SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 「演劇をしよう!! (前編)」  (12-2)


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「世間で言われてるような傲慢なんてのは存外それほど恐れるべきじゃないのかも知れないね。パピヨン君がいい例さ」
『彼』は指を弾きそして語る。
 パピヨン。
 彼は人を見下すあまり遂には人そのものへの関心を失くし我が事のみに没頭している。
 Drバタフライもそうだった、と。 
「彼はヴィクター君を隠匿せんとするあまりホムンクルスの本分たる人喰いさえ見事に統制しきっていた。むーん。なんとも
コントロラーブル。皮肉だが傲慢さに救われた命も少なからずあるという訳さ」

 ねばついた腐肉がどこまでも広がる異常な部屋の中。
 半ば蹲(つくば)りながら坂口照星はため息をついた。

「そして私も今まさしく傲慢さに生かされているちいう訳ですねムーンフェイス」

 目の前に聳(そび)える長身の怪人は気の毒そうに顔を歪めた。

「同情するよ照星君。どうやら彼らに言わせればキミなどいつでも始末できるらしい」
 しかし、とムーンフェイスは乏しい顔のパーツを今度は最大限にしかめてみせた。
「愚かな話だよ。敵の戦力なんていうのは減らせる時に減らしておくものだ」
「真希士の話なら結構ですよ。コトの顛末は防人に聞かされていますからね」
「おやおや。キミも存外傲慢だね。又聞きだけで部下の生死を割り切るのかい? せめてそれなりの捜索隊に骨の一つで
も探しにいかせればもっと違った結末になるかも知れないのに。オススメするよ。見つけられればこれ以上悪くはならない」
「フフ。お気遣い感謝しますよムーンフェイス。ですがもし隊を編成できるのでしたら私はまず私を探しに行かせます。2人揃
えばもはやどうにもならぬ現状もそれなりに打開されるでしょう」
「……むーん。何とも上手なかわし方」
 剣持真希士を殺めた張本人は何とも期待外れという顔をした。
「もう限界とばかり嘯(うそぶ)きながらなお部下を殺した分裂性と交代性を当たり前のように求められる……キミの恐ろし
い所だね。妄言に見えて少しも熱に侵されてないときている」
「何に感心したかは分かりませんが……買いかぶりすぎですよ。拷問のおかげでマトモな受け答えができなくなっているだけです」
 平然と微笑する照星にムーンフェイスもまた笑いかけた。
「さっきの言葉、訂正するよ。少なくてもレティクルの連中の傲慢さだけは恐れるべきだ。それなりの意図はあるようだけど
キミほどの男をみすみす殺さず捨て置くデメリットを考えればいかなる方策も得策とは言い難い。むーん。まったく誰も彼も
愚か。望みのためとはいえ同盟を破棄できずお喋りに終始している私も含めてね」

「ところで、だね。この世でもっとも厄介な傲慢とはどんなものか……キミは分かるかい?」

 息もつかせず急に話題を変えたムーンフェイス。
 神父よりも静粛な顔つきが一瞬だが微妙な揺れを見せた。
「むーん。一足飛びだけど部下たちのコトでも心配したのかな? そう固くならない。グレイズィング君がやったようなオチは
ないよ。ただの雑談さ。リラックスリラックス」

 ニカリと歯を見せ笑ってみせる月の顔だが照星はいまだ怪訝の色が強い。
 それを無視するように朗々たる語りが悪臭漂う血膿の部屋に響き始めた。

「世界には実に様々な傲慢がある。最も一般的な物はやはりパピヨン君のようなものだね。私の知る限り彼ほどプレーンで
強力な傲慢な持ち主はまずいない」

「ただ前述の通り、世界に及ぼす害は少ない」
「少ないでしょうか」
 いつか写真で見た毒々しいファッションを思い出し照星はうめく。人にとっては恐ろしく不快になる姿だ。
「無害さ。武藤カズキとかいう戦士にご執心のあまり当初掲げていた世界全体への復讐などもはやどうでも良さげ。人喰い
さえもうやらないかも」
「その境地に至るまでかなりの犠牲者を出していますがね」
「キミのいう点も含めて色々難儀な相手だけれど、最も厄介な傲慢ではないね。むしろ月並みにいえば気高い。むーん。月
並み。私がいうと奇妙な感じ。とにかく彼は月(わたし)並みに多くの人間に好かれるタイプさ」
 片足を軽く曲げ人差し指を立てながらムーンフェイスは朗々と語りそして述べる。
「じゃあ権力へ執着し、悪政を敷く独裁者はどうかといえばこれも違う。一般大衆の諸君がすぐさま追い落としにかかる」
「組織の長は何かと目立ちますからね。現に火渡にとっての独裁者はいまこのような状態ですから」
 傷と欠損のよく目立つ体を眺めまわしながら照星は微苦笑した。微苦笑しつつもムーンフェイスの言葉を促す。
 曰く、もっとも厄介な傲慢とは何か?
「独裁者と同じく無能ではあるね。だが目立たない。とても普遍的で世界のどこにでも潜んでいて、害意などカケラもなく
したがって法では裁かれないが人々の嫌悪だけは一身に浴び続ける……そんな人種さ。駆逐不可能な、ね」
「貴方がいうと重みがあります」
 30体に分裂可能しかも1体でも残れば増殖というムーンフェイス。
 そんな恐ろしさを秘めた彼さえ「厄介」と目する傲慢とは何か?


「答えは……『何の力も持たない癖に他者を救えると信じている』だよ」


 もとより静粛な拷問部屋が静まり返った。反応を期待しているのだろう。ムーンフェイスは黙りこみ口元を綻ばせたまま
じつと照星を眺めた。返答を求められている。やれやれという顔で細い息をたっぷりつくと照星は自らの見解を述べ始めた。

「あなたのいいたいコトはだいたいわかりましたよムーンフェイス。結論からいえば『少年少女でもないのに』、ですね?」

「そうだね。今の双子や津村斗貴子ぐらいの年代なら大なり小なり持っている気持ちだよ。純粋、といっても過言じゃない」
 身の程などまるで与り知らないが故にただひたすら全力で大事な存在を救おうとするタイプ……やや嫌悪を込めてムー
ンフェイスは断言した。
「ですがどんなに遅くても防人たちの年齢(トシ)になるころ悟ります。全力を傾けても救えないコトがある。自分の力は決
して自覚や理想像ほど膨大ではないと。もっとも、真に強くなれるのはそこからですがね」
「けど稀にだね。ブラボー君たちが7年前直面したような『自負や理想を粉々にする』ひどい出来事に直面してなお成長して
いない者がいる」
 ムーンフェイスは肩を竦めてみせた。
「彼らは実にひどい。悲劇から自分の矮小さを何一つ学んでいない。無力だという自覚もない……。なのに人を救えると信じ
ている。揉め事を見つけては事情も考えずしゃしゃり出て、結果、ますます事態を悪くする」
「救いたい」、当事者たちの事情を一切無視した自分の考えばかり述べ立てる。
 そういう人種こそ厄介な傲慢の持ち主だとムーンフェイスはいいたいらしい。
「つまりは自分だけが正しいと信じ、諌める者やギャラリーを悪と断じる視野狭窄ですか」
「困ったコトに熱意だけはある」
 そして滅多に法を犯さないがために裁かれるコトもなくはびこりつづける。月の声音は笑いとも怒りともつかぬ様子で言葉
を紡ぐ。曰く、”返事どころではない”被災地に古着を送り続けるタイプ。曰く、事故現場で救急隊員を邪魔し民間療法を進
めるタイプ……。1つ1つ丁寧に事例を挙げるムーンフェイスに照星は嘴を挟んだ。
「いやに饒舌ですが、あなたひょっとして最近そういう者と出会いましたか?」
「むん?」
 話を中座させられた月の怪人はもともと丸い目を更に円やかにした。
「マレフィック。いまこうして私を拘禁してくれている幹部たちは10年前もこれ見よがしに『罪』を掲げていました。今もそうです
ね。10年越しでようやく顔を見せてくれたイオイソゴは『大食』。大家さんことウィルは『怠惰』、デッド、でしたか。あの赤い筒
は『強欲』……いわゆる7つの大罪に古めかしい『憂鬱』と『虚飾』を加えた罪。幹部がそれを標榜する以上、居ますよね?」
 じっと顔を覗き込むコト5秒。ムーンフェイスはしばらく顎に手を当てていたがすぐに指を弾き明るい声で話し始めた。
.「『傲慢』かい? 確かにそんな幹部もいるよ。でもまずは雑談から片付けようじゃないか」
「雑談、ですか。そろそろ遠まわしな紹介にしか思えなくなってきましたが、まあいいでしょう」





 ダム。ダム。ダムダム。




 銀成市の路地裏で何かが弾む音がしていた。





「幸か不幸か。彼はとても頭がよく、そして何より前向きだ。だからブラボー君たちのように何もかもを背負いこんだりはしない。
後悔を引きずるコトもない。並の人間なら自責か責任転嫁で直視できなくなる凄まじい悲劇にさえメスを入れ、過失割合で
も算定するかのようにあらゆる要素を整理してしまう。動機はとても純粋。信念を貫こう。再発を防ごう。ただそれだけさ」




 街頭一つない真暗な露地で弾むそれは漆黒に覆われ色も質感も分からないが、時おり掌らしき物体に上部を叩かれる
たびアスファルトめがけ急降下しその勢いの分だけ跳ね上がる。そしてまた叩かれ、弾み、叩かれては弾み……。
 掌の主は歩いているようだった。掌の座標が前へ前へと移るたび「何か」も前へ前へと進んでいく。



「それもまた悲劇の中で命を繋いだものの務めでしょう。物事というのは何であれ複雑な要素が絡み合っていますからね。
残酷な言い方ですがそれは悲劇にしても同じです。誰か1人。あるいは何か1つ。それらにだけ原因を求め、元凶と呼び責
め続けたところで何の解決にもなりません
 毅然と言い放つ照星をムーンフェイスはいたく気に入ったようだった。
「さすがいうコトが違う。確かに職責が大きければ大きいほど総てを見渡し総てを公平に判断すべき……7年前しくじった
ブラボー君たちにもそうあるべきだとキミは言う訳だ」
「ええ。防人にいたっては感傷のあまり再起不能ですからね。戦士長たるものがそれでは部下に示しがつきません。もっとも
これまで7年前を雪ぐ任務を用意できなかった私も私ですが」



「何か」の動きが止まった。掌に掬いあげられ貴族服の前で静止した。
 かすかに、声が響いてた。

『いやお前! 俺の、人の命を何だと思っているんだ!!』
『大丈夫! わかってます! この上なく大事でー、地球より重くてー、みんなそれぞれ1度きりのー、とにかくとにかく守る
べきものですよね! ほら言えました! これでも声優やめた後は小学校の先生でしたからー、道徳は得意なんですよ』



 ムーンフェイスの舌はよく回る。無理もない。語るのはかつて自分を下した防人だ。密かな対抗意識とそれなりの思い入
れがあるのだろう。
「確かに彼らはいささか感傷的になりすぎだ。しかし私に言わせればまだブラボー君たちの方がマシさ。考えておくれよ」
「最も厄介な傲慢を、ですか?」
 何気なく答えながら照星はわずかに驚いていた。ムーンフェイスが防人を「マシ」と評している。敵はおろか味方にさえ
敬意を抱かぬ男が……。ともすれば比較対象を「自分を捕縛した防人以上に」嫌っているのかも知れない。
 機微を知られているという機微に気を良くしたのか。ムーンフェイスは軽やかに頷いた。
「ああ。責任の度合いはともかくだね。直接関わった、自分の根幹を揺るがすような悲劇の後でなお、守れなかった人間の
屍の傍で負うべき責任の正確すぎる量を弾き出せる……そういう男だからね彼は」
 ムーンフェイス曰く、どれほど責められても分析結果をタテに抗弁する。過失割合以上の反省など決してない。故に人間
好みの成長はないが挫折もなく、ただただ自我のみ貫き邁進する。彼はそうなのさ。念を押すように述べてから、ムーンフェ
イスは高い声をじっとりとねばつかせた。
「まったく面白味に欠けるタイプだよ。からかい甲斐がまるでない」
「フフ」
「むん?」
 不意に漏れた笑いをムーンフェイスは不思議そうに眺めた。めずらしく坂口照星は「素」で笑っているようだった。いまの
話のどこに笑う要素があるのか。訝る視線を感じた照星はまず「失礼」と品良く謝り、理由を述べ始めた。
「やや不快そうですがそれはただの同族嫌悪ですよムーンフェイス。あなたにとってL・X・E壊滅は何ですか? 属する組織
の瓦解……客観的な悲劇さえ最低限の自己反省を差し引けば後はもう単なる事故例。今後の参考材料程度の意味あいで
しょう。もちろんあなたはあの出来事に根幹を揺るがされてはいませんし元より人を救おうという意思もない。ですが求める
物の為だけ動くという点では同じじゃないですか? あなたが不快気に話す傲慢の持ち主とね」
 今度はムーンフェイスが「素」を見せる番だった。戯画的な顔をひどくあどけない無防備な様子にたっぷり歪めてから……
「かもね!」と歯を見せた。それを見ながら照星はサングラスを掛け直し、一言。
「ヤケになって肯定しているようにしか見えませんよムーンフェイス」
 笑顔が硬直し、しかめっ面になるまでさほどの時間を要さなかった。
「やれやれ。キミは本当に恐ろしい。私が彼に抱く嫌悪なんてとうにお見通しのようだね」


 ダム。
 ダム。

 ダムダム。


「私はこれでも寛大な方だけどね。彼だけはまったく好きになれない」


 再び路地裏に静かな音が響き始めた。
「何か」は弾む。ゆっくりと。


「つくづく『病気』だからね。マレフィックはキワモノ揃いだが彼ほど厄介な存在もない」


 貴族服からきらきらと光る粒子が散り、そして消えた。


「他の幹部連中は盟主を含め大なり小なり挫折を引きずりブラボー君たちよろしく背中に影を落としている。だが、彼は違う。
彼だけは迷いも葛藤も復讐心も嗜虐心も何もない。他の幹部たちとは出自からして一線を画す存在だ」

「そう」

「『土星』の幹部。リヴォルハイン=ピエムエスシーズ君はね」


 貴族服は「何か」を弾ませながら歩いていく。金髪ピアスとクライマックスの争う現場めがけゆっくりと、ゆっくりと。


 しばしの沈黙の後、照星は静かに告げた。

「ピエムエスシーズ、ですか。また特殊な武装錬金の使い手ですね」

「ほう。博識だね。まさか略称だけで分かるとは。流石は大戦士長」
「たまたまですよ。職務上そういう手合いの動向はよく耳にしますから」
「私は耳にした時驚いたよ。まったくもって有り得ない武装錬金だからね



「何しろ、その形状というのが──…」