SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 「演劇をしよう!! (前編)」 (16-1)


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【時系列は巻き戻り、深夜。銀成市の路地裏にて】

「なるほど。『もう1つの調整体』を奪うよう盟主様から命じられたのはいいけれど」
「どこにあるか分からないから迷ってるwwwwwwwwwとwwwwwwwwwwwwwwww」
「そう!!!! パピヨンのアジトの所在、及公とんとご存じない!!!」

 声が、聞こえてくる。

「パピヨン自体の目撃証言は『社員たち』から数多く上がってきている。だが奴は常に突然姿を消す。歩いている
時は言わずもがな、飛んでいる時もスラーーーーーーーーーっと降下したかと思えばもういない……そんな報告ばかり
だ。一番近くにいる社員どもは常にそう報告する!! 事実及公ご自身『視点を切り替え』あちこちご覧になるがニンともカ
ンとも見つからぬ!!!」
「いやいやそんな不思議がるコトないじゃないですかこの上なく」

 上の方から。

「『ウィルさんの知る正史』じゃこの時期ヴィクトリアさんと協力しているんですから」
「地下壕の武装錬金使って出入り口を作っているwwwwwwwww アジトから離れた場所にwwwwwwwwwwwwwwww」

 彼らが何をいっているか分からない。

「及公、社員たちを地下にやるコトも考えたがアンダーグラウンドサーチライトは内装自在の武装錬金。尾行者などあっと
いう間に排斥されるに違いないであろう!」
「だいたいヘタに尾行なんかしてバレたらますますこの上なく難しくなっちゃいますよねー。『もう1つの調整体』奪うの」
「アジトさえ分かればwwwwwwwwww アイツのいない隙に奪えるのになwwwwwwwww」
「その考えはッ!! 違うだろディプちょんーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 叫び声が聞こえた。次にめきょめきょという分解音が響いた。

「ぎゃあああ!! 及公の腕!! 腕がチーズ状の虫食いだらけにして、ぷらんぷらんではないかー!!」
「あwwww 悪りwwwwwwwww 自動防御発動しちまったwwwwwwwwwwwww」
「うぅ。何やってるんですかぁリヴォルハインさん。スピリットレスはこの上なく攻守に優れた武装錬金。防御に回ればどんな
攻撃もオートで分解! そういったじゃないですかー!」
「く。い、いいのだ。いいのだ。仲間に突然殴りかかるなどという敬意なき行動の結果及公はかかる羽目に陥られておられ
るのだ。いわば自業自得!! どんな理由があるにせよ口頭で!! ちゃんと伝え相互の理解を図るべきだったのだ。
そうやって互いに互いを理解していく的なアレがだんだん相手への敬意になって絆が生まれる!! ああやはり敬意は
いい!! あと、腕がジンジンするので赤チン買って下さいクライマックス先生!!」
「赤チンはなんだか毒っぽいし今も製造してるか分かりませんしそもそもそれはこの上なく大けがなのでグレイズィングさん
に診て貰った方が……」
「やである!! 病院は怖い!! 医師グレイズィングめは何かと執拗に下腹部を触ってくるからきらい!!」
「……話ズレてませんか?」

「そうだった! もう1つの調整体!!」

「正々堂々戦って勝って!! 奪うべきなのだ!! どんな敵が相手であろうとひきょうな手段で陥れ勝ちをかっさらうよう
なマネなどしたくない!! 戦いにおいてもそれは同じでつまり及公真っ向からパピヨンと戦い『もう1つの調整体』を奪って
みたい!」
「おうおうおう随分熱吹いて下さるじゃねーかwwwwww でもよォー、奪うっつーのは果たして正々堂々って言えんのか? ア?」
「そこは知らん!!」
「知らんのかwwwwwww」
「だが及公、奪うという行為を正々堂々なさりたいとお思いだ!! ちゃんと所有者に挑み!! 戦い!! 誇り高い争い
の末!! この手に掴みたい!!」


「引き合っているのだ。及公が細胞の総てが!! 『もう1つの調整体』を掴めと!!」


 恐ろしく熱のある声だった。
 いや、熱に浮かされ叫んでいるような声だった。

 まるで、病気のような……。

「敬意敬意といってる割にずいぶん自分本位じゃねえかwwwwwwwwww」
「人は何かを欲するがため戦いを挑む!! 奪えるか奪えないか守れるか守れないか、趨勢を決するはとどのつまり精神
力!! 堂々たる戦いの場というのはつまり及公とパピヨンの矜持のどちらが勝るか洗い出すための装置!! 決闘!! 
そーいったチャンスを与えられながら守り切れない方が悪い!!! 敵を前に守り切れぬ、脆弱な精神力こそ悪い!!」

「ところでそこに転がってる人どうしましょう。この上なく……」

 気の抜けた声。視線がこちらに向く気配がした。

「どうしよう」

「どうするも何も……攻撃したの、リヴォルハインさんじゃないですかあ」

 彼らはいま、自分について語っているらしい。
 地面に突っ伏している惨めな自分について。

「ふぅむ。話のさなか突如として殴りかかってきたから思わず及公反撃されてしまった」
「でもなんで急にこの上なく怒ったんでしょうね?」
「!! そうか!! そういうコトだったのか!!!」
「何か分かったんですか!!」
「うむ。誰のせいであのセミが死んだかという割合!! 40:28:22!!! 
「まだ引きずってたんですかぁ!?」
「一番悪いのはコスパ的な問題どうこうで昆虫医療研究しなかった獣医師。次に樹液あげたりしなかった及公。で、地上に
出て1か月も持たんセミもまた悪い!! よし分析完了!!」
「ああそうですか」
「奴らめ!! 何世代何十世代という進化の機会を得ておきながらどうして、どーして!!! いまだ地上でサクリと死に
成虫状態で冬まで生きられんのか!!! 発展しようという意思はないのか!!! 親どもが必死こいて生き抜いた結果
生まれいでるコトができたんだろーがである!! あと生きるためにいろいろ喰っているしその喰ったいろいろにありつけ
んだばかりにくたばった他の命というものもあるのである! 犠牲を出し屍の上に立脚しておきながら旧態依然に甘んじる
敬意なき堕落に満ちた忌むべき種族的傾向こそあのセミの命を奪った一因なのである!!! だから及公悪くない。悪く
てもたぶん28%、ぐらい!! 頑張れよ!! もっと大胆に進化しろよセミども!!」
「なあ、残りの10はwwwwwwwwww」
「その他!! 環境等もろもろの雑駁要素を合算した数値!! 内訳を知りたいなららば披歴しよう!! ちなみに一番責
任の低いのはウラジオストックにある長靴の工場で過失割合は0.0000000000000000289%だ。24年前流出した
ジメチル酸フタレルが人々の愛憎の果て海を越え巡り巡ってあのセミにダメージを……」
「あ。もういいです。黙ってくださいリヴォルハインさん」

 そういって彼らは自分が激高した理由をしばらく言い合っていたが。やがて。

「原因、それじゃね?wwwwwwwwwww」

 ダム。何かが弾む音がした。

「これか

 ダム。ダム。ダムダムダム……。

 転がってくる。自分を怒らせた原因が。

「さっきから何をダムダム突いてんのかなーとこの上なく思ってましたけど」

 目の前に、来た。
 人の顔が。
 見覚えのある、顔が。
「まさか金髪ピアスさんのお母さんだったとは……」

 変わり果てた肉親の顔があった。
 生首、という生易しいものではなかった。
 むしろ生首”だけ”ならまだ良かった。
 そこにあったのは、全身だった。
 ボール大の肉塊に体の総てが圧縮されていた。
 ヨガで見た記憶。うつ伏せになったまま腰を上げ頭を両膝に間に入れる柔軟の、姿勢。
 それをもっと極端にしたやつだ。

「テラトマのフェルメネスくんもびっくりの変身だな!! うむ! さすが及公!!」

 抵抗の跡、だろうか。年甲斐もなく茶色く染められた髪はざんばりと乱れ根本のくすんだ白銀がいびつなまだらを作って
いる。それが臀部と癒着している。よほど強い力で圧着されたらしく着衣はびりびりに破れぶよぶよとした脂肪の皺やたわ
みの間から乱雑にはみ出ている。荒縄よろしく攀じあわされた両手と両足はバレーボールを思わせる巻き方で表面を覆っ
ていた。とはいえ大きさ自体はバスケットボールほどだ。もっとも人体の容量を踏まえた場合その程度の差異にいかほど
の意味があるというのか。贅肉の波打ち際から覗く顔ときたら歪み切っている。

「やっぱりリルカの葬列。『リルカズフューネラル』。この上なく、この上なく発動しちゃってます……」

 一度後頭部を轢かれた大型犬の死体を見たコトがあるがそれは今見ている光景を形容するため天が与えし配剤なので
はないかと思えるほど、そっくりだった。小学生のころ。確か水曜日だった。4限授業の帰り道、好奇心でひっくり返したセ
ントバーナードはあらゆるホラー映画のあらゆるメイクよりも見事だった。歪んで、崩れて。口や両目同士の中間点が正中
線を通っていない……ただそれだけで人間の視覚受容は吐き気を呼び膀胱の蛇口さえ全開させるのだと知った。半年は
夢に出た。泣かせた。そうやって飛び起きるたびどこからかやってきて、おおよそ世間一般が羨む母親像とはほど遠いガ
ラついた声で文句いいつつもなぐさめてくれた存在が惨たらしく転がっている。

 耐えがたい悲しみが襲ってきたのは歪んだ顔が息を吐き目を動かし、自分の名を呼んだ時だ。

 リヴォルハインと呼ばれた頭のおかしな……。
 病気、というべき美青年の掌の中で。
 歪んだ母親に呼ばれた時。
 ノータイムで感情が爆発し、突進し、衝撃が走り地面に突っ伏し……今ができた。

「ああ、憂鬱wwww ボール人間ここに誕生wwwwww 果たして元に戻れるっかなあwwwwwwwwwwww」
「あー。そういえば及公小腹がすいてたな」
「また何の話ですか……」
「うむ。及公お腹が空いたのでスーパーで買い物された。デッドがいうには賞味期限間近のやつが半額シール貼られる前
に買うのが敬意らしいのでそうされた。お買い上げになった商品は小型パックのマミーと筒入りのマーブルチョコ! あれ
はおいしい!! ホクホクする!!」
「小学生かwwwwwwwwwww」
「で、レジに並んだら前にいたこいつが」

 とボール状態の母親をリヴォルハインは指差したらしい。

「こいつがだな、自分のカゴに入っていた3本1パックの乳酸菌飲料を指指しそしてゴネた」
「はあ」
「売り場の表示価格と違う。向こうじゃ78円だったのにレジスタ通したら88円。10円高いと」
「…………」

 クライマックスという女が息を呑み、黙るのが分かった。

「店員は及公に待つよう促し売り場へ走った。値段を確かめるべく。レジは混雑していた。及公の後ろにもまだ6人は居た」
「…………」

 今度はディプレスという鳥男が黙った。微かだが嘲笑を漏らすのが分かった。

「なので」

「こーした」
.
「また話飛ばしてる……。うぅ。私たちリヴォルハインさんほど演算能力ないんですから、もっと分かりやすく語ってくださいよお」
「まあ何だ。他に並んでる人もいる訳なのである。10円ぐらいの安い高いで待たせるのはどうかなーと思われたので会計後、
及公その点について指摘を入れられた。『あそこは10円損してでもみんなの会計スムーズにしよう。それが人の道』とか何とか。
するとなんか怒ったので」

「こーした」

「まったく敬意がない。及公待たされたコトについて憤怒を覚えられた訳ではなくもっと公序良俗的なる見地から話をしようと
されただけなのである。なのにどーして怒られなければならないのか。正直ムっとしたので攻撃かつ採用!!」
「……これって課長待遇ですよね?」
「下手すりゃ部長待遇かもなwwwwwwwwww どんな特性が出ちまったかは知らねーけどwwwwwww これで課長クラスの
4割なら悲劇だっぜwwwwwwww あwあw憂w鬱wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「でも良かったです。帳尻があって」
「何のだよwwwwwwww」
「全身フード破いたコトです。お母さんがこうなったとか因縁じゃないですかぁ。破いたのは復讐の、前払いです!!」

「オタこええwwwww しかし……相変わらずえげつない攻撃だよなあwwwwwwwwwwwwwwwwww」



 脇腹に何か固い感触がした。ディプレスの肢にひっくり返されたと気付いたのは目の前に夜空が広がった頃だ。満点の星。
呪詛のように漏れる母親の声さえなければとても感動的な光景だ。



「一体、何をした……」
「まーまー。外傷はないんですからいいじゃないですかこの上なく」
 重い首を持ち上げ体を見る。クライマックスのいう通り目立った傷はまったくない。
「あるのはすげー頭痛に倦怠感……」
「なーにフシギそうにしてんだよwwww」
 凶悪な笑いが夜空に広がった。ハシビロコウという名の嘴の大きな鳥はとてもとても酷薄な笑みを浮かべこちらを見ていた。
「オイラ確かに言ったよなあwwww リヴォルハインは病気だってなあwwwwwwwwww」

 ぞくりという悪寒が蘇生する。
 思い出す。殴りかかったのは肩だった。
 渾身の一撃は恐るべき速度でそこへ殺到した。相手は身じろぎもしなかった。外れるとはまったく思っていなかった。
 結論からいえば拳は確かに肩へ当たった。
 だがその瞬間……肩は粒子となって霧散した。空虚な手ごたえが拳のみならず前腕部をすりぬけた時、美青年は両目を
不等号に細めながらわきゃーと叫び一歩進んだ。足元が縺れ釣り込まれるように懐へ衝突した。そして──…

「リヴォルハインさんは病気……。でもそれは頭が病気という意味じゃあありません

 衝突の瞬間、見た。
 砂のように崩れていくリヴォルハインを。
 端正な顔も美しい服も逞しい体躯も何もかも粒、粒、粒、粒ツブツブつぶつぶTUBU粒つぶつぶツぶつブtubu溶けて崩れて
舞い散って群れになりまとめて飛んで、飛んで──…

 ざらついた赤黒い粒どもの奔流が。
 口に入った。
 粉薬を何万倍にもけむたくした質量はしばらく口の中に留まっていたが後続どもは止まらない。えづきとともに頬が膨らん
だ。口腔の容積はあっという間に満杯だ。ごぎゅり。喉を通過する異常な感触に絶望が奔る。飲んだ。飲んでしまった。ぶう
ぶうに頬を膨らませたまま涙を流す。気管支と食道にきたのは強姦魔だった。押し広げられる。挿入される。性的特権ゆえ
生涯無縁だと思っていた蹂躙が体の内部で起こっている。消化器官の両端どちらかに『突っ込まれる』方がマシだという
恐怖があった。使用済みの注射器に触れてしまったような血膿臭い絶望が空気とともにしばらくドクドク注ぎ込まれた。

 おぞましいフラッシュバック。
 鉛のように重い指を持ち上げる。ぶるぶる震えるそれを口にやるのさえやっとだった。
 蒼ざめた顔の入口に突っ込む。咽頭奥深くに泥まみれの指が当たった瞬間激しい”むせ”が奔る。涙に震えながら一層
強く深く挿入する。惨めな気分だった。汚らしいと軽蔑している吐瀉行為を救済と期する感情に大粒の涙がこぼれた。
.
 何か言われたような気がした。
 何か答えたような気がした。

 自分だけの、大切な何かについて。


 視界の隅に移ったのは異形の母。同じコトをされたのだろう。
 どうなる。入った。入った。確実に。末路はたぶん……。

 クライマックスは腰に手を当てしゃんと背筋を伸ばした。
 とてもとても得意な顔だった。
 知識を与えてくれる素晴らしい先生の顔だった。
 それが紡ぐ。絶望的な言葉を。
 リヴォルハインは。
 リヴォルハインは……!!

「存在そのものが病気……。『 リ ヴ ォ ル ハ イ ン と い う 病 気 』なんです」
「また感染したかwwwww 流石あの鐶を作り上げたリバースの最高傑作wwwwwww レティクルナンバー1の手間とコストの」


「細菌型ホムンクルス」


 意識が闇に沈んだ。
 ディプレスの口笛が合図だったかのように。




「ナニナニナニどーしたのまっぴー!! いきなり肩なんか組んじゃってェ」
「別にいいけどそういうのは影でやりなさい。ファン多いのよ秋水先輩。後で他の女子に何されるか……」


 口々に囃し立てる河合沙織と若宮千里の声に早坂秋水は顔をひきつらせた。「違う」「これには理由(ワケ)が」。懸命の
弁明も彼女たちには通じない。沙織は瞳を輝かせ、千里は眼鏡を曇らせながらそれぞれの意見を投げてくる。どちらも
言い方こそ違うが要約すれば「こんなコだけど根はすごくいいコだから大事にしてあげてください」。友人らしい思いやり
のある意見である。君たちもいいコなんだなと少し感動したが困惑は収まらない。
 首を後ろにねじ向ける。油の切れた機械のような音が耳をひっかく。背後から刺さるは無数の視線。好奇。嫉妬。絶望。
号泣、笑顔、憤怒、爆笑。祝福やリア充死ね爆発しろといった様々な感情が痛いほどに刺さってくる。
「秋水先輩屋上まで運ぶの! 影なんか歩けないッ!! なぜならこのルートが最短だから!!」
 傍らで少女はぜえはあと凄まじい息を吐き背筋を伸ばした。
「もうそろそろこの辺で」
「まだだよ!! まだ2階! 屋上までまだまだある!!」
 まひろはというとすっかり変なスイッチが入っているらしい。熱血丸出しで太眉をいからせながらエッチラオッチラと歩いて
いる。その肩には秋水の手。体同士が密着。まさに前言通り彼女は肩を貸し歩いていた。
「いやもうここまでくれば大丈夫だから」
「遠慮しないで!! 捻挫させちゃった以上運ぶのは当然!! ふぅ、ふぅ~!! まだよまだまだ倒れる訳には……!!」
「君の言い分も分かるがあまり激しく動かないでくれ」
「なんで? 足に響くの?」
 あどけなく見上げてくるまひろに秋水は困った。
 制服越しにも分かる柔らかさが確実に秋水を苛んでくる。
 かなりの身長差があるためまひろはほぼ全身で秋水を支えていた。脇の下に潜り込み体の横半分をペタリと密着させて
いた。その位相は必ずしも常に定位置を保っているという訳ではなく階段の昇降や角の右折左折を遂げるたび微妙な変化
を遂げていた。少女の体は時に期せずしてその正面を秋水に擦りつけた。多くの場合それは一瞬の出来事でまひろ自身
特に意に介した様子もなく運搬作業にご執心という感じだったが……。
「…………」
 柔らかな感触は生々しい質量と重量を帯びていた。密着し且つ動いた場合なまめかしく蠕動し形を変えるのが種々の衣料
を介してさえ分かるほどだった。
 剣一筋に生きてきた秋水である。そういう方面への興味は特にない。いちいち完璧すぎる桜花を見慣れてるため知らず知
らず目が肥えすぎている……というのは総角主税の勿体ぶった学説だがそれを差し引いても桜花以外の女性に対する関
心はとみに薄い。その桜花にしても家族で、守るべき対象で、何より大事な存在だった。男性的欲求など皆無に等しい。せ
いぜいが二次性徴期において変貌を遂げつつある桜花の不思議に少し首を傾げた程度だ。
(弱った)
 いつぞやのメイドカフェで組み敷いてしまった白い裸身。ちらちらと脳裏に浮かんでくるそれを払拭するのに必死だった。
総角や無銘や貴信や逆向といった連中との戦いを思い出す。逃げるように。貴信の効果はまったく覿面だった。侮辱という
より感謝したい思いで彼の顔を必死に思い出す。でなければもやついた感情が尾を引きそうで怖かった。

「クソォー!!! やっぱりオトコは顔か!! 顔なのかァ~~~~~!!」
「いや、そういうのじゃないと思うよアレは。まひろちゃん、カズキ君の妹なんだし」
「まあ親切心だろうな。ああなりたかったら下心ぐらい捨てろ岡倉。みっともない」

 三者三様の感想を漏らしているのはカズキの友人たち。剣道の練習のとき見かけた記憶があるのでそれと分かった。