鮮血の泉と屍の山。
向かい合う少女と男。
夜の世界に足を踏み出したばかりの、産まれ立ての始祖。
想像もつかない程に永い夜を歩んできた、古き吸血鬼。
太陽に背を向けた二匹の獣が、出会った。
向かい合う少女と男。
夜の世界に足を踏み出したばかりの、産まれ立ての始祖。
想像もつかない程に永い夜を歩んできた、古き吸血鬼。
太陽に背を向けた二匹の獣が、出会った。
「さて。僕が何者なのか、何故ここに来たのか…君はあまり興味がないようだけど、一応は説明しておこうか」
「…一応、聞こうかしら」
「うむ。先も言った通り、僕は可愛い女の子の味方さ!…いや、悪い。そんな冷たい目で見ないでくれ。マジな話
をすると、別にそんな大物ってわけじゃない。ちょっとばかり長生きしただけの、どこにでもいそうな吸血鬼さ」
どこまで信じていいものか、彼はそう嘯く。
「そんな僕がどうしてこんな所にいるかといえば、胡散臭い連中が<ロンギヌスの槍>を手に入れたとか、風の噂
で聞いたもんで、ちょっかいをかけに来ただけ…のはずだったんだが…まさかこんな事になってるとは、思っても
みなかった」
呆れたとも感心したとも取れる顔つきで、男は嘆息する。
「本当に驚いたよ…こんな偽物の<槍>で、始祖が…それも、これほどの力を有した始祖が誕生するとはね」
「…にせ、もの…?」
「ああ。真っ赤な偽物だよ」
男はそう繰り返した。
「<ロンギヌスの槍>。偉大なる始祖が一人<典司ソロモン>が創り出した禁断にして禁忌の魔具…人為的に始祖
を産み出す禁術…」
「それが…ロンギヌスの槍…?」
そうとも、と彼は首肯する。
「そんな本物の<ロンギヌスの槍>を、この程度の連中が…小説で例えるなら話の都合で出さなきゃならないから
くらいの理由で登場した、ロクに設定もない薄っぺらい雑魚キャラに手にできるもんか。本物を手に入れるとした
ら、余程の後ろ盾を持つ巨大組織か、もしくは絶大な財力と権力を手にした何者か…ま、それはそうと」
男は、床に落ちていた<ロンギヌスの槍>を手に取り、しげしげと眺める。
「うん。やっぱり偽物だ。ロクな魔力も込められちゃいないな…どっかの逸れ者が、遊び半分に作って放り出した
のか…まあ、こんな贋作の事なんてどうでもいい。それよりは君だよ、君」
<槍>を放り投げた男は、レミリアに視線を移した。
「ふむ。どう解釈したらいいのかなあ、これは…<ロンギヌスの槍>はどう見ても偽物なのに、それに貫かれた君
は紛れもなく<始祖>となった…んー。どうしよう。このパターンは正直、まるで予想してなかったぞ。あーあ、
始祖と謁見すると分かってたなら、もっと上等な<端末>で来たのに。しくじったなぁ」
彼は意味の分からない言葉をぼやきながら。
不意に、レミリアに対して諭すような口調で語りかける。
「…あのね、お嬢ちゃん。始祖ってのは本来、世界に望まれて産まれるんだよ」
「世界に…望まれて?」
「そう。言葉だけで説明してもピンと来ないだろうけど―――世界はね、意志を持っているんだ。そして時に変革
を求める。新たな風を求めるんだ―――これを仮に<脈動>と呼ぼうか。そんな世界の意志と、誰かの強い想い
が、願いが合致した時…ただしく、その瞬間に、その<人間>は世界によって<始祖>へと転じるんだ」
「転じる」
「そう。ある日、突然に、何の前置きもなく、吸血鬼となる。世界に、選ばれて」
「…でも、私は」
「そうなんだよね。本物の<ロンギヌスの槍>を使ったってんなら分かんなくもない。なのに。これはねえ…」
ブツブツと、男から漏れ出るのはどうにも意味の分からない言葉の羅列。
顎に手をやり、男は考えを纏めながら続ける。
「もしかしたら君は元々、いずれは始祖となるべき者だったのかもしれない。それが、こんな粗悪な儀式の生贄に
され、命の危機に晒されてしまったおかげで、覚醒の時を無理矢理前倒しにされてしまった―――うん。合ってる
のかもしれないしまるきり的外れという可能性もあるな、この考えは」
男は推論を口にしながら、レミリアをまるで珍種の動物を見つめるように観察していた。
不快な奴だ、とレミリアは率直に思った。
「…さっきから黙って聞いてりゃ意味不明の専門用語ばかり並べちゃって。そもそも結局あなたは誰なのかしら?
いつの間にか有耶無耶にされて、答えてないじゃない。せめて名前ぐらい答えるべきよ」
「…一応、聞こうかしら」
「うむ。先も言った通り、僕は可愛い女の子の味方さ!…いや、悪い。そんな冷たい目で見ないでくれ。マジな話
をすると、別にそんな大物ってわけじゃない。ちょっとばかり長生きしただけの、どこにでもいそうな吸血鬼さ」
どこまで信じていいものか、彼はそう嘯く。
「そんな僕がどうしてこんな所にいるかといえば、胡散臭い連中が<ロンギヌスの槍>を手に入れたとか、風の噂
で聞いたもんで、ちょっかいをかけに来ただけ…のはずだったんだが…まさかこんな事になってるとは、思っても
みなかった」
呆れたとも感心したとも取れる顔つきで、男は嘆息する。
「本当に驚いたよ…こんな偽物の<槍>で、始祖が…それも、これほどの力を有した始祖が誕生するとはね」
「…にせ、もの…?」
「ああ。真っ赤な偽物だよ」
男はそう繰り返した。
「<ロンギヌスの槍>。偉大なる始祖が一人<典司ソロモン>が創り出した禁断にして禁忌の魔具…人為的に始祖
を産み出す禁術…」
「それが…ロンギヌスの槍…?」
そうとも、と彼は首肯する。
「そんな本物の<ロンギヌスの槍>を、この程度の連中が…小説で例えるなら話の都合で出さなきゃならないから
くらいの理由で登場した、ロクに設定もない薄っぺらい雑魚キャラに手にできるもんか。本物を手に入れるとした
ら、余程の後ろ盾を持つ巨大組織か、もしくは絶大な財力と権力を手にした何者か…ま、それはそうと」
男は、床に落ちていた<ロンギヌスの槍>を手に取り、しげしげと眺める。
「うん。やっぱり偽物だ。ロクな魔力も込められちゃいないな…どっかの逸れ者が、遊び半分に作って放り出した
のか…まあ、こんな贋作の事なんてどうでもいい。それよりは君だよ、君」
<槍>を放り投げた男は、レミリアに視線を移した。
「ふむ。どう解釈したらいいのかなあ、これは…<ロンギヌスの槍>はどう見ても偽物なのに、それに貫かれた君
は紛れもなく<始祖>となった…んー。どうしよう。このパターンは正直、まるで予想してなかったぞ。あーあ、
始祖と謁見すると分かってたなら、もっと上等な<端末>で来たのに。しくじったなぁ」
彼は意味の分からない言葉をぼやきながら。
不意に、レミリアに対して諭すような口調で語りかける。
「…あのね、お嬢ちゃん。始祖ってのは本来、世界に望まれて産まれるんだよ」
「世界に…望まれて?」
「そう。言葉だけで説明してもピンと来ないだろうけど―――世界はね、意志を持っているんだ。そして時に変革
を求める。新たな風を求めるんだ―――これを仮に<脈動>と呼ぼうか。そんな世界の意志と、誰かの強い想い
が、願いが合致した時…ただしく、その瞬間に、その<人間>は世界によって<始祖>へと転じるんだ」
「転じる」
「そう。ある日、突然に、何の前置きもなく、吸血鬼となる。世界に、選ばれて」
「…でも、私は」
「そうなんだよね。本物の<ロンギヌスの槍>を使ったってんなら分かんなくもない。なのに。これはねえ…」
ブツブツと、男から漏れ出るのはどうにも意味の分からない言葉の羅列。
顎に手をやり、男は考えを纏めながら続ける。
「もしかしたら君は元々、いずれは始祖となるべき者だったのかもしれない。それが、こんな粗悪な儀式の生贄に
され、命の危機に晒されてしまったおかげで、覚醒の時を無理矢理前倒しにされてしまった―――うん。合ってる
のかもしれないしまるきり的外れという可能性もあるな、この考えは」
男は推論を口にしながら、レミリアをまるで珍種の動物を見つめるように観察していた。
不快な奴だ、とレミリアは率直に思った。
「…さっきから黙って聞いてりゃ意味不明の専門用語ばかり並べちゃって。そもそも結局あなたは誰なのかしら?
いつの間にか有耶無耶にされて、答えてないじゃない。せめて名前ぐらい答えるべきよ」
「ウォーカーマン」
男はそう名乗った。レミリアは小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「変な名前ね。呼び辛いわ」
「仇名なんだけどね。ちなみに自分としては<ミスター・シューズ>と名乗る事の方が多い」
「ふん。どっちにしろ、おかしな名前ね」
「うーん。なら、本名の方を名乗ろうか」
「どうでもいいわ」
「つれないね。可愛い女の子に冷たくされるのは僕には普通に悲しいんだ。全然ご褒美じゃないよ!」
彼は―――ウォーカーマンは大袈裟に天を仰いで嘆いてみせる。
「あー、可愛い女の子に優しくされたいよ。妹とか欲しいな、妹妹。兄弟想いで優しくて、だけどいざとなったら
勇気があって、自分の生まれにコンプレックスとか持ってると最高なんだけどなー」
「…………」
「あ、待てよ。美人なお姉さんにならば冷たくされたり邪険に扱われるのもありかもしれない。長い黒髪が似合う
どこか影のある女性がいいな。ねえ、どう思う!?」
「ウザくなってきたから殺そうかしら」
「うおっ!?わ、悪い。ちょっとふざけすぎたよ…」
レミリアがギラリと爪を光らせると、流石に顔を青くして後ずさる。
「あー、こわ。このアマ、本気で殺す目だったよ…さて。気を取り直して」
姿勢を正し。
彼は静かな口調で、レミリアに語りかける。
「どうかな?僕でよければ、君に色々と教えてあげてもいいんだがね」
「教える、ですって?」
「そう。世界の事や、吸血鬼について、知り得る限り」
「…何を企んでるのよ」
「まあまあ、怖い顔をしないでおくれ。企むというと人聞きが悪いが…興味がある」
「興味」
「そう。君は人間としてそう長く生きてるわけじゃない。始祖とはいっても、産まれ立て。世界を左右しうる力を
持っていながら内面は幼く、非常に不安定と言わざるを得ない。経験値ゼロにして大魔王といった所だね」
「大魔王、ね」
「そんな存在、危なっかしいにも程がある。このまま何も知らずに外の世界に出ようものなら、下手すりゃこの星
を滅ぼしかねないぞ。君の行動次第で地球がヤバイ」
そこで一旦言葉を切り、にやりと笑った。
「そしてもう一つ―――面白いという意味でも捨て難い。それにねえ、君みたいな可愛い女の子をほったらかしに
していくなんて酷い真似、出来るわけないじゃないの!」
「…冗談でないなら、最低の理由だわ」
「すまないね、ついつい調子に乗っちゃうタチなんだ」
飄々として掴み所のない態度に辟易しつつ、彼の提案について考えてみる。
いや―――考えるまでもない。
右も左も分からぬレミリアにとって、願ってもない話とさえいえるのは分かり切っている。
問題はこのウォーカーマンを名乗る男が信用に値するかという事だが―――言動はどう考えても不審だが―――
レミリアは不思議と、その点については心配しなかった。
とにかく胡散臭くて悪ふざけのすぎる男ではあるし、話していてウンザリする男ではあるが…それでもどこか憎み
切れない愛嬌の持ち主でもあった。
「…一つだけ、訊くわね」
「何だい」
「あなた、私の友達が殺されてる所から、見てたの?」
「…いいや」
首を横に振った。
「君がこのバカ共をぶっ殺してる場面からだ。もっと早く来てたら止めていたよ。見ず知らずの子供を助ける理由
なんかないけど、こいつらはいくら何でも美学もクソもなくて不快極まる。君がやらなきゃ、僕がやってた」
「…………」
レミリアは、ウォーカーマンの目を見つめ―――その瞬間、彼の言葉に嘘はないと分かった。
それは人間が言う所の<視経侵攻(アイ・レイド)>の効力だった。
二人はまるで一つの生き物になったかのように、互いの感覚も、想いも、全てを共有していた。
本来この異能は、こうして使うべきものなのだ。
吸血鬼同士が包み隠さず、互いの気持ちを伝えるための、澱みなく繋がるための力だ。
「そう…だったら、もうそれについて何も言わない。どうしてもっと早く来なかったの、どうしてみんなを助けて
くれなかったの―――なんて、恨みがましい事も言わないわ」
鷹揚に、頷いてみせた。
「けど、妙な真似したら殺すから。それだけは覚えておきなさいよ」
「肝に銘じておこう。では、最初に吸血鬼にとって一番大切な事を教えておこうか」
「それは?」
「<血>さ。その身体に流れる血潮さ」
彼はレミリアの胸を―――血の源泉たる心臓を指し示す。
「感じて御覧よ。聴いて御覧よ。自らの血の、導きを―――いや、わざわざ言うまでもない。正直に言えば教える
までもないんだよ。何故なら我々にとって其れこそが本質であり、存在意義そのものだ」
「私の…存在意義…」
「そうだ。血はけして、君を裏切らない―――君に全てを語ってくれる」
「…………」
レミリアは何も語る事なく、眼前に立つ古き吸血鬼を見つめた。
ウォーカーマンの瞳に、自分の姿が映っている。
血に濡れた、紅に染まった、この世で最もおぞましく―――最も美しい、悪魔の姿が。
紅い、悪魔。
「変な名前ね。呼び辛いわ」
「仇名なんだけどね。ちなみに自分としては<ミスター・シューズ>と名乗る事の方が多い」
「ふん。どっちにしろ、おかしな名前ね」
「うーん。なら、本名の方を名乗ろうか」
「どうでもいいわ」
「つれないね。可愛い女の子に冷たくされるのは僕には普通に悲しいんだ。全然ご褒美じゃないよ!」
彼は―――ウォーカーマンは大袈裟に天を仰いで嘆いてみせる。
「あー、可愛い女の子に優しくされたいよ。妹とか欲しいな、妹妹。兄弟想いで優しくて、だけどいざとなったら
勇気があって、自分の生まれにコンプレックスとか持ってると最高なんだけどなー」
「…………」
「あ、待てよ。美人なお姉さんにならば冷たくされたり邪険に扱われるのもありかもしれない。長い黒髪が似合う
どこか影のある女性がいいな。ねえ、どう思う!?」
「ウザくなってきたから殺そうかしら」
「うおっ!?わ、悪い。ちょっとふざけすぎたよ…」
レミリアがギラリと爪を光らせると、流石に顔を青くして後ずさる。
「あー、こわ。このアマ、本気で殺す目だったよ…さて。気を取り直して」
姿勢を正し。
彼は静かな口調で、レミリアに語りかける。
「どうかな?僕でよければ、君に色々と教えてあげてもいいんだがね」
「教える、ですって?」
「そう。世界の事や、吸血鬼について、知り得る限り」
「…何を企んでるのよ」
「まあまあ、怖い顔をしないでおくれ。企むというと人聞きが悪いが…興味がある」
「興味」
「そう。君は人間としてそう長く生きてるわけじゃない。始祖とはいっても、産まれ立て。世界を左右しうる力を
持っていながら内面は幼く、非常に不安定と言わざるを得ない。経験値ゼロにして大魔王といった所だね」
「大魔王、ね」
「そんな存在、危なっかしいにも程がある。このまま何も知らずに外の世界に出ようものなら、下手すりゃこの星
を滅ぼしかねないぞ。君の行動次第で地球がヤバイ」
そこで一旦言葉を切り、にやりと笑った。
「そしてもう一つ―――面白いという意味でも捨て難い。それにねえ、君みたいな可愛い女の子をほったらかしに
していくなんて酷い真似、出来るわけないじゃないの!」
「…冗談でないなら、最低の理由だわ」
「すまないね、ついつい調子に乗っちゃうタチなんだ」
飄々として掴み所のない態度に辟易しつつ、彼の提案について考えてみる。
いや―――考えるまでもない。
右も左も分からぬレミリアにとって、願ってもない話とさえいえるのは分かり切っている。
問題はこのウォーカーマンを名乗る男が信用に値するかという事だが―――言動はどう考えても不審だが―――
レミリアは不思議と、その点については心配しなかった。
とにかく胡散臭くて悪ふざけのすぎる男ではあるし、話していてウンザリする男ではあるが…それでもどこか憎み
切れない愛嬌の持ち主でもあった。
「…一つだけ、訊くわね」
「何だい」
「あなた、私の友達が殺されてる所から、見てたの?」
「…いいや」
首を横に振った。
「君がこのバカ共をぶっ殺してる場面からだ。もっと早く来てたら止めていたよ。見ず知らずの子供を助ける理由
なんかないけど、こいつらはいくら何でも美学もクソもなくて不快極まる。君がやらなきゃ、僕がやってた」
「…………」
レミリアは、ウォーカーマンの目を見つめ―――その瞬間、彼の言葉に嘘はないと分かった。
それは人間が言う所の<視経侵攻(アイ・レイド)>の効力だった。
二人はまるで一つの生き物になったかのように、互いの感覚も、想いも、全てを共有していた。
本来この異能は、こうして使うべきものなのだ。
吸血鬼同士が包み隠さず、互いの気持ちを伝えるための、澱みなく繋がるための力だ。
「そう…だったら、もうそれについて何も言わない。どうしてもっと早く来なかったの、どうしてみんなを助けて
くれなかったの―――なんて、恨みがましい事も言わないわ」
鷹揚に、頷いてみせた。
「けど、妙な真似したら殺すから。それだけは覚えておきなさいよ」
「肝に銘じておこう。では、最初に吸血鬼にとって一番大切な事を教えておこうか」
「それは?」
「<血>さ。その身体に流れる血潮さ」
彼はレミリアの胸を―――血の源泉たる心臓を指し示す。
「感じて御覧よ。聴いて御覧よ。自らの血の、導きを―――いや、わざわざ言うまでもない。正直に言えば教える
までもないんだよ。何故なら我々にとって其れこそが本質であり、存在意義そのものだ」
「私の…存在意義…」
「そうだ。血はけして、君を裏切らない―――君に全てを語ってくれる」
「…………」
レミリアは何も語る事なく、眼前に立つ古き吸血鬼を見つめた。
ウォーカーマンの瞳に、自分の姿が映っている。
血に濡れた、紅に染まった、この世で最もおぞましく―――最も美しい、悪魔の姿が。
紅い、悪魔。
ドクン。
心臓が、強く脈動する。
(そうか。これが<血>の囁きとやらか)
血が教えてくれている。
己が何者であるのか。
如何な宿命を背負い、人間を捨て、生まれ変わったのか。
心臓が、強く脈動する。
(そうか。これが<血>の囁きとやらか)
血が教えてくれている。
己が何者であるのか。
如何な宿命を背負い、人間を捨て、生まれ変わったのか。
「人間…レミリア=フランドール・スカーレットは、もう死んだ。もういない」
此処にいるのは、最も新しき始祖(ソース・ブラッド)。
「始祖<紅魔(こうま)レミリア>―――私はこれより、そう名乗ろう」
此処にいるのは、最も新しき始祖(ソース・ブラッド)。
「始祖<紅魔(こうま)レミリア>―――私はこれより、そう名乗ろう」
―――この時より、五年の間。
紅魔レミリアはウォーカーマンと行動を共にし、世界を歩む。己を学ぶ。
結果。
彼女は―――絶望する。
己の在り方に折り合いをつけることが、どうしても出来ずに。
吸血鬼としては、特に珍しい事ではなかった。如何に血を黒く染めて人間を越えた存在になろうとも、精神は人間
のまま…特にレミリアの場合は、幼い少女のままだったのだから。
いずれ、どこかで破綻するようには出来ていたのかもしれない。
始祖ともあろうものが、たったの五年しか保(も)たなかったというのは、月下の歴史においても異例だったが。
そしてレミリアは現世を捨てて、幻想郷へと辿り着き―――
紅魔レミリアはウォーカーマンと行動を共にし、世界を歩む。己を学ぶ。
結果。
彼女は―――絶望する。
己の在り方に折り合いをつけることが、どうしても出来ずに。
吸血鬼としては、特に珍しい事ではなかった。如何に血を黒く染めて人間を越えた存在になろうとも、精神は人間
のまま…特にレミリアの場合は、幼い少女のままだったのだから。
いずれ、どこかで破綻するようには出来ていたのかもしれない。
始祖ともあろうものが、たったの五年しか保(も)たなかったというのは、月下の歴史においても異例だったが。
そしてレミリアは現世を捨てて、幻想郷へと辿り着き―――
今に、至る。
―――目を開けば、見慣れた自室のベッドの天蓋。
レミリアは苦虫を噛み潰したような顔で起き上がる。
「…あー、全く。嫌な事をまとめて思い出す夢だったわ」
ベッドから降りて目を擦る。
「はんっ。あんな大昔の事なんて今じゃ全然気になんかしてないけどね」
自らに言い聞かせるように、そう口にする。
窓を開けて、バルコニーへと出た。
陽は既に落ち、宵闇が幻想郷を包みこもうとしていた。
これからは月の時間―――夜の住人である、己の時間だ。
「そして今宵は、楽しいパーティー…」
招待状は、片っ端からばら撒いた。
幻想郷に数多存在する、愛すべき阿呆共が大挙してやって来る事だろう。
そして、あの二人―――望月ジローと望月コタロウも。
ついでにあの不快な赤マスクも来るだろうが、カリスマとしてその程度は華麗にスルーすべきだろう。
「何にせよ、普通の夜にはならないでしょうね」
紅い悪魔はそう呟く。
太陽と入れ替わるように昇り始めた月は、彼女を見下ろすように冷たく輝いていた―――
レミリアは苦虫を噛み潰したような顔で起き上がる。
「…あー、全く。嫌な事をまとめて思い出す夢だったわ」
ベッドから降りて目を擦る。
「はんっ。あんな大昔の事なんて今じゃ全然気になんかしてないけどね」
自らに言い聞かせるように、そう口にする。
窓を開けて、バルコニーへと出た。
陽は既に落ち、宵闇が幻想郷を包みこもうとしていた。
これからは月の時間―――夜の住人である、己の時間だ。
「そして今宵は、楽しいパーティー…」
招待状は、片っ端からばら撒いた。
幻想郷に数多存在する、愛すべき阿呆共が大挙してやって来る事だろう。
そして、あの二人―――望月ジローと望月コタロウも。
ついでにあの不快な赤マスクも来るだろうが、カリスマとしてその程度は華麗にスルーすべきだろう。
「何にせよ、普通の夜にはならないでしょうね」
紅い悪魔はそう呟く。
太陽と入れ替わるように昇り始めた月は、彼女を見下ろすように冷たく輝いていた―――