刃牙が、じわりと間合いを詰める。優子が、ぞくりと押されて下がる。
優子は考えた。刃牙が何を考えているかはわからないが、弱点その1は間違いなく
的確に優子の弱点を見抜き、突いてきた。こうなると、その2もハッタリや勘違い
ではないだろう。
食らえば一撃KO。だが、必中ではないとも言っていた。ならば、食らわないように
するまで。防御重視、となれば【待ち】一択だ。
「ユーコスラッシュ!」
一つ覚え、と言われてもいい。自分の起点は全てここ。隙の少ない飛び道具、ユーコスラッシュ
をまず放ち、それに対して相手かどう動くかを見て自分が動くのだ。
刃牙は、跳んだ。スラッシュの上を越えて、優子の真上へと。
先ほど、ユーコインテレクチュアルで迎撃されたパターンだ。だが今の刃牙が、一度やられた
失敗を繰り返すとは思えない。何らかの対策を用意しているはず。つまり、ここで
インテレクチュアルを出せば、弱点その2とやらを突かれるのだろう。
『私の対空技が、一つだけだと思っているのなら。インテレクチュアルを破る手段を用意
できたというのが、「弱点その2」なら。貴方の負けよ、範馬君!』
優子は身を沈めた。一見、インテレクチュアルと同じ構えだ。そこへ刃牙が降下してくる。
だが、ここから優子の繰り出す技は、刃牙の想像を越えた威力を持つ技。ここまでの戦いで、
ゲージは既に満タン! 超必殺技の準備OKッ! ピキーンとSEがして光って、
優子は立ち上がったがその上半身の食らい判定は消失、そこを刃牙の蹴りが空振りした瞬間!
「ユーコノーボムッッ!」
ユーコインテレクチュアルを、残像を映す速度で三連続で放つNWOBHM。根元から全段食らえば
六段攻撃(インテレクチュアルは2HIT技)を受けることになり、そのダメージは絶大なものだ。
6HITの手応え、いや足応えを確かに感じて、優子は着地する。地面に、自分以外の人影=
刃牙の影が見える。それがどんどん小さくなっていく。ノーボムを受けて、上空へと舞い上がって
いるのだ。
後は、目の前にべちゃっと落下してディズニーアニメよろしく人型の穴を掘るであろう刃牙を
見下ろすだけ。ノーボムをガードできなかったのは視認したから、万一、立ち上がってきても、
流石にもうヨロレヒだろう。トドメを刺すのは容易だ。
「弱点その2、突けなかったみたいね範馬君」
刃牙の影が、大きくなってきた。落ちてきたのだ。このままここに立っていたら、当たってしまう
かもしれない。優子は一歩下がった。
「ん……?」
影の形が妙だ。気絶して、人形のように落ちてきているのとは違う。
まさか? と思って優子が顔を上げたのと、刃牙の咆哮が轟いたのは同時だった。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
頭を下にして、両腕を伸ばして、刃牙が元気に落ちてくる。
「そ、そんな馬鹿なっ?!」
ノーボムをまともに根元から全段受けて、こんなにあっさりと回復するなんて? いや、というか、
超必を空中で受けたくせにダウン回避できるなんて、根本的にシステム上、インチキだ。
とか言ってる場合ではない。勝ちを確信していたので、下タメができていないから、
インテレクチュアルは使えない。通常技での対空は不安がある。ここはガードしかないだろう。
間に合うか不安だったが、優子は上段ガードの構えを取る。一瞬後、刃牙が落ちてきて、
「ぅおりゃああああぁぁぁぁっ!」
ガシッッ! と。刃牙は優子の首を脇に抱え込んで、真正面から優子と向かい合う位置に降り立った。
プロレスなどでいう、フロントネックロックだ。
『? し、絞め技? 完全に私の隙を突いたのに? 今のタイミングならガードが間に合わない
可能性は充分あるんだから、最低でもジャンプ大キック→立ち大パンチ→必殺技の基本連続技を
狙うべきなのに。他にも小足の連打とか、投げとの二択とか、なんでもできたのに』
ギリギリと締められながら、優子はほくそ笑んだ。
『ふっ。ちょっとびっくりしたけど、やっぱり初心者ね範馬君。ここで、こんなミス……いえ、
ミスじゃないんでしょう。連続技とかをできる自信がない、もしくはそもそも知らなくて、
絞め技なんかを選択してしまったと。いいわ、締めなさい。そして離れた時、追撃を受けて
貴方は負ける』
ギリギリギリギリと絞められて、優子はちょっと苦しくなってきた。
『何だか……長すぎない、これ? そろそろ離れていいはず……』
ギリギリギリギリギリギリと締められて、優子の顔が青ざめてきた。
『ちょ、ちょっと! ストップ! タンマ! 何よこれ?! 私、さっきの跳び蹴り一発しか
受けてないのよ? まだまだ体力ゲージたっぷりあるのよ? まさか、このまま絞め技
一回だけでKOまで持っていかれるっていうのっっ?』
ギリギリギリギリギリギリギリギリと絞めながら、刃牙が言った。
「弱点その2。会長は、絞め技や関節技に弱い。正確に言うと、それらをかけられた後、
そこから脱出するような技術や力は備わっていない。まるで、そういう技は一定時間が
経過すると、相手が勝手に解放してくれると期待しているかのような」
『そ、そういうもんでしょ普通っっっっ?!』
「なんで会長がそんな風に考えているのかは知らないけど、俺はこのまま、会長が気絶するまで、」
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリと、刃牙は優子の細い首を絞める絞める。
「もう、放さないよ」
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ……………………優子の意識が、途切れた。
優子は考えた。刃牙が何を考えているかはわからないが、弱点その1は間違いなく
的確に優子の弱点を見抜き、突いてきた。こうなると、その2もハッタリや勘違い
ではないだろう。
食らえば一撃KO。だが、必中ではないとも言っていた。ならば、食らわないように
するまで。防御重視、となれば【待ち】一択だ。
「ユーコスラッシュ!」
一つ覚え、と言われてもいい。自分の起点は全てここ。隙の少ない飛び道具、ユーコスラッシュ
をまず放ち、それに対して相手かどう動くかを見て自分が動くのだ。
刃牙は、跳んだ。スラッシュの上を越えて、優子の真上へと。
先ほど、ユーコインテレクチュアルで迎撃されたパターンだ。だが今の刃牙が、一度やられた
失敗を繰り返すとは思えない。何らかの対策を用意しているはず。つまり、ここで
インテレクチュアルを出せば、弱点その2とやらを突かれるのだろう。
『私の対空技が、一つだけだと思っているのなら。インテレクチュアルを破る手段を用意
できたというのが、「弱点その2」なら。貴方の負けよ、範馬君!』
優子は身を沈めた。一見、インテレクチュアルと同じ構えだ。そこへ刃牙が降下してくる。
だが、ここから優子の繰り出す技は、刃牙の想像を越えた威力を持つ技。ここまでの戦いで、
ゲージは既に満タン! 超必殺技の準備OKッ! ピキーンとSEがして光って、
優子は立ち上がったがその上半身の食らい判定は消失、そこを刃牙の蹴りが空振りした瞬間!
「ユーコノーボムッッ!」
ユーコインテレクチュアルを、残像を映す速度で三連続で放つNWOBHM。根元から全段食らえば
六段攻撃(インテレクチュアルは2HIT技)を受けることになり、そのダメージは絶大なものだ。
6HITの手応え、いや足応えを確かに感じて、優子は着地する。地面に、自分以外の人影=
刃牙の影が見える。それがどんどん小さくなっていく。ノーボムを受けて、上空へと舞い上がって
いるのだ。
後は、目の前にべちゃっと落下してディズニーアニメよろしく人型の穴を掘るであろう刃牙を
見下ろすだけ。ノーボムをガードできなかったのは視認したから、万一、立ち上がってきても、
流石にもうヨロレヒだろう。トドメを刺すのは容易だ。
「弱点その2、突けなかったみたいね範馬君」
刃牙の影が、大きくなってきた。落ちてきたのだ。このままここに立っていたら、当たってしまう
かもしれない。優子は一歩下がった。
「ん……?」
影の形が妙だ。気絶して、人形のように落ちてきているのとは違う。
まさか? と思って優子が顔を上げたのと、刃牙の咆哮が轟いたのは同時だった。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
頭を下にして、両腕を伸ばして、刃牙が元気に落ちてくる。
「そ、そんな馬鹿なっ?!」
ノーボムをまともに根元から全段受けて、こんなにあっさりと回復するなんて? いや、というか、
超必を空中で受けたくせにダウン回避できるなんて、根本的にシステム上、インチキだ。
とか言ってる場合ではない。勝ちを確信していたので、下タメができていないから、
インテレクチュアルは使えない。通常技での対空は不安がある。ここはガードしかないだろう。
間に合うか不安だったが、優子は上段ガードの構えを取る。一瞬後、刃牙が落ちてきて、
「ぅおりゃああああぁぁぁぁっ!」
ガシッッ! と。刃牙は優子の首を脇に抱え込んで、真正面から優子と向かい合う位置に降り立った。
プロレスなどでいう、フロントネックロックだ。
『? し、絞め技? 完全に私の隙を突いたのに? 今のタイミングならガードが間に合わない
可能性は充分あるんだから、最低でもジャンプ大キック→立ち大パンチ→必殺技の基本連続技を
狙うべきなのに。他にも小足の連打とか、投げとの二択とか、なんでもできたのに』
ギリギリと締められながら、優子はほくそ笑んだ。
『ふっ。ちょっとびっくりしたけど、やっぱり初心者ね範馬君。ここで、こんなミス……いえ、
ミスじゃないんでしょう。連続技とかをできる自信がない、もしくはそもそも知らなくて、
絞め技なんかを選択してしまったと。いいわ、締めなさい。そして離れた時、追撃を受けて
貴方は負ける』
ギリギリギリギリと絞められて、優子はちょっと苦しくなってきた。
『何だか……長すぎない、これ? そろそろ離れていいはず……』
ギリギリギリギリギリギリと締められて、優子の顔が青ざめてきた。
『ちょ、ちょっと! ストップ! タンマ! 何よこれ?! 私、さっきの跳び蹴り一発しか
受けてないのよ? まだまだ体力ゲージたっぷりあるのよ? まさか、このまま絞め技
一回だけでKOまで持っていかれるっていうのっっ?』
ギリギリギリギリギリギリギリギリと絞めながら、刃牙が言った。
「弱点その2。会長は、絞め技や関節技に弱い。正確に言うと、それらをかけられた後、
そこから脱出するような技術や力は備わっていない。まるで、そういう技は一定時間が
経過すると、相手が勝手に解放してくれると期待しているかのような」
『そ、そういうもんでしょ普通っっっっ?!』
「なんで会長がそんな風に考えているのかは知らないけど、俺はこのまま、会長が気絶するまで、」
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリと、刃牙は優子の細い首を絞める絞める。
「もう、放さないよ」
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ……………………優子の意識が、途切れた。
はっと気付いた時、優子はアンティークドールのようにぺたんと座っていて、後ろから刃牙に
支えられていた。どうやら、刃牙に活を入れてもらって覚醒したようだ。
つまり、負けたのだ。
「気付いたみたいだね」
「……負けちゃったみたいね」
はあ、と優子は溜息をつく。頭を振って立ち上がり、自分の拳を見つめた。
それから刃牙に向き直る。
「言い訳はしないわ。範馬君、貴方は強かった。私の常識を越えて、まるで別世界の人みたい」
いやいや非常識とか別世界の人とか、むしろ俺が言わせてほしい台詞なんスけど、
と刃牙は言いたかったが遠慮しておく。
「会長だって、凄く強かったですよ。俺がもう少し打たれ弱かったら、
最後の六連蹴りで終わってます。紙一重の勝負でした」
「ふふっ、ありがと。でもそれは、随分と分厚い紙一重……ってヤツよ」
差し出された優子の手を、刃牙が握る。
「知っての通り、俺にはやらなきゃならないことがあるんで。悪いですけど、
会長の計画とやらには協力できません」
「ん、わかってる。残念だけど仕方ないわよね。私、負けちゃったんだし」
優子は自嘲の苦笑を浮かべて、そっと手を放した。
「じゃあ、私はこれで。貴方の悲願達成を、陰ながら応援するわね」
「ありがと、会長。俺も、会長の計画の成功を祈ってるよ」
屋上を出て行く優子を、刃牙は手を振って見送った。
それにしても、と刃牙は思う。いろいろ言いたいこともなくはないが、とにかく
優子は強かった。まさかこんな身近に、これほどの強者がいようとは思わなかった。
まだまだ世界には、自分の知らない、想像もつかないような強者がひしめいている。
今度のトーナメントには、そんな奴らが集結するはず。
それらを全て打ち倒し、優勝したその時には。自分は、あの父の場所まで
駆け上がることができるだろうか。
『わからないけど……やるしかないよな』
決意も新たに、刃牙は拳をぐっと握って、
「刃牙くううううううううぅぅぅぅんっっ!」
後ろから轟く、梢江の叫びに突き飛ばされた。
振り向くと、またしても何やらただならぬ顔をした梢江が走ってきて、
「一体どーゆーことなのっ!」
「またいきなりそんなこと言われても、わかんねえよっ。今度は何?」
「だったら説明してあげるわ。今、ここへ上がってくる階段で、会長とすれ違ったのよ。
……あ、階段で、だからね。屋上へ出るドアに張り付いて、覗き見とか盗み聞きとか
してたわけじゃないからね」
それはそうだろう。あのバトルを目撃してたのなら、何がどうあれ優子を絞め落とした
刃牙に対して、フラッシュピストンマッハパンチぐらいは叩き込んでくるだろうから。
しかし見ていないのなら、この剣幕は何だ?
「で、会長に何があったのか聞いたのよ。そしたら会長、何だか残念そうに、でも
それを隠すように無理に微笑みを浮かべて、「フラれちゃったわ、私」ってひとこと
言って、去って行ったのよっ!」
『へ、変に気取った表現するのはやめてほしかったな会長っ!』
「さあ刃牙君、白状しなさいっ! あの、全校生徒のアイドルといっても
過言ではない会長をフったってのは、どういうことっ?!」
「いや、それは、」
……説明してしまってもいいものか。優子はどうやら、自分の格闘能力のことに
ついては秘密にしているらしいし、「計画」のことも部外者に教える気はない=
秘密にしてる、ということらしいし。
などと刃牙が考えていると、
「会長よりキレイな女の子なんて、この学校にはいないと思うし、となると他校?
もしかして女子大生のおねーさん、はたまた中学生に手を出した? それとも、
ま、まさか、女の子には興味ないとか? 実は男の子の方が……」
「待って待って待って待って! 落ちついて梢江ちゃんっ!」
「だったらどうして会長をフッたのよ」
「だからそれは、」
ここで「梢江ちゃんがいるからさ」とでも言えれば事態を収めることもできようが。
範馬刃牙、格闘経験は豊富でも恋愛経験についてはそうでなく、
まだ色を知らぬ年頃であるからして。
そして梢江の方も、自分が優子を差し置いて刃牙から想われている、とは
想像もしない。松本梢江、こう見えて慎ましやかな少女なのだ。
「ま、まあその、俺にもいろいろ事情があるってことで!」
刃牙は逃げた。
「あ、こら待ちなさーいっ!」
梢江は追いかける。
支えられていた。どうやら、刃牙に活を入れてもらって覚醒したようだ。
つまり、負けたのだ。
「気付いたみたいだね」
「……負けちゃったみたいね」
はあ、と優子は溜息をつく。頭を振って立ち上がり、自分の拳を見つめた。
それから刃牙に向き直る。
「言い訳はしないわ。範馬君、貴方は強かった。私の常識を越えて、まるで別世界の人みたい」
いやいや非常識とか別世界の人とか、むしろ俺が言わせてほしい台詞なんスけど、
と刃牙は言いたかったが遠慮しておく。
「会長だって、凄く強かったですよ。俺がもう少し打たれ弱かったら、
最後の六連蹴りで終わってます。紙一重の勝負でした」
「ふふっ、ありがと。でもそれは、随分と分厚い紙一重……ってヤツよ」
差し出された優子の手を、刃牙が握る。
「知っての通り、俺にはやらなきゃならないことがあるんで。悪いですけど、
会長の計画とやらには協力できません」
「ん、わかってる。残念だけど仕方ないわよね。私、負けちゃったんだし」
優子は自嘲の苦笑を浮かべて、そっと手を放した。
「じゃあ、私はこれで。貴方の悲願達成を、陰ながら応援するわね」
「ありがと、会長。俺も、会長の計画の成功を祈ってるよ」
屋上を出て行く優子を、刃牙は手を振って見送った。
それにしても、と刃牙は思う。いろいろ言いたいこともなくはないが、とにかく
優子は強かった。まさかこんな身近に、これほどの強者がいようとは思わなかった。
まだまだ世界には、自分の知らない、想像もつかないような強者がひしめいている。
今度のトーナメントには、そんな奴らが集結するはず。
それらを全て打ち倒し、優勝したその時には。自分は、あの父の場所まで
駆け上がることができるだろうか。
『わからないけど……やるしかないよな』
決意も新たに、刃牙は拳をぐっと握って、
「刃牙くううううううううぅぅぅぅんっっ!」
後ろから轟く、梢江の叫びに突き飛ばされた。
振り向くと、またしても何やらただならぬ顔をした梢江が走ってきて、
「一体どーゆーことなのっ!」
「またいきなりそんなこと言われても、わかんねえよっ。今度は何?」
「だったら説明してあげるわ。今、ここへ上がってくる階段で、会長とすれ違ったのよ。
……あ、階段で、だからね。屋上へ出るドアに張り付いて、覗き見とか盗み聞きとか
してたわけじゃないからね」
それはそうだろう。あのバトルを目撃してたのなら、何がどうあれ優子を絞め落とした
刃牙に対して、フラッシュピストンマッハパンチぐらいは叩き込んでくるだろうから。
しかし見ていないのなら、この剣幕は何だ?
「で、会長に何があったのか聞いたのよ。そしたら会長、何だか残念そうに、でも
それを隠すように無理に微笑みを浮かべて、「フラれちゃったわ、私」ってひとこと
言って、去って行ったのよっ!」
『へ、変に気取った表現するのはやめてほしかったな会長っ!』
「さあ刃牙君、白状しなさいっ! あの、全校生徒のアイドルといっても
過言ではない会長をフったってのは、どういうことっ?!」
「いや、それは、」
……説明してしまってもいいものか。優子はどうやら、自分の格闘能力のことに
ついては秘密にしているらしいし、「計画」のことも部外者に教える気はない=
秘密にしてる、ということらしいし。
などと刃牙が考えていると、
「会長よりキレイな女の子なんて、この学校にはいないと思うし、となると他校?
もしかして女子大生のおねーさん、はたまた中学生に手を出した? それとも、
ま、まさか、女の子には興味ないとか? 実は男の子の方が……」
「待って待って待って待って! 落ちついて梢江ちゃんっ!」
「だったらどうして会長をフッたのよ」
「だからそれは、」
ここで「梢江ちゃんがいるからさ」とでも言えれば事態を収めることもできようが。
範馬刃牙、格闘経験は豊富でも恋愛経験についてはそうでなく、
まだ色を知らぬ年頃であるからして。
そして梢江の方も、自分が優子を差し置いて刃牙から想われている、とは
想像もしない。松本梢江、こう見えて慎ましやかな少女なのだ。
「ま、まあその、俺にもいろいろ事情があるってことで!」
刃牙は逃げた。
「あ、こら待ちなさーいっ!」
梢江は追いかける。
世界中から強者が集う、最大トーナメントの開催はもうすぐ。
範馬刃牙17歳、血生臭い戦いを控えて、束の間の平和な青春を送っていた。
範馬刃牙17歳、血生臭い戦いを控えて、束の間の平和な青春を送っていた。