「頼む。姉貴を助けてくれ。
姉貴の力に対応できるのは、お前だけなんだ」
栄子はそういうと頭を下げた。
居候を始めて以来、イカ娘が頭を下げさせられることは多々あったが、
栄子が頭を下げることはほぼあり得ないことだった。
テント内に緊張が走る。
やがて、イカ娘が口を開いた。
「断るでゲソ」
「イカちゃん……!」
早苗が悲痛な声を上げた。
イカ娘はみんなの顔を見回すようにしながら、
「狼娘は話してくれたでゲソ。
この山がいずれゴルフ場に変わってしまうということを。
あやつはそれを止めるために、一人きりで侵略を始めたのでゲソ。
まるでわたしと同じじゃなイカ。
世界中が敵に回っても、わたしは狼娘の味方でいてやりたい。
いや、そうでなくちゃいけないような気がするのでゲソ」
「そうか……」
栄子は深くうなずいた。
そしてぱっと表情を変えると、
「まあよく考えたら、お前がいるといつものドジで足手まとい確定だったわ。
みんな、行こうぜ。
作戦はイカ娘抜きで立てる。気を使わせちゃいけないからな」
栄子がテントを出ると、他のみんなもおずおずとその場をあとにした。
一人になったイカ娘は、ぽつねんと座り込んでいたが、やがて立ち上がり独り言を呟いた。
「――さあて!
わたしはなにを気にしているのでゲソか?
一人に戻っただけじゃなイカ。
わたしは一人でも楽しめる大人でゲソ。
ここは一つ、川遊びと洒落こむでゲソ。」
そういうとイカ娘はテントから顔を出した。
栄子たちは隣のテントで何やら話し合っているようだ。
「人間どもがどこまでやれるか、今回は高みの見物でゲソ」
そしてバーベキュー跡を通り過ぎ、川に入ると、まずは息の続く限り潜って、ぷはっと顔を出した。
「冷たくていい気持ちでゲソー!」
ゴシゴシと顔のあたりを拭う。最初は右手で、その次は、触手で。
「おかしいでゲソね。なんか、景色が滲んで見えるでゲソ。
まあいいか。水に入れば、分からないでゲソ」
千鶴=狼娘は森深くにいた。
「山を歩くにはコツがいる。ここまでは追ってこれないはずだワン」
その言葉通り、千鶴=狼娘の山歩きは見事なものだった。
ナイフ(手刀)使いは最小限に、安全なところだけを選んで歩く。
狼娘のもともと持っていたサバイバル術と、千鶴の身体能力が合わさった、一個の芸術品だった。
遠くでライトが光る。
「追ってきはじめたようだワンね。
でも、速度の違いに加え、こちらには地の利もあり、あっちには作戦を練るための時間のロスもあった。
どう考えても、わたしのところまでそもそも追いつけるはずもないのだワン」
一度はかなり接近していたライトの光が、再び遠ざかっていく。
そればかりか、道をそれ始めた。
「ふむ、獣道に迷ったようだワンね。たわいもない。
……とはいえ、一応確認だワン」
千鶴=狼娘は高い杉の木を見つけると、手がかりも必要とせずにグイグイと登っていった。
そしてライトの方向を見定めると、
……大きく飛び跳ねた!
「どうしてだワン! どうして……」
宙に浮いた体は枝を掴み、そのままリスのように中空を歩いた。
今までよりも速い速度で、瞬く間に、千鶴=狼娘はライトの集まる森の中の広場にたどり着いた。
「どうしてわたしの"本体"の位置を!」
叫んだその先には、栄子たちがいた。
気絶している狼娘の肉体とともに。
鮎美が一歩進み出た。
「わたしが森の木々とお話して、教えてもらいました」
「ここにも人外がいたか!」
姉貴の力に対応できるのは、お前だけなんだ」
栄子はそういうと頭を下げた。
居候を始めて以来、イカ娘が頭を下げさせられることは多々あったが、
栄子が頭を下げることはほぼあり得ないことだった。
テント内に緊張が走る。
やがて、イカ娘が口を開いた。
「断るでゲソ」
「イカちゃん……!」
早苗が悲痛な声を上げた。
イカ娘はみんなの顔を見回すようにしながら、
「狼娘は話してくれたでゲソ。
この山がいずれゴルフ場に変わってしまうということを。
あやつはそれを止めるために、一人きりで侵略を始めたのでゲソ。
まるでわたしと同じじゃなイカ。
世界中が敵に回っても、わたしは狼娘の味方でいてやりたい。
いや、そうでなくちゃいけないような気がするのでゲソ」
「そうか……」
栄子は深くうなずいた。
そしてぱっと表情を変えると、
「まあよく考えたら、お前がいるといつものドジで足手まとい確定だったわ。
みんな、行こうぜ。
作戦はイカ娘抜きで立てる。気を使わせちゃいけないからな」
栄子がテントを出ると、他のみんなもおずおずとその場をあとにした。
一人になったイカ娘は、ぽつねんと座り込んでいたが、やがて立ち上がり独り言を呟いた。
「――さあて!
わたしはなにを気にしているのでゲソか?
一人に戻っただけじゃなイカ。
わたしは一人でも楽しめる大人でゲソ。
ここは一つ、川遊びと洒落こむでゲソ。」
そういうとイカ娘はテントから顔を出した。
栄子たちは隣のテントで何やら話し合っているようだ。
「人間どもがどこまでやれるか、今回は高みの見物でゲソ」
そしてバーベキュー跡を通り過ぎ、川に入ると、まずは息の続く限り潜って、ぷはっと顔を出した。
「冷たくていい気持ちでゲソー!」
ゴシゴシと顔のあたりを拭う。最初は右手で、その次は、触手で。
「おかしいでゲソね。なんか、景色が滲んで見えるでゲソ。
まあいいか。水に入れば、分からないでゲソ」
千鶴=狼娘は森深くにいた。
「山を歩くにはコツがいる。ここまでは追ってこれないはずだワン」
その言葉通り、千鶴=狼娘の山歩きは見事なものだった。
ナイフ(手刀)使いは最小限に、安全なところだけを選んで歩く。
狼娘のもともと持っていたサバイバル術と、千鶴の身体能力が合わさった、一個の芸術品だった。
遠くでライトが光る。
「追ってきはじめたようだワンね。
でも、速度の違いに加え、こちらには地の利もあり、あっちには作戦を練るための時間のロスもあった。
どう考えても、わたしのところまでそもそも追いつけるはずもないのだワン」
一度はかなり接近していたライトの光が、再び遠ざかっていく。
そればかりか、道をそれ始めた。
「ふむ、獣道に迷ったようだワンね。たわいもない。
……とはいえ、一応確認だワン」
千鶴=狼娘は高い杉の木を見つけると、手がかりも必要とせずにグイグイと登っていった。
そしてライトの方向を見定めると、
……大きく飛び跳ねた!
「どうしてだワン! どうして……」
宙に浮いた体は枝を掴み、そのままリスのように中空を歩いた。
今までよりも速い速度で、瞬く間に、千鶴=狼娘はライトの集まる森の中の広場にたどり着いた。
「どうしてわたしの"本体"の位置を!」
叫んだその先には、栄子たちがいた。
気絶している狼娘の肉体とともに。
鮎美が一歩進み出た。
「わたしが森の木々とお話して、教えてもらいました」
「ここにも人外がいたか!」
つづく