SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 「パピヨンvsヴィクトリア&音楽隊の帰還」後編 (4)


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──────薄暗いどこかで──────


「ほー。で、で!? 霊魂に作用しとったらどうスゴいん!? 」
「むーん」
「『もう一つの調整体』いうても要はあれ、ふっつーの核鉄ちょっと改造しただけやろ? 100年調整に調整重ねた白い核鉄
ほどスゴクないんやないかな。うん。ウチはそう思うとるでー」
「むーん。それはだね」


 ムーンフェイスは微苦笑していた。



 一連の戦闘終了後、目下ムーンフェイスは銀成市から退散中だ。
 いまは彼が「再就職先」と呼ぶ『組織』の用立てた建物に身を潜め、新たな戦いを待っている。
 のだが。

(やれやれ。LXEの間の抜けた連中が懐かしいよ)

 時々往時を忍ぶほど、再就職先の面々は「色々とヒドい」。
 例えば大人しそうだと話しかけた「笑顔の似合う少女」
(確か……リバっち。いや、リバース君だったかな。何にせよ……まったく怖かったよ)
『彼女にされたコト』は流石のムーンフェイスもあまり思い出したくない。

 いまムーンフェイスに質問している関西弁もあまり正常な人物ではないらしい。
 何しろ、つい12分ほど前まで坂口照星を筒型爆弾で破壊していた。
 何度も、何度も。
 端正な顔が爆ぜ骨と歯が見えた瞬間、関西弁はきゃっきゃと無邪気な歓声を上げた。
「カルシウムの白さが目立つようになった顔面」を掌と鮮血で隠し、倒れまいと踏ん張る照星めがけ筒型爆弾を更に射出。
 直線的に、ではない。
 関西弁が念ずるたび坂口照星の周囲で空間が歪み、渦が空き、そこからまず「疵のついた大きな瞳」が覗く。喜悦に
きゅっと細まった瞳。筒型爆弾はそれを押しのけるようにして飛び出し、例えば肘を爆破する。
 恐らく武装錬金の特性によるものだが、詳細までは分からない。
 確かなのは誘拐以降、同様の行為が坂口照星のあらゆる部位に対して行われたというコトぐらいであろう。

「日本には」

 1発当たりの殺傷力は低い。皮が焼け肉が飛び白く旨そうな部分がちょっと覗く程度だ。
 威力のない爆発と爆風がじわじわとじわじわと、皮を裂いて肉を剥がす。
 ムーンフェイスが知る黒色火薬ならば、パピヨンの武装錬金ならば、一撃で肘から先を落とすだろう。

「日本には、わざとナマクラにした鋸で罪人の首挽く拷問あったとか」

 とは「坂口照星担当医」の文言である。
 3発まとめ撃ってようやくニアデスハピネス1発の9割程度。単発では比較的低威力の筒型爆弾を、関西弁はわざと1発
ずつ投入しているようだった。敢えてナマクラにした鋸の、拷問だった。

(ひどいやり口だったよ)

 今ごろ照星は千切れかけの、皮一枚で繋がっている肘をぶらぶらしたまま無聊を感じているのだろう。
「腐るのを待っとるんや! 爆弾さんたちはな、今日はそういう気分らしいんや。うん」
 底抜けに明るい関西弁は心から楽しんでいる。異常で、しみったれた拷問を。
「そんな話よりな、調整体について教えてーなー。拷問はもう飽きたし」

 幼児の背丈ほどの赤い筒。

 その中から響く関西弁に、ムーンフェイスはため息をついた。




 「もう一つの調整体」。

 かつて戦士たちが血眼で探しまわった黄色い核鉄。
 これを巡り彼らは「ブレーメンの音楽隊」を自称する5体(あるいは6名)のホムンクルスと苛烈な争いを繰り広げた。


──────パピヨンの研究室で──────


 それが飛ぶ。本棚に靠(もた)れかかるパピヨンめがけ。

「解析、成功のようね」
「貴様にしては上出来じゃないか」

 相手が無事キャッチしたのを確認すると、ヴィクトリアは腰に手を当て、悪戯っぽく身を乗り出した。

「慣れれば大したコトないわね錬金術。100年もやらなかったのが馬鹿みたい」

 意地の悪い、小悪魔的な微笑だ。それでいてどことなく明るい。

「調べてみて分かったけど、どうやらそれ、他の核鉄とは違った材質でできているようよ?」
「の、ようだな。どこで採れたかは知らんが精製次第では更に違った核鉄を作れるかも知れん」

 或いは、攻撃力を高め。
 或いは、防御力を高める。

 遥かな未来、パピヨンはこの未知の材質と再び巡り合い……名付け親になる。
 パピヨニウム。
 約一年後、それは意外な形でパピヨンたちに関わってくるが──…
 それはまた別のお話。

「研究資料にウソはないわよ。『霊魂』に作用するわ。間違いなくね」

 束ねた金髪をふぁさりと揺らしながら姿勢を正す。今度は薄い胸を逸らす格好だ。
 対するパピヨンは黄色い核鉄を手にしたまま腕を組み、「やはりな」とだけ呟いた。
 ヴィクトリアも頷いた。

「そう。『肉体』でも『精神』でもなく」



「『霊魂』に」






──────薄暗いどこかで──────


「ほー。で、で!? 霊魂に作用しとったらどうスゴいん!? 」
「むーん」
「『もう一つの調整体』いうても要はあれ、ふっつーの核鉄ちょっと改造しただけやろ? 100年調整に調整重ねた白い核鉄
ほどスゴクないんやないかな。うん。ウチはそう思うとるんやけどー」
 シュールな光景だ。ムーンフェイスは自分の風貌を棚に上げ、会話相手を見た。
 どこからどうみても赤い筒だ。高さはようやく1mというところで、太さは電柱より一回り上ぐらい。先ほどからの声は全て筒の
中からしている。
 つまり筒が喋っているのだ。そしてムーンフェイスは筒に応答している。シュールな光景だ。戯画的三日月が困ったように見下してい
るのも加えればシュール度満点だ。
 再就職先の同僚たち曰くこの赤い筒は武装錬金という。とすれば創造者が中にいるのかも知れないが……筒はあまりに
小さすぎた。個人差や男女差もあるが人間はおよそ3歳ごろ背丈が1mを超える。筒は1mあるかどうかだ。幼稚園児が体
育ずわりしてようやく入れるという程度。ひょっとしたら筒の中には創造者などおらず、自動人形的なシステムで動いたり喋っ
たりしているのかも知れない……ムーンフェイスは推測したが、合っているか、どうか。

 筒のコードネームは「デッド=クラスター」

 再就職先の幹部の1人だ。

「どーしたん月のお兄ちゃん? ウチはマレフィックムーン。『月つながり』やし仲良うしよーや」
「あ、ああ。すまないね。ちょっと説明をまとめるのに苦労してたよ」
 ムーンフェイスは微苦笑した。何が悲しくて筒相手の講釈をしなくてはならないのか。
「まず錬金術の成り立ちから説明しないといけない。君は錬金術についてどれほど知っているかな?








「初歩的なコトぐらいなら知ってるわよ」

 じゃないとママを手伝えなかったから。錬金術嫌いの少女──ヴィクトリア=パワード──は指を曲げ始めた。
「そもそも錬金術の教義だと、人間は」
                                  ,
 肉体。
 精神。
 霊魂。

「の3つからできてるっていうじゃない」
「まあ上出来だ。錬金術師どもはその3つを等しく高め、賢者の石を目指す」
 などというのは錬金術嫌いのヴィクトリアでさえ知っている。初歩も初歩。基本だ。
「賢者の石を作るのは錬金術師の最終目的……だったわね」

 肉体を。
 精神を。
 霊魂を。

 等しく高めるコトでしか賢者の石には到達できない。

 アンチ錬金術師のヴィクトリアでさえ分かる不文律だ。




「ところが、だね」
 ムーンフェイスはひどくおどけた調子で目の前の赤い筒に呼びかけた。
「ところが、この世界の『一般的な』錬金術の産物が高められるのは3つのうちの2つだけときている」

『肉体』を高めるのは”ホムンクルス”
『精神』を高めるのは”核鉄”

「ホムンクルスになれば肉体は限りなく強くなる。核鉄を使えばあらゆる精神が具現化する」

 いずれも錬金術によってより高次の存在へと導かれるのだ。




 だが、霊魂を高める術だけはない。





「それは戦団も同じコト。奴らが手がけるのは所詮ホムンクルスと核鉄だけ」
 とパピヨンが確信を込めて呟くのは、かつて桜花を使い戦団をハッキングしたからだが……ヴィクトリアの知るところではない。
「つまり……霊魂に関してはホムンクルスや核鉄のようなアプローチの手段がないというコト?」
「正解。ヒキコモリにしては上出来だ」
 あれば今頃戦団が管理している。されていないのは「ない」証明。
 高めようがない。
 この世界には霊魂を高めるための具体的手段がまるで流布していないのだ。
「じゃあ賢者の石がいまだにできないのって」
 蝶々覆面の下で詼笑(かいしょう)が浮かんだ。手首が踊り、流れるようにヴィクトリアを指差した。
「さっきかららしくもなく鋭いじゃないか。そう。誰も彼も出来合いのホムンクルスと核鉄を捏ねくりまわすだけ。真に研究すべ
き霊魂については最初から挑もうとさえしていない」
 つくづく傲然とした物言いだ。思わずヴィクトリアは「一旦は霊魂の研究に着手したが結局カタチにはできず挫折した」錬金
術師を妄想し、いるかいないか分からぬ彼らの弁護をしたくなった。
 恐らくはいた筈なのだ。
 肉体でも精神でもない霊魂の存在に着目し、研究した者が。
 もっとも冷静に考えればヴィクトリアは錬金術のせいで家族を引き裂かれ100年来の失意と鬱屈を味合わされた身でもある。
 見も知らぬ錬金術師が何を研究しようと挫折しようと弁護してやる義理は特にない。
(コイツの物言いに当てられすぎね)
 というコトにして鼻を鳴らし、弁護を引っ込める。代わりに反論。
「でも、アナタのひいひいおじいさまは着手していたじゃない」
 話が最初に戻った。

「もう一つの調整体」は霊魂に作用する。

 それはヴィクトリアの解析結果からも疑いようがない。
「ま、蛾とはいえまがりなりにも俺のご先祖様」
 それ位の芸当は当たり前。でなければ話にならない──…あまりな嘲罵と黒い冷笑がパピヨンから放たれた。



「でも霊魂に作用するってどういうコトなん?」
「ヴィクター君のエナジードレインに近いかも知れないね」
 筒の前で月がひらりと踊った。


「そうね。基本的な仕組みはパパのエナジードレインとほぼ同じ。コピー? じゃないわね。あくまでただの模倣よ」
 コピーと模倣のニュアンスがどれほど違うかの論議はさておき。
 鳥に憧れる人間が鳥その物ではなく飛行機を作るように、「崇拝はしているからこそ猿真似はせず、自分のやり方でより
高次の存在を作り出したい」……そんな感じの製法だとヴィクトリアは呟いた。


「デッド君。君はアナザータイプを知っているかな? ほとんどはダブル武装錬金の時に出てくるのだけれど」
「あー。武装錬金が元の核鉄の持ち主のモンに似るって奴やろ?」
「そう。例えば君が私の核鉄でダブル武装錬金をしたなら、出てくるのは……月の模様をあしらった筒だね」



 ダブル武装錬金。
 それは、パピヨンも見た事がある。



「超人になった俺をさんざ止めんとした武藤カズキの場合、2本目の突撃槍(ランス)の意匠はあのブチ撒け女の処刑鎌
(デスサイズ)を嫌というほど受け継いでいた」
(津村斗貴子の核鉄でダブル武装錬金をしたようね)
 この日あたりからパピヨンに対抗すべく錬金術を猛勉強中のヴィクトリアだ。頷きもどこか堂に入っている。
「およそ50%。どんな核鉄でも前の使用者の形質を受け継ぐって聞いたけど──…」
 視線を黄色い核鉄へ移す。




「もう一つの調整体」が受け継ぐのは前の使用者の霊魂という訳さ。割合? 廃棄版なら最大で100%。ヴィクター君の
エナジードレインよろしく、触れた時間に比例して霊魂を吸い取るようだね」


 同刻、パピヨンもまたムーンフェイスと同じ文言を呟き、続きを紡ぐ。

「廃棄版といえば」
「戦士が話しているのを聞いたけど、この前の戦いでLXEの残党が使っていたそうじゃない」


 逆向 凱。
 死んだ筈の幹部が鈴木震洋の体を借りて蘇ったのは……

 ムーンフェイスは指を弾いた。
「ズバリ。『もう1つの調整体』の特性のせいさ。何しろまだ普通に生きていたころの逆向君はテスターでね。あの西洋大剣
の戦士に殺される直前まで持っていたよ」
「でもその鈴木って奴はなんで廃棄版使たんや?」
「力が欲しかったんだろうね。なんとも平凡な理由。どうやって見つけたか? そこまでは知らないよ」


 そして震洋は廃棄版の核鉄を”食べた”
 恐らく彼も「もう一つの調整体」の存在を知り、その恩恵にあやかろうとしたのだろう。
 核鉄を食べるなどというのは些か荒唐無稽だが、もしかするとヴィクターや武藤カズキがされた核鉄の移植実験に倣った
のかも知れない。



 結果彼は、死んだ筈の幹部の霊魂に乗っ取られた。
 逆向凱は、秋水と苛烈な争いを繰り広げた。
 戦いがあったのは、ヴィクトリアが人喰いの衝動に怯え寄宿舎から逃げた頃……。


 ヴィクトリアは腰に手を当て自信ありげに微笑んだ。
「だけど完成版の方は前の使用者の霊魂に乗っ取られる心配はないわよ」
「らしいな。ご先祖様もわざわざ資料に書いている」
 手にした書類の束をパシリと叩き、パピヨン。
「『アナザータイプよろしく、前の使用者の霊魂の、”優れた部分”を受け継ぎ』」
「次の使用者の霊魂と混ぜる、か」
「例えば、アナタの後に津村斗貴子が使ったとしたらどうなるかしら?」
「フム……。恐らくあの女は知らず知らずのうちこの蝶・サイコーな格好をするようになる。つまり……真っ当な感性を獲得する!」
 最後の一文。鋭い叫びをヴィクトリアは黙殺した。
 何故ならそれは彼女にとって──…
 頷くまでもない、当たり前のコトだった。
「話をまとめるわね」
 ヴィクトリアは、手近なホワイトボードに結論を書いた。

『もう1つの調整体』の完成版について。

1.前の使用者の霊魂から”優れた部分”を受け継ぐ。
2.次の使用者の霊魂は前の使用者の”優れた部分”と混ざる」
3.2の状態の霊魂からさらに”優れた部分”を抽出し、記録。
4.記録される霊魂の質は、2~3の繰り返しによって限りなく向上する。


 使う人間が多ければ多いほど真価を発揮する。端書を終えるとヴィクトリアは改めて呟いた。
 口調にはやや感心が混ざっている。

「ただ触るだけ。触るだけで向上できる……夢のような産物ね」
「何ともまあご先祖様らしからぬ小奇麗な仕掛けじゃないか」



「むーん。小奇麗すぎるが故に銀成学園での決戦にはとうとう用いられなかった代物だけど、これからは違うよ」
 月は闇の中で声を低くした。何かを狙い、壊さんとするように。低く、不気味に。



「兎にも角にも他とは違う特別製! 出来合いの核鉄を基盤(ベース)にするよりは手っ取り早いだろう」
 ヴィクトリアは一瞬彼が何をいっているか掴めなかったが、一拍置いて真意を悟った。
「白い核鉄の精製の話ね。本来基盤(ベース)にすべき黒い核鉄やその製法が失われている以上……」
 ヴィクトリアたちは一から黒い核鉄に匹敵する物を作りださなくてはならない。
 時間はない。
 しかし黒い核鉄に近い存在がいま、手元にある。
「あとはあののーみその残した研究資料とご先祖様の研究成果、そして何よりこの俺、パピ・ヨン! ズバ抜けた才覚を」
「組み合わせて『もう1つの調整体』を……白い核鉄に」
 ヴィクトリアの細い体が震えた。少しずつだが母の、自分の悲願へ近づきつつある。
 抑えようのない歓喜が、彼女の体を突き抜けた。



「まー、もう1つの調整体とか実はウチの盟主様」
 筒は気楽に呟いた。
「とっくの100年前に作っていたりするけどなー」


「だね。そして君たちの盟主が作ったそれは黒い核鉄に形を変え、ヴィクター君の胸の中にある」
 Dr.バタフライはかつて言った。

 ヴィクターを修復したフラスコだけが……Dr.バタフライ独自(オリジナル)の物だと。

 その言葉が紡がれる少し前、Dr.バタフライ謹製の調整体が銀成学園を襲ってた。
「修復フラスコだけが自分独自の物」というバタフライ謹製の調整体が。

「まぁ調整体なんてのは少々珍しくはあるけど、やっぱり100年以上前から存在する概念さ」
 月の囁きに筒も微かに揺れた。頷いているようだった。
「Dr.バタフライが使っていた調整体なんてものは、所詮文献を真似ただけでね。そもそもアレが猛威を震えたのは、
遥か100年前のコトだよ。皮肉にも歴史上、調整体を戦士と互角以上に作れたのは錬金戦団にいた『ある男』だけさ。
彼謹製の調整体どもはヴィクター君追撃に随分貢献したようだけど、しかし不思議なコトにその『ある男』もまた戦団に反
旗を翻し、討伐された。もっとも半死半生になるまで二百数十体の調整体と1振りの大刀とで散々に抵抗し、ただでさえ
ヴィクター君に半壊させられていた戦団を、徹底的に痛めつけたようだけどね」
「盟主様からその話聞いたコトあるで。その『ある男』が姿を消してから調整体の研究は凍結されたようやな」
 不思議なコトに、”彼”の残した資料はいつの間にか消えていたようだ。
「いまんところ調整体を真っ当かつ強く作れる組織はウチらだけやろうなあ~。ここまで言えばムーンフェイスのにーちゃん
にも大体の背景が分かるやろうけど」
「まあね」
「で、並の錬金術師が調整体作ると、基盤(ベース)にした数の生物の精神がぶつかり合って理性がなくなって、ちょっと腕っ
ぷしが強いだけの化け物になる訳やなー。バタフライの作ったのもそれやな。まあでも? 主人が大好きなネコの細胞培養
して飼い主に幼態突っ込んだ時は……1つの体に飼い主とネコの精神が同居したけど」
「そして『もう1つの調整体』。こっちはもしかするとヴィクター君からの伝聞で作り上げたのかも知れないね」 
 ただし、とムーンフェイスの声がおどけた。
「アレは白い核鉄になんかしていいものじゃあない」
 白眼を剥いた月顔の怪人は笑っていた。口をおぞましく裂き、悪意をたっぷり乗せて悠然と。
「君たちの盟主様からすでに話は伺っているよ。アレはキミたちの悲願を果たすのにどうしても必要なモノ……」
「そー思うなら例の音楽隊と戦士追い詰めた時、あんたが奪えば良かったやろ? 盟主さまにいらん苦労かけたらあかん」
「まあまあそう怒らない怒らない。パピヨン君相手だと分が悪くてね。彼に勝とうとするなら……」
 筒──デッドは軽く息を呑んだ。パピヨンに勝つ。その方策を述べんとするムーンフェイスの雰囲気が俄かに変った。
 飄々とした雰囲気が消え失せ、代わりにドス黒い風のような雰囲気がムーンフェイスを取り巻いた。
 顔は相変わらず半笑いのままだが、輪郭が眼の縁が口の周りが肌の総てが……歪んで見えた。

「死魄……そう。廃棄版の『もう1つの調整体』でも持ち出して、死魄を発動でもさせない限りとてもとても」

 ジリジリと耳を焼くような不快な音がデッドの耳を叩く中……デッドは確かに見た。

 髪の毛が。
 肌色の肌が。
 白目と黒目が。
 血色のある唇が。

 名前通り月面のようなムーンフェイスの顔の端々に”浮かんでくるのを”。
 肉が浮かぶというより半透明の映像がせり上がってくるような感じだった。それでいて半透明の髪や黒目は確かに質量を
持ってもいる。不気味な光景だった。彼は右手に「廃棄版の方」を持ってもいる。そのせいだろうか?

「しかし困ったコトに死魄を使うと私自身も無傷ではいられない。しかも相手が『多すぎた』」
 何をいっているのだろうこの男は。デッドは息を呑んだ。30体に分身できる武装錬金の持ち主曰く……
.
『相手が多すぎた』

 冗談にしか聞こえない。話を聞く限りパピヨンが来るまでムーンフェイスは、協力しあう音楽隊と戦士たちを圧倒していた
そうではないか。彼らは合計で12人(11体とも)。ムーンフェイスの分身の3分の1程度だ。
 にも関わらず彼はいう。『相手が多すぎた』。
 だいたい、死魄とは何なのか。コードネームに同義を乗せるデッドさえ理解しがたい、おぞましい物を感じていた。
 言葉の矛盾の裏に、何か形容しがたい妖気が籠っている。

 やがてあらゆる変化が終息し、ムーンフェイスは元の顔に戻った。

「むーん。私とてこれまでの戦いで総ての力を見せた訳じゃないよ。君や君たちの仲間同様にね」
「……とにかく、ウチらはパピヨンとかいう奴から『もう1つの調整体』を奪わなあかん訳や」
「その点については心配ないよ。何しろ君の仲間が1人すでに動いているようだからね」
「?」
「リヴォルハイン君。先だってココを発った6人の幹部とは別に、彼もまた銀成市にいるようだね」

 筒は黙った。
 黙って。
 黙って。
 黙り続けてから。

 とても大きな声で絶叫した。

「待て! ウチはそんな聞いてへん!! そしたら結局ココに残ってるのは盟主様と水星とウチだけやないか! そんなん
ヒドいわ!ウチかて銀成市行ってのんびり観光したかったのに……! でも残っとる幹部は3人だけやからってグっと堪え
て愛しの盟主様守るためや守るためやって居残り決意したのに!! したのにーっ!!」
 予想外だったのだろう。柔らかな声はうろたえ、泣き声さえ混じっていた。
「まあまあ。どうやら君たちの盟主じきじきの密命だとか」
「そうはいうけどなあ……うう。買い物したかったなぁ……街メチャクチャにされる前に……売れてへん感じの商品買いあげて
店のおっちゃんとかおばちゃん、助けてあげたかったのに……」
 筒の下で煌くモノがあった。眼光と、涙のようだった。何者かが筒を持ち上げ、そこから顔を出したようだった。
 視線を下に落としたムーンフェイスは……笑った。
「ようやく分かったよ。狭い筒に君が入っていられる理由。むーん。それにしてもなかなか素敵な姿じゃないか」
「……ウチの体のコトはどうでもいいやろ? 意外に傷つきやすいんや。いうな。いうな……」