SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 第094話 「パピヨンvsヴィクトリア&音楽隊の帰還」後編 (10)


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 音楽隊はホムンクルス特有の禍々しさが驚くほど薄い。秋水にちょっかいを出した無銘でさえ言葉の端々にはそこはか
とない愛嬌がある。
 だがそんな姿を見てもなお、斗貴子は受け入れ難い。記憶こそないが故郷の赤銅島はホムンクルスたちによって甚大な
被害を受けている。家族はおろか使用人やクラスメイトすら喰い殺された。唯一覚えているのは戦団の施設で邂逅したホムン
クルス。西山、と名乗るその少年は斗貴子の顔に消えるコトなき一文字の傷を刻んだ。顔に傷。女性たる斗貴子がホムンクル
スを憎悪するに十分だろう。戦団の技術なら傷跡も消せるが、斗貴子にそのつもりはない。傷跡とともに抱え続けたいほどの
憎悪。それをホムンクルスに覚えている。
 桜花や秋水は元々ホムンクルスに与していた。共闘に疑問はないだろう。
 剛太が家族をホムンクルスに殺されたのは物心つく前の話だ。共闘が戦団の姿勢なら、あっさり受け入れるだろう。
 斗貴子だけが、今にも叫びたい気分だ。
 だがそれを抑えようと思ったのは、黒い感情に振り回された時期あらばこそかも知れない。
「やはり、納得できないか? 戦士・斗貴子」
 問いかける防人の前ですうっと深く息を吸い、ゆっくりと正論だけを吐き散らかす。
「そもそも戦団がホムンクルスと共同戦線を張るなんて前代未聞です。あ、いえ。100年前のヴィクター討伐の時、ホムン
クルスの追撃部隊を結成したのは聞いています。ヴィクトリアも無理やり入れられていたとか。でもそれは……」
「共同戦線というより”差し向けた”というレベルだな。それでさえあのヴィクターが相手でなければ起こり得なかった事態だが」
「そうです。戦士とホムンクルスが対等に手を組んで戦うなんて、本来絶対にありえないコトです。なのにどうして火渡戦士長
まで黙認しているんですか? 彼の性格なら真先に反対しそうなのに」
「戦士・斗貴子」
「なんですか?」
「その答えは、キミ自身が既に言っている」
「…………?」
 冷静になったせいか。言葉を吐き終えた斗貴子は別の事実に気付く。
(ホムンクルスと、共同戦線? 私達をあれだけ苦しめた音楽隊を1人も殺さないまま……共闘?)
 嫌な予感が全身を過った。うなじの辺りから背中がじっとりとした汗にぬめる。
 以前から、予感があった。大戦士長の誘拐について、警戒していた。
 パピヨンをめぐる演劇部事件の中、思っていた。

──(すでに一線を退いている戦士長に連絡が来るとすれば大戦士長が救出された後か、或いは!)

──(大戦士長を誘拐した連中が、本部にいる火渡戦士長たちだけで手に負えないほど強大か!)

──(そのどちらかの筈! 残党狩りが終わった今、私達が備えるべきは後者!)

 凛々しい顔が青ざめていく。

(まさか……大戦士長を誘拐した相手というのは、私達はおろか音楽隊の手まで借りなければならないほど強大なのか?)

(100年前、ホムンクルスの追撃部隊を組織した時のように)

(ヴィクターに匹敵する敵が、控えている?)

 答えを求めて仰ぎ見る防人もまた一瞬微妙な表情を浮かべたが、すぐさまニヤリとほほ笑んだ。
 あたかも、来たる戦いへの不安を少しでも取り除こうとするように。

「まあなんだ。そう彼らを敵視しなくてもいいぞ戦士・斗貴子! 見ての通り彼らはなかなか気のいい連中だぞ」」
「私はそこの鳩尾無銘の敵対特性で重傷を負わされました。剛太も桜花も早坂秋水も他の音楽隊に」
 防人の頬に冷や汗が浮かんだ。
「鐶とかいう副長に至っては人混みを散々混乱させた挙句、調整体をけしかけ、将棋倒しさえ起こしました。一歩間違えれば
死人がでるようなコトを。戦士長は知らないかも知れませんが、銀成学園の生徒を何人も傷つけ、胎児にしたのも鐶です」
 鐶が小声で(無銘の分まで)謝る中、斗貴子はただ冷然たる面持ちで一人の男を睨み据えた。
「過去を責めても仕方ないのは十分身に沁みて分かっている。いま重要なのはこれから何をするかだ。それがキミたちとの
共闘というなら、戦団が判断したのなら、私は従うだけだ。一度は戦団に反逆し、再殺部隊の円山に重傷を負わせた私が今
でも戦士を続けていられるのは大戦士長のお陰だからな。戦団が大戦士長の救出にキミたちの……ホムンクルスの力が
必要というなら、私情を捨て、共闘を受け入れなくてはならない。強大な敵が控えているというなら、尚更」
 自分自身に言い聞かせるように、無理やり納得をさせるように、言葉を吐く。

「とはいえ」

 真一文字の上で鋭く尖る瞳は、ただ一人の男を射抜いていた。

「正直、説明して貰わなければ気が済まない。戦士である私がかつて人々に厄災を振りまいたホムンクルスを見逃してまで
戦わなければならない組織というのは何だ? お前たちはその組織とどういう関わりがある? 仮にも協力を唱える以上、
その辺りの情報は伝えて貰わなければ困る」

 視線の先でその人物──総角主税──は静かに口を開いた。


「では単刀直入に説明させてもらう」

「大戦士長坂口照星を攫ったのは、俺たちブレミュ全員の運命を狂わせた組織」


 秋水は気付いた。余裕の権化のような総角から、その主成分がカラカラに蒸発しているのを。
 表情こそいつもと変わりないが、剣客としての鋭敏さがわずかな違和感を覚えた。
 まるで駆け出しの剣客が、名うての剣豪に挑む時のような清冽(せいれつ)で凄烈な緊張感が、総角の内面に満ちている
ようだった。
「総角。君は俺と戦った時、確かに言ったな」
「フ」
「ニオイ」に気付かれたのを恥じたのか、それともただ懐かしき記憶に陶酔したのか。
 金髪の美丈夫は目を閉じ、透き通るような笑みを浮かべた。

「小札達を一人ずつ俺にけしかけた真の理由が」

──「君の部下の『能力の底上げ』。……違うか?」
──「フ。珍しく長広舌(ちょうこうぜつ)御苦労。まぁ、大体は合っている」

「能力の底上げ、だと」
「確かにいったな」
「では」
 かつて震えとともに脳裡に描いた言葉が、総角へ放たれる。一言一句違わず、今度こそ。今度こそ。

「貴信と香美を一つの体にしたのも)」

「無銘を異常な方法で創造(つく)ったのも」

「小札のいった『絶対に倒すべき恐ろしい敵』も」

「鐶に無数の鳥や人間へ変形できる能力を与えたのも」

「すべて、その組織……なのか?」


 総角主税は質問を肯定する。残酷なまでに、呆気なく。事もなげに頷いて、肯定する。


「ああ。そうだ」

 一座は水を打ったように静かになった。

 音楽隊の面々は軽く息を呑んだきり硬直し、剛太や桜花は「まさか……」と戦慄いた。
(冗談じゃねェ。鐶を作ったのがその組織っていうなら)
(理論上は、光ちゃんレベルのホムンクルスを量産できるわね。或いは、それ以上のを──…)
 防人は腕を揉みねじったまま直立し、斗貴子だけが回答を求めるように鋭い瞳を総角に向けた。
「つまり、君たちにとって戦団は、「敵」の「敵」。だから共闘を申し出たという訳か」
「御名答。部下を鍛えたとはいえ奴らはまだまだ手に余る。だから協力者が欲しかった」
 棘の消えぬ斗貴子に応じる声は、どこか暗く、そして硬い。
「なら、以前の戦いは共闘を見越した上での売り込みか? つくづくフザけた男だな。まだ利用されている気がしてならない」
「否定はできないが……安心しろ。既に言ったが、協力して頂く以上は俺たちも協力する。利用などは絶対にしない」
                                                               .
「待てって総角! どんな敵かはしらねーけど、大抵の奴はお前と鐶がいりゃあ何とかなるんじゃねーの!?」

 緊張に耐えかねたように叫ぶ御前に総角はただ、爽やかな笑みを浮かべた。

「ならないさ。下っぱはともかく、幹部級については俺でさえ楽勝とはいかない。鐶でさえ2人同時に相手どれば負ける」

「そして幹部は10人」

「そんな相手が…………10人……?」
 形の良い唇から血の気が引いているのを桜花は感じた。軽い身震いさえ全身を支配しているようだった。
「……組織の強さはおおむね把握した。だが勿体つけずに名前ぐらい教えたらどうだ」





「レティクルエレメンツ」





 総角はただ、その組織の名前を静かに呟き、一瞬だが遠い目をした。
 綽綽たる表情は消え失せ、かなりの緊張と後悔に満ちている。
 後悔? 秋水は首をかしげた。目を細める総角は、後悔しているようだった。
 組織の名を告げたコトにではなく、いま名を告げた組織に奪われてしまった大事な「何か」を悔やんでいるようにも見えた。
 そして彼は、小札を一瞥し、すぐ視線を逸らした。
 小札も、総角と似た表情をしていた。沈痛で、今にも泣きそうな……それを前に進むコトで抑えようとする表情だった。

(君たちの間に、一体何があったんだ?)

 秋水の疑問など構わず、総角は言葉を紡ぐ。

「レティクルエレメンツ。それが組織の名前だ。幹部の階級を示すは太陽系を巡る星々。即ち。

月。
水星。
金星。
火星。
木星。
土星。
天王星。
海王星。
冥王星。

そして、太陽。

以上、10人だ。もっとも幹部に上下関係はない。全員が同格。名目上は冥王星さえ太陽と同等の発言権を持つ」
「デルザー軍団みたいだな……」
 いやに渋い例えを持ち出す御前に微苦笑を浮かべつつ総角は説明を続け、彼の部下達はそれぞれの表情で聞く。
 無銘は、尖った瞳の中で憎悪の蒼い焔をぱっと燃やし。鐶は、虚ろな瞳を空色に湿らせ。
 香美はわずかに不安げな表情をしながら、後頭部をさする。貴信の表情だけは、分からない。

「マレフィック。階級の枕詞に”凶星”を戴く彼らはいろいろとアクが強いが、『盟主』……『太陽』には絶対の忠誠を誓っている」
「太陽が……トップ……?
 露骨に嫌悪感を示す斗貴子に、総角はゆったりと応対する。
「そして。盟主の名は──…」







──数日前。パピヨンの研究施設で──


「で? 100年前、貴様とあののーみそを守っていたという戦団の物好きの名前は?」
「アナタまだ拘っていたの? 別にいいけど。はいはい睨まないで。言えばいいんでしょ?」
 ヴィクトリアは薄い胸をすうっと膨らませ、滑らかな声で彼を語る。

「私にクローン技術を教えた人」

「私の夢に出てきた人」

「元々はママの上司で、賢者の石研究班の班長にも関わらず」

「武装錬金の特性が『特殊すぎる』せいで、試験的に戦士見習いをしていたあの人」

「総角主税そっくりの、認識表を掛けた金髪さんの名前は──…」







──現在。光届かぬ各所にて恨めしげに佇む影達──


                                    「あぁもう、ほっしーなあ! いっつも着とる可愛い服!!」

          「面倒くさい……」  

                                      「激しいわよん。壊すのがセックスよりお好きですからん」    

「彼にゃ助けたかった命歪められたwwああ憂鬱wwwwwww」

                                  「お仕えする理由? 従えばうまい飯が食えるからじゃよ。ひひっ!」

「及公(だいこう)がお貸しになられたラジコン、ノリとテンションで壊すのやめろ! お前はあれか、ジャイアンか!」

                                 「プロデュースしやすよ。人の、飾りだけの枠ブチ破るにゃうってつけでさ」 

「いくらいくら伝えても伝えても伝えても笑って笑って許してくれるのよ怒りたいぐらい尊敬できる尊敬できるうふふあははは!!」 

                    「この上なく妬ましいです!! だって実は”※※※※”なのに尊敬されまくってるんですよぉ!?」




                         「「「「「「「「「そんな、盟主様の名は──…」」」」」」」」」



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「メルスティーン=ブレイド」







 総角は、名状しがたき激しさを意思の力で抑えながら。
 ヴィクトリアは、どこか懐かしげに。
 影達は、実にさまざまな感情を込めて。


 その名を、呼んだ。






「メルスティーン=ブレイド?」
「ああ。それが、盟主の名前」


「そして」





「武装錬金の複製」
 それを武装錬金の特性とする青年は一拍を置き、決定的な事実をただ、無感情に告げた。







「俺は、彼のクローンだ」






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