SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 永遠の扉 第096話 (5)


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「時間を元に戻す方法? ふふ。僕と武藤ソウヤがこの時系列から消えれば或いは」
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.
「小札零が死ねばもっと確実かもね」


「世界は戻るかも知れない。素晴らしき素晴らしき正史へと」








「えーと」
 桜花は小札を見た。その美貌は大いに揺れている。戸惑いを隠しきれないようだ。
「お兄さんがいたの? 小札さん」
「……はい」
 消え入りそうな声を漏らしたきり小札は俯いた。両目がシルクハットのつばに隠れたため表情は見えないが……しっとりとした
声音がいつも通り小札を雄弁にしていた。気落ちしているのは誰の目から見ても明らかだった。
「…………」
 秋水は彼女と総角を覗く音楽隊全員めがけ視線を移した。どうやら彼らも初めて聞いたらしい。鐶は目を丸くし香美は静電
気を浴びたネコよろしく頭髪を逆立たせている。貴信が辛うじて黙っているのは小札の兄が故人だからか。
 もっともショックを受けているのは無銘で彼は
「え? 母上にお兄さん? 我におじさんが? え」
 などと露骨にうろたえている。
(……そういえば俺との戦いで、総角は)
 カズキやまひろへの感情。それを支えに挑みかかる秋水に対して。

──「君を倒す!」
── 双眸に映る碧眼の男は微苦笑した。
──「やれやれ。お前は俺の嫌いな物を見せてくれるな」
──「?」
──「俺の嫌いな物は鏡だ。理由はいわずとも分かるだろう。そして澄み渡る水は銀面となり近く
──の物を写し込む。今のお前の瞳のように」

 と言った。
(似ている……と言いたかったのか?)
 誰かの兄を想い誰かの妹のために戦いを選ぶ。そんな秋水が。

「つーかもりもり何で黙ってたのさ!!!」
『そーだ!!! ズルいんじゃないかなあ!! 貴方は僕たちや鐶副長の過去!!』
「根掘り葉掘り……聞きまくり、でした。なのに……いつも……大事なコト……秘密……このやろリーダー、このやろ、です」
 わっと歓声があがる。見る。美少女2人が総角に詰め寄っている。香美はグーでポカポカをやり鐶は瞳を暗欝に尖らせ
上目遣い。猛抗議。しかし金髪の美丈夫は涼しげに瞑目したまま
「フ。そうだ。お前たちの今の顔。驚き慄くその顔が見たかった」
 前髪をかき上げた。抗議の声がますます膨れ上がる中、無銘はただ1人「おじさん……おじさんが……」と呻き続けた。
「だいぶショックを受けていますね」
「そういえば彼も音楽隊の初期メンバーだったな」
 創立当時からいるのに知らなかった……自負の強い少年にとってとても衝撃的な出来事だ。
「そうだ総角。彼の本当の両親というのは……」
「フ。分からない。だからこそ旅をし探しているのさ」
 防人は呻いた。何か思う所があるのだろう。
「というか先輩。アオフシュテーエンとかリュストゥングとかどこの言葉すか?」
「まったく少しは勉強しろ剛太。ドイツ語だ。アオフシュテーエンは覚醒とか……目覚め」
「リュストゥングは鎧ですね」
 くぐもった声をガスマスクが上げると今度は銀色防護服が首を捻った。
「じゃあ小札。キミはドイツ人なのか?」
「あ、いえ。違うのです!! 一応国籍は持っておりますが100年前から不肖がお家は日本に土着、いわば一族総出の
居候。で、ありますれば配偶のつど混血を繰り返しいたしまするはまったく必然、代を重ねた結果、不肖はほとんど日本人!
ドイツの土を踏んだのは一度きり、迷いに迷われました鐶副長どのの不時着で偶然到着せしただ一度……」
「あー。道理でそんなちんちくりんなんだお前」
 憐れむような御前の声に小札はぶわりと涙を浮かべた。
「うぅ。ゆらい欧州の女性につきましては生育が早くかのヴィクトリアどのでさえ成長再開が望ましき素地下地79」
 なのにどうして自分はこうなのかという悲しい嘆きを桜花は満面の笑み──勝者だけが持つ特権の──で切り捨てた。
「パブティアラーっていうのは?」
「あー。それは秘密の符丁みたいなものでして、特に意味はありませぬ」
「小札零っていうのは音楽隊用の名前? それとも日本人としてのお名前?」
「ああ何という追及の嵐! 来まする来まする桜花どの! ここぞとばかり追及力の爆発ググググイグイ質問攻め! …………
ええええと苗字は前者でありますが名前は後者、本名のもじりなのです」
「本名は何? やっぱりドイツ語?」
 桜花は小札に迫りつづける。輝くような笑みだ。5歳は若く見える。そんな評論を剛太は漏らし、
「なんかすごい喰いつきいいんだけどアイツ」
 顔だけ秋水に向けたまま黒髪美人を指差した。
「……気にしないでくれ」
 桜花はすっかり舞い上がっている。弟の変な一面に喰いつくときの変なテンションだ。一度発動したらどうにもならないの
は大変よく存じている。
「ウム。他人に関心があるのはいいコトだ」
 防人がどこかズレた感想を漏らすうちにも小札の本名追及は止まらない。香美や御前といった賑やかしも喰いつき鐶さえ
その後ろで興味深げに「あの、あの」と呟いていた。ウズウズする毒島に斗貴子は「キミもか」と嘆息した。
「で、本名は?」
「いえよ減るもんじゃねーし」
「そーじゃん! あやちゃんご主人のほんとーの名前知ってるでしょーが!!」
「私も……知りたい……です」

「ううあああ!?」

 いつしか小札は女性陣ほぼ総てに詰め寄られている。起伏のまったくない体をコキコキ小刻みにゆすりながら後ずさる。
小さな背中が衝突音を奏でた。振り返った小札は幼い顔立ちをあわあわと青くした。屋上の隅に追い詰められている。い
やというほど進路を阻む柵に両肘を押しつける。もはや彼女にできるコトはただ一つ。極まった表情でトレードマークのおさ
げをぶんすかぶんすか横に振るぐらいだ。
 絶世の美人。変な人形。快活そうなネコ少女。虚ろな瞳。それらが本名を求めながら小札に迫り、そして──…

「で、どーすんだ? 助けないのか?」
 顔だけ秋水に向け、小札を指差す剛太。押し黙るしかできない。一度好奇心に火がついた女性がどれほど厄介かつく
づく味わってきた秋水なのだ。どうにもできない。残酷だがそれが結論だった。
 やがてとてもさっぱりした顔つきの桜花が前を通り過ぎた。その後ろに御前や香美や鐶といった連中がぞろぞろ続き、
最後に小札がのったり歩いてきた。足取りはとても重かった。もし核鉄があれば文字通り杖にしていただろう。
「うぅ。もはや隠し立ては不可能。潔く白状仕りまする。不肖の本名は……」
 大きな双眸に涙を浮かべる彼女はとても疲れた様子だった。着衣も乱れ髪も乱れ、自慢のシルクハットさえ情けなく傾
いていた。
 そして彼女は意を決した告げる。自らの真名を……。

「ヌル=リュストゥング=パブティアラー」

*1 ))))

 貴信以外の男性陣と斗貴子と毒島はほぼ同時に同じ感想を抱いた。

「うぅ。確かに通して読みますれば響きはとても美しゅうございます。でも、でも……」
 最初だけ抜き出すととても悲惨! いつの間にかマイク片手の小札はだぁだぁと泣き始めた。
 どういう意味か計りかねている秋水の横で防人と剛太が順番に囁いた。


「ヌル」

「ヌルか……」


 ドイツ語で「零」を指すというが……
 秋水は改めて小札と名乗る少女を見た。
.
 身長は18歳としては異例の低さだ。小さい。顔つきも童顔で少年のように細くしなやかな体つきだ。パリっとしたタキシー
ドとシルクハットを身にまとい、前髪は分けている。大きなおさげを両肩に乗せ、鳶色の大きな瞳を持っている。
 そんな少女の本名は。

「ヌル」

 改めて呟く。呼気ともにいろいろなモノが抜け落ちていきそうな気がした。
 近くで香美が犬の名前みたいだと呟いた。それは桜花の何事かにダイレクトヒットしたらしく、彼女は盛大に吹き出した。
貴信や無銘から大いに糾弾される香美と姉。まったく他山の石だ。秋水は粛然と表情を引き締めた。


「オイオイ。小札よぉ。合ってんだか合ってないんだかわからねーよ」
「でも……小札さんらしくて……可愛い……」
(また笑ってる)
 唇に手をあてクスクス笑う桜花に秋水は呆れた。姉は最近、笑いに対しゆるくなっている。




 同刻。銀成市のとある病院。診療室にて。

「ヌル。んー素敵な名前だ・コ・ト♪ 名前がエロいっていうのは体もエロいってコトよねん」
「いやなんでそうなるんですか」
 銅色の髪を持つ女医にそっけなく答えると、金髪ピアスはそろりと距離を取った。昨晩散々な目に合わされている。
「ふふ。ひょっとしてあのコが小さくて色気の欠片もない幼児体型だからエロ期待してないのん? いーえ違うわ!!
エロっていうのは体型がどうとかまったく関係なくてよ!! むしろ逆!! 性的魅力のまったくない体が段々段々
反応するようになって!! 戸惑い怯えながらも女として目覚めていく!! そーいう過程こそエロいのよん!! そう!!
心から昂ぶり未知の衝撃に我を忘れて喘ぎまくる!! 女の本当の美しさが見れるのはそこからなのよー!!!!!」
「あの。俺もう帰っていいですか?」
 高い声で絶叫するグレイズィングに頭を抱える。彼女ときたらえらい気合いが入っている。椅子に乗り、片足だけをデスク
に乗せ固めた拳を天井めがけぶんすかぶんすかやっている。
 そして力説。まだ夜でもないというのに口を開けばこうだ。淫語と猥談しか言語中枢にないロボットの方だってもう少し淑や
かだ。つくづくとそう思う。
「あらん。診療時間はもう終わり……好き放題ヤれるのはこれからよ?」
 白い手が頬を撫でた。誘惑する手つきだった。それが恐ろしい。挑みかかれば何をされるか……。
「とにかくよーwwwww 10年前ウィルがミスったのはヌル……小札のせいだわなーwwwwww」
 ベッドを見る。ハシビロコウが腰かけている。2mを超える巨大な鳥が、喋っている。
(イヤな病院だなあ。イヤな病院だなあ!!)
 泣きたい気分で話を聞く。
「アオフ……小札の兄のヤローをホムンクルスにしない。そして戦団から孤立させる。その為にゃよーwwwwwwwwwwwwww
小札をホムンクルスにしちまう必要があったんだわwwwwwwwwwwww」
「なんでまたそんな回りくどいコトを?」
「いろいろ理由はあったさwwwwww とにかく当時としちゃそれが最善だったのwwwwwwwwwwwwwww」
「で・も! あのコったら予想外の踏ん張りを見せちゃったのよん。私たちにとってはただの雑魚だったあのコ……。でも
ある一点に於いてはお兄さん……アオフシュテーエンさえ凌いでいた」
「ある一点?」

「破壊を好まねーってとこwwwwwwwwww それが脅威なんだよwwwwwwwww」

「アイツはwwwwww カウンターデバイスwwwwwww オイラたちのような破壊者へのwwwwwwwwwwww」

「望まずしてなったんだからカワイソーだよなあwwwwwwwww まwwwオイラは救ってやらねーけどwwwwwwwwwwwwww」



【ある山間。ディープブレッシング:操舵室】

「調査へのご協力。感謝します」
「いや構わん。報告義務を果たしただけだ」
 艦長は重々しく呟いた。内心小躍りしてるくせに。航海長はくすりと笑った。
「しかし何だったんだ? 例の村人の件」
 水雷長はいつもの調子でぼやいた。背後で千歳が何事かと足を止めたがすぐ動き出し操舵室の外へと消えた。美しい
女性が消えただけで部屋はその息苦しさを増したようだ。
「普通の人間が突如として怪物の体になりホムンクルス以上の戦闘力を発揮する……でしたね」
 気のない返事を漏らす相方に航海長はありのままを報告する。
 その顔が光に炙られた。光源を見る。根来が亜空間に潜っていく最中だった。とても何か言いたくなったが見なかった
コトにする。
 話を、続ける。
「同じ案件が現在全国各地で発生しています。戦士・千歳と戦士・根来はそれを調査しているようです」
「なるほどな。他に何か分かったコトは?」
「彼女から提供されたデータを見る限り……どうやら何らかの武器組織が動いているようですね」
「つまり……人間を人間のまま怪物にする何かの武器を売っている。そういう訳か?」
「アイアイ」
 それはこーいうときの返事じゃないだろ。ぼやきを受け流しながら航海長は「私見ですが」と前置きし
「気になるのは売り方ですね」
 といった。すると水雷長はオウム返しを擲ち横向きに身を乗り出した。
「安すぎるんですよ。代金が。実効性や危険性のなさを考えると……データ。モニターに出します」
 やがてパパっとモニターに転送されたのは「武器の売値一覧」。水雷長の目が上に下にと忙しく動いた。やがて総てを
閲覧し終えた彼は感嘆のため息をついた。
「オイオイ。たった5万円払うだけで人間1人がホムンクルス10体斃せるように……!?」
「ホムンクルスが戦団を撒くための費用一覧もありますが、まあ、似たような安さです」
 とてもリーズナブル。欲の見えない価格設定だ。
「もしその武器組織の運営者が先ほど村人たちに力を与えた者だとすれば」
「営利目的の線は薄いよな。じゃあ何のために売ってるんだ?」
「布石、かも知れんな」
 航海長と水雷長は同時に振り向いた。そこには鎮座しているのは艦長だ。目つきは相変わらず厳めしい。
「布石、ですか?」
「たとえば何か、争いの種を撒くための……?」

 いや、と艦長は首を横に振った。

「敵は組織に属している。仲間がやりやすいように、仲間の能力が生かせる土壌を作るため……その武装錬金のみでは、
単騎では無意味に思える行為を繰り返しているのかも知れない」


【銀成市。児童養護施設の前で】

「えー。じゃあリヴォルハインさんタダで色んな人、社員にしたんですかぁ?」
「そうである!! 何やら困っていた及公はみなみなを助けられた!!」
 ちなみに今はもうデリートしたので調べられても問題なし! 意気揚揚の大男の傍らでしかし
「タダはマズいじゃないですかこの上なく。もう」
 クライマックスはがっくりと肩を落とした。
「? なにかマズかったであるか?」
「だから!! あちこちリヴォルハインさんの細菌売って回っているのはデッドさんの武装錬金の媒介にするためじゃない
ですかこの上なく!!! 『ムーンライトインセクト』の特性が作用するのは市場性を有した商品だけです!! だから敢え
て市場を開拓してるんじゃないですか!! 儲け出なくても戦いの火種にならなくても!! デッドさんの武装錬金とコラボ
れるならいい! そーいう考えで売り始めたんじゃないですか!!」
「なるほど!! じゃあタダで売るのは悪かったですかクライマックス先生!?」
「う。まあ、少しだけなら試供品ってコトで何とか……」
 とにかく! 冴えないアラサーは拳を固め突き上げた。

「今日から私たち演劇をやりますよ!! この上なく!!」
「ウム!! 敵はパピヨン率いる銀成学園演劇部!! 劇の見せっこで対決なのだ!!」



「及公は勝つ!! 勝って救うべき存在を必ず救う!!!」