「しかしイジメか……。やっぱり女子のイジメって難しい? 斗貴子さん」
「私もそれほど詳しくはないが、男子ほど単純でもないだろう」
「いきなりオレたちが出てって「やめろ!」とか言っても聞いてもらえないよね?」
「むしろ逆効果だ」
「私もそれほど詳しくはないが、男子ほど単純でもないだろう」
「いきなりオレたちが出てって「やめろ!」とか言っても聞いてもらえないよね?」
「むしろ逆効果だ」
後にヌヌ行は(遠いにも関わらず)銀成学園に進学する。
何かとピーキーな斗貴子さえ受け入れた銀成学園は代が変わっても同じだった。
カズキたちがその肌でイジメを知らぬのも無理はない。
にも関わらずどうすればいいか考えている彼らの姿はとても好ましかった。
何かとピーキーな斗貴子さえ受け入れた銀成学園は代が変わっても同じだった。
カズキたちがその肌でイジメを知らぬのも無理はない。
にも関わらずどうすればいいか考えている彼らの姿はとても好ましかった。
話し合っていた彼らはやがてゆっくりと向きなおった。
まず最初に口を開いたのは斗貴子だった。彼女は気まずそうに視線を外しながら
まず最初に口を開いたのは斗貴子だった。彼女は気まずそうに視線を外しながら
「正直、逢って間もない私たちが今すぐキミの悩みを総て解決できるかどうか自信がない。内心じゃ私たちの言葉に何というか
物足りなさを感じているかも知れないな。すまない。カズキはともかく私は人にとやかくいえるほど他人を救っていない」
物足りなさを感じているかも知れないな。すまない。カズキはともかく私は人にとやかくいえるほど他人を救っていない」
と述べ、
「もしキミを苛んでいるのがただの化け物なら速攻でブチ撒けて解決できるんだが……」
さらりと血なまぐさいコトをいった。
「ただな。これだけは聞いてくれ」
歩み寄ってきた彼女はそっとヌヌ行の手を取った。
「戦えとは言わない。だが諦めて死ぬのだけは絶対しないで欲しい。これから先もキミは辛いコトや悲しいコトに直面する
だろう。時には本当に理不尽で残酷な仕打ちを受けるかも知れない」
だろう。時には本当に理不尽で残酷な仕打ちを受けるかも知れない」
真剣な光の灯る青い瞳を直視できず、ヌヌ行は軽く視線を落とした。
死にたい、という気持ちは変わらない。
多くの真実は話したがそれでも自宅に突如現れたあの金属の武器のコトは話していない。
話せていない、というべきだろうか。口をつきそうになった局面はいくつもあった。だがそのとき何かおぞましい予感が
電流のように背後を奔り会話伝達を失わせる。つまりはそれほど重苦しい武器なのだアレは……内心でそう反復し、
だからこそ自殺を選びたくなる。斗貴子はひどく真剣だ。
死にたい、という気持ちは変わらない。
多くの真実は話したがそれでも自宅に突如現れたあの金属の武器のコトは話していない。
話せていない、というべきだろうか。口をつきそうになった局面はいくつもあった。だがそのとき何かおぞましい予感が
電流のように背後を奔り会話伝達を失わせる。つまりはそれほど重苦しい武器なのだアレは……内心でそう反復し、
だからこそ自殺を選びたくなる。斗貴子はひどく真剣だ。
「それでも生きるコトを諦めたりするな。どんなに辛くても生きてさえいれば、いつか必ず救われる」
罪悪感が増してくる。耳を傾ければ傾けるほど……拒む自分が強くなる。
ぎこちなくも真剣に向き合ってくれる人に「無価値だ」。そんな態度を示している。
ぎこちなくも真剣に向き合ってくれる人に「無価値だ」。そんな態度を示している。
ただ怒られるより辛い出来事だった。
「…………駄目だなカズキ。どうも私は口下手だ。キミならもっとうまく伝えられるんだろうが……うひゃあ!?」
沈みかけていた声音が一気に跳ね上がった。がばりと面を上げたヌヌ行はどうして斗貴子が啼いたのか理解した。
「あのさ。ここに赤ちゃんが居るんだ」
手が”ここ”にあった。当てられていた。妻の手を持つカズキは戸惑いまじりの抗議をたっぷり頭上から浴びながら
「まだ人間のカタチにもなってないのにさ、でも命は確かにあってさ、不思議だなーって思うんだ」
ヌヌ行の瞳を覗きこみ、笑いながらこう言った。
「耳、当ててみる?」
一人っ子のヌヌ行にとって”赤ちゃん”というものはとても神秘的だった。
どこから来てどこへ行くのか。
5年生ともなればそろそろ保健体育の授業で学術的な真実に突き当たっていてもおかしくはないが、例えその小テストで
満点をとれたとしても本当のところは分からない。
どこから来て、どこへ行くのか。
それを感覚で知らない限り知ったとは言えないのが……命。
どこから来てどこへ行くのか。
5年生ともなればそろそろ保健体育の授業で学術的な真実に突き当たっていてもおかしくはないが、例えその小テストで
満点をとれたとしても本当のところは分からない。
どこから来て、どこへ行くのか。
それを感覚で知らない限り知ったとは言えないのが……命。
その存在が彼女の中でより具象性を帯び始めたのはこの時──…
武藤斗貴子の腹部に触れ……芽生えつつある確かな息吹を感じた時だ。
後に武藤ソウヤと呼ばれる少年の鼓動は確かに存在していた。
ヌヌ行は自宅に向かって歩きはじめていた。
死のうという気分はまだ心のどこかに転がっていたが遠巻きに眺める余裕はあった。
「私は幼いころ、両親と死別した。その前後のコトは今でもまだハッキリ思いだせない」
斗貴子の言葉が反響していた。
「ただ憎悪だけは覚えていた。両親を奪った存在。そいつらへの憎悪だけが。そして私は戦いに身を投じた」
「学校にこそ通っていたが私は常に1人だった。自分からそうなるコトを選んでいた。だからキミほどの苦しみは味わってい
ないが……やはり満たされるコトはなかった」
.
「懐かしいなー。あのころ斗貴子さん何かにつけて死にたがっていたよね」
「茶化すな!! ホムンクルスになりかけていたから仕方ないだろ!!」
ないが……やはり満たされるコトはなかった」
.
「懐かしいなー。あのころ斗貴子さん何かにつけて死にたがっていたよね」
「茶化すな!! ホムンクルスになりかけていたから仕方ないだろ!!」
目を三角にし声を荒げる彼女だが、決して怒っていないのは分かった。
なぜなら叫びが終わるとすぐ笑顔の夫に射すくめられたからだ。もじもじと熱く潤う瞳は照れくさくも幸福そうだ。
なぜなら叫びが終わるとすぐ笑顔の夫に射すくめられたからだ。もじもじと熱く潤う瞳は照れくさくも幸福そうだ。
「とにかくだ。昔の私はいつ死んでもいいと思っていた。それが戦うものの『覚悟』だと思っていた」
「でも本当は違っていた。死んだり、殺したり、奪ったりするだけじゃ何も解決しない」
「こんな私でさえ過去の希望と呼び支えにしてくれる人もいる。もし私が死ねばその人はまた絶望するのに、あの頃はそんな
コト少しも気づいちゃいなかった。慕ってくれる後輩だっている。それがどんなに幸せなコトかも……」
コト少しも気づいちゃいなかった。慕ってくれる後輩だっている。それがどんなに幸せなコトかも……」
家が見えてきた。例の土建屋の娘が設定した刻限まではあと30分。リハーサルには十分すぎた。
「結局、私は私の命が私のものだけだと思っていた。私という存在が実は他の誰かにとって大切な意味がある……などとは全く
思いも寄らなかった。生きていく中で知らず知らずのうちにつながりみたいなのを得ていて、それが消えたとき周囲の人たちが
悲しんだり後悔したりするなんてちっとも実感しちゃいなかった。理性じゃそれを知ってるつもりなのに、いざ自分がその人たち
を苛みかねないと気付けば「まあいい。傷つけるよりは」であっさり捨てようとしていた。私の命も、それが持つつながりさえも」
思いも寄らなかった。生きていく中で知らず知らずのうちにつながりみたいなのを得ていて、それが消えたとき周囲の人たちが
悲しんだり後悔したりするなんてちっとも実感しちゃいなかった。理性じゃそれを知ってるつもりなのに、いざ自分がその人たち
を苛みかねないと気付けば「まあいい。傷つけるよりは」であっさり捨てようとしていた。私の命も、それが持つつながりさえも」
大人になったからこそ、今だからこそ出てくる意見。
きっと彼女は十代のころとはもう違う存在なのだろう。
若さを失う代わりにトゲトゲしさも時間の彼方に置き去って、何倍も何倍も、あの頃より素敵になって。
若さを失う代わりにトゲトゲしさも時間の彼方に置き去って、何倍も何倍も、あの頃より素敵になって。
簡単に投げようとしていた命がどれほど貴重なものか……教えてくれた。
「そんな私でも……生きていくうちにまた新しいつながりを得た」
「失いかけて、沢山の人たちを悲しませて、なのにまたその人たちに助けて貰って」
このコを授かった。お腹をさする斗貴子は一瞬とても優しい笑みを浮かべた。
「正直、私なんかが母親になっていいかどうかまだ迷っている。もし大きな戦いが起これば結局そちらへ向かってしまうのが
私だからな。このコを幸せにできるかどうか分からない」
私だからな。このコを幸せにできるかどうか分からない」
「それでも」
「それでも今まで気付けなかった分まで大事にしたい」
「つながりを?」
「ああ。もし新たな戦いが起こったとしても私は全力でそれを終わらせる。勝って、生き延びて、このコの元へ……戻る。私が
戦うのはそのためだ」
「つながりを?」
「ああ。もし新たな戦いが起こったとしても私は全力でそれを終わらせる。勝って、生き延びて、このコの元へ……戻る。私が
戦うのはそのためだ」
「生きるために……戦う」
「そうだ。そしていつかキミにもそうすべき時がやってくる」
.
出会いは力をくれた。
出会いは力をくれた。
勇気をも。
何があっても前へ進もう。
そう思えるのは”たった3人”、そこに居た人たちのお陰だと……。
心から信じている。
「どんなに辛くても悲しくても、生き続ければ必ず……このコに逢える」
「このコのような存在に、必ず逢える」
「キミにもそういう権利が……あるんだ」
玄関の扉を開け雪崩れ込む。目指すのは自室だ。普段は歩く階段をこの時ばかりは駆けあがる。
(命……。つながり……)
頬をうっすらピンクに染めて息を吐き、最後は3段飛ばしで駆け昇り。
叫びだしたい気分だった。悲しみではなく、歓喜に。
自分はいま得難いものを得た!! きっと生涯の宝を!!
斗貴子の腹部に当てた耳! それはまだ奏でている!! 微弱だがこの世で最高の音楽を!!
(私は、私は……またあのコに逢いたいから!!)
生きたい!!
心からの希求が全身を駆け巡る。体の芯まで焼け切れそうだった。
(だから私は!)
部屋を開ける。
視線はシステムデスクの上に直行だ。
さんざ自分を思い煩わせていた金属の武器。それはまだある!
見た瞬間鼓動が跳ねあがった。心拍数は一気に倍へ上昇。
予感はあった。もしそれを手にすれば自分の人生は一変するだろう。
おぞましい悪意をずっと浴び続ける。辛苦の多い人生になる。
今まで通りを選ぶ方がさっきの言葉分トクだとも気付いていた。
.
けれど。
けれど。
けれど──…
歩みを、進めた。
「大丈夫! キミもオレも斗貴子さんもそういうつながりの中から生まれて来たんだ! きっとみんな傷ついたり迷ったりも
しただろうけど、でもそれと同じ数だけ笑ったり楽しんだりして、前に進んできたんだと思う。いまは辛いと思うけど、でも
こうしてまた生まれたじゃないか!
「何がだ」
「新しいつながりってヤツが!! キミとオレたちは出逢ったんだ!! だったらオレたちはキミが前に進めるよう手伝うよ!
さっきも言ったけど話すだけでもだいぶ違うからさ。ウソでも本当でもなんでもいい。とにかく話すところから始めてみようよ!」
しただろうけど、でもそれと同じ数だけ笑ったり楽しんだりして、前に進んできたんだと思う。いまは辛いと思うけど、でも
こうしてまた生まれたじゃないか!
「何がだ」
「新しいつながりってヤツが!! キミとオレたちは出逢ったんだ!! だったらオレたちはキミが前に進めるよう手伝うよ!
さっきも言ったけど話すだけでもだいぶ違うからさ。ウソでも本当でもなんでもいい。とにかく話すところから始めてみようよ!」
カズキにはこう話した。
また1週間後この場所で逢いたい。
逢って、少し強くなった自分を見せたい。
ウソではない、心からの真実を……。
偽りがないからこそとても勇気のいる言葉を。
すぐ大好きになった若い夫婦たちに……捧げた。
だからヌヌ行は机上の”それ”を手に取った。
悪意をもたらす武器を。
他人めがけ悪意を投げつけるかも知れない武器を。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ヌヌ行自身の悪意を増幅しそして土建屋の娘たちのような存在などあっという間に世界から消し去れる大いなる武器を。
ヌヌ行自身の悪意を増幅しそして土建屋の娘たちのような存在などあっという間に世界から消し去れる大いなる武器を。
金属の武器は六角形をしていた。
核鉄と呼ばれる、錬金術の産物だった。
使い方はなぜだか分かっていた。
遠い記憶……斗貴子のいう”つながり”のもたらす記憶があらゆる総てを教えていた。
.
だから核鉄を手に取り叫ぶ。突き動かされるようにただ一言。『武装錬金!!』
.
だから核鉄を手に取り叫ぶ。突き動かされるようにただ一言。『武装錬金!!』
まずは自分の悪意に打ち克つために。
羸砲ヌヌ行は戦いを選んだ。
スマートガンの武装錬金・アルジェブラ=サンディファー。
それは発生と消滅を繰り返す歴史のなか偶発的にそして必然的に転がりこんできた。
名前を変え……形状を変え……特性さえ変え──…
それは発生と消滅を繰り返す歴史のなか偶発的にそして必然的に転がりこんできた。
名前を変え……形状を変え……特性さえ変え──…
それは間もなく行使される。
十数分後勃発する戦いでヌヌ行が勝てたのはそのせいだが。
ただし誰一人傷つけるコトなく、誰一人消し去るコトなく勝利を掴んだ。
土建屋の娘たちは傷一つ負わず、されどヌヌ行自身はなかなか壮絶な傷を浴びながら──…
それでもこの時系列でイジめられる小学五年生の自分だけは救ってみせた。
十数分後勃発する戦いでヌヌ行が勝てたのはそのせいだが。
ただし誰一人傷つけるコトなく、誰一人消し去るコトなく勝利を掴んだ。
土建屋の娘たちは傷一つ負わず、されどヌヌ行自身はなかなか壮絶な傷を浴びながら──…
それでもこの時系列でイジめられる小学五年生の自分だけは救ってみせた。
彼女はまだ知らない。
他愛もない、微笑ましくさえある小さな勝利が以後続く壮大な物語の……きっかけの一つだとは。
ヌヌ行のいた時系列でさえ『すでに何度か造り直された』……仮初のものだとは。
ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズの存在する時系列まであと僅か。
その世界を作り出す立役者の1人こそ……『塩』。羸砲ヌヌ行である。