SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ ~惑いて来たれ、遊惰の宴~ 夜の邂逅


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一時はどうなる事かと危ぶまれたレッドさんの祝勝会も、八雲紫の機転によって無事に仕切り直された。
ヴァンプ様の手料理をお腹一杯に食べ、ケーキにかぶりつき、お酒も入った。
(ヴァンプ様が真っ先に潰れた)
どんちゃん騒ぎの宴会は、夜遅くまで続き。
そして、いい具合に酔っ払った所で―――


―――月明かりに照らされた草原を、レッドは見下ろしていた。
風景はどこか歪んで、ぼんやりしているのに、意識ははっきりしている。
(あー。夢だな、こりゃ)
いわゆる、明晰夢というヤツだろう。
高い場所から地上を俯瞰している己を、夢の中の存在だと自覚している。
眼下に広がる草原では、二人の女性が向かい合っていた。
一人は、レッドも見知った顔。
(ありゃ、八雲のババアか…もう一人は…?)
もう一人の、彼女。その姿に覚えはない。なのにレッドは。
(なんか…知ってるぞ、俺。あいつの事)
―――ふわふわと緩くウェーブのかかった、金色に輝く長い髪。
―――どこまでも広がる海を宿したような、蒼い瞳。
飾り気のない、着古した旅装束に身を包んではいるが、その美しさに翳る所はない。
(どっかで…つーか、最近は毎日見てるよーな気も…)
誰かに似ている気がするが、判然としない。
「ふふ…貴女の事は知っていましたけれど、実際に顔を合わせるとは思いませんでしたわ」
紫は、妖艶な仕草で両手を広げ、唇を歪める。
「その血の命ずるが侭(まま)に、幾千年もの時をかけて世界を流離う伝説の吸血鬼―――<賢者イヴ>。
アリス・イヴ。とはいえまさか、この幻想郷を訪れる日が来ようとは」
(…賢者イヴ)
最近になって、よく耳にする名だった。
望月ジローを吸血鬼へと転化させた<闇の母(ナイト・マム)>。
望月コタロウの真の姿であり、最も古き<始祖(ソース・ブラッド)>が一人。
(あいつが…そうなのか…)
「此処は、幻想郷っていうんだね」
賢者イヴは、紫に向けて口を開いた。
鋭い牙が覗く、その口を。
「きみが創ったのかい、この世界は」
「…私一人の力ではないけれど、幻想郷の創造に、この八雲紫以上に貢献した者はいないと自負しておりますわ」
「そっか。紫ちゃんは、すごいね」
彼女は、月のように静謐な微笑を浮かべる。
「この世界は…幻想郷は<想い>に満ちている。ありとあらゆる存在の<想い>が。誰であろうと、何者であろうと
全てを受け入れる―――そんな優しさで、一杯だ」
「あら…<賢者>と呼ばれているのだから、どれだけ頭がいいのかと思えば、まるで白痴ね。この世界を、優しいだ
なんて…的外れもいいとこだわ」
対して紫は、先程までの丁寧さが嘘のように、忌々しげに答える。
「貴女の言う通り、幻想郷は全てを受け入れる。私もそんな幻想郷を心より愛している。けどそれは素晴らしくなど
ないわ。それはそれは―――とても残酷な話ですわ。どんな者も分け隔てなく受け入れるなんて」
そんなの、現実にはありえなくて…ただ、気持ち悪いだけじゃないの。
「そんな頓珍漢な褒め言葉なんて…罵詈雑言より、腹立たしい」
「そんな事はないよ」
だって、と。賢者は言い返した。
「何もかも受け入れるっていうのは誰とでも、何とでも、仲良くできるって事だもの。ぼくはね、紫ちゃん」
「…………」
「こんな素敵な場所を創ったきみの事を…とても、尊敬しているよ」
その言葉を聞いた紫の反応は、傍から見ているレッドにとっても予想外のものだった。
いつものように曖昧で胡散臭い笑顔を浮かべるでもなく。
先のように忌々しげに口を尖らせるでもなく。
虚を突かれたかのように、毒気を抜かれたかのように、素の少女の顔になっていた。
自分や幻想郷について、こんな感想を持たれるとは、まるで考えていなかった―――
そんな驚きと。
多分だが、少なからぬ喜びの色があった。
(はー…あのババアにあんな顔させるとは、やるじゃねーか)
レッドは<賢者イヴ>に対し、素直に感心した。
あの、常に<自分だけは全てを分かっている>かのような顔をしている八雲紫を驚かせたというだけで、文句なしに
すげー女だ。
そう思う。
(いや、俺が勝手に見てる夢なんだけどな…つーか、何でこんな夢見てんだ、俺)
と。
賢者イヴは、頭上を見上げて。
にこやかに。軽やかに。
誰もが見惚れずにはいられない笑顔で、彼女はレッドに向けて手を振った。
「やあっ、レッドさん!」
「え…」
「え、じゃないよ。きみは、レッドさんだよね?」
「…………お前」
その笑顔。屈託のない口調。
そうだ。
こいつは―――<賢者イヴ>とは―――年齢も性別も違うが―――
<あいつ>そのものじゃないか。
「いつも、ぼくたちと仲良くしてくれて、ありがとうね!」
「お前…まさか、コタロ―――」


―――目を覚ましたレッドが最初に見たのは、白玉楼の天井であった。
身を起こし、きょろきょろと辺りを見回す。
宴の跡。料理は大量に用意されていたのだが、綺麗さっぱりなくなっている。
そして、そこかしこに転がる空になった酒瓶。
皆、いい食べっぷり呑みっぷりであった事が見て取れる。
その参加者はといえば、ヴァンプ様はぐーぐーと気持ちよさそうな寝息を立てている。
妖夢は「もー食べられませーん…」というテンプレ寝言つきで横になっている。
紫は壁にもたれかかって目を閉じている。本当に眠っているのかどうかは、定かでない。
ジローと幽々子の姿はない。外に出ているのだろうか?
そして、コタロウは。
「むにゃむにゃ…」
天使のような寝顔で。
「むぐぐ…このお肉、かみ切れない…」
レッドさんの足に、齧り付いていた。夢の中で、マンガ肉でも食べているのか。
「…………」
地味に痛い。何かムカつく。さっきのおかしな夢も、多分コイツのせいだ。
レッドさんはそう結論した。
「…フッ」
ニヒルに笑い、懐から自らの相棒―――サンシュートを取り出す。
出力は最小限に抑えつつ、コタロウの顔面に狙いを定めた。
駆け巡る、コタロウとの思い出。
初めて出会ったあの夏の公園から、今に至るまでが、走馬灯のように浮かび上がる。
何だかんだで、自分達はいいコンビだったと。今になってそう思う。
「コタロウ…まさか、お前を撃つ羽目になるとは、思わなかったぜ…」
過酷な運命に翻弄され、己を慕ってくれる純粋無垢な少年を自らの手にかけねばならぬヒーローの哀愁を漂わせつつ。
そして、引き金に指をかけた。


―――白玉楼・庭園にて。
酔い覚ましに夜気にあたっていたジローと幽々子は、ふと顔を上げた。
「あら。今、妙な音がしなかった?具体的には爆発音と、なんとも哀れな悲鳴が」
「大方、コタロウがバカをやってレッドに吹っ飛ばされたんでしょう」
「軽く言うわねえ。弟が今まさにチンピラに虐待されてるというのに」
「何、レッドはあれでも面倒見のいい男です。ちゃんと手加減はしていますよ」
「ならいいでしょう。コタロウも、彼には随分懐いてるみたいだし」
ふっと、幽々子は幽(かす)かに微笑む。
「コタロウは、レッドやヴァンプさんと上手くやれてるみたいね」
「おかげさまで。あまり清廉潔白とも言えない二人ですが」
何せチンピラヒーローと悪の将軍である。
子供の教育にはよろしくないコンビだ。特にレッドさん。
「こっちでも、魔理沙達と仲良くしてたみたいじゃない」
「ええ…友人が増えるのは、あやつにとっても、この兄にとっても喜ばしい事です」
「そう。それはいずれ」
いずれ、あなたがいなくなっても、寂しくないように。
「そういう事かしら?」
「…西行寺殿。貴女や、八雲殿は…我々の血統の秘密を、どこまで?」
「全部を全部知ってるわけじゃないわよ。アリス・イヴだって、何もかも包み隠さず話してくれたわけじゃない」
それでもね、と幽々子は嘯く。
「長く生きてれば―――まあ、私は死んでるんだけど―――どうしたって色んな噂が耳に入ってくる。絶対にバレや
しない秘密なんて、この世にないわよ」
「…どういう噂かは知りませんが、酷い流言飛語もあったものです。この私が」
どこか皮肉っぽく、ジローは言う。
「この弟思いの兄が、コタロウを放っておいて、何処かへ消えてしまうなど…あるわけないでしょう」
「他ならぬあなたが言うなら、そうなんでしょうね」
そういう事に、しときましょう。
その言葉を最後に黙り込んだ二人の間を、風が吹き抜ける。
夏の暑さを残しつつも、涼しさが混じり始めた初秋の風だ。

「―――あら、羨ましいわ。夜空の下でデートなんて」

その時。
紅い霧を引き連れて。

「そんな亡霊なんかより、この私をエスコートしてくれないかしら?」

眩くも、虚ろな月を背に。

「ねえ、ジロー?夜を棲家とする者同士、仲良くしましょうよ」

幼く、可憐で、それでいて何者よりもおぞましき悪魔が。

「このレミリア・スカーレットと、アバンチュールを愉しみましょう」

真紅の吸血姫が。
レミリア・スカーレットが、宵闇よりも更に黒き翼を広げ、其処にいた。