阿久津の脳内にあるものは怒り、完全にキレている。
「テメェ~、文部省公認の特別待遇児だっつったってよぉ~、俺だって高校なんざあ教科書一つ教えない様な非義務教育のガッコーなんざ行かなくてもなぁ
大学入れるんだぜ~。あ!? 聞いてんかオイ。ハーバード行けるぜ俺はよぉ」
「アンタ金無いからアメリカ行けないって前言ってたじゃない」
図星を刺され押し黙る阿久津。彼は別に文部省に認定された待遇児では無い。彼には受けられない理由があるのだ。
血管を浮かび上がらせて神埼に殴りかかる。
「オイオイ、小等部の頃からの付き合いじゃあねーかよ。そーいう人を小馬鹿にする態度は良くないなァ~
いくらお前でもよぉ、ぶぶぶ、ぶち殺すぞ確実によぉ!?」
しかし阿久津の拳は神崎には届かない。彼の拳はもう一方の男の右手によって止められていた。
鬼塚である。
「ちぃ~っとばかし暴れすぎだぜお前…」
その表情には怒りの色を見せながらも笑みを浮かべていた。
そして阿久津も鬼塚の顔を見て憤怒の表情を浮かべる。血管は更に額に浮き上がり、中から血が噴き出すぐらいに膨らんでいた。
教師と生徒の間柄で見せる表情とは到底思えないその顔。だが完全にキレている阿久津の眼は感情と共に熱くなっている訳ではない。
むしろどこか冷めている様に感じるその両の眼。嘗て鬼塚が幾度か体験した事のあるある種の『恐怖』と言える眼光。
殺し合いでもおっぱじめる様なその眼光を直視し、やがて鬼塚は思い出す。阿久津の醸し出すその『気』が、その鋭い眼光がどの様なものなのかを。
『そうだ! コイツの眼…』
「どうした鬼塚、かかって来ねえのかよ。それとも『教師だから校内暴力反対ですぅ』なんてこと今更言わねえだろう?」
鬼塚は阿久津に向かって攻撃をしないのではない。出来ないのだ。眼の前にいる品行の悪い中学生を殴る事が出来ない。
今、彼は一種の恐怖を感じている。それは今までに『二度』感じた恐怖。どちらかが死ぬかもしれない命のやりとりになったかもしれない男達の眼に酷似している。
特に『二度目』に対峙した男の眼光に。
だが眼前にいるこの男はその二人目の男とは関わりは無い筈、この男は嘗ての暴走天使二代目頭の阿久津淳也の弟というだけなのだから。
だが、阿久津の出す殺気は阿久津淳也とはまるで違う殺気。鬼塚が委縮した『二人目の男』に驚く程に似ている殺気を出す男。
阿久津薫は余りにも似すぎていた。初めての体験は、そう、『鬼爆』の爆の字、弾間竜ニと初めて会った時の、死さえ予感させた圧倒的な『恐怖』
この阿久津薫は、二度目に会った男に似ていた。そう、スティードを乗り回していた金髪の『あの男』に
ゴスッ。打撃音が響く。鬼塚は一瞬思考が停止する。
先程まで五月蠅い程に声を上げていた阿久津が打って変わって静かである。完全にキレているこの男は、頭から冷水をぶっかけられたかのように冷静であった。
冷静、という言葉は適切ではないかもしれない。その眼は冷徹、今入れた一撃で鬼塚がどれ程ダメージを受けたか観察する様な眼。
狩人の様な眼である。
「クソ、コイツはヤバイ…ぜ」
鬼塚がその鉄拳を阿久津にぶち込む。ねじり込む様に左拳を阿久津の右頬に叩きこみ、押し倒す。
「うわ~! 何をしとるんだ鬼塚ァアア~~~!!」
内山田教頭が乱闘を止める為に鬼塚に近付く。
「やめるんだ鬼塚君。キキキ君はなな何をしでかしてるのか分かっているのか? え?」
滝の様な汗を掻きながら鬼塚の制止に入った教頭だったが、まさか彼は後ろから生徒に殴られるとは思っていなかっただろう。
ゾク・・・・この全身の凍りつく感覚、総毛立つ程の戦慄、まるで『狩る側にいた者』が『狩られる側の者』に変わる程の衝撃。
教頭は何も知らぬまま裏拳を後頭部に受け、断末魔さえ上げる事無く卒倒する。完全に気を失うまでの間に教頭は走馬灯の様な映像を見ていた。
最近父親である自分に全く関心を示さず肌を黒く染めて少し不良学生の様になっていく愛娘、好子と、ゴキブリの様に娘の身体に近付く鬼塚の姿だった。
周りにいた3-4の生徒達は勿論、騒ぎを聞きつけて廊下に集まった袋田教諭や桜井教諭も驚愕していた。
阿久津薫、その男の真の恐ろしさに、彼等は触れてしまったのだ。そして鬼塚も焦りから冷や汗を流す。
この男は、自分の想像以上だった。まさか『あの男』にここまで酷似した者が生徒だとはこの現代医学を侮辱する様な生命力を持つ鬼塚も予想しなかった。
阿久津の至って冷静なその眼を見ると思い出す。スティードに乗っていたあの『金髪の男』を…
この眼は、そう、悪夢の中に迷い込んだ者を決して逃がさない眼である。逃げても逃げても追っかけてくる悪夢の中に棲むバケモノ。
追われる者と追う者の立場を逆転させる力を持った者。イギ―を追いかけた『ペットショップ』をイメージしてもらうと分かりやすい。
鬼塚は同じ過ちを繰り返していたのだ。嘗て湘南で犯した過ち、そして今回また犯してしまった。
予想だにしていなかった。鬼塚はまた、知らぬ間に、『死神』を追いかけていたのだ。
阿久津が、血管を浮かび上がらせながらも笑みを浮かべ、右頬を殴られたときに切った口から出た血を舌で舐める。
その背後には鎌を持った、『堕天使』が立っていた。これが唯一、『金髪の男』と阿久津の相違点。
だがこの眼は、『アメリカンドリーム』という言葉が好きだった、求め続けた友のあたたかい腕の中で最期を迎えた男
水樹・スミス・夏希。『ナツ』と同じ、恐ろしく、どこか悲しい眼をしていた。
とあるイタリアのギャングの『悪魔』の名を冠すボスが言っていた言葉がある。
『恐怖とはまさしく過去からやってくる』と。鬼塚にとってのこの七年前の恐怖、そして悲劇は生涯忘れる事の無い体験。
だが、鬼塚はこの恐怖を抱きながらも、退かなかった。恐怖に敗北する事は無かった。
つまり……
「阿久津、この程度かよ。ほおら、おんなじように俺にもその拳を叩きこんでみろやベイベー!」
「ああ、殺してやるよ。鬼塚」
便所で用を足し、流す時に出した便を見る様に鬼塚を見つめる阿久津。
不良学生は教師の事を『先公』などと呼び、誹謗中傷をしたりしているが、今の阿久津はその類いでは無い。
教師という者を、『対等な存在』として見ていない。自分以下の者。またまたとあるイタリアのギャングのボスの言葉を借りれば
『便所に吐き出されたタンカス』と同等。クズ以下の以下の以下。
よって特別この鬼塚に特別な感情が湧く事も無い。ただ、そのクズ以下の教師に対して、『憎悪』『復讐心』この二つが阿久津に教師を殺すよう促す。
「殺す。お前も、この学苑にいる全教員も、ふんぞり返ってやがる女理事長も」
次第に阿久津の表情が変わる。額に浮き上がった血管は消え、眼に光が無くなり、恍惚の笑みを浮かべ、
そう、満面の笑顔で鬼塚を殴る。蹴る。
「殺してやんぜてめぇええ!? おアァアッ!!」
鬼塚は気付いているのだろうか。今口にした言葉、そして右ストレートを阿久津に打つモーション。
それら全てが嘗てナツとの壮絶なタイマンをした時のシチュエーションと同じであった事を。
「見た事ねえよ、こんなタイマンはよぉ!」
村井が驚愕する。こんな喧嘩は彼にとって初めて見る体験であった。見ているだけで震えが止まらない。
だが、このまま傍観する訳にはいかない。全員身体を張ってでも止めなければ、
本当に死人が出る事態になってしまう。
「これ以上は本当に拙い! 本当に止めなきゃあヤバいぞ!!」
菊池が号令を掛けると、周りにいた、生徒、教師、関係無く全員が二人のタイマンを止めに入った。
幸い二人は得物を持っていない為、間違っても刺されるという事は無いが、それでもこの喧嘩を止める事は至難の業であった。
「マジで止めろって阿久津ゥウ!!」
村井、藤吉、草野の三人が阿久津を抑えつける。だが、それでも彼は止まらない。
右足を抑えていた草野を振り飛ばし藤吉を殴り付け、村井に頭突きする。
「ぐああ…」
村井に意識を取られていた阿久津は完全に虚を突かれ、鬼塚の拳が阿久津の顔面に直撃した。
ポタリポタリと廊下に鼻血を垂らす阿久津。だがその殺意はまるで衰えていなかった。
「この鬼塚英吉様がよ~、チンポに毛が生えたばっかのガキによぉ、ぶっ殺されると思うかぁ?」
ここまで追い詰められながらも阿久津はバタフライナイフを使わなかった。
これは彼のプライドである。格下の雑魚をわざわざ刃物を使って刺し殺す事は、自分が刃物が無ければ格下相手に勝利する事が出来ないという事になる。
よってクズ以下の格下相手にナイフを使う事が阿久津の誇りを自動的に傷つける。阿久津はそれを本能的に分かっていた。
「くそ~、この袋田はじめの言う事を聞けぇ~!!」
先程までビビりまくっていた袋田教諭がその筋骨隆々の肉体の全身を使い、二人の間に入る。
つまり、彼は今二方向から鉄拳を受けてしまった形になる。
互いに殴り合いが激化し、鬼塚も、阿久津も、額から夥しい程の血液が流れ、『なんでコイツラ生きてんだよ』と言いたくなる様な状況であった。
二人とももう身体にガタが来ており、動きも鈍っていた。しかしそれでも止まろうとしない二人。だが、闘いは終了する事になる。
「もうやめて!! 鬼塚君!!!」
動きの鈍った鬼塚に冬月が半ば胴タックルを仕掛ける様な勢いで鬼塚を押し倒す。それほど必死だったのだろう。眼からは涙が溢れている。
「ふ…冬月ちゃん…」
一方男子生徒達の必死の抑えにより阿久津もようやく動きが止まった。こうして決着がつかぬまま鬼塚と阿久津の第二戦が終わる。
「テメェ~、文部省公認の特別待遇児だっつったってよぉ~、俺だって高校なんざあ教科書一つ教えない様な非義務教育のガッコーなんざ行かなくてもなぁ
大学入れるんだぜ~。あ!? 聞いてんかオイ。ハーバード行けるぜ俺はよぉ」
「アンタ金無いからアメリカ行けないって前言ってたじゃない」
図星を刺され押し黙る阿久津。彼は別に文部省に認定された待遇児では無い。彼には受けられない理由があるのだ。
血管を浮かび上がらせて神埼に殴りかかる。
「オイオイ、小等部の頃からの付き合いじゃあねーかよ。そーいう人を小馬鹿にする態度は良くないなァ~
いくらお前でもよぉ、ぶぶぶ、ぶち殺すぞ確実によぉ!?」
しかし阿久津の拳は神崎には届かない。彼の拳はもう一方の男の右手によって止められていた。
鬼塚である。
「ちぃ~っとばかし暴れすぎだぜお前…」
その表情には怒りの色を見せながらも笑みを浮かべていた。
そして阿久津も鬼塚の顔を見て憤怒の表情を浮かべる。血管は更に額に浮き上がり、中から血が噴き出すぐらいに膨らんでいた。
教師と生徒の間柄で見せる表情とは到底思えないその顔。だが完全にキレている阿久津の眼は感情と共に熱くなっている訳ではない。
むしろどこか冷めている様に感じるその両の眼。嘗て鬼塚が幾度か体験した事のあるある種の『恐怖』と言える眼光。
殺し合いでもおっぱじめる様なその眼光を直視し、やがて鬼塚は思い出す。阿久津の醸し出すその『気』が、その鋭い眼光がどの様なものなのかを。
『そうだ! コイツの眼…』
「どうした鬼塚、かかって来ねえのかよ。それとも『教師だから校内暴力反対ですぅ』なんてこと今更言わねえだろう?」
鬼塚は阿久津に向かって攻撃をしないのではない。出来ないのだ。眼の前にいる品行の悪い中学生を殴る事が出来ない。
今、彼は一種の恐怖を感じている。それは今までに『二度』感じた恐怖。どちらかが死ぬかもしれない命のやりとりになったかもしれない男達の眼に酷似している。
特に『二度目』に対峙した男の眼光に。
だが眼前にいるこの男はその二人目の男とは関わりは無い筈、この男は嘗ての暴走天使二代目頭の阿久津淳也の弟というだけなのだから。
だが、阿久津の出す殺気は阿久津淳也とはまるで違う殺気。鬼塚が委縮した『二人目の男』に驚く程に似ている殺気を出す男。
阿久津薫は余りにも似すぎていた。初めての体験は、そう、『鬼爆』の爆の字、弾間竜ニと初めて会った時の、死さえ予感させた圧倒的な『恐怖』
この阿久津薫は、二度目に会った男に似ていた。そう、スティードを乗り回していた金髪の『あの男』に
ゴスッ。打撃音が響く。鬼塚は一瞬思考が停止する。
先程まで五月蠅い程に声を上げていた阿久津が打って変わって静かである。完全にキレているこの男は、頭から冷水をぶっかけられたかのように冷静であった。
冷静、という言葉は適切ではないかもしれない。その眼は冷徹、今入れた一撃で鬼塚がどれ程ダメージを受けたか観察する様な眼。
狩人の様な眼である。
「クソ、コイツはヤバイ…ぜ」
鬼塚がその鉄拳を阿久津にぶち込む。ねじり込む様に左拳を阿久津の右頬に叩きこみ、押し倒す。
「うわ~! 何をしとるんだ鬼塚ァアア~~~!!」
内山田教頭が乱闘を止める為に鬼塚に近付く。
「やめるんだ鬼塚君。キキキ君はなな何をしでかしてるのか分かっているのか? え?」
滝の様な汗を掻きながら鬼塚の制止に入った教頭だったが、まさか彼は後ろから生徒に殴られるとは思っていなかっただろう。
ゾク・・・・この全身の凍りつく感覚、総毛立つ程の戦慄、まるで『狩る側にいた者』が『狩られる側の者』に変わる程の衝撃。
教頭は何も知らぬまま裏拳を後頭部に受け、断末魔さえ上げる事無く卒倒する。完全に気を失うまでの間に教頭は走馬灯の様な映像を見ていた。
最近父親である自分に全く関心を示さず肌を黒く染めて少し不良学生の様になっていく愛娘、好子と、ゴキブリの様に娘の身体に近付く鬼塚の姿だった。
周りにいた3-4の生徒達は勿論、騒ぎを聞きつけて廊下に集まった袋田教諭や桜井教諭も驚愕していた。
阿久津薫、その男の真の恐ろしさに、彼等は触れてしまったのだ。そして鬼塚も焦りから冷や汗を流す。
この男は、自分の想像以上だった。まさか『あの男』にここまで酷似した者が生徒だとはこの現代医学を侮辱する様な生命力を持つ鬼塚も予想しなかった。
阿久津の至って冷静なその眼を見ると思い出す。スティードに乗っていたあの『金髪の男』を…
この眼は、そう、悪夢の中に迷い込んだ者を決して逃がさない眼である。逃げても逃げても追っかけてくる悪夢の中に棲むバケモノ。
追われる者と追う者の立場を逆転させる力を持った者。イギ―を追いかけた『ペットショップ』をイメージしてもらうと分かりやすい。
鬼塚は同じ過ちを繰り返していたのだ。嘗て湘南で犯した過ち、そして今回また犯してしまった。
予想だにしていなかった。鬼塚はまた、知らぬ間に、『死神』を追いかけていたのだ。
阿久津が、血管を浮かび上がらせながらも笑みを浮かべ、右頬を殴られたときに切った口から出た血を舌で舐める。
その背後には鎌を持った、『堕天使』が立っていた。これが唯一、『金髪の男』と阿久津の相違点。
だがこの眼は、『アメリカンドリーム』という言葉が好きだった、求め続けた友のあたたかい腕の中で最期を迎えた男
水樹・スミス・夏希。『ナツ』と同じ、恐ろしく、どこか悲しい眼をしていた。
とあるイタリアのギャングの『悪魔』の名を冠すボスが言っていた言葉がある。
『恐怖とはまさしく過去からやってくる』と。鬼塚にとってのこの七年前の恐怖、そして悲劇は生涯忘れる事の無い体験。
だが、鬼塚はこの恐怖を抱きながらも、退かなかった。恐怖に敗北する事は無かった。
つまり……
「阿久津、この程度かよ。ほおら、おんなじように俺にもその拳を叩きこんでみろやベイベー!」
「ああ、殺してやるよ。鬼塚」
便所で用を足し、流す時に出した便を見る様に鬼塚を見つめる阿久津。
不良学生は教師の事を『先公』などと呼び、誹謗中傷をしたりしているが、今の阿久津はその類いでは無い。
教師という者を、『対等な存在』として見ていない。自分以下の者。またまたとあるイタリアのギャングのボスの言葉を借りれば
『便所に吐き出されたタンカス』と同等。クズ以下の以下の以下。
よって特別この鬼塚に特別な感情が湧く事も無い。ただ、そのクズ以下の教師に対して、『憎悪』『復讐心』この二つが阿久津に教師を殺すよう促す。
「殺す。お前も、この学苑にいる全教員も、ふんぞり返ってやがる女理事長も」
次第に阿久津の表情が変わる。額に浮き上がった血管は消え、眼に光が無くなり、恍惚の笑みを浮かべ、
そう、満面の笑顔で鬼塚を殴る。蹴る。
「殺してやんぜてめぇええ!? おアァアッ!!」
鬼塚は気付いているのだろうか。今口にした言葉、そして右ストレートを阿久津に打つモーション。
それら全てが嘗てナツとの壮絶なタイマンをした時のシチュエーションと同じであった事を。
「見た事ねえよ、こんなタイマンはよぉ!」
村井が驚愕する。こんな喧嘩は彼にとって初めて見る体験であった。見ているだけで震えが止まらない。
だが、このまま傍観する訳にはいかない。全員身体を張ってでも止めなければ、
本当に死人が出る事態になってしまう。
「これ以上は本当に拙い! 本当に止めなきゃあヤバいぞ!!」
菊池が号令を掛けると、周りにいた、生徒、教師、関係無く全員が二人のタイマンを止めに入った。
幸い二人は得物を持っていない為、間違っても刺されるという事は無いが、それでもこの喧嘩を止める事は至難の業であった。
「マジで止めろって阿久津ゥウ!!」
村井、藤吉、草野の三人が阿久津を抑えつける。だが、それでも彼は止まらない。
右足を抑えていた草野を振り飛ばし藤吉を殴り付け、村井に頭突きする。
「ぐああ…」
村井に意識を取られていた阿久津は完全に虚を突かれ、鬼塚の拳が阿久津の顔面に直撃した。
ポタリポタリと廊下に鼻血を垂らす阿久津。だがその殺意はまるで衰えていなかった。
「この鬼塚英吉様がよ~、チンポに毛が生えたばっかのガキによぉ、ぶっ殺されると思うかぁ?」
ここまで追い詰められながらも阿久津はバタフライナイフを使わなかった。
これは彼のプライドである。格下の雑魚をわざわざ刃物を使って刺し殺す事は、自分が刃物が無ければ格下相手に勝利する事が出来ないという事になる。
よってクズ以下の格下相手にナイフを使う事が阿久津の誇りを自動的に傷つける。阿久津はそれを本能的に分かっていた。
「くそ~、この袋田はじめの言う事を聞けぇ~!!」
先程までビビりまくっていた袋田教諭がその筋骨隆々の肉体の全身を使い、二人の間に入る。
つまり、彼は今二方向から鉄拳を受けてしまった形になる。
互いに殴り合いが激化し、鬼塚も、阿久津も、額から夥しい程の血液が流れ、『なんでコイツラ生きてんだよ』と言いたくなる様な状況であった。
二人とももう身体にガタが来ており、動きも鈍っていた。しかしそれでも止まろうとしない二人。だが、闘いは終了する事になる。
「もうやめて!! 鬼塚君!!!」
動きの鈍った鬼塚に冬月が半ば胴タックルを仕掛ける様な勢いで鬼塚を押し倒す。それほど必死だったのだろう。眼からは涙が溢れている。
「ふ…冬月ちゃん…」
一方男子生徒達の必死の抑えにより阿久津もようやく動きが止まった。こうして決着がつかぬまま鬼塚と阿久津の第二戦が終わる。
翌日、包帯を顔面にぐるぐる巻いて理事長室で正座している鬼塚の姿があった。
内山田教頭に怒鳴り散らされ、シデムシ、バクテリア、アメーバ、プレデタ―とおよそ人間に付けられるあだ名に相応しくないあだ名を呼びつけて罵倒したりされたが、
先に鬼畜クラブを使って鬼塚を攻撃したのが阿久津だという点を重視し、桜井理事長は鬼塚を減俸処分とした。
というよりも鬼塚に是非教師になってほしいと頼んできたのがあの理事長なのだから生半可な事では鬼塚のクビを切る事は無いだろう。
「な~~~!! 理事長!! この学苑の癌を、エイズを、ここに留めさせておくつもりですかぁ! こ、これでは……
学苑が鬼塚シンドロームでパンデミックがぁ~~~…」
と、ムンクの叫びの様な顔をして鬼塚に近付き、仕舞いには『よくも好子を~~~』とワンダーフォーゲル部元主将の力を鬼塚相手に存分に発揮した。
内山田教頭に怒鳴り散らされ、シデムシ、バクテリア、アメーバ、プレデタ―とおよそ人間に付けられるあだ名に相応しくないあだ名を呼びつけて罵倒したりされたが、
先に鬼畜クラブを使って鬼塚を攻撃したのが阿久津だという点を重視し、桜井理事長は鬼塚を減俸処分とした。
というよりも鬼塚に是非教師になってほしいと頼んできたのがあの理事長なのだから生半可な事では鬼塚のクビを切る事は無いだろう。
「な~~~!! 理事長!! この学苑の癌を、エイズを、ここに留めさせておくつもりですかぁ! こ、これでは……
学苑が鬼塚シンドロームでパンデミックがぁ~~~…」
と、ムンクの叫びの様な顔をして鬼塚に近付き、仕舞いには『よくも好子を~~~』とワンダーフォーゲル部元主将の力を鬼塚相手に存分に発揮した。
一方校内での大きな事件を起こしてしまった阿久津は二週間の自宅謹慎を受けてしまった。
薄暗い部屋で、指を噛む。初めての屈辱。邪魔なカスに鬼塚の殺害を邪魔されたのだ。
阿久津は至って冷静であった。だがその表情が阿久津の真の怒りであった。
その夜、コンビニの前を通りがかっていた女性を何人かのバイクに乗ったチンピラが囲んだ。
「おねーさーん、今から俺らと遊ばなーい?」
「さすがタクさん。すんげー美人ゲット」
最初に女性に声を掛けた男がサングラスを外して自己紹介をする。
「俺渋井丸拓男。略してシブタク。へへ…付き合ってよおねーさん」
「タクそればっか」
「まー本名だし」
「こ…困ります…」
思いっきり失敗しているナンパを無理やり実行しようとしているシブタク達だったが突然の携帯の着メロで一時中断する。
「何だようるせーな。もしもし」
「おい、タクか……これからよ、『メンバー』集めてくれるか」
「ちょ…リーダー? なんすかいきなり!?」
シブタクが返答する間も無く電話は切れる。
「どうしたんだ? タク」
仲間がシブタクに問う。シブタクは非常に焦った状態で叫ぶ。
「急げ、リーダーから命令だ。『ヘルエンジェルズ』全員集めるぞ。じゃあねーと俺達リーダーに下手すりゃあ殺されるからよぉ!!」
シブタク達は女性をその場に残し、吉祥寺の闇夜に消えていった。
薄暗い部屋で、指を噛む。初めての屈辱。邪魔なカスに鬼塚の殺害を邪魔されたのだ。
阿久津は至って冷静であった。だがその表情が阿久津の真の怒りであった。
その夜、コンビニの前を通りがかっていた女性を何人かのバイクに乗ったチンピラが囲んだ。
「おねーさーん、今から俺らと遊ばなーい?」
「さすがタクさん。すんげー美人ゲット」
最初に女性に声を掛けた男がサングラスを外して自己紹介をする。
「俺渋井丸拓男。略してシブタク。へへ…付き合ってよおねーさん」
「タクそればっか」
「まー本名だし」
「こ…困ります…」
思いっきり失敗しているナンパを無理やり実行しようとしているシブタク達だったが突然の携帯の着メロで一時中断する。
「何だようるせーな。もしもし」
「おい、タクか……これからよ、『メンバー』集めてくれるか」
「ちょ…リーダー? なんすかいきなり!?」
シブタクが返答する間も無く電話は切れる。
「どうしたんだ? タク」
仲間がシブタクに問う。シブタクは非常に焦った状態で叫ぶ。
「急げ、リーダーから命令だ。『ヘルエンジェルズ』全員集めるぞ。じゃあねーと俺達リーダーに下手すりゃあ殺されるからよぉ!!」
シブタク達は女性をその場に残し、吉祥寺の闇夜に消えていった。