「ユーコスラッシュ!」
優子得意の、腕を振り出して撃つ衝撃波が刃牙を襲う。
この衝撃波、確かに当たればなかなかのダメージになりそうだが、ガードしてしまえば
大したことはない。最初は面食らったが、心構えをして受ければ怖くない攻撃だ。
考えてみれば、接近戦が苦手だから、怖いから、距離を取ってこんな攻撃を
しているのかもしれない。ならば、多少のダメージは覚悟で間合いを詰めるべき。
刃牙はガードを固めて走った。スラッシュを受けて、受けて、受けながら前進する。
「……そうきたか」
と呟いて、優子も攻め手を変えた。
といっても、やはり撃つことは撃つ。ただ、意図的に遅めのものを撃って、
撃った後、自分自身が衝撃波を追いかけて走ったのだ。
つまり、刃牙に向かって真っ直ぐに向かってくることになる。
「え? じ、自分から間合いを詰める?」
接近戦を嫌っているとばかり思っていた刃牙は、戸惑いながらもとりあえず、
衝撃波をガードした。もうこのダメージは平気だが、それでもやはり重さはあるから、
受け止めた瞬間はどうしても硬直してしまう。
その硬直の瞬間に、優子が踏み込んで来た。ギリギリで硬直から開放された刃牙は
迎撃しようとしたのだが、いきなり優子が不自然に加速した。まるで刃牙に、
強烈な勢いで吸い込まれたかのように。
いや、加速というのは正確ではない。これは瞬間移動だ、明らかに。
「何だっっ?」
刃牙は目を見張ったが、その目に優子は映らない。どこに? と思ったその時には、
優子は後ろから刃牙を抱きしめていた。
その、あまり豊かではない胸を刃牙の背に押し付けて、両腕を刃牙の腹の辺りに
回して組み合わせ、一気に持ち上げ、そして後方に落とす!
「ユーコジャーマンっ!」
豪快なジャーマンスープレックス。刃牙の頭部が地面(もちろんコンクリ)に激突し、
かなりいい音がした。
優子はすぐさま刃牙を放して立ち上がり、油断無く間合いをとった。
「飛び道具と対空技の【待ち】。飛び道具を追いかける【攻め】。遥か昔、私たちの
界隈で猛威を振るった、あるアメリカ軍人を始祖とする二大戦法よ」
「……」
常人なら最低でも気絶、そして重傷を負っているところだが、刃牙は刃牙なので
立ち上がった。とはいえ流石に、このダメージは小さいとは言い難い。
優子とその仲間&ライバルたち、あるいは刃牙の父親ならともかく、刃牙は
彼らほど人間離れした存在ではないのだ。
「さっきの……投げに入る直前の、不自然な加速は……?」
「不自然? 投げ技なんだから、間合いに入って発動したら、互いの位置関係が
どうあれ投げグラに入るのは当たり前でしょ。私なんかは投げキャラじゃないから、
特に間合いが広いわけでもないし。そう理不尽な吸い込みじゃないと思うけど」
優子が何を言っているのか、刃牙には全くわからない。ただ、彼女にとっては
あの瞬間移動は当然のことらしい。
腕や脚を振れば衝撃波、投げを仕掛ければ瞬間移動。人間業とは思えない。
すなわち優子が人間だとは思えない。刃牙は本気で、そう思った。
だが、それでも。
「……勝てる」
一言、呟いた。その言葉は優子の耳に届き、優子の眉をぴくりと動かす。
「ふうん? 一方的にやられておきながら、大したお言葉ね。技を食らいながら、
私の弱点を見つけたとでも?」
「ああ、そうだよ。致命的なのを二つ見つけた」
二つ、と言って刃牙は指を二本立てた。Vサインだ。
「細かな動き、間合いの取り方、呼吸のリズムに気迫に……そういったもの
から、読み取れたんだ。会長の苦手とすることがね。確かに会長は強いけど、
世界中を武者修行した俺とは、経験が違うってことだな」
確かな自信を込めた目で、刃牙は優子を見据える。
刃牙の武者修行については、優子は調査済みなのでもちろん知っている。刃牙の
格闘経験が、自分のそれを遥かに上回っていることも。
とすれば、刃牙の言っていることはハッタリではなさそうだ。
「私の弱点、ね。けど、それが解ったとしても、はたして突けるかしら?
攻防、遠近、全てにおいての隙の無さこそが私の強さ。弱点があったとしても、
私に触れられなければ無意味よ」
「そこがまず、第一の弱点さ。触れてみせる。予言しておくけど、次の一撃を
会長は必ず食らうよ。それでKOってことはないにしろ、少なくとも回避は不可能」
「そう。だったら、やってもらおうかしら!」
優子はスラッシュを放ち、それを追いかけて走った。これを刃牙がガードすれば、
硬直したところに組み付いて投げ、もしくは脚払い。刃牙が食らえば、のけぞった
ところに連続攻撃を叩き込む。
刃牙にも飛び道具があれば相殺という手段も使えようが、それがないことは
調査済み。出がかりが無敵の技もないし、テレポートできるような技もない。
私に弱点などないっ! と確信して優子は走る。その目の前で刃牙が、
「こうだっ!」
横に跳んだ。スラッシユは一瞬前まで刃牙がいた空間を通り過ぎ、屋上の鉄柵を越えて
彼方へと飛んでいった。スラッシュを追いかけていた優子は急ブレーキをかける。
そこへ、横合いから刃牙が突っ込んできた。全力疾走から跳び、空中で横回転して、
体重以上の勢いをたっぷり乗せた、ダッシュローリングソバットが優子に命中!
腕でのガードは辛うじて間に合ったものの、体勢が不安定だった為に受けきれず、
170センチにして40キロという細く軽い優子の体は、ひとたまりもなく飛ばされた。
「ぐっ……!」
優子は何とか体勢を整え、足から着地できた。が、腕が軽く痺れている。侮っていた
つもりはないが、刃牙の攻撃力、流石というべきか。
だが刃牙本人が、優子に評価してもらいたいのはそこではない。得意そうに指を立てて、
刃牙は優子に言った。
「弱点その1。理由はわからないけど、会長は横からの攻撃に弱い。多分、
慣れてないんじゃないかな。攻防が対正面に特化してるように思えるよ。
フットワークなんか、ほとんど前後移動ばっかり」
『な、慣れてないも何も……真横からの攻撃なんて、そもそも存在しないんだもん私たち……』
思わず心中でグチというか弱音を漏らす優子。だがこれは、対応できない問題ではない。
ぶん、と両腕を振って痺れを散らして、改めて構えなおした。
「なるほど、確かにそれは私の弱点だわ。けど、体の向きを90度変えてしまえば、
横からの攻撃は正面からの攻撃になる。今はちょっと驚いてしまったけど、
次はないわよ」
「だろうね。けど、次で終わるよ。弱点その2は、一撃必殺。今度は必中とは言わないけど、
もし当たれば、それで決着だ。会長は俺にKOされる。つまり、俺が勝つ」
優子得意の、腕を振り出して撃つ衝撃波が刃牙を襲う。
この衝撃波、確かに当たればなかなかのダメージになりそうだが、ガードしてしまえば
大したことはない。最初は面食らったが、心構えをして受ければ怖くない攻撃だ。
考えてみれば、接近戦が苦手だから、怖いから、距離を取ってこんな攻撃を
しているのかもしれない。ならば、多少のダメージは覚悟で間合いを詰めるべき。
刃牙はガードを固めて走った。スラッシュを受けて、受けて、受けながら前進する。
「……そうきたか」
と呟いて、優子も攻め手を変えた。
といっても、やはり撃つことは撃つ。ただ、意図的に遅めのものを撃って、
撃った後、自分自身が衝撃波を追いかけて走ったのだ。
つまり、刃牙に向かって真っ直ぐに向かってくることになる。
「え? じ、自分から間合いを詰める?」
接近戦を嫌っているとばかり思っていた刃牙は、戸惑いながらもとりあえず、
衝撃波をガードした。もうこのダメージは平気だが、それでもやはり重さはあるから、
受け止めた瞬間はどうしても硬直してしまう。
その硬直の瞬間に、優子が踏み込んで来た。ギリギリで硬直から開放された刃牙は
迎撃しようとしたのだが、いきなり優子が不自然に加速した。まるで刃牙に、
強烈な勢いで吸い込まれたかのように。
いや、加速というのは正確ではない。これは瞬間移動だ、明らかに。
「何だっっ?」
刃牙は目を見張ったが、その目に優子は映らない。どこに? と思ったその時には、
優子は後ろから刃牙を抱きしめていた。
その、あまり豊かではない胸を刃牙の背に押し付けて、両腕を刃牙の腹の辺りに
回して組み合わせ、一気に持ち上げ、そして後方に落とす!
「ユーコジャーマンっ!」
豪快なジャーマンスープレックス。刃牙の頭部が地面(もちろんコンクリ)に激突し、
かなりいい音がした。
優子はすぐさま刃牙を放して立ち上がり、油断無く間合いをとった。
「飛び道具と対空技の【待ち】。飛び道具を追いかける【攻め】。遥か昔、私たちの
界隈で猛威を振るった、あるアメリカ軍人を始祖とする二大戦法よ」
「……」
常人なら最低でも気絶、そして重傷を負っているところだが、刃牙は刃牙なので
立ち上がった。とはいえ流石に、このダメージは小さいとは言い難い。
優子とその仲間&ライバルたち、あるいは刃牙の父親ならともかく、刃牙は
彼らほど人間離れした存在ではないのだ。
「さっきの……投げに入る直前の、不自然な加速は……?」
「不自然? 投げ技なんだから、間合いに入って発動したら、互いの位置関係が
どうあれ投げグラに入るのは当たり前でしょ。私なんかは投げキャラじゃないから、
特に間合いが広いわけでもないし。そう理不尽な吸い込みじゃないと思うけど」
優子が何を言っているのか、刃牙には全くわからない。ただ、彼女にとっては
あの瞬間移動は当然のことらしい。
腕や脚を振れば衝撃波、投げを仕掛ければ瞬間移動。人間業とは思えない。
すなわち優子が人間だとは思えない。刃牙は本気で、そう思った。
だが、それでも。
「……勝てる」
一言、呟いた。その言葉は優子の耳に届き、優子の眉をぴくりと動かす。
「ふうん? 一方的にやられておきながら、大したお言葉ね。技を食らいながら、
私の弱点を見つけたとでも?」
「ああ、そうだよ。致命的なのを二つ見つけた」
二つ、と言って刃牙は指を二本立てた。Vサインだ。
「細かな動き、間合いの取り方、呼吸のリズムに気迫に……そういったもの
から、読み取れたんだ。会長の苦手とすることがね。確かに会長は強いけど、
世界中を武者修行した俺とは、経験が違うってことだな」
確かな自信を込めた目で、刃牙は優子を見据える。
刃牙の武者修行については、優子は調査済みなのでもちろん知っている。刃牙の
格闘経験が、自分のそれを遥かに上回っていることも。
とすれば、刃牙の言っていることはハッタリではなさそうだ。
「私の弱点、ね。けど、それが解ったとしても、はたして突けるかしら?
攻防、遠近、全てにおいての隙の無さこそが私の強さ。弱点があったとしても、
私に触れられなければ無意味よ」
「そこがまず、第一の弱点さ。触れてみせる。予言しておくけど、次の一撃を
会長は必ず食らうよ。それでKOってことはないにしろ、少なくとも回避は不可能」
「そう。だったら、やってもらおうかしら!」
優子はスラッシュを放ち、それを追いかけて走った。これを刃牙がガードすれば、
硬直したところに組み付いて投げ、もしくは脚払い。刃牙が食らえば、のけぞった
ところに連続攻撃を叩き込む。
刃牙にも飛び道具があれば相殺という手段も使えようが、それがないことは
調査済み。出がかりが無敵の技もないし、テレポートできるような技もない。
私に弱点などないっ! と確信して優子は走る。その目の前で刃牙が、
「こうだっ!」
横に跳んだ。スラッシユは一瞬前まで刃牙がいた空間を通り過ぎ、屋上の鉄柵を越えて
彼方へと飛んでいった。スラッシュを追いかけていた優子は急ブレーキをかける。
そこへ、横合いから刃牙が突っ込んできた。全力疾走から跳び、空中で横回転して、
体重以上の勢いをたっぷり乗せた、ダッシュローリングソバットが優子に命中!
腕でのガードは辛うじて間に合ったものの、体勢が不安定だった為に受けきれず、
170センチにして40キロという細く軽い優子の体は、ひとたまりもなく飛ばされた。
「ぐっ……!」
優子は何とか体勢を整え、足から着地できた。が、腕が軽く痺れている。侮っていた
つもりはないが、刃牙の攻撃力、流石というべきか。
だが刃牙本人が、優子に評価してもらいたいのはそこではない。得意そうに指を立てて、
刃牙は優子に言った。
「弱点その1。理由はわからないけど、会長は横からの攻撃に弱い。多分、
慣れてないんじゃないかな。攻防が対正面に特化してるように思えるよ。
フットワークなんか、ほとんど前後移動ばっかり」
『な、慣れてないも何も……真横からの攻撃なんて、そもそも存在しないんだもん私たち……』
思わず心中でグチというか弱音を漏らす優子。だがこれは、対応できない問題ではない。
ぶん、と両腕を振って痺れを散らして、改めて構えなおした。
「なるほど、確かにそれは私の弱点だわ。けど、体の向きを90度変えてしまえば、
横からの攻撃は正面からの攻撃になる。今はちょっと驚いてしまったけど、
次はないわよ」
「だろうね。けど、次で終わるよ。弱点その2は、一撃必殺。今度は必中とは言わないけど、
もし当たれば、それで決着だ。会長は俺にKOされる。つまり、俺が勝つ」