【9月11日】
「ぎんせーい。ぎんせーい。ご乗車ぁ、ありがとうございましたー。お忘れもののないようお降りください。次はぁー……」
電車から吐き出された人混みがせわしなく動く。
ここは銀成駅だった。
ここは銀成駅だった。
「はい。ありがとうございます。ありがとうございます」
切符切太郎氏(38)はまったく名前からして鉄道関係者になるべく生まれてきたような男だ。
この日も彼は自動改札口の横に立ち、乗降客のめまぐるしい動きを監視していた。
日曜日ともあり利用状況はまずまずだ。友人と連れ立つ学生たち、家族連れ、または熟年女性の団体さん。さまざまな
人種が改札口に切符を食わしていく。消化不良もなければ食えぬ切符を使う者もない。いつも通りの、平和な駅だ。
跨線端の向こうで巨大な鉄箱が重苦しく走りだした。ホームから電車が消えた。電車が消えると乗り降りするお客も消える。
切符切太郎氏は伸びをしてから腕時計を見、脳内のダイヤと突き合せた。次に電車が来るまでまだ30分はある。
しばらくはヒマなので最近コリが激しい肩をぐるりと回す。
生あくび混じりに「休憩室で芋羊羹と玄米茶でも啜るかな」……と思った時。
この日も彼は自動改札口の横に立ち、乗降客のめまぐるしい動きを監視していた。
日曜日ともあり利用状況はまずまずだ。友人と連れ立つ学生たち、家族連れ、または熟年女性の団体さん。さまざまな
人種が改札口に切符を食わしていく。消化不良もなければ食えぬ切符を使う者もない。いつも通りの、平和な駅だ。
跨線端の向こうで巨大な鉄箱が重苦しく走りだした。ホームから電車が消えた。電車が消えると乗り降りするお客も消える。
切符切太郎氏は伸びをしてから腕時計を見、脳内のダイヤと突き合せた。次に電車が来るまでまだ30分はある。
しばらくはヒマなので最近コリが激しい肩をぐるりと回す。
生あくび混じりに「休憩室で芋羊羹と玄米茶でも啜るかな」……と思った時。
やかましい足音と喧騒がホームの方からやってきた。
「つきましたよ皆さん。切符を改札口にお忘れなく」
(えーと)
切符切太郎氏は反応に困った。軽く腕を上げたまま、生あくびで口を半開きにしたまま、自動改札口を見た。
「失礼します」
まず通過したのはこども料金でも文句なしの小柄な人物だ。
それだけなら商売柄よく観るし反応に困る必要もないが……顔が良くない。なんと『ガスマスク』を被っていた。
「不審人物ですまない。フ。車掌が注意するたび俺も諌めたのだが聞かなくてな」
次に切符を入れたのは目も覚めるような『金髪の美青年』。胸には銀色の認識票。
「なんでも素顔をお見せするのが恥ずかしいとか! それはさておき車窓実況、楽しゅうございました!」
『シルクハット』を被った少女の後ろを『忍び装束』の少年が無愛想に進んだ。
「……我の周囲に浮いているのは風船だ。龕灯(がんどう)ではない。」
「はい……風船……です」
少年とともにふわふわ浮かぶ奇妙な形の風船(?)の後ろで『虚ろな眼の少女』がぽつりと呟き
「だあもう! またコレじゃん! なんでこんなほそっこい紙いちいち入れなあかんのじゃん!」
『それが規則だ! 頑張れ! 他の場所ではできただろう!』
どこか『ネコ』を思わせるしなやかな少女が出所不明の『大声』を浴びながら。
(えーと)
切符切太郎氏は反応に困った。軽く腕を上げたまま、生あくびで口を半開きにしたまま、自動改札口を見た。
「失礼します」
まず通過したのはこども料金でも文句なしの小柄な人物だ。
それだけなら商売柄よく観るし反応に困る必要もないが……顔が良くない。なんと『ガスマスク』を被っていた。
「不審人物ですまない。フ。車掌が注意するたび俺も諌めたのだが聞かなくてな」
次に切符を入れたのは目も覚めるような『金髪の美青年』。胸には銀色の認識票。
「なんでも素顔をお見せするのが恥ずかしいとか! それはさておき車窓実況、楽しゅうございました!」
『シルクハット』を被った少女の後ろを『忍び装束』の少年が無愛想に進んだ。
「……我の周囲に浮いているのは風船だ。龕灯(がんどう)ではない。」
「はい……風船……です」
少年とともにふわふわ浮かぶ奇妙な形の風船(?)の後ろで『虚ろな眼の少女』がぽつりと呟き
「だあもう! またコレじゃん! なんでこんなほそっこい紙いちいち入れなあかんのじゃん!」
『それが規則だ! 頑張れ! 他の場所ではできただろう!』
どこか『ネコ』を思わせるしなやかな少女が出所不明の『大声』を浴びながら。
怒濤のごとくバタバタと通り過ぎた。
「なんだあのお客さんたち……?」
切符切太郎氏は首を傾げた。
同刻。銀成市南端。
砂埃の舞う広い道路を歩く2つの影があった。
「だからですねー、ディプレスさん? シズちゃんと臨也(いざや)なら断然前者が攻め攻めであるべきです! この上なくっ!」
「うっせえwwwwwww 道歩きながら腐女子談義すんなwwwwwww だからオタが嫌われるんだよwwwwwwwww」
「うっせえwwwwwww 道歩きながら腐女子談義すんなwwwwwww だからオタが嫌われるんだよwwwwwwwww」
蝶野屋敷やオバケ工場といった戦士に縁深い施設が決まって山あいや丘陵地にあるのを見ても分かるように、銀成市は
ひどく山や丘が多い。例えばかつて武藤カズキがパピヨン打倒後、津村斗貴子の膝枕を受けたのも「山が見える小高い丘」
である。
ひどく山や丘が多い。例えばかつて武藤カズキがパピヨン打倒後、津村斗貴子の膝枕を受けたのも「山が見える小高い丘」
である。
その銀成市の中で比較的山が少ないのが……市の南端である。
ただし人類の発達発展というのは決まって平野に何かを作るところから始まる。言いかえれば、「山少なく平野多ければ
まず開発」である。銀成市も例に漏れず、市の南端に広がる平野部はことごとくサツマイモ畑だ。これは近辺の川越市が
さつまいも料理や芋菓子に力を入れているせいである。つまり銀成の農民たちはサツマイモを作って川越に売るのである。
利益率は中々で、南部に会社や工場を持つ者は不景気がくるたび「最悪建物潰してサツマイモ作りゃ何とかなる!」と──
実際、会社や工場の跡地にすぐ畑を作れるかどうかは疑問だが──のんびり構えている。
文献によればサツマイモの生産はすでに寛政年間から始まっており、近年の研究によれば将軍徳川家治に献上された
川越芋のうち端っちょから3番目の泥のついた奴が銀成産のものだったという。
現代においても川越芋の種芋のうち12~3%は銀成で生産され、冬の終わりごろ川越市の農家に送られるのである。
ただし人類の発達発展というのは決まって平野に何かを作るところから始まる。言いかえれば、「山少なく平野多ければ
まず開発」である。銀成市も例に漏れず、市の南端に広がる平野部はことごとくサツマイモ畑だ。これは近辺の川越市が
さつまいも料理や芋菓子に力を入れているせいである。つまり銀成の農民たちはサツマイモを作って川越に売るのである。
利益率は中々で、南部に会社や工場を持つ者は不景気がくるたび「最悪建物潰してサツマイモ作りゃ何とかなる!」と──
実際、会社や工場の跡地にすぐ畑を作れるかどうかは疑問だが──のんびり構えている。
文献によればサツマイモの生産はすでに寛政年間から始まっており、近年の研究によれば将軍徳川家治に献上された
川越芋のうち端っちょから3番目の泥のついた奴が銀成産のものだったという。
現代においても川越芋の種芋のうち12~3%は銀成で生産され、冬の終わりごろ川越市の農家に送られるのである。
という訳で銀成市の南はひどくサツマイモ畑が多いのだが、それだけでは甚だ交通の便が悪い。畑潰して隣の市への
でっかい道路を、広い道路を! という声が持ち上がったのは昭和の交通戦争の頃で、その要求はすんなり通った。
でっかい道路を、広い道路を! という声が持ち上がったのは昭和の交通戦争の頃で、その要求はすんなり通った。
そうしてできた広い──大型トレーラーが3台併走しても大丈夫なほどの──道路を。
両側にサツマイモ畑の広がる牧歌的な光景を。
両側にサツマイモ畑の広がる牧歌的な光景を。
不審な人影が歩いていた。
具体的かつ簡潔にいえば、彼らの全身は暗い緑のフードに覆われていた。
顔は当然見えない。三角に尖る布を目深にかぶる彼らの顔面は漆黒の闇に覆われ、その表情を伺い知るコトはできなかった。
ただ、右にいるフード姿はどことなく丸みを帯びた体型で、時おり少女のような甘え声をあげている。
「えー、でもいいじゃないですかあ。物静かだけど凶暴でー、意外と繊細なシズちゃんが、にっくき臨也をとうとう料理できる
んですよ! でも そ ー い う コ ト に は 慣 れ て い な い もんだから、色々失敗する。ヘタレ攻めですよっ」
「ちょwwwww30近い女が路上でディープな話題大声ですんなwww 同行してる俺マジ恥ずかしいwwwwwwwwwああ憂鬱ww」
「もおー。野球の話とかスキーの話なら大丈夫なのになんでアニメとか漫画だとダメなんですかあ?」
「さあwwww」
左の方は右より頭一つ分ほど背が高い。体型にはこれといった特徴がない。ごくごく普通の『人間の姿』。
「しかし久々の『人間形態』はやり辛いwww でもハシビロコウだと目立つからなあwwwwwwwwwwwww」
常に笑ってはいるが陽気な声とは言い難かった。口調の端々には嘲りと見下しと独りよがりな優越感の入り混じった暗い
感情が余すところ覗いている。常人なら決して会話相手に選ばぬタイプだろう。
「あwwwどうもおばちゃんwww埼玉県名物のサツマイモの生産乙っすwwwあざっすwwwwwwwww」
「ありがとうです。ただ欲を言えばですね、ここが池袋だったら聖地巡礼って感じでこの上なく良かったですッ!」
彼らは農家の人々とすれ違うたび気さくに声をかけ手を振っているが、あまり芳しい返答は得られていない。
農家の人たちは目を逸らし、手短に返事をしそそくさと行きすぎる。そんな調子である。
顔は当然見えない。三角に尖る布を目深にかぶる彼らの顔面は漆黒の闇に覆われ、その表情を伺い知るコトはできなかった。
ただ、右にいるフード姿はどことなく丸みを帯びた体型で、時おり少女のような甘え声をあげている。
「えー、でもいいじゃないですかあ。物静かだけど凶暴でー、意外と繊細なシズちゃんが、にっくき臨也をとうとう料理できる
んですよ! でも そ ー い う コ ト に は 慣 れ て い な い もんだから、色々失敗する。ヘタレ攻めですよっ」
「ちょwwwww30近い女が路上でディープな話題大声ですんなwww 同行してる俺マジ恥ずかしいwwwwwwwwwああ憂鬱ww」
「もおー。野球の話とかスキーの話なら大丈夫なのになんでアニメとか漫画だとダメなんですかあ?」
「さあwwww」
左の方は右より頭一つ分ほど背が高い。体型にはこれといった特徴がない。ごくごく普通の『人間の姿』。
「しかし久々の『人間形態』はやり辛いwww でもハシビロコウだと目立つからなあwwwwwwwwwwwww」
常に笑ってはいるが陽気な声とは言い難かった。口調の端々には嘲りと見下しと独りよがりな優越感の入り混じった暗い
感情が余すところ覗いている。常人なら決して会話相手に選ばぬタイプだろう。
「あwwwどうもおばちゃんwww埼玉県名物のサツマイモの生産乙っすwwwあざっすwwwwwwwww」
「ありがとうです。ただ欲を言えばですね、ここが池袋だったら聖地巡礼って感じでこの上なく良かったですッ!」
彼らは農家の人々とすれ違うたび気さくに声をかけ手を振っているが、あまり芳しい返答は得られていない。
農家の人たちは目を逸らし、手短に返事をしそそくさと行きすぎる。そんな調子である。
「ああしかし全身フード! この上なく素敵です! オタクのロマンですっ!!」
右にいる全身フード──ひどく透明感のある柔らかい声だ──祈るように手を組んだ。
「この正体不明感とか未知の敵とかいう感じがこの上なくいいですよねディプレスさん!
フードごと手をグッと突き上げ力説するクライマックスとは裏腹に、左のフードはやれやれと肩をすくめた。
「まあ大抵の全身フードは殺されるけどなwwwwww あと後で出てくる連中ほど扱いが微妙なのなwwwwwwwww」
「そうそう。フードこそ被っていませんでしたけど、ラスト6人辺りが相手の負け犬軍団さんともどもポッと出の強キャラにまと
めて瞬殺されたりとかー、10人いる幹部の1人が大した実力も人気もない子供キャラの竹刀攻撃一発で気絶したりとかー、
めっちゃ強い4番よりもっと格上な1~3番目があまり強そうに見えなかったりとかー。無印の後の真(リアル)もアレでー」
指折り数えたクライマックスは「うん」ともう一回頷いた。
「12宮的にはラスイチなのに魚座ってば微妙でしたよね!」
「あいつと蟹座だけはガチで裏切ってただろwwwww あれが演技ならアカデミー賞ものだわwwwwwww」
「で、総じて振り返ってみると最初に出てきた人が一番強く見えたりしちゃうのです。何しろ一番手はインパクトありますから!」
「くそうwww 乗ったオイラが馬鹿だったwww こいつマジ止まらねえwww パねえwww 火のついたオタ、マジパねェwwwww」
「オタといえばなんでオタ話は良くないんですかあ!」
クライマックスは情けない叫びを上げた。ディプレスの話によれば最早30に近いらしいがとてもそういう落ち付きのある声
ではなかった。
「アニメやマンガ、特撮が子供のものだったのはもはや過去っ! いまは大人も楽しめる時代なのです!」
「鏡見なwwww 楽しんでる大人とやらの顔や性格がどんなのか痛感できるぜwwwwwwwwうわひでえってなwww」
「むきー!! そりゃあ二次元に逃げ込んで心癒してるフシもありますけど、何も残らないかも知れませんけどね、でも心の
ある生物だから常に何かを愛さないとダメなんですッ! 少なくても私は諸事情でどうしても人を愛せないから常に代替物
を求めているのです! 何もかもが壊れそうな不安抱いて明日に怯え明後日ばっか見てたって答えはでませんけど!!
仕方ないじゃないですか!」
「いやいやwww 長えしそういう感傷と公共の場でのTPOはまた別だからwwww」
「ぬ!?」
「萌えとか801とか人を選ぶ話題を公共の場で無遠慮にすんなってオイラは言いたいwwww タバコと一緒wwwwwww ニコ
チン取りこまねーと苦しいからって禁煙席で吸っていいわけねーよwwwww」
「つまり……一般人さんが嫌がる話題を大声でするなと!」
「別にしたきゃやりゃいいwwww でも見知らぬオタから何度も何度も何度も不快な思いさせられた一般人はいつか報復に
出るぜwwwwwwww 禁煙席が増えまくったように、不特定多数へなああwww 法律作って罰則作って、オタ話は厳禁って風
潮作って、囲い込みにくるぜ? 不快な思いさせ続けたらなwwwwww だからクライマックス、お前も自重しろよw」
「さっきからこの上なくヒドい物言いですねディプレスさん! あまり傷つけてくると私の『スーパーエクスプレス』で数の暴
力をお見舞いしますよ!!?」
「ハッwwwwwwwww オイラの『スピリットレス』舐めんなwwwww お前に完勝したリバース=イングラムさえ瀕死だぜ?ww」
フード姿の男女はまったく同時に核鉄を握った。そして相手を牽制するよう突き出したきり黙然と睨みあった。
右にいる全身フード──ひどく透明感のある柔らかい声だ──祈るように手を組んだ。
「この正体不明感とか未知の敵とかいう感じがこの上なくいいですよねディプレスさん!
フードごと手をグッと突き上げ力説するクライマックスとは裏腹に、左のフードはやれやれと肩をすくめた。
「まあ大抵の全身フードは殺されるけどなwwwwww あと後で出てくる連中ほど扱いが微妙なのなwwwwwwwww」
「そうそう。フードこそ被っていませんでしたけど、ラスト6人辺りが相手の負け犬軍団さんともどもポッと出の強キャラにまと
めて瞬殺されたりとかー、10人いる幹部の1人が大した実力も人気もない子供キャラの竹刀攻撃一発で気絶したりとかー、
めっちゃ強い4番よりもっと格上な1~3番目があまり強そうに見えなかったりとかー。無印の後の真(リアル)もアレでー」
指折り数えたクライマックスは「うん」ともう一回頷いた。
「12宮的にはラスイチなのに魚座ってば微妙でしたよね!」
「あいつと蟹座だけはガチで裏切ってただろwwwww あれが演技ならアカデミー賞ものだわwwwwwww」
「で、総じて振り返ってみると最初に出てきた人が一番強く見えたりしちゃうのです。何しろ一番手はインパクトありますから!」
「くそうwww 乗ったオイラが馬鹿だったwww こいつマジ止まらねえwww パねえwww 火のついたオタ、マジパねェwwwww」
「オタといえばなんでオタ話は良くないんですかあ!」
クライマックスは情けない叫びを上げた。ディプレスの話によれば最早30に近いらしいがとてもそういう落ち付きのある声
ではなかった。
「アニメやマンガ、特撮が子供のものだったのはもはや過去っ! いまは大人も楽しめる時代なのです!」
「鏡見なwwww 楽しんでる大人とやらの顔や性格がどんなのか痛感できるぜwwwwwwwwうわひでえってなwww」
「むきー!! そりゃあ二次元に逃げ込んで心癒してるフシもありますけど、何も残らないかも知れませんけどね、でも心の
ある生物だから常に何かを愛さないとダメなんですッ! 少なくても私は諸事情でどうしても人を愛せないから常に代替物
を求めているのです! 何もかもが壊れそうな不安抱いて明日に怯え明後日ばっか見てたって答えはでませんけど!!
仕方ないじゃないですか!」
「いやいやwww 長えしそういう感傷と公共の場でのTPOはまた別だからwwww」
「ぬ!?」
「萌えとか801とか人を選ぶ話題を公共の場で無遠慮にすんなってオイラは言いたいwwww タバコと一緒wwwwwww ニコ
チン取りこまねーと苦しいからって禁煙席で吸っていいわけねーよwwwww」
「つまり……一般人さんが嫌がる話題を大声でするなと!」
「別にしたきゃやりゃいいwwww でも見知らぬオタから何度も何度も何度も不快な思いさせられた一般人はいつか報復に
出るぜwwwwwwww 禁煙席が増えまくったように、不特定多数へなああwww 法律作って罰則作って、オタ話は厳禁って風
潮作って、囲い込みにくるぜ? 不快な思いさせ続けたらなwwwwww だからクライマックス、お前も自重しろよw」
「さっきからこの上なくヒドい物言いですねディプレスさん! あまり傷つけてくると私の『スーパーエクスプレス』で数の暴
力をお見舞いしますよ!!?」
「ハッwwwwwwwww オイラの『スピリットレス』舐めんなwwwww お前に完勝したリバース=イングラムさえ瀕死だぜ?ww」
フード姿の男女はまったく同時に核鉄を握った。そして相手を牽制するよう突き出したきり黙然と睨みあった。
頭巾の下にぼっかりと空いた漆黒から稲妻が散り、両者の間でスパークした。
そして。
静寂。
静寂。
静寂。
ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁん……
「ぬぬっ? 最後のは甲高いサイレンの音! この上なく一体何がっ!?」
「wwwwwwwwww」
近づきつつある音に2人はゆっくりと振り返った。
「そこの2人! じっとしていなさい! ほら早くフードを脱いで手を上げなさい!」
白と黒に塗り分けられた威圧的な車両が猛スピードで接近してきている。
「パトカーですね。この上なく」
「だなwwww」
「農家の人たちが通報したんでしょうかね?」
「まあ漫画のような格好で歩いていたらこうなるわなwww だからお前もいい加減オタ趣味をやめなwwwwww」
「じゃあ次はシズちゃんの格好でもしますか!! バーテンですよバーテン! アレならこの上なく大丈夫です!」
「うわwwww 一見現実に迎合してるように見えてどこまでも迎合してねえ意見wwwwwwww オタ怖えwwwww」
喋る間にもパトカーは近づいてくる。しかもパトカーの後ろからもう1台同じ物が躍り出た。よほど勢いがついているのか
凄まじい急ブレーキ音がした。更に同じ現象が起こりもう1台パトカー追加。そしてさらにもう1台。さらに、さらに……。
「あwれw」
いつしか道は──大型トレーラーが3台併走できるほど広い道は──パトカーに埋め尽くされていた。
「重なってたのが展開して、ええと。ひいふぅ、みぃ」」
「15台の列がwwwwwwwwww 3つwwwwwwwwwwwwwwww」
「でん! ぱー、ぱー、ぱー! でん! ぱー、ぱー、ぱー! でけでけーでぇっれれっれ!!」
「西部警察かってのwwwwww西部警察かってのwwwwww たかが全身フード2人に必死すぎだろwwwwww
「で、どうしますディプレスさん? たかが45台のパトさんなら私一人でもぶっちめてやれますが!!」
「馬鹿www俺たちは調査中だろwww」
「あ、そうでしたね」
「そうwwwww」
「wwwwwwwwww」
近づきつつある音に2人はゆっくりと振り返った。
「そこの2人! じっとしていなさい! ほら早くフードを脱いで手を上げなさい!」
白と黒に塗り分けられた威圧的な車両が猛スピードで接近してきている。
「パトカーですね。この上なく」
「だなwwww」
「農家の人たちが通報したんでしょうかね?」
「まあ漫画のような格好で歩いていたらこうなるわなwww だからお前もいい加減オタ趣味をやめなwwwwww」
「じゃあ次はシズちゃんの格好でもしますか!! バーテンですよバーテン! アレならこの上なく大丈夫です!」
「うわwwww 一見現実に迎合してるように見えてどこまでも迎合してねえ意見wwwwwwww オタ怖えwwwww」
喋る間にもパトカーは近づいてくる。しかもパトカーの後ろからもう1台同じ物が躍り出た。よほど勢いがついているのか
凄まじい急ブレーキ音がした。更に同じ現象が起こりもう1台パトカー追加。そしてさらにもう1台。さらに、さらに……。
「あwれw」
いつしか道は──大型トレーラーが3台併走できるほど広い道は──パトカーに埋め尽くされていた。
「重なってたのが展開して、ええと。ひいふぅ、みぃ」」
「15台の列がwwwwwwwwww 3つwwwwwwwwwwwwwwww」
「でん! ぱー、ぱー、ぱー! でん! ぱー、ぱー、ぱー! でけでけーでぇっれれっれ!!」
「西部警察かってのwwwwww西部警察かってのwwwwww たかが全身フード2人に必死すぎだろwwwwww
「で、どうしますディプレスさん? たかが45台のパトさんなら私一人でもぶっちめてやれますが!!」
「馬鹿www俺たちは調査中だろwww」
「あ、そうでしたね」
「そうwwwww」
「銀成市と隣の市の境目! そこがどうなっているかを調べなくてはなりません!!」
「ブヒヒwwww 一見ワケがわからない調査だが、これが後で活きてくるんだよなア~ だからここで警察相手に戦う意味ぁ
まったくねえよwwwwwwwwww 騒ぎ起こして戦団の連中にこちらの動き気取られたら終わりだっぜwwwwwww」
「じゃあ逃げますか! どうせなら池袋まで退きませんか? いいお司屋さん知ってるんですよぉ」
「うっせ誘うなwwwww 『お前に好かれたら終わり』なんだよwwww とにかくズラかるぞwwwwwwwwww」
まったくねえよwwwwwwwwww 騒ぎ起こして戦団の連中にこちらの動き気取られたら終わりだっぜwwwwwww」
「じゃあ逃げますか! どうせなら池袋まで退きませんか? いいお司屋さん知ってるんですよぉ」
「うっせ誘うなwwwww 『お前に好かれたら終わり』なんだよwwww とにかくズラかるぞwwwwwwwwww」
警察官たちは恐ろしい光景を見た。
時速100kmで飛ばすパトカーより
『更に速く』
逃げ去っていくフード姿達を。
全速力で運転しているにも関わらず、彼らは恐ろしい速度でぐんぐんと遠ざかっていく。
見失うまで30秒とかからなかった。
全速力で運転しているにも関わらず、彼らは恐ろしい速度でぐんぐんと遠ざかっていく。
見失うまで30秒とかからなかった。
ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁん……
「? パトカーの音がやけに多いな。何かあったのか?」
「それより斗貴子氏、いまの話、受けるの?」
机の向こう側で淡白なメガネ少年が返事を促した。斗貴子は渋々という顔で視線を右にズラした。
「考えてくれないだろうか」
早坂秋水がひどく真剣な面持ちでそこに存在している。ちなみに教室にいるのは斗貴子とメガネ少年──六舛孝二──
と秋水だけだ。しかも彼らは窓際一番後ろの席に集結している。この様子、密談以外の何であろう。
「どう、といっても」
斗貴子は顔をしかめた。艶やかな髪をわしゃわしゃと梳るが明確な返答は出そうにない。
「そのだな。もう一度言ってくれないか? 正直、予想外なんだが」
秋水は居住まいを正し、ひどく真剣に言葉を紡いだ。
「それより斗貴子氏、いまの話、受けるの?」
机の向こう側で淡白なメガネ少年が返事を促した。斗貴子は渋々という顔で視線を右にズラした。
「考えてくれないだろうか」
早坂秋水がひどく真剣な面持ちでそこに存在している。ちなみに教室にいるのは斗貴子とメガネ少年──六舛孝二──
と秋水だけだ。しかも彼らは窓際一番後ろの席に集結している。この様子、密談以外の何であろう。
「どう、といっても」
斗貴子は顔をしかめた。艶やかな髪をわしゃわしゃと梳るが明確な返答は出そうにない。
「そのだな。もう一度言ってくれないか? 正直、予想外なんだが」
秋水は居住まいを正し、ひどく真剣に言葉を紡いだ。
「キミがパピヨンを演劇部から放逐したがっていると聞いた。俺もぜひ、協力したい」
先ほど、演劇部の練習が終わった。さて一旦寄宿舎に戻り防人にでも色々聞こうか……と斗貴子が思っていると六舛が
どこからかやってきてこの教室に案内した。
その時にはもう秋水がいまの場所に座っていて、面喰らったのを覚えている。
どこからかやってきてこの教室に案内した。
その時にはもう秋水がいまの場所に座っていて、面喰らったのを覚えている。
そして一言一句違わず、上記のセリフを吐いた。
ちょっと待て、と斗貴子は思った。もちろんパピヨン放逐に関し仲間は欲しいところである。だが、その協力者が秋水とい
うのは幾らなんでも予想外だ。
「そもそも剣道部だろキミは。いや、怪我が治るまで演劇部に仮入部するという話は聞いているが」
秋水は頷いた。銀色の刃のように澄み渡った表情は「だから俺にも協力する権利がある」そう言いたげだった。
「いいんじゃない斗貴子氏? だいたい斗貴子氏だって入部1日目だし」
「それをいうならキミは演劇部員ですらないだろう」
「今でも一応部員だけど? 去年は部長だったし。だから部外者に変えられるのは見たくないというか」
「ええええええええええええ?」
斗貴子は思わずどよめいた。凛々しい顔がポンチ絵のごとく崩れているのが分かった。
「成程。だから俺と津村の間を……」
「そ。取り持ってる訳」
「じゃあひょっとしてキミの特技の声帯模写。あれは演劇の成果なのか?」
「いや逆。声帯模写ができるから演劇を」
「そんな動機で……って。いや、一度しかない高校生活なんだから、もっとこう部活選びは真剣にしなさい」
「流石は斗貴子氏。含蓄がある」
同意したようなしてないような反応だ。瞳は白く曇ったメガネに隠れ、真意を伺い知るコトはできない。
「というか津村、彼はこの学校の部活全てに入っている。剣道は二段だ」
「絞れ! 一つに! 部活はもっと真剣に選べ!!」
叫び、机に拳を叩きつける斗貴子だが六舛はさほど怯えた様子もない。冷めた瞳で彼女を一瞥すると「それはともかく」と
話題を変えた。
「秋水先輩と手を結んだらどう斗貴子氏? いまのままじゃ勝ち目薄いし」
「う……」
口を噤んだまま斗貴子は回想する。いまの演劇部員のほとんどはパピヨンシンパだ。このまま手をこまねいていればい
ずれ部員の総ては蝶々覆面をかぶり全身タイツを着こなし、変態丸出しの馬鹿騒ぎを銀成学園に振りまくだろう。そもそも
銀成市民はアホばかりなのだ。
「確かに私だけでは孤立無援。味方は一人でも欲しいところだが」
ちらりと秋水を見る。戦闘絡みなら卓越した剣客たる彼は非常に重宝するだろうが、ことこう言う日常(?)の問題解決に
は甚だ不向きな男に見えた。
(むしろこういうのは桜花の方が向いてるんだが)
とにかく。
唯一の味方が秋水というのがまったく以て宜しくない。
うのは幾らなんでも予想外だ。
「そもそも剣道部だろキミは。いや、怪我が治るまで演劇部に仮入部するという話は聞いているが」
秋水は頷いた。銀色の刃のように澄み渡った表情は「だから俺にも協力する権利がある」そう言いたげだった。
「いいんじゃない斗貴子氏? だいたい斗貴子氏だって入部1日目だし」
「それをいうならキミは演劇部員ですらないだろう」
「今でも一応部員だけど? 去年は部長だったし。だから部外者に変えられるのは見たくないというか」
「ええええええええええええ?」
斗貴子は思わずどよめいた。凛々しい顔がポンチ絵のごとく崩れているのが分かった。
「成程。だから俺と津村の間を……」
「そ。取り持ってる訳」
「じゃあひょっとしてキミの特技の声帯模写。あれは演劇の成果なのか?」
「いや逆。声帯模写ができるから演劇を」
「そんな動機で……って。いや、一度しかない高校生活なんだから、もっとこう部活選びは真剣にしなさい」
「流石は斗貴子氏。含蓄がある」
同意したようなしてないような反応だ。瞳は白く曇ったメガネに隠れ、真意を伺い知るコトはできない。
「というか津村、彼はこの学校の部活全てに入っている。剣道は二段だ」
「絞れ! 一つに! 部活はもっと真剣に選べ!!」
叫び、机に拳を叩きつける斗貴子だが六舛はさほど怯えた様子もない。冷めた瞳で彼女を一瞥すると「それはともかく」と
話題を変えた。
「秋水先輩と手を結んだらどう斗貴子氏? いまのままじゃ勝ち目薄いし」
「う……」
口を噤んだまま斗貴子は回想する。いまの演劇部員のほとんどはパピヨンシンパだ。このまま手をこまねいていればい
ずれ部員の総ては蝶々覆面をかぶり全身タイツを着こなし、変態丸出しの馬鹿騒ぎを銀成学園に振りまくだろう。そもそも
銀成市民はアホばかりなのだ。
「確かに私だけでは孤立無援。味方は一人でも欲しいところだが」
ちらりと秋水を見る。戦闘絡みなら卓越した剣客たる彼は非常に重宝するだろうが、ことこう言う日常(?)の問題解決に
は甚だ不向きな男に見えた。
(むしろこういうのは桜花の方が向いてるんだが)
とにかく。
唯一の味方が秋水というのがまったく以て宜しくない。
そもそも斗貴子と秋水の仲は決して良好とは言い難いのだ。
かつて斗貴子が武藤カズキともども早坂姉弟と戦った時、秋水はカズキを背後から刺した。もし桜花が武装錬金の特性
でカズキの傷を引き受けなければ、彼は間違いなく死んでいただろう。
もちろんその件に関する謝罪は、ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズとの決着後に聞き及んでいる斗貴子だし、一時期
秋水に辛く当たっていたのは様々な辛さ苦しみの捌け口という意味もあった。そもそもカズキが刺されたのは斗貴子から早
坂姉弟を守ろうとしたためでもある。その過程で斗貴子自身、「まだ人間の先輩たちを守りたい」と真っ当な正義を主張する
カズキを──戦いの世界から遠ざけるためとはいえ──さんざん傷めつけた。
具体的には失明させようとしたり、四肢のどれか一本を機能不全に追い込もうと、した。
(あの時はやりすぎた……)
とにかくそういう経緯があるからカズキの件で秋水を恨むのはやめよう。そう思っている斗貴子だが、彼と仲良くしたいと
いう気持ちは目下のところ皆無である。
かつて斗貴子が武藤カズキともども早坂姉弟と戦った時、秋水はカズキを背後から刺した。もし桜花が武装錬金の特性
でカズキの傷を引き受けなければ、彼は間違いなく死んでいただろう。
もちろんその件に関する謝罪は、ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズとの決着後に聞き及んでいる斗貴子だし、一時期
秋水に辛く当たっていたのは様々な辛さ苦しみの捌け口という意味もあった。そもそもカズキが刺されたのは斗貴子から早
坂姉弟を守ろうとしたためでもある。その過程で斗貴子自身、「まだ人間の先輩たちを守りたい」と真っ当な正義を主張する
カズキを──戦いの世界から遠ざけるためとはいえ──さんざん傷めつけた。
具体的には失明させようとしたり、四肢のどれか一本を機能不全に追い込もうと、した。
(あの時はやりすぎた……)
とにかくそういう経緯があるからカズキの件で秋水を恨むのはやめよう。そう思っている斗貴子だが、彼と仲良くしたいと
いう気持ちは目下のところ皆無である。
(だあもう考えていても仕方ない。こうしている間にも演劇部はパピヨンにどんどんどんどん侵食されてるぞ)
華奢な体を抱えるように斗貴子は身震いした。パピヨンという変態性の権化が少しずつ少しずつ銀成学園を侵食している
恐ろしさよ。もたもたしていると本当に取り返しがつかない。
(だいたい、カズキが月に消えたのになんであんなに平気そうなんだ。貴様にとってカズキはその程度の相手なのか)
秋水と協議する気になった理由の一つは、上記のごとき憤りかも知れない。カズキがいなくなってこっち、斗貴子は幾度と
なく辛い思いをした。それを晴らそうと秋水の過去をあげつらえばまひろに聞かれ、傷つけ、ますますどん底へと呑まれた
のだ。
にも関わらずパピヨンは平気な顔で演劇部に出入りしている。「本名を呼ばれて以来」、あれほどカズキに執心していた
というのにだ。
そういう怒り半分、顔見知りたる生徒たちを守りたいという使命感半分。
斗貴子はゆっくりと秋水の目を直視した。
華奢な体を抱えるように斗貴子は身震いした。パピヨンという変態性の権化が少しずつ少しずつ銀成学園を侵食している
恐ろしさよ。もたもたしていると本当に取り返しがつかない。
(だいたい、カズキが月に消えたのになんであんなに平気そうなんだ。貴様にとってカズキはその程度の相手なのか)
秋水と協議する気になった理由の一つは、上記のごとき憤りかも知れない。カズキがいなくなってこっち、斗貴子は幾度と
なく辛い思いをした。それを晴らそうと秋水の過去をあげつらえばまひろに聞かれ、傷つけ、ますますどん底へと呑まれた
のだ。
にも関わらずパピヨンは平気な顔で演劇部に出入りしている。「本名を呼ばれて以来」、あれほどカズキに執心していた
というのにだ。
そういう怒り半分、顔見知りたる生徒たちを守りたいという使命感半分。
斗貴子はゆっくりと秋水の目を直視した。
「ひとつ聴きたい」
「なんだ?」
「どうしてキミはパピヨンを演劇部から放逐したいんだ? 過去をどうこう言う訳ではないが、キミの性格なら部活動のいざこ
ざに首を突っ込まない方が自然だ。それが何故、今回に限って口を出すんだ?」
謹直な表情が、ぽつりと言葉を吐いた。
「衣装の問題だ」
衣装? 斗貴子は首を傾げた。彼は何の話をしているのだろう。
「このままいけば、武藤の妹がパピヨンと同じ服を着る事になる。それは防ぎたい」
「なんだ?」
「どうしてキミはパピヨンを演劇部から放逐したいんだ? 過去をどうこう言う訳ではないが、キミの性格なら部活動のいざこ
ざに首を突っ込まない方が自然だ。それが何故、今回に限って口を出すんだ?」
謹直な表情が、ぽつりと言葉を吐いた。
「衣装の問題だ」
衣装? 斗貴子は首を傾げた。彼は何の話をしているのだろう。
「このままいけば、武藤の妹がパピヨンと同じ服を着る事になる。それは防ぎたい」
「あの服は……胸元が開き過ぎている」
寂然と窓の外を眺め始めた剣客に、斗貴子はほんの少しだけだが頬を緩めた。
「わかった。協力をお願いする」
「なるほど。斗貴子氏もまひろちゃんにあの服を着せたくないから先輩と協力する気になったと」
「違いないがあまりそういうのは口に出さないでくれ。何というか、困る」
少し困った目つきで釘を刺すが、やはり六舛にこれといった表情の変化はない。
「ていうか意外。秋水先輩がそういうコトいうなんて」
「だが、若い女性が素肌を気楽にさらけ出すのは良くない」
訥々とした呟きに斗貴子と六舛の口からため息が漏れた。枯れている、というより秋水自身が妙な気恥しさを抱えている
フシもある。もちろん一番大きいのは「恩人の妹におかしな格好をさせたくない」という節義であろうが。
「その辺りはともかく、お2人が協力してもパピヨンを放逐するのは難しいんじゃないか?」
くいっとメガネを掛け直す少年に低い──女性にしてはなかなか静かな迫力のある──反問が刺さった。
「何が言いたい」
「演技力の問題。いまパピヨンが演劇部で支持を受けているのは演技力のせいだし」
ふむ、と秋水は顎に手を当てた。
「確かに……。俺も一度見たが、彼の演技は良くも悪くも強烈だった」
「あんな奴の一挙一動を真剣に考えるな。ただの頭のおかしいド変態がいやらしく振る舞っているだけだ」
目も三角で吐き捨てるように斗貴子は呟いた。あんな物をあがめる銀成市民はDNAレベルでアホだとも言いたげだ。
「とにかくパピヨンに対抗しようと思ったら、演技で立ち向かわなきゃ意味がない。斗貴子氏たちもそれは分かってるよね?」
「まあ確かにな。私達が説教したところで部員は耳を貸さないだろう。彼以上のまっとうな演技を見せつけなければ」
「演劇部員の眼は覚めない、という訳か」
だが、と斗貴子は眉をひそめた。
「どうやってまっとうな演技を見せつける? いっておくが私も早坂秋水も演技についてはズブの素人だぞ? 今から練習
したところで手遅れだ。基礎が身に着く頃にはもう」
「演劇部はパピヨンに侵食されきっている」
そうだな、と六舛は頷いた。
「だからお2人には1日でパピヨンレベルの演技力を身に付けてもらう。具体的には修行。いい?」
「違いないがあまりそういうのは口に出さないでくれ。何というか、困る」
少し困った目つきで釘を刺すが、やはり六舛にこれといった表情の変化はない。
「ていうか意外。秋水先輩がそういうコトいうなんて」
「だが、若い女性が素肌を気楽にさらけ出すのは良くない」
訥々とした呟きに斗貴子と六舛の口からため息が漏れた。枯れている、というより秋水自身が妙な気恥しさを抱えている
フシもある。もちろん一番大きいのは「恩人の妹におかしな格好をさせたくない」という節義であろうが。
「その辺りはともかく、お2人が協力してもパピヨンを放逐するのは難しいんじゃないか?」
くいっとメガネを掛け直す少年に低い──女性にしてはなかなか静かな迫力のある──反問が刺さった。
「何が言いたい」
「演技力の問題。いまパピヨンが演劇部で支持を受けているのは演技力のせいだし」
ふむ、と秋水は顎に手を当てた。
「確かに……。俺も一度見たが、彼の演技は良くも悪くも強烈だった」
「あんな奴の一挙一動を真剣に考えるな。ただの頭のおかしいド変態がいやらしく振る舞っているだけだ」
目も三角で吐き捨てるように斗貴子は呟いた。あんな物をあがめる銀成市民はDNAレベルでアホだとも言いたげだ。
「とにかくパピヨンに対抗しようと思ったら、演技で立ち向かわなきゃ意味がない。斗貴子氏たちもそれは分かってるよね?」
「まあ確かにな。私達が説教したところで部員は耳を貸さないだろう。彼以上のまっとうな演技を見せつけなければ」
「演劇部員の眼は覚めない、という訳か」
だが、と斗貴子は眉をひそめた。
「どうやってまっとうな演技を見せつける? いっておくが私も早坂秋水も演技についてはズブの素人だぞ? 今から練習
したところで手遅れだ。基礎が身に着く頃にはもう」
「演劇部はパピヨンに侵食されきっている」
そうだな、と六舛は頷いた。
「だからお2人には1日でパピヨンレベルの演技力を身に付けてもらう。具体的には修行。いい?」
「「はい?」」
斗貴子と秋水の疑問符が被った。