SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 「演劇をしよう!! (前編)」  (10)


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 橙の光が闇の中を進んでいた。円形のそれは時おり左右へ傾き空間の暗黒を削っていた。灰色の壁。丸く歪曲した天井。
そして線路。光が無造作に抽出する景色はここがトンネルであるコトを示唆していた。
 光はどうやらライトらしく後方から硬い足音がコツコツコツコツ常に響いている。それはもつれ合うような不協和音。足音の
主は複数いた。
「しかし広いわねココ。電波とか届くのかしら?」
 場所に不釣り合いな嬌声が淀んだ大気を震わせた。
「届くって入ってすぐの頃に言っただろ! 戦団への定時連絡! 毎日毎日ボクに押し付けやがって!!」
 こちらはいかにも坊ちゃんといった感じの若い男性の声。懐中電灯を握る手をぶるぶる震わせ憤りも露だ。
「何にせよ大戦士長救出作戦まで後2日。大まかな位置は把握できたな」
 いかにも無頼漢じみたハスキーな声が笑みを含ませると、前者2人は軽く同意を示した。
「まさか地下にトンネルがあるなんてね。地上から追跡しても分からない筈よ」
 まず応じたのは中性的な美貌の持ち主である。髪は短く瞥見(べっけん)の限りでは男女の区分がわからない。
 そんな”彼”を眼鏡の青年は得意げに指差しカラカラと笑った。髪には跳ねが多く寝ぐせだらけという方が分かりやすい。
「ボクのレイビーズたちに感謝しろよ円山。大戦士長の位置だって今日中に見つけてみせるさ」
 自信あり気な声音だがあまり余裕は感じられない。笑みもどこか卑屈な青年で丹力の乏しさが伺えた。
「確かに感謝だな」
「ひ……!」
 青年の頭が背後からガシリと掴まれた。彼は蒼い顔を恐る恐る後ろへねじ向け、背後の大男を見た。
「ヴィクターIIIの捕捉と言いなかなかどうしてやるじゃないか。見直したぞ犬飼」
 堂々たる体躯と十文字槍を持つ男がそこにいた。単純すぎる形容をするとすれば野武士であろう。荒々しく伸ばした黒髪
といい、いかにも元亀天正からそのまま現代に迷い出てきたような風貌だ。
「分かったから頭を放せ戦部!」
「フム。無作法だったか。しかし……ようやく」
 それほど強く掴まれていなかったが何となく怖かったらしい。犬飼、と呼ばれた青年は引き攣った胸に手を当て兢々(きょ
うきょう)たる息を付き始めた。だがもはやそんな様子など目に入っていないのだろう。戦部は槍を背中に回しのっそりと歩
きだした。通り過ぎていく彼を見た美貌の青年はわおと歓声を上げた。戦部の頬には凄烈な笑みが張り付いている。舌舐
めずりさえする様はまさに獣を狙う獣の顔つきだった。


 犬飼倫太郎。
 円山円。
 戦部厳至。


 かつて戦士長・火渡赤馬に坂口照星とその誘拐犯の追跡を命じられた男たちである。
 戦士ではあるがその分類は奇兵。今夏は一時期”再殺部隊”として毒島華花・根来忍といった連中ともども津村斗貴子や
パピヨンと熾烈な戦いを繰り広げた。力量面では申し分なしというところだが人格や性質に難があり、自然ヴィクターIII討伐
に代表されるような「難儀な、汚れ仕事」ばかり回されがちである。手がかりもなくその癖危険ばかりは大きい坂口照星追
跡を一介の戦士長に過ぎぬ火渡に丸投げされたのも、それを戦団に黙認されているのも上記一例であろう。

「まあスゴいといえばスゴいわねレイビーズ。地下トンネルを探し当てちゃうなんて」
 レイビーズ。一般的には狂犬病を意味する言葉だが、この場では犬飼の武装錬金を差す。形状は軍用犬(ミリタリードッグ)。
核鉄1つにつき1対2体の自動人形である。いまは4体が地上を捜索している。
「大戦士長の匂いが漏れていたからね」
「?」
「言うまでもないけどね。楯山千歳が捕捉できなかった以上、大戦士長は何らかの武装錬金の影響下にあった筈さ。「外部
からの干渉を完全にシャットアウトするタイプ」かな? とにかくバスターバロンごと拘束されていたのは間違いない。けど敵
側に何らかの事情があったようだね。一瞬だが特性が解かれ、本当にわずかだけど匂いが漏れちゃってたよ」
.
──「ところで照星君はどこにいるのかな? さっきから全然姿が見えないけど」
── ウィルはかすかに気色ばみ、そして瞑目した。
──「では、ご覧にいれましょうか。ボクの『インフィニティホープ』、ノゾミのなくならない世界と共に」
── 突如として大蛇のような巨大な影が空間をガラスのようにブチ破り、ムーンフェイスを襲った。
──「止まれ」
── ウィルの指示で肩口スレスレで止まったそれは低く唸ると、割れた空間に引き戻る。
── そこでは水銀に輝くブ厚い扉が開いており、中には照星の姿が見えた。
── 神父風の彼はアザと血に塗れてピクリとも動かない。
── 胸のかすかな動きで息があるコトだけが辛うじて分かった。
──「こりゃビックリ」
── 感想をもらすムーンフェイスはどこかわざとらしい。

                                             (11話─(3)参照)

「ナルホド。それがこのトンネルに残っちゃった訳ね」
「もちろん完全密閉とはいかないよ? どこかに通じている以上、空気の流れがないワケじゃない。第一天井なんかにも隙
間があるしね。長いトンネルの天井全部一枚の板で賄えないだろ? コンクリートでもそれは同じさ」
「ホントだ。何mかごとに分けて嵌めこんである。隙間はこのコたちの境目に……ね」
 円山は感心したように高い天井を見上げた。その様子にますます気をよくしたのかますます弾む犬飼の声。
「空気の流れに隙間。地上に、大戦士長の匂いが漏れていた理由さ。おかげで何とか嗅ぎつけるコトができた」
 そこで犬飼はニタリと唇の端を吊上げた。自信に満ちてはいるがやはりどこか劣等感の見え隠れする薄暗い笑みだ。
「しかもトンネルにはムーンフェイスと、誘拐犯の匂いもあった」

(ブ厚い土の上から、な。犬の嗅覚の倍というだけはある)
 聞くともなしに二人のやり取りを聞いていた戦部は微かに微笑した。

「どういう訳か誘拐現場には犯人たちやムーンフェイスの匂いがなかった。けどトンネルの中は違うよ。一応彼らは歩いた
らしい。だったら追跡はしやすくなる。たとえ大戦士長を何かの武装錬金で外界から完全に隔離していたとしても、今度は
同行者たる彼らの匂いを追えばいいだけだからね。乗り物に乗って移動したようだけど匂いはまだまだ残っている」
「後はそれを追うだけ……そんな方針だったわね」

(乗り物か)
 戦部は足元に目を落とし思案顔をした。地下鉄に使うようなレールがどこまでもどこまでも闇の奥まで伸びている。
(トンネルもだが線路も人工物のようだ。武装錬金特性で作られた訳ではない)
 ふむうと顎に手を当て戦部は考える。道中何度も繰り返した思案だが、これだけの長さこれだけの深さのものを作り上げ
ようとすればやはり相当の組織力がいるだろう。
(莫大な資金は言うまでもなくそれを兵站に生かしきる手腕は欠かせん。ホムンクルスは量産が効き人間以上の高出力を
持ってはいるが、大規模な物を作らせるには相応の教育が必要だ。統率、といってもいい。奢り高ぶり人喰いに傾注しが
ちなホムンクルスどもを長期間巨大な工事に従事させ、かつ水準以上のものを作らせたとすれば…………)
 戦部の趣味は戦史研究だが、歴史家にいわせれば歴史上勝利を収める組織とは上記が如き兵站と涵養(かんよう)
を達成できる物らしい
(いささか寓話じみた警鐘だが強者を招きやすいのもまた事実)
 質の高い組織には自ずと実力者が集まってくる。果実を期して幹と品種を眺めるように戦部は目を細めた。
(レティクルは10年前より強くなっている。俺が『弁当』の喰い方を覚えたあの時より)

 とりあえず行き止まりにたどり着いたのが数日前。9月9日である。
 そこから出口──梯子を上りマンホールを開ける──を見つけ再度レイビーズで追跡したところ、いくつかアジトらしい
場所が浮上。それらを戦団に報告したところ「救援部隊の体制が整うまで監視を継続」との結論に落ち着いた。音楽隊経
由で判明した敵の正体を伝えられたのもその頃だ。
 目下戦部らは警邏と絞り込みの最中だ。敵地は近い。襲撃も半ば期待していたが平和なまま現在に至る。

(このあたりに列車はない。消えたのだろう。誘拐に使われた物は武装錬金)
 退屈な現状把握をなぞりながらも内心線路に垂涎している戦部だ。
(10年前はなかったタイプ。詳しい形状は分からんが列車は列車、小ぶりというオチもあるまい。是非とも戦ってみたいものだ)
.
 そんな彼の思案をよそに背後では明るい声が響いている。

「でも分かるまでは大変だったわねー犬飼ちゃん。なかなか見つからなくてキャプテンブラボーに核鉄まで貸して貰って、4
体がかりであっちこっち探してたもの。もうほとんど涙目で取り乱してばっかり」
「黙れ!! 匂い追跡は難しいんだぞ!! 今回みたいなトンネルとか特殊な武装錬金使う相手なら特に!! というか
なんで誘拐現場の近くに入口なかったんだよ!! それさえあればボクは苦労せずに済んだんだ!!」
「どうやって地上に出たんでしょうね。誘拐犯さんたち」
 他愛もなくきゃいきゃいと戯れる2人に戦部は軽く嘆息した。道中こんなやり取りが何度もあった。よく飽きもせずに
何度もと呆れもするがそうでもしなければ気分が滅入って仕方ないのだろう。真暗で先の見えないトンネルは無言で
歩き続けるにはあまりにも長すぎる。
「でも匂いがあった以上確定さ。このトンネルが大戦士長誘拐に使われたのはね。毒島に調べて貰ったけど、誘拐現場
近辺に地下鉄や坑道といった類のものはない。敵が作ったとみるべきさ。そして匂いはブラフじゃない。ブラフを敷くなら地
上の方さ。けどアレだけ探しまわって一回もそれらしい匂いを捉えられなかったんだ。敵はブラフなんて使ってない。だったら
後はトンネルを辿るだけだろ?」
「そうね。大戦士長が誘拐された辺りにも戻ってみたけど、あっち方面のトンネルは一本だけの行きどまり」
「で、逆方面に向かった結果、ココにいる。分かれ道はなかったね。どうやら大戦士長誘拐用の直通らしい」

 衒学的な演説もひと段落というところだ。実力不相応の自意識もそろそろ満足だろう。アタリをつけた戦部は振り返り野太い
笑みを浮かべてみせた。

「重ねて言うが感謝するぞ犬飼。標的はすぐ傍。貴様のお陰でホムンクルス以上の連中と戦えそうだ」
「昂ぶっちゃって。もしかして敵の気配でも感じた?」
「ああ。居るぞ円山。近くにおよそ4体。内1体は恐らくヴィクター級。救出作戦が愉しみだ」
 一団の中で一番の美貌の主はやれやれと肩を竦めてみせた。僚友だから知っている。現役戦士中ホムンクルス最多撃破
数を誇る戦部は常に強者との戦いを望んでいるコトを。彼に言わせれば記録保持など望みを追い続けた副産物、通過点にす
ぎないのだ。ゆえに大戦士長誘拐という異常事態さえ彼にとっては新たな強者出現ぐらいの意味合いしかない。
「ヴィクター級ねえ。まあ1人ぐらいはいると思うけど……どうする? ボクたちだけでそいつ倒してみる? やれば大手柄だけど」
「悪くない提案だが、生憎俺は常々思っている。大戦士長とも戦いたいとな。救出をしくじり死なせては折角の飯もまずかろう」
「自重しなさい犬飼ちゃん。私たち結局ヴィクターIIIさえどうにもできなかったじゃない」
 軽く歯噛みし目を逸らす犬飼に円山は思った。「ホラー映画とかでまっ先に殺されるタイプね」と。実際彼は今夏のヴィクターIII
(武藤カズキ)討伐においてまっ先に交戦しまっ先にやられた輝かしい戦績の持ち主だ。
 それを気にしているのか。どうも最近功を焦っているフシがある。コンプレックスもあるのだろう。代々戦士を輩出した家系
の生まれで祖父──円山の記憶が正しければ、恐らくは──犬飼老人に至っては戦士長さえ努めていた。その後任に収ま
りいまは大戦士長にまで登り詰めているのが他ならぬ坂口照星なのである。一方犬飼は奇兵扱いの厄介者。救出作戦には
つまり戦士たち家族たち両方への面目躍如がかかっているという訳だ。
「私情挟みすぎね。2人とも。まあイイけど」
 円山は特に思うところはない。火渡に命じられたから付いてきた。それだけである。もし敵に円山好みの可愛いコがいれば
風船爆弾の武装錬金バブルケイジで身長を吹き飛ばし鳥カゴで飼いたくもあるが、それはついで程度である。主目的にする
ほど乗り気でもない。なぜなら──…腹部が痛い。傷が疼く。胃の中にゴロゴロとした不快感が走りいまにも爆発しそうな恐
怖がある。少し前、ある人物から受けた傷だ。
 円山の武装錬金の特性は「触れた相手の身長を15cm吹き飛ばす」。吹き飛ばした量が対象の身長を上回る場合、相手は
消滅する。
 今夏、円山はその特性を縦横に駆使し、ある対象の身長を34cmまで縮めた。しかし円山は目測と詰めを誤り、たった2発
しか当てなかった。差し引き4cm。そこまで縮んだ相手がどこに向かっているかも知らず、円山は大きく口を開け、笑い、不用
意な発言──鳥カゴで飼うのも悪くなかった──をしてしまった。
 相手は、津村斗貴子だった。不用意な発言が飛び出すころにはもう影も見せず円山の口に飛び込み胃の中へ潜り込ん
でいた。そして発言を悪趣味と断じ、「人間の」「円山の」胃を内部から切り開き、脱出した。
 その傷はトラウマとなり以来そのテの諧謔を浮かべるたび警告的ファントムペインに苛まれる。
 思い出したくもない──だが激痛もたらす法悦への期待もやや滲む、そんな──やや強張った笑みで円山は話題を変えた。
「私情といえばココ裂いてくれちゃったあのコ。今頃銀成市で怒っているでしょうね」
 同じ部隊のよしみか。毒島はこまめに戦団の現状を教えてくれる。おかげで暗いトンネルを歩くだけの円山たちもいっぱしの
事情通気取りだ。特に銀成市の現況は──かつて戦った相手と縁深い土地というコトもあり──よく話題にのぼる。
「ホムンクルスとの共闘ねえ。いいじゃないか。捨て駒にできるんだろ?」
 いささかひどい犬飼の意見だが、戦士としては模範解答だ。
「…………フム」
 戦部の目に鋭い光が灯ったのは戦後を鑑みてのコトだろう。共同戦線は救出作戦限定なのだ。終わってなお生き延びて
いる者があれば始末と称して挑むのも悪くない。野趣あふるるニュアンスに苦笑一方の円山だ。
「ま、見て気に入れば別の選択肢も有り得るがな。だがどちらにせよ──…」
「?」
「奴らが生き残っていればの話、だがな」
 機微を察したのか、大男は踵を返し仲間を見た。
「お前たちはまだ若いから知らないだろうが」
「チョットぉ。確かに若いけどアナタだってまだ27じゃない。私のたった4つ上」
 円山の抗議をしかし微笑でゆるりと流し戦部厳至は言葉を紡ぐ。
「敵は強いぞ。並のホムンクルスでは生き残るのも難しい」
「レティクルだっけ? それも毒島から聞いているよ。大戦士長を誘拐したのもそいつらだってね。でも10年前戦団に負けた
んでしょ? とてもそんな強いとはねェ」
「強いさ。実際見れば分かる。まだ若いお前たちと違い、俺はあの場に居たからな」
「へぇ初耳。10年前の決戦にいたなんて。その頃アナタまだ17。よく許可が下りたわね」
「武装錬金の特性が特性だからな。もっとも……その時まで『弁当』の喰い方も知らん新米だったが」
 犬飼と円山は顔を見合わせた。話がややズレている。余談だが戦部の武装錬金は『激戦』という十文字槍で、特性は槍
本体および創造者の高速自動修復である。戦部は例え黒色火薬で跡形も残らぬほど吹き飛ばされてもたちどころに再生する。
ただしその代償として莫大なエネルギーを要するため、戦闘突入時には『弁当』が必須だ。もしそれがなければあっという間に
ガス欠をきたし修復不能となるだろう。
 とはいえそれが敵の話とどう関係あるのだろう。戦部の話、続く。
「弁当の喰い方を覚えたのは幹部と戦っている最中だ。ディプレス……だったか。火星の幹部は圧倒的に強かった。あの
決戦における記録保持者は間違いなく奴だ。多くの戦士がディプレスによって分解され、命を失った。俺の居た部隊も例外
ではない。決して小さくはなかったが遭遇から5分と経たず壊滅に追いやられた」

 最初はただの掃討任務だったらしい。80体からなるホムンクルスの集団を壊滅寸前にまで追い込み部隊の士気はとみ
に高かったという。そのとき面妖な鳥型が音も立てず戦場に紛れ込んだ。

「まずは3人。気づいた時にはもう遅かった」

 仲のいいグループだった。一ツ所に固まってめいめいを補佐していた彼らの首から上が当たり前のように爆ぜた。ぶしゅ
りという不気味な音がした。首から夥しい出血を催す死骸が3つ仲良く膝をつき、傾き、そして丸太を転がすような音を奏で
る頃ようやく他の戦士も異常に気付いた。一瞬止まる戦場の波。滑り込む影。ある直線状にいた戦士が6人、『大きく削ら
れた』。運が良いものは右肩と右腕と右肺全部に気管支と左肺を少々。不運なものは腎臓同士の中間点を中心に腹部と
腰部のほぼ総て。人体を構成するいろいろな器官の落ちるリズムのやかましい中、戦士たちは見た。いたく嘴が巨大な、
不格好な鳥がはるか先で顔半分だけ振り向かせているのを。三白眼と口元をたっぷり歪め酷薄な笑みを浮かべているのを。

「飛火飛鴉(しんかひあ)?」
「中国のロケットミサイルみたいなものさ」
「特性は分解能力。無数にあるボールペン大の武装錬金。奴がそれを飛ばすたび俺を含む戦士どもが分解された」
「ま、アナタは激戦があるから問題ないでしょうけど、他の戦士はねえ」
.
 誰かが怒号をあげた。
 激烈な感情が伝播した。膨れ上がった殺気がそれまでの相手を軽くすり潰しながら鳥へ鳥へと向かい始めた。

「武装錬金の名はスピリレットレス(いくじなし)。いわば最強の矛だが最強の盾にもなりえる」
「成程。身にまとう訳だね? いや、周囲に漂わす……といった方が正しいかな?」
「キャプテンブラボーのシルバースキンが殴ってきた相手の腕分解するようなものね。物騒すぎてイヤになっちゃう」
「ゆえに激戦の高速自動修復を以てしても攻撃は届かなかった。もっとも、”その時までの”修復面積と回数ではな」

 近接戦闘を嗜むものは挑みかかるたびことごとく武器を砕かれその隙に頚部を打ち抜かれ絶命したという。
 遠距離攻撃をする者も末路はおおむね同じ。ディプレスは地を蹴りそして飛んだ。迫りくる銃弾やエネルギー弾を『盾』で
分解しつつ相手へ肉薄! 工夫も何もない。ただの体当たりを見舞った。周りに展開する分解能力の武装錬金ごと身を
ブチ当て戦士を肉塊へと造り替えた。

「なかなか面白い戦いだった。初陣から2度の戦もせぬうち大将以下が総崩れだ」
「楽しんじゃってるわねェ」

 やがてエネルギーが尽きた。隻腕の戦部は片膝をついた。手にした十文字槍は柄の上半分が穂先ごと消失。修復に伴
う稲光が微かに瞬いているが高速と呼ぶにはあまりにも精彩を欠き、遅かった。

 ラスイチ。よく戦った。嘲るような労いを囀りながら巨大な嘴の鳥がゆっくりと歩み寄る。周囲は屍の山。戦部の運命もまた
そこへ合流するかと思われた。

「その時さ。弁当の喰い方を覚えたのはな」

 負け戦。そんな絶対不利さえ愉悦と好む形質が奇跡を生んだ。腰だめのまま戦部は右腕ごと十文字槍を跳ね上げた。
居合いのような峻烈さだった。鞭と見まごうばかりしなる打撃の軌跡の中、神速ともいえる速度で元の形へ復した激戦、
がりがりと凄まじい音を立てながら分解され──…ディプレス=シンカヒアの嘴の一部を削り飛ばした。微かに驚き汗を
流す敵。彼とは逆に会心の、野太い笑みが戦部を支配した。劣勢の中、弱卒が一瞬だけ至強を上回る。戦部厳至の心が
躍るひとときである。

「修復速度が分解速度を上回った訳ね。でもソレをテンション一つでやってのけるなんてねえ」
 呆れたように円山は呟いた。きっと戦部は起死回生などカケラも目論んでいなかったに違いない。この一撃が通じなければ
負ける! 常人なら焦燥し繰り出すコトさえ躊躇う場面だが戦部にしてみれば「負ける!」という絶望的要素さえ面白い。もし
通じなかったとしてもその後の悪あがきさえ笑いながらとても楽しげにやってのけるのが彼なのだ。
 ただただ腹の減った子供が旨い料理の乗った皿を徹底的にねぶり尽くすようなに、戦闘という料理に残る余地、残滓も
何もかも消化せんとする貪欲さあらばこそ戦部は腹臓から高ぶり、高速自動修復の”高速”を更に一階梯上へ押し上げた
のだろう。回数も、面積も。
 つくづくと呆れながらも感心する円山の横で犬飼だけはしたり顔で自説を垂れ始めた。相手への称賛よりまず自分の発想
の素晴らしさとやらを披歴せずにいられない辺り、彼もまた子供じみている。
「ディプレスとかいう奴の武装錬金、シルバースキンと真逆だね。あっちは敵の分解速度が修復速度を上回れば攻撃が通
じる。戦えば分からないよ。どうなるか

「その辺りは分からんが……とにかく」

 削り飛んだ嘴の欠片。それを喜悦の表情で眺めながら戦部はゆるゆると手を動かした。果たして野太い槍の柄は器用にも
欠片を叩き、飛ばし、戦部の口にへと放り込んだ。

「後はまあ、いまやっているような弁当喰いと同じだ」

 咀嚼し、飲み干す。人を喰らうホムンクルスを人が喰らうというこの矛盾! だが戦史註(ときあか)す戦部にしてみれば
整合性に満ちた当たり前の行為である。攻撃が通じた瞬間、思い出し、腹が鳴った。古の戦士は斃した相手の血肉を喰ら
ったという。自らがそれより強いという証のために。そして相手の強さを取り込み、更なる強さを得るために。
 戦部の部隊に居た戦士は彼以外みなホムンクルス撃破数100以上。そんな手練れどもをあっという間に壊滅させたディプ
レス=シンカヒア。覚えるのは憎悪でも義憤でも復仇の念でもない。戦いたい。もっともっと戦いたい。そして打ち斃し……
もっともっと喰らいたい。なんと旨そうな羽根だろう。丸い頭を噛み千切れば何がどろりと出てくるのか。
 かつてない高揚の赴くまま──女を抱く興奮などこれに比べればまったく話にならぬほど矮小だった──戦部は叩き、薙
ぎ、突いた。全力で踏み込むあまり時おり足の下で仲間の死骸がナマ柔らかい何かをうジュりと吐き出したようだったが些
細な問題だ。戦後訪れた遺族や同僚どもの激しい抗議もひっくるめ、どうでもいい、つまらない問題だった。
 戦闘のもたらす高揚感。それこそが戦部を突き動かすものなのだ。それ以外は不要なのだ。

「半日は戦ったな。最初は小さな欠片程度しか飛ばせなかったが、徐々に徐々に喰いでのある塊を獲れるようになっていた」
「あらやだ。完ッ全に食べ物としか見てないわね」

 食べ物は食べ物でかなり興奮していたという。最初こそ食欲丸出しで迫ってくる戦部に激しくヒき、憂鬱だ憂鬱だと涙さえ流
していたが一通り泣き終えると、逆に、ハイになった。

「イヤだねェーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!! 何ィ!? 一体何なのよあんた!? 人間でしょ! 人間の分際
でホムンクルスさん喰っちまう訳!? え!! 何よナニナニおかしくねそれ!? 普通逆だよなあ逆!! 俺が! お前を!!
喰う!!! ホムンクルスさんがビビり倒す人間食べる!! それが摂理ってもんだろうが! 正しい流れってもんじゃねえか!!
なのに……オイ!! なんで俺がさっきから食べられちゃってる訳ェ!? おまっ、頭おかしくねーか!! なあ!! ……
ああ、ヤベえ。キタキタ鬱ってきた。せっかくよォ、惨めな人間の姿捨ててホムンクルスっつー化け物になって蹂躙する立場
手に入れたってのによオ~~~~喰われてるだァ!? クソ! 世界がまたてめェみたいなん差し向けて憂鬱にさせやがる! 
いつも、いwつwもwだw! こりゃあああもうううううアレだよなあああああ!! てめェ大好きっ子ちゃんになってよオオオオ!! 
うっとりと抱きしめて受け入れてやってからよおおおお!!! 世界!! てめェがいまさら何寄越そうと俺はもう揺らがね
えぞって強くなった寛容さの元に主張してやるべきだよなああ!! そして憂鬱を乗り越えてからてめェを殺すッッッ!!!
来な!! ゴーイングmy上へってな具合になぁ! 突き進むぜ俺はよォ!! 何があろうとよおおおおお!!!!」

 犬飼はため息をついた。
「狂っているね。どっちも」
「アジトに危機が来たとかで奴が撤退するまで戦いは続いた」


「それじゃバーイバーイバーイwwwwww それじゃバーイバーイバーイwwwwww」


「追おうとしたが相手は鳥型。あっという間に遠ざかり二度と見つけるコトはできなかった。あと4日もやり合えば喰えたのだ
が……惜しかった」
「負けなかっただけでも大したものよ」
 今更ながらに円山は実感した。火渡を除けば再殺部隊最強は戦部だろう。ホムンクルス撃破数の記録保持者だからと
いうのもあるが、そもそも戦闘に対する精神が根本から違いすぎる。”あの”坂口照星を誘拐した組織の幹部さえ、他より
わずかに面白くて喰いがいのある食料(エサ)ぐらいにしか見ていない。
「しかし、気になるな」
「何がよ?」
 十文字槍を持ちかえトンと肩に乗せると戦部はぎょろり目を剥き「いやな」と前置きした。
「確かあの後、奴や盟主を斃したという報告があった。だが奴らは現に生き延びている。腑に落ちんな」
「どうせクローンってオチじゃないの? ヴィクターの娘にソレ教えたのレティクルの盟主っていうし」
「例の音楽隊の金髪剣士も盟主のクローンだしね」
「いや、事後処理をした連中も最初その線を疑っていたが、調査の結果、間違いなく『本人たち』だと確認された」
「ワケわかんない」
「ただの手落ちかそれとも全く別の理由か……。ム? そう言えば『木星』の幹部だけは逃げおおせていたか? …………
いずれにせよディプレスに関してはしばしば生存説が出ていた」
「へぇ」
「鐶光。およそ1年前の話だが、音楽隊の副長はとある戦士と戦った。そのとき奴は、こう、だな」
 戦部の節くれだった掌が鼻のあたりから胸の半ばまでスッと下りた。
「ディプレス……ハシビロコウの嘴を作り、応戦した。関連性が疑われ、生存説が強まった」
「強まった? じゃあそれより前にも何かあったの?」
「7年前か8年前だ。殲滅任務に従事していた戦士が8名、惨殺されてな。死骸さえ残っていない者もいる。最後まで生き残っ
ていたらしい軍靴の戦士は戦団に連絡を入れ、こう言った。『敵は2人。うち1人は『火星』。ハシビロコウ。応答しろ。ディプ
レスは生きている』……と」
「だったらその時探せば良かったじゃない。まったくヴィクターのコトといい、戦団は詰めが甘いわね」
「探したさ。だが結局手がかり一つ得られず保留(テイクノート)扱いになった」
「やれやれ。その時ボクが戦士だったら今のように探し当てて見せたのに」
「ちなみに、だ」
 戦部はニヤリと笑った。
「その時人数分の核鉄が奪われたが、つい最近発見された」
「どこにあったの?」
「例の音楽隊から回収した26の核鉄の中にだ。どうやら奴らもまたディプレスと遭遇していたらしい」
「ん? 遭遇しただけじゃ核鉄取れないわよね? 戦ったの? でもまだ生きてるらしいわよねディプレス」
 不可解な話だ。音楽隊はディプレスと交戦し、彼を斃してはいないが所持品(核鉄)だけは8つも手に入れている。
「ところで献上されたのは20じゃなかったっけ?」
「それとは別に一時回収した音楽隊専用の核鉄が6つある。合わせて26。内1つは鳩尾無銘に返しているが」

 ディプレス=シンカヒア。

 かつて矛を交えた幹部はいまどこで何をしているのか。
 どうやら先ほど察知した気配の中にはいなかったらしく、戦部厳至はフウとため息をついた。
 むかし行ったうまい屋台がいまどこで営業しているか気にかけるような表情。犬飼と円山はそう思った。


 そして時系列はやや前後するが……。

 戦部が気にかける火星の幹部は。




 自販機でジュースを買っていた。

 銀成市の。

 人気のまったくない路地裏で。


「”これだ”って思えるものがあるならばー♪ 人の目ばっかり気にしちゃ損でしょーうー♪」


 金髪にピアスという”いかにも”ないでたちの青年はやや青い顔で歌を聴いていた。
 視線の先には全身フードがいて、自販機から戻ってくるところだった。

「しwwwwwかwwwwwwwwwしwwwwwww ツイてないよなあお前もwwwwwwww たて続けにマレフィックと会うなんざwwwww」
「え? ああ? う?」
 目を白黒しながら手を伸ばす。飛んできたのはジュースの缶だ。反射的にキャッチしながら愕然とする。
「それでもよォーwwww 病気のリヴォ野郎に業突張りのデッドwwwwww ワーカホリックなニートのウィルに破壊大好き盟主様
wwwwwwwwwそーいったのが銀成にいないだけマシだぜwwww アイツらにゃ理屈ってもんは通じねーwwww 話ができて加減も
できる分wwwwwグレイズィングとかマシな方だぜwwwww」
 どうやら奢ってくれるらしい。そもそもこんな路地裏に自販機があるのも妙な話だが膨れ上がる違和感に比べればまったく些
細な疑問だ。どうして奢ってくれるのだろうか。
                                                   マレフィック
「後よ後よwww お前が逢った奴らとかオイラの連れ以外にももう1人うろついてんだわ幹部wwww 木星、イソゴばーさんwww 
気をつけなwwww 見た目はチビっこい可愛らしい感じだしwwwww温和で穏健だからww暴力もエンコ詰めも拷問もしないけどwww」
 ガシリと肩を組みながら全身フードは低い声で耳打ちした。
「惚れられたが最後、喰われちまうぜ?」
 ぞっとするような声だった。純粋な殺意も確かに含まれてはいた。だがそれ以上に甘美な陶酔が大きく、男の自分でさえ
性的な何かをゾクリと蠢動させられる声だった。
「なーんつってwwwww なーんつってwwwwwwwww ビビった?wwww ねえビビった?wwww ンな顔すんなよwwwwww 
大丈夫だっつーのwwwww イソゴばーさんは自制できるお方だっぜwwwww 滅多なコトじゃ喰わないっぜwwwwwwwww」

 カラカラと笑いながら彼は肩を叩く。
「大体な!ww いまあのばーさん、お仕事の最中wwww 新しい仲間の候補探すのに忙しいwwwwwwwwwwwwwwwwwww
マレフィックアースつってなwwww オイラたちのしたいコトに必要な最後の幹部を探してんだよwwwwwwなのに人喰いとかやったら
戦士が騒いで台無しだろーがよwwww だからしねーよwwwwwイソゴばーさんはオイラたちん中で一番大人だからなwwwww
まーwwwww 体は子供丸出しなんだけどよオwwwwwwwwww あ、オイラロリコンじゃねーよwww おしとやかなよーwwwww
どっちかつーと巨乳なおねーさんのが好きだぜwwww」

「は、はぁ」と不明瞭な応答をしながら金髪ピアスは考える。

 この晩出逢った男女たち。カタチこそ違えど異常な破綻とおぞましさを抱えた彼らの仲間がまた一人、目の前にいる。理
由は分からないが気に入られたらしい、されたコトといえば他愛もない軽口だけで特に危害は加えてこない。
 だからといって飲む気になれぬがジュースである。掌をひんやりとさせ心地よく誘惑的だが口をつければどうなるか。幸い
プルタブの辺りは固く閉じられている。何かを混入された痕跡はない。悟られぬよう「くっ」と拳に力を込めアルミ製の筺体を
歪曲。液体の噴き出す気配はない。針のようなもので小さな穴を開けられてもいない。大丈夫そうだがさりげなく全身フード
と見比べながら逡巡する金髪ピアスくんである。
「wwwwwwww なんだよwww 毒なんて入ってねーよwwwww」
 ぎくりと身を強張らせる金髪ピアスだが相手が気を悪くした様子はない。
「まあ初対面だしwwwwあんな連中の仲間だからwwwww疑うのも無理はないよなwwwゴメンwwwゴwメwンwなwwww 心配
かけさせちゃってるよなあオイラwwwwwwwwwwwwああ憂鬱wwwww」
 笑っているがだからこそ恐ろしい。笑い声、笑み、笑顔。慈母のようににこやかな少女でさえ豹変し、恐るべき暴力──
当人にとっては『伝える』程度の軽い行為らしいが──をもたらしたのだ。安心などできよう筈がない。
「なんだったら俺が毒見すっけどwwwwwww あ! コップか何かに注いでなwwwww 口はつけねーよ口はwwww 男同士
でおまwww間接キスとかwwww照れるわwwww恥ずかしいwwwwwオイラがwwwwwwwww」
 身を固くする。心を読まれている。そういえばと汗を流す。先ほど彼はここに来た経緯をスパリと言い当てた。もし逃げよう
とすればたちどころに察するだろう。それがきっかけに爆発せぬとは限らない。
「ジュース飲む?wwww 飲んじゃう?wwwwwww」
 首をぶんぶんと左右に振りながら全身フードが迫ってくる。非常にうぜえと無意識に思いながら頷く。
「じゃあ開けるねwwwwwwww 開けちゃうwwwwwwwww」
 気障ったらしく指が弾かれた瞬間、それは起きた。プルタブ。それが魔法のように消失した。
「え?」
 何が何やらという顔で缶を傾ける。最初ただ開いただけかと思っていたがすぐさま違うと理解した。いくら角度を変えても
飲み口付近にタブは見えない。普通開ければ見える筈なのに……。良く見ると起こしたり戻したりする方のタブ──漢字の
『日』の下半分を丸くしたような──も消えている。
「さぁwwwwお近づきの印にwwwwwww一献wwwwwwwww一献wwwwwwwww」
 あっと目を剥くころにはもう遅い。素早い手つきで缶が奪われ口の上で傾いていた。強い力でこじ開けられた下顎めがけ
橙色の清涼飲料水がドボドボドボドボ降り注ぐ。吐きたいが吐けば何をされるか分からない。
「さぁ!! 吸い込んでくれーい! 僕の寂しさ、孤独を全部君がー♪」」
 恐怖。それは言い訳のように先ほどの女医を思い出させる。大丈夫。仮に毒が入っていてもきっと運んでもらえる。助け
てもらえる。命までは取られない。そうだったじゃないか。今まで遭った連中は……。
 妥協と甘えに満ちた生ぬるい考えのもとコクコクと喉を動かし飲んでいく。ただのジュースがおぞましい液体に思えた。し
かし品質自体はごくごく普通の物で、味に異常もなく異物混入も認められない。やがて缶が空になったころ気付く。消失し
たかに見えたプルタブ。口に残っていないし食道を通り抜けた形跡もない。缶にも残っていない。
 では、どこへ? どこへ消えたのか?
「さぁ? wwww気にするなwwwwww 本当にただ消えただけwww 原子レベルにwww分解されただけwwwww」
 そういって全身フードは肩を揺すって笑って見せた。その手に黒い靄のような物が漂っているのに気づき金髪ピアスは目
を擦った。もう一度見える。何もない。確かに何か黒いボールペンのようなものが飛んでいたのだが……。
 とにかく今までの人物とは違って比較的無害そうだ(ジュースを無理やり飲まされたが)。安心した金髪ピアスだがふと彼に
同行者がいたのを思い出す。いた、どころか先ほど突き飛ばしてしまっているではないか。今宵さまざまな刺激ですっかり
ベトベトになった背中を新たな汗が流れる。
 ゴミ捨て場の方から音がした。先ほど、同行者を体当たりで追いやったゴミ捨て場から。
 恐る恐るそちらを見る。

 黒い影が今まさに自分めがけ殺到しているところだった。
 同行者。それは女性のようなシルエットを持っていたがそれも分析するヒマあらばこそ。
 胸に何か強い衝撃が走った。上体がどうと揺れ思考が一瞬完全停止した。

 やがて巨大な泣き声が夜空に響き………………………………………………………………静かになった。


 翌日の昼。銀成学園地下。

 ヴィクトリアはまひろを前に眉を顰めていた。