時は少し戻って早朝。
草原にまばらに生えていた木の陰で休んだザンたちは、ゆっくり朝食をとっていた。
「オラちょっと用足ししてくるだ」
モルプがちょっと恥ずかしそうに言って立ち上がった。
「俺っちも同道するぜ」
モルプの頭の上のキデルも得意の変な時代劇口調で言った。
「じゃあ行ってくるだ」
「うん。一応気をつけてね」
ザンは笑顔で送り出す。
モルプとキデルは連れ立って草原の別の木陰へと走っていった。
すると、時を置かずにザッザッザッと草を踏む足音がザンとリュミールに近づいてくる。
「あれ、早いな?」
相変わらずの濃い霧の中、あまりにも早い二人の用足しにザンが疑問の声を上げる。
「ザン、足音が変よ!」
しかし異変を察知したリュミールがそう言ってザンに寄り添う。
「変って?あっ!!」
「ようやく会えたな小娘!」
ザンが最初に形容したクリームのような濃い霧の中から姿を現したのは、髪が逆立ち、顔の
抗術用の刺青も頬に横三本筋だったものが両目を通して縦三本筋へと変容し、人体改造で
体格も一回り大きくなったガロウズだった。
「このときを待ち焦がれたぞ!」
圧倒的な威圧感で迫りながら、ガロウズは凶悪な笑みを浮かべる。
「お前は!」
ザンはガロウズの術式服の襟についていたルアイソーテの紋章を見て、というよりもその
醸し出す凶悪な雰囲気から瞬時に敵と判断し、リュミールをかばって前に出る。
なぜこの場所が分かったのかなどの疑問はもはや問題ではなかった。
「リュミールは渡さないぞ!」
両腕を広げてガロウズに自分の意思を示すザン。
だがガロウズはそんなザンのことなどまったく意に介さず前に出る。
「小僧、お前の役目は終わった。もはや用はない」
「いや、まだ残っていたな」
ガロウズの目に邪悪な炎が灯る。
「生贄だ」
そう言って右手を差し出す。
途端にザンは直接握られてもない首に圧迫感を感じ、実際に首が絞まって宙に吊り上げられる。
ガロウズの強力な念動だ。
「ザン!」
リュミールが悲鳴を上げる。
「リ……、リュミール……。逃げて……」
金縛りにあったように体を硬直させながらも、ザンはリュミールを気遣う。
「ほう、まだ娘をかばうほど余裕を見せるか、小僧」
対するガロウズは冷静そのものだ。
「やめて!ザンを離して!!」
苦悶の表情を浮かべるザンを見て、リュミールはガロウズに懇願する。
「小娘、こいつを放して欲しいか?」
ガロウズは冷酷な目でリュミールを見やる。
「はいっ!」
リュミールは本能で感じるあまりの恐怖感で立っていられなくなって膝を落とし、涙を流しながら
答える。
しかし、その願いも無下に却下される。
「お前の心の拠り所をこの俺が残すと思うか?」
まるでリュミールのことをなにもかも知っているかのごときガロウズのこの言葉に、リュミールの
体は硬直した。全神経が危険を訴える。
「お前の力は全てもらう」
ガロウズの左手がクンと持ち上がった。
「ぎっ!!」
ザンが悲鳴を上げる。
その足元に肩から先のザンの右手が落ちる。盛大な血しぶきも宙に舞う。
ガロウズの鋭利に尖った思念が物理的な力になってザンの肉体を傷つけた。
抑揚もなにもない、冷酷な一撃だった。
そのあまりの出来事に顔面蒼白になるリュミール。
「小僧の右手がなくなったぞ。どうする小娘」
含み笑いをもらしながら、ガロウズはリュミールに選択を迫る。
ザンと自分の命、どちらを差し出すかを。
だがその時、その様子を影から覗いていた者がいた。用足しに行ったモルプとキデルだ。
「どうすっぺどうすっぺ!ザンが死ぬべよ!」
小さな木陰から現場を覗くモルプが怯えた声を上げる。
「落ち着けモルプ君。今私たちが出て行ってもどうにもならない」
そんなモルプの頭の上でキデルは比較的冷静に状況を見てその頭脳をフル回転させ始める。
「したっけしたっけしたっけ!」
しかしモルプがその思考を阻害する。
「待て待て待て待て!なにか手があるはずだ!なにか手がある、忘れているだけだ。落ち着け俺!」
キデルは頭を抱えて打開策を考える。そして一つの道を見つけ出す。
「そうだ、これがあった!これしかない!」
キデルは左手に装着した腕時計型の超空間通信機を操作すると、最大広域帯、最大出力で
亜空間ビーコンを発信した。
「バーディー!届いてくれ!」
宇宙船との超空間通信、捜査員同士の超空間通信は原因不明で不通となってしまったが、
近距離の亜空間信号、それも相互通信用回線ではなく単純に三次元位置を特定するだけの
発信信号ならば届くかもしれない。
キデルはすぐに気がつかなかった自分の失態を叱責しながらビーコンを打電し続けた。
草原にまばらに生えていた木の陰で休んだザンたちは、ゆっくり朝食をとっていた。
「オラちょっと用足ししてくるだ」
モルプがちょっと恥ずかしそうに言って立ち上がった。
「俺っちも同道するぜ」
モルプの頭の上のキデルも得意の変な時代劇口調で言った。
「じゃあ行ってくるだ」
「うん。一応気をつけてね」
ザンは笑顔で送り出す。
モルプとキデルは連れ立って草原の別の木陰へと走っていった。
すると、時を置かずにザッザッザッと草を踏む足音がザンとリュミールに近づいてくる。
「あれ、早いな?」
相変わらずの濃い霧の中、あまりにも早い二人の用足しにザンが疑問の声を上げる。
「ザン、足音が変よ!」
しかし異変を察知したリュミールがそう言ってザンに寄り添う。
「変って?あっ!!」
「ようやく会えたな小娘!」
ザンが最初に形容したクリームのような濃い霧の中から姿を現したのは、髪が逆立ち、顔の
抗術用の刺青も頬に横三本筋だったものが両目を通して縦三本筋へと変容し、人体改造で
体格も一回り大きくなったガロウズだった。
「このときを待ち焦がれたぞ!」
圧倒的な威圧感で迫りながら、ガロウズは凶悪な笑みを浮かべる。
「お前は!」
ザンはガロウズの術式服の襟についていたルアイソーテの紋章を見て、というよりもその
醸し出す凶悪な雰囲気から瞬時に敵と判断し、リュミールをかばって前に出る。
なぜこの場所が分かったのかなどの疑問はもはや問題ではなかった。
「リュミールは渡さないぞ!」
両腕を広げてガロウズに自分の意思を示すザン。
だがガロウズはそんなザンのことなどまったく意に介さず前に出る。
「小僧、お前の役目は終わった。もはや用はない」
「いや、まだ残っていたな」
ガロウズの目に邪悪な炎が灯る。
「生贄だ」
そう言って右手を差し出す。
途端にザンは直接握られてもない首に圧迫感を感じ、実際に首が絞まって宙に吊り上げられる。
ガロウズの強力な念動だ。
「ザン!」
リュミールが悲鳴を上げる。
「リ……、リュミール……。逃げて……」
金縛りにあったように体を硬直させながらも、ザンはリュミールを気遣う。
「ほう、まだ娘をかばうほど余裕を見せるか、小僧」
対するガロウズは冷静そのものだ。
「やめて!ザンを離して!!」
苦悶の表情を浮かべるザンを見て、リュミールはガロウズに懇願する。
「小娘、こいつを放して欲しいか?」
ガロウズは冷酷な目でリュミールを見やる。
「はいっ!」
リュミールは本能で感じるあまりの恐怖感で立っていられなくなって膝を落とし、涙を流しながら
答える。
しかし、その願いも無下に却下される。
「お前の心の拠り所をこの俺が残すと思うか?」
まるでリュミールのことをなにもかも知っているかのごときガロウズのこの言葉に、リュミールの
体は硬直した。全神経が危険を訴える。
「お前の力は全てもらう」
ガロウズの左手がクンと持ち上がった。
「ぎっ!!」
ザンが悲鳴を上げる。
その足元に肩から先のザンの右手が落ちる。盛大な血しぶきも宙に舞う。
ガロウズの鋭利に尖った思念が物理的な力になってザンの肉体を傷つけた。
抑揚もなにもない、冷酷な一撃だった。
そのあまりの出来事に顔面蒼白になるリュミール。
「小僧の右手がなくなったぞ。どうする小娘」
含み笑いをもらしながら、ガロウズはリュミールに選択を迫る。
ザンと自分の命、どちらを差し出すかを。
だがその時、その様子を影から覗いていた者がいた。用足しに行ったモルプとキデルだ。
「どうすっぺどうすっぺ!ザンが死ぬべよ!」
小さな木陰から現場を覗くモルプが怯えた声を上げる。
「落ち着けモルプ君。今私たちが出て行ってもどうにもならない」
そんなモルプの頭の上でキデルは比較的冷静に状況を見てその頭脳をフル回転させ始める。
「したっけしたっけしたっけ!」
しかしモルプがその思考を阻害する。
「待て待て待て待て!なにか手があるはずだ!なにか手がある、忘れているだけだ。落ち着け俺!」
キデルは頭を抱えて打開策を考える。そして一つの道を見つけ出す。
「そうだ、これがあった!これしかない!」
キデルは左手に装着した腕時計型の超空間通信機を操作すると、最大広域帯、最大出力で
亜空間ビーコンを発信した。
「バーディー!届いてくれ!」
宇宙船との超空間通信、捜査員同士の超空間通信は原因不明で不通となってしまったが、
近距離の亜空間信号、それも相互通信用回線ではなく単純に三次元位置を特定するだけの
発信信号ならば届くかもしれない。
キデルはすぐに気がつかなかった自分の失態を叱責しながらビーコンを打電し続けた。
「亜空間ビーコン!」
横たわった強化兵のすぐ側、シアンに強化兵の人体改造法を説明しようとしたその時、かすかな
信号を受信して、バーディーは思わず叫んだ。
「は?」
その言葉の意味を知らないシアンがとぼけた声を上げるが、バーディーは無視する。
「テュート、携帯端末モードへ」
バーディーが命じると、その姿が生体防壁からソシュウの服を着た姿に戻り、その右手に
通常つとむが携帯電話として使用している端末が現れる。
「な、なにそれ?」
初めてその端末を見たサーラが話しかけるが、バーディーはそれも無視して慌ただしくいくつかの
キーを押す。
「出た!」
バーディーは受信が幻ではなかったことを喜んで、ビーコンの発信点を示すフラップが点滅
していることを確認する。距離は意外と近い。
「いったいなにしてんだよ!」
とうとうキレたシアンがバーディーに向かって怒鳴る。
「巡査部長の緊急救難信号が来たの。なにか起こったんだわ!すぐに行かなきゃ!」
シアンの罵声も耳に入った様子もなく、バーディーはすぐに行動を起こす。
「私は先行するわ!二人はソシュウさんたちと合流して!」
「お、おいっ!」
シアンはわけが分からず止めようとするが、バーディーは疾風のようにその場を去っていった。
「なに、あの速さ!」
瞬動法と見間違うかのようなバーディーのスピードに、開いた口が塞がらないサーラ。
「あーあ、行っちまいやがった」
シアンもサーラと並んでバーディーの去っていった方向を見ながらごちた。
横たわった強化兵の右手がピクリと動いたのはその時だった。
横たわった強化兵のすぐ側、シアンに強化兵の人体改造法を説明しようとしたその時、かすかな
信号を受信して、バーディーは思わず叫んだ。
「は?」
その言葉の意味を知らないシアンがとぼけた声を上げるが、バーディーは無視する。
「テュート、携帯端末モードへ」
バーディーが命じると、その姿が生体防壁からソシュウの服を着た姿に戻り、その右手に
通常つとむが携帯電話として使用している端末が現れる。
「な、なにそれ?」
初めてその端末を見たサーラが話しかけるが、バーディーはそれも無視して慌ただしくいくつかの
キーを押す。
「出た!」
バーディーは受信が幻ではなかったことを喜んで、ビーコンの発信点を示すフラップが点滅
していることを確認する。距離は意外と近い。
「いったいなにしてんだよ!」
とうとうキレたシアンがバーディーに向かって怒鳴る。
「巡査部長の緊急救難信号が来たの。なにか起こったんだわ!すぐに行かなきゃ!」
シアンの罵声も耳に入った様子もなく、バーディーはすぐに行動を起こす。
「私は先行するわ!二人はソシュウさんたちと合流して!」
「お、おいっ!」
シアンはわけが分からず止めようとするが、バーディーは疾風のようにその場を去っていった。
「なに、あの速さ!」
瞬動法と見間違うかのようなバーディーのスピードに、開いた口が塞がらないサーラ。
「あーあ、行っちまいやがった」
シアンもサーラと並んでバーディーの去っていった方向を見ながらごちた。
横たわった強化兵の右手がピクリと動いたのはその時だった。