のび太は、Tシャツにスペアポケットを『着けて』母校の裏山へ向かう。
上は高校の学ランだ。スペアポケットは、タイムテレビやパワー手袋の置き場へ通じている。
のび太がなぜ、学校以外の外出時にはスペアポケットを肌身離さず着けて行くようになっているのか?
上は高校の学ランだ。スペアポケットは、タイムテレビやパワー手袋の置き場へ通じている。
のび太がなぜ、学校以外の外出時にはスペアポケットを肌身離さず着けて行くようになっているのか?
今を遡ること1ヶ月前、のび太の家に泥棒が入った。
その連中は別の区の高校生グループで、いじめグループの死命を制する「佐伯文書」を奪いに入ったのだ。
「佐伯文書」とは、彼らが虐めていた女子生徒「佐伯幸子」がブログもメールも用いずに遺した書簡だ。
その書簡が、以前いじめグループをガスガンで『仲良く踊らせた』練馬区の雄・野比のび太に托されたという
贋情報を掴まされたのだ。その工作をしたのは、もちろん骨川スネ夫。
その連中は別の区の高校生グループで、いじめグループの死命を制する「佐伯文書」を奪いに入ったのだ。
「佐伯文書」とは、彼らが虐めていた女子生徒「佐伯幸子」がブログもメールも用いずに遺した書簡だ。
その書簡が、以前いじめグループをガスガンで『仲良く踊らせた』練馬区の雄・野比のび太に托されたという
贋情報を掴まされたのだ。その工作をしたのは、もちろん骨川スネ夫。
事件の真相を知る由も無いのび太は、泥棒の手に渡ることを避けるためスペアポケットを肌身離さない。
スペアポケットはタイムマシン発着の抽斗と違い、誰でも手に取ることができる。
だがのび太、あの日の顔ぶれで誰が最も特徴的だったかにまで頭が回らない。
スネ夫の天然パーマは、頭皮の裏の筋肉の奇形が原因でも不思議ではないほど、特徴的だ。
大きくなった今でこそ、同年代にもリーゼントの進化形などでああいう地毛をしている者も存在しうる。
野々宮が最初、何を手掛かりにのび太たちに二度目の関りを持てたのか考えておくべきだった。
スペアポケットはタイムマシン発着の抽斗と違い、誰でも手に取ることができる。
だがのび太、あの日の顔ぶれで誰が最も特徴的だったかにまで頭が回らない。
スネ夫の天然パーマは、頭皮の裏の筋肉の奇形が原因でも不思議ではないほど、特徴的だ。
大きくなった今でこそ、同年代にもリーゼントの進化形などでああいう地毛をしている者も存在しうる。
野々宮が最初、何を手掛かりにのび太たちに二度目の関りを持てたのか考えておくべきだった。
かつての通学路を歩き、勝手知ったる裏山へ向かうのび太。
背後に、それも進行方向からジャスト6時の方角に違和感を感じ、左斜め前に飛び出る。
飛び出たときには、もう体の向きを180度転換している。
背後に、それも進行方向からジャスト6時の方角に違和感を感じ、左斜め前に飛び出る。
飛び出たときには、もう体の向きを180度転換している。
スネ夫が、ごつい傘を向けている。
見紛うはずもない髪形。
あるいは、勇次郎の背の「鬼」と同じく、スネ夫の前頭は三頭竜でも棲んでいるのだろうか。
見紛うはずもない髪形。
あるいは、勇次郎の背の「鬼」と同じく、スネ夫の前頭は三頭竜でも棲んでいるのだろうか。
「スネ・・・」と言いかけたのび太を民家の塀に追い詰める位置関係で、スネ夫の傘が∞の字を描き始める。
間合いの長短から、のび太は傘を自分の左外側に迎えて右手で掴もうと判断する。
しかし、誤算。スネ夫の傘は、外国製の護身用品で頑丈さが半端ではなかった。21世紀初頭の最新型だ。
スネ夫が軽く突いた前腕に、凄い局地的衝撃のようなものが充満する。
(これを胴体に喰らったらやばいぞ・・・!)
ヘタレだった頃の経験からか、のび太はダメージを冷静かつ瞬時に判断できてしまう。
そして、とにかく目先の禍をやり過ごすのが先決だと迷いも余分な緊張も無いマインド。
間合いの長短から、のび太は傘を自分の左外側に迎えて右手で掴もうと判断する。
しかし、誤算。スネ夫の傘は、外国製の護身用品で頑丈さが半端ではなかった。21世紀初頭の最新型だ。
スネ夫が軽く突いた前腕に、凄い局地的衝撃のようなものが充満する。
(これを胴体に喰らったらやばいぞ・・・!)
ヘタレだった頃の経験からか、のび太はダメージを冷静かつ瞬時に判断できてしまう。
そして、とにかく目先の禍をやり過ごすのが先決だと迷いも余分な緊張も無いマインド。
のび太は、左手に持っていた太極扇を片手だけで広げると、スネ夫の傘をフチで押した。
傘を持っている側の右足の運動靴でビターンッと路面を鳴らして、後退。こけなかった。
中学に上がったばかりの頃、思えばスネ夫とはそれ以来の再会だが、そのときスネ夫は
フェンシング・スクールに通い始めたとか言っていた。
のび太は、スネ夫の首か顔面を撃つ覚悟を決めた。
元より、その程度の攻撃は子どものときに何度もしたような未来道具での仕返しよりは、格段に酷い事ではない。
傘を持っている側の右足の運動靴でビターンッと路面を鳴らして、後退。こけなかった。
中学に上がったばかりの頃、思えばスネ夫とはそれ以来の再会だが、そのときスネ夫は
フェンシング・スクールに通い始めたとか言っていた。
のび太は、スネ夫の首か顔面を撃つ覚悟を決めた。
元より、その程度の攻撃は子どものときに何度もしたような未来道具での仕返しよりは、格段に酷い事ではない。
だが右前腕が上がり難い。とても、物を右だけで掴めるとは思えない。
痛いだけでは済まないダメージがあるのだ。
痛いだけでは済まないダメージがあるのだ。
のび太が野々宮を仮想敵にした護身プラン、それは弓手の太極扇といつものガスガンが揃って成り立つ。
太極扇は22世紀の産物だ。太極拳の名手の技が『組み込んで』ある未来道具。
健康器具だから体への負担は極力軽くしてあるが、それでものび太には100秒も連続使用(つかって)られない。
外敵も居ない場所で匂い付き環境映像とBGMを嘗めつつ、決まった型だけをなぞるのが本来の用途なのだ。
外敵というか、安全管理と個人尊重が極まっていてちょっと不審なぐらいでは個性のうちとして共存できてしまう世界の道具だ。
太極扇は22世紀の産物だ。太極拳の名手の技が『組み込んで』ある未来道具。
健康器具だから体への負担は極力軽くしてあるが、それでものび太には100秒も連続使用(つかって)られない。
外敵も居ない場所で匂い付き環境映像とBGMを嘗めつつ、決まった型だけをなぞるのが本来の用途なのだ。
外敵というか、安全管理と個人尊重が極まっていてちょっと不審なぐらいでは個性のうちとして共存できてしまう世界の道具だ。
今のスネ夫を撃破するのに120%の万全を期すのはもう、超人に非ざるのび太には電光石火丸の使用しか無い。
空を流れる雲は、そんなのび太に薄っすらと影を落とすぐらいしかしては行かない。
空を流れる雲は、そんなのび太に薄っすらと影を落とすぐらいしかしては行かない。
ドラえもんの道具は、未来の国の倉庫からそのつどリースして取り出している。
20回を超える大冒険の途上には幾度も、未来世界そのものの命運が懸ったことがあった。
それでも、古地図が組み込んであるはずの「どこでもドア」やその他の決定的な道具を使えず
敢えてタケコプターや徒歩、潜入など別の困難を伴う手段で冒険したのは一度や二度ではなかった。
未来道具をリース(未来デパートを通じて『買う』)ではなく、所有することは莫大なカネや強権を必要とした。
20回を超える大冒険の途上には幾度も、未来世界そのものの命運が懸ったことがあった。
それでも、古地図が組み込んであるはずの「どこでもドア」やその他の決定的な道具を使えず
敢えてタケコプターや徒歩、潜入など別の困難を伴う手段で冒険したのは一度や二度ではなかった。
未来道具をリース(未来デパートを通じて『買う』)ではなく、所有することは莫大なカネや強権を必要とした。
また、時空のつながりが不安定になると道具のリースそのものが困難にもなった。
四次元ポケットの使用は時間の操作も伴うし、決して全能でも無償でもない。
四次元ポケットの使用は時間の操作も伴うし、決して全能でも無償でもない。
のび太は日常で、強力な道具をいくつも濫用することなどできなかったのだ。
ましてや、個人が過去の世界で防犯道具をいくつも装備して歩くなど『今の』ドラえもんでさえ考え付くことではなかった。
ましてや、個人が過去の世界で防犯道具をいくつも装備して歩くなど『今の』ドラえもんでさえ考え付くことではなかった。
スペアポケットは、未来の世界で『いつまでも』のび太を待っているドラえもんと、つながってもいる。
あるいは、「ドラえも~~んッッッッッ!!!!!」と叫ぶのも有りだったろう。
あるいは、「ドラえも~~んッッッッッ!!!!!」と叫ぶのも有りだったろう。
だがのび太は、あろうことか勝負を運否天賦に任せてしまった。練馬の野比さんとしてもこんな早々に、なぜ?
相手がスネ夫なら、治らない怪我までには至らないという根拠の無い二段論法。逃げの手。
逃げのようであり、無計画な特攻でしかない選択。
相手がスネ夫なら、治らない怪我までには至らないという根拠の無い二段論法。逃げの手。
逃げのようであり、無計画な特攻でしかない選択。
のび太は、未来から現在へ続く因果律に助けられ、この勝負には勝つ。
商業上の機密ゆえドラえもんでも知らないことだが太極扇の実演者は、野比ノビスケ。
百歳を超えてから授かった末子、セワシの七五三を満喫したくて中国4104年の頂に昇った。
ノビスケの拳は、早抜きと手刀が練れていた。
『以前の』ノビスケはジャイアンが伯父に当たり、拳にも早くから悪い影響があった。
「柔に剛あれば強い」。24時間を臨戦態勢と謳い、また強くあるために最新の暗器や無力化兵器を重んじた。
「お前の物は俺の物」。幼年期から続く成功体験に支えられ、ザコマッチョ拳法家として完成してしまった。
長じてはQOLオタクとなり、工業大国となった中国本土で三流どころの海王から雑貨店の深夜店員を任されていた。
もちろんというか、それを任されたことが自慢で宇宙人の触手(斬っても反射をやめない)とかを街で自慢していた。
『今の』ノビスケは、違う。早抜きと手刀が練れていた。善の因果律、その循環。
商業上の機密ゆえドラえもんでも知らないことだが太極扇の実演者は、野比ノビスケ。
百歳を超えてから授かった末子、セワシの七五三を満喫したくて中国4104年の頂に昇った。
ノビスケの拳は、早抜きと手刀が練れていた。
『以前の』ノビスケはジャイアンが伯父に当たり、拳にも早くから悪い影響があった。
「柔に剛あれば強い」。24時間を臨戦態勢と謳い、また強くあるために最新の暗器や無力化兵器を重んじた。
「お前の物は俺の物」。幼年期から続く成功体験に支えられ、ザコマッチョ拳法家として完成してしまった。
長じてはQOLオタクとなり、工業大国となった中国本土で三流どころの海王から雑貨店の深夜店員を任されていた。
もちろんというか、それを任されたことが自慢で宇宙人の触手(斬っても反射をやめない)とかを街で自慢していた。
『今の』ノビスケは、違う。早抜きと手刀が練れていた。善の因果律、その循環。
のび太は、怪我をしている右腕の肘を支点にしてスネ夫の手首に手刀を見舞った。
重心をウンコ座りのように落として、傘とのび太の脇腹がすれ違う。
スネ夫の傘はそのとき、スネ夫が右手首の操作だけで左右を往復していた。
重心をウンコ座りのように落として、傘とのび太の脇腹がすれ違う。
スネ夫の傘はそのとき、スネ夫が右手首の操作だけで左右を往復していた。
リーチで劣るのび太を確実に追い込むため、スネ夫は悠然かつ確実に歩を進めていた。
それが功を奏した。のび太の手刀が愚地克己みたいな角度で、キレイにスネ夫の関節を振動させた。
ブラックジャックやサップ等のフレイル状の武器で打たれた錯覚を覚え、スネ夫は傘も拾わず走り出した。
のび太に追う余裕は無い。そもそも、のび太にとって禍は過ぎたら、その禍はそれで終わりなのだ。
「やれやれ・・・・・・なんだったんだ?」
痛いのは、痛みが退くまでのこと。しかしこれ、のび太にとって始めての重傷なのだ。
まだそんな世界観から抜け出せないでいるのび太は、病院やお医者カバンという選択肢に
思い至らず、野々宮に会って誤解を解くため裏山へと歩き始めた。
それが功を奏した。のび太の手刀が愚地克己みたいな角度で、キレイにスネ夫の関節を振動させた。
ブラックジャックやサップ等のフレイル状の武器で打たれた錯覚を覚え、スネ夫は傘も拾わず走り出した。
のび太に追う余裕は無い。そもそも、のび太にとって禍は過ぎたら、その禍はそれで終わりなのだ。
「やれやれ・・・・・・なんだったんだ?」
痛いのは、痛みが退くまでのこと。しかしこれ、のび太にとって始めての重傷なのだ。
まだそんな世界観から抜け出せないでいるのび太は、病院やお医者カバンという選択肢に
思い至らず、野々宮に会って誤解を解くため裏山へと歩き始めた。