最終話「たった一つだけの」
永井輝明は病室のベッドで、少々退屈していた。
「ヒマだ…何もやる事がないというのが、ここまで苦痛とは…」
「しょうがないでしょ。ゆっくり休まないといけないんだから」
見舞い客用の椅子に座って林檎の皮を剥きながら、都子はそう言う。
とはいえ、左腕と左足に重いギプスの着用を余儀なくされては、少々気が滅入るのも仕方のない事だろう。
全治一ヶ月。リハビリも考えると数ヶ月。
中々に、厳しい現実だった。
(それでも命が助かっただけ、ありがたいと感謝すべきだろうな)
そう、輝明は思った。
「ヒマだ…何もやる事がないというのが、ここまで苦痛とは…」
「しょうがないでしょ。ゆっくり休まないといけないんだから」
見舞い客用の椅子に座って林檎の皮を剥きながら、都子はそう言う。
とはいえ、左腕と左足に重いギプスの着用を余儀なくされては、少々気が滅入るのも仕方のない事だろう。
全治一ヶ月。リハビリも考えると数ヶ月。
中々に、厳しい現実だった。
(それでも命が助かっただけ、ありがたいと感謝すべきだろうな)
そう、輝明は思った。
―――あの事件から、一週間が過ぎていた。
駆け付けた救急隊員に病院へと担ぎ込まれ、治療を受けて。
手術は成功したものの、輝明の意識はしばらく戻らなかった。
その間、都子は輝明の側を一切離れようとしなかった。
あまりにも思い詰めた様子の都子に、医者や看護師、輝明や都子の両親が心配して帰宅を促しても、彼女は頑として
聞き入れず、遂に彼らの黙認を勝ち取った。
そして、輝明が目を覚ましたのは二日後だった。
目を開けた彼が最初に見たのは、泣きながら縋り付いてくる都子の姿。
髪はバサバサで、目の下には真っ黒なクマが出来ていたけど。
そんな彼女を、誰よりも愛しいと思って。
輝明は都子を、無事な右手で、そっと抱き寄せた。
駆け付けた救急隊員に病院へと担ぎ込まれ、治療を受けて。
手術は成功したものの、輝明の意識はしばらく戻らなかった。
その間、都子は輝明の側を一切離れようとしなかった。
あまりにも思い詰めた様子の都子に、医者や看護師、輝明や都子の両親が心配して帰宅を促しても、彼女は頑として
聞き入れず、遂に彼らの黙認を勝ち取った。
そして、輝明が目を覚ましたのは二日後だった。
目を開けた彼が最初に見たのは、泣きながら縋り付いてくる都子の姿。
髪はバサバサで、目の下には真っ黒なクマが出来ていたけど。
そんな彼女を、誰よりも愛しいと思って。
輝明は都子を、無事な右手で、そっと抱き寄せた。
とにかくそれで一件落着、一安心…とはいかなかった。
何だってあんな廃校で、こんな怪我をしていたのか、誤魔化すのが大変だったのだ。
<この世には魔女という存在がいて、そいつにやられたんです>などと事実を語ろうものなら、即座に別の病院へと
移される事は間違いなしだ。
結局、都子と相談し、口裏を合わせて。
<輝明と喧嘩して自暴自棄になった都子が、学校をサボって街の不良達の誘いに乗って遊んでいたら廃校に連れ込まれて
乱暴されそうになって、助けに入った輝明が怪我を負ったものの不良は撃退した>という、一昔前のヤンキー漫画かと
ツッコミたくなるような大嘘を吐く事になった。
何というか、よく考えてみると嘘とも言い切れない辺りが凄かった。
しかして、このありえなさが逆に信憑性を持たせたのか、医者も警察も訝しがりながらも最終的にはそれを信じた。
幼い頃から知っている都子の両親が泣きながら都子を叱りつけ、輝明や輝明の両親に土下座して謝罪したのは流石に
色んな意味で辛かった。
輝明にしてみれば<いや、こっちこそ色々すいません>と逆土下座したかった所である。
何だってあんな廃校で、こんな怪我をしていたのか、誤魔化すのが大変だったのだ。
<この世には魔女という存在がいて、そいつにやられたんです>などと事実を語ろうものなら、即座に別の病院へと
移される事は間違いなしだ。
結局、都子と相談し、口裏を合わせて。
<輝明と喧嘩して自暴自棄になった都子が、学校をサボって街の不良達の誘いに乗って遊んでいたら廃校に連れ込まれて
乱暴されそうになって、助けに入った輝明が怪我を負ったものの不良は撃退した>という、一昔前のヤンキー漫画かと
ツッコミたくなるような大嘘を吐く事になった。
何というか、よく考えてみると嘘とも言い切れない辺りが凄かった。
しかして、このありえなさが逆に信憑性を持たせたのか、医者も警察も訝しがりながらも最終的にはそれを信じた。
幼い頃から知っている都子の両親が泣きながら都子を叱りつけ、輝明や輝明の両親に土下座して謝罪したのは流石に
色んな意味で辛かった。
輝明にしてみれば<いや、こっちこそ色々すいません>と逆土下座したかった所である。
「学校からも、よくお説教と反省文の提出だけで済んだもんだよな」
「うん。正直、停学くらいは覚悟してたけど…日頃の行いがいいからかしらね?」
「自分で言うなよ…というか、本当にあれでよかったのか?もうちょっとどうにか…」
「いいんだよ」
都子は、少し遠い目をした。
「あたしがバカだったせいで、輝明はこんなになっちゃったんだもの…ちょっとはあたしも、泥を被らないと」
「…………」
「あはは…そんな深刻にならないでってば。ほら、剥けたわよ」
皮を綺麗に剥き、食べやすい大きさに切った林檎を爪楊枝に刺して。
照れた笑顔で、輝明の口元に持ってくる。
「はい、あーん」
「…………」
いともたやすく行われる恥ずかしい行為。しかし、大人しく口を開けてしまう辺りは惚れた弱みだ。
赤面しながら、もぐもぐと林檎を咀嚼する。
「うふふ、美味しい?」
「う、うん…」
ただ、まあ。
悪い気なんて、勿論しない―――
都子の顔を見ていた輝明はふと、彼女の変化に気付いた。
「そういや、都子…髪型、変えたのか」
「もう。今頃気づいたの?ホント、鈍感なんだから」
ブー、とふてくされたように口を尖らせながらも、都子の顔は笑っている。
「似合うかな、輝明?」
「ああ…何ていうか、さっぱりしてて格好いいっていうか…」
「うん。正直、停学くらいは覚悟してたけど…日頃の行いがいいからかしらね?」
「自分で言うなよ…というか、本当にあれでよかったのか?もうちょっとどうにか…」
「いいんだよ」
都子は、少し遠い目をした。
「あたしがバカだったせいで、輝明はこんなになっちゃったんだもの…ちょっとはあたしも、泥を被らないと」
「…………」
「あはは…そんな深刻にならないでってば。ほら、剥けたわよ」
皮を綺麗に剥き、食べやすい大きさに切った林檎を爪楊枝に刺して。
照れた笑顔で、輝明の口元に持ってくる。
「はい、あーん」
「…………」
いともたやすく行われる恥ずかしい行為。しかし、大人しく口を開けてしまう辺りは惚れた弱みだ。
赤面しながら、もぐもぐと林檎を咀嚼する。
「うふふ、美味しい?」
「う、うん…」
ただ、まあ。
悪い気なんて、勿論しない―――
都子の顔を見ていた輝明はふと、彼女の変化に気付いた。
「そういや、都子…髪型、変えたのか」
「もう。今頃気づいたの?ホント、鈍感なんだから」
ブー、とふてくされたように口を尖らせながらも、都子の顔は笑っている。
「似合うかな、輝明?」
「ああ…何ていうか、さっぱりしてて格好いいっていうか…」
長くて艶のある黒髪を、頭の上の方で纏めたポニーテール。
―――不意に、思い出した。
自分と都子にとって、計り知れない恩のある、あの魔法少女を。
自分と都子にとって、計り知れない恩のある、あの魔法少女を。
「…佐倉さんに、似てるな」
「うん。実はちょっと意識してる。杏子が知ったら、きっと<あたしの真似なんかすんじゃねー!>って言うだろうけど」
都子は、杏子の照れ隠しに怒ってみせる顔を想像し、苦笑する。
「でも…あたしにとって杏子は、世界で一番カッコよくて、素敵な女の子だから」
「そうか…でもさ」
輝明は、言う。
「都子だって、世界で一番可愛くて、素敵な女の子だよ…少なくとも、俺にとっては」
「…もう。褒めても、何も御褒美なんて出ないわよ」
「はは…うっ…!っ…痛ててっ…!」
不意に身体を刺してくるような疼痛に、呻く。
鎮痛剤は投与されているとはいえ、酷い重傷なのだから、仕方ないだろう。
最初の内は感覚も麻痺していたせいかそんなに痛くなかったのだが、症状が落ち着いてきたおかげで痛覚がまとも
に機能し始めたのかもしれない。
「輝明…!」
「し、心配すんなよ…こんなん、何ともな…つっ…」
強がっても、苦痛が消えるわけではない。
顔を歪める輝明を、都子は気が気でない様子で見守っていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「あのね、輝明…あたし、一つだけ、魔法が使えるのよ」
「え…」
輝明の顔が強張る。
都子はキュゥべえとは契約していない。魔法少女なんかじゃないはずだ。
いや、まさか自分の知らない所で、何かされたのか?
「そんなんじゃないよ…たった一つだけの、ちょっとした、痛み止めの、魔法」
上手くできるか分からないけど、すぐに済むから、ちょっとだけ目を瞑っていてね。
そう言われて、不安がりながらも輝明は目を閉じて。
「うん。実はちょっと意識してる。杏子が知ったら、きっと<あたしの真似なんかすんじゃねー!>って言うだろうけど」
都子は、杏子の照れ隠しに怒ってみせる顔を想像し、苦笑する。
「でも…あたしにとって杏子は、世界で一番カッコよくて、素敵な女の子だから」
「そうか…でもさ」
輝明は、言う。
「都子だって、世界で一番可愛くて、素敵な女の子だよ…少なくとも、俺にとっては」
「…もう。褒めても、何も御褒美なんて出ないわよ」
「はは…うっ…!っ…痛ててっ…!」
不意に身体を刺してくるような疼痛に、呻く。
鎮痛剤は投与されているとはいえ、酷い重傷なのだから、仕方ないだろう。
最初の内は感覚も麻痺していたせいかそんなに痛くなかったのだが、症状が落ち着いてきたおかげで痛覚がまとも
に機能し始めたのかもしれない。
「輝明…!」
「し、心配すんなよ…こんなん、何ともな…つっ…」
強がっても、苦痛が消えるわけではない。
顔を歪める輝明を、都子は気が気でない様子で見守っていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「あのね、輝明…あたし、一つだけ、魔法が使えるのよ」
「え…」
輝明の顔が強張る。
都子はキュゥべえとは契約していない。魔法少女なんかじゃないはずだ。
いや、まさか自分の知らない所で、何かされたのか?
「そんなんじゃないよ…たった一つだけの、ちょっとした、痛み止めの、魔法」
上手くできるか分からないけど、すぐに済むから、ちょっとだけ目を瞑っていてね。
そう言われて、不安がりながらも輝明は目を閉じて。
唇に、柔らかい何かが触れるのを感じた。
思わず目を開けると、これまでにないくらいに密着した都子の顔。
あ、でも。
幼稚園の頃に、同じ事があったっけ。
ままごとで、同年代の中ではおませだった都子が<おでかけのまえはこうするのよ!>とか言って。
子供心に、何だかドキドキしたのを少しだけ覚えている。
うん、そうだ。あれと同じだ。
端的に言うと、キスされた。
唇が、離れる。都子はえへ、とはにかんだように笑う。
「どう?効いた、かな?」
「…うん。痛く、ない」
それはもう。
さっぱり、痛みなんか吹っ飛んだ。
「…すっげえなあ、お前。まるで、魔法少女じゃないか」
それも―――とびっきりの、素敵な魔法だ。
キュゥべえのせいで、魔法という言葉に対しては悪いイメージしかなくなっていたけど。
こんな魔法なら―――あっていい。
「あのさ、都子」
「ん?」
「…効き目がにぶらないように、もう一回」
「えっちー」
そう言いながらも、また二人は顔を近づけて、唇を合わせて―――
あ、でも。
幼稚園の頃に、同じ事があったっけ。
ままごとで、同年代の中ではおませだった都子が<おでかけのまえはこうするのよ!>とか言って。
子供心に、何だかドキドキしたのを少しだけ覚えている。
うん、そうだ。あれと同じだ。
端的に言うと、キスされた。
唇が、離れる。都子はえへ、とはにかんだように笑う。
「どう?効いた、かな?」
「…うん。痛く、ない」
それはもう。
さっぱり、痛みなんか吹っ飛んだ。
「…すっげえなあ、お前。まるで、魔法少女じゃないか」
それも―――とびっきりの、素敵な魔法だ。
キュゥべえのせいで、魔法という言葉に対しては悪いイメージしかなくなっていたけど。
こんな魔法なら―――あっていい。
「あのさ、都子」
「ん?」
「…効き目がにぶらないように、もう一回」
「えっちー」
そう言いながらも、また二人は顔を近づけて、唇を合わせて―――
―――丁度その頃。
病院の向かいにある、雑居ビルの屋上。
一人の少女が胡坐をかきながら、双眼鏡で輝明の病室を覗き込んでいた。
佐倉杏子―――魔法少女。
「…ったく。ちょっくら様子見てやろうと思ったら、随分とお気楽でいいね。やめたやめた、出歯亀なんて。あー、
バカらしいったらありゃしねー!」
杏子は双眼鏡を放り投げた。
懐からう○い棒を取り出し、乱暴に齧り付く。
言動だけ見ると怒っているようだが、実は照れているようだった。
「てゆうか、何だよ、都子のあの髪型!あたしの真似なんかすんじゃねー!」
都子が想像した通りの反応であった。この辺、分かりやすい少女である。
「ったくよー。あのバカップルが!あんな奴ら―――」
精々、末永く幸せにでもなりやがれ。
杏子は、心からそう思った。そう願った。
病院の向かいにある、雑居ビルの屋上。
一人の少女が胡坐をかきながら、双眼鏡で輝明の病室を覗き込んでいた。
佐倉杏子―――魔法少女。
「…ったく。ちょっくら様子見てやろうと思ったら、随分とお気楽でいいね。やめたやめた、出歯亀なんて。あー、
バカらしいったらありゃしねー!」
杏子は双眼鏡を放り投げた。
懐からう○い棒を取り出し、乱暴に齧り付く。
言動だけ見ると怒っているようだが、実は照れているようだった。
「てゆうか、何だよ、都子のあの髪型!あたしの真似なんかすんじゃねー!」
都子が想像した通りの反応であった。この辺、分かりやすい少女である。
「ったくよー。あのバカップルが!あんな奴ら―――」
精々、末永く幸せにでもなりやがれ。
杏子は、心からそう思った。そう願った。
「―――今回は大失敗だったよ。キミのせいでね」
そんな彼女の感傷など知った事ではない、と言いたげな声に振り向くと。
得体の知れないつぶらな瞳で、キュゥべえが佇んでいた。
「…ケッ。文句言われる筋合いはねーよ。あたしはテメェの手下じゃねーんだ」
「まあ、そうだね。今のはキミ達が言う所の八つ当たりさ…まあ、ボクの気持ちも察してくれないかな?折角、アレだけ
の素材を見つけたってのに、パーになっちゃったんだから」
「素材、ね…テメェにとっちゃ、少女なんて道具かよ。で、本当に都子の事は諦めたんだな?」
「正確には、これ以上は彼女に関わっても、利益にはならないだろうからね。大倉都子―――確かに、中々の才能を
秘めていたけど、彼女を魔法少女にするためには、こうなると相当な労力をつぎ込まないといけないだろうからね。
それなら他にもっと楽に契約してくれる少女なんて何人もいる」
そういった子を相手にして数をこなした方がまだマシさ、と平然と語った。
キュゥべえはそれを、悪いなどと欠片も思っていないようだった。
「やれやれ、この任務も疲れるよ。どこかにいないものかなぁ―――この世界の概念そのものを覆す、万能の神にも
成り得る、途方もない才能を秘めた少女が。そんな子がいたら、ボクの全てを懸けて契約してみせるんだけどな」
「いてたまるか、ンなもん―――神様なんか、本当に困った時は助けてくれねえんだからな」
杏子は己の言葉に、苦虫を噛み潰したような表情をした。
何か、思い出したくない過去を想ってしまったような―――そんな顔。
「ま、とにかく。キュゥべえにしてみりゃ大失敗だろうが。たまにはいいさ、こんな物語(ストーリー)も」
そう―――きっと、こんなお話があってもいい。
血腥い魔法少女の世界を垣間見ながらも、愛しい誰かに手を引かれて、平和な日常に戻っていく。
「そんな…普通の少女の物語があったって、いいじゃん」
「ならば、キミはどうするのかな、杏子。魔法少女であるキミの物語は、どうなっているんだい?」
「分かり切った事を訊きやがって。決まってるだろ―――」
得体の知れないつぶらな瞳で、キュゥべえが佇んでいた。
「…ケッ。文句言われる筋合いはねーよ。あたしはテメェの手下じゃねーんだ」
「まあ、そうだね。今のはキミ達が言う所の八つ当たりさ…まあ、ボクの気持ちも察してくれないかな?折角、アレだけ
の素材を見つけたってのに、パーになっちゃったんだから」
「素材、ね…テメェにとっちゃ、少女なんて道具かよ。で、本当に都子の事は諦めたんだな?」
「正確には、これ以上は彼女に関わっても、利益にはならないだろうからね。大倉都子―――確かに、中々の才能を
秘めていたけど、彼女を魔法少女にするためには、こうなると相当な労力をつぎ込まないといけないだろうからね。
それなら他にもっと楽に契約してくれる少女なんて何人もいる」
そういった子を相手にして数をこなした方がまだマシさ、と平然と語った。
キュゥべえはそれを、悪いなどと欠片も思っていないようだった。
「やれやれ、この任務も疲れるよ。どこかにいないものかなぁ―――この世界の概念そのものを覆す、万能の神にも
成り得る、途方もない才能を秘めた少女が。そんな子がいたら、ボクの全てを懸けて契約してみせるんだけどな」
「いてたまるか、ンなもん―――神様なんか、本当に困った時は助けてくれねえんだからな」
杏子は己の言葉に、苦虫を噛み潰したような表情をした。
何か、思い出したくない過去を想ってしまったような―――そんな顔。
「ま、とにかく。キュゥべえにしてみりゃ大失敗だろうが。たまにはいいさ、こんな物語(ストーリー)も」
そう―――きっと、こんなお話があってもいい。
血腥い魔法少女の世界を垣間見ながらも、愛しい誰かに手を引かれて、平和な日常に戻っていく。
「そんな…普通の少女の物語があったって、いいじゃん」
「ならば、キミはどうするのかな、杏子。魔法少女であるキミの物語は、どうなっているんだい?」
「分かり切った事を訊きやがって。決まってるだろ―――」
杏子の姿が、瞬時に切り替わる。
真紅にして深紅、赤色にして朱色。
魔女を狩る、魔法少女へ。
真紅にして深紅、赤色にして朱色。
魔女を狩る、魔法少女へ。
「魔法少女に安息なんてない―――逃走も赦されない。永遠の闘争だけが、魔法少女(あたし)の物語だ」
それじゃあ今日も、魔女退治といきますか―――
佐倉杏子は地面を蹴って、空へ舞う。
過ぎ去った<普通の少女>としての日々に。
もしかしたらあったのかもしれない未来に。
僅かに想いを馳せながら。
佐倉杏子は地面を蹴って、空へ舞う。
過ぎ去った<普通の少女>としての日々に。
もしかしたらあったのかもしれない未来に。
僅かに想いを馳せながら。
普通の少女は、日常へ。
魔法の少女は、戦場へ。
一度は交錯した二人の少女の道は、再び分かれて元へと戻る。
もう二度と、その道が交わる事はないだろうけど。
せめて、二人のこれからに、夢と希望があらん事を。
魔法の少女は、戦場へ。
一度は交錯した二人の少女の道は、再び分かれて元へと戻る。
もう二度と、その道が交わる事はないだろうけど。
せめて、二人のこれからに、夢と希望があらん事を。
―――全ての少女に、花束を―――