SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ AnotherAttraction BC (NBさま)14-2


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 ―――頂上会議の三ヶ月前。
「…クリード、返事を出さないのか?」
 執務用の机を挟んで、シキがエアメールの封筒を手に取った。
「そんな汚らわしい物はさっさと捨ててくれないか? 邪魔だよ」
 ノートパソコンの画面から眼を離さず、彼のピアニストの様な指がキーボードに流麗なタップを刻む。
「しかし、良いのか? 名のある各組織からの召喚だぞ、もし今後に影響が…」
「良いんだよそんな物。連中の考える事なんて、たかが知れてるからね」
 アップテンポの音楽を思わせるキータッチ音が、会話に更なる愚弄を添える。
「しかし…」「冗談じゃない」
 焦れた様な声が、ナンバーツーの口を無理矢理塞ぐ。
「キミはこの僕に……この偉大なる僕に、無能共の元に足労しろと言うのかい?」
 無駄骨、と言った雰囲気で目頭を揉む。
「どうせ『技術を寄こせ』とか、『資金を寄こせ』とか、『改造しろ』とか言ってくるだろうしね。
 僕は凡愚共に関わっている暇さえ惜しいんだ、いっそ連中が集まった所に爆弾でも届けたいくらいだよ」
 何を打ち込むのに疲れたか、急に伸びをして脇のメモにペンを走らせる。
 自動書記の様に見る見る描かれるのは、幾つものハングマンとその上に書いた『Old Fools(愚鈍な年寄り共)』。
「全く……クロノスに対抗した気でチマチマ暴れていれば、社会の底辺で生きる事くらいは許してやったんだけど………これは
 ちょっと眼に余るね。ゴミクズの分際で僕と同等みたいな態度を取るなんて………皆殺しにしてやろうか」
 破ったその紙を宙に弾くと―――、横薙ぎで奔る高速の指がその上半分…ハングマン達の首を一閃で斬り飛ばした。
「…いや、でも待てよ……」
 指が往復するたび、先刻飛んだ上半分が何度も上に弾かれて少しずつ刃物で切った様にカットされていく。
「うん…成る程……そうか…」
 中空の紙片は綺麗な楕円形となり、そのきっちり中心にはあの嘲弄文が収まっている。
「シキ、やっぱり受けるよ。先輩方と親交を深めよう」「…何だと?」
 彼の怪訝も致し方無し、今もその先輩方に見立てた紙片を嬲っている。
「行くと言ってるのさ。色々準備が要るから、君も手伝ってくれないか」
 だが…やおら往復する手が不意に天を衝く。それは、無刀で有るが紛れも無い大上段の構え。
 そして――――――、落雷もかくやの神速で机の天板ギリギリまで手刀が振り抜かれた。
「ああ……楽しみだな」
 遠足を待つ少年の様な貌の前に舞う、両断された紙片………そして余波で二つに割れた天板が、穏便な会合など無い事を示していた。

 そして現在。
 大食堂に満ちるのは先刻の和やかさではなく、煮え滾る様な殺気だ。
 してなおその温度を上げるのは、皮肉にも今までで一番朗らかなクリードの笑顔だ。壁中の黒服が懐に手を入れ、〝ご先輩方〟などは
火でも噴くのではないかと言うほど顔を怒りに染め上げている。
「おやおや、どうなさいました? 僕は皆さんの意を的確に汲んだつもりですが」
「―――黙れ! このクソガキがッ!!!」
 溢れんばかりの怒りで、激しく卓を殴り付ける。
「自惚れるのも大概にしろよ、若造! 貴様……我々を何だと思っている!?」
「……立場を良い事に若い衆の手柄を横取りせんとする、老害…ですかね?」
 その背後で、シャルデンが堪え切れずに苦笑を零す。
「おい三下、何がおかしい!!?」
「イエ…此処で怒るのでしたらつまり、我々の協力など要らない、と言う解釈で良いのでしょうカ?」
 美青年の蛇の様な異論に、真っ赤になった顔が言葉を飲み込んで見る見る青黒くなる。
「それ、見なサイ」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!! 黙れッ!!! 詭弁を弄すなッッツッ!!!」
「……成る程。クリード、お前の言った通り立場にアグラをかいた連中ばかりか」
 呆れ返ったシキの言葉が引き金となってか、遂に無数の銃口が彼らに向けられる。
「……我々革命の闘士に、これ以上の無礼は許さんぞ!! 訂正しろこのクソチビがッ!!!」
「革命の闘士なら、もう少し品性を学んだ方が良いな。育ちと器が知れるぞ」
「同志の話し合いに武器を持ち込む時点で、これまでの人生が見えて来るようだね」
 いちいち痛い所を突かれ、彼らはもう爆発寸前だった。

「待て、待て、待て! 君達銃を収めなさい!!! 早く!」
 それを一人止めたのは、アリウス師だ。彼は武器を持っていないらしく、両手を広げて宥めに掛かっていた。
「どうやらクリード君は、少々勘違いしているようだ。そのぐらいは大目に見なさい」
「まさか、僕は到って冷静で大真面目ですよ。僕の様に未来も才能も有る前途有望な若者が、死に損なっただけで此処まで来た
老衰寸前の干物に、その功績を奪われるのが我慢ならないのですよ。
 正直言って、引き際を忘れた輩などただただ有害です。違いますか?」
 何処までも快活なクリードに、アリウス師でも抑え切れないほど怒りが満ち満ちる。
「君は……何故こんな…」
「最終的に決定させたのは老師、貴方ですよ」
 毒に満ちた笑顔に、アリウス師の貌が凍り付いた。
「後世に譲る気など無いのでしょう? 道とサイバネティクスに不老の可能性を託し、あわよくば永遠に今の地位に居座ろう
と言う魂胆では? まだ貴方がたは、頂点の美味を味わい尽くしていないでしょうから」
 脂汗と震える拳は雄弁な証明だ。
「ついでに言うとあの時、僕は笑いを堪えるのに一生懸命でしたよ。
 典型的ですよ。まずは恫喝、続いて懐柔、そして緩めば一気に篭絡………星の使徒の主導権を皆さんで握る気満々じゃないですか」
 打ち合わせを読まれていた事に、場を占める歴々が言葉を失う。
「やれやれ、志半ばに召されるのが嫌なのは判りますよ。でも、寿命に追い着かれるより早く目的を遂げる手を考えるのも、
指導者の才覚では無いでしょうかね? そんなだから老害なのですよ、貴方がたは」
 何処までも嘲笑うクリードへの怒りは頂点に達そうとしていた。何より図星を当てられ続け、忍耐は勿論矜持も尽きかかっている。
「過ぎ去りし後の礎? ふふ、まあその通りでしょうね。自分達の栄耀栄華を支えると言う意味では」
「―――黙れッ!」
 とうとうアリウス師が叫んだ。
「………選べ。此処で死ぬか……それとも我らの傘下に降るか…二つに一つだ!」
「一番の嘘つきが、やっと正直になれましたね。でも、もう少し言辞の修飾を取り払うべきかと」
 その時―――頭目の一人が耳のマイクに手をやった。それだけなら誰も注目しないのだが、驚愕に染まる声音と貌が一同を注目させる。
「………何…? 馬鹿な! そんな……そんな筈が…!!」「今、襲撃を受けているのでしょう?」
 誰もが彼を訝る中、クリードの言葉は明らかに通信に即したものだった。
「勿論僕の部隊ではありません。間違い無くクロノス……それも、アウトラウンドでしょうね」

 ―――ハルドヴェルク城、正門前掃射陣地。
「ボス…! 早く、何とかしてください!! このままじゃ押し切られます!!」
 陣地に蹲りつつ、男は泣きそうな声で通信機に叫ぶ。
 正面だけあって装備も陣地の厚みも余所以上だが、それでも襲撃者達は圧倒的だった。
 射撃間隔は機関銃のそれより酷く空いているが、その精度と来たら攻撃しようとした途端にヘッドショットが待っている。
 それゆえ今も土嚢に身を隠すが、放物弾道で飛来する矢は陣地を守る同志をそのまま射殺して来た。かく言う彼も、その脚に深々と
アルミ製の矢が突き刺さっている。
「……悪魔だ…あいつらは悪魔だ!」
 機銃掃射が出来ない以上、接近戦しかない。傍らに置いたショットガンを掲げ、土嚢を越えて来るであろう敵勢を恐怖を堪えて待つ。
 ………そうして銃声も止み、息苦しい二分が経過した。
「…? 来ないのか?」
 此処ではない他のルートを確保したのだろうか。だとしても出るのは得策ではない。コーナーミラー(歯科医の使う口内鏡を
大きくした様な器具。これで死角を見る)を取り出し、陣地の外を注意深く確かめる。
 その所為で―――、傍で斧を振り上げる黒服に気付くのが遅れた。
「…正面、クリア」
 サングラス型の通信機に囁きながら、無慈悲な刃は振り下ろされた。

「僕が、此処の情報を漏洩したからですよ」
 子供の様に邪気の無い笑みで、快活に絶望を告げる。
「と言ってもご安心を。それなりの情報収集力が無いと得られない程度に制限しましたから。
 ですので万が一にも、三下が来る事は有りません」
「ふざけるなッ!」卓を叩くと同時に怒号が迸る。「貴様…此処の情報をクロノスに売っただと……!!! 一体どう言うつもりだ!」
「それに……貴様らはどうする気だ!? まさか逃げられるとでも思っていないだろうな!」
「いいえ。寧ろ、連中を迎え撃つために今回招きに応じたのですよ。
 そろそろ有力なナンバーズを派手に減らしても良いか……と、思いましてね」
 つまりクリードにとって、彼らはクロノスをおびき寄せる為の餌だったのだ。誰もが憤激に血を昇らせる。
「いい加減にしろ!!! 良いか、もし我々に何か有ったら…!!!」
「……報復ですか? 無駄ですよ」そう言って携帯を取り出し、数秒話し込むなりアリウス師の所まで卓上を滑らせる。
「貴方にです。どうぞスピーカーでお聞きを」
 手で促され、恐る恐る携帯のボタンを押す。
「……私だ」
『おう、アリウス師。私だ』
 一瞬誰か判らなかった。その聞き慣れたイントネーションが、携帯から出る筈が無かったからだ。
「何故無駄か…ですが、簡単ですよ。もう皆さん帰っておられるからです」
『クリード様の仰られるとおりだ。私ことアリウス師並びに各組織のトップ連中は円満に帰還中だ』
 好々爺然とした笑い声は、死神の笑いそのものだ。
「もうこちらで作った皆さんが帰っている以上、僕らが皆さんの組織に報復される事はありませんね。
 指導者は二人も必要無い………となればこちらは居なくても良いでしょう。
 勿論ご安心を。僕が彼らを通して組織をまともに機能させますから」
 指導者は辛いな、と言い締めて、彼は呵呵大笑した。
「おのれ……ッ!!! 表の奴らも呼べッ!」
「ソレも無駄」シャルデンが静かに笑う。「部屋の外の連中は、全員死んでいマス。遅効性の神経ガスデスから、誰も助かりまセン」
 何度も通信機の非常事態コードをコールし続けるが、言葉通り全く繋がらなかった。
 それを目端で確認したクリードが席を立つ。
「さて、楽しい会議もこれで終了ですね。では続いて、僕達の宴を愉しむとしようか」
「待て! 逃げられると…!」「ああそうだ」
 興味は無い、とばかりに罵声を無視してシキの肩に手を置く。
「済まないね、つまらない事を任せて」
「良いさ。私の道は〝こう言う事〟向けだ」
 言い終えるや否や――――矮躯から黒く巨大な蟷螂が無数に飛び出した。


 ………阿鼻叫喚を扉の向こうに聞きながら、クリードは廊下に転がる男達の死体を眺める。
「相変わらず、静かな殺し方だね」
「殺しは無味・無色・無臭・無労が極意デス。散らかるのも騒がしいのも、好きではありまセン」
 シャルデンの道は血に性質ばかりではなく、効能も付加できる。従って気付かれぬよう転々と滴った血の道は、彼が氣を開放する
事で揮発性の毒ガスに変じて彼らを殺したのだ。
「…お美事。素晴らしいお手並みです」
 飾らぬ賞賛と共に、あの秘書姿の美女が現れた。
「全隊に通達を終えました。アウトラウンドとの接触は二分十一秒と推定されます。
 それで、こっちの……」
 言いつつ、連れて来たその人物を前に突き出す。
「丁重に扱ってくれないか。彼女は大事な賓客だ」
 特に何か――例えば、逃走の準備――をしていない事を確かめながら、クリードは微笑んだ。
「なかなか似合ってるじゃないか、リンスレット=ウォーカー」
 秘書に両腕を押さえられながら、純白のパーティドレス姿の彼女は憎々しげに彼を睨んだ。