SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 第095話 「演劇をしよう!! (前編)」  (5)


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【9月13日】

──────華道部部室。ガス騒動の臨時避難所にて──────

「幹部が?」
「匂いがしたというだけだ。いるかどうかまでは──…」
 そこまでいうと無銘は額を抑え渋い顔をした。布団の上でやっと上体だけ起こしている。そんな様子だ。毒が抜けるまで
いましばらくかかるように思えた。
(妙だ)
 胸中の違和感がますます強くなっているのを感じ、秋水は黙りこんだ。演技の神様に逢って以来、何かが迫ってきている
ような気がしてならない。明確な敵意こそ感じないが、輪郭を得る前のそれが少しずつ街を取り巻いてきているような……
 そもそもなぜ「黙りこむ」のか。違和感を覚えたのなら他の戦士にそれをいい、対策すべきなのに。
「とにかく柑橘の匂いだ。いま気付いたがあれはマンゴー。マンゴーの香りだった
「もう一度追跡してみるか?」
「貴様と組むのは願い下げだ。師父や戦士長さんが命ずるなら話は別だが」
 ぷいと顔をそむける少年無銘に秋水は微苦笑してみせた。「随分嫌われたな」。根はまっすぐで素直な少年のようだが
それゆえの潔癖さが「かつて小札を両断した」、秋水を受け入れ辛くしているらしい。
「ねーむっむー。よく分からないけどマンゴーの匂いが気になるの?」
 しゃーとカーテンが開き、見なれた顔がぴょこりと入ってきた。「むっむーと呼ぶなあ!!」 絶叫もなんのその、まひろは
いつものような朗らかな笑みを頬いっぱいに広げて見せた。
「そうだよね。マンゴーの香水、最近流行ってるみたいだもんねー。色んなところにあったら気になるよね」

 血相を変えて飛び出す無銘を秋水は追った。
 果たして小さな忍者は首を左右に振ると、道行く女生徒達から致命的な何かを察知し──…
 愕然たる面持ちで振り返った。
 秋水はただ、頷くしかなかった。

 芳しいマンゴーの香り。

 それは人間にすぎない秋水でさえはっきりと分かるほど、辺り一面に広がっていた……。

「でも、いつから流行っているのかな? 気づいたらみんな付けていたような」

 まひろだけは不思議そうに呟いた。





──────どこかで──────


「リヴォルハインが来たからなwwwwwwwww」
「全員に同じ香水使わせるなんてのいうのはこの上なく簡単です!」


──────華道部部室前廊下──────

「そうだ秋水先輩! 女装の件だけどね。ごしょごしょごしょごしょ……」
 無銘の瞳がギラっと光ったのは、まひろの挙動のせいである。彼女は背伸びをし、秋水の耳を両手で覆って内緒話を
仕掛けている。秋水やや面喰らったようだが、特に嫌がる素振りも見せずじつと言葉の終わるのを待っている。
(おのれ! 鐶の奴めが我にそういうコトする時はとても強引で力づくなのに!! なんでそんな優しい! おのれ!!)
「あ、ああ。そうか。感謝する」
 やがて解放された秋水は視線を微妙に外しながら素気なく答えた。いかにも朴念仁な態度だが、まひろは特に気にした
様子もない。楽しそうに笑いながらブイサインを突き出している。
「……というか女装? 何の話だ」
「そういえば君はあの出来事を知らなかったな」
 細い溜息を洩らすと秋水は訥々と語りだした。
「昨日の話だ。演劇部の女子部員たちが、俺に女装させる。そういってはしゃぎ出した」
「女装か。まったく碌でもない行為だ。師父も同じコトを仰るだろう」
「?」
 とにかく女装。
 火を付けたのは沙織である。2日後の演劇発表。それで負けたら(結論からいえば)男子は女装というパピヨンの提案に
悪ノリしたのか、「じゃあ勝つために秋水先輩に着せよう!」と言い出したのだ。些か破綻した論理であるが、彼女曰くそう
いうやり方で耳目を集めれば必ず勝てる、らしい。もっとも実際のところは「面白いものがただ見たい」であり、そのフザけ
た理屈をいかにもな正当性で押し通そうとしているだけであろう。
「で、貴様はそれに薄々気付きながら、同調する女生徒どもをどうにもできなかった、と!!」
 あらましを聞いた無銘は秋水の胸に人差し指を突きつけつつ「ざまあ見ろ」と笑った。とても嬉しそうな表情だった。歓喜と
恍惚に支配された子ども野獣の黒いカオ(表情)だった。
(そういう君も河合沙織やヴィクトリアといった女生徒をどうにもできなかったのでは……)
 内心突っ込む秋水の横で「でね!」とまひろが指を立てた。
「私みんなにいったの。やっぱり秋水先輩嫌がってるし、ダメだよって。そしたら何とか阻止できて……」
「どうして止めた貴様アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
 無銘は咆哮した。両掌を天に向け全身を震わせた。眦(まなじり)に涙さえ浮かんでいる気がした。
「え?」
「くそう! 我はこやつがもの笑いの種になっている様を笑ってやりたかったのに!! ザマ見ろザマ見ろって指差し爆笑し
溜飲をたっぷり下げてやりたかったのに!!!」
 地団駄踏む少年をまひろはしばらく不思議そうに眺めていたが、やがてどんぐり眼をパチクリさせこう言った。
「あ、ひょっとしてむっむー、女のコの格好がしたいの?」
「どうしてそうなる!!? 我の言葉、理解してるのか貴様!!!」
「似合うとおもうよ。むっむー可愛いもん。理事長さんにも似てるし」
 瞳を細めまひろはえへらと笑ってみせた。年老いたネコを思わせる長閑(のどか)なカオだ。だが却って無銘の苛立ちは
倍加した。更に文句を垂れるべく口を開きかけたが──…
「止せ無銘。彼女はともかく他の生徒に聞かれたらマズい。今度は君が無理やり着せられるかも知れない。セーラー服を」
「セーラー服……?」
「そうだ。女生徒たちが着せようとしていたのは……セーラー服だ。」
(!!!!!!!!!)
 セーラー服。その単語におぞましい記憶が蘇る。地下で見たヴィクトリア。彼女の着衣はそれだった。仕打ちの数々が
蘇る。恐ろしく冷たい眼差し。頭を踏みつけられる屈辱の記憶。そういえば彼女も演劇部という話を聞いた。今の話が
耳に入れば間違いなく強引に、無銘の衣装を変えるだろう。
 そう。
 おぞましい拷問を間に挟み!

「やだやだやだやだやだやだそれは怖いそれは怖い。頼む勘弁してくれ許してくれもう逆らわないから見逃してくれ……」

「むっむー。どうしたの? まださっきのガス残ってる? だるいならお部屋で寝る?」
「あまり突っ込まない方が」
 廊下の隅で膝を抱えてガクガク震える無銘を秋水は気の毒そうに眺めた。ヴィクトリアに何をされたかは分からないが、
トラウマなのは明らかだ。耳を抑え、首さえ左右にぶんぶん振りたくる彼はとても怖がっていた。
「分かった。無銘。ヴィクトリアには俺から話しておく。だからもう怯えなくていいんだ」
「ううううるさい。貴様の助力などいらん。そうだ。これは試練だ。我は自力で乗り越えるんだ」
「びっきーに何かされたの? で、でも恨まないであげてね。根はすごくいいコなんだよ」
 まひろは無銘をひどく心配そうに眺めながら、ヴィクトリアのフォローも一生懸命やっている。
 優しい少女だ。
 横顔を見ながら秋水は思う。毒島のガスを喰らってもまったくピンピンしているところは異常極まるが、回復後すぐ他の生
徒の看護に回ったところなどやはりカズキの妹である。年下だが、年齢など関係なく尊敬できる。率直な実感が胸に満ちる。
暖かな気分だった。栗色の髪。太い眉。白い鼻梁。大きな瞳はやや愁いを宿しながらも澄み渡り、初夏の泉のような輝きに
満ちている。そんな横顔を眺めているだけで秋水は澱(おり)や濁りが溶けるのを感じた。無数の傷で引き攣(つ)れた精神
から強張りが抜け、辛く抱えた様々へ立ち向かう勇気さえ湧いてくる気がした。無銘のコトは、忘れていた。
 どこからか風が吹き、マンゴーの爽やかな匂いが髪や鼻孔をくすぐった。爽やかな気分だった。視線を外すのが惜しま
れる気がして、もう少し、もう少し……風の中、同じ姿勢を続けている。
「むっむー大丈夫かな?」
 不意にまひろがこちらを見た。
 目が、合った。
 その瞳に映る2つの秋水はすっかり安らかに相好を崩していて、だからこそ彼は狼狽した。
 笑いながら人を凝視するのは無礼……。生真面目さゆえにそんなつまらぬコトが頭を巡り、慌てて視線を逸らすしかなかった。

(え? え? なんで秋水先輩、私見てたの? しかも笑ってたよね? え? どうして? どうしてなの?)
 まひろはまひろで大混乱である。秋水同様慌てて視線を外したきり、何もいえずただ俯いた。
 豊かな胸の奥で鼓動が強く大きくなるのを感じた。血で肥大した心臓がそこをきゅうきゅう締め付けているようで、息を吸う
たび苦しくなる。
 顔が熱い。耳たぶも。大きな瞳を切なげに細めながら首を振り、言い聞かせる。きっとそれはガスのせい。さっき吸いこ
んだガスのせい……。そう思わなければどうにもならないほど、気恥ずかしい気分だった。
 もしカズキが秋水と同じ反応を斗貴子に向けていたらこうはならなかっただろう。
「やっぱりお兄ちゃん斗貴子さんのコト好きなんだー」
  そういって沙織や千里と楽しく騒いでいただろう。
(じゃ、じゃあ秋水先輩、まさか私のコトを……)
 勇気を出して顔を上げる。秋水もこっちを向いた、またも視線は出会い頭の衝突だ。
「!!」
(~~~~~~~~~~~っ!!!)
 もうまひろの頭の中はぐしゃぐしゃだ。結んだ唇がもにゃもにゃの波線になっているような錯覚さえある。微熱はいよいよ
全身に広がり切ない痛みが胸を刺す。とりあえず気まずそうに横を向く。できるのはそれだけで何をいえばいいか分からない。
(ど、どうしよう。また目が合っちゃった。何か言わなきゃ。何か言わなきゃ。秋水先輩アレでけっこう照れ屋さんなんだから
私が黙りこんじゃダメだよ。ほ。ほら秋水先輩だって困ってる)
 横眼でチラチラ伺う秋水はほとほと困ったようにまひろのつま先を眺めている。また目が合わないよう気を配っているの
だろう。
(だだだだいたい秋水先輩が私のコトをなんて……ないないない。ないよそんなの! 絶対! ある訳が──…)
 きっと今の思い込みはただの自意識過剰なのだと縋るように考える。
 秋水ほど見栄えのいい青年はいない。剣戟においては並ぶものはいないし成績も優秀だ。さまざまな奇縁があったとは
いえまひろとは到底釣り合わない。そもそも彼がまひろに抱く感情はかつて贖罪とともに総て聞かされている。そこには
投影や共感こそあれ恋慕はなかった。なかったからこそまひろも秋水の吐露を受け止め、ともに頑張ろうと思っている。
(そ、そうだよ。それだけ。だいたいいま秋水先輩大変なんだよ。お兄ちゃん帰ってくるまで一生懸命この街守らなきゃいけない
んだから。ちょ、ちょっと目が合った位で「まさか私のコトを」なんて騒いじゃダメだよ。どうせ勘違いなんだし、迷惑……だよ)
 だから協力だけしていけばいい。それが約束なのだから。
 頭では分かっているつもりなのに、いざ割り切ろうとするととても寂しい気分が襲ってきてまひろは困った。
(どうしよう。最近、私。やっぱり)
 葛藤の原因が薄々ながら分かってきた。
 でも、それは、恋愛沙汰より秋水を困らせそうで。
 武藤まひろはただただ貝のように口を噤むしかなかった。

(……あれ? この様子とか我の龕灯に記録したら)
 やっと恐怖から脱した無銘は2人の様子を交互に見ながら考える。
(こやつらへの報復になるのでは? 早坂桜花とかに見せたら間違いなく弟からかうだろーし)
 龕灯の武装錬金・無銘は創造主の見た物を録画できる。いま黙りこくっている秋水とまひろを凝視すれば未来永劫その
様子を残せるだろう。小札を両断した秋水。過剰なスキンシップをしてきたまひろ。2人の恥部を他者に明かせるのだ。
これが報復と言わず何と言おう。
(ただ)
 と無銘の動きが途中で止まる。胸中に訪れたのは、声、だった。

──「むっむー。どうしたの? まださっきのガス残ってる? だるいならお部屋で寝る?」
──「分かった。無銘。ヴィクトリアには俺から話しておく。だからもう怯えなくていいんだ」

(…………ま、いっか)

 なるべく彼らを見ないよう、少年無銘はうずくまるフリをした。
 3人が思い思いの動きをしている間にも生徒の往来は絶えない。

「午後の授業中止だって。ほら、さっきのガス騒動のせいで」
「ラッキー。今日は早く帰れるぜ」
「ところでアレ……副会長じゃね?」
「片方は1年の武藤。ガワだけ可愛いイロモノと評判の」
「馬鹿見るな。取り込み中だぞアレは」
「以下小声で」
(まさか告白中!?」
(してるの? されてるの?)
(いーやそこまで行ってない)
(どっちもまだ自分の感情に気付いていない)
(だから情動をうまく処理できなくて困ってる)
(中学生か! 昭和の!)
(でも一番おいしい時期だぜ)
(ああ、一番おいしい時期だな)
(付き合い始めりゃもう夢はない!!)
(名言だ)
(名言だ)
(メッキ剥がれるもんな。幻滅されるもんな)
(カレシ持ちの愚痴聞いてみ? 恋愛幻想薄れるぜ。ケケ)
(伝聞で決めるのは良くない。付き合っている状態にもそれなりの良さが)
(俺が聞いたのは、俺のカノジョの俺に対する愚痴なんだよ……)
(うわ)
(キツっ。それはキツっ!)
(他にも幾つかあるぞ。生々しい、解決が何の感動も生まなかった事例が)
(やめ! したコトない奴ほど恋愛に救い求めてるんだぞ!)
(いや救い求めるほど破綻するのが恋愛だから)
(でも副会長なら大丈夫じゃね?)
(うん)
(相手の女のコは?)
(イロモノだからこそ幻滅はない!)
(そうか)
(良かった)
(良かった)
(頑張れ)
(頑張れ)
(でも学校でいちゃつくのはやめてね。見るの辛いし呪い殺したくなるから)
(そーだそーだ)


 囁きながらも生徒たちは空気を呼んでいるらしく、素知らぬ顔で通り過ぎていく。
 およそ20人ばかり通過しただろうか。
 ようやく、秋水が口を開いた。

「ところで……。他の部員を説得してくれた事、心から感謝している」
「あ……。ううん。この前私のあだ名のコトで困らせちゃったしそのお詫び。気、気にしないで」
「そうか」
「うん」
「…………」
「…………」
 また、会話が途切れた。
(ああ、また! でもダメ! 今度こそ喋らなきゃ! 秋水先輩優しくてマジメだけどそのせいで堅くなりがちで口下手なん
だから! 私が何かお話しないと間が持たないよ。話題! こういう時は何でもいいから話すのよ! じゃないと気まずく
なる一方! よし、じゃあ喋るわよ私。大丈夫。何とかなる! 自分を信じて!!)
「ところで一つ聞きたいのだが」
「って先越されたーっ!?」
 がーん。そんな擬音も背景にまひろは絶叫した。絞り出すようなソフトな声が廊下の奥まで木霊した。
「どうかしたのか?」
「成長したね。成長したね秋水先輩。良かった。もはや師匠として教えられるコトは何もないよ」
「師匠……いや確かに会話について手ほどきを受けた覚えはあるのだが」
「過去の話だよそれはもう。今日から先輩とは師匠でも弟子でもない。ライバルだよ」
 恥ずかしいやら悔しいやら。まひろの閉じた瞳から滝のような涙があふれた。
「よく分からないが、俺はいま、質問していいのか?」
「もちろんだよ。私もそっちの方が、その、助かるし」
「?」
 秋水は気付かない。この時自分を捉えた瞳が、僅かだが熱く濡れており、微かに「色の良い」返事を期待していたコトに。

「昨日はセーラー服騒ぎのせいで聞けなかったが、あの時、君の瞳が少し赤くなっていた。もしかして……何かあったのか?」

 まひろの顔が一瞬驚きに染まり、次いでフクザツな表情へと変貌した。
 悲しさと、申し訳なさと寂しさと……ほんの少しだけの「期待はずれ」が混じった表情だった。

「大丈夫」
 すぐさままひろはいつものような笑顔になった。
 まるでいつも通りを懸命に再現したような笑顔に。
 そして後ずさった。胸の前で平手を2つバタつかせながら。

「特に何もなかったから! 気にしないで! ね!!」

 上げた声はいつもよりやや甲高い。訝る秋水は更に2、3質問したが──…
 彼女はまくし立てるように「大丈夫」だけを連呼し、廊下の奥へと駆けて行った。



「朴念仁が!!!」



 追うべきか追うまいか逡巡する秋水の後頭部が衝撃に見舞われた。
「無銘」
 振り返れば忍びの少年が凍った手拭を持っている。なにで殴ったかは明言するまでもない。
「確かに今の質問は良くなかったな」
 無銘の横にはいつの間にか防人も立っている。どの辺からは分からないが、秋水とまひろのやり取りを見ていたらしい。
「ちょっと地雷でしたね」
 完全に、とはいかないが防人と毒島の反応から何事かを理解したらしい。
 秋水は猛然と踵を返し走り出した、
 走り出して、膝の裏を蹴られ、転んだ。
「問題を解決しないまま……突っ込むのは……ダメです、よ」
(蹴った)
(鐶の奴めが蹴った)
(裏返し(リバース)が攻撃だと見なさぬほどの速度で、ゆっくりと)
 防人たちが呆れるなか彼女はうつ伏せの秋水の頭を掴み、当たり前のように持ち上げた。
(すげーあの女のコ)
(ちっこいのに、長身の副会長を片手で)
「乙女心は……フクザツなのです…………。触れて欲しいけど…………相談したら迷惑だって……無理して……隠すコトが
……あります。……今のまっぴーのは……それ、です。明るい人ほど……深刻な悩み……相談、できません」
「そうですね。『それ』の正体を理解しないまま脊椎反射で追うのはオススメできません。ともすれば言い訳しながら問い詰め
てしまいますから。それは女性にとって大変迷惑。ですので、追うのは問題の根本を理解してからがよろしいかと」
 なぜか珍しく饒舌な鐶と毒島である。(乙女心の成せるわざであろう)
「ブラボーだガールズ! そして少し考えれば分かる筈だ戦士・秋水。武藤まひろがああいう反応をする原因は限られている」
「理解してやれ! あの少女は師父を倒した原動力だろうが!! 生半可な理解で関係を終わらせるようなマネは絶対に許さん!」
 誰も彼も秋水の返答など待たずまくし立てる。事態は彼の預かり知らぬところでどんどん変わっているようだ。
「キミならばこれだけのヒントで分かる筈だ。武藤まひろを追え。打ち合わせには参加しなくてもいい」
 防人の暖かな囁きに秋水は何故だかとても嫌な予感がした。
「皆さん! 少し危ないので廊下の端に寄って下さい!」
 毒島が生徒達に呼びかけている。端に寄れ? いったい何のために? 
 ねっとりとした汗が秋水の背中を流れた。」
 ちなみに彼はまだ鐶に持ち上げられたままだ。
 そしてまひろは問答の間にも遠くへ行っている。
 秋水が距離を詰めるには、それなりの「無理」が必要だろう。
 鐶は、凄まじいパワーの持ち主だ。
「ま、待ってください。まさかとは思いますが戦士長」
 防人が指を立てた。鐶の腕が唸り始めた。見れば腕の部分だけ、裏返し(リバース)が解除されている。
「クク。いい面だな早坂秋水!! さあやれ鐶!」
 哄笑とともに無銘は告げる。秋水の運命を放擲する悪魔の一言を。

 ・ ・ ・
「投げろ」


 腕がしなって放物線を描き、秋水をそうした。


「さて、戦士・斗貴子たちと合流するか」
「そうですね」
 向こうの方から何かぶつかって何か壊れる音がしたが誰も見ない。意図的に見ない。
 無銘はそれが面白くて仕方無い。小さくガッツポーズをした。