「お」
イカ娘が言った。
「どうした、なにか見つけたか?」
「見るでゲソ栄子。でっかいエビでゲソ」
「エビ?」
イカ娘の視線の先には、たしかに大きなエビがあった。――ぬいぐるみだが。
グロテスクなはずの触手は丸っこくデフォルメされ、黒いつぶらな瞳は可愛いと言えなくもない。
「あれで三等を当てればもらえるのでゲソ」
「福引か」
即席の屋台の前に、派手な色合いのスロットマシーンがある。
「スロット……ちょっと魂がうずくな」
「栄子の魂がうずくということは、あれはゲームでゲソ?」
「お前知らないのか。これはこう……あ、一回お願いします」
「はい、500円分のレシートをお見せください」
「こう回して……」
「絵が動いたでゲソ!」
「こう……止める!」
「チェリーが揃ったでゲソ!」
「これが目押しだ」
「おめでとうございます、二等が当たりました!」
デパートの福引係が小さな券を差し出した。
「これは、なに?」
「倉鎌キャンプ場のサービス券になります」
「へえ、子供のころ行ったなー。
ってイカ娘は?」
「お連れさまはお会計に行かれました」
「もう買うもん買ったっつうのに……」
「500円分のエビポテトを買ってきたでゲソ!
スロットやらせてもらおうじゃなイカ!」
「はい、レシートをお見せください」
「スイカ、セブン、チェリー!
これはなんでゲソ!?」
「ポケットティッシュになります」
イカ娘が言った。
「どうした、なにか見つけたか?」
「見るでゲソ栄子。でっかいエビでゲソ」
「エビ?」
イカ娘の視線の先には、たしかに大きなエビがあった。――ぬいぐるみだが。
グロテスクなはずの触手は丸っこくデフォルメされ、黒いつぶらな瞳は可愛いと言えなくもない。
「あれで三等を当てればもらえるのでゲソ」
「福引か」
即席の屋台の前に、派手な色合いのスロットマシーンがある。
「スロット……ちょっと魂がうずくな」
「栄子の魂がうずくということは、あれはゲームでゲソ?」
「お前知らないのか。これはこう……あ、一回お願いします」
「はい、500円分のレシートをお見せください」
「こう回して……」
「絵が動いたでゲソ!」
「こう……止める!」
「チェリーが揃ったでゲソ!」
「これが目押しだ」
「おめでとうございます、二等が当たりました!」
デパートの福引係が小さな券を差し出した。
「これは、なに?」
「倉鎌キャンプ場のサービス券になります」
「へえ、子供のころ行ったなー。
ってイカ娘は?」
「お連れさまはお会計に行かれました」
「もう買うもん買ったっつうのに……」
「500円分のエビポテトを買ってきたでゲソ!
スロットやらせてもらおうじゃなイカ!」
「はい、レシートをお見せください」
「スイカ、セブン、チェリー!
これはなんでゲソ!?」
「ポケットティッシュになります」
イカ娘はもらったティッシュをじっと見つめた。
そして。
脱兎のごとくかけ出した。
「落ち着け、イカ娘! 予算オーバーだ!」
「エビが欲しいでゲソ! エビポテト買ってくるでゲソ!」
「ったく、仕方ないな」
栄子が財布からレシートを取り出した。
「姉貴からの頼まれものだが、レシートはいらないだろ。
もう一回引けるぞ。エビが出たらお前にやる。
ただし……」
「ただし、なんでゲソ?」
「スロットはわたしにやらせろ」
「栄子のゲーム好きも相当でゲソ……。
とはいえ、その取引はわたしに得でゲソ、やるがいい、栄子!」
「よっしゃ!」
「チェリー、チェリー、チェリーでゲソ!
エビでゲソ?」
「いや、さっきも出たろこれ……
キャンプのタダ券だよ」
「わたしはエビがいいのでゲソ!」
「わかってるよ。ちょっとミスっただけだ。
ところでお姉さん、さっきのレシートだけどさ」
そして。
脱兎のごとくかけ出した。
「落ち着け、イカ娘! 予算オーバーだ!」
「エビが欲しいでゲソ! エビポテト買ってくるでゲソ!」
「ったく、仕方ないな」
栄子が財布からレシートを取り出した。
「姉貴からの頼まれものだが、レシートはいらないだろ。
もう一回引けるぞ。エビが出たらお前にやる。
ただし……」
「ただし、なんでゲソ?」
「スロットはわたしにやらせろ」
「栄子のゲーム好きも相当でゲソ……。
とはいえ、その取引はわたしに得でゲソ、やるがいい、栄子!」
「よっしゃ!」
「チェリー、チェリー、チェリーでゲソ!
エビでゲソ?」
「いや、さっきも出たろこれ……
キャンプのタダ券だよ」
「わたしはエビがいいのでゲソ!」
「わかってるよ。ちょっとミスっただけだ。
ところでお姉さん、さっきのレシートだけどさ」
「はい」
「1000円買ってるだろ。これ、分割して引けないかな」
「買われたお店でレシートを再発行していただければ……」
「よし、行って来いイカ娘!」
「エビ! エビ!」
かけ出したイカ娘は5分ほどで戻ってきた。
「再発行してもらったでゲソ!
スイカが揃えばエビゲットでゲソ! スイカでゲソよ……」
「わかってる、スイカだな……いまだ!」
「またチェリーでゲソ……」
「……イカ娘」
「はあーエビとは縁がなかったでゲソかね」
「イカ娘!」
「なんでゲソ?」
「わたしの小遣いをくれてやる。これで500円ぶん適当に買ってこい!」
「栄子が燃えてるでゲソ!」
「おっかしいなあ腕が落ちたかなあ。スイカは見たところ1回転につき3つはあるし、そりゃチェリーはもっとたくさんあるけどさ……
ん?
なんで二等のチェリーのほうが三等のスイカより多いんだ?」
栄子はデパートのお姉さんを見つめた。
お姉さんは笑顔を絶やさず、その顔にスキは見られない。
「イカ娘。
強敵かもしれん。万が一のためにもう1000円分何か買ってこい。
レシートは分割でな」
(栄子の財布は大丈夫なのでゲソ……?)
「1000円買ってるだろ。これ、分割して引けないかな」
「買われたお店でレシートを再発行していただければ……」
「よし、行って来いイカ娘!」
「エビ! エビ!」
かけ出したイカ娘は5分ほどで戻ってきた。
「再発行してもらったでゲソ!
スイカが揃えばエビゲットでゲソ! スイカでゲソよ……」
「わかってる、スイカだな……いまだ!」
「またチェリーでゲソ……」
「……イカ娘」
「はあーエビとは縁がなかったでゲソかね」
「イカ娘!」
「なんでゲソ?」
「わたしの小遣いをくれてやる。これで500円ぶん適当に買ってこい!」
「栄子が燃えてるでゲソ!」
「おっかしいなあ腕が落ちたかなあ。スイカは見たところ1回転につき3つはあるし、そりゃチェリーはもっとたくさんあるけどさ……
ん?
なんで二等のチェリーのほうが三等のスイカより多いんだ?」
栄子はデパートのお姉さんを見つめた。
お姉さんは笑顔を絶やさず、その顔にスキは見られない。
「イカ娘。
強敵かもしれん。万が一のためにもう1000円分何か買ってこい。
レシートは分割でな」
(栄子の財布は大丈夫なのでゲソ……?)
「それで?
結局5000円もスロットにつぎ込んだの?」
夜。
夕食の席で千鶴が言った。
その顔は笑顔を絶やさず、スキは見られない。
「うう……面目ねえ」
「あの女、倉鎌市の回し者だったでゲソ!
人を呼び込むためにキャンプのタダ券ばかり用意してたでゲソ!」
「でも、イカサマはしてないわ。ああいうのはつぎ込んだものの負けなのよ」
「耳が痛え……」
「結局エビは取れないし、こうなったら、
明日はわたしの触手で挑戦するでゲソ!」
「やめなさい」
「でも……エビ……」
「エビよりももっと素敵なものが待ってるわよ」
「エビよりも素敵なものなんてないじゃなイカ!
エビは命より重いでゲソ!」
「イカ娘ちゃんはまだキャンプに行ったことはなかったわね(山登りはしたけど)」
「キャンプってなんでゲソ?」
「明日になればわかるわよ」
結局5000円もスロットにつぎ込んだの?」
夜。
夕食の席で千鶴が言った。
その顔は笑顔を絶やさず、スキは見られない。
「うう……面目ねえ」
「あの女、倉鎌市の回し者だったでゲソ!
人を呼び込むためにキャンプのタダ券ばかり用意してたでゲソ!」
「でも、イカサマはしてないわ。ああいうのはつぎ込んだものの負けなのよ」
「耳が痛え……」
「結局エビは取れないし、こうなったら、
明日はわたしの触手で挑戦するでゲソ!」
「やめなさい」
「でも……エビ……」
「エビよりももっと素敵なものが待ってるわよ」
「エビよりも素敵なものなんてないじゃなイカ!
エビは命より重いでゲソ!」
「イカ娘ちゃんはまだキャンプに行ったことはなかったわね(山登りはしたけど)」
「キャンプってなんでゲソ?」
「明日になればわかるわよ」
つづく