SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 鬼と人のワルツ43-1


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同刻
「甘味処たちばな」と書かれた店にて。

(「たちばな」といっても変な藻の浮いた水槽に浮かべられた人や、天下を取るといって剣道を徹底的にコケにした人とは関係がまったくないことをここに明記しておきたい。)

「今日もお疲れ様」
猛士の隠れ支部に帰った響鬼は返し扉の奥にある分析室へと向かった。
今日見た魔化魍の様子がおかしかったからだ。
「どうしたの?何か気になることでもあったの?」
「いや、今日戦ったオオカマキリね、普通の奴より大きかったんだよ。それに大きさの割には脆過ぎたんだ」
「脆過ぎたってのは別にいいけれど、大きかったというのは問題ね、見てみようか」
響鬼はおもむろに円盤状の物体を取り出しテレビにつないだ。
「お、今回のディスクアニマルはよく撮れてますね、みどりさん」
「カメラの接続をちょっといじってみたのよ」
みどりとよばれた女性がテレビのリモコンを取り上げながら言う。

ちなみにディスクアニマルというのはCD大の円盤型からいろいろな動物を模した姿に変形し、攻撃や情報収集などを行う鬼のサポート用の小型ロボットである。
式鬼と呼ばれていた呪術と科学技術の融合した猛士の独自技術の一つであり、音撃武器と相まって鬼の主力武器となっている。
そのかわいらしさにも定評がある。

映像が始まり、穴に潜むオオカマキリの姿が映し出された。
それを見ていた二人の表情が次第に凍り付いていく。
「うそでしょう?」
カマキリの発見から、響鬼の戦闘終了までを記録した映像である。
当然、刃牙の姿もある。
己を鍛え、鬼となって戦う者と、それを影で支える者。
魔化魍という巨大な化け物と日夜戦う者達の目に刃牙の姿はどう映ったか?

「素手で…」
「この子は本当に人間?」
「間違いないけど…なんだか怪しく見えてくるな」
「見てよ、チョップで首を切っちゃった」

のれんを開けて壮年の男が入ってくる。
「おお、響鬼、帰ってたのか」
男がテレビを覗き込んだ。
「ああ、オヤッサン、御苦労様です」
「その生身で戦っているのは…?」
「見てください、この少年すごいんですよ」

もう一度巻き戻して刃牙が戦うところを映し、ところどころに響鬼が解説を入れた。
「オヤッサン、どう見ます?」
「どう見るというより、あれだな、この少年、スカウトできないか?」
「この少年を鬼に?」
「うむ」

さて、猛士というのは特殊公務員の一種であるとは云え、基本的に秘密組織である。
魔化魍の存在を現代社会でつまびらかにするわけにはいかないため、実際に被害にあった人間及びその関係者のみにしか猛士の存在が伝えられない。
結果として猛士という組織に入る人間の数は極めて限定される。
全国的にネットワークが広まっているとはいえ、あくまで草の根レベルのネットワークであり、協力者たる「歩」となるものに留まるのが一般的なのだ。
まして戦闘要員たる「角」すなわち鬼になる人間は少なくなる一方だ。
相撲取りになる人間が減っているのと同じである。

「なってくれるでしょうか?」
「わからないが、人を助けに降りてきたところからみて正義感はあると思う、戸田山の例もあるしな、なにより」
「なにより強いわね。少し訓練すれば直ぐに鬼になれそうなぐらい」
かぶせるようにみどりが言った。響鬼はすこし微妙な表情をした。
「直ぐになれるような、そんな甘いもんじゃないけど…」
しかし刃牙の強さが本物であることは、映像を通して見てもよくわかった。
貴重な人材であることは間違いない。
「みどりさん、彼を送っていった人に住所を控えてもらったと思うんだ」
「わかった、連絡しておくよう香須美に伝えておくわ」

「しかし、生身でここまでできる人間がいるなんてねぇ」
「どこかの国が秘密裏に生み出した改造人間だったりして、オリンピック対策に」
「おいおい、みどりさん。映画の見すぎですよ」
「いや、わかんないわよ」

そんな会話をしながら響鬼には一つ気になることを見つけた。
なぜ笑っているんだ?
ということだ。
映像からははっきりとした表情はわからない。
だが少年-刃牙-が笑っていると直感した。
初めはそうではなかった、戦況が悪くなるにつれ刃牙の口元が緩んでいくようにみえた。
追い詰められ、響鬼が戦いの中に飛び込む寸前の刃牙の顔はガードする腕に隠れていた。
その刃牙を見て、ぞくり、と冷たい何かが背筋を走った。
確信があった。笑っている。
この絶望的な状況下で何故笑っているのか、おかしくなっていたようには見えなかった。
この少年には何かある。

不安を声に出してみた。
「随分楽しそうに戦うなぁ、この少年」
「そうかな?」
戦闘員ではないからか、みどりにはわからないようだ。
だがオヤッサンこと立花勢地郎には感じるところがあったようだ。
「ふむ、戦いが楽しいんじゃないかな」
「どういうことです、オヤッサン?」
「たまにいるんだよ、死線っていうのかな…それを超えるのが好きな連中がね」
なんでもないことのようにそういうと、勢地郎は腰を上げた。
「それじゃあ、スカウトの方、よろしく」
勢地郎は甚平の袖を翻して店の方に戻っていった。
今日は団子がよく売れているようだ、響鬼は勢地郎が置いていったみたらし団子に大口を開けてかぶりついた。