SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 永遠の扉 第096話 (6)


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「むーん。少し席を離れてみればこれとはね」

 誰もいない部屋の中で、ムーンフェイスは一枚の紙を眺めていた。


<なんや銀成市が楽しそうになってきたからウチらも行く! せっかくリヴォ媒介にしたんや! 近くにおる方がもう1つの調
整体奪いやすいよってな!!>

<アジトの規模ちょっと縮小するねー。銀成行く方が怠けられるってデッドいうしー>




「やれやれ。結局幹部の9割が銀成か。このアジトも何のためにあるのやら」



 周りを見渡す。そこは会議室らしい。いかにもオフィスという感じの床は薄紫でその中央には円卓が置かれている。10あ
る席のうち9つまで「外出中」の三角錐が置かれいる。思わずムーンフェイスは嘆息交じりに微苦笑した。
 マレフィックとはつくづく勝手な連中らしい。




「しかし……」

 ムーンフェイスは手紙を握りつぶした。彼は笑った。黒い胚のような瞳を浮かべ、爛々と。

「他の幹部はともかくウィル君。キミは少し危険すぎる」


──「地球の荒廃? やだよそんなのー。amazonもニコ動もない、食べるコトごときに必死にならなきゃいけない世界なんてー」


「私とは相容れない。歴史さえ改竄できる……いまは無理だが万が一というコトもある。回復される前に、いっそ」

 空間が割れ爆ぜムーンフェイスの肩口が裂けた。ぶわりと舞い散る血しぶきの向こうに異形の腕を認めたムーンフェイスは
四白眼のまま口元を細めた。



「ソウヤ君……だったかな? キミも彼は斃したい……違うかい?」



 利害の一致。本来仇敵であるはずの男にそれを覚える皮肉。不気味な薄笑いが月の顔を支配した。
.
.



「ったく。いつまでこんなカビ臭ぇ場所にいなきゃならねェんだ」
 パピヨンの研究室にボヤキ声が響いた。
「我慢なさい猿渡」
「我々が蘇ったのは『もう1つの調整体』を守らんがため……創造主(あるじ)の命は絶対」
 最初の声は妖艶な女性の、次の声は堅苦しい戦士の声。
「面倒くさい。出て行きたければ勝手にしろ。ああなってもいいならな」
 机に腰掛けた男が顎をしゃくる。部屋の片隅に妙なものが転がっていた。
「ひどいよ……ちょっとメイドカフェ行こうとしただけなのに……」
 キノコのような髪型の男が涙で顔をくしゃくしゃにしている。首から下はなかった。近くに転がっている小さなガラクタの
山が彼の体で、それは茨や羽根でぐしゃぐしゃに壊れていた。
 惨状。しかし最初の声の主は口笛を吹いた。恐ろしく体格がよい男だった。ランニングシャツ一枚の上半身は今にもそこ
かしこから筋肉が零れておちて行きそうだった。年のころは30間近というところだろうか。
「やるね花房。鷲尾。ウチの若い衆にも見習わせたい位だ」
 花房と呼ばれた女は巨大なフラスコにもたれかかっていた。それだけでむしゃぶりつきたくなる色香の持ち主だ。髪は
長く上着には薔薇の刺繍が施されている。
 鷲尾と呼ばれた男は精悍な顔つきでただ事務的に頷いた。味もそっけもない対応だが猿渡は知っている。
 いま部屋にいる5人の男女の中で最も強く信頼のおけるのは……鷲尾だと。
「しかし難儀だよなあ巳田。面倒くさがりのてめェが蘇らされるなんて」
「別に」
 とは机に腰変えた男性だ。30をやや過ぎたあたりの彼は横分けの髪の下で冷たい瞳をトヨリとさせた。どうでもいい。
そんな顔つきだった。
「『もう1つの調整体』を守る……我々の使命はそれだけだ」

 鷲尾はただ静かに呟いた。




「いつまで待たせんだこの野郎」
 激しく揺れたベッドに鈴木震洋は声にならない悲鳴を上げるしかなかった。ブーツが、側面に刺さっている。鍛え抜かれた
見事な足が蹴り抜いたのだ。白いズボンを怯えたように一瞥すると恐る恐る視線を移す。
「ンだよ?」
 凶悪な顔がそこに広がっていた。目は吊り上がり口ときたら牙が何本もむき出した。咥え煙草が噛み破られていないのが
不思議なぐらいだ。
「じろじろこっち見る体力あんならとっとと尋問に答えろよ。オイ!!」
 そういって彼はガシガシとベッドを蹴る。いよいよベッドの耐久力が限界という辺りで天井のスピーカーが
「そろそろお静かに願います火渡戦士長」
 冷たい女性の声を響かせそのつど攻撃がやむのが先ほどからのお約束だった。
 バツが悪そうに舌打ちを漏らすと火渡はパイプ椅子に腰かけた。折れた! そう思える破滅的なな軋みが響いた。足を
組み凶悪な瞳をますます尖らせているのはとても戦士には見えない。震洋のいた共同体にさえいなかった凶悪な化け物だ。
「クソッタレ! 聖サンジェルマン病院の連中がとっととこっち(日本支部)に搬送してこねーからこういうコトになんだよ!!
てめェもてめェだ!! 脱走なんざしやがって! しかも脱走してすぐ例のクソ生意気な新人(ルーキー)どもと揉め事起こ
して重傷だ!! 話聞こうにも話せねェと来ている! 腕まで折りやがって! 筆談も無理じゃねェか!!」
 そうなのだ。例のメイドカフェの騒動のさまざまなドサクサで震洋は重傷を負い病院に逆戻りした。そして何がどうなった
かは分からないがあれよあれよと瀬戸内海にある戦団日本支部に運び込まれた。
 話によればどうやら例のムーンフェイス脱獄について聴取したいらしい。照星救出が間近に迫っている。少しでも多く敵の
情報を……といったところだ。
(で、その担当というのが!!)
 火渡赤馬。攻撃力だけなら戦団最強と目される男。役職は戦士長だが坂口照星誘拐に伴い現在は大戦士長代行。日本
支部を指揮している。
 防人や千歳の朋輩たる彼はいまかなり忙しいらしい。先ほどから老若男女さまざまな戦士たちが掛け込んでくる。
 電話もかかってくる。
 それらの報告を受けるたび
.
「まだそんな場所うろついてやがるのかディープブレッシングのヤロウども!! とっと移動するよう言いやがれ!」

 とか

「遅ぇぞ毒島!! 定時連絡欠かすなって言ってるだろうが! あ? 違ーよ! 誰もてめェの心配なんざしてねェ!!」

 とか

「テメーいつまで千歳と居るんだ!! 密売人の追跡なんざ押し付け……護衛? いらねェだろ! 千歳だぞ!」

 とにかくとにかく声を荒げている。喉が壊れていて怒鳴り声以外上げられないのではないか。震洋は本気でそう考えた。

「クソ!! どいつもこいつも使えねェ!!」

 火渡は携帯電話を叩きつけた。どうやら戦団本部が大戦士長代行就任時にまず行ったのは備品代の節約らしい。
恐るべきと力と速度で叩きつけられた携帯電話は割れもせず砕けもせずただ跳ねた。衝撃吸収性と耐久度に富んだマテリ
アルで改修されており──だいたいこうなるコトはみな予想していたのだ。急きょ照星の後釜に据えた火渡が忙殺ともどか
しさに耐えかねるなど。八つ当たりが総額幾らの携帯を葬るか! 筺体の強化はまったく的確すぎるカネと労力の使い道だっ
た──窓や壁を縦横無尽に飛び回ったあげく震洋の頬を痛打した。7章7敗の千秋楽で仇敵とやり合う相撲取りの張り手
さえ優しく思える衝撃が頬肉ごと口腔を貫き彼は横向きに倒れた。追撃。拉(ひしゃ)げた柵に頭が当たりダメージプラス。
 一瞥もくれず携帯電話をぱしりと受け止めた火渡

「? 何ハシャいでんだよ」

 不思議そうな表情である。口をパクつかせて見せるが真意はまったく伝わらない。もっとも伝えたところで文字通りの火に
油だが。

(うぅ。そもそも脱獄の話を持ちかけてきたのはリヴォルハインとかいう変な男なんだ!! 変な能力の持ち主でそれで
ムーンフェイスのいる場所を突き止めた!! でも大戦士長誘拐なんてのは頼んでない!! むしろあいつらは大戦士長
の誘拐ついでにムーンフェイスを脱獄させたフシもあるんでわ……。でもいえない。いわない限り怖いのは止まらないのに……!)

 悩んでいるとドアがあき、若い女性が入ってきた。ドアの前でくるりと身を翻し片手を大きく伸ばすと

「やあやあ火渡戦士長くん。元気しとったかい~?」
 火渡の顔が一瞬にして不機嫌最高潮に達した。震洋はただ息を潜め──空気のように無きものとして──飛び火を避
けるほかなかった。

 タテシ   タライ
「殺陣師……盥。てめェまだ前線行ってねえのか!!」
 女性は目を細くした。糸よりも、ずっと。
「はっはっはー。志願したけどもっと前線向きの奴がいるだろって後回しされたのぞよー。いやん。なにしろ殺陣師サンの
武装錬金ってば騒擾(そうじょう)鎮圧盾ことライオットシールド! あはは。特性も特性でツッかいづらいしさー。うははははっ」
 柔和な雰囲気な女性だった。年のころは20に届くか否か。袖のない黒いインナーにダボダボの迷彩ズボンといったいで
たちは戦士というよりサバゲー帰りの大学生という調子だ。髪は野性的なショートカットで真赤なベレー帽を被っている。
 顔つきこそ中性的で愛らしい少年のような明るさに満ちているが、その上体は細いながらも起伏に富んでいる。だらしなく
胸元を覗き込んだ震洋だが……。
「こらこら青少年。そーいうの興味あるからってイキナリ見るのはいけないゾ★」
 あはあは笑う女性──火渡が殺陣師と呼んだ──に肩を叩かれ断念した。
「つか殺陣師サンみたいなの見ても仕方ねーんじゃないのかニャ?」
(えーと)
「おお。なんだよそのー、ガックリしちまうぜえ割とマジでっつー反応! くぉのー、いつまで経っても女心の分からん奴めえ」
 女──殺陣師──はそう笑いながら震洋を小突いた。うりうり、うりうり。とてもとても楽しそうだった。
(いつまでもって……いまが初対面だろ!!)
「ウソでもいいからこういうときは見たいですってカオしときなベイベー」
 その癖「見て喜んでくれるなら大いにおっけー!」などという。よく分からぬ女性である。
「あ! この施設から西に3kmほど行った踏みきりの前にあるけど買ってくる?」
「なにをだ……なにをですか?」
「エロ本!! の!! 自販機!! 何がいい? 巨乳? 貧乳? 女子大生? それとも熟女? ロリはダメだよ可愛いけど!」
 どう反応すべきか。沈黙する震洋をよそに殺陣師は「あのねあのね」と一生懸命しゃべりまくる。
「あのねあのね殺陣師サンああいうの見ると「くはぁー!!」ってなって足早にとおりすぎる訳さね。でもたまには!! たまには
ちょっと買ってみたくもあるから困りものだよゾゾゾのゾ。あはは。ヘンかな? 女なのにねー」
 笑う彼女の背後でびきりという音がした。仁王がいた。顔面のあらゆる筋肉を引き攣らせる火渡が。彼の八重歯は一部欠けて
おりその視認をして震洋は先ほどの「びきり」が何か理解した。欠け割れた先端は当たり前のように火を吹いている。今はチロチロ
蛇の舌。小さく見え隠れしているだけだがいつ激情の爆発が部屋を吹き飛ばすか。
 声にならない声をあげ制止する。
「あーあーあーみなまでいわんでいい分かっとる分かっとる。男のコだもんたまには発散せんとあかんね」
(コイツまったくわかってねえ!!)
 ますます蒼くなる震洋。彼に手を突き出したきり殺陣師は気ざったらしく目をつぶり指で額をグリグリした。
「だからさー。火渡戦士長くんも遠慮なく炎を発したまえ!」
 いままさにそうされんとしたとき殺陣師の背中が光に覆われた。武装錬金が発動した。一拍遅れで理解した震洋の眼前に
巨大な盾が広がった。半透明の素材で構成されたそれは創造主たる殺陣師とほぼ同じ高さだった。
「たまには怒ってスッキリするのもアリだよアリ! 私はこの病室で生けとし生ける総ての存在を守ってみせるからさ。どーぞ~」
 素早く盾を構えた殺陣師、火渡と数mの距離で向かい合う形だ。
「まーたぶんマッけるけどさ。あはは。負けるんだ殺陣師サン。啖呵きっといて負けるとかいうんだ~。いやなにこのネガティブっ
ぷり。もうちょっと頑張ろうよ殺陣師サン。負けるなマッけるなファイトだおー!!!」
 そういって殺陣師は片手を上げた。
 実によく分からない女性だ。震洋がいままでの人生で最もビックリしたのは桜花が初めてエンゼル御前を発動したときだが
──いったい何であんな代物が──そこから5ランク下ぐらいには入る状況かも知れない。
「……っとと。とにかくさー。負けはするけどナースさんたちが消火器持ってくるまでの尺ぐらいは稼げるヨー」
 火渡は舌打ちをし何やら口中で何やら文句をごにょごにょ唱えた。多くは聞き取れなかったが
「弱すぎる癖に」
 というのが怒りの大きな要因らしい。
「だーよーねー。そこが殺陣師サンの武装錬金最高の悩み。使うたび傷増えるし入院するし……」
 そういいながら殺陣師は当たり前のようにズボンを下ろした。剥きたてのゆで卵のようにつるつるとした太ももが最初何か
震洋ははかりかねた。少なくてもLXE時代なんとか生き延びた同年代の信奉者の更に女性──主に桜花だが──はその
ような挙措に打って出るコトはなかった。(色仕掛けをされるほど武力も魅力も権力もなかった。震洋は)。蒼い下着を紐ごと
露出させながら殺陣師はケラケラと笑い太ももを何箇所か指差した。
「銃弾捌いたときのアレでしょー。特訓でヤケ起こした斗貴子の介が事故った時の傷でしょー。あ! ウツボカズラ型のホム
ンクルスに剛太の介溶かされそうになった時の傷もだ!! ないと思ったらこんなところに飛ばされてたんだー」
 事もなげに指針を変える殺陣師の指を眼で追ううち震洋は信じられない思いがしてきた。
(なんだよこの傷。何だよ……!)
 ズボンの片側は膝のあたりまでずり下がっている。それで視認できる大腿部は女性らしく細く、そしてとてもしなやかだが
美しさとは程遠い様相を呈していた。青紫のケロイドが豹のまだらがごとく点在しそこに醜くえぐれた肉のクレーターがおぞ
ましいアクセントを加えている。もっとも衝撃的だったのは太ももを走る一本の線で薄紅色したそれはもはや傷というより
再接合の跡──斬り飛ばされたそれを無理やり癒着させた──というべき勢いだ。
 良く見ると殺陣師の腕や鎖骨の辺りもそんな調子だ。古今東西あらゆる傷の展覧会だった。無傷な顔が異常とさえ思え
た。斗貴子よりも傷だらけであるべきなのに……。
「うー。悪いね悪いね堪忍だよ。せっかく見て貰ったのにあまりお得感ないでしょ? ごめんねぇ」
 さばさばとしたようすで殺陣師はズボンを履きなおし、
「イッつもこんな調子でさー。最初は医療班に頼んで傷とか消して貰ってたけどあまりに面倒臭くなってきたから殺陣師サン、
最近行ってないのよさー。聖サンジェルマン病院にいるトモダチは来い来い言ってくれるけども。気、使ってくれるけども」
 大いに顔をしかめてみせた。
「あ!! ごめんごめん話過ぎたかなあはは。ダッめだよねー。初対面なのに自分語りばっかとか。トモダチにももうちょっと
黙れとか言われるんだけど殺陣師サンついつい喋りすぎちゃって……
「つーかなにしにきたんだよてめェ。遊びに来たとかいったらキレるぞ」
「あ」と目を瞬かせた殺陣師は震洋を指差し
「そのコの検査結果が出たから報告にきたのだよ殺陣師サン」
 おもむろに茶封筒を取りだした。B4サイズほどの大きなそれを親指と人差し指でちょんと持ち、ペラペラ揺すった。
「みんな救出作戦で忙しいからヘルプ!!」
 えへんと得意げに胸を反らす。服越しでも分かる豊かな膨らみがぷるんと揺れた。

「予想通りデッす★ 不完全なもう1つの調整体を使ったのがきっかけとなり」

「彼の体ってば人間とかけ離れつつあるのだっ!」
(え?)
「1か月もすれば駆除対象!! ホムンクルスと同格の化け物。うきゃあ。タイヘン!」
(ええええええ?)
 ここで初めて火渡は笑顔を浮かべた。眉間に濃い影のある凶悪な微笑みだった。
「いまぶっ殺しちまうってのはどうだ?」
「構わん!! 構わんぞよ戦士長くん!!」
(いやそこは構えよ!!)
 殺陣師は意外な言葉を吐いた。
「ただなんかさ。胃袋の一部が核鉄のような材質らし!」
 ホレホレ。殺陣師は自らの武装錬金を指差した。同時にライオットシールドは白く輝き出した。そこに張り付いているもの
があった。レントゲン写真だった。盾はそれを貼るのに最適な装置へと早変わりだった。半透明だった盾はいつしか白く
濁り、しかも奥底から照明相当の輝きがこんこんと湧き出ていた。
(と、いうか)
 青白い骨格と影で構成された自らの透視図を遠目ながらに凝視。震洋の顔からみるみると血色が抜けた。
 悪性腫瘍が見つかるよりひどいありさまだった。
 これだから、これなのだー。殺陣師は写真のある一帯を指差した。
「見ての通り、胃のあたりから神経のようなものが伸びちょーる!!」
「こりゃあ全身にだよな}
 殺陣師は笑顔で頷き影の正体を報告した。分類すれば神経のようなもの。その影響か震洋の身体能力は強化されて
いる。ホムンクルスに近づきつつある、と。
「いまは一般的な人間型の63%ほどのパワー!! 力こそパワー!!」
「だったら別に問題ねェ。しかしどーいうコトだオイ。例のもう1つのなんたら喰った影響か」
 火渡は震洋の頭をつかんだ。そして強く揺すり始めた。
「いいえー。改造手術だボヨン☆」
 殺陣師は横ピースをした。火渡は無言で蹴りを繰り出した。それをアハアハ笑いながらひらりと避け、殺陣師はライオット
シールドの影に隠れた。そして顔半分だけ出して──恐怖刺激を期待するラクダのようの表情で──こう言った。
「ほら、このコ聖サンジェルマン病院から脱走させた鳴滝とかいう予言者いたでしょー? ア・イ・ツ。殺陣師サンが小耳に
挟んだところによるとね。アイツね。なんか別世界の悪の組織の幹部らしいんですよゲヘゲヘ。ひゃー悪の幹部!! 殺
陣師サンも一度ボンテージ着てみたーい!! え? ダメ。そ。鳴滝? ああ。幹部ですもの改造手術なんてのはお手の
物。ん? 斃されたの本物コピった奴だっけ? まあいいや。とにかく後は遺留品のメモ見てちょー☆」



【不完全なもう1つの調整体。大部分はムーンフェイスに抜き取られたが欠片とか粒子はわずかながら残留している】

【それをクウガの世界から持ってきたゴオマのベルトの破片……霊石と融合させてみよう!】

【増幅されるかも知れん。待っていろディケイド!! この武装錬金の世界こそ貴様の墓b】

(鳴滝てめえ!!)

「ゴオマって何だよ?」
「ヨッく分からないけど未確認生命体第3号ぉ! コウモリらし!」
.
「それが不完全版:もう1つの調整体のイミフな副作用と合わさったもんだからもー大変! 青少年はもはや戦うためだけ
の生物兵器一直線!!」

「いまなら武装錬金も発動できちゃうヨー。治癒力だけなら常人の3倍……え? メイドカフェで負った傷? あーあれは
簡単に言うとねぇー。ふつーの人間ならばらばらになってるレベル!!」
(うげ)
「うむむ。よくぞ頑張ったぞ青少年! で戦士長くんどーするよ?」
 火渡はますます笑った。笑いながら震洋に歩み寄りその襟首をむんずと掴み持ち上げた。
「話は聞いたな。人手不足だ。てめェも救出作戦に参加しろ!!)

(なんて不条理な!!!!!!!!!)




「総角。無数の武装錬金を使える君が敢えて剣術を修めている理由。それは──…」
「フ。想像通りだぞ秋水。仇討……成すためには」



「剣であの男を上回る他ない」

「俺のクローン元をな」






 円卓の上。

 三角錐。

 外出中。
 外出中。
 外出中。
 外出中。
 外出中。
 外出中。
 外出中。
 外出中。
 外出中。

 …………………………。


 拷問中。


 扉が開いた。靴らしき影が競り出した。行く手に広がるのはまだらの沼だった。かさかさに黒ずんだ血液と濃緑色の膿が
混じり合う溷厠(こんし)に劣る床だった。ねとり。ねとり。ねとり。靴は進む、裏底に引く汚物の糸をものともせず。

 照星はまだ意識を取り戻さない。ただ仰向けに突っ伏している。血膿と腐臭に満たされた広い部屋の中央で……。

 彼の傍で靴が止まった。遥か上方で薄い笑いが漏れた。
「総登場だ。幕間の幕切れは近いよ照星。君はせいぜい血を流してくれたまえ」

 金の奔流が照星めがけ放たれた。風切る音が一拍遅れでようやく響くほどの速度だった。照星の長い髪がふわり棚引いた。

「破壊には準備が必要だ。積み上げた物を壊すのはとてもとても気分がいい」

 照星の右肩から血があふれ出した。黒い外套を穿孔するものがあった。金色をしたそれは刃だった。片刃の鋩(きっさき)
だった。それは靴の持ち主の手めがけ果てしなく果てしなく伸びていた。独特のわずかな湾曲は明らかに日本刀だった。

「だから演劇だ」

 暗い、しかしどこまでも大きく高らかな声を上げ彼は叫んだ。

「演劇をしよう!!」



「MELSTEEN=BLADE」 そう刻まれた認識票が跳ね上がり──…



 やがて世界は暗転した。