SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ とある殺人鬼の物語(後篇)


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伝説にして空前絶後の殺人鬼―――<切り裂きジャック>。
その凶刃によって命を奪われた犠牲者は、確実に分かっているだけで五人―――
実際には、二十人近くの娼婦が殺されたとも言われている。
捜査線上には多くの容疑者が浮かび上がったが、その正体は誰も特定出来なかった―――否。
たった一人。
碩学(せきがく)ならぬ身で天才と呼ばれ、当時、唯一<名探偵>と称された男。
常識も桁も外れた洞察力と推理力と情報収集力、そして行動力を備えた超人。
その名を<シャーロック・ホームズ>。
彼に<切り裂きジャック事件>の捜査を依頼すべくベーカー街221Bのアパートを訪れたのは、二人。
まずは、スコットランド・ヤードのレストレイド警部―――そして、彼の帰りを見計らったかのように
現れた、ジュスティーヌと名乗る見目麗しい女性だった。
レストレイドは法と正義と国の平和―――個人的理由として溺愛する姪っ子の身の安全―――の為に。
ジュスティーヌは<さる、偉大なる御方の崇高なる目的>の為に―――
それぞれ<切り裂きジャック>の正体を突き止める事を依頼してきた。
その灰色の脳細胞を駆使し、導き出した解答。

―――切り裂きジャックは、イーストエンドの路地裏を根城とする、年端もいかぬ一人の少女。

二人の依頼者に、この答えが知らされたのはほぼ同時…正確に言えば、レストレイド警部の方が、少し
だけ早かった。
しかして、より速く動き出したのはジュスティーヌ。
この差は、レストレイドが警察の一員であり、何をするにも煩雑な手続きが必要であった事。
逆に、ジュスティーヌはそれよりも遥かに身軽に動けるだけの融通と権限を持っていた事に起因する。
もしも…もしも、スコットランド・ヤードが少女の細腕に手錠をかける方が早かったとしたら。
美しき殺人鬼は法によって裁かれ、最低最悪の犯罪者として処刑され、人生を終えていただろう。
最低限とはいえ―――人として死ぬ事が、赦されただろう。
だが、そうはならなかった。

1888年11月9日。
少女のちっぽけな世界は脆くも崩れ―――そして、新たな物語が始まる。


いつもの殺し。
その筈だったのに。
いつも通り、娼婦を見つけては襲い、襲っては惨殺するだけの簡単なお仕事。
その筈だったのに。
「な…なんなんだ…」
ガチガチと自分の歯が鳴るのを、ブルブルと身体が震えるのを抑えられない。
目の前には惨殺され、解体された今宵の蛮行の犠牲者。
そして。
「どうしたんだい、仔猫(キティ)。先程までの威勢は、何処にいってしまったのだろうね?」
怯える少女を眺め眇めて、舌なめずりをする男。
黒ずくめのタキシード。黒髪黒瞳。夜を具現化したような、黒に塗り潰された男だった。
何より黒いのは―――空気。男が発する気配自体が、おぞましいほどに黒い。
何が起こったのか、少女にはよく分からなかった。
何が襲ったのか、少女にはよく分からなかった。
唯一つ…この男が、途方もない怪物とだけ分かった。


とあるアパートの一室。
娼婦を殺し、少女は解体に勤しんでいた。
頭の天辺から爪先まで、哀れな娼婦の肉体の全てを切り刻んでから、腹を割いた。
赤黒い子宮を引っ張り出して、糞が詰まった大腸を取り出す。
血と糞尿の交じり合った異常な臭気さえ、今の少女にとっては芳しい媚薬だ。
うっとりしながら胃を、腎臓を、肝臓を、脾臓を、心臓を、次々に抉り出していった。
まさに至福の一時。凄惨極まるおままごと。
この世の地獄としか思えない、その場所に。

―――そいつは、月光を纏って現れた。

「こんばんは、お嬢さん(フロイライン)―――お楽しみの所、失礼するよ」
音も立てず、気配すら発する事なく、黒き男はまるで、最初からそこにいたかのように、気軽な調子で
少女に笑いかけた。
「な…なんだ、テメエっ!」
狼狽し、ナイフを構えて男に向き合う。焦っていた。恐怖していたといってもいい。
現場を見られた事以上に、男そのものの放つ、異様な雰囲気に。
「フフ」
対する男は余裕そのもので、少女を見つめる。まるで、ヤンチャな仔猫をいとおしむように。
「笑うな…」
それを嘲り受け取り、少女は―――<切り裂きジャック>は、狂気を持って凶刃を振るう。
「わたしを笑ってんじゃねえぞ、ネクラ野郎っ!」
突き出された刃は、しかし、ポッキリと根本から折られた。
男が人差し指と中指だけで刃先を摘み、まるで爪楊枝のように、あっさりへし折ったのだ。
「え…え…」
少女にとって、その銀色に輝く刃物は、絶対の武力だった。
どんな愚鈍だろうと、それを突き付ければ、顔を青くして自分に向かって土に頭を擦り付けた。
なのに―――何で―――
「―――何で。何で折れてんだよォっ!?ナ、ナイフってのは刺したり切ったりするもんだろォっ!?
折れるもんじゃねぇだろォがァァァァっっっ!!!」
「下らんね。何という低能だ。そんなもので私を…<モントリヒト>を殺せる気でいたとは」

ズォォォォォッ!
夜気を切り裂き、瘴気を噴き出しながら、男の背中からドス黒い翼が広がった。
痺れた頭で、やっとこ少女は理解した。
自分は…この世のものならぬ<怪異>に出遭ってしまったのだと。

<月の一族(モントリヒト)>

即ち―――吸血鬼。
それは遥か昔から存在する、人間の血を啜り、肉を喰らう異形の怪物(モンスター)。
夜を支配する王。
霊長類の頂点を極めたはずの人間の、更に上位に位置する存在。
通常の生命体とは比較にもならない身体能力と、数々の異能力。
ヒトは、彼等に恐怖しながらも、時に憧憬を覚え、崇拝さえする。
ヒトは、本能的に知っているのかもしれない―――彼等こそ、己の主だという事実を。


―――いつもの殺し。
その筈だったのに。
いつも通り、娼婦を見つけては襲い、襲っては惨殺するだけの簡単なお仕事。
その筈だったのに。
「な…なんなんだ…」
ガチガチと自分の歯が鳴るのを、ブルブルと身体が震えるのを抑えられない。
目の前には惨殺され、解体された今宵の蛮行の犠牲者。
そして。
「どうしたんだい、仔猫(キティ)。先程までの威勢は、何処にいってしまったのだろうね?」
怯える少女を眺め眇めて、舌なめずりをする男。

―――なんで、こんな事になっちまったんだよぉっ!?

あっさりと組み敷かれ、少女は今度こそ、絶望した。
こいつは、本気でわたしを殺す心算(つもり)だ。
わたしを―――殺すんだ!
「な…なんで…わたしを…こ…殺す…の…?」
「なんで?可笑しな事を訊ねるものだね。狩猟に理由なんているのかい?君だってそうだろう。楽しい
から、愉しいから、樂しいから殺す―――私もそうなのさ」
ククク、と。吸血鬼は魔王のように残虐に嗤う。
「君のような仔猫の可愛いお顔が恐怖と絶望に歪むのを見るのは、最高だ。そして、その顔を引き裂く
のは、もっともっともっと最高だ。嗚呼、私の槍(ロンギヌス)を見てくれ給えよ…君を嬲る喜びで、
こんなに猛っているぞ」
言葉通り、スラックスの上からでも分かるほどに彼の怒張は限界まで漲っている。滲み出したカウパー
が股間に染みを作っていた。
「素晴らしい。素晴らしいよ。君の血を啜る瞬間、私はきっと射精してしまうだろう」
「…………!」
涙と鼻水と涎で顔中をグシャグシャにして、少女は酸欠の金魚のように口をパクパクさせる。
如何なる怪物的殺人鬼といえど―――真の悪魔(デモン)の前には、無力な少女にすぎない。
「さあ、仔猫。精々、小粋な命乞いを聴かせておくれ」
「…………あ…」
プシャァァァ…。
間の抜けた音を立てて失禁しながら。
無理矢理に笑顔を作って、少女は必死で悪魔に媚びる。
「あ…あた、し…」
「ん?」
「あた、し、これでも、昔は娼婦、だったから…た、助けてくれる、なら…や、ヤらせて、あげる…」
ポカンと。吸血鬼は、口を開けた。
「く、口がいいならしゃぶったげる!下の方だって好きなだけヤっていいよ!?そ、そうだ!お尻の方は
ま、まだ処女なんだよ?だ、だから、助け…」
「君はバカかね」
吸血鬼は、心底呆れたと言わんばかりに嘲った。
「我々にとって人間とは血を提供する家畜に過ぎない―――君は豚を殺す時に、豚が<セックスさせて
あげるから助けて>とぬかしたら救ってあげるのかい?」
「あ…う…うぐぅ…」
「君にはがっかりだよ。この地上で最も高貴な精神と誇りを持つモントリヒトである私に、そのような
惨めったらしい命乞いを聴かせるとは―――俺様をバカにしてんのか!?えっ!?このビッチがァっ!
誰がテメエの腐れマ○コになんぞ突っ込むかよ、ビチグソがァッ!」
先程までの紳士ヅラをかなぐり捨て、本性を露わに、モントリヒトは牙を剥き出しにする。
終わった。
少女は絶望と恐怖の臨界点などとっくに越えて、ある意味で安堵と平穏さえ感じていた。
これで、終わる。
最低で最悪なわたしの人生は…やっと、終わるんだ。
少女は目を閉じた。
「もう…いいよ」
気付けば、虚ろに笑っていた。
「せめて…楽に、死なせて…」
「…よかろう」
落ち着きを取り戻したのか、穏やかな口調に戻って、吸血鬼は少女の耳元で囁く。
「なぁに、痛いのは一瞬さ。その血を、我が糧としてくれよう」
首筋にかかる、冷たく、死臭が漂う吐息。
次の瞬間には、その牙が、この血を、命を、吸い尽くしてくれるだろう。
少女は生まれてこの方ありえない程の静かな心境で、その時を待った。

「まだよ」

凛と響く、声。

「あなたはまだ、冥府の王の元へ逝くべきでないわ」

目を開き、その声の主を見た。
窓辺から修羅場と化したこの部屋に降り立ったのは、まるで女神のように美麗な女性。
豊満な肉体を包む、胸元から腹部までざっくり露出させた大胆な衣装。
むせ返る様な色香を放つ彼女の名は―――F05(エフ・ヒュンフ)。
その神々しいまでの美貌に、少女は命の危機さえ忘れて見惚れた。
「め…めがみ…さま…?」
それが、彼女に対する第一印象だった。F05はまさしく女神のように艶然と、少女に微笑む。
対して吸血鬼は顔を引き締め、少女から離れる。
その表情からは緊張と、そして僅かながら恐怖すら見て取れた。
強大なる悪魔が―――たおやかな一人の女性を、恐れていた。
「なるほど…美しすぎる屍人姫の御登場というわけか」
「あら。どうやら私の事を知っているようね?」
「知らぬわけがないさ。我等モントリヒトの忌々しき怨敵―――<装甲戦闘死体>め!」

<装甲戦闘死体(Die Panzerkampfleiche)>

其れは、復讐の衝動(イド)に突き動かされし狂気の天才―――
<ヴィクター・フランケンシュタイン>によって造り出されたモノ。
死体を素材とする禁忌の超人戦士にして、モントリヒトを抹殺する為の禁断の兵器。
墓を暴いて、道端に打ち捨てられた死体を拾って。
時には自らの手で人を殺してでも、フランケンシュタインは素材を集めた。
全ては、モントリヒトを一匹残さず全滅させるべく。
その尖兵となる為に、ただそれだけの為に、彼女達は死せる後も動き続ける。

そして、彼女―――F05はその一体。
生前はパリを恐怖に陥れた毒殺魔ド・ブランヴィリエ侯爵夫人。
死後は装甲戦闘死体F05としてモントリヒトを虐殺する、生粋の殺戮者である。


―――勝負は、あっけないくらいに一方的だった。
少女を脅かしていた恐るべき吸血鬼は全身を切り刻まれて、血の詰まった肉の塊と化した。
「が…ガハ…ッ…!」
人間ならば悠に十回は死ねている筈の重傷を受けて、それでもまだ、彼は生きていた。
それはむしろ、不運でしかない。
ただ、苦しみを無意味に長引かされているだけなのだから。
そのズタズタの全身に、F05の振るう、無数の刃が付いた鞭が巻き付く。
「ぐっ…う、うう…」
「これで終わりよ、汚らわしいモントリヒト」
ヒトは、悪魔の前には無力―――されど。
その悪魔とて、悪魔殺し(デモンベイン)の前にはまた、無力だ。
「さあ、腐れ吸血鬼(ファッキン・サッカー)。精々、小粋な命乞いを聴かせて頂戴」
「…は…」
彼は、それでも。
最期の時を迎えても―――地上で最も高貴と自称する誇りだけは、失わなかった。
「一足早く、地獄におわす我等が神の元で待っているぞ。美しすぎる屍人姫よ…」
「それでは―――Au revoir(さようなら)」
F05は。美しき屍は。大蛇の如く、鞭を撓らせた。

「汚れし処刑―――ダーティー・エクスキューション!」

モントリヒトの肉を引き裂き、抉り、細切れに変えて―――ようやく。
彼は苦痛の生から解き放たれて、灰へと還った。
「…任務その一、モントリヒトの抹殺―――完了。さて」
部屋の隅でガタガタと震える少女に向き直る。目が合った瞬間、彼女はビクっと身を竦めた。
「怖がらせちゃったかしら?安心なさい。私はあなたの味方よ」
頭を撫でてやろうと、手を伸ばした。

パシッ―――!

少女はその手を、反射的に振り払う。
今まで、自分に向けてそうしてきた奴等は、自分を殴りつける為だけにその手を翳してきたから。
「可哀想に」
それでもF05は、慈悲と慈愛に満ちた笑顔を、少女に向ける。
「今まで誰かに優しくされたことがないのね…愛を、知らないのね」
そして、そのしなやかな腕で少女の小さな頭を包み、豊かな胸にその顔を埋めさせた。
顔は涙や鼻水でグシャグシャ、おまけに小便塗れの小汚い姿をまるで厭う素振りもなく、抱き締めた。
「大丈夫よ。私はあなたを、ぶったりしないわ」
「あ…」
まるで氷のように体温を感じない肢体だった。だが柔らかく、優しい抱擁に、少女から力が抜ける。
不意に、F05は顔を近づけてくる。少女は動けない。
「可愛いわ。あなたのような子、大好きよ」
唇を合わせてきた。突然の行為に一瞬、身を震わせるが、少女は抵抗しようとしない。
女性同士という禁忌も忘れるほどの甘美な接吻。
F05の舌が、少女の口内に入り込む。戸惑いながらも、少女は自ら舌を絡ませてきた。
ややあって、二人の唇が離れる。唾液がつー…と、糸を引いた。
少女は顔を上気させて、うっとりとF05を見上げる。
「あなた、お名前は?」
「名前…は…ありません」
そんなもの。誰も、自分にくれなかった。
「そう。あなたは誰からも…何も、貰えなかったのね」
「…………」
「何もかも奪われ、虐げられ、嘲笑われてきた・・・そうなのね?」
「…………」
返事はないが、はいと言っているも同然だ。

「だったら、私があなたに全てを与えてあげる」

「美味しいお菓子に温かい食事、綺麗なお洋服にふかふかの毛布」

「あなたを笑ってきた奴等を見返してやれる力も。そして」

「私が、あなたの家族に―――あなたのお姉様になってあげるわ」

「…どうして」
少女は問うた。
「なんで…あなたのような方が、わたしに、そこまでしてくれるんです?」
「好きだから。それじゃあ、ダメかしら?」
「え…」
絶句する少女に、F05は言い募る。
「あなたを一目見た時から、思ってたわ。あなたのような可愛い妹が欲しいって。そんな理由じゃダメ
なのかしら?」
「そ…それは…」
「ねえ。お願いよ。どうか…私の妹になって頂戴」
嗚呼、そうか。少女は思った。
わたしの人生は、この時の為にあったんだ。
今までの不幸は全て、この幸福を迎える為の試練だった。
神様、ありがとう。
今までテメエに会ったらクソ塗れにしてブチ殺してやるなんて思ってて、ごめんなさい。
これからは毎日感謝し、お祈りを捧げます。
ありがとう。わたしの元に、この御方を遣わせてくださって、本当にありがとう―――!
「わ…わたしでよかったら…あなたの、妹にしてください!わたし…わたし…!」
「いいのよ。もう何も言わなくていいの」
ぐっと。少女を抱き締める腕に、力を込めた。
「これからは私の事は、お姉様と呼びなさい」
「はい…お姉様…」
あの怪物は何だったのか。
それをいとも容易く屠った彼女は何者なのか。
依然として謎ではあったが、そんなものはどうでもよかった。
わたしの惨めな人生は、ここで終わる。そして、新しい人生が始まる。
地を這う醜い芋虫が、誰もが見惚れる美しい蝶になるように。
私は、生まれ変わるんだ!

「それじゃあ―――潔く、死んでから出直してきて頂戴」

チクッ。
首筋に鋭い痛みを感じて―――次の瞬間、それは地獄の苦痛に変わった。
頭が痛い。吐き気がする。血液が沸騰しているような灼熱感が全身を駆け巡る。
口がカラカラに乾く。体中が痛くて堪らない。汗が止まらない。
「ぐ、ぎゃ…ぎゃぁぁぁぁっ!」
悲鳴。
F05の狂った心には、それはまるで一流の楽団によるオーケストラのように心地よく響いた。
「それにしても、本当によかったわ。あんな腐れ吸血鬼(ファッキン・サッカー)に殺されなくて」
「あ、あ、あ、あぎゃああああああああ!」
「人間を殺すのは、人間だけに与えられた、極上の娯楽ですもの―――ね」
「な、なにを…なにを、しやが、った…!」
「砒素をベースとして特別に調合した毒薬…<ヒュドラ>。この世で最も苦しく死ねるお薬よ」
平然と。
F05は、恐ろしい事をのたまった。
「私は<装甲戦闘死体>―――その妹になるからには、あなたも死んでもらわないと」
「あ、が…な、なんだ、と…!」
「究極の殺人鬼<切り裂きジャック>―――その身体はきっと、最高の素材になるわ」

それが―――理由。
<切り裂きジャック>を探していた、その目的。
優れた素材の発掘。
墓を暴いて、道端に打ち捨てられた死体を拾って。
時には自らの手で人を殺してでも―――素材を集める。
全ては、モントリヒトを駆逐する為に。

「けれど、あなたを気に入ったのは本当よ?あなたのような可愛い妹が出来るなんて、嬉しいわ」
「ち、ちく、ちく、チクショウ…!」
やっぱり、神様なんて頓珍漢のド腐れ野郎だ。
こんなド外道をわたしの前に連れてきやがるなんて、何してくれてやがるんだ!
わたしが何をしたんだ!
どうせ遅かれ早かれ地獄に堕ちやがるような、薄汚ねぇ娼婦共を殺しただけじゃねえか!
恨んでやる…!呪ってやる…!殺してやる…!
殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!

「F08(エフ・アハト)。あなたに与えられる予定の名よ」
F05は、その名前を愛しい恋人であるかのように口ずさむ。
「あなたは、三代目になるわね。初代のF08も、二代目も、共に私の良きパートナーだった―――
あなたも彼女等と同じく、私の素敵な相棒(バディ)になってくれると信じて…あら」
少女の瞳からは、既に光が消え失せていた。
毒の影響で、全身に紫色の斑点が浮き上がっている。
だらりとグロテスクに垂れ下がった舌。
「何だ…もう死んじゃったの?もう少し、あなたが苦しむ姿を見ていたかったのだけれど…」
まあいいわ、と微笑む。
「死んだあなたも、とっても綺麗よ。私の可愛い妹(プティ・スール)」
F05は死せる少女の唇をサキュバスの如く淫らに貪る。
恍惚に身を震わせながら、F05はその人間を遥か超越した聴覚で、遠雷の轟きを聴いていた。


―――雷鳴が響く。
―――雷光が閃く。
―――今日もまた何処かで、人造人間が産声をあげる―――


1888年11月9日。
最後の犠牲者の命と共に<切り裂きジャック>は歴史の闇へと消えた。
そして彼女は死して伝説となり―――
吸血鬼を狩る者として、新たな生を―――否。
単なる動く屍と成り果て、その後も殺戮を続けた。

<装甲戦闘死体F08(エフ・アハト)>
その忌まわしき名と呪われた屍の肉体こそ、生まれ落ちて以来、何一つ他人から与えられなかった少女が、
初めて貰った贈り物だった。