「不肖がいまおりますのは銀成学園の1-A! ただいまこちらでは発表に向け猛練習の真っ最中!! この熱気が分かる
でしょうか!!」
ハンディカメラの液晶の中をロバが泳いでいる。ロバといってもそれは属性で風体はもちろん違う。
パリっとしたタキシード姿の小柄な少女。シルクハットを被り肩に1つずつお下げをたらしている。同学年の中で最も中学生
に近いヴィクトリアよりもさらに幼い顔つきだ。
(小札零。なんで私が音楽隊なんかと……ホムンクルスと一緒なのよ)
「ちなみに不肖たちは演劇のメイキングをば収録中」
(黙って!!)
ヴィクトリアは口角をみちみちと引きつらせた。家庭用、だろうか。収録に当たりとある部員から貸し出されたそれは片手で
十分なほど小さい。こういう時を想定したのか筺体には黒いバンドが(やや破れとほつれが目立っているが)あり、何とか無事
に保定されている。
何か見つけたらしい。歓声。ある一点めがけマイクしゅっしゅする小札。
促されるままカメラの舳先を変えると和装姿の秋水がフレームインだ。剣客だけあり恐ろしく映えている。特に短いながら
も後ろ髪を縛ってるところが女性陣にツボったらしく黄色い声は3割り増しだ。着衣の色は浅黄で袖にダンダラ模様がつい
ていた。もっとも日本史に詳しくないヴィクトリアなので彼が何を模しているか分からないし興味もない。
遠く離れた外国生まれの少女に分かれというのも酷だろう。欧州基準で考えた場合幕末は陸続きでないぶん三国志よ
り伝わり辛い。或いは好事家が逆境を克服せんとばかり奮起し三国志以上に広めているかも知れないがその努力は
まだヴィクトリアまで届いていない。激動の京都でさえ最果ての一僻地……ましてそこの一警察ならヴィクトリアはなお知らぬ。
「おお!! 新撰組でありますか!! これは渋い! これは誰役ですか斉藤一どのでありますか!? ちなみに一説により
ますれば新撰組に斉藤一なる方は2名いたとか!! 土方どのに北海道までとてとて着いていかれた方は三番隊組長組
長じゃなかった方の斉藤一どのと不肖聞き及びましたがその辺の是非も含めてお答え頂きますれば僥倖っっ!!」
「い、いやただのコスプレなんだが……」
しどろもどろに答える秋水だがその声はギャラリーにかき消された。「いきなり一瀬伝八とか渋っ!」「会津で官軍とやり
合ってた時の名前持ち出すお前も渋っ!!」「つか組長持ち出すなら普通鈴木三樹三郎からだろ」とかいう無責任な歓声
はヴィクトリアの眉間をますます硬直させていく。自分の知らない話で盛り上がられるのは不愉快だ。ましてそれが自分の
時間を浪費しているのが明確な場合怒りはますます強くなる。
液晶の中では小札が手際よくマイクを差し出しインタビュー。聞いているのは意気込みとか役作りとかまひろとの関係とか
だ。みっともない。3流タブロイドの記者? あっという間の転落劇にヴィクトリアは冷笑しそれは秋水の答弁でますます深まっ
た。びっくりするほど面白味がない。助けを求めるようにカメラを見る彼にゼスチュア。「恩に着なさい」、ただし貸し1つよ、
冷笑交じりに助け船。
でしょうか!!」
ハンディカメラの液晶の中をロバが泳いでいる。ロバといってもそれは属性で風体はもちろん違う。
パリっとしたタキシード姿の小柄な少女。シルクハットを被り肩に1つずつお下げをたらしている。同学年の中で最も中学生
に近いヴィクトリアよりもさらに幼い顔つきだ。
(小札零。なんで私が音楽隊なんかと……ホムンクルスと一緒なのよ)
「ちなみに不肖たちは演劇のメイキングをば収録中」
(黙って!!)
ヴィクトリアは口角をみちみちと引きつらせた。家庭用、だろうか。収録に当たりとある部員から貸し出されたそれは片手で
十分なほど小さい。こういう時を想定したのか筺体には黒いバンドが(やや破れとほつれが目立っているが)あり、何とか無事
に保定されている。
何か見つけたらしい。歓声。ある一点めがけマイクしゅっしゅする小札。
促されるままカメラの舳先を変えると和装姿の秋水がフレームインだ。剣客だけあり恐ろしく映えている。特に短いながら
も後ろ髪を縛ってるところが女性陣にツボったらしく黄色い声は3割り増しだ。着衣の色は浅黄で袖にダンダラ模様がつい
ていた。もっとも日本史に詳しくないヴィクトリアなので彼が何を模しているか分からないし興味もない。
遠く離れた外国生まれの少女に分かれというのも酷だろう。欧州基準で考えた場合幕末は陸続きでないぶん三国志よ
り伝わり辛い。或いは好事家が逆境を克服せんとばかり奮起し三国志以上に広めているかも知れないがその努力は
まだヴィクトリアまで届いていない。激動の京都でさえ最果ての一僻地……ましてそこの一警察ならヴィクトリアはなお知らぬ。
「おお!! 新撰組でありますか!! これは渋い! これは誰役ですか斉藤一どのでありますか!? ちなみに一説により
ますれば新撰組に斉藤一なる方は2名いたとか!! 土方どのに北海道までとてとて着いていかれた方は三番隊組長組
長じゃなかった方の斉藤一どのと不肖聞き及びましたがその辺の是非も含めてお答え頂きますれば僥倖っっ!!」
「い、いやただのコスプレなんだが……」
しどろもどろに答える秋水だがその声はギャラリーにかき消された。「いきなり一瀬伝八とか渋っ!」「会津で官軍とやり
合ってた時の名前持ち出すお前も渋っ!!」「つか組長持ち出すなら普通鈴木三樹三郎からだろ」とかいう無責任な歓声
はヴィクトリアの眉間をますます硬直させていく。自分の知らない話で盛り上がられるのは不愉快だ。ましてそれが自分の
時間を浪費しているのが明確な場合怒りはますます強くなる。
液晶の中では小札が手際よくマイクを差し出しインタビュー。聞いているのは意気込みとか役作りとかまひろとの関係とか
だ。みっともない。3流タブロイドの記者? あっという間の転落劇にヴィクトリアは冷笑しそれは秋水の答弁でますます深まっ
た。びっくりするほど面白味がない。助けを求めるようにカメラを見る彼にゼスチュア。「恩に着なさい」、ただし貸し1つよ、
冷笑交じりに助け船。
「ね、ね、小札さーん。向こうで何かすごいコトやってるよー」
トロくさい間延びした声を上げる。ネコを被るのは得意だ。
トロくさい間延びした声を上げる。ネコを被るのは得意だ。
はたして小札は指差されるまま視線を移した。
そこは教室の端の方で……
そこは教室の端の方で……
「心がリンクしてるー! 戦う~すべてのぉー仲間とぉー!!」
先日ヴィクトリアがメールアドレスを教えてやった少女──栴檀香美──が津村斗貴子と殴り合っていた。
「スクランぼー! ふぉーつーすりーわんレッツゴー!!」
耳慣れぬ奇妙な歌を歌いながら拳を繰り出す香美。相対する斗貴子は真剣だ。もともと鋭い瞳を更に鋭くしながら踏み込み
左右に身を開き攻撃を避けている。不意に香美が飛び上がった。あっとギャラリーが息を呑んだのは腰骨と大腿部が大胆
な回転連動を描いたからだ。飛び回し蹴り。名うての格闘家でさえなかなかやれないダイナミックな攻撃──それをやれた
のはホットパンツ姿だからだ──が鼻歌の下で当たり前のように芽生え敵の側頭部へ吸い込まれた。一瞬小札はすわ事
故発生かと目を剥いたがしかし流石は斗貴子である。結果からいえば回し蹴りは捌かれた。クラシックな構えをほとんど崩
さず左腕だけをわずかに上げた。ス、ス、ス。いくつもの残影描く繊手。それがネコ足のベクトルを大きく変えた。擦り上げ
られる真剣のよう……後に秋水がそう絶賛するほど見事な捌きだった。であるから中空にあった香美の体が大きく傾き大
きく均衡を欠いたのは当然といえた。飛距離は5m。教室中央めがけすっとんだ。
「合気! 合気でしょーか!!」
そう叫んだ小札が驚愕に黙り込むまで1秒までかからなかった。床に落ちるかと思われた香美はしかし敢えて捌かれるまま
大きく宙返りをうった。背中が極限まで丸まったと見る頃にはもう遅い。ネコらしいくぐもった鼻息を吹きながら彼女は目一杯
背筋を伸ばしバンザイをした。両手を床に向ける変則的なバンザイを。タンタンタタン。次の瞬間斗貴子は頚部に異様な
圧迫を感じた。傍観者たるヴィクトリアでさえ最初事態が飲み込めなかったから当事者の惑乱甚だ察するにあまりある。
ホットパンツから延びる白樺のような両足。その大腿部が戦乙女の気管を頸動脈ごと圧迫していた。後にヴィクトリアが映像
記録で調べたところによるとまず香美は逆立ちで着地するや腕の力だけで全身を跳ねあがらせた。そして前転飛びを繰り
返し斗貴子に肉迫。あとは以上の如くだ。
年代物らしくあちこちキッズアニメのシールの貼られたカメラは確かに映していた。斗貴子の額にヘソを押し付ける香美
の姿を。艶やかな短髪さえ足の間から生えているのを除けば”あぐら”をかくうな姿勢だった。ギリギリという音がした。香美
の大腿部はいっそう深く斗貴子の首にめりこんだようだ。彼女の背中では蜂のようにくびれた両脛がXを描きいっそう脱出
困難だ。あられもなく下腹部を押し付ける姿勢は男子生徒諸君の琴線にふれたらしくどよめきと歓声が起こった。
「俺もして欲しい」そう叫んだのはリーゼント頭の男子生徒でヴィクトリアの不興を大いに買った。
「よっ」
軽い調子だが見ていたものはひたすらに驚愕した。香美が軽く腰をひねったと見るや彼女の体は斗貴子の首を軸とばかり
に旋回し反転した。つまり肩車のような姿勢に変じた。攻勢は止まらない。シャギー少女が後ろに向かって倒れ込むとグル
ンという不気味な音がした。一同を戦慄と衝撃が貫いた。小柄ながらに不沈戦艦のようだと評判の斗貴子。その体が宙を
滑り天井へ吸い込まれた。フランケンシュタイナー!? 絶叫の小札。追随。ギャラリーたちも鋭く叫ぶ。
奏でられるは激突音。時間はやや減速した。投げた姿勢のまま、横ずわりをするネコのように臀部を突き上げたままの香美。
重力もやや減衰中だ。空中に漂いながらそして小札めがけピースをした。もっともそれを後悔したのはコンマゼロゼロ何秒
か後である。笑みに緩む頬。その横を青い影が通り過ぎた。はっとするころにはもう遅い。斗貴子の勝ちが確定した。銀成
学園理事長に収まっているイオイソゴが数十分後懇意の業者に天井板を3枚ほど発注したのはこのとき斗貴子が教室の
天蓋を蹴り抜いたからである。ガードレールも拉(ひしゃ)げる脚力で莫大な加速を得た彼女は、絞首と落下を選んだ。意趣
返しとばかり細腕を首に絡ませ腰を沈め……咆哮。耳さえ押さえ震えあがる中ギャラリーは目撃した。揉み合う女性2人轟
然と垂直落下するのを。
かくして香美は成すすべなく叩きつけられた。床に。「うげぇ」と舌出し呻くだけで済んだのはむろんこれが練習の一貫だか
らである。平生ならそのまま殺してるでしょうね。ヴィクトリアは肩を竦めた。
左右に身を開き攻撃を避けている。不意に香美が飛び上がった。あっとギャラリーが息を呑んだのは腰骨と大腿部が大胆
な回転連動を描いたからだ。飛び回し蹴り。名うての格闘家でさえなかなかやれないダイナミックな攻撃──それをやれた
のはホットパンツ姿だからだ──が鼻歌の下で当たり前のように芽生え敵の側頭部へ吸い込まれた。一瞬小札はすわ事
故発生かと目を剥いたがしかし流石は斗貴子である。結果からいえば回し蹴りは捌かれた。クラシックな構えをほとんど崩
さず左腕だけをわずかに上げた。ス、ス、ス。いくつもの残影描く繊手。それがネコ足のベクトルを大きく変えた。擦り上げ
られる真剣のよう……後に秋水がそう絶賛するほど見事な捌きだった。であるから中空にあった香美の体が大きく傾き大
きく均衡を欠いたのは当然といえた。飛距離は5m。教室中央めがけすっとんだ。
「合気! 合気でしょーか!!」
そう叫んだ小札が驚愕に黙り込むまで1秒までかからなかった。床に落ちるかと思われた香美はしかし敢えて捌かれるまま
大きく宙返りをうった。背中が極限まで丸まったと見る頃にはもう遅い。ネコらしいくぐもった鼻息を吹きながら彼女は目一杯
背筋を伸ばしバンザイをした。両手を床に向ける変則的なバンザイを。タンタンタタン。次の瞬間斗貴子は頚部に異様な
圧迫を感じた。傍観者たるヴィクトリアでさえ最初事態が飲み込めなかったから当事者の惑乱甚だ察するにあまりある。
ホットパンツから延びる白樺のような両足。その大腿部が戦乙女の気管を頸動脈ごと圧迫していた。後にヴィクトリアが映像
記録で調べたところによるとまず香美は逆立ちで着地するや腕の力だけで全身を跳ねあがらせた。そして前転飛びを繰り
返し斗貴子に肉迫。あとは以上の如くだ。
年代物らしくあちこちキッズアニメのシールの貼られたカメラは確かに映していた。斗貴子の額にヘソを押し付ける香美
の姿を。艶やかな短髪さえ足の間から生えているのを除けば”あぐら”をかくうな姿勢だった。ギリギリという音がした。香美
の大腿部はいっそう深く斗貴子の首にめりこんだようだ。彼女の背中では蜂のようにくびれた両脛がXを描きいっそう脱出
困難だ。あられもなく下腹部を押し付ける姿勢は男子生徒諸君の琴線にふれたらしくどよめきと歓声が起こった。
「俺もして欲しい」そう叫んだのはリーゼント頭の男子生徒でヴィクトリアの不興を大いに買った。
「よっ」
軽い調子だが見ていたものはひたすらに驚愕した。香美が軽く腰をひねったと見るや彼女の体は斗貴子の首を軸とばかり
に旋回し反転した。つまり肩車のような姿勢に変じた。攻勢は止まらない。シャギー少女が後ろに向かって倒れ込むとグル
ンという不気味な音がした。一同を戦慄と衝撃が貫いた。小柄ながらに不沈戦艦のようだと評判の斗貴子。その体が宙を
滑り天井へ吸い込まれた。フランケンシュタイナー!? 絶叫の小札。追随。ギャラリーたちも鋭く叫ぶ。
奏でられるは激突音。時間はやや減速した。投げた姿勢のまま、横ずわりをするネコのように臀部を突き上げたままの香美。
重力もやや減衰中だ。空中に漂いながらそして小札めがけピースをした。もっともそれを後悔したのはコンマゼロゼロ何秒
か後である。笑みに緩む頬。その横を青い影が通り過ぎた。はっとするころにはもう遅い。斗貴子の勝ちが確定した。銀成
学園理事長に収まっているイオイソゴが数十分後懇意の業者に天井板を3枚ほど発注したのはこのとき斗貴子が教室の
天蓋を蹴り抜いたからである。ガードレールも拉(ひしゃ)げる脚力で莫大な加速を得た彼女は、絞首と落下を選んだ。意趣
返しとばかり細腕を首に絡ませ腰を沈め……咆哮。耳さえ押さえ震えあがる中ギャラリーは目撃した。揉み合う女性2人轟
然と垂直落下するのを。
かくして香美は成すすべなく叩きつけられた。床に。「うげぇ」と舌出し呻くだけで済んだのはむろんこれが練習の一貫だか
らである。平生ならそのまま殺してるでしょうね。ヴィクトリアは肩を竦めた。
「というか手筈にない動きを取るな!!!」
絹を裂くような怒声をあげたのは斗貴子。どうやら彼女らはアクションの練習中だったらしい。そして香美が予定外の攻撃
を仕掛けた……滑らかに説明する小札を映しながらヴィクトリア、「わかっているわよそれぐらい」瞳を冷たく尖らせた。
「あのコも凄かったけど」
「ああ。いきなり対応できるあの人もすげえ」
「何て名前だったっけ」
「津村斗貴子さん。2年じゃいろいろ有名」
を仕掛けた……滑らかに説明する小札を映しながらヴィクトリア、「わかっているわよそれぐらい」瞳を冷たく尖らせた。
「あのコも凄かったけど」
「ああ。いきなり対応できるあの人もすげえ」
「何て名前だったっけ」
「津村斗貴子さん。2年じゃいろいろ有名」
ギャラリーたちはまだまだ驚き冷めやらぬ態だ。拘束を解かれた香美は立ち上がるなり斗貴子の肩をたたいた。何度も
何度も。からからと笑いながら。
何度も。からからと笑いながら。
「なーに言っとるのさ。これ特訓じゃん特訓!! ゲキワザを鍛え悪に挑むのよ!!」
つまりあたしら正義のケモノ!! 腰に手を当てそっくりかえる香美。裏腹にうなだれる斗貴子。ぷるんと揺れるネコ
少女の胸。「ああきっと戦力差に打ちのめされてる」どこからかそんな邪推が聞こえてきた。
少女の胸。「ああきっと戦力差に打ちのめされてる」どこからかそんな邪推が聞こえてきた。
「さあ今度は大道具の方々を映しましょう!! 参りましょう参りましょう!!」
「分かったからせめてカメラに映ってよ」
「分かったからせめてカメラに映ってよ」
ヴィクトリアは猫かぶりverで顔をしかめた。というのもリポーターがカメラマンの肩を抱えしきりに移動を促すからだ。よほ
ど小札は次の場所に行きたいらしい。
ど小札は次の場所に行きたいらしい。
(あの、僕は……?)
特に映されなかった貴信。哀愁漂うその肩を秋水は叩いた。優しく。とても優しく。
「さーこちら工芸室ではただいま演劇本番に向けて各種さまざまの調度品が製造中!! あ!! ご覧ください監督の方が
こちらに手を振っています!! 応じましょう!! おおーー!! おおおーーっ!!」
こちらに手を振っています!! 応じましょう!! おおーー!! おおおーーっ!!」
くるりと振り返り大きく手を振りだす小札にヴィクトリアは不快の色を強めた。カメラに尻を向けるリポーターがどこにいる。
いや放送業界のルールなど知らないしそれ的には大丈夫なのかも知れないが、とにかくロバ少女のおちゃらけぶりは見てて
正直、「ウザい」。気難しい狭量少女は限りなくそう思った。
いや放送業界のルールなど知らないしそれ的には大丈夫なのかも知れないが、とにかくロバ少女のおちゃらけぶりは見てて
正直、「ウザい」。気難しい狭量少女は限りなくそう思った。
「こっち!! こちらにどーぞ!! こちらに!! ああっ、来ました!! いらっしゃいましたこちらが大道具の監督を担当
される──…」
やってきた大道具監督を見たヴィクトリアは危うくキレそうになった。余裕綽綽、いかにもテレビ慣れしている顔つきを見た
瞬間感情のさまざまな奔流がつい口をつきそうになったのだ。」
される──…」
やってきた大道具監督を見たヴィクトリアは危うくキレそうになった。余裕綽綽、いかにもテレビ慣れしている顔つきを見た
瞬間感情のさまざまな奔流がつい口をつきそうになったのだ。」
「大道具監督さんの……総角主税さんですっっ!!」
「大道具ぅ!!? 裏方!? お前が!!?」
ヴィクトリアは知らないがこの人事については戦士側も震撼した。口火を切ったのは剛太だ。場所は寄宿舎管理人室で
休憩を兼ねた最終調整……およそ1時間前の出来事だ。
休憩を兼ねた最終調整……およそ1時間前の出来事だ。
「そうよ総角クン!! あなたはむしろ後からしゃしゃり出てきた分際で主役になろうとして総スカン喰らう役回りでしょ!!」
「そーだぜ!! 揉めた挙句無理やり主役やって失敗してまっぴー辺りに宥められてよーやく渋々ながらに身分相応の役
をやる! で、協調の良さを知って反省して俺たちに頭下げる!! そーいう役回りだろ!!」
「そーだぜ!! 揉めた挙句無理やり主役やって失敗してまっぴー辺りに宥められてよーやく渋々ながらに身分相応の役
をやる! で、協調の良さを知って反省して俺たちに頭下げる!! そーいう役回りだろ!!」
.
口ぐちに罵る桜花と御前に心中同意を示したのは秋水。斗貴子といえば良くも悪くもいつも通り睨みつけている。彼女に
言わせればホムンクルスは何をやっても気に入らない。悪行をやれば当然殺意が湧くし善行を見ても腹立たしい。なかなか
屈折しているが戦士が持つべき感覚としてはおおむね一般的だ。普通の範疇である。
口ぐちに罵る桜花と御前に心中同意を示したのは秋水。斗貴子といえば良くも悪くもいつも通り睨みつけている。彼女に
言わせればホムンクルスは何をやっても気に入らない。悪行をやれば当然殺意が湧くし善行を見ても腹立たしい。なかなか
屈折しているが戦士が持つべき感覚としてはおおむね一般的だ。普通の範疇である。
「なあなんかえらい言われようなんだけど俺。それなりに譲歩してるよな小札?」
珍しく情けない表情の総角だ。一筋の汗を垂らし傍らの小札を見た。「普段が普段ゆえ仕方無かろでありまする」。小札
は涙した。
は涙した。
「というか特訓はどうする?」
,
,
防人は特にどうという感慨もないらしい。もともとの取り決め──演劇練習に託(かこつ)け特訓する──がどうなるかだけ
聞いた。
聞いた。
「当然やらせて頂く。ただ場所はココ(管理人室)の地下にして貰うと有難い」
総角がいうには常に全員学校で特訓できるとも限らない……らしい。
「どゆコトだよ桜花?」
「他の人もアクション練習するでしょ? 教室とか体育館じゃスペース足りなくなるでしょうね」
「そう。何も演武を練習するのは俺たちばかりじゃない。だったらセーラー服美少女戦士や秋水も他の連中の面倒を見るだ
ろ? 練習台。試しの相手だ。香美にしろ無銘にしろそれは変わらん」
確かにな。防人は下あごに手を当てた。劇までもう3日もない。事情を知らぬ部員たちはいよいよ練習を頑張るだろう。
「そういう時に俺たちだけ特訓……という訳にはいかないか」
秋水も呻いた。
「逆にいえばだ。他の部員連中の面倒見た分を取り返す時間。そーいった物もシフトに組み込むべきだと俺は思う。周り道
した分、より濃密に特訓する地獄のような時間がな」
「……まあいいだろう。私は一応賛成だ。練習がひと段落したら休憩するとでも言って抜け出せばいい」
学校からココまでは幸い近いし。斗貴子の言葉に最速で同意したのは無論剛太だ。そんな彼にクスクス笑いながら桜花
も手を挙げた。その付属品ども(弟含む)もしぶしぶながら手をあげて音楽隊連中も「ハイハイ」とめいめい頷いた。
防人の議決が賛成に傾いたのはいうまでもない。
「他の人もアクション練習するでしょ? 教室とか体育館じゃスペース足りなくなるでしょうね」
「そう。何も演武を練習するのは俺たちばかりじゃない。だったらセーラー服美少女戦士や秋水も他の連中の面倒を見るだ
ろ? 練習台。試しの相手だ。香美にしろ無銘にしろそれは変わらん」
確かにな。防人は下あごに手を当てた。劇までもう3日もない。事情を知らぬ部員たちはいよいよ練習を頑張るだろう。
「そういう時に俺たちだけ特訓……という訳にはいかないか」
秋水も呻いた。
「逆にいえばだ。他の部員連中の面倒見た分を取り返す時間。そーいった物もシフトに組み込むべきだと俺は思う。周り道
した分、より濃密に特訓する地獄のような時間がな」
「……まあいいだろう。私は一応賛成だ。練習がひと段落したら休憩するとでも言って抜け出せばいい」
学校からココまでは幸い近いし。斗貴子の言葉に最速で同意したのは無論剛太だ。そんな彼にクスクス笑いながら桜花
も手を挙げた。その付属品ども(弟含む)もしぶしぶながら手をあげて音楽隊連中も「ハイハイ」とめいめい頷いた。
防人の議決が賛成に傾いたのはいうまでもない。
「でもどうして大道具だ?」
防人は首を傾げた。いきなり主役をやらないのは配慮だとしても──まあそれが普通なのだが──総角のような派手好き
が表舞台に出ないのは何だか妙だ。
総角は微笑した。自身に充ち溢れた顔つき、いわゆるドヤ顔だ。秋水を見たのは下記の文言にツッコミを求めたからか。
「アレだな。確かに俺が出れば舞台は輝く。というか俺の独壇場だ。総ての女性客は俺へ釘付けとなり男性客でさえ俺の
華麗すぎる剣さばきに目を奪われ熱狂する。控え目にいってもまあ、演技界における俺の伝説がここ銀成市の養護施設
から始まるのは間違いない。なあお前ら」
「師父。お言葉ですがそれは過大評価というものです」
『はは!! 貴方はいつもそうやって夢みたいなコトをいうけれど!!』
「すーぐつまらんコトでつまずくじゃん!! で何か情けない顔するでしょーが!!」
「……リーダーは……中間管理職が……お似合い……です」
口々に悪口を並べたてる仲間たちを小札はふわりと指差した。両目は向き合う不等号でおかしみ溢れる「わきゃー」で
ある。真白に硬直する総角などとっくの三手前にお見通し。そんな表情(カオ)だった。そして色のない殻にメキメキと罅(ヒビ)
が入り──…
「どーーーーだこの部下どもからの好評嘖々(さくさく)!」
白磁の欠片をまき散らし再誕する総角だが叫びはやや震えそして弱い。
「悪評しかないように思えるのだが」
「ちょっとヤケになってね? お前」
うん。うん。秋水は見た。首魁の後ろを。揃って頷く部下どもを。こういうコトはよくあるらしい。
「フ」
総角は笑った。しかしそれをやるまで2度ほど深呼吸を要したところを見るとそれなりのショックがあったようだ。
「でもアレだ。顔もいいし動きも演技も完璧すぎる俺が演技をやれば一人勝ちになってしまうだろ?」
斗貴子は無言で身を屈めた。寄宿舎管理人室の床にはこのとき鐶が量産したマレフィック勢の似顔絵の書き損じがかな
り大量に撒き散らかっていた。撒いたのは無銘であまりのクオリティにとうとう癇癪を起したからだがそれは直後勃発した痴
話喧嘩ともども本筋ではない。
とにかくも斗貴子はその1枚を拾い上げた。拳の中で何かが圧縮された。
次の瞬間響いたポフという音は総角の体表で生じたものだ。一拍遅れてカサリという音が畳でした。
総角は2、3度瞬いてから下を見た。丸まった紙屑。それが転がっている。
一瞬かれは斗貴子を凝然と眺めたが視線を外し──剥がす、という形容も相応しかった。意志の力で辛うじて黙殺したという
感じは否めなかった──声を上げる、朗々と。
「いうのは、いいか演劇というのはだな! 絶対の能力者一人で支えるものじゃあないッ! みんな1人1人の努力でよくして
いくものだ」
剛太の手から白いツブテが飛んだ。つられて香美も投げつけた。2人とも無表情でそれは先駆者も後進(除くラス1)もみ
なみな同じだった。
「特定個人の恣意ではなく人として捻出すべき素晴らしいモノのために、誰もが楽しめる普遍的かつ高度な娯楽のために協力し、
頑張っていくべきものだ。組織が素晴らしい結果を弾き出す時というのはつまりうぐっ、つまり、つまり、それでだな!」
うぐっは鐶のせいである。彼女の投擲した塊は紙製ながらも時速380kmをはじき出した。速度即応の痛烈さ。それが総
角の脇腹に直撃した。一時とはいえ演説が中断したのはそのせいだ。ダメ押しとばかり鼻柱へぶつかった紙屑は桜花の
投げたものだ。低威力だがそれだけに屈辱。欧州風の端整な顔立ちがそろそろ歪み始めた。
無銘はどうしたものかと首をオロオロ左右していたが小札がぴょいと投げつけたのを皮切りに倣った。ここでノらぬ防人で
はない。香美の手が二度目の投擲をしたのは貴信の分で、とうとう毒島までもが(謝罪の辞儀をしつつ)投げた。
御前がここまでおとなしくしていたのは特大の球体をこさえるためでそれは総角の頭上から振り落とされた。
やがてバラけたそれが足元に落ちきる──白雨やむ──ころ、やっと抗議する(できた)音楽隊リーダー。声は流石に上
ずっていた。
「痛い痛い。やめろ。物を投げるなっ。なんだ!! 何が気に喰わない!?」
「貴様の総てだ!」
斗貴子の叫び。頷く戦士。誰も彼もかつて一杯喰わされてるから仕方ない。
「フ、フ。とにかくだ。いくら優れているからといって新参に過ぎぬこの俺が他の者を押しのけ舞台の中央へいくようでは駄目だ」
丸みを帯びる金髪の頂点に紙屑が当たり景気よく跳ね跳んだ。「またか」。暗澹たる面持ちで総角は犯人を見た。
「あ、いや、済まない。儀礼的に一応」
(今頃!?)
(反応遅ぇ!!)
(でも投げるんだ……)
犯人──秋水──は戸惑い顔だ。
防人は首を傾げた。いきなり主役をやらないのは配慮だとしても──まあそれが普通なのだが──総角のような派手好き
が表舞台に出ないのは何だか妙だ。
総角は微笑した。自身に充ち溢れた顔つき、いわゆるドヤ顔だ。秋水を見たのは下記の文言にツッコミを求めたからか。
「アレだな。確かに俺が出れば舞台は輝く。というか俺の独壇場だ。総ての女性客は俺へ釘付けとなり男性客でさえ俺の
華麗すぎる剣さばきに目を奪われ熱狂する。控え目にいってもまあ、演技界における俺の伝説がここ銀成市の養護施設
から始まるのは間違いない。なあお前ら」
「師父。お言葉ですがそれは過大評価というものです」
『はは!! 貴方はいつもそうやって夢みたいなコトをいうけれど!!』
「すーぐつまらんコトでつまずくじゃん!! で何か情けない顔するでしょーが!!」
「……リーダーは……中間管理職が……お似合い……です」
口々に悪口を並べたてる仲間たちを小札はふわりと指差した。両目は向き合う不等号でおかしみ溢れる「わきゃー」で
ある。真白に硬直する総角などとっくの三手前にお見通し。そんな表情(カオ)だった。そして色のない殻にメキメキと罅(ヒビ)
が入り──…
「どーーーーだこの部下どもからの好評嘖々(さくさく)!」
白磁の欠片をまき散らし再誕する総角だが叫びはやや震えそして弱い。
「悪評しかないように思えるのだが」
「ちょっとヤケになってね? お前」
うん。うん。秋水は見た。首魁の後ろを。揃って頷く部下どもを。こういうコトはよくあるらしい。
「フ」
総角は笑った。しかしそれをやるまで2度ほど深呼吸を要したところを見るとそれなりのショックがあったようだ。
「でもアレだ。顔もいいし動きも演技も完璧すぎる俺が演技をやれば一人勝ちになってしまうだろ?」
斗貴子は無言で身を屈めた。寄宿舎管理人室の床にはこのとき鐶が量産したマレフィック勢の似顔絵の書き損じがかな
り大量に撒き散らかっていた。撒いたのは無銘であまりのクオリティにとうとう癇癪を起したからだがそれは直後勃発した痴
話喧嘩ともども本筋ではない。
とにかくも斗貴子はその1枚を拾い上げた。拳の中で何かが圧縮された。
次の瞬間響いたポフという音は総角の体表で生じたものだ。一拍遅れてカサリという音が畳でした。
総角は2、3度瞬いてから下を見た。丸まった紙屑。それが転がっている。
一瞬かれは斗貴子を凝然と眺めたが視線を外し──剥がす、という形容も相応しかった。意志の力で辛うじて黙殺したという
感じは否めなかった──声を上げる、朗々と。
「いうのは、いいか演劇というのはだな! 絶対の能力者一人で支えるものじゃあないッ! みんな1人1人の努力でよくして
いくものだ」
剛太の手から白いツブテが飛んだ。つられて香美も投げつけた。2人とも無表情でそれは先駆者も後進(除くラス1)もみ
なみな同じだった。
「特定個人の恣意ではなく人として捻出すべき素晴らしいモノのために、誰もが楽しめる普遍的かつ高度な娯楽のために協力し、
頑張っていくべきものだ。組織が素晴らしい結果を弾き出す時というのはつまりうぐっ、つまり、つまり、それでだな!」
うぐっは鐶のせいである。彼女の投擲した塊は紙製ながらも時速380kmをはじき出した。速度即応の痛烈さ。それが総
角の脇腹に直撃した。一時とはいえ演説が中断したのはそのせいだ。ダメ押しとばかり鼻柱へぶつかった紙屑は桜花の
投げたものだ。低威力だがそれだけに屈辱。欧州風の端整な顔立ちがそろそろ歪み始めた。
無銘はどうしたものかと首をオロオロ左右していたが小札がぴょいと投げつけたのを皮切りに倣った。ここでノらぬ防人で
はない。香美の手が二度目の投擲をしたのは貴信の分で、とうとう毒島までもが(謝罪の辞儀をしつつ)投げた。
御前がここまでおとなしくしていたのは特大の球体をこさえるためでそれは総角の頭上から振り落とされた。
やがてバラけたそれが足元に落ちきる──白雨やむ──ころ、やっと抗議する(できた)音楽隊リーダー。声は流石に上
ずっていた。
「痛い痛い。やめろ。物を投げるなっ。なんだ!! 何が気に喰わない!?」
「貴様の総てだ!」
斗貴子の叫び。頷く戦士。誰も彼もかつて一杯喰わされてるから仕方ない。
「フ、フ。とにかくだ。いくら優れているからといって新参に過ぎぬこの俺が他の者を押しのけ舞台の中央へいくようでは駄目だ」
丸みを帯びる金髪の頂点に紙屑が当たり景気よく跳ね跳んだ。「またか」。暗澹たる面持ちで総角は犯人を見た。
「あ、いや、済まない。儀礼的に一応」
(今頃!?)
(反応遅ぇ!!)
(でも投げるんだ……)
犯人──秋水──は戸惑い顔だ。
「おのれどいつもこいつも!! もう終わりだな投げないな!! いいさもう、投げたきゃ投げろ!! でもこっからは俺も
全力だからな!!!! 全力でゼンブゼンブ捌いてやるからな!! 覚悟しろ!!」
(あ、キレた)
(昔の口調全開であります)
ひとしきり吠えた総角は青筋立てつつ一座を見まわした。のみならず床の紙屑総てを拾い上げ窓を開け──…
窓を閉めゴミ箱に捨てた。
(捨てないんだ外には)
(窓開けた辺りで我に返ったようだ)
(理知的なのか感情的なのかわからねーよ)
全力だからな!!!! 全力でゼンブゼンブ捌いてやるからな!! 覚悟しろ!!」
(あ、キレた)
(昔の口調全開であります)
ひとしきり吠えた総角は青筋立てつつ一座を見まわした。のみならず床の紙屑総てを拾い上げ窓を開け──…
窓を閉めゴミ箱に捨てた。
(捨てないんだ外には)
(窓開けた辺りで我に返ったようだ)
(理知的なのか感情的なのかわからねーよ)
そして空咳。総角は叫んだ。
「いいかお前らよく聞け。いいか。組織というものはだな!」
「トップの、自負だけが肥大した何者かのスタンドプレーのためにあるんじゃない! 」
「「「「「お前がそれを言うかーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」」
絶叫したのは秋水と桜花と御前と剛太とそして斗貴子。
小札は瞳を細め笑った。にへらーと。
(考えようによっては戦団という組織の方々みなみな総てもりもりさんのスタンドプレーに振り回されておりますコト全く否め
ぬ訳で……)
小札は瞳を細め笑った。にへらーと。
(考えようによっては戦団という組織の方々みなみな総てもりもりさんのスタンドプレーに振り回されておりますコト全く否め
ぬ訳で……)
「くそう紙屑あれば投げてやるのに!!」
「てめーもりもり先読みしやがったな!!」
「先読みして武器を捨てる……か。ったく!! 相変わらず小賢しいな!!」
「今からでも遅くない。回収しようか姉さん?」
「駄目よ秋水クン! 総角クンなんかのためにゴミ箱漁るなんて!!」
「ハッハッハ!! 喚くがいい叫ぶがいい!! だがもう遅い! もはやお前たちに武器はない!! フフフ……ハーッハッハ!!」
.
.
「しばらく揉めそうですしお茶にしましょう」
「そうだな毒島。お前たち、イモ羊羹ならあるが口に合うか?」
「あ、どうもです戦士長さん」
無銘は軽く会釈した。防人には好意的らしい。
,
「フ。毒島よお前の反応が一番ひどい……人に紙屑ブツけておいてそれはないだろ」
ごにょごにょ口の中で唱える総角だが10の目玉に気付き詠唱中断。
「優れているという自負があるのならその能力は他(た)のために使うべきだ。他を生かすために身を削るべきだ。リーダー
たる俺は常々そう考えているし、人材育成に対してはまったく計り知れぬモチベーションを抱いてもいる」
斗貴子が短めの母音で反問した。鋭くもギラついた声は悪鬼のそれだった。
「よって裏方だ。部を見たが大道具に回され文句垂れてる連中がいた。そいつらを啓発する」
ああそう。剛太は羊羹を食べに行った。
「フ。まずは演劇における大道具の重要性を説いてやる。目的意識をハッキリさせてやるのさ。自分たちの作る物がどれほ
ど役者を引き立てるか、観客の関心を惹起出来るのか……頑張れば頑張るほど役者と同じくらい劇に貢献できるというコトを
たっぷり知らしめてやる」
言ってるコトはまともだけども……「お前が言うと胡散臭いんだよ」。口ぐちに混ぜ返すのは桜花ならびにその派生物。
「大道具の制作がどれほど創作性に富んでいるか、自己表現の媒体としては演技に負けず劣らずの可能性があるという
コトをきっちり教えてやる。フフフ。フハハハ!!」
総角は哄笑した。両掌を上にむけ十指ことごとく鉤と化し。悪役のような笑いに渦巻かれながら秋水は口を開く。至って
普通のコトを普通に訊くために。
「……君は大道具に携わったコトがあるのか?」
「フ。ないさ」
「ないのかよ!!」
「だが要領など入門書を読めば大体掴める。要は、大道具担当の者たちに目的意識と張り合いを与えられるか、だろ?」
「てめーもりもり先読みしやがったな!!」
「先読みして武器を捨てる……か。ったく!! 相変わらず小賢しいな!!」
「今からでも遅くない。回収しようか姉さん?」
「駄目よ秋水クン! 総角クンなんかのためにゴミ箱漁るなんて!!」
「ハッハッハ!! 喚くがいい叫ぶがいい!! だがもう遅い! もはやお前たちに武器はない!! フフフ……ハーッハッハ!!」
.
.
「しばらく揉めそうですしお茶にしましょう」
「そうだな毒島。お前たち、イモ羊羹ならあるが口に合うか?」
「あ、どうもです戦士長さん」
無銘は軽く会釈した。防人には好意的らしい。
,
「フ。毒島よお前の反応が一番ひどい……人に紙屑ブツけておいてそれはないだろ」
ごにょごにょ口の中で唱える総角だが10の目玉に気付き詠唱中断。
「優れているという自負があるのならその能力は他(た)のために使うべきだ。他を生かすために身を削るべきだ。リーダー
たる俺は常々そう考えているし、人材育成に対してはまったく計り知れぬモチベーションを抱いてもいる」
斗貴子が短めの母音で反問した。鋭くもギラついた声は悪鬼のそれだった。
「よって裏方だ。部を見たが大道具に回され文句垂れてる連中がいた。そいつらを啓発する」
ああそう。剛太は羊羹を食べに行った。
「フ。まずは演劇における大道具の重要性を説いてやる。目的意識をハッキリさせてやるのさ。自分たちの作る物がどれほ
ど役者を引き立てるか、観客の関心を惹起出来るのか……頑張れば頑張るほど役者と同じくらい劇に貢献できるというコトを
たっぷり知らしめてやる」
言ってるコトはまともだけども……「お前が言うと胡散臭いんだよ」。口ぐちに混ぜ返すのは桜花ならびにその派生物。
「大道具の制作がどれほど創作性に富んでいるか、自己表現の媒体としては演技に負けず劣らずの可能性があるという
コトをきっちり教えてやる。フフフ。フハハハ!!」
総角は哄笑した。両掌を上にむけ十指ことごとく鉤と化し。悪役のような笑いに渦巻かれながら秋水は口を開く。至って
普通のコトを普通に訊くために。
「……君は大道具に携わったコトがあるのか?」
「フ。ないさ」
「ないのかよ!!」
「だが要領など入門書を読めば大体掴める。要は、大道具担当の者たちに目的意識と張り合いを与えられるか、だろ?」
最後に総角がこう言ったのをヴィクトリアは知らない。
「俺はどっしり構えて知ったかぶりをやればいいのさ。慣れれば誰でもわかる程度の基本事項を面白おかしく吹聴し、「まあ
俺も大道具は初めてだから分からないコトがあれば宜しく頼む」とでも頭を下げればそれで済む。一番大事なのは組織への
帰属意識だ。こいつらと一緒に頑張っていきたい、そう思える雰囲気を作るコトだ。俺はそれを阻む夾雑物を一つ一つ
取り除いていけばいい。組織に不安や苛立ちが満ちぬよう、な。そのためならば幾らでも身を削るさ」
俺も大道具は初めてだから分からないコトがあれば宜しく頼む」とでも頭を下げればそれで済む。一番大事なのは組織への
帰属意識だ。こいつらと一緒に頑張っていきたい、そう思える雰囲気を作るコトだ。俺はそれを阻む夾雑物を一つ一つ
取り除いていけばいい。組織に不安や苛立ちが満ちぬよう、な。そのためならば幾らでも身を削るさ」
もし知っていても受け入れられたか、どうか。総角を見る彼女の眼は相変わらず厳しい。