忌々しい発声のお講義ばかりがずっとずっと巡っていたようだっ
た。背中をびっちりと濡らす嫌な汗に青空は自らの身体が限界状況にある事を悟った。されど帰りの会で手を上げ保健室
行きを宣言するのはとてつもなく恐ろしかった。熱でいっそう掠れた小声を放ち、注視を浴び、「もっと大きな声で」と教師に
反駁されるのはこの上なく恐ろしかった。他の者の帰りを遅くするのも避けたかった。微笑を張り付けたまま誰からも放置
されている方がずっとずっと幸せだった。
 そうして学校が終わるとふらふらの足で待つ者のいない自宅へ帰り、着替えもせず布団に潜り込み、一晩中悪夢の中で
喘いだ。父は帰って来なかった。青空の妹──光が危篤状態になったためである。俄かに勃発した事態に彼は青空の事
など忘れ、一晩中まんじりともせず付き添っていた。もしこの時電話の一つでもしていれば、運命はもっと違う展開を遂げた
とも知らず。
 似たような日は3日ほど続いた。
 そして玉城光が峠を超えたのと入れ替わるように、青空がそこに迷い込んだ。
 青空が罹患していたのは風邪ではなくインフルエンザであり、無理に無理を重ねた結果、肺炎さえ併発し、彼女は2週間
の入院を余儀なくされた。テストは、受けられなかった。3年生の時から密かに描いていた6年連続100点の夢は消え去った。

「どうして連絡してくれなかったの?」

 入院中、義母が放った言葉に青空は自分の感情が嫌な熱を帯びるのを感じた。それは再来だった。欠席すべき学校で
一人ぼっちの微笑と共にさんざ味わった灼熱の再来。
 言葉は幾らでも意識の中に沸いていた。
 元々苦手だった会話を更に苦手にしたのは誰なのか。電話を恐怖させたのは、父を自分から奪い彼を振り向かせる唯
一の機会を奪ったのは誰なのか。理にかなったやりようなど一切考えず自分の良かれのみ押し付け傷つけたのは? 連
絡? 妹にかかり切りで入院中電話の一本もよこさなかったのは誰なのか。


 できるコトなら同じ思いを。


 熱の中みたおぞましき悪夢を貴方にも。


 静かな精神が戦慄(わなな)いた。「そうあるべき」静かな自分とはかけ離れた感情が全身を貫くのを、青空は初めて知覚
した。従えば叫べる……いや、叫びたいが故に発生した新たな感情。鉄のような重さで意識にかかる緘黙(かんもく)の癖(へ
き)の前で青空は足掻いた。だが喋ろうとすればするほど言葉は出ない。大きな声で。もっと大きな声で。意識すればする
ほど声帯は上滑る。喉奥は気流の坩堝と化すだけで何ら大声を発する気配がない。青空は自らの喉を思い暗澹たる瞳色
になった。大きな声で。もっと大きな声で。もしそうやって喋れたのなら、全ての会話において傷付けられる事はなかった。
父の再婚に異を唱え、忌々しい発声練習などする事もなく、学校への電話もちゃんと入れ6年連続の快挙さえ得られたか
も知れなかった。
 努力が認められ、人の輪の中でごくごく普通の少女として暮らせたかも知れなかった。


 その時、義母の腕の中で義理の妹が笑った。ネコのような無邪気な声。とても死にかかっていたとは思えないほど元気で

 大きな声

 で。

 輝くような笑顔だった。人間なら誰でも愛でたくなる愛らしい笑顔を光は浮かべ、だぁだぁと母親に何かを訴えかけていた。
 その瞬間彼女は青空などまるでいないように光をあやし始めた。青空がいいかけた何事かが実はどうでも良かったように
母と子の、血のつながった母と子のコミュニケーションを開始し、光の笑顔をますます広げた。

 その笑顔を無言の笑顔がじつと眺めた。静かに。ただ静かに。










「のわあああああああああ!?」
 砂礫と衝撃波の坩堝の中で小札は目を剥いた。爪。巨大な爪。見るだけで肉が裂かれそうな鋭い三前趾足(さんぜんし
そく)が2対、自分めがけて迫ってくる。実況者特有の観察眼は爪の後ろにいる鳥の影をも捉えていたがすくみ上がるばか
りで動けない。急襲。先ほどまで仲間と歓談していた空間は一瞬にして戦場に変わっていた。手にしたロッド……マシンガ
ンシャッフルを使うのさえ彼女は忘れていた。爪は気流を裂きながら轟々と迫る。

「飛天御剣流──九頭龍閃」

 小札の傍らを金色の奔流が通過した。総角。流石の彼も一手遅れたと見え、利き腕の先で刀が形を成したのは正に激突
の瞬間であった。とうに吹き飛ばされた霧の粒子さえ蒸発させそうな光が瞬いた。ついで何かと何かがぶつかる重い音。光は
武装錬金発動の輝きと9つの剣閃が混じった物で、音は剣気と純粋速度の衝突によって生じた物……羽や爪の破片までも
参加表明した荒れ狂う大気におさげを揺らめかしながら、小札は慌ててロッドを突き出した。何故ならば爪は依然として彼
女に向かってきている。先ほど見た姿からあちこち斬り飛ばされ、ひび割れ、禍々しさを増した爪が──…執拗に。
 爪の向こうの総角が驚嘆に呻く中、しかし小札は冷汗三斗の面持ちで踏み留まった。

 絶縁破壊。

 ロッドの武装錬金マシンガンシャッフル先端の宝石より放たれるセルリアンブルーの妖光は、ある条件付きで触れた物の
神経を破壊する。絶縁破壊。神経を覆う髄鞘というカバーを破壊し無力化する技は、たとえ相手がホムンクルスといえど……
有効。人間でいう『神経』に相当する何事かの器官を破壊するのだ。更に条件も満たしていた。小札が突き出すロッドの特
性は「壊れた物を繋ぎ、繋いだ後は自由自在」。それに向かうは傷だらけの──両翼だけでも羽根の脱落と破損が著
しい──鳥型ホムンクルス。総角の初撃であちこちが「壊れた」ホムンクルス……。

 だが。

 そのまま突撃してくるかに見えた鳥型ホムンクルスが速度を緩め、軽くはばたいた。転瞬それはあっと息を呑む小札の眼
前からかき消えた。揚力。破滅寸前の翼が奏でる不協和音に題名をつけるとすれば正にそれこそ相応しい。地上すれすれ
からぶわりと舞いあがったホムンクルスは円弧を描き……急降下。

 鳶色の瞳が驚嘆に見開かれたのもむべなるかな。

 腕が飛ぶ。タキシードを纏った細腕の肘から先が、宙を舞う。

(……羽根か!!)
(斬り飛ばすさまはギロチンのよう……)

 攻撃すべく距離を詰めていた総角に微妙な隙が生じたのはその時である。着地済みの鳥型ホムンクルスはある物を咥え、
振りむきがてら投げつけた。

 まだロッドを握ったままの細腕を総角めがけ。

 ロッドが絶縁破壊の残り火を噴きあげるころ総角の右肩もまた張り裂けた。傷。壊れ。初撃でそれを負わせていたのは彼
だけではなく──… 血しぶきの中、目の色を変える総角を絶縁破壊の雷光が包んだ。
 鳩尾無銘、栴檀貴信、栴檀香美の3名はこの時になってようやく攻撃意思を見せた。遅いようだが戦闘開始からはまだ
2秒と経っていない。一団の中でもっとも素早い香美が飛びかかったが爪による攻撃は空を切り、逆に首筋に鋭い羽の一撃
を浴びる羽目になった。
(ニャろ!!! あたしでさえ捉えられんとかどーいうコトよ!!)
 倒れそうになる体をすんでの所で押し戻しながら涙目で振り返る。玉城。依然としてハヤブサの形を取る敵は、しかしや
や不思議そうに香美を見た。
(ははっ!! 首を切断しようと思ったのだろうが!!! 威力を殺がせて貰ったぞ!!!)
 空飛ぶ蛇のように全身をくゆらす鎖が小うるさく香美の背後──貴信にとっては眼前──を行き過ぎた。
「ボサっとするな新参ども!!!」
 咆哮とともに兵馬俑が放つ橙色の光があった。銅拍子。シンバルのような形をした投擲具である。もちろん狙われた玉
城は事も投げに回避したが、その分貴信たちとの距離が空いた。続いて冷凍された手拭がブーメランのように玉城を狙う。
これも回避されたが、しかし貴信はサラサラのメッシュヘアの中で頬が裂けんばかりに笑った。敵との距離はだいぶ開き……
現在10メートルにやや足らぬぐらい。
「すきを見せたら! あ・す・はないぜー♪」
 貴信と同調したのか。楽しげに八重歯を剥きだす香美が右手を横に向かってあらんかぎり突き出した。掌にある人型ホ
ムンクルス特有の捕食孔が燦然と光を帯びた。
「いーっぴつそぉじょう! て・ん・かごめん! はくしゅのあーらし♪ しんうちとーじょー!!」
 どうやら奥底からエネルギーが湧き出てきているらしい。とは編笠から際限なく吐き出される矢を回避するに忙しい玉城に
は見えなかった。貴信との距離は離れていく。15メートル……。無銘の燃え盛る指かいこの牽制が功を制した。25メートル。
『いつも思ってるんだが鳩尾!! いい加減その新参ってのはやめてもらおうか!!』
 手ごわしと見た兵馬俑に殺到する玉城の、更に背後めがけて香美は最大速で駆けた。距離が詰まるたび右手の輝きは
増し、ついには外部へ光球さえ作り始めた。太陽の輝きを持つそれは徐々に肥大しているようだった。最初はビー玉、次は
ソフトボール、そしてサッカボール……捕食孔から洩れる煌く粒子を浴びてぐんぐんと肥大化するそれは香美がどれほど駆
けようと決して脱落せしない。
 真横に突き出されたしなやかな腕から若干の距離を置きつつもピタリと吸いついている。
『僕たちが加入したのは……6年前か7年前だああああああああああああ!!!』
 大きく地を蹴る香美の左手から鎖が伸びた。この時玉城は距離にして彼らの8メートルほど前にいた。それを上空から狙
い打つように鎖が伸びた。先端の星型分銅がひび割れの翼を貫通した。それを合図に香美の手首が微妙な返しを見せた。
「んふふっ! これさこれさ、ご主人の”てく”じゃん”てく”!」
 翼に風穴開けてなお止まらぬ鎖がぶぅんとうねりを立てて跳ね上がり、ハヤブサの胴体に絡みついた。それでもなお止ま
らず翼や爪に衝突、そして拘束。ハヤブサはもがくが鎖がほどける気配はない。縦横交互に編み込まれた真鍮色の環状線
材どもは凄まじい力を帯びて玉城のあらゆる部位に食い込んでいる。
『悪いな!! 単純な力だけなら僕はブレミュで1番だと自負している! 加えてハイテンションワイヤーの特性で鎖が衝突
するたびエネルギーを抜かせて貰ってもいる!!! 脱出は不能だ!!』
「そゆこと! きりきりまーいまい! さいーごにばんざーい!! じゃん!」
玉城が重苦しい音とともに地面へ落ちたのは、飛行継続が不可能になったためである。
「フン。我が囮を務めてやったのだ。しくじるなよ」
『……拘束された相手を狙い撃つのは信条に反するが!! 引けぬ理由もまたある!!』


 共有する視覚の中つきささるのは……腕。生々しく血を流す小札の腕。


「あやちゃんイジめたバツ!! めちゃんこ痛い仮ぎゃーするじゃん!!」

 香美はややふらつきつつも伸ばしていた右手を引く。

 もはや直径3メートルほどにまで膨れ上がった光球が彼らの眼前に現れた。

『超新星よ! 閃光に爆ぜろオオオオオオオオオオオオオ!』
「じゃん!」
 轟然と押し出された球体がプロミネンスを巻き上げながら拘束中の敵へと向かう。橙の光輝が迸り、あらゆるの物を熱ぼ
ったく炙り上げる。勝った。確信する兵馬俑の前で、それは起こった。
「それ……カッコいいです」
 光とともに人の形──なよなよとした少女──を取ったホムンクルスはまず、無造作に手を突き出した。
「だから……真似……します」
 三者が三様に目を見開いたのはその変貌自体ではなく、足元に鎖をわだかまらせている彼女の姿にである
(鎖の拘束が!?)
(抜けられてるし!! どーゆーコトよコレ!!)
(ドラ猫めが! ああも小柄なれば体積的に必然!)

(しかし──…)

 鳩尾無銘に戦慄走る。

(少女、だと?)

 兵馬俑からやや離れた場所。岩陰からそっと彼女を覗き見たのはむろん特異な体質ゆえだ。まだ母胎にいるころホム
ンクルス幼体を埋め込まれ、犬とも人ともつかぬ存在に生まれついた鳩尾無銘。およそ11か月後、早坂秋水との戦いに
おいてようやく人間形態を確保するほど境界線上を「たゆたいし」、今はチワワでしかない彼だから、鉄火場とあれば安全
圏にスっ込むのは当然だ。
 その彼が遠巻きに見た玉城光は──…

 瞳が虚ろな以外まったく普通の少女である。


(フザけるな……)


 このとき背後で膨れ上がる怒りに気づいたのは栴檀貴信ただ一人だけであった。


(『また』なのかレティクルエレメンツ!! 貴様たちはまた年端もいかぬ少女を……!!!)

 果たして光球は玉城の右掌に受け止められ、徐々にその質量と体積を失し始めた。吸収されている。鎖分銅から抜き出
したエネルギーを体内に蓄積できる貴信はそう分析したが時はすでに遅し。香美ががくりと膝を笑わした。
(あの光球は僕と香美の全生体エネルギーを変換したもの! 発射直後は思うように動けない!)
 やがて玉城の右掌がすっかり光球を飲みほしたのと入れ替わりに、彼女の左掌から凄まじい荷電粒子の波が放出された。
 いち早く突撃していた兵馬俑が吹き飛ばされた。辛うじて跳躍した香美も両足首を焼かれ、成す術なく地に落ちた。

(だが)
(……その通りだ新参。やるぞ)

 くるりと首を翻した貴信と兵馬俑は素早く目配せし、やがて絞り出すような声とともに玉城へ吶喊した。





「さて。後に鐶光が鳩尾無銘にベタ惚れするのを見ても分かるように(いいよね!! 男のコ大好きになってもじもじする
女のコ!! 私も経験あるから分かるよ!!)……彼女は彼にみごと助けられる。ふふっ。当然といえば当然の流れだ
けど……」

「しかしだソウヤ君。君は疑問に思わないかい? なぜ鳩尾無銘は玉城光を助けたのか……ってね」

「ふむ。なるほどね。彼は擬似的にとはいえ総角や小札といった家族を持っていた。一見、義姉に虐げられ見捨てられてい
る玉城は……たとえば姉を失いかけたがゆえ君の伯母上に優しくした早坂秋水よろしく捨て置けなかった……か」

「半ばは正解だ。しかしだね、半ばは違う」

「鳩尾無銘が総角たちと家族になる『ある事件』」

「ミッドナイト。レティクルエレメンツ土星の幹部が主宰する……死の乱交」

「その終極には犠牲者がいる。救えなかった少女がね」

「彼女と玉城を重ね合わせたがゆえに鳩尾無銘は……立ち上がる」

「もっとも本人は気づいてなかったけどね」

「忍びにも関わらず感傷に邪魔され、何度も何度も勝機を逃し……その分よけいに傷つきながらも……」

「立ち上がり……そして救うのさ」