「狼娘ぇ?」
「その通りだワン」
バーベキューの準備で大騒ぎだったテント前が、一気に静まった。
少女はその沈黙をどう受け取ったのか、満足げな表情で周囲を睥睨している。
狼娘(と、悟郎とシンディーに名乗ったらしい)はハネた黒髪のショートカットの少女で、
夏だというのにファーのついたジャケットを羽織っている。ファー以外、特に狼な部分は見当たらない。
「恐怖で声も出ないようだワンね……」
「いやいやいや」
栄子が三回にわたって首を振った。
「考えてただけだよ。どこがどう狼なのか」
「えっ……」
狼娘は目をぱちくりさせた。
「……えっと、
ここの髪のハネ具合がイヌ耳みたいだワン!」
「それ、普通の人間でもありうるだろ。
わたしと姉貴の髪もなんかハネてるし」
「毛皮がついてるだワン!」
「ファーで再現できるだろ」
「け、犬歯が鋭いだワン!」
「どれどれ……。いや、これ、人間でもありうる範囲じゃね?」
「えっと……」
狼娘はうつむいた。
「その通りだワン」
バーベキューの準備で大騒ぎだったテント前が、一気に静まった。
少女はその沈黙をどう受け取ったのか、満足げな表情で周囲を睥睨している。
狼娘(と、悟郎とシンディーに名乗ったらしい)はハネた黒髪のショートカットの少女で、
夏だというのにファーのついたジャケットを羽織っている。ファー以外、特に狼な部分は見当たらない。
「恐怖で声も出ないようだワンね……」
「いやいやいや」
栄子が三回にわたって首を振った。
「考えてただけだよ。どこがどう狼なのか」
「えっ……」
狼娘は目をぱちくりさせた。
「……えっと、
ここの髪のハネ具合がイヌ耳みたいだワン!」
「それ、普通の人間でもありうるだろ。
わたしと姉貴の髪もなんかハネてるし」
「毛皮がついてるだワン!」
「ファーで再現できるだろ」
「け、犬歯が鋭いだワン!」
「どれどれ……。いや、これ、人間でもありうる範囲じゃね?」
「えっと……」
狼娘はうつむいた。
「まあまあ栄子ちゃん。そんなにいじめないの。
狼娘ちゃんだったわね?
よかったら、あなたもバーベキューに参加するといいわ」
「別にいじめてねえよ。当然の疑問だろ。
まあ、お前もどうせすることもないんだろ。
肉、食ってけよ」
「お前『も』……?」
狼娘の目線がさまよい、イカ娘の前で止まった。
「そう、こいつの名はイカ娘。
相沢家の居候にして海の家れもんのエース候補だ。
まあ、お前のイカ版……みたいなもんだな」
「そうだったワンか……」
狼娘がわなわなと体を震わせた。
「お主みたいなどうしようもない先輩がいるから、
わたしが怖がられないワンね?
どうしてくれるワンか!?」
「ど、どうしようもないとは失礼でゲソ!」
イカ娘が狼娘に指を突き付けた。
「お主みたいなポッと出に言われたくないでゲソ!
だいたい、わたしは渚にはちゃんと怖がられているでゲソ!
触手とか発光とか、人間離れ度でもお主の上を言っているでゲソ。
怖がられないのは、単なる実力不足じゃなイカ?」
狼娘ちゃんだったわね?
よかったら、あなたもバーベキューに参加するといいわ」
「別にいじめてねえよ。当然の疑問だろ。
まあ、お前もどうせすることもないんだろ。
肉、食ってけよ」
「お前『も』……?」
狼娘の目線がさまよい、イカ娘の前で止まった。
「そう、こいつの名はイカ娘。
相沢家の居候にして海の家れもんのエース候補だ。
まあ、お前のイカ版……みたいなもんだな」
「そうだったワンか……」
狼娘がわなわなと体を震わせた。
「お主みたいなどうしようもない先輩がいるから、
わたしが怖がられないワンね?
どうしてくれるワンか!?」
「ど、どうしようもないとは失礼でゲソ!」
イカ娘が狼娘に指を突き付けた。
「お主みたいなポッと出に言われたくないでゲソ!
だいたい、わたしは渚にはちゃんと怖がられているでゲソ!
触手とか発光とか、人間離れ度でもお主の上を言っているでゲソ。
怖がられないのは、単なる実力不足じゃなイカ?」
「なにを! こっちだってさっきの悟郎とかいう人間には怖がられているだワン!」
「いや、あれはいきなりだったから驚いただけで、いまは怖くない……すまんな」
「なんと!」
「じゃ、バーベキューするか」
栄子の言葉に、みんな三々五々準備を始めた。
炭火がたち、肉が焼け、独特のにおいが立ち込める。
はたはたと走り回るみんなの中で、狼娘だけが一人取り残されていた。
「もし……ちょっと、そこの」
作業の合間を見計らって、狼娘がたけるに声をかけた。
「なあに、イヌお姉ちゃん」
「イヌじゃなくて狼だワン!
じゃなくて、ちょっと協力してくれないかだワン」
「協力?」
「わたしの恐ろしさを見せてやるだワン。
ちょっとわたしに噛みつかれてほしいのだワン」
「噛みつかれるのはちょっと……」
「そんな!」
しょぼんとしてしまった狼娘の肩を、とんとんと叩くものがあった。
長月早苗である。
「いや、あれはいきなりだったから驚いただけで、いまは怖くない……すまんな」
「なんと!」
「じゃ、バーベキューするか」
栄子の言葉に、みんな三々五々準備を始めた。
炭火がたち、肉が焼け、独特のにおいが立ち込める。
はたはたと走り回るみんなの中で、狼娘だけが一人取り残されていた。
「もし……ちょっと、そこの」
作業の合間を見計らって、狼娘がたけるに声をかけた。
「なあに、イヌお姉ちゃん」
「イヌじゃなくて狼だワン!
じゃなくて、ちょっと協力してくれないかだワン」
「協力?」
「わたしの恐ろしさを見せてやるだワン。
ちょっとわたしに噛みつかれてほしいのだワン」
「噛みつかれるのはちょっと……」
「そんな!」
しょぼんとしてしまった狼娘の肩を、とんとんと叩くものがあった。
長月早苗である。
つづく