刃牙の困惑の重さが1000トンになった。100トンハンマーの10倍だ。これは重い。
「…………それはイタリアンジョークですか?」
「どうしてイタリアが出てくるのか興味は尽きないけど、とりあえず置いておくわね。
範馬君、まさか女の子を殴るなんてできませんとか言わないでしょうね?」
「いや、そこは『まさか女の子を殴れるなんていわないでしょうね』だと思うんですけど」
「普通はそうかもしれないけど、あなたは格闘キャラでしょ」
「キャ、キャラ? とにかく俺は女の子を殴ったことなんてないし、これからも
するつもりはないし、だから当然、会長だって殴れませんよ」
と刃牙が言うと、会長はちょっと冷めた顔になった。
「ふぅん。それは困ったわね。それじゃあ使えないわ」
「使えるも使えないも、俺の過去を調べたのなら知ってるんでしょう? 俺が何の為に
格闘技をやってるのか、俺の目標が何なのか、俺が打倒したいのは誰なのか」
力説する刃牙に、会長は冷ややかな声で応じる。
「男と生まれたからには、誰でも一生に一度は夢見る『地上最強の男』。グラップラーとは、
地上最強の男を目指す、格闘士のことである……なんて言葉があるんだけど。
範馬君だって、男の子なんだから憧れてるんでしょう? 地上最強に」
「それは、もちろん」
「だったら、私ぐらい倒してみなさいよ。できないの? それなら降参で不戦敗よ」
「いいですよ。会長がそう思うんなら、そう思ってくれて結構です」
ちょっとカチンときたので、刃牙の声にトゲが生える。
会長は溜息をつき、やれやれと首を振って、
「ガンコねえ。やっぱり、理屈ではわかってくれないか。だったら実力行使と
いきますか。体で痛みを感じれば、嫌でも理解するでしょ。ま、理解した時には
既にKOされてる、ってことになるかもしれないけどね」
会長は不敵な笑みを浮かべた。
その溢れる自信が、刃牙の中の警戒センサーに反応した。どう見ても会長の
体格は格闘技をやってる人間のそれではないし、歩くその動きを見ても、
武道の心得などがあるとは思えない。だが、まるっきりの一般人とは何か違う。
この奇妙な気配、異常な胸騒ぎに刃牙が戸惑っていると、
「いくわよ範馬君」
会長は、まるで舞踏のように優雅な動きで、右腕を水平に後ろに引いた。
すっ……と音の聞こえそうな、綺麗な動作だ。
そしてその腕を、刃牙ですら目にも止まらぬ速度で振った。前方、つまり刃牙に向かって。
「ユーコスラアアアアァァッシュ!」
裂帛の気合と共に生じた衝撃波が刃牙を襲う!
「っ!?」
刃牙は咄嗟に、本能的に両腕を構えて防御姿勢をとった。その腕に衝撃波が当たって、
刃牙の体を後方にずらす。
吹っ飛ばされるというほどのものではないが、もし今、ぼーっと突っ立っててまともに
腹や胸に受けていたら、軽いダメージでは済まなかっただろう。
「な、なんだこれは?」
「ほらほら! ボサッとしてると、そのまま削り殺すわよっ!」
普段の上品な様子はどこへやら、会長は挑発的に声を張り上げて、衝撃波を
連続して撃ち出してきた。
刃牙のガードの上に、重い打撃が何度も何度も叩きつけられてくる。確かにこのままでは、
いずれ体力を削り取られ、ガードが弾かれるだろう。そしてまともにくらえば、KOもあり得る。
「くっ!」
このままじっとしてたら本当にやられてしまう。刃牙はガードを解き、
唸りを上げて飛んで来る衝撃波の上に跳んだ。
もちろん、真上に高跳びをしたわけではない。前方への幅跳びだ。衝撃波を越えて、
そのまま会長の頭上へと向かう。不本意だがこのまま(手加減して)脳天か延髄に
一撃食らわせ、気絶させようと思ったのだが、
「甘いっ!」
刃牙が跳び込んで来るのを読んでいたのか、会長は既に身を沈めていた。
姿勢を低くしてやり過ごすつもりかと思いきや、そこから勢いよく伸び上がって
高く跳び上がり、その長い脚をフルに使った、豪快な内回し蹴りを刃牙に食らわせる!
「ユーコインテレクチュアルっ!」
この蹴りにも厚い衝撃波が纏われており、刃牙は会長の足に接触していないのに
充分な重さの打撃を食らい、今度はガードしていなかったので結構なダメージを受け、
見事に吹っ飛んだ。
軽い脳震盪と何が何だかの混乱とで受身も取れず、コンクリートの地面に叩きつけられる。
「ぅぐっ……!」
「この程度なの、範馬君? だとしたら期待ハズレもいいとこなんだけど」
華麗に着地した会長が、見下した態度で言った。
刃牙を怒らせる為の挑発なのか、それとも本気なのか掴みづらい顔と声だ。
つまり、本気で刃牙を見下している可能性ありなわけで。
「まあ、これはちょっとロコツな【待ち】だけどね。でも世の中には、待ちハメなんでも
遠慮なしって輩もいるから。初心者にはキツイと思うけど、これぐらいは対応してもらわないと」
「……参ったな」
刃牙は立ち上がった。
「初心者、なんて言われちゃあ、な。しかも、どうやら本気でやらないとやられそうな強さを、
見せられちまった。悪かったよ会長。女の子だからって甘く見て……ナメてたこと、謝る」
「解ってくれたならいいわよ」
会長は、ぐっと拳を握って微笑んだ。
「私たちの界隈じゃあ、男女のキャラ差なんてないからね。一切の遠慮は無用、
本気でかかってきて。私も本気でやらせてもらうから」
刃牙が構える。表情を引き締めて、気迫を込めて。
その刃牙を見て、会長はいよいよ嬉しそうな顔になる。根っから、戦うのが好きな人種の顔だ。
「いいわ、範馬君。あなたに見せてあげる。私の本気を、この榊原優子の力を、
とくと見せてあげるっっ!」
「…………それはイタリアンジョークですか?」
「どうしてイタリアが出てくるのか興味は尽きないけど、とりあえず置いておくわね。
範馬君、まさか女の子を殴るなんてできませんとか言わないでしょうね?」
「いや、そこは『まさか女の子を殴れるなんていわないでしょうね』だと思うんですけど」
「普通はそうかもしれないけど、あなたは格闘キャラでしょ」
「キャ、キャラ? とにかく俺は女の子を殴ったことなんてないし、これからも
するつもりはないし、だから当然、会長だって殴れませんよ」
と刃牙が言うと、会長はちょっと冷めた顔になった。
「ふぅん。それは困ったわね。それじゃあ使えないわ」
「使えるも使えないも、俺の過去を調べたのなら知ってるんでしょう? 俺が何の為に
格闘技をやってるのか、俺の目標が何なのか、俺が打倒したいのは誰なのか」
力説する刃牙に、会長は冷ややかな声で応じる。
「男と生まれたからには、誰でも一生に一度は夢見る『地上最強の男』。グラップラーとは、
地上最強の男を目指す、格闘士のことである……なんて言葉があるんだけど。
範馬君だって、男の子なんだから憧れてるんでしょう? 地上最強に」
「それは、もちろん」
「だったら、私ぐらい倒してみなさいよ。できないの? それなら降参で不戦敗よ」
「いいですよ。会長がそう思うんなら、そう思ってくれて結構です」
ちょっとカチンときたので、刃牙の声にトゲが生える。
会長は溜息をつき、やれやれと首を振って、
「ガンコねえ。やっぱり、理屈ではわかってくれないか。だったら実力行使と
いきますか。体で痛みを感じれば、嫌でも理解するでしょ。ま、理解した時には
既にKOされてる、ってことになるかもしれないけどね」
会長は不敵な笑みを浮かべた。
その溢れる自信が、刃牙の中の警戒センサーに反応した。どう見ても会長の
体格は格闘技をやってる人間のそれではないし、歩くその動きを見ても、
武道の心得などがあるとは思えない。だが、まるっきりの一般人とは何か違う。
この奇妙な気配、異常な胸騒ぎに刃牙が戸惑っていると、
「いくわよ範馬君」
会長は、まるで舞踏のように優雅な動きで、右腕を水平に後ろに引いた。
すっ……と音の聞こえそうな、綺麗な動作だ。
そしてその腕を、刃牙ですら目にも止まらぬ速度で振った。前方、つまり刃牙に向かって。
「ユーコスラアアアアァァッシュ!」
裂帛の気合と共に生じた衝撃波が刃牙を襲う!
「っ!?」
刃牙は咄嗟に、本能的に両腕を構えて防御姿勢をとった。その腕に衝撃波が当たって、
刃牙の体を後方にずらす。
吹っ飛ばされるというほどのものではないが、もし今、ぼーっと突っ立っててまともに
腹や胸に受けていたら、軽いダメージでは済まなかっただろう。
「な、なんだこれは?」
「ほらほら! ボサッとしてると、そのまま削り殺すわよっ!」
普段の上品な様子はどこへやら、会長は挑発的に声を張り上げて、衝撃波を
連続して撃ち出してきた。
刃牙のガードの上に、重い打撃が何度も何度も叩きつけられてくる。確かにこのままでは、
いずれ体力を削り取られ、ガードが弾かれるだろう。そしてまともにくらえば、KOもあり得る。
「くっ!」
このままじっとしてたら本当にやられてしまう。刃牙はガードを解き、
唸りを上げて飛んで来る衝撃波の上に跳んだ。
もちろん、真上に高跳びをしたわけではない。前方への幅跳びだ。衝撃波を越えて、
そのまま会長の頭上へと向かう。不本意だがこのまま(手加減して)脳天か延髄に
一撃食らわせ、気絶させようと思ったのだが、
「甘いっ!」
刃牙が跳び込んで来るのを読んでいたのか、会長は既に身を沈めていた。
姿勢を低くしてやり過ごすつもりかと思いきや、そこから勢いよく伸び上がって
高く跳び上がり、その長い脚をフルに使った、豪快な内回し蹴りを刃牙に食らわせる!
「ユーコインテレクチュアルっ!」
この蹴りにも厚い衝撃波が纏われており、刃牙は会長の足に接触していないのに
充分な重さの打撃を食らい、今度はガードしていなかったので結構なダメージを受け、
見事に吹っ飛んだ。
軽い脳震盪と何が何だかの混乱とで受身も取れず、コンクリートの地面に叩きつけられる。
「ぅぐっ……!」
「この程度なの、範馬君? だとしたら期待ハズレもいいとこなんだけど」
華麗に着地した会長が、見下した態度で言った。
刃牙を怒らせる為の挑発なのか、それとも本気なのか掴みづらい顔と声だ。
つまり、本気で刃牙を見下している可能性ありなわけで。
「まあ、これはちょっとロコツな【待ち】だけどね。でも世の中には、待ちハメなんでも
遠慮なしって輩もいるから。初心者にはキツイと思うけど、これぐらいは対応してもらわないと」
「……参ったな」
刃牙は立ち上がった。
「初心者、なんて言われちゃあ、な。しかも、どうやら本気でやらないとやられそうな強さを、
見せられちまった。悪かったよ会長。女の子だからって甘く見て……ナメてたこと、謝る」
「解ってくれたならいいわよ」
会長は、ぐっと拳を握って微笑んだ。
「私たちの界隈じゃあ、男女のキャラ差なんてないからね。一切の遠慮は無用、
本気でかかってきて。私も本気でやらせてもらうから」
刃牙が構える。表情を引き締めて、気迫を込めて。
その刃牙を見て、会長はいよいよ嬉しそうな顔になる。根っから、戦うのが好きな人種の顔だ。
「いいわ、範馬君。あなたに見せてあげる。私の本気を、この榊原優子の力を、
とくと見せてあげるっっ!」