~決意~
医務室にて―――
「や…やめろ!俺が…俺が何をしたってんだ!?」
天体戦士サンレッドは四つん這いにさせられ、その態勢のまま四肢を固定されていた。
何故こんな事になってしまったのか、皆目見当もつかない。
「暴れてはダメよ、サンレッド」
海のように深く、静かな知性を感じさせる涼しげな声。
「勝ったとはいえ、貴方も相当なダメージを受けている。早急に治療が必要だわ」
「だから、なんでこんな事をする必要があんだよ!」
「あら、私のする事が信じられないのかしら?」
一本のぶっとい三つ編みにした、長い銀髪。
穢れなど欠片もない白磁の肌。
澱みなき流水を思わせる、清廉な美貌。
彼女こそは蓬莱山輝夜の従者にして幻想郷最高の医者。
今大会において医療部門の全権を任された女性―――
「や…やめろ!俺が…俺が何をしたってんだ!?」
天体戦士サンレッドは四つん這いにさせられ、その態勢のまま四肢を固定されていた。
何故こんな事になってしまったのか、皆目見当もつかない。
「暴れてはダメよ、サンレッド」
海のように深く、静かな知性を感じさせる涼しげな声。
「勝ったとはいえ、貴方も相当なダメージを受けている。早急に治療が必要だわ」
「だから、なんでこんな事をする必要があんだよ!」
「あら、私のする事が信じられないのかしら?」
一本のぶっとい三つ編みにした、長い銀髪。
穢れなど欠片もない白磁の肌。
澱みなき流水を思わせる、清廉な美貌。
彼女こそは蓬莱山輝夜の従者にして幻想郷最高の医者。
今大会において医療部門の全権を任された女性―――
「まあ、任せておきなさい―――人呼んで<超天才激烈美人女医>八意永琳(やごころ・えいりん)にね!」
―――ちょっくら、性格がアレだった。
「任せられねー!信じられねー!」
「ま、落ち着きなよ」
少し離れたベッドの上から、全身に包帯を巻かれた星熊勇儀がレッドを宥める。
「性格は置いといて、腕は本物さ。幻想郷に住む者なら、大概の奴はそいつの世話になってる」
「本当かよ…」
「信じたまえ。鬼は嘘をつかない―――それにあんた、このままじゃ二回戦で負けちまうよ」
そう言われると、レッドとしては黙るしかない。彼とて、自分の身体が万全とは程遠い事は自覚していた。
このまま治療を受けずにいては、二回戦を落としかねない事も。
勇儀との闘いは、それほどの死闘だったのだ。
当の勇儀はというと、医務室のモニターに視線を注いでいる。
「この第二試合の勝者が、あんたの次の対戦相手になる…蓬莱山輝夜か、それとも風見幽香か―――どっちが
勝ち上がって来ても、今のあんたじゃまず負ける。ここは大人しく永琳先生に従うのが最善さ」
「…ちっ」
風見幽香とは、予選終了後に接触している。
それだけで実力をはっきりと計れるわけではないが、確かにただならぬ雰囲気の持ち主だった。
蓬莱山輝夜については、遠目でその姿を見ただけに過ぎないが、トーナメントに出場している以上はそれなりの力
の持ち主である事は想像に難くない。
どちらと闘う事になるにせよ、体力は出来る限り回復しておくべきだろう。
「分かったよ、大人しく診てもらわあ。おい、先生。早いトコ治療を…」
「はいはい、今始めるから…それにしても」
永琳は、モニターに映る彼女の主―――輝夜の姿を見つめる。
「姫様ったら…こんな危険な事に首を突っ込んで…」
そして、モニターの前に立ち。
「本当に…」
右拳を振り上げて、おもっくそブン殴った。
「任せられねー!信じられねー!」
「ま、落ち着きなよ」
少し離れたベッドの上から、全身に包帯を巻かれた星熊勇儀がレッドを宥める。
「性格は置いといて、腕は本物さ。幻想郷に住む者なら、大概の奴はそいつの世話になってる」
「本当かよ…」
「信じたまえ。鬼は嘘をつかない―――それにあんた、このままじゃ二回戦で負けちまうよ」
そう言われると、レッドとしては黙るしかない。彼とて、自分の身体が万全とは程遠い事は自覚していた。
このまま治療を受けずにいては、二回戦を落としかねない事も。
勇儀との闘いは、それほどの死闘だったのだ。
当の勇儀はというと、医務室のモニターに視線を注いでいる。
「この第二試合の勝者が、あんたの次の対戦相手になる…蓬莱山輝夜か、それとも風見幽香か―――どっちが
勝ち上がって来ても、今のあんたじゃまず負ける。ここは大人しく永琳先生に従うのが最善さ」
「…ちっ」
風見幽香とは、予選終了後に接触している。
それだけで実力をはっきりと計れるわけではないが、確かにただならぬ雰囲気の持ち主だった。
蓬莱山輝夜については、遠目でその姿を見ただけに過ぎないが、トーナメントに出場している以上はそれなりの力
の持ち主である事は想像に難くない。
どちらと闘う事になるにせよ、体力は出来る限り回復しておくべきだろう。
「分かったよ、大人しく診てもらわあ。おい、先生。早いトコ治療を…」
「はいはい、今始めるから…それにしても」
永琳は、モニターに映る彼女の主―――輝夜の姿を見つめる。
「姫様ったら…こんな危険な事に首を突っ込んで…」
そして、モニターの前に立ち。
「本当に…」
右拳を振り上げて、おもっくそブン殴った。
「何を考えとるんじゃあんのアホはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ピシっと亀裂の入ったモニターに追い打ちをかけつつ、更に叫ぶ。
「こちとらただでさえテメーの世話でストレスがマッハで限界突破しとんのに余計な心配をかけさせやがってェ!
<アイドルレスラーを目指すためにトーナメントに出るわ!>って、そんなヒマがあったら真面目に就活しとかん
かい!芸能人になって一攫千金とか夢見てんじゃねーぞ、コラ!時代はもう平安じゃねーんだ!テメーに貢いで
くれる貴族はもういねーんだよ!いつまでも姫という名の自宅警備員じゃいられねーんだ!ムカツクぜぇ、クソッ
クソックソッ!」
罵声を浴びせかけつつ、ガンガンとモニターを蹴り上げて―――不意に、瞳から涙が零れた。
「だけど…ああ、姫様。やっぱり私は、貴女を嫌いになれない…だって貴女は、本当はとても頑張り屋さんで健気
で一生懸命なんだもの…」
―――何とも複雑に捩子曲がった愛憎が、彼女の胸中で渦巻いているようだった。
一方、彼女を見守るレッドの顔は、何処までも暗い。
「…俺、こいつに生殺与奪の権を預けて本当に大丈夫かな…」
「大丈夫さ…多分」
勇儀も自信なさげである。そんな二人を意に介さず、永琳は涙を拭ってレッドの背後に立つ。
―――状況をおさらいしておくと、レッドさんは四つん這いのまま、四肢を拘束されています。
「さて、それじゃあ治療を始めましょうか…うどんげ!アレをお願いね」
「はい、師匠!」
元気のいい声と共に奥から顔を出したのは、女子校生風のブレザーに身を包む少女。
頭には、何故かウサ耳である。
その手には、何処となく不吉な形の薬剤が握られている…。
「準備、OKです!」
「じゃあ、早速ヤって頂戴」
「はい!」
「おい…何をヤるってんだよ…」
レッドの全身を雷の如く貫いたのは、恐怖。
そして、堪え切れぬ悪寒。
「何をって…やだなあ、きまってるじゃないですかぁ」
ウサ耳少女は、朗らかに、事もなげに言った。
「こちとらただでさえテメーの世話でストレスがマッハで限界突破しとんのに余計な心配をかけさせやがってェ!
<アイドルレスラーを目指すためにトーナメントに出るわ!>って、そんなヒマがあったら真面目に就活しとかん
かい!芸能人になって一攫千金とか夢見てんじゃねーぞ、コラ!時代はもう平安じゃねーんだ!テメーに貢いで
くれる貴族はもういねーんだよ!いつまでも姫という名の自宅警備員じゃいられねーんだ!ムカツクぜぇ、クソッ
クソックソッ!」
罵声を浴びせかけつつ、ガンガンとモニターを蹴り上げて―――不意に、瞳から涙が零れた。
「だけど…ああ、姫様。やっぱり私は、貴女を嫌いになれない…だって貴女は、本当はとても頑張り屋さんで健気
で一生懸命なんだもの…」
―――何とも複雑に捩子曲がった愛憎が、彼女の胸中で渦巻いているようだった。
一方、彼女を見守るレッドの顔は、何処までも暗い。
「…俺、こいつに生殺与奪の権を預けて本当に大丈夫かな…」
「大丈夫さ…多分」
勇儀も自信なさげである。そんな二人を意に介さず、永琳は涙を拭ってレッドの背後に立つ。
―――状況をおさらいしておくと、レッドさんは四つん這いのまま、四肢を拘束されています。
「さて、それじゃあ治療を始めましょうか…うどんげ!アレをお願いね」
「はい、師匠!」
元気のいい声と共に奥から顔を出したのは、女子校生風のブレザーに身を包む少女。
頭には、何故かウサ耳である。
その手には、何処となく不吉な形の薬剤が握られている…。
「準備、OKです!」
「じゃあ、早速ヤって頂戴」
「はい!」
「おい…何をヤるってんだよ…」
レッドの全身を雷の如く貫いたのは、恐怖。
そして、堪え切れぬ悪寒。
「何をって…やだなあ、きまってるじゃないですかぁ」
ウサ耳少女は、朗らかに、事もなげに言った。
「座薬ですよ、ざ・や・く。これが患部に一番効くんですから」
そして、レッドのズボンを瞬時に脱がす。引き締まったおケツが露わになった。
「…お…おい…よせ!やめろぉっ!何で怪我人に座薬なんだよ!?おかしいだろ、なあ!?」
「いいえ、何もおかしくありません。ギャグパートに私が出てきた時点で、分かる人は<あ、座薬ネタだ>とピンと
来たはずですしね…さあ、一発イっちゃいましょう!」
「大丈夫よ、サンレッド。痛いのは最初だけよ、すぐによくなるわ(患部が)」
もはや、太陽の戦士に逃げ場はない。
せめて、みっともない声だけは出すまいと。
レッドはそう、決意した。
そう―――ヒーローである己が、座薬如きに屈するわけにはいかないのだ!
「…お…おい…よせ!やめろぉっ!何で怪我人に座薬なんだよ!?おかしいだろ、なあ!?」
「いいえ、何もおかしくありません。ギャグパートに私が出てきた時点で、分かる人は<あ、座薬ネタだ>とピンと
来たはずですしね…さあ、一発イっちゃいましょう!」
「大丈夫よ、サンレッド。痛いのは最初だけよ、すぐによくなるわ(患部が)」
もはや、太陽の戦士に逃げ場はない。
せめて、みっともない声だけは出すまいと。
レッドはそう、決意した。
そう―――ヒーローである己が、座薬如きに屈するわけにはいかないのだ!
「えい(はぁと)」
「あ゙」
「あ゙」
―――それからおよそ一分後、医務室のドアが開かれ、伊吹萃香が顔を出した。
入れ替わりに、レッドがふらふらと医務室を出ていく。
やけに憔悴した彼をいぶかしげに見つめつつ、萃香は室内の勇儀に向けてよっ、と手を上げた。
「おう、勇儀。随分ハデにやられちゃったね」
「ま、見ての通りさ…強かったよ、あいつは」
「大した奴だ…」
「あたしは犠牲になったのさ…奴の強さを示す犠牲にね…」
入れ替わりに、レッドがふらふらと医務室を出ていく。
やけに憔悴した彼をいぶかしげに見つめつつ、萃香は室内の勇儀に向けてよっ、と手を上げた。
「おう、勇儀。随分ハデにやられちゃったね」
「ま、見ての通りさ…強かったよ、あいつは」
「大した奴だ…」
「あたしは犠牲になったのさ…奴の強さを示す犠牲にね…」
「<ラーメンに入ってるアレを食べたくなる会話だなあ>ええ、その通りですね」
「うおっ!?」
「ひゃっ!?」
全く予想外の返答に、鬼二人がのけぞる。
すう―――と。
まるで空気のように存在感を覚らせる事なく、気付けば一人の少女がそこにいた。
古明地さとり―――地底妖怪の元締めである。
「あー、ビックリした…さとりちゃんさあ。そうやって相手をビビらせんのはよしてよね」
「これは失礼。誰かに声をかける時は背後からこっそり、と思っていまして」
ジト目で睨む萃香に対しても、さとりは涼しい顔である。
幻想郷最強クラスに対してもこの態度、地底妖怪トップの肩書きは伊達ではない。
「そういえば通路でサンレッドとすれ違いましたが、何かあったのでしょうかね?私の能力でも心が読めない程に
胸中が乱れまくっていたようですが」
「…色々あったのさ、あいつも」
勇儀は多くを語らなかった。
死力を尽くして闘った相手への敬意と友情であった…。
「しかし勇儀さん。随分ハデにやられましたね」
「ま、見ての通りさ…強かったよ、あいつは」
「大した奴ですね…」
「あたしは犠牲に…」
「ひゃっ!?」
全く予想外の返答に、鬼二人がのけぞる。
すう―――と。
まるで空気のように存在感を覚らせる事なく、気付けば一人の少女がそこにいた。
古明地さとり―――地底妖怪の元締めである。
「あー、ビックリした…さとりちゃんさあ。そうやって相手をビビらせんのはよしてよね」
「これは失礼。誰かに声をかける時は背後からこっそり、と思っていまして」
ジト目で睨む萃香に対しても、さとりは涼しい顔である。
幻想郷最強クラスに対してもこの態度、地底妖怪トップの肩書きは伊達ではない。
「そういえば通路でサンレッドとすれ違いましたが、何かあったのでしょうかね?私の能力でも心が読めない程に
胸中が乱れまくっていたようですが」
「…色々あったのさ、あいつも」
勇儀は多くを語らなかった。
死力を尽くして闘った相手への敬意と友情であった…。
「しかし勇儀さん。随分ハデにやられましたね」
「ま、見ての通りさ…強かったよ、あいつは」
「大した奴ですね…」
「あたしは犠牲に…」
※同じネタを繰り返す事を天丼と呼びます。閑話休題(それはともかく)。
「お燐やお空も心配してましたよ?あまり大勢で押しかけると迷惑かと思ったので、私だけで来たのですが…」
さとりはその手に、紙で出来た箱を持っていた。ケーキか何かが入っていそうなアレである。
「二人のおやつにと思って持ってきていたのですが、二人とも、勇儀さんのお見舞いにもっていってあげてほしい
と言ったので…どうぞ」
「お、気が利くねー。ありがたくいただいとくよ」
嬉々として受け取り、箱を開いた勇儀は、その瞬間固まった。
そこにあったのは、この世のモノとも思えぬオゾマシイ色合いを持ち、あの世にすら存在しそうにない異臭を撒き
散らす、謎の物体Xであった。
「…何これ」
「発売されたばかりの地底の最新銘菓<死体と土塊の多層菓子(ミルフィーユ)>です」
きらりん☆と音が鳴りそうな、涼やかで朗らかな笑みを浮かべ、さとりは言い放ったのだった…。
さとりはその手に、紙で出来た箱を持っていた。ケーキか何かが入っていそうなアレである。
「二人のおやつにと思って持ってきていたのですが、二人とも、勇儀さんのお見舞いにもっていってあげてほしい
と言ったので…どうぞ」
「お、気が利くねー。ありがたくいただいとくよ」
嬉々として受け取り、箱を開いた勇儀は、その瞬間固まった。
そこにあったのは、この世のモノとも思えぬオゾマシイ色合いを持ち、あの世にすら存在しそうにない異臭を撒き
散らす、謎の物体Xであった。
「…何これ」
「発売されたばかりの地底の最新銘菓<死体と土塊の多層菓子(ミルフィーユ)>です」
きらりん☆と音が鳴りそうな、涼やかで朗らかな笑みを浮かべ、さとりは言い放ったのだった…。
―――そんなこんなをやってるうちに、闘技場。
そこは既に爆心地を通り越し、終末世界の様相を呈していた。
包み込むのは、割れんばかりの歓声と拍手。
ある者は涙を流し、ある者は喉が裂けんばかりに絶叫し、ある者は何故か素っ裸になった。
それほどに言葉では語り尽くせぬ、壮絶にして崇高な闘いだった。
「しかし、とんでもない闘いでした…」
ジローはただ、そう言った。
「ええ、途方もない闘いでした」
妖夢も頷く。
「本当に、途轍もない闘いでしたよねー」
ヴァンプ様は吹き出してきた汗をふきふきしながら溜息をつく。
「うん、突拍子もない闘いだった」
とは、コタロウの言葉である。
「蓬莱山輝夜…美しさのみならず、強さをも兼ね備えた女傑―――私は彼女の名を永劫忘れる事はないでしょう」
「本当に…彼女の放った数々の妙技には、心の底から驚かされました」
「試合開始と同時に放った<ブリリアントドラゴンバレッタ>だったっけ?あれは本当にすごかったよねー」
「そこから続け様に繰り出した<ブディストダイアモンド>も圧巻でしたね。石焼きビビンバでも作るくらいしか
使い道のなさそうな鉢を、まさかああいった方法で利用するとは、まさに発想の勝利です」
「<サラマンダーシールド>に<ライフスプリングインフィニティ>も大概ですよねー。あんなのされたら、もう
どうやってかわせばいいのか分かりませんよ」
「<蓬莱の玉の枝>に至っては、目の前が埋め尽くされんばかりの光の洪水としか表現できませんね…正しく虹色
の弾幕。正しく夢色の郷―――もしもの話ですが、闘技場に立っていたのが私ならば、一瞬で蒸発させられていた
事でしょう」
「<月のイルメナイト><エイジャの赤石><金閣寺の一枚天井><ミステリウム>に関しては、私も初見です。
恐らくはこのトーナメントのために編み出したのでしょうね…」
「そして何よりの白眉は、かの<永遠と須臾を操る程度の能力>―――」
「あれは反則だよねー、兄者」
「ええ。もうそれ以外に言う事はありませんよ」
「しかし…」
妖夢は、闘技場へと目を向ける。
そこは既に爆心地を通り越し、終末世界の様相を呈していた。
包み込むのは、割れんばかりの歓声と拍手。
ある者は涙を流し、ある者は喉が裂けんばかりに絶叫し、ある者は何故か素っ裸になった。
それほどに言葉では語り尽くせぬ、壮絶にして崇高な闘いだった。
「しかし、とんでもない闘いでした…」
ジローはただ、そう言った。
「ええ、途方もない闘いでした」
妖夢も頷く。
「本当に、途轍もない闘いでしたよねー」
ヴァンプ様は吹き出してきた汗をふきふきしながら溜息をつく。
「うん、突拍子もない闘いだった」
とは、コタロウの言葉である。
「蓬莱山輝夜…美しさのみならず、強さをも兼ね備えた女傑―――私は彼女の名を永劫忘れる事はないでしょう」
「本当に…彼女の放った数々の妙技には、心の底から驚かされました」
「試合開始と同時に放った<ブリリアントドラゴンバレッタ>だったっけ?あれは本当にすごかったよねー」
「そこから続け様に繰り出した<ブディストダイアモンド>も圧巻でしたね。石焼きビビンバでも作るくらいしか
使い道のなさそうな鉢を、まさかああいった方法で利用するとは、まさに発想の勝利です」
「<サラマンダーシールド>に<ライフスプリングインフィニティ>も大概ですよねー。あんなのされたら、もう
どうやってかわせばいいのか分かりませんよ」
「<蓬莱の玉の枝>に至っては、目の前が埋め尽くされんばかりの光の洪水としか表現できませんね…正しく虹色
の弾幕。正しく夢色の郷―――もしもの話ですが、闘技場に立っていたのが私ならば、一瞬で蒸発させられていた
事でしょう」
「<月のイルメナイト><エイジャの赤石><金閣寺の一枚天井><ミステリウム>に関しては、私も初見です。
恐らくはこのトーナメントのために編み出したのでしょうね…」
「そして何よりの白眉は、かの<永遠と須臾を操る程度の能力>―――」
「あれは反則だよねー、兄者」
「ええ。もうそれ以外に言う事はありませんよ」
「しかし…」
妖夢は、闘技場へと目を向ける。
そこにいたのは、一輪の花。
眩い程に美しく、日輪へ向けて咲き誇るかのように凛々しい、大輪の花。
されどそれには、猛毒の茨が仕込まれている―――
眩い程に美しく、日輪へ向けて咲き誇るかのように凛々しい、大輪の花。
されどそれには、猛毒の茨が仕込まれている―――
「しかし、真に恐るべきは―――その全てを打ち破った風見幽香…!」
その名を口にしただけで、妖夢の額から汗が流れ落ちる。
「余りにも暴力的…余りにも威圧的…余りにも…強すぎる…!結局彼女は、あの嵐のような弾幕の中ですら、傷の
一つも負ってはいない…」
「しかも、容赦がなさすぎる…!最後の攻撃は、完全に相手を殺すつもりだった。あの焼き鳥屋店主の少女が乱入
して、その身を挺して庇っていなければ、如何に不死身といえども、蓬莱山輝夜はこの世から完全に消滅していた
かもしれない…」
「レッドさん、次はあの人と闘うんだよね…勝てるよね?ね?」
「うーん…どうかなあ。私、いよいよレッドさんの葬式に参加しなくちゃいけないかな?」
レッドの強さを知るコタロウやヴァンプ様ですら、不安顔だ。
ジローも難しい顔をして、静かに顔を伏せている。
「余りにも暴力的…余りにも威圧的…余りにも…強すぎる…!結局彼女は、あの嵐のような弾幕の中ですら、傷の
一つも負ってはいない…」
「しかも、容赦がなさすぎる…!最後の攻撃は、完全に相手を殺すつもりだった。あの焼き鳥屋店主の少女が乱入
して、その身を挺して庇っていなければ、如何に不死身といえども、蓬莱山輝夜はこの世から完全に消滅していた
かもしれない…」
「レッドさん、次はあの人と闘うんだよね…勝てるよね?ね?」
「うーん…どうかなあ。私、いよいよレッドさんの葬式に参加しなくちゃいけないかな?」
レッドの強さを知るコタロウやヴァンプ様ですら、不安顔だ。
ジローも難しい顔をして、静かに顔を伏せている。
それが幻想郷最強の一角―――風見幽香!
その幽香はといえば闘技場中央で佇み、観客達に手を振ったりしている。
彼女と親交の深いメディスン・メランコリーなどは、試合終了時から未だにスタンディングオベーションを続けて
いる程に感動しているようだった。
「おー…なんか、盛り上がってんじゃねーか…」
「あ…レッドさん、お帰り!」
「よお…」
おざなりに手を上げるレッド。やけにしんどそうである。
「勇儀さんとの闘い、すごかったよー!ぼく、感動しちゃったなあ!」
「ええ、ほんとに!私達との対決も、あんな感じでお願いしますよ!」
「そうか…ありがとよ…まあ、対決はワンパンKOでいくけどな…」
「…あの、レッドさん。もしかして、相当疲れてません?」
「え?ああ…ちょっとな…まあ、心配すんなよ…医務室でちょっくら見てもらったから、身体の方はむしろ調子が
いいくれーだし…はは…」
曖昧な笑顔で(マスクなのに何故か曖昧な笑顔だと分かるほどに曖昧だった)答えるレッドさん。
「大丈夫かなあ、レッドさん…本当は、そうとう辛いんじゃ…」
「無理もありませんよ、コタロウ」
ジローはそういって、弟の頭をポンと叩く。
「レッドが身を置くのは、我々の想像を遥かに超える壮絶な闘いの世界…その重圧たるや、生半可なものではない
のでしょう。我々に出来るのは、今はそっと休ませてあげること…そして、レッドの勝利を信じることです」
「ふっふーん。無理無理」
後ろから、メディスンが口を挟む。
「サンレッドだっけ?あんたも確かに強かったけど、一回戦でへばってるようじゃ幽香には勝てっこないわよ」
「…あん?」
「どうせ負けるんだから、棄権してパチンコにでも行ってきたら?ヒモヒーローにはそれがお似合いよ」
ケラケラ笑うメディスンである。
はっきりいって、非常にウザい。
「つーかあんた、医務室行ってきたって言ってたわね?その時にあの変態医者からアヤシイ治療でもされちゃった
んじゃないの?あはは、そうだったら笑え」
笑えなかった。
レッドさん渾身のゲンコツが、メディスンの脳天を砕いたからである。
彼女と親交の深いメディスン・メランコリーなどは、試合終了時から未だにスタンディングオベーションを続けて
いる程に感動しているようだった。
「おー…なんか、盛り上がってんじゃねーか…」
「あ…レッドさん、お帰り!」
「よお…」
おざなりに手を上げるレッド。やけにしんどそうである。
「勇儀さんとの闘い、すごかったよー!ぼく、感動しちゃったなあ!」
「ええ、ほんとに!私達との対決も、あんな感じでお願いしますよ!」
「そうか…ありがとよ…まあ、対決はワンパンKOでいくけどな…」
「…あの、レッドさん。もしかして、相当疲れてません?」
「え?ああ…ちょっとな…まあ、心配すんなよ…医務室でちょっくら見てもらったから、身体の方はむしろ調子が
いいくれーだし…はは…」
曖昧な笑顔で(マスクなのに何故か曖昧な笑顔だと分かるほどに曖昧だった)答えるレッドさん。
「大丈夫かなあ、レッドさん…本当は、そうとう辛いんじゃ…」
「無理もありませんよ、コタロウ」
ジローはそういって、弟の頭をポンと叩く。
「レッドが身を置くのは、我々の想像を遥かに超える壮絶な闘いの世界…その重圧たるや、生半可なものではない
のでしょう。我々に出来るのは、今はそっと休ませてあげること…そして、レッドの勝利を信じることです」
「ふっふーん。無理無理」
後ろから、メディスンが口を挟む。
「サンレッドだっけ?あんたも確かに強かったけど、一回戦でへばってるようじゃ幽香には勝てっこないわよ」
「…あん?」
「どうせ負けるんだから、棄権してパチンコにでも行ってきたら?ヒモヒーローにはそれがお似合いよ」
ケラケラ笑うメディスンである。
はっきりいって、非常にウザい。
「つーかあんた、医務室行ってきたって言ってたわね?その時にあの変態医者からアヤシイ治療でもされちゃった
んじゃないの?あはは、そうだったら笑え」
笑えなかった。
レッドさん渾身のゲンコツが、メディスンの脳天を砕いたからである。
―――この一撃によってメディスンは医務室に運ばれ、これ以降の全試合を見逃すハメになったという。
合掌。
合掌。
「レッドさん…怒るのも分かるけど、女の子をぶっちゃダメだよ」
「うるせー」
静かだったが、有無を言わせぬ迫力に満ちていた。
「俺の前で医務室の話をすんな。殴る」
「医務室…ああ」
ジローは何かに思い至ったようだった。
「…八意永琳の治療を受けたんですね?分かりますよ、私も予選終了後に、彼女に…」
それ以上は言わなかったが、レッドは察した。
何も語らず、男二人は静かに目線を交し合ったのだった。
「けど…強敵なのは間違いないですよ。どうするんですか、レッドさん。何か対策は?」
「ねーよ、んなもん」
「ねーよって…」
「グダグダ言ってんじゃねーぞ、ヴァンプ―――」
「うるせー」
静かだったが、有無を言わせぬ迫力に満ちていた。
「俺の前で医務室の話をすんな。殴る」
「医務室…ああ」
ジローは何かに思い至ったようだった。
「…八意永琳の治療を受けたんですね?分かりますよ、私も予選終了後に、彼女に…」
それ以上は言わなかったが、レッドは察した。
何も語らず、男二人は静かに目線を交し合ったのだった。
「けど…強敵なのは間違いないですよ。どうするんですか、レッドさん。何か対策は?」
「ねーよ、んなもん」
「ねーよって…」
「グダグダ言ってんじゃねーぞ、ヴァンプ―――」
「勝つよ」
短い、一言。
されどその言葉には、覇気が満ちていた。
「負けちまったら、色々と申し訳がたたねーしな…」
されどその言葉には、覇気が満ちていた。
「負けちまったら、色々と申し訳がたたねーしな…」
『応援しますよ―――どうか、優勝してください』
『次からも頑張れよ、サンレッド』
『次からも頑張れよ、サンレッド』
敗れ去っていった者達の言葉が、彼を突き動かす。
彼を、奮い立たせる。
「俺は勝つ。相手が誰でもな―――」
彼を、奮い立たせる。
「俺は勝つ。相手が誰でもな―――」