「戦団に勾留された筈の音楽隊がどうして!? 解き放っていいんですか!?」
居並ぶかつての敵達に、斗貴子は叫んだ。無理もない。倒すのにどれほど苦労したか。
「まあまあ。彼らは俺たちに協力すると約束してくれた。自ら望んでホムンクルスになったという訳でもないし、人間を喰い殺
したコトは一度もないという。なら大丈夫だろう」
「……彼らの話を信じるんですか? ホムンクルスのいうコトを」
「勾留中にたっぷり話したからな。目も濁っていない。信じていいと思う
気楽な調子の防人だ。よくもまあと斗貴子は反論したくなったが押し留まる。よく考えてみれば彼女自身もこういう不可解な
温情を戦団から賜り、結果助けられた覚えがある。武藤カズキをめぐる逃避行。ヴィクターIIIという人外へ変質し、再殺を
余儀なくされた彼に斗貴子は肩入れし……結果、戦士1人を内部から『ブチ撒けた』。戦士に危害を加えたという一事だけ
見ればホムンクルスと遜色はない。本来ならば反逆者としてカズキもろとも殺されても不思議ではなかったが、紆余
曲折を経てどうにか許され、今も戦士を続けている。
(反逆を不問にされた私が音楽隊の解放に異を唱えるのは……)
どこか身勝手なきらいもある。仮に「彼らは人間を喰いかねない」と拘留継続を求めたところで「お前は私情で仲間を殺し
かねない」と皮肉を言われるだろう。私情での叛意を不問にされてなお私情を押し通そうとする是非はどうか。
(そもそも私の反逆を許してくれたのは大戦士長だ。あの人を助けるために戦団が敷いた共同戦線に反対できる道理はない)
思う所はいろいろあるが、斗貴子はひとまず黙った。
「気休めかも知れないが、念のため鳩尾無銘以外のメンバーからは核鉄を没収してある」
そういえば、と秋水は気付いた。総角の首にかかっている認識票は……武装錬金ではない。
どこにでも売っていそうな既製品だ。小札が持っているのもただのマイクであり、ロッドの武装錬金マシンガンシャッフル
の姿を確認するコトはできなかった。鐶の手にも貴信の手にも、短剣や鎖分銅は見当たらない。
「にも関わらず無銘の武装錬金だけ残してあるのは……」
「そう。監視用だな」
「どういうコトだよブラ坊。あのランタンみたいな奴がどう監視用になるんだよ?」
手を上げ質問する御前に答えたのは意外にも秋水だった。
「彼の武装錬金は映像投影が可能だ。特性は性質付与。直接的な攻撃力はない」
「あー。だから取り上げられてないんだ」
「そうだな。6つある龕灯(がんどう)の内、1つだけは戦団本部に残してある。実はいま彼らが見ている映像も、龕灯を介して
火渡たちへと送られていてな。まあ、絶対ないとは思うが、もし彼らが監視役に危害を加えれば即座に戦士達が差し向けられる」
「……ん? 監視役? どこにいるんですか?」
斗貴子はゆっくりと振り返る。そこにいるのは音楽隊だけだ。一瞬斗貴子は監視役が根来ではないかと思った。彼が例の忍者刀
の特性で亜空間に居て、監視を務めているのではないか……と。
だがすぐ違うと知らされる。
居並ぶかつての敵達に、斗貴子は叫んだ。無理もない。倒すのにどれほど苦労したか。
「まあまあ。彼らは俺たちに協力すると約束してくれた。自ら望んでホムンクルスになったという訳でもないし、人間を喰い殺
したコトは一度もないという。なら大丈夫だろう」
「……彼らの話を信じるんですか? ホムンクルスのいうコトを」
「勾留中にたっぷり話したからな。目も濁っていない。信じていいと思う
気楽な調子の防人だ。よくもまあと斗貴子は反論したくなったが押し留まる。よく考えてみれば彼女自身もこういう不可解な
温情を戦団から賜り、結果助けられた覚えがある。武藤カズキをめぐる逃避行。ヴィクターIIIという人外へ変質し、再殺を
余儀なくされた彼に斗貴子は肩入れし……結果、戦士1人を内部から『ブチ撒けた』。戦士に危害を加えたという一事だけ
見ればホムンクルスと遜色はない。本来ならば反逆者としてカズキもろとも殺されても不思議ではなかったが、紆余
曲折を経てどうにか許され、今も戦士を続けている。
(反逆を不問にされた私が音楽隊の解放に異を唱えるのは……)
どこか身勝手なきらいもある。仮に「彼らは人間を喰いかねない」と拘留継続を求めたところで「お前は私情で仲間を殺し
かねない」と皮肉を言われるだろう。私情での叛意を不問にされてなお私情を押し通そうとする是非はどうか。
(そもそも私の反逆を許してくれたのは大戦士長だ。あの人を助けるために戦団が敷いた共同戦線に反対できる道理はない)
思う所はいろいろあるが、斗貴子はひとまず黙った。
「気休めかも知れないが、念のため鳩尾無銘以外のメンバーからは核鉄を没収してある」
そういえば、と秋水は気付いた。総角の首にかかっている認識票は……武装錬金ではない。
どこにでも売っていそうな既製品だ。小札が持っているのもただのマイクであり、ロッドの武装錬金マシンガンシャッフル
の姿を確認するコトはできなかった。鐶の手にも貴信の手にも、短剣や鎖分銅は見当たらない。
「にも関わらず無銘の武装錬金だけ残してあるのは……」
「そう。監視用だな」
「どういうコトだよブラ坊。あのランタンみたいな奴がどう監視用になるんだよ?」
手を上げ質問する御前に答えたのは意外にも秋水だった。
「彼の武装錬金は映像投影が可能だ。特性は性質付与。直接的な攻撃力はない」
「あー。だから取り上げられてないんだ」
「そうだな。6つある龕灯(がんどう)の内、1つだけは戦団本部に残してある。実はいま彼らが見ている映像も、龕灯を介して
火渡たちへと送られていてな。まあ、絶対ないとは思うが、もし彼らが監視役に危害を加えれば即座に戦士達が差し向けられる」
「……ん? 監視役? どこにいるんですか?」
斗貴子はゆっくりと振り返る。そこにいるのは音楽隊だけだ。一瞬斗貴子は監視役が根来ではないかと思った。彼が例の忍者刀
の特性で亜空間に居て、監視を務めているのではないか……と。
だがすぐ違うと知らされる。
「強力かどうかは分かりませんが」
総角たちの後ろからひょいと出てくる影一つ。隠れていたというより、身長のせいで見えなかったらしい。
「火渡様からは許可が出ています……」
小柄──小札とほぼ同じ──というコトを除けばその身体に際立った異常はない。ただ、首から上があまりに常軌
を逸している。斗貴子が呆気にとられるのもむべなるかな。なぜならその人物が被っている物というのが……
総角たちの後ろからひょいと出てくる影一つ。隠れていたというより、身長のせいで見えなかったらしい。
「火渡様からは許可が出ています……」
小柄──小札とほぼ同じ──というコトを除けばその身体に際立った異常はない。ただ、首から上があまりに常軌
を逸している。斗貴子が呆気にとられるのもむべなるかな。なぜならその人物が被っている物というのが……
ガスマスク
だったからだ。
「確かキミは……毒島。根来や千歳さんと同じ再殺部隊の戦士だったな」
旧知、というほどでもないが会ったコトがある。御前や剛太も頷いた
「確かブラ坊が火渡のせいで死にかけた時だよな」
「あー。そういやいたな。救急箱持ってうろついたり、火渡戦士長に灰皿投げられたり」
「でも正直、キミは強いのか? 見たところ奇兵らしくかなり異常だが、とても強そうには見えないぞ……」
「私の武装錬金、エアリアル=オペレーターの特性は気体操作です。いざとなれば音楽隊のみなさんを制止するコトぐらいは
できます。頑張ります!」
敬語だが千歳と違って事務的という感じはない。声こそ低くくぐもっているが何やら懸命に喋っているという気配が滲んでいる。
そもそもこの毒島という戦士の年齢はおろか素顔さえ知らない斗貴子である。一瞬、「まさか子供?」とも疑問を浮かべたが
いまはそれどころでもない。いろいろ初耳な事柄が多すぎる。
「気体操作……?」
「平たくいうとだな。戦士・斗貴子。あの武装錬金は毒ガスを作れる」
「はい。一般人に被害がなければサリンでもVXガスでも使っていいとの許可が出ています」
「強力なのは分かったが、それでも穴が多すぎないか? 鐶なら毒ガスが撒かれるより早く動けるだろうし、全員が一斉に
かかれば武装錬金の破壊も可能。だいたいここまでどうやってきた? 鉄道を乗り継いで、旅館に泊まったりした……?
やっぱり……。よくキミは寝込みを襲われなかったな」
溜息混じりに思う。戦団はいちいちツメが甘いと。武装錬金が強力とはいえ毒島1人に6人ものホムンクルスを引率させる
のは危険すぎる。
ヴィクター討伐の余波や救出作戦の準備で戦団が人手不足なのは分かっている。。
それでもやはり不満や割り切れなさが消えない斗貴子だ。
「フ。もっとこう、ないのか? 『敢えて信頼を寄せたがゆえに俺たちも心から戦士を尊び、得難い協力関係が結ばれる』とか
なんとか、前向きな考えは。かつての敵との共闘だぞ共闘。小難しく考える前に喜んでみてはどうだ?」
「疑われている組織の長がいっても説得力はないぞ。総角」
秋水の突っ込みに金髪の美丈夫は両手を上げた。やれやれと言いたげだ。
「とはいえ殺す殺すの一辺倒で万事解決といくものかな? フ。ヴィクターにしたって戦団が追い回し、あのお嬢さんをホムン
クルスにしなければ、案外大人しく従っていたかもだぞ。北風と太陽の例えよろしくな」
相変わらず、腹立たしいまでの余裕だ。斗貴子のこめかみに青筋が浮かぶのも無理はない。
「一理はあるが貴様が言うな」
「フ。これは失言。とはいえ俺たちが戦団に協力したいのは事実だ。利用はしない。助けられる戦士がいるのなら、一人でも
多く助けさせて頂きたい。それは俺も小札も無銘も鐶も香美も貴信も、心から、願っている」
芝居がかった調子で恭しく一礼をする総角の横で小さな影がぴょこりと跳ねた。
「意外やも知れませぬがそうなのであります! 特に無銘くんにおきましては一年ほど前、ご自身と鐶副長どのをば狩らんと
した戦士の方に噛みついたり、地割れに引きずり落としておりまして! いや、幸いにといいましょうか奇跡といいましょうか、
戦士どのは無事でございましたが、手を出してしまったコト、無銘くんはかなり気に病んでおりまする!!」
「……信じられると思うのか? 私達をさんざんひっかき回しておいて」
「信じて貰えなくても、だな。本意は行動で示す。だいたい嫌だろ? 使命感に従い、一生懸命動いているだけの戦士が理不尽
に命を奪われるのは。少なくても俺はまっぴらさ。『また』見殺しにするのかと、とても嫌さ」
「それは、そうだが……」
言いよどむ斗貴子を見つつ、秋水は疑問符を掲げた。
(『また』?)
なぜか戦士に好意的なのも謎だが、いやに実感のこもった『また』が引っかかる。総角は誰かを見殺しにしたコトがある
のだろうか?
旧知、というほどでもないが会ったコトがある。御前や剛太も頷いた
「確かブラ坊が火渡のせいで死にかけた時だよな」
「あー。そういやいたな。救急箱持ってうろついたり、火渡戦士長に灰皿投げられたり」
「でも正直、キミは強いのか? 見たところ奇兵らしくかなり異常だが、とても強そうには見えないぞ……」
「私の武装錬金、エアリアル=オペレーターの特性は気体操作です。いざとなれば音楽隊のみなさんを制止するコトぐらいは
できます。頑張ります!」
敬語だが千歳と違って事務的という感じはない。声こそ低くくぐもっているが何やら懸命に喋っているという気配が滲んでいる。
そもそもこの毒島という戦士の年齢はおろか素顔さえ知らない斗貴子である。一瞬、「まさか子供?」とも疑問を浮かべたが
いまはそれどころでもない。いろいろ初耳な事柄が多すぎる。
「気体操作……?」
「平たくいうとだな。戦士・斗貴子。あの武装錬金は毒ガスを作れる」
「はい。一般人に被害がなければサリンでもVXガスでも使っていいとの許可が出ています」
「強力なのは分かったが、それでも穴が多すぎないか? 鐶なら毒ガスが撒かれるより早く動けるだろうし、全員が一斉に
かかれば武装錬金の破壊も可能。だいたいここまでどうやってきた? 鉄道を乗り継いで、旅館に泊まったりした……?
やっぱり……。よくキミは寝込みを襲われなかったな」
溜息混じりに思う。戦団はいちいちツメが甘いと。武装錬金が強力とはいえ毒島1人に6人ものホムンクルスを引率させる
のは危険すぎる。
ヴィクター討伐の余波や救出作戦の準備で戦団が人手不足なのは分かっている。。
それでもやはり不満や割り切れなさが消えない斗貴子だ。
「フ。もっとこう、ないのか? 『敢えて信頼を寄せたがゆえに俺たちも心から戦士を尊び、得難い協力関係が結ばれる』とか
なんとか、前向きな考えは。かつての敵との共闘だぞ共闘。小難しく考える前に喜んでみてはどうだ?」
「疑われている組織の長がいっても説得力はないぞ。総角」
秋水の突っ込みに金髪の美丈夫は両手を上げた。やれやれと言いたげだ。
「とはいえ殺す殺すの一辺倒で万事解決といくものかな? フ。ヴィクターにしたって戦団が追い回し、あのお嬢さんをホムン
クルスにしなければ、案外大人しく従っていたかもだぞ。北風と太陽の例えよろしくな」
相変わらず、腹立たしいまでの余裕だ。斗貴子のこめかみに青筋が浮かぶのも無理はない。
「一理はあるが貴様が言うな」
「フ。これは失言。とはいえ俺たちが戦団に協力したいのは事実だ。利用はしない。助けられる戦士がいるのなら、一人でも
多く助けさせて頂きたい。それは俺も小札も無銘も鐶も香美も貴信も、心から、願っている」
芝居がかった調子で恭しく一礼をする総角の横で小さな影がぴょこりと跳ねた。
「意外やも知れませぬがそうなのであります! 特に無銘くんにおきましては一年ほど前、ご自身と鐶副長どのをば狩らんと
した戦士の方に噛みついたり、地割れに引きずり落としておりまして! いや、幸いにといいましょうか奇跡といいましょうか、
戦士どのは無事でございましたが、手を出してしまったコト、無銘くんはかなり気に病んでおりまする!!」
「……信じられると思うのか? 私達をさんざんひっかき回しておいて」
「信じて貰えなくても、だな。本意は行動で示す。だいたい嫌だろ? 使命感に従い、一生懸命動いているだけの戦士が理不尽
に命を奪われるのは。少なくても俺はまっぴらさ。『また』見殺しにするのかと、とても嫌さ」
「それは、そうだが……」
言いよどむ斗貴子を見つつ、秋水は疑問符を掲げた。
(『また』?)
なぜか戦士に好意的なのも謎だが、いやに実感のこもった『また』が引っかかる。総角は誰かを見殺しにしたコトがある
のだろうか?
「まあなんだ。突っ立っているのも辛いだろ。キミたちも座って一服しなさい)
と、ここで防人は寝室に佇む音楽隊一同に手招きをした。
「一服! となりますればお茶汲みは必定! 防人戦士長どの防人戦士長どの! 不肖をお使い下さればまさにまったく
本望の極み、ゆらめく玉露の碧い波、まさに協力体勢証する濫觴(らんしょう)の一杯! いえいえ遠慮は御無用、いずれ
流れいずる協力の大河はいまこの時の觴(さかずき)、とゆーか湯のみの一杯一杯から生まれるのでありますっっ!!
ゆえにや不肖、心を込めて90度ぐらいのお湯をばズバババーっと注ぎ、お茶っ葉をさらさらーとやるのです!!」
「ブラボーだ! 君はもてなしの心をよく知っているようだな」
「よくぞ聞いて頂きました! 実は不肖、10年前までは巫女さんとして実に様々な方々をおもてなししておりました! 馬肥
ゆる稔歳の時わっしょいわっしょいお神輿来訪大宴会の時などは、肩に手ぬぐい巻きし農家の方々めがけとぷとぷと!
ああっ! とぷとぷと! お茶をついで回っていたのであります! ですので腕に覚えあり! 心配は御無用なのであります!」
「うむ! 注ぎ方も味も温度もまったく申し分ないお茶だ。ブラボー! おお、ブラボー!!!」
本望の極み、ゆらめく玉露の碧い波、まさに協力体勢証する濫觴(らんしょう)の一杯! いえいえ遠慮は御無用、いずれ
流れいずる協力の大河はいまこの時の觴(さかずき)、とゆーか湯のみの一杯一杯から生まれるのでありますっっ!!
ゆえにや不肖、心を込めて90度ぐらいのお湯をばズバババーっと注ぎ、お茶っ葉をさらさらーとやるのです!!」
「ブラボーだ! 君はもてなしの心をよく知っているようだな」
「よくぞ聞いて頂きました! 実は不肖、10年前までは巫女さんとして実に様々な方々をおもてなししておりました! 馬肥
ゆる稔歳の時わっしょいわっしょいお神輿来訪大宴会の時などは、肩に手ぬぐい巻きし農家の方々めがけとぷとぷと!
ああっ! とぷとぷと! お茶をついで回っていたのであります! ですので腕に覚えあり! 心配は御無用なのであります!」
「うむ! 注ぎ方も味も温度もまったく申し分ないお茶だ。ブラボー! おお、ブラボー!!!」
(さっそく意気投合してる……)
愕然たる面持ちで斗貴子はお茶くみを見た。
(……? おかしい。いま私は小札に何か質問したかったような。だがそれが……分からない? どうしてだ?)
朝方から続く違和感に、首を傾げつつ。
やがて、卓袱台の上に沢山の湯のみが置かれた。常備している湯呑みだけでは足りず、ティーカップやグラスまで引っ張
り出す大騒ぎだ。その構成成分の8割が小札で、目下彼女は大わらわ。せっせかせっせかガス台と卓袱台をで往復している。
り出す大騒ぎだ。その構成成分の8割が小札で、目下彼女は大わらわ。せっせかせっせかガス台と卓袱台をで往復している。
「とゆーかさ、とゆーかさ、とゆーかさ! きゅーびはぶすじまに一回やられたじゃん! どれほどのもんだ! ってとびかかっ
たら、ヘンな臭いのがぶしゅーって出てさ、で! あたしら巻き添えで仮ぎゃーしたじゃん!」
「おい! 我はいうなと釘をさしたぞ!!」
『挑戦したがるのも無理はない! 何しろ無銘の武装錬金は火渡戦士長たちと交戦したコトがある! その時の決め手が
毒島氏の武装錬金だったから、復讐心みたいなのが湧きあがったのだろうっ!!』
たら、ヘンな臭いのがぶしゅーって出てさ、で! あたしら巻き添えで仮ぎゃーしたじゃん!」
「おい! 我はいうなと釘をさしたぞ!!」
『挑戦したがるのも無理はない! 何しろ無銘の武装錬金は火渡戦士長たちと交戦したコトがある! その時の決め手が
毒島氏の武装錬金だったから、復讐心みたいなのが湧きあがったのだろうっ!!』
(011話(2)より)
──先ほどの編笠の矢はもうないらしく、黒装束の男は防戦一方だ。
──戦部は突き、薙ぎ、石突でゆるゆると牽制しつつ時には連続で突きを繰り出していく。
──その野性味あふるる槍技に流石の黒装束の男も押され始め──…
──やがて彼は、足をよろけさせた。
──しかしそれは疲労と見るにはあまりに性急。かすかに覗く目元も病的に色が失せている。
──戦部は突き、薙ぎ、石突でゆるゆると牽制しつつ時には連続で突きを繰り出していく。
──その野性味あふるる槍技に流石の黒装束の男も押され始め──…
──やがて彼は、足をよろけさせた。
──しかしそれは疲労と見るにはあまりに性急。かすかに覗く目元も病的に色が失せている。
「おかしいとは思っていました。あの時、一酸化炭素中毒にした筈の無銘さんがすぐ動けた理由。それは薬のせいじゃなく
自動人形の無銘さんだったからですね」
『そうだ!! 元々毒ガスは効かない!! けれど自動人形だとバレれば本体を探されややこしいコトになる!! だから
無銘は一芝居を打ち、あの兵馬俑が自動人形であるコトを隠した!! けれどそれが面倒だったらしく、ちょっと毒島氏を
恨んでいるようだ!!』
「そ、そ! よーわからんけど、そ!!」
毒島と騒がしい掛け合いをするシャギー少女──栴檀香美──はうんうんうんと素早く頷き、最後に剛太へブイサインを
繰り出した。
「でもなんとか仮ぎゃーからなおったじゃん! あたしらスゴいでしょ垂れ目! ご主人は特に強い訳よ!」
得意気に胸を逸らすや豊かなふくらみがぷるんと揺れた。もっとも斗貴子(B78)一筋の剛太が惑わされる道理もなく。
「相変わらずうるせーホムンクルスだなオイ」
ただただ、嘆息するコトしきりである。野性味あふれる引きしまった肢体をタンクトップとハーフサイズのジーンズで申し訳
程度に覆ったネコ型ホムンクルスはそれなりに端正な顔立ちをしているものの、絡めばやはり、かなりうるさい。快活すぎる
性格もあるが、その喧しさに一層の拍車をかけているのが、彼女の後頭部より時おりぶっ放される甲高い少年の声だ。
自動人形の無銘さんだったからですね」
『そうだ!! 元々毒ガスは効かない!! けれど自動人形だとバレれば本体を探されややこしいコトになる!! だから
無銘は一芝居を打ち、あの兵馬俑が自動人形であるコトを隠した!! けれどそれが面倒だったらしく、ちょっと毒島氏を
恨んでいるようだ!!』
「そ、そ! よーわからんけど、そ!!」
毒島と騒がしい掛け合いをするシャギー少女──栴檀香美──はうんうんうんと素早く頷き、最後に剛太へブイサインを
繰り出した。
「でもなんとか仮ぎゃーからなおったじゃん! あたしらスゴいでしょ垂れ目! ご主人は特に強い訳よ!」
得意気に胸を逸らすや豊かなふくらみがぷるんと揺れた。もっとも斗貴子(B78)一筋の剛太が惑わされる道理もなく。
「相変わらずうるせーホムンクルスだなオイ」
ただただ、嘆息するコトしきりである。野性味あふれる引きしまった肢体をタンクトップとハーフサイズのジーンズで申し訳
程度に覆ったネコ型ホムンクルスはそれなりに端正な顔立ちをしているものの、絡めばやはり、かなりうるさい。快活すぎる
性格もあるが、その喧しさに一層の拍車をかけているのが、彼女の後頭部より時おりぶっ放される甲高い少年の声だ。
「そうだ。挨拶が遅れた。久しぶりだな。貴信」
『こちらこそだ!! はは!』
どこか気弱な大声の持ち主を秋水はあまり嫌いではない。むしろカズキに通じるようで、敬意を抱いている。
『こちらこそだ!! はは!』
どこか気弱な大声の持ち主を秋水はあまり嫌いではない。むしろカズキに通じるようで、敬意を抱いている。
秋水は知っている。
香美が首を180度回せばレモン型の瞳した異相が現れるのだ。
さすれば体つきも少年の物となり、凄まじい膂力の籠った鎖分銅を嵐のように暴れさす。
香美が首を180度回せばレモン型の瞳した異相が現れるのだ。
さすれば体つきも少年の物となり、凄まじい膂力の籠った鎖分銅を嵐のように暴れさす。
(栴檀貴信。ネコ時代の栴檀香美の飼い主)
秋水は腕組みをしながら回想する。思い起こされるのはかつて彼らと争った時のコト。
秋水は腕組みをしながら回想する。思い起こされるのはかつて彼らと争った時のコト。
──『んーにゅ。あたしらさー、もともとご主人とネコで別々だったワケよ』
──「だがちょっとした事情で一つの体を共有するコトになったんだ!!」
──『そそ。さっきさぁ、なんかこわいれんちゅーにアレコレされてこんなんじゃん! おかげであた
──しネコなのに暗いトコとか狭いトコとか高いトコとか苦手っつーかこわいじゃん』
──しネコなのに暗いトコとか狭いトコとか高いトコとか苦手っつーかこわいじゃん』
──「でだ、香美が僕などと同じ体なのは申し訳ない! いつかちゃんと飼い主として責任を持っ
──て、僕とは違う肉体を与えてやりたい! そしてちゃんとしたお婿さんと引き合わせてやりたい!
──ただ、それだけだ!」
──て、僕とは違う肉体を与えてやりたい! そしてちゃんとしたお婿さんと引き合わせてやりたい!
──ただ、それだけだ!」
(体を共有する飼い主と飼い猫。調整体にも似ているが、各々の人格が完全な形で残っているところは違う)
なぜ、こうなったのかまでは分からない。ただ確実なのは目下その2人が剛太を大いに苛んでいるというコトである。
秋水は、姉の未来の戦友候補をただただ同情的な目で眺めた。
「つかさ! さっきひかりふくちょーさ、久しぶりとかいったけどさ! さっきあってたじゃんさ。久しぶりってどーい
う感じじゃん。いまいちサッパわからん! 説明するじゃんせつめー!!」
「うるせえ! いきなりすり寄ってきてベタベタすんじゃねェ!!」
見れば香美はすでに剛太へ歩み寄り、ぐなぐなという感じで全身を絡みつかせている。剛太は先ほどから着座しているから
香美もつられる形で横ずわりだ。うぐいす色のメッシュが入った派手なシャギーが剛太の肩などをつんつんつんつん叩いてい
る。彼のどこが気に入ったのか。いやに気安い調子でしだれかかったり首に手を回したり、顔を急接近させたりと、香美は
まったく忙しい。ついには質問さえ放棄し、けらけら笑いながら剛太にじゃれ始めた。
「もーなに聞いてたかもわからんくなってきた! めんどい! まずは遊ぶじゃん!! 遊ぶ!」
「やかましい、離せ。くそ! ホムンクルスだから力だけはありやがる!!
ホムンクルスになる前はよほど人懐っこいネコだったのだろう。剛太の鼻先で形のよい鼻梁をスンスンさせるのも秋水は
見た。ネコとしての挨拶、とは瞬時に分かったが、居並ぶ戦士や音楽隊の面々はどうも別な解釈をねじつけたくて仕方無い
らしい。ブラボーと親指を立てた防人に呼応するように総角が口笛を吹き、小札や鐶は「大胆」と頬を赤らめる。「見た目に
騙されるな」と釘を刺すのは斗貴子で、剛太はただただ慌てふためき自己に非がないと弁明するばかりである。
秋水は、見なかったコトにした。
香美のスンスンの瞬間、笑顔の温度を絶対零度めがけ急降下させた桜花を。
『い、いや!! 香美は悪気はないんだ!! ただネコらしくスキンシップしたがっているだけで!!』
「あら。誰も怒ってないわよ貴信クン。ええ。分かっているわよ。ええ」
果てしない笑顔の桜花が、秋水はとても怖い。
「フン。姉ごときに怯えるような男が我はおろか師父を下したなど……到底信じられん」
「無銘……」
かつて秋水と激闘を繰り広げた忍者少年は──…
怨敵の首筋に、ギラリと光る刃を押し当てていた。
(いきなり何やってんだお前!!)
御前は目を剥いた。剛太も、唖然とした。
再会直後の挨拶としてはいささか物騒すぎる。清潔感のある後ろ髪がすうっと撫で斬られ、はらはらと畳に落ちるのも桜
花は見た。つまり刃は真剣である。いま膝立ちの持ち主がそのつもりになったが最後、秋水の頸動脈は血の噴水をあげる
だろう。ちなみに小札はお茶汲み中のため以上の事態に気付かなかった。
(まだ恨んでいるようね。自分だけでなく小札さんまで倒しちゃった秋水クンのコト)
少年ほど誇りや矜持にこだわり、それを傷つける者を激しく恨む。少年忍者の体から立ち上る青い陽炎に桜花はつくづく実感
した。
が、秋水はさほど気にした様子もなく、涼しい顔で答えた。
「そうか。確か君は以前、シークレットトレイルを気に入っていたな。というコトはそれは忍者刀。小札が買ってくれたのか?」
「おうとも! お小遣いを2年分ぐらい前借りしたのだ!! なかなかの業物で、その上龕灯(がんどう)の性質付与にて錬金
術の産物とすればホムンクルスにさえ通じ──違う! なぜ貴様、たじろがん! 首筋に本物の刀が当たっているんだぞ!?」
一瞬はうはうと三白眼を輝かせた無銘はすぐさま不機嫌そうな顔をした。
「君に殺気がないからだ。だったら動かない方が安全だろう」
「ぐ!!」
(フ。やはり見抜いたか。ただの嫌がらせだと)
ニヤリと笑う総角を察知したのか、秋水は軽く微笑した。
「そもそも殺すつもりならこの体勢自体成立していない。君が本気で間合いに入っていたら、俺の首は今頃血だまりの中だ」
淡々とした分析だ。春風のごとき微笑で紡ぐ秋水は、無銘に負けず劣らずの異様さを帯びていた。いや、そこは犬型に怒
れよと剛太は呆れ、貴信は大笑いし、桜花は秋水らしからぬ円やかさにフクザツな笑みを浮かべた。成長が嬉しい反面、自
分の預かり知らぬ所でまた一歩大人に近づいた弟に寂しさを感じているらしい。
「もっとも、俺の首が転がりそうなら総角が止めに入っただろうし、俺もそれなりの防御はしたと思う」
勝利の笑み、というより限りない親しさを込めて秋水は笑いかける。厳密にいえば背中合わせの少年がそれを見るコトは
できないが、全体的な雰囲気で伝わっているらしい。無銘はますます渋い顔だ。
なぜ、こうなったのかまでは分からない。ただ確実なのは目下その2人が剛太を大いに苛んでいるというコトである。
秋水は、姉の未来の戦友候補をただただ同情的な目で眺めた。
「つかさ! さっきひかりふくちょーさ、久しぶりとかいったけどさ! さっきあってたじゃんさ。久しぶりってどーい
う感じじゃん。いまいちサッパわからん! 説明するじゃんせつめー!!」
「うるせえ! いきなりすり寄ってきてベタベタすんじゃねェ!!」
見れば香美はすでに剛太へ歩み寄り、ぐなぐなという感じで全身を絡みつかせている。剛太は先ほどから着座しているから
香美もつられる形で横ずわりだ。うぐいす色のメッシュが入った派手なシャギーが剛太の肩などをつんつんつんつん叩いてい
る。彼のどこが気に入ったのか。いやに気安い調子でしだれかかったり首に手を回したり、顔を急接近させたりと、香美は
まったく忙しい。ついには質問さえ放棄し、けらけら笑いながら剛太にじゃれ始めた。
「もーなに聞いてたかもわからんくなってきた! めんどい! まずは遊ぶじゃん!! 遊ぶ!」
「やかましい、離せ。くそ! ホムンクルスだから力だけはありやがる!!
ホムンクルスになる前はよほど人懐っこいネコだったのだろう。剛太の鼻先で形のよい鼻梁をスンスンさせるのも秋水は
見た。ネコとしての挨拶、とは瞬時に分かったが、居並ぶ戦士や音楽隊の面々はどうも別な解釈をねじつけたくて仕方無い
らしい。ブラボーと親指を立てた防人に呼応するように総角が口笛を吹き、小札や鐶は「大胆」と頬を赤らめる。「見た目に
騙されるな」と釘を刺すのは斗貴子で、剛太はただただ慌てふためき自己に非がないと弁明するばかりである。
秋水は、見なかったコトにした。
香美のスンスンの瞬間、笑顔の温度を絶対零度めがけ急降下させた桜花を。
『い、いや!! 香美は悪気はないんだ!! ただネコらしくスキンシップしたがっているだけで!!』
「あら。誰も怒ってないわよ貴信クン。ええ。分かっているわよ。ええ」
果てしない笑顔の桜花が、秋水はとても怖い。
「フン。姉ごときに怯えるような男が我はおろか師父を下したなど……到底信じられん」
「無銘……」
かつて秋水と激闘を繰り広げた忍者少年は──…
怨敵の首筋に、ギラリと光る刃を押し当てていた。
(いきなり何やってんだお前!!)
御前は目を剥いた。剛太も、唖然とした。
再会直後の挨拶としてはいささか物騒すぎる。清潔感のある後ろ髪がすうっと撫で斬られ、はらはらと畳に落ちるのも桜
花は見た。つまり刃は真剣である。いま膝立ちの持ち主がそのつもりになったが最後、秋水の頸動脈は血の噴水をあげる
だろう。ちなみに小札はお茶汲み中のため以上の事態に気付かなかった。
(まだ恨んでいるようね。自分だけでなく小札さんまで倒しちゃった秋水クンのコト)
少年ほど誇りや矜持にこだわり、それを傷つける者を激しく恨む。少年忍者の体から立ち上る青い陽炎に桜花はつくづく実感
した。
が、秋水はさほど気にした様子もなく、涼しい顔で答えた。
「そうか。確か君は以前、シークレットトレイルを気に入っていたな。というコトはそれは忍者刀。小札が買ってくれたのか?」
「おうとも! お小遣いを2年分ぐらい前借りしたのだ!! なかなかの業物で、その上龕灯(がんどう)の性質付与にて錬金
術の産物とすればホムンクルスにさえ通じ──違う! なぜ貴様、たじろがん! 首筋に本物の刀が当たっているんだぞ!?」
一瞬はうはうと三白眼を輝かせた無銘はすぐさま不機嫌そうな顔をした。
「君に殺気がないからだ。だったら動かない方が安全だろう」
「ぐ!!」
(フ。やはり見抜いたか。ただの嫌がらせだと)
ニヤリと笑う総角を察知したのか、秋水は軽く微笑した。
「そもそも殺すつもりならこの体勢自体成立していない。君が本気で間合いに入っていたら、俺の首は今頃血だまりの中だ」
淡々とした分析だ。春風のごとき微笑で紡ぐ秋水は、無銘に負けず劣らずの異様さを帯びていた。いや、そこは犬型に怒
れよと剛太は呆れ、貴信は大笑いし、桜花は秋水らしからぬ円やかさにフクザツな笑みを浮かべた。成長が嬉しい反面、自
分の預かり知らぬ所でまた一歩大人に近づいた弟に寂しさを感じているらしい。
「もっとも、俺の首が転がりそうなら総角が止めに入っただろうし、俺もそれなりの防御はしたと思う」
勝利の笑み、というより限りない親しさを込めて秋水は笑いかける。厳密にいえば背中合わせの少年がそれを見るコトは
できないが、全体的な雰囲気で伝わっているらしい。無銘はますます渋い顔だ。
「何しろ」
「劇で勝たずにやられたら、棺の中でセーラー服を着せられるかも知れない。それは困る」
一座の目が点になった。いち早く通常運転に戻った剛太などは隣の御前にこう呼び掛けた。
「オイ。いまあいつ冗談言わなかったか?」
「スッゲー余裕。総角に勝ったから成長したのか?」
「フ。無銘よ。刀を致命の至近に置いてなお恐懼の一片さえ引き出せぬなら、それはもう己が格が根底から敗北している証だ。
可愛いちょっかいだと笑える内に退け。負けを認めるのもまた勇気。恥じゃないさ」
総角の言葉でようやく刃を引くかどうか逡巡し始めた無銘。彼を完全に撤退させたのは。
「あ……もしかして無銘くん、例の六対一でのコト、まだ悔やまれているのでしょうか……」
ガス台前から戻ってきた小札の言葉である。
「その……。申し訳ありませぬ。もし不肖が勝てておりますれば、無銘くんも秋水どのにしこりをば残さずに済んだ筈……」
湯呑みやグラスが混在するお盆を手に喋る小札は、瞳をひどくくしゃくしゃにしている。
「オイ。いまあいつ冗談言わなかったか?」
「スッゲー余裕。総角に勝ったから成長したのか?」
「フ。無銘よ。刀を致命の至近に置いてなお恐懼の一片さえ引き出せぬなら、それはもう己が格が根底から敗北している証だ。
可愛いちょっかいだと笑える内に退け。負けを認めるのもまた勇気。恥じゃないさ」
総角の言葉でようやく刃を引くかどうか逡巡し始めた無銘。彼を完全に撤退させたのは。
「あ……もしかして無銘くん、例の六対一でのコト、まだ悔やまれているのでしょうか……」
ガス台前から戻ってきた小札の言葉である。
「その……。申し訳ありませぬ。もし不肖が勝てておりますれば、無銘くんも秋水どのにしこりをば残さずに済んだ筈……」
湯呑みやグラスが混在するお盆を手に喋る小札は、瞳をひどくくしゃくしゃにしている。
「ち、ちが……! あの時悪かったのはこやつを喰い止められなかった我の方で、母上は何ら!」
秋水が息を呑んだのは、無銘とは無関係の事情による。
一瞬、小札に対する何らかの質問が脳内で浮かび、それが強制的にかき消された。
それだけ、である。
それだけ、である。
ややあって。無銘と小札の鬱陶しくさえあるかばい合いが終わり。
ひとまず小札は秋水にぺこりと頭を下げた。
「申し訳ありませぬ。根はいい子なのであります無銘くん。ただ、やるせなき感情と後悔に苦しむあまり、刃首筋に向けでも
せねば折り合いがつけられぬだけでして……」
「俺の事なら大丈夫だ。彼の気持ちはよく分かる。そもそも逆胴で君を傷つけたのは事実……これで無銘の気が晴れるなら
それでいいと思う」
(うぜえええええええええ!! この男、うぜえええええええええええええええ!!!)
あくまでも爽やかな秋水に対し、無銘は顔面のあらゆる箇所を痙攣させた。
眉が太く、眼光と犬歯の鋭い少年だ。歳は10というが全体に漂う気難しさは長年どれだけ苦渋を味わってきたかいやという
ほど物語っている。その少年はとうとう、逆上半分むずかり半分で様々な文句を叫び出した。
曰く、一度勝ったぐらいで調子に乗るな。曰く、師父がダブル武装錬金を使っていれば勝っていた。などなど。
秋水は一瞬額に人差し指を当てた。「そういえばこんな少年だった」。軽い頭痛──昔の自分を見ているような気恥しさコミ
の──を覚えながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「だが君は音楽隊の中である意味もっとも信じられる相手だ。解除しようと思えばいつでも解除できる龕灯をここまでの道
中ずっと発動し続けていたのは、君たちの戦団への服従を立証するためだろう。だから本気で俺に斬りかかるようなコトは
絶対にない。何故なら、そうすれば総角や小札に矛先が向かうからだ。それを防げるのなら、君はどこまでも私情を殺す
だろう。違うか?」
「ぐ……っ!!」
「毒島に喧嘩を売ったのも、逆らえばどうなるか、仲間たちに身を以て説明するため。毒ガスといえど、忍びの君なら総角たち
より耐性はある。そう思ったからこそ、わざと汚れ役を引き受けた……。違うか?」
「何が汚れ役をだ! 結局他の師父達を巻き込んでしまったわ! それを承知で指摘したのか貴様!」
「い、いや。君の行動の理由と結果のすり合わせが十分でなかっただけだ。嫌味ではない。本当だ」
「ウソだ!! 嘲弄したな貴様!! おのれ早坂秋水、おのれえええええええええ!!!」
凄まじい形相で(まなじりに米粒のような涙をたたえつつ)歯がみする無銘を「まあまあ」と両手で制しながら秋水は思う。
やはりやり辛い少年だと。もっとも、相手が生真面目な分だけ、まひろやパピヨンなどの「突きぬけちゃってる」人物たち
より与し易くもあるが。
「申し訳ありませぬ。根はいい子なのであります無銘くん。ただ、やるせなき感情と後悔に苦しむあまり、刃首筋に向けでも
せねば折り合いがつけられぬだけでして……」
「俺の事なら大丈夫だ。彼の気持ちはよく分かる。そもそも逆胴で君を傷つけたのは事実……これで無銘の気が晴れるなら
それでいいと思う」
(うぜえええええええええ!! この男、うぜえええええええええええええええ!!!)
あくまでも爽やかな秋水に対し、無銘は顔面のあらゆる箇所を痙攣させた。
眉が太く、眼光と犬歯の鋭い少年だ。歳は10というが全体に漂う気難しさは長年どれだけ苦渋を味わってきたかいやという
ほど物語っている。その少年はとうとう、逆上半分むずかり半分で様々な文句を叫び出した。
曰く、一度勝ったぐらいで調子に乗るな。曰く、師父がダブル武装錬金を使っていれば勝っていた。などなど。
秋水は一瞬額に人差し指を当てた。「そういえばこんな少年だった」。軽い頭痛──昔の自分を見ているような気恥しさコミ
の──を覚えながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「だが君は音楽隊の中である意味もっとも信じられる相手だ。解除しようと思えばいつでも解除できる龕灯をここまでの道
中ずっと発動し続けていたのは、君たちの戦団への服従を立証するためだろう。だから本気で俺に斬りかかるようなコトは
絶対にない。何故なら、そうすれば総角や小札に矛先が向かうからだ。それを防げるのなら、君はどこまでも私情を殺す
だろう。違うか?」
「ぐ……っ!!」
「毒島に喧嘩を売ったのも、逆らえばどうなるか、仲間たちに身を以て説明するため。毒ガスといえど、忍びの君なら総角たち
より耐性はある。そう思ったからこそ、わざと汚れ役を引き受けた……。違うか?」
「何が汚れ役をだ! 結局他の師父達を巻き込んでしまったわ! それを承知で指摘したのか貴様!」
「い、いや。君の行動の理由と結果のすり合わせが十分でなかっただけだ。嫌味ではない。本当だ」
「ウソだ!! 嘲弄したな貴様!! おのれ早坂秋水、おのれえええええええええ!!!」
凄まじい形相で(まなじりに米粒のような涙をたたえつつ)歯がみする無銘を「まあまあ」と両手で制しながら秋水は思う。
やはりやり辛い少年だと。もっとも、相手が生真面目な分だけ、まひろやパピヨンなどの「突きぬけちゃってる」人物たち
より与し易くもあるが。
(くうう!! なんだこやつ! なんだこやつ! こういうのが大人だというのか!? くそう!)
秋水の内心しらぬ無銘は羨望半分怒り半分でまたまた歯がみした。
鳩尾無銘。
かつてはチワワの姿にしかなれなかった犬型ホムンクルスである。
(その原因は確か)
かつてはチワワの姿にしかなれなかった犬型ホムンクルスである。
(その原因は確か)
──「ほっほう。七週目だからかのう。まだまだ人間の形には程遠い。チト早まったかの」
──「かじりかけの桃切れを缶詰に戻してお魚の目玉つけたよう。色々な汁気たっぷりでウットリ」
──「まあよい。母体が事切れたゆえ急ぐとしよう。幼体はあるかの? 子犬のホムンクルスの」
──「かじりかけの桃切れを缶詰に戻してお魚の目玉つけたよう。色々な汁気たっぷりでウットリ」
──「まあよい。母体が事切れたゆえ急ぐとしよう。幼体はあるかの? 子犬のホムンクルスの」
──「どれ、この赤子に埋め込んでやるかの。ホムンクルスはホムンクルスを喰えんというが」
──「犬に仕立てた出来そこないの赤子。果たして味や如何? 腹を壊すのもまた一興……」
(まだ母胎にいる頃、何者かによって幼体を埋め込まれたせい。今は人間形態にもなれるが)
「…………?」
本日何度目かの違和感が過る。秋水は気付く。自分がいま、”何か”に気付きかけたのを。
無銘との戦いの時には聞き流せた言葉。なのに無意識が警鐘を鳴らしている。気付け、気付けと、
かつて聞いた、不明瞭なノイズ混じりの音声。声の主が男性か女性か、子供か老人かさえ分からないのに……。
無銘との戦いの時には聞き流せた言葉。なのに無意識が警鐘を鳴らしている。気付け、気付けと、
かつて聞いた、不明瞭なノイズ混じりの音声。声の主が男性か女性か、子供か老人かさえ分からないのに……。
うち片方の口調に、秋水は強烈な聞き覚えがあった。
最近。本当に最近、同じ口調の人間と出会った記憶がある。
最近。本当に最近、同じ口調の人間と出会った記憶がある。
少しずつだが、日常と乖離した何事かが忍び寄っている気がする。
にもかかわらず、考えようとするたび脳髄が軋む。周りの人間、特に無銘へ伝えようとするたび脳の中で情報が逆流し
て有耶無耶にされている。何かに禁じられているような……演技の神様絡みの事を思い出そうとする時の、嫌な違和感
ばかりが脳を占める。
て有耶無耶にされている。何かに禁じられているような……演技の神様絡みの事を思い出そうとする時の、嫌な違和感
ばかりが脳を占める。
「無銘くんは……優しい……です」
桜花にしっかと抱きとめられた少女が、ぽつりと呟いた。
(……こっちはこっちで物騒なもんいなしてるな)
剛太は呆れた。垂れ目が地の底めがけずり下がっていく心持ちは、いつかのメイド喫茶入店時以来だ。
桜花は座ったまま、小柄な人物を膝に乗せている。年の離れた妹か、はたまた小さな娘を抱っこしているような体勢だ。
ただ剛太的には”核爆弾をそうしている”というのが率直な感想だ。
なにしろ、桜花が親しげに呼びかけているのは──…
桜花にしっかと抱きとめられた少女が、ぽつりと呟いた。
(……こっちはこっちで物騒なもんいなしてるな)
剛太は呆れた。垂れ目が地の底めがけずり下がっていく心持ちは、いつかのメイド喫茶入店時以来だ。
桜花は座ったまま、小柄な人物を膝に乗せている。年の離れた妹か、はたまた小さな娘を抱っこしているような体勢だ。
ただ剛太的には”核爆弾をそうしている”というのが率直な感想だ。
なにしろ、桜花が親しげに呼びかけているのは──…
(あらゆる鳥と人間の姿に化けられる『特異体質』の持ち主)
(ただし強さと引き換えに、常人の5倍の速度で老化する少女)
そのせいだろうか。たった1週間前後の別れにも関わらず、以前より大人びて見えるのは。
ずきりと痛む脇腹をさすりつつ、秋水はその少女の名を心で呼ぶ。限りない、畏怖を込めて。
(鐶光。俺を倒したホムンクルス……)
防人と斗貴子と剛太、桜花。更にいまはこの場にいない楯山千歳と根来忍を加えた6人の戦士を一斉に相手取り、最後
の最後、負けるその瞬間まで優勢を保っていた音楽隊副長である。怯えるなという方が無理であろう。
にもかかわらずいまは桜花のされるがままだ。まったく不思議な少女と言わざるを得ない。
「きっと無銘クン、小札さんだけじゃなく光ちゃんにも毒ガスを浴びせたくなかったんでしょ。ねー」
「ねー……です」
「ちちちちち違うわ!! 前述がごとく結局貴様も母上も巻き込んだ訳で……その、ズグロモリモズの毒になると怒りもしな
かった貴様には感謝したいというか……あ、違う、違うぞ……避けなかった方が悪いのだ。毒の再利用など当然……」
顔をぱっと赤黒くし両手をあたふたさせる無銘を、虚ろな目の少女はぼうっと眺めた。顔は紅潮し、今にもとろけそうである。
「ビ、ビーフジャーキー……食べます?」
「お、おうとも」
ひったくるようにしておやつをもぐもぐ食べる無銘を、鐶は嬉しそうに眺め
「あらあら。相変わらずお熱ね。光ちゃん」
桜花の膝の上でしっとりと俯いた。詳しい表情は分からないが、とにかく赤いコトだけは確かだった。
「……………………………………………………はい」
今にも消え入りそうな声である。室内でもバンダナをかぶり、ダウンジャケットとチュールのついたミニスカートという活発
な出で立ちとはいかにも乖離している。だが真赤な三つ編みの揺れ動くところどれほどの灰燼と圧倒をもたらすか。
まさに魔神がごとき少女なのである。
の最後、負けるその瞬間まで優勢を保っていた音楽隊副長である。怯えるなという方が無理であろう。
にもかかわらずいまは桜花のされるがままだ。まったく不思議な少女と言わざるを得ない。
「きっと無銘クン、小札さんだけじゃなく光ちゃんにも毒ガスを浴びせたくなかったんでしょ。ねー」
「ねー……です」
「ちちちちち違うわ!! 前述がごとく結局貴様も母上も巻き込んだ訳で……その、ズグロモリモズの毒になると怒りもしな
かった貴様には感謝したいというか……あ、違う、違うぞ……避けなかった方が悪いのだ。毒の再利用など当然……」
顔をぱっと赤黒くし両手をあたふたさせる無銘を、虚ろな目の少女はぼうっと眺めた。顔は紅潮し、今にもとろけそうである。
「ビ、ビーフジャーキー……食べます?」
「お、おうとも」
ひったくるようにしておやつをもぐもぐ食べる無銘を、鐶は嬉しそうに眺め
「あらあら。相変わらずお熱ね。光ちゃん」
桜花の膝の上でしっとりと俯いた。詳しい表情は分からないが、とにかく赤いコトだけは確かだった。
「……………………………………………………はい」
今にも消え入りそうな声である。室内でもバンダナをかぶり、ダウンジャケットとチュールのついたミニスカートという活発
な出で立ちとはいかにも乖離している。だが真赤な三つ編みの揺れ動くところどれほどの灰燼と圧倒をもたらすか。
まさに魔神がごとき少女なのである。
「でも、光ちゃんがいるなら総角クンたちもうちょっと早く来れたんじゃないの?」
「そーそー。お前が鳥形態になってブレミュ全員載せてくりゃあ瀬戸内海からあっという間じゃね?」
「はい……。一度、試しました……。そしたら…………あっという間に…………北極に……つきました。シロクマさんと……
殴り合いをしました……」
「何とか青森県には戻れましたので、そこから電車など乗り継ぎつつここまで来た次第!」
戦団の支部のある瀬戸内海と逆方向じゃねーか。剛太の口から愕然たる呻きが漏れる。
(そういえば方向音痴だったな)
伝聞だが、秋水は思い出した。しかし戦えばあれほど強いというのに方向音痴とは。やや呆れたように目を細める秋水の
先で、鐶はピンク色のドーナツをもそもそと食べ始めた。咀嚼するたび食べかすが卓袱台に散らばり、香美や無銘が窘める。
戦っていないと非常にボケーっとした性格で、いちいちいちいち抜けているようだ。
その弊害をおっかぶされた者が約一名いるようで。
「申し訳ありません防人戦士長。予定では昨日、合流する手筈でしたのに……」
ガスマスクがゴーグル越しに腕を当て、うっうと泣く仕草をした。
「……あー。遅刻したのは彼女のせいか」
「はい……」
「いや、北極に行ってこの程度の遅刻ならいい方だ」
「いえ。北極から日本までは数時間で着きました。ただ、よりにもよって、この街に着いてから1日ほど」
「迷っていたのか?」
呻き、汗を垂らす防人に粛然と向き直り、鐶は力強く呟いた。
「はい……リーダーたちが……私と……はぐれて……迷いました」
「はぐれたのは貴様の方だろうが!!!」
ばしりという音が鐶の頭からした。凍った蘇芳染めの手ぬぐいが彼女を襲撃したのである。もちろんそれは忍び六具の1つ
が薄氷(うすらい)なる忍法で凍結したものだから、犯人は誰あろう鳩尾無銘である。秋水は一瞬でそこまで見抜いた。
「痛い……です」
バンダナを抑えながら鐶はうっすら涙ぐんだ。例の如くバンダナにはニワトリの顔が浮かび、鐶と同じ表情をしている。
「黙れ! 師父たちが貴様とはぐれたのではない! 貴様が虚ろなる笑い立てつつすずめばちを追っかけて、勝手にはぐれ
たのだろうが!!」
(すずめばちって)
(何で追いかけんだよそんなもん。あ。ひょっとしてズグロモリモズの毒用か。……!! じゃあつまり、喰うのか!? すずめばち!)
剛太と御前が呆れる中、桜花だけはその光景を想像した。
「そーそー。お前が鳥形態になってブレミュ全員載せてくりゃあ瀬戸内海からあっという間じゃね?」
「はい……。一度、試しました……。そしたら…………あっという間に…………北極に……つきました。シロクマさんと……
殴り合いをしました……」
「何とか青森県には戻れましたので、そこから電車など乗り継ぎつつここまで来た次第!」
戦団の支部のある瀬戸内海と逆方向じゃねーか。剛太の口から愕然たる呻きが漏れる。
(そういえば方向音痴だったな)
伝聞だが、秋水は思い出した。しかし戦えばあれほど強いというのに方向音痴とは。やや呆れたように目を細める秋水の
先で、鐶はピンク色のドーナツをもそもそと食べ始めた。咀嚼するたび食べかすが卓袱台に散らばり、香美や無銘が窘める。
戦っていないと非常にボケーっとした性格で、いちいちいちいち抜けているようだ。
その弊害をおっかぶされた者が約一名いるようで。
「申し訳ありません防人戦士長。予定では昨日、合流する手筈でしたのに……」
ガスマスクがゴーグル越しに腕を当て、うっうと泣く仕草をした。
「……あー。遅刻したのは彼女のせいか」
「はい……」
「いや、北極に行ってこの程度の遅刻ならいい方だ」
「いえ。北極から日本までは数時間で着きました。ただ、よりにもよって、この街に着いてから1日ほど」
「迷っていたのか?」
呻き、汗を垂らす防人に粛然と向き直り、鐶は力強く呟いた。
「はい……リーダーたちが……私と……はぐれて……迷いました」
「はぐれたのは貴様の方だろうが!!!」
ばしりという音が鐶の頭からした。凍った蘇芳染めの手ぬぐいが彼女を襲撃したのである。もちろんそれは忍び六具の1つ
が薄氷(うすらい)なる忍法で凍結したものだから、犯人は誰あろう鳩尾無銘である。秋水は一瞬でそこまで見抜いた。
「痛い……です」
バンダナを抑えながら鐶はうっすら涙ぐんだ。例の如くバンダナにはニワトリの顔が浮かび、鐶と同じ表情をしている。
「黙れ! 師父たちが貴様とはぐれたのではない! 貴様が虚ろなる笑い立てつつすずめばちを追っかけて、勝手にはぐれ
たのだろうが!!」
(すずめばちって)
(何で追いかけんだよそんなもん。あ。ひょっとしてズグロモリモズの毒用か。……!! じゃあつまり、喰うのか!? すずめばち!)
剛太と御前が呆れる中、桜花だけはその光景を想像した。
「うふふ……あはは……すずめばちさん……待ってくださーい…… うふふ。あはははは」
きっと、点描をバックにスローモーションで女の子走りしていたのだろう。虚ろな、病人のような目で。
そうしてやがて口から異様に長い舌をべろりと出して、鞭のように地面をビターンビターンと2~3度叩いて加速をつけ、
すずめばちを両断! 空中で巻き込み、口めがけ引きこむのだ。そこまで考えた桜花は盛大に吹き出し周囲の注目を集めた。
そうしてやがて口から異様に長い舌をべろりと出して、鞭のように地面をビターンビターンと2~3度叩いて加速をつけ、
すずめばちを両断! 空中で巻き込み、口めがけ引きこむのだ。そこまで考えた桜花は盛大に吹き出し周囲の注目を集めた。
「ち、違います……はぐれたのは……リーダーたち……です。私はただ……道が分からなくなっただけ、です……」
「ますます貴様のせいではないか!! この方向音痴が!」
「私は……方向音痴じゃ……ありません…………」
「マトモな方向感覚の持ち主がどうして銀成へ行けと指示され北極につくのだ!!」
(まったくだ)
戦士一同はうんうんと頷いた。
「シロクマさんを生で見れたのは嬉しかったけれども!! え!! 貴様のせいで師父が協力すべき戦士長さんが待たさ
れたのだぞ! ホムンクルスだからとて約束破りを良しとしてどうする! 我も貴様も根底は人間なのだ!! 道議を踏み
外してどうする!! シロクマさんに延髄蹴りを叩きこんでどうする!」
「…………そう、ですが。でも……方向音痴じゃ……ありません」
「うっさい! この方向音痴方向音痴方向音痴方向音痴方向音痴方向音痴! ばーかばーか!!」
「り、理解しようとしていたのに……。そんなコトいう無銘くんは……嫌い……です」
ぷいと顔をそむける鐶に誰もが溜息をついた。
(意外に頑固な子だな)
防人は目を見張る思いだ。ドーナツで餌付けできるほど単純かと思いきや、欠点については妙に意固地になるらしい。
「ひょっとしてただの負けず嫌いか? となれば戦いの時、ああまでしつこいのも納得できるが」
斗貴子は腕組みしつつ呻いた。まったく鐶という少女を負けさせるコトの困難さが今さらながらに痛感できた。
(本っっっ当。あの戦いは泥沼だった。正直二度と戦いたくない)
ねじくれた感情を半眼から彼方めがけ飛ばしつつ、斗貴子は小声でブーたれる。
つくづく泥沼な戦いだった。攻撃を叩きこめば回復。起死回生の一手を打てばことごとく破られ、追い詰めれば切り札を
使い敗北直前でもなお粘る。外見こそ可憐だが、まったく厄介きわまる負けず嫌いだ。
無銘も辟易したらしく、とうとうさじを投げるような調子で叫んだ。
「嫌いでけっこう! 貴様に好かれても嬉しくないわ!」
「え…………」
今度は青く澄んだ瞳が悲しみに溢れた。鐶はおろおろと無銘を見つめ健気な様子で何度も何度も淡い桜色の唇を震わせた。
何か言おうとしているようだが、言葉にはならない。ショックのほどが伺えた。とうとう鐶はすがるような視線を桜花に向けた。
抱きかかえられているから首を後ろにねじ向ける形になる。半分涙目の上目遣いですがる鐶。桜花の保護意欲は大いに
かきたてられた。きゃーと黄色い声さえ上げ、まひろがよくやるような表情で頬ずりした。
(つくづく姉属性だなあ桜花)
一応人格を共有している御前が思うのは、理知ゆえの客観視か。
やがて桜花はバンダナ越しに鐶を撫で撫でしつつ、優しげに囁いた。
「ますます貴様のせいではないか!! この方向音痴が!」
「私は……方向音痴じゃ……ありません…………」
「マトモな方向感覚の持ち主がどうして銀成へ行けと指示され北極につくのだ!!」
(まったくだ)
戦士一同はうんうんと頷いた。
「シロクマさんを生で見れたのは嬉しかったけれども!! え!! 貴様のせいで師父が協力すべき戦士長さんが待たさ
れたのだぞ! ホムンクルスだからとて約束破りを良しとしてどうする! 我も貴様も根底は人間なのだ!! 道議を踏み
外してどうする!! シロクマさんに延髄蹴りを叩きこんでどうする!」
「…………そう、ですが。でも……方向音痴じゃ……ありません」
「うっさい! この方向音痴方向音痴方向音痴方向音痴方向音痴方向音痴! ばーかばーか!!」
「り、理解しようとしていたのに……。そんなコトいう無銘くんは……嫌い……です」
ぷいと顔をそむける鐶に誰もが溜息をついた。
(意外に頑固な子だな)
防人は目を見張る思いだ。ドーナツで餌付けできるほど単純かと思いきや、欠点については妙に意固地になるらしい。
「ひょっとしてただの負けず嫌いか? となれば戦いの時、ああまでしつこいのも納得できるが」
斗貴子は腕組みしつつ呻いた。まったく鐶という少女を負けさせるコトの困難さが今さらながらに痛感できた。
(本っっっ当。あの戦いは泥沼だった。正直二度と戦いたくない)
ねじくれた感情を半眼から彼方めがけ飛ばしつつ、斗貴子は小声でブーたれる。
つくづく泥沼な戦いだった。攻撃を叩きこめば回復。起死回生の一手を打てばことごとく破られ、追い詰めれば切り札を
使い敗北直前でもなお粘る。外見こそ可憐だが、まったく厄介きわまる負けず嫌いだ。
無銘も辟易したらしく、とうとうさじを投げるような調子で叫んだ。
「嫌いでけっこう! 貴様に好かれても嬉しくないわ!」
「え…………」
今度は青く澄んだ瞳が悲しみに溢れた。鐶はおろおろと無銘を見つめ健気な様子で何度も何度も淡い桜色の唇を震わせた。
何か言おうとしているようだが、言葉にはならない。ショックのほどが伺えた。とうとう鐶はすがるような視線を桜花に向けた。
抱きかかえられているから首を後ろにねじ向ける形になる。半分涙目の上目遣いですがる鐶。桜花の保護意欲は大いに
かきたてられた。きゃーと黄色い声さえ上げ、まひろがよくやるような表情で頬ずりした。
(つくづく姉属性だなあ桜花)
一応人格を共有している御前が思うのは、理知ゆえの客観視か。
やがて桜花はバンダナ越しに鐶を撫で撫でしつつ、優しげに囁いた。
「こういう時は……謝った方がいいと思うわよ?」
「ごめんなさい……です。私がはぐれたせいで……合流が……遅れました」
「ごめんなさい……です。私がはぐれたせいで……合流が……遅れました」
(*1))
「あ、あと……私を叩いても……無銘くんが……ケガしなかったのは……良かった、です」
「……やかましい」
「……やかましい」
嬉しそうな鐶に、無銘は舌打ちした。
(確か彼女は姉の手でホムンクルスになったという。……姉妹の間に、どういう確執があったんだ?)
秋水がその疑問を描く時、常に確固たる恐怖が胸を占める。
「なぜ、作れたのか」と。
「兎にも角にも不肖たちは合流した訳なのでありますっっっ!! 古来激しく拳を交えた者同士が擦りむけた手に手を取って
協力し合うというのは正にまったく王道の、力強くも勇気に満ちたお約束といえるでしょう!!」
タキシードにシルクハットといういでたちの、まさにマジシャン少女が拳を固めて熱弁した。
(小札さんは相変わらずね)
(相変わらずすぎるなオイ)
桜花、御前の溜息がシンクロした。いや、もともと彼女たちは人格を共有しているのだから当たり前といえば当たり前なの
だが、わざわざ本体と武装錬金の両方で溜息をつきたくなるほど、知己は一本調子である。
小札零という小学生女児のようなロバ型は、正にいつもの調子だった。市販品のマイクを手にやんややんやとまくし立て
続けている。小さな体のどこから出ているのか不思議なぐらいのエネルギーを唇から迸らせ、肩のあたりでおさげを景気
よく揺らしている。
「あ……」
斗貴子が一瞬、何かを言いたそうに口を開き、すぐ噤んだ。
(やはり君も同じ状態、なのか?)
寸分たがわぬ反応をしながら秋水は思う。聞かなければならないコトが小札にあった。確か、演技の神様との関係性だ。
なのにそれを口に登らせようとするたび強制的に口を閉ざされる。自分の意思などないがごとく、口だけが強引に。
秋水はいよいよ分からなくなってきた。あの、演技の神様という青年は、何者だったのだろう。
いったい何を、したのだろう。
そもそも小札自体、不思議な少女だ。副長という肩書こそ鐶に譲っているが、その実総角や無銘とともに音楽隊創設に
携わった最古参である。いま無銘が10歳なのを考えると、10年前の音楽隊黎明期において総角を補佐してきたのは実質
彼女一人といえるだろう。
なぜ、総角につき従っているのか。
実況が得意なのにいでたちが全身タキシードのマジシャンルックというちぐはぐさも不思議だ。
(そういえば彼女の前歴は香美や貴信、無銘や鐶のそれほど聞かされていない。音楽隊に属する前は何をしていたんだ?)
協力し合うというのは正にまったく王道の、力強くも勇気に満ちたお約束といえるでしょう!!」
タキシードにシルクハットといういでたちの、まさにマジシャン少女が拳を固めて熱弁した。
(小札さんは相変わらずね)
(相変わらずすぎるなオイ)
桜花、御前の溜息がシンクロした。いや、もともと彼女たちは人格を共有しているのだから当たり前といえば当たり前なの
だが、わざわざ本体と武装錬金の両方で溜息をつきたくなるほど、知己は一本調子である。
小札零という小学生女児のようなロバ型は、正にいつもの調子だった。市販品のマイクを手にやんややんやとまくし立て
続けている。小さな体のどこから出ているのか不思議なぐらいのエネルギーを唇から迸らせ、肩のあたりでおさげを景気
よく揺らしている。
「あ……」
斗貴子が一瞬、何かを言いたそうに口を開き、すぐ噤んだ。
(やはり君も同じ状態、なのか?)
寸分たがわぬ反応をしながら秋水は思う。聞かなければならないコトが小札にあった。確か、演技の神様との関係性だ。
なのにそれを口に登らせようとするたび強制的に口を閉ざされる。自分の意思などないがごとく、口だけが強引に。
秋水はいよいよ分からなくなってきた。あの、演技の神様という青年は、何者だったのだろう。
いったい何を、したのだろう。
そもそも小札自体、不思議な少女だ。副長という肩書こそ鐶に譲っているが、その実総角や無銘とともに音楽隊創設に
携わった最古参である。いま無銘が10歳なのを考えると、10年前の音楽隊黎明期において総角を補佐してきたのは実質
彼女一人といえるだろう。
なぜ、総角につき従っているのか。
実況が得意なのにいでたちが全身タキシードのマジシャンルックというちぐはぐさも不思議だ。
(そういえば彼女の前歴は香美や貴信、無銘や鐶のそれほど聞かされていない。音楽隊に属する前は何をしていたんだ?)
その辺りが、例の演技の神様の謎を解く糸口になるかも知れないが──…
懊悩などまったく知らぬ様子で、剛太は小札を揶揄した。
「ところでコイツって戦闘の役に立つんですか? 弱そうだし貧相だし」
「ひ、貧相!?」
ショックを受けた様子で小札は胸を覆った。誰も身体的特徴には言及していないのだが、平素からのコンプレックスが
そういう行動をとらせたらしい。やがて質問の真意を悟ったのか、彼女は空咳を一つ打ち、再起動。
「むむ! やはりこの点さすがに鋭き剛太どの! 思考の歯車はいま不肖への分析に向かって激しく回り始めたという
ところでありましょう! 確かに不肖、戦闘能力におきましては他の皆々様より数枚劣りまする!」
まるで他人事のように小札は熱を吹き、卓袱台の上で短い腕を「バババッ!」とばたつかせた。仲間達を順に指差してい
る。斗貴子が気付いたのは以下の紹介が終わったころである。
「ところでコイツって戦闘の役に立つんですか? 弱そうだし貧相だし」
「ひ、貧相!?」
ショックを受けた様子で小札は胸を覆った。誰も身体的特徴には言及していないのだが、平素からのコンプレックスが
そういう行動をとらせたらしい。やがて質問の真意を悟ったのか、彼女は空咳を一つ打ち、再起動。
「むむ! やはりこの点さすがに鋭き剛太どの! 思考の歯車はいま不肖への分析に向かって激しく回り始めたという
ところでありましょう! 確かに不肖、戦闘能力におきましては他の皆々様より数枚劣りまする!」
まるで他人事のように小札は熱を吹き、卓袱台の上で短い腕を「バババッ!」とばたつかせた。仲間達を順に指差してい
る。斗貴子が気付いたのは以下の紹介が終わったころである。
「卓越した剣客かつ理論上総ての武装錬金コピー可能なもりもりさん!!
「敵対特性の兵馬俑あーんど性質付与の龕灯! それら併用可能で忍術たくさん無銘くん!」
「さらにさらにエネルギー抜き出し可能な鎖分銅とそれを存分に扱われるコト可能な貴信どの!」
「あらゆる物をお手に吸い込め吐き出せる香美どの! 野生ゆえの直観力や瞬発力は動物型の中でも実はかなりの高レベル!」
「それから言わずもがなの特異体質と年齢操作の短剣持ちの鐶副長!」
まるで何かのトーナメントの出場選手を紹介するような口ぶりだ。ほんわかした柔らかい大声は聞くだけで癒されるようだと
秋水は思った。どんぐり眼をきらきらさせる小札の顔はまったく人外のホムンクルスらしからぬ物だった
秋水は思った。どんぐり眼をきらきらさせる小札の顔はまったく人外のホムンクルスらしからぬ物だった
「以上5名の方々に比べれば不肖! 数枚劣るのもいなめませぬ!」
「あら。そうかしら。例の絶縁破壊は強力だと思うわよ。何しろ神経の絶縁体を破壊して、身動きできなくしちゃんんだから」
桜花の指摘に小札は目を点にし、汗をだらだら流し始めた。
「そ、それはご体験ゆえの感想でしょーか。裏には何やら絶縁破壊繰り出せし不肖への厳しいご指摘があるような」
「あら。気を使わせちゃった? 大丈夫、おあいこよ。私も小札さんの前歯折っちゃったし」
そういって艶然と笑う桜花に縮こまる一方の小札である。ちなみにこの両名は同い年(18)である。モデル並の体型で
美女といって差し支えない桜花の傍に小札がいると、その寸胴した幼児体型はますます際立つようだった。
「あああ。ああああ。なぜに同じ年月重ねましたのにこうまで差があるのでしょーか……」
頭を両手で大仰に抱えるロバ少女は桜花の悩ましい体つきをこれでもかととても必死に凝視した。
胸、腹、腰。視線から発する破線の矢印マークが下へ下へと傾斜するたび、小札の顔はいよいよ悲壮を極めていく。
最後には口をあんぐり開け、顔全体をひくひく震わせた。目はもうぐしゃぐしゃだ。クレヨンで書きなぐったがごとくひたすら
乱雑で真黒だ。そのまなじりには超特大のガラス玉のような涙さえ溜まっている。
打ちのめされた。まさにそんな顔だ。だが総角などはそんな彼女を本当に愛しそうに笑って眺めている。
(これが絆というものなのだろうか……)
秋水はそんなコトを考えてしまった。男女の機微はよく分からない。少なくても自分が当事者になれるとは思えない。
実の父親は浮気をした。それが、秋水たちの運命を狂わせる引き金となった。
父を恨んでいる訳ではない。ただ、押しつけられている。
妻を得ながら浮気をする人物の息子。それが自分だという事実を。
それでも小札を見て愛しそうに笑える総角は、羨ましかった。
(……考えるのはよそう。柄じゃない。俺はまだ、それ以外にもやるべき事が沢山ある)
「あら。そうかしら。例の絶縁破壊は強力だと思うわよ。何しろ神経の絶縁体を破壊して、身動きできなくしちゃんんだから」
桜花の指摘に小札は目を点にし、汗をだらだら流し始めた。
「そ、それはご体験ゆえの感想でしょーか。裏には何やら絶縁破壊繰り出せし不肖への厳しいご指摘があるような」
「あら。気を使わせちゃった? 大丈夫、おあいこよ。私も小札さんの前歯折っちゃったし」
そういって艶然と笑う桜花に縮こまる一方の小札である。ちなみにこの両名は同い年(18)である。モデル並の体型で
美女といって差し支えない桜花の傍に小札がいると、その寸胴した幼児体型はますます際立つようだった。
「あああ。ああああ。なぜに同じ年月重ねましたのにこうまで差があるのでしょーか……」
頭を両手で大仰に抱えるロバ少女は桜花の悩ましい体つきをこれでもかととても必死に凝視した。
胸、腹、腰。視線から発する破線の矢印マークが下へ下へと傾斜するたび、小札の顔はいよいよ悲壮を極めていく。
最後には口をあんぐり開け、顔全体をひくひく震わせた。目はもうぐしゃぐしゃだ。クレヨンで書きなぐったがごとくひたすら
乱雑で真黒だ。そのまなじりには超特大のガラス玉のような涙さえ溜まっている。
打ちのめされた。まさにそんな顔だ。だが総角などはそんな彼女を本当に愛しそうに笑って眺めている。
(これが絆というものなのだろうか……)
秋水はそんなコトを考えてしまった。男女の機微はよく分からない。少なくても自分が当事者になれるとは思えない。
実の父親は浮気をした。それが、秋水たちの運命を狂わせる引き金となった。
父を恨んでいる訳ではない。ただ、押しつけられている。
妻を得ながら浮気をする人物の息子。それが自分だという事実を。
それでも小札を見て愛しそうに笑える総角は、羨ましかった。
(……考えるのはよそう。柄じゃない。俺はまだ、それ以外にもやるべき事が沢山ある)
戦わなくてはならない。
そう誓う秋水は、まだ気付けない。
誓いの傍には月を見上げて泣く少女がいるコトを。
それが太陽のような微笑に戻るよう、祈り続けているコトを。
疑問を抱く秋水の前で、小札はただ、いつもの調子で喋りまくる。
「ととととにかく、マシンガンシャッフルは壊れた物を繋ぎ合せ自由自在に操れまするが戦場におきまして都合よく壊れた物
があるとも限らぬ以上、戦局によって大いに弱体化するコトもまた大いにありえますのですーーーーーーーーーっ!」
「こいつはこいつで栴檀ども並にうるせえ!!」
剛太の叫びを更なる叫びがかき消した。
「ですが実は不肖、先の秋水どのとの戦いでさえ使わなかった『7色目:禁断の技』を持っております! こちらはげに恐ろし
き威力ではありますが、戦闘援護の一助ぐらいにはやってみせます頑張りまする!」
やー! っと拳突き上げる小札の勢いが、秋水の記憶を蘇らせた。
「『7色目:禁断の技』? それはもしかすると、あの戦いの後言っていた……」
「そう! その技なのであります!!」
「ととととにかく、マシンガンシャッフルは壊れた物を繋ぎ合せ自由自在に操れまするが戦場におきまして都合よく壊れた物
があるとも限らぬ以上、戦局によって大いに弱体化するコトもまた大いにありえますのですーーーーーーーーーっ!」
「こいつはこいつで栴檀ども並にうるせえ!!」
剛太の叫びを更なる叫びがかき消した。
「ですが実は不肖、先の秋水どのとの戦いでさえ使わなかった『7色目:禁断の技』を持っております! こちらはげに恐ろし
き威力ではありますが、戦闘援護の一助ぐらいにはやってみせます頑張りまする!」
やー! っと拳突き上げる小札の勢いが、秋水の記憶を蘇らせた。
「『7色目:禁断の技』? それはもしかすると、あの戦いの後言っていた……」
「そう! その技なのであります!!」
──「人生というのは色々あるものでして、残る一つの技は故あって封じているのです」
──「……」
──「恐らく使うとすれば、それは絶対に倒すべき恐ろしい敵に対してでありましょう」
──「……」
──「恐らく使うとすれば、それは絶対に倒すべき恐ろしい敵に対してでありましょう」
とまあ、わいわいがやがや実に楽しげに騒ぐ音楽隊であるが。
斗貴子の表情はうかない。
斗貴子の表情はうかない。