猫草の『ストレイキャット』、街頭もなく店の窓から漏れる僅かな光では空気弾のサイズ・弾速共に絶望的だという事は分かる。
それを踏まえて着弾地点を予測し確かに到達した、だが奴にダメージはない。
致命傷という意味ではなくダメージそのものが『0(ゼロ)』だった。
それを踏まえて着弾地点を予測し確かに到達した、だが奴にダメージはない。
致命傷という意味ではなくダメージそのものが『0(ゼロ)』だった。
「明らかに爆破を回避しているっ! 奴の無傷は手動爆破の誤差によるダメージ軽減なんてものじゃあない!」
「どうじゃ? 降参するなら今の内じゃよォーン?」
「どうじゃ? 降参するなら今の内じゃよォーン?」
隠者はふざけた態度をとり余裕の表情で私を屋根から見下ろしている。
念写以外に隠された能力があるのだろうか、そんな筈は無い。
そんなものがあれば億泰の家を捜索し現在のプロフィールまで掴んでいた私の親父が見逃す訳がない。
だが実際目の前に居る筋骨隆々とした健康的な老人は……偽の情報を掴まされ一杯食わされたのだろうか。
様子を見るのだ……この吉良吉影、今まで一度だって切り抜けられなかったピンチは無い!
念写以外に隠された能力があるのだろうか、そんな筈は無い。
そんなものがあれば億泰の家を捜索し現在のプロフィールまで掴んでいた私の親父が見逃す訳がない。
だが実際目の前に居る筋骨隆々とした健康的な老人は……偽の情報を掴まされ一杯食わされたのだろうか。
様子を見るのだ……この吉良吉影、今まで一度だって切り抜けられなかったピンチは無い!
「フッフッフッ………」
や、やばかったわい……早人君が飛んでくる爆弾を教えてくれなかったらワシ吹っ飛んでたかも………。
だが今のスピード、『彼』はあの殺人鬼に勝つための素晴らしい武器を授けてくれたのやもしれん。
だが『彼』を生かすも殺すも、言葉通りワシ次第となる………気は抜けん。
まずは安全と情報を確保、それから戦闘開始といくか。
だが今のスピード、『彼』はあの殺人鬼に勝つための素晴らしい武器を授けてくれたのやもしれん。
だが『彼』を生かすも殺すも、言葉通りワシ次第となる………気は抜けん。
まずは安全と情報を確保、それから戦闘開始といくか。
「くらえいっ! 『ハーミット・パープル!』」
屋根の上から四方八方にイバラを伸ばしていく、絡み付けて動きを封じるつもりか?
重清という高校生のスタンド同様あのイバラへの攻撃は奴へのダメージにはならないだろう。
次々と際限なく伸びてきている、だがイバラが本体へと続いているのが奴の弱点だ……イバラを通して奴を直接爆弾に出来る。
他の能力を考える必要は無くなった、奴のスタンドが私に触れることは無い。
一本の蔦が背後から忍び寄り私の足へ絡みつく、様子を見る必要などなかった…これで終わりだ。
重清という高校生のスタンド同様あのイバラへの攻撃は奴へのダメージにはならないだろう。
次々と際限なく伸びてきている、だがイバラが本体へと続いているのが奴の弱点だ……イバラを通して奴を直接爆弾に出来る。
他の能力を考える必要は無くなった、奴のスタンドが私に触れることは無い。
一本の蔦が背後から忍び寄り私の足へ絡みつく、様子を見る必要などなかった…これで終わりだ。
『キラー・クイーンッ!』
振り返り『キラー・クイーン』で蔦を爆弾に変えバラバラに吹き飛ばす。
本体のジジイも粉々に吹き飛んだ筈、屋根を見ると老人の姿はなかった。
本体のジジイも粉々に吹き飛んだ筈、屋根を見ると老人の姿はなかった。
「フン! 口だけだったか……所詮は老いぼれ、この私の敵ではない」
爆破を回避されたりしてヒヤヒヤしたがなんてことはなかったな。
折角うまい料理を食べて穏やかな気持ちで明日を迎えられたのに下らないことで時間を潰してしまった。
早人を連れて帰るとし……居ない、早人が何処にも。
折角うまい料理を食べて穏やかな気持ちで明日を迎えられたのに下らないことで時間を潰してしまった。
早人を連れて帰るとし……居ない、早人が何処にも。
爆破した蔦を見る、燃えカスが僅かに残っている……『スタンド』ではない、物質だ。
奴はまだ生きている、早人を連れて消えた……一体、何を考えているのだ?
奴はまだ生きている、早人を連れて消えた……一体、何を考えているのだ?
この人は何者なのだろうか、僕には見えない力の持ち主であることは分かる。
だがこの人の力は奴の話していた『能力』によるものなのか?
奴の言うパワーのない『能力』、本当にこれはこの人自身の力なのか?
僕は今、家屋の上を跳び越しそうな勢いで飛び跳ねていくジョセフ・ジョースターの背中に居る。
だがこの人の力は奴の話していた『能力』によるものなのか?
奴の言うパワーのない『能力』、本当にこれはこの人自身の力なのか?
僕は今、家屋の上を跳び越しそうな勢いで飛び跳ねていくジョセフ・ジョースターの背中に居る。
「あ、あなたは一体?」
「よくぞ聞いてくれました!」
「よくぞ聞いてくれました!」
僕の質問に興奮したような声が上がる、だが目の前の老人が発した声ではなかった。
あ、ありのまま今起こったことを話すと……喋っていたのは彼の『靴』だった。
何を言っているのか分からないと思うが僕も何が起こったのかわからなかった。
頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか腹話術だとかそんな常識の通用するものじゃない。
この飛んだり跳ねたりしている『能力』の片鱗なのだろうか?
あ、ありのまま今起こったことを話すと……喋っていたのは彼の『靴』だった。
何を言っているのか分からないと思うが僕も何が起こったのかわからなかった。
頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか腹話術だとかそんな常識の通用するものじゃない。
この飛んだり跳ねたりしている『能力』の片鱗なのだろうか?
「実は私、宇宙人なんです!」
ジョースターさんの革靴が柔らかいゴムのように独りでに動いていく。
僕の頭の中は真っ白になってそれを見つめるだけだった、靴から浮き上がった青年の顔を。
僕の頭の中は真っ白になってそれを見つめるだけだった、靴から浮き上がった青年の顔を。
「早人君、さっきの飛んでくる爆弾はもう射程外になったかの?」
「あ……はい」
「あ……はい」
呆気にとられて靴から浮かび上がる顔について質問するのも忘れ、取り合えず返事をしてしまった。
ビルの壁を足のみで駆け上がっていき屋上にたどり着くと、僕を背から降ろして座り込んだ。
靴は本格的に人間の形を作り上げていき鼻にピアスをした学生の姿になった。
ビルの壁を足のみで駆け上がっていき屋上にたどり着くと、僕を背から降ろして座り込んだ。
靴は本格的に人間の形を作り上げていき鼻にピアスをした学生の姿になった。
「フゥ……自己紹介が出来るくらいには逃げたかな? ワシはジョセフ・ジョースター、そしてミキタカ君じゃ」
「始めまして早人君、私は宇宙人のヌ・ミキタカゾ・ンシ。地球では支倉未起隆と名乗っています」
「……? …は、始めまして………え? ………???? ……んん??」
「始めまして早人君、私は宇宙人のヌ・ミキタカゾ・ンシ。地球では支倉未起隆と名乗っています」
「……? …は、始めまして………え? ………???? ……んん??」
靴が人になってその人は宇宙人らしい、何を言ってるんだ僕は、いや彼は。
「あ……スマンのミキタカ君、彼と二人で話させてくれ」
アホみたいに口を開けて突っ立っている僕を見かねてか、ジョセフさんが僕の耳に顔を近づけ彼に聞こえないように喋りだした。
「いや、彼の事は気にしないでくれ……判らないんじゃよ、ホントに宇宙人かもしれんって話じゃ」
「……はぁ?」
「多分じゃが『スタンド』……ワシや殺人鬼の持つ『能力』とは違うかもしれないんじゃよ彼のは………。
でも仗助とも友達だったみたいだし味方なのは間違いないから安心しとくれ」
「……はぁ?」
「多分じゃが『スタンド』……ワシや殺人鬼の持つ『能力』とは違うかもしれないんじゃよ彼のは………。
でも仗助とも友達だったみたいだし味方なのは間違いないから安心しとくれ」
殺人鬼の言ってた通り、やっぱりボケてるんだろうか。
一見してそんな風には見えないが……何にしてもミキタカさんのことは今は気にしないことにした。
殺人鬼とはかなりの距離を置けたようだ、名前は知ってるようだし自己紹介は省いてまずはお礼を言わなくては。
一見してそんな風には見えないが……何にしてもミキタカさんのことは今は気にしないことにした。
殺人鬼とはかなりの距離を置けたようだ、名前は知ってるようだし自己紹介は省いてまずはお礼を言わなくては。
「助けてもらってありがとうございます、ジョースターさん」
「いや、いいんじゃ……それよりあの店の店主は?」
「殺人鬼に『能力』、『スタンド』というのが知られて……僕が、奴に知らせてしまったんです………」
「いや、いいんじゃ……それよりあの店の店主は?」
「殺人鬼に『能力』、『スタンド』というのが知られて……僕が、奴に知らせてしまったんです………」
ミキタカさんは一瞬だけ驚いたような顔をすると、悲しみと怒りが混合したように複雑な表情を見せた。
ジョセフさんは帽子を深く被り、僕から視線を逸らした。
少しの間沈黙が続く、トニオさんの死への哀悼か僕への幻滅か……僕が迂闊でなければ彼は死なずにすんだのだから。
後者だとしても僕に言い返す資格は無い、奴を倒せるならどんな罰でも背負う。
ジョセフさんは帽子を深く被り、僕から視線を逸らした。
少しの間沈黙が続く、トニオさんの死への哀悼か僕への幻滅か……僕が迂闊でなければ彼は死なずにすんだのだから。
後者だとしても僕に言い返す資格は無い、奴を倒せるならどんな罰でも背負う。
「そうか……さっきの飛んでくる爆弾、アレの正体は分かるかね?」
「待ってください、『そうか』で済ませるんですか?」
「待ってください、『そうか』で済ませるんですか?」
ミキタカさんが突然、会話に割り込んでジョースターさんに話しかける。
口調からは若干の怒りが、表情からは深い悲しみが見て取れる。
口調からは若干の怒りが、表情からは深い悲しみが見て取れる。
「仗助さんや億泰さんの時みたいに、何にもしてない人が奴に殺されて……アナタはそれを『そうか』で済ませるんですか?」
「……そうじゃ、奴を倒す事が第一なんじゃ。彼等の死が無駄にならないように」
「……そうじゃ、奴を倒す事が第一なんじゃ。彼等の死が無駄にならないように」
そうして彼は一枚の写真を取り出す、トニオさんの帽子を抱えて咽び泣く僕が写っていた。
やはり殺人鬼の言っていた通り彼は『念写』の『スタンド』を持っている。
ミキタカさんが武器ではなく、わざわざ靴になっていたのだからさっきの跳躍力はミキタカさんの『スタンド(?)』だろう
やはり殺人鬼の言っていた通り彼は『念写』の『スタンド』を持っている。
ミキタカさんが武器ではなく、わざわざ靴になっていたのだからさっきの跳躍力はミキタカさんの『スタンド(?)』だろう
「ワシの貧弱な『スタンド』は『知る』ことしか、時としてそれすらもできん……かつての戦いでもそうじゃった。
朽ち行く仲間が教えてくれなければ『知る』ことも出来なかった、そして今も奴の『スタンド』を『知る』ことすら出来ん……。
残されたワシ等に出来ることをする、それが彼等への手向けになるんじゃ」
朽ち行く仲間が教えてくれなければ『知る』ことも出来なかった、そして今も奴の『スタンド』を『知る』ことすら出来ん……。
残されたワシ等に出来ることをする、それが彼等への手向けになるんじゃ」
ジョセフさんが顔をあげると、帽子の下に隠していた瞳が浮かび上がる。
顔には出さないが眼には悲しみと怒りが映っていた……だが、そこにミキタカさんのような戸惑いはない。
復讐の意志、それは確かに存在するだろう。
顔には出さないが眼には悲しみと怒りが映っていた……だが、そこにミキタカさんのような戸惑いはない。
復讐の意志、それは確かに存在するだろう。
だが彼を突き動かしているのが『黄金の精神』なら、彼の行いは『真の行動』として奴を倒してくれる。
あの邪悪を滅ぼしてくれるという希望が、彼の眼を見ていると沸き上がってくるのだ。
ミキタカさんもその眼に何か感じるところがあったのか、それ以上は何も言わなかった。
あの邪悪を滅ぼしてくれるという希望が、彼の眼を見ていると沸き上がってくるのだ。
ミキタカさんもその眼に何か感じるところがあったのか、それ以上は何も言わなかった。
「早人君、しつこいと思うかもしれんがさっきの飛んでくる爆弾の正体や他にも知っている事があれば教えて欲しい」
僕を見る眼には神聖な輝きがあった、それに答えない訳がない。賭けよう……彼から感じる黄金の様な精神に。
周囲への警戒を怠らず、それでいて怪しまれない様にゆっくりと街頭の下を歩く。
どうせ自分の位置は奴の念写で知られている、ならば明かりがあった方が戦いやすい。
『トラサルディー』の近くで戦うのは目立つので、『バイツァ・ダスト』の宿り木に困らない様に住宅地に近く静かな所へ移動していた。
どうせ自分の位置は奴の念写で知られている、ならば明かりがあった方が戦いやすい。
『トラサルディー』の近くで戦うのは目立つので、『バイツァ・ダスト』の宿り木に困らない様に住宅地に近く静かな所へ移動していた。
「クソッ! 早人は何処で何をしている……私の『バイツァ・ダスト』について知らされているのか?」
だが知られたところで問題はない、私を追い込めば『バイツァ・ダスト』は発動する。
何者も私を窮地に追い込むことは出来ない、私の能力は無敵なのだ。
墳上の時みたいに周囲は人気のない高速ではない、いざという時は他人の家に飛び込んで無理矢理にでも発動させる。
何者も私を窮地に追い込むことは出来ない、私の能力は無敵なのだ。
墳上の時みたいに周囲は人気のない高速ではない、いざという時は他人の家に飛び込んで無理矢理にでも発動させる。
問題なのは奴が社会的に私を追い込む事だ……父の調べではスピードワゴン財団とも繋がりがあると聞く。
土地や仕事を追われて『平穏』な暮らしが出来なくなること………今の『家庭』が崩れてしまう。
……『家庭』? そんな物はどうだっていい筈だ、私は何を考えているのだ。
守るのは私の『平穏』であって『家庭』ではない、焦っているのか私は。
土地や仕事を追われて『平穏』な暮らしが出来なくなること………今の『家庭』が崩れてしまう。
……『家庭』? そんな物はどうだっていい筈だ、私は何を考えているのだ。
守るのは私の『平穏』であって『家庭』ではない、焦っているのか私は。
落ち着かなければ……多分だが私を社会的に抹殺した所で奴等の勝利にはならない。
見ず知らずの他人の命が尊いだとか、ネズミのクソにも劣る道徳を押し付けなければ気が済まない奴等。
愚かにもそんな事に命まで賭け、その結果として何の意味もない惨めな死を迎えていくのだ。
見ず知らずの他人の命が尊いだとか、ネズミのクソにも劣る道徳を押し付けなければ気が済まない奴等。
愚かにもそんな事に命まで賭け、その結果として何の意味もない惨めな死を迎えていくのだ。
そんな奴等が金や権力に任せて私を追い出す事はしない筈だし『スタンド』による犯罪の証明は不可能……証拠も残していない。
私を刑務所だとかに閉じ込めることは万が一にもありえない、そして勝負が『スタンド』で決まるなら私は既に勝っている。
私を刑務所だとかに閉じ込めることは万が一にもありえない、そして勝負が『スタンド』で決まるなら私は既に勝っている。
あの謎のスピードの正体、大体の察しはついている。
問題はどうやって攻撃してくるか……猫草の空気弾はこの暗がりでは即死させる威力はない。
そうなると格闘戦しかないのだが、奴の攻撃手段が判らない。
問題はどうやって攻撃してくるか……猫草の空気弾はこの暗がりでは即死させる威力はない。
そうなると格闘戦しかないのだが、奴の攻撃手段が判らない。
私の『第一、第二の爆弾』は由花子の時もそうだったが既に知られている、対策を講じているだろう。
早人が敵の手に渡った今、更に爆弾の能力を詳しく知られてしまったと考える。
それでも尚、あの貧弱なスタンドで私に触れずに戦う手段はあるのか。
姿を現したということはある筈だが皆目、検討もつかない。
早人が敵の手に渡った今、更に爆弾の能力を詳しく知られてしまったと考える。
それでも尚、あの貧弱なスタンドで私に触れずに戦う手段はあるのか。
姿を現したということはある筈だが皆目、検討もつかない。
ザクッ、という草を無遠慮に踏みにじる様な音が背後から響く。
振り向くと、そこには体半分を木の陰に隠しながらこちらを伺うジョセフ・ジョースターの姿があった。
振り向くと、そこには体半分を木の陰に隠しながらこちらを伺うジョセフ・ジョースターの姿があった。
「逃げたかと思ったが、違ったかな……」
「フフフ、このジョセフ・ジョースター。逃げも隠れもするが、未だかつて一度も戦いを途中で放棄したことは……ないッ!」
「フフフ、このジョセフ・ジョースター。逃げも隠れもするが、未だかつて一度も戦いを途中で放棄したことは……ないッ!」
叫ぶと同時に思い切り右腕を振り上げる、まるで腕から伸びている『ハーミット・パープル』を引っ張り上げる様だった。
背後を振り返ると『ハーミット・パープル』によって引っ張られていた木の枝が元に戻ろうとする慣性で私に襲い掛かる。
背後を振り返ると『ハーミット・パープル』によって引っ張られていた木の枝が元に戻ろうとする慣性で私に襲い掛かる。
「不意打ちか! この程度の小細工で私を仕留められると思うなッ!」