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天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 ~惑いて来たれ、遊惰の宴~ 祝勝会(後篇)・困った時の八雲紫
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furari
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―――前回のおさらい―――
幽々子がケーキを一人で食べた!
全く!
この亡霊は全く!
全く!
この亡霊は全く!
「…………」
しぃぃぃぃん…。
静寂が、空間を支配していた。
―――楽しく騒がしいはずの、レッドさんの祝勝会。
本来ならば、ちゃぶ台の上に並ぶヴァンプ様の手料理に舌鼓を打ちつつ、会話も弾んでいたはずだ。
何故だ。
何故、こんな事になってしまったのか。
ちゃぶ台を囲む皆の表情は一様に暗い。
残機ゼロ・ボム無しで難易度ルナティックの6面ボスに挑むプレイヤーの如く深刻な面持ちだ。
誰もが黙々と箸を動かし、機械的に料理を口に運ぶ。
ケーキがない。
食後のお楽しみ、ケーキがない。
その事実を知った時、コタロウは号泣した。
レッドさんとジローさんはケーキにさほど執着があったわけではないが、幽々子の非常識極まる行動に対し、流石に
難色を示した。
ジローにとってコタロウは最愛の弟であり、レッドさんも彼の事をウザがりつつ、何だかんだで兄貴分として世話を
焼いている身である。そのコタロウをこれだけ悲しませたのは、業腹であった。
妖夢については、前回ラストで幽々子をボコボコにしてなお、怒りと悲しみは収まっていない。
単純にケーキがないという以上に、尊敬し、敬愛する主人がそんな恥知らずな行動を取ったという事実そのものが、
根は実直かつ真面目な従者である彼女にとっては許し難い事であった。
かくして、この夕餉(ゆうげ)は、さながら家庭崩壊寸前の一家の気まずい食事風景と化していた。
「あ…相変わらず、お…美味しいわねえ、ヴァンプさんのお料理!オホホ…」
「い、いやあ、恐縮です。頑張った甲斐がありました、はは…」
その空気を打破すべく、対話を試みた幽々子とヴァンプ様。
立派だった。大人の対応だった。
元はと言えば幽々子がケーキを食ったのが原因であるが、だからこそ場を和ませようと努力している姿勢については
評価されるべきである。ヴァンプ様もそんな彼女の心情を慮り、笑顔を見せているのだ。
ヴァンプ様とて、彼女のつまみ食いの範疇を遙かに超えた蛮行に思う所はある。
されど、罪を憎んで人を憎まず。それがヴァンプ様である。
しかし。
それで済むようなら、世の中はもっと潤滑に回っている。
しぃぃぃぃん…。
静寂が、空間を支配していた。
―――楽しく騒がしいはずの、レッドさんの祝勝会。
本来ならば、ちゃぶ台の上に並ぶヴァンプ様の手料理に舌鼓を打ちつつ、会話も弾んでいたはずだ。
何故だ。
何故、こんな事になってしまったのか。
ちゃぶ台を囲む皆の表情は一様に暗い。
残機ゼロ・ボム無しで難易度ルナティックの6面ボスに挑むプレイヤーの如く深刻な面持ちだ。
誰もが黙々と箸を動かし、機械的に料理を口に運ぶ。
ケーキがない。
食後のお楽しみ、ケーキがない。
その事実を知った時、コタロウは号泣した。
レッドさんとジローさんはケーキにさほど執着があったわけではないが、幽々子の非常識極まる行動に対し、流石に
難色を示した。
ジローにとってコタロウは最愛の弟であり、レッドさんも彼の事をウザがりつつ、何だかんだで兄貴分として世話を
焼いている身である。そのコタロウをこれだけ悲しませたのは、業腹であった。
妖夢については、前回ラストで幽々子をボコボコにしてなお、怒りと悲しみは収まっていない。
単純にケーキがないという以上に、尊敬し、敬愛する主人がそんな恥知らずな行動を取ったという事実そのものが、
根は実直かつ真面目な従者である彼女にとっては許し難い事であった。
かくして、この夕餉(ゆうげ)は、さながら家庭崩壊寸前の一家の気まずい食事風景と化していた。
「あ…相変わらず、お…美味しいわねえ、ヴァンプさんのお料理!オホホ…」
「い、いやあ、恐縮です。頑張った甲斐がありました、はは…」
その空気を打破すべく、対話を試みた幽々子とヴァンプ様。
立派だった。大人の対応だった。
元はと言えば幽々子がケーキを食ったのが原因であるが、だからこそ場を和ませようと努力している姿勢については
評価されるべきである。ヴァンプ様もそんな彼女の心情を慮り、笑顔を見せているのだ。
ヴァンプ様とて、彼女のつまみ食いの範疇を遙かに超えた蛮行に思う所はある。
されど、罪を憎んで人を憎まず。それがヴァンプ様である。
しかし。
それで済むようなら、世の中はもっと潤滑に回っている。
ギロッ!
一斉に睨まれ、二人はさっと目を逸らした。
彼らの瞳には、どう好意的に見ても<怒>以外の文字は刻まれていない。
再び、沈黙が訪れた。
基本が騒々しい世界である幻想郷において、ここまで静かな空間が形成された事は歴史上稀に見る珍事であろう。
それもこれも、幽々子がケーキを食べたからである。
「…もう、いいよ」
コタロウが、泣き腫らして真っ赤になった目で呟く。
「確かに、ケーキを食べちゃったゆゆちゃんは酷いけど…ぶっちゃけありえないけど…こんなの絶対おかしいけど…
でも、いつまでも根に持ってたって仕方ないじゃん」
「コタロウ…」
まるで聖人の如きコタロウの言葉に、誰もが聞き入った。
「さ、もう怒るのはやめようよ!レッドさんの祝勝会なんだから、パーっと明るくいこう!ねっ!」
楽しみにしていたケーキがなくなった。
それでも誰も憾(うら)まず、運命を受け入れ、懸命に笑おうとしている彼の姿は、まさに天使だった。
「コ、コ、コタロウー!あなたとヴァンプさんだけよ、私の味方は!」
感動の余り、幽々子はコタロウを抱き締める。
大きな胸に挟まれたおかげで非常に息苦しかった。
「全く…いつまでも、我儘な子供と思っていたのに…」
ジローは弟の見せた慈悲と博愛に対し、そっと目尻を拭った。
「ま、いつまでもグチグチ言ってんのも大人げねーしな…」
レッドさんも頑なな態度を解いて、歩み寄る姿勢を見せる。
「そうですとも。気を取り直して、パーッといきましょう、パーッと!」
ヴァンプ様も、流石の器の大きさである(悪の将軍としては相変わらず間違っていたが)。
一人の吸血鬼少年が示した、平和への道。
全ては上手くいくように思えた。
「それでも」
その時、妖夢が、地を這うような声で呟く。
「それでも、幽々子様がケーキを食ったという事実は消えない…!」
「…………」
どうやら、この一件について最も根に持っているのは、彼女のようであった。
妖夢だって、ケーキが食べたかったのだ。甘い物は大好きなのだ。
だって女の子だもん。
かくして空気は再び、お通夜に逆戻りした。
「…………」
それに耐え切れなかったのか、幽々子はそっと襖を開けて出ていった。
彼女を引き止める者は、誰もいなかった―――
彼らの瞳には、どう好意的に見ても<怒>以外の文字は刻まれていない。
再び、沈黙が訪れた。
基本が騒々しい世界である幻想郷において、ここまで静かな空間が形成された事は歴史上稀に見る珍事であろう。
それもこれも、幽々子がケーキを食べたからである。
「…もう、いいよ」
コタロウが、泣き腫らして真っ赤になった目で呟く。
「確かに、ケーキを食べちゃったゆゆちゃんは酷いけど…ぶっちゃけありえないけど…こんなの絶対おかしいけど…
でも、いつまでも根に持ってたって仕方ないじゃん」
「コタロウ…」
まるで聖人の如きコタロウの言葉に、誰もが聞き入った。
「さ、もう怒るのはやめようよ!レッドさんの祝勝会なんだから、パーっと明るくいこう!ねっ!」
楽しみにしていたケーキがなくなった。
それでも誰も憾(うら)まず、運命を受け入れ、懸命に笑おうとしている彼の姿は、まさに天使だった。
「コ、コ、コタロウー!あなたとヴァンプさんだけよ、私の味方は!」
感動の余り、幽々子はコタロウを抱き締める。
大きな胸に挟まれたおかげで非常に息苦しかった。
「全く…いつまでも、我儘な子供と思っていたのに…」
ジローは弟の見せた慈悲と博愛に対し、そっと目尻を拭った。
「ま、いつまでもグチグチ言ってんのも大人げねーしな…」
レッドさんも頑なな態度を解いて、歩み寄る姿勢を見せる。
「そうですとも。気を取り直して、パーッといきましょう、パーッと!」
ヴァンプ様も、流石の器の大きさである(悪の将軍としては相変わらず間違っていたが)。
一人の吸血鬼少年が示した、平和への道。
全ては上手くいくように思えた。
「それでも」
その時、妖夢が、地を這うような声で呟く。
「それでも、幽々子様がケーキを食ったという事実は消えない…!」
「…………」
どうやら、この一件について最も根に持っているのは、彼女のようであった。
妖夢だって、ケーキが食べたかったのだ。甘い物は大好きなのだ。
だって女の子だもん。
かくして空気は再び、お通夜に逆戻りした。
「…………」
それに耐え切れなかったのか、幽々子はそっと襖を開けて出ていった。
彼女を引き止める者は、誰もいなかった―――
月光に照らされた中庭で。
幽々子は悔恨に塗れて、ただ号泣した。
こんな事になるならば、ケーキを食べるんじゃなかった…。
今更ながらの懺悔を受け止めてくれる者など、誰もいない。
幽々子は悔恨に塗れて、ただ号泣した。
こんな事になるならば、ケーキを食べるんじゃなかった…。
今更ながらの懺悔を受け止めてくれる者など、誰もいない。
―――否。
「あらあら。どうしたのかしら、幽々子。ガキ大将にでもいじめられたのかしら?」
空中に生じた<スキマ>から、ひょっこりと顔を出したのは。
―――或る者は彼女を<神隠しの主犯>と呼んだ。
―――或る者は彼女を<幻想の境界>と呼んだ。
―――或る者は彼女を<境目に潜む妖怪>と呼んだ。
―――また或る者は彼女を<割と困ったちゃん>と呼んだ。
―――或る者は彼女を<幻想の境界>と呼んだ。
―――或る者は彼女を<境目に潜む妖怪>と呼んだ。
―――また或る者は彼女を<割と困ったちゃん>と呼んだ。
妖怪の賢者―――八雲紫。
彼女は幽々子に向けて、薄く笑う。
慈悲深いとも胡散臭いとも単に面白がっているだけとも取れる、曖昧な笑顔だ。
もしかしたら、そのどれでもないのかもしれない。
彼女は基本的に、いつでも掴み所なく、笑っているだけなのだから。
それはともかく、幽々子は紫に盛大に泣きついた。
「うわあああああん、ゆかりいいいいい!」
「ふむふむ…ケーキを勝手に食べちゃって」
「うえええええん!」
「妖夢がとうとうブチキレた」
「わあああああああん!」
「皆の間に流れる、この上なく気まずい空気」
「ぶええええええん!」
「無敵の<境界を操る程度の能力>で何とかしてくださいよォーーーッ」
「よく分かるわね」
「長い付き合いだからね」
紫はやれやれだぜ、と言わんばかりの顔で。
「ま、いいでしょ。貴女に恩を売っておくのも、悪くない」
そのしなやかな手を、幽々子に向けて翳した。
其れは現実を捻じ曲げ、幻想を具現化し、世界すら歪ませる、神にも比肩しうる八雲紫の異能。
彼女は幽々子に向けて、薄く笑う。
慈悲深いとも胡散臭いとも単に面白がっているだけとも取れる、曖昧な笑顔だ。
もしかしたら、そのどれでもないのかもしれない。
彼女は基本的に、いつでも掴み所なく、笑っているだけなのだから。
それはともかく、幽々子は紫に盛大に泣きついた。
「うわあああああん、ゆかりいいいいい!」
「ふむふむ…ケーキを勝手に食べちゃって」
「うえええええん!」
「妖夢がとうとうブチキレた」
「わあああああああん!」
「皆の間に流れる、この上なく気まずい空気」
「ぶええええええん!」
「無敵の<境界を操る程度の能力>で何とかしてくださいよォーーーッ」
「よく分かるわね」
「長い付き合いだからね」
紫はやれやれだぜ、と言わんばかりの顔で。
「ま、いいでしょ。貴女に恩を売っておくのも、悪くない」
そのしなやかな手を、幽々子に向けて翳した。
其れは現実を捻じ曲げ、幻想を具現化し、世界すら歪ませる、神にも比肩しうる八雲紫の異能。
「―――<境界を操る程度の能力>―――」
―――さて。
ちゃぶ台を囲む面々は、未だに口数も少なく、ただ目の前の料理をもそもそと咀嚼している。
事ここに至っては、妖夢とて後悔していた。
さっき全てを許しておけば、多少のわだかまりは残しつつも、また皆で笑い合えたのではないか。
だが、覆水盆に返らず。
全ては、もう遅かった。何もかも、壊れてしまったモノは、もう元には戻せない。
ちゃぶ台を囲む面々は、未だに口数も少なく、ただ目の前の料理をもそもそと咀嚼している。
事ここに至っては、妖夢とて後悔していた。
さっき全てを許しておけば、多少のわだかまりは残しつつも、また皆で笑い合えたのではないか。
だが、覆水盆に返らず。
全ては、もう遅かった。何もかも、壊れてしまったモノは、もう元には戻せない。
―――だが、妖夢は。いや、この場の誰もが失念していた。
この幻想郷には零れた水を何事もなかったかのように元通り盃に戻してしまうようなイカサマを、鼻歌混じりで成し
遂げてしまうような反則技(チート)の持ち主がいるという事を。
この幻想郷には零れた水を何事もなかったかのように元通り盃に戻してしまうようなイカサマを、鼻歌混じりで成し
遂げてしまうような反則技(チート)の持ち主がいるという事を。
「おやまあ、ケーキを食べられただけに、景気の悪い顔が揃っている事」
スキマ妖怪・八雲紫。
自分でも面白いとも思っていないだろう冗談を口にしながら、彼女は悠然と部屋に入ってきた。
風呂敷包みを、その手にぶら下げて。
「何だよ、スキマ若作り。嫌味を言いにきたのかよ?」
「御挨拶ねえ。こちとら、きっちりお土産も持ってきたというのに」
「土産?」
「ほら。これよ」
風呂敷を開く。中には、四角形の白い箱。
ほのかに漂う、甘い香り。
「あ、ああ!まさか…」
「これは…!」
箱を開けると、そこにあったのは。
雪のように白いクリーム。恋する乙女の頬のように赤い苺。
ふわふわのスポンジに、色とりどりのローソク。
―――ケーキ!
失われたはずのその輝きに、誰もが魅了された。
「と、いうわけでもないけれど…幽々子の事、そろそろ許してあげたら?」
紫が指差す方向には、襖の間からバツが悪そうに顔を覗かせる幽々子の姿があった。
何とも憎めないその様子には、妖夢も苦笑するしかない。
「…ま、紫様に免じて、ここはさっぱり水に流すとしましょうか」
「ったく、一番ネチネチしてたテメーが言うなっての。ほれ、大食い亡霊。もういいからこっち来いよ」
「ええ。気を取り直して、皆で祝いましょう」
「そうそう。ほら、ローソクに火を点けて!さ、コタロウくん。元気よく吹き消してね!」
「よーし!コタロウ、いきまーす!」
スキマ妖怪・八雲紫。
自分でも面白いとも思っていないだろう冗談を口にしながら、彼女は悠然と部屋に入ってきた。
風呂敷包みを、その手にぶら下げて。
「何だよ、スキマ若作り。嫌味を言いにきたのかよ?」
「御挨拶ねえ。こちとら、きっちりお土産も持ってきたというのに」
「土産?」
「ほら。これよ」
風呂敷を開く。中には、四角形の白い箱。
ほのかに漂う、甘い香り。
「あ、ああ!まさか…」
「これは…!」
箱を開けると、そこにあったのは。
雪のように白いクリーム。恋する乙女の頬のように赤い苺。
ふわふわのスポンジに、色とりどりのローソク。
―――ケーキ!
失われたはずのその輝きに、誰もが魅了された。
「と、いうわけでもないけれど…幽々子の事、そろそろ許してあげたら?」
紫が指差す方向には、襖の間からバツが悪そうに顔を覗かせる幽々子の姿があった。
何とも憎めないその様子には、妖夢も苦笑するしかない。
「…ま、紫様に免じて、ここはさっぱり水に流すとしましょうか」
「ったく、一番ネチネチしてたテメーが言うなっての。ほれ、大食い亡霊。もういいからこっち来いよ」
「ええ。気を取り直して、皆で祝いましょう」
「そうそう。ほら、ローソクに火を点けて!さ、コタロウくん。元気よく吹き消してね!」
「よーし!コタロウ、いきまーす!」
―――さてさて、色々あったけど、無事にレッドさんの準々決勝進出を祝う事が出来そうです。
紫は果たして、ケーキを何処から持ってきたものやら。
パンパンだったはずのゆゆ様のお腹が、ちょっとスリムになっていたのは何故なのか。
ほんのちょっぴり気になるけれども、それはまあ、そっちに置いといて。
レッドさん、本当におめでとう!
紫は果たして、ケーキを何処から持ってきたものやら。
パンパンだったはずのゆゆ様のお腹が、ちょっとスリムになっていたのは何故なのか。
ほんのちょっぴり気になるけれども、それはまあ、そっちに置いといて。
レッドさん、本当におめでとう!