SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 ~惑いて来たれ、遊惰の宴~ 賢者の血統


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―――白玉楼の庭園。
既に予選は終了し、闘いを勝ち抜いた32名の精鋭が出揃っていた。
「…………」
サンレッドは無言で、本戦出場者達を眺め眇める。
まず目についたのは、頭から角を生やした長身の美女と小柄な幼女の二人組。
(あいつら、相当やるな…)
今は気配を抑えているようだが、それでも隠しきれない程の力が滲み出している。
「星熊勇儀と伊吹萃香―――強大な種族である鬼の中でも、更に突き抜けた二人よ」
不意にかけられた声に、ぎょっとして振り向く。
「あら、驚かせたかしら?ごめんなさいね」
夜だというのに日傘を差したその少女は、ニコニコ笑っていた。
それだけならどういう事もないが―――その全身は余す所なく血に濡れている。
彼女自身に怪我はないようだから、全て返り血だろう。
「私は風見幽香というの。あなたが外の世界のヒーロー・サンレッドね?噂は聞いてるわよ」
「お、おお。そりゃどーも…つーかお前、どうしたんだよ、その血…」
「これ?大した事じゃないの。ちょっと愉しみすぎちゃってね…うふ」
血で紅く染まった姿のまま、少女―――風見幽香は平然と言った。
(こいつは…関わり合いにならねー方がいいな)
さり気なく距離を取ろうとするが、幽香はレッドの腕に手を回してくる。
「つれないわね?私とお話ししましょうよ。あなたとっても強そうだし、興味があるの」
甘い声でしな垂れかかる美少女。そう言えば聴こえはいいが、レッドには凶暴な野獣に牙を突き立てられたように
しか思えない。
何よりも、自分がこうまで畏(おそ)れを喚起させられているという事実に、レッドは少なからず戦慄していた。
「他に強いのは…あら、霊夢がいるわね。あの紅白の巫女さんよ。人間だけど相当にできるわよ、あいつは―――
あそこには輝夜姫様もいるわね。長く美しく黒い髪、誰もが見惚れた絶世の美女―――けど、実力は本物よ。彼女
の持つ能力は、普通にやってて攻略できるものじゃないわ」
レッドの返事も聞かず、一方的に喋る幽香。
「ふふ、懐かしい顔ぶれも何人かいるわね…魅魔ったら最近全然見ないから、成仏したのかとおもっちゃったわ。
神綺も、魔界神としての仕事はいいのかしら。後は―――レミリア・スカーレットと八雲紫。この二人は、あなたも
知ってるんじゃなくて?」
「ああ。訊いてもねーのにわざわざ解説してくれて、ありがとよ」
「お気になさらず。私、これでもドS(親切)ガールのゆうかりんと言われてるのよ」
皮肉をたっぷり込めた言葉も、幽香は軽く聞き流すばかりだった。
すっと絡めていた腕を解き、蕩ける様な極上の笑顔を見せる。
それはまるで、毒塗れの棘で覆われた美しき花のように。
「それじゃあね、サンレッド。縁があるならトーナメントでまた会いましょう」
幽香はそれだけ言い残し、軽い足取りで離れていった―――

<究極加虐生物>風見幽香。
天体戦士サンレッドは二回戦で彼女と激突し、その加虐的な力を思い知る事となる。

幽香と入れ替わるように、小さな影が近づいてくるのをレッドは感じ取っていた。
既に接触した事のある気配だ。
「どうやら予選敗退なんてブザマは晒さずに済んだようね」
「テメーもな、クソガキ」
レミリア・スカーレット―――運命の吸血姫。
彼女は周囲を見回し、胡乱気に眉根を寄せる。
「望月ジローはどうしたの?古血(オールド・ブラッド)ともあろう者が予選で消えるとは思えないけど」
「…あいつは、俺と当たった」
「ふーん…そしてあなたは彼を、容赦なく討ち取ったというわけね」
「…………」
「怒らないでよ。ケンカを売ってるわけじゃないわ…ただ」
レミリアは、嘲るように口の端を吊り上げた。
「己の<兄>があなたに倒されたなんて知れば、あの方はどう思うかしらね?」
「―――っ!」
思考より速く、身体が動いた。
握り締めた拳をレミリアに向けて振り下ろす。
カウンターを狙い、レミリアも拳を突き出す。

ガシッ―――

「やめときな。祭りがまだ始まってもいない内から大騒ぎなんて、粋じゃないだろ?」

両者の拳は、間に割って入った者の掌で受け止められた。
毒気を抜かれたような顔で、二人は乱入者を見る。
女性としてはかなりの長身だ。サンレッドと視線の高さがほぼ等しい。
長くたなびく金の髪に映える、戦女神の如き凛々しい美貌。
額から長く伸びた、一本の角。
だがレッドが驚いたのはそんな事ではない。
(こいつ…俺とクソガキの拳を、あっさり受け止めやがった…!)
「…星熊勇儀…!」
忌々しげに、レミリアがその名を口にした。
「怖い目で見るなって、お嬢ちゃん。可愛いお顔が台無しだよ?」
対して勇儀は余裕の表情で、からからと笑う。
「サンレッド、だっけ?あんたもよしな。子供の挑発に乗るなんて、みっともないよ」
「…ちっ」
釈然としないながらも、レッドとレミリアは拳を引っ込めた。
「はいはい、そこの三人。その辺にしときなさい」
パンパンと、壇上に登った幽々子が手を叩き、声を張り上げる。
「皆さん、予選お疲れ様!本戦の予定については追って連絡いたします。それでは今日は解散!トーナメントでの
活躍、期待してますからね!」
そこでレッド達に目を向けて、にこやかに笑った。
「特にあなた達。その有り余ってる元気を、トーナメントで存分に発散して大いに盛り上げてね!」
あからさまな皮肉に、レミリアが怒りも露に舌打ちするが、結局は爆発にまで至らず、この場は引き下がった。
「…ふん、まあいい。トーナメントで全員の血を干乾びるまで吸い尽くしてやるわ―――それが嫌ならさっさと逃げる
準備でもしておくのね」
翼を広げ、飛び去っていく吸血姫。それを見上げて、勇儀はやれやれ、と苦笑する。
「あのワガママお嬢め。強いくせにああいう事ばっか言うから、イマイチ小物くさく思われるんだよなぁ」
ま、それはともかく。
そう言って勇儀はレッドに右手を差し出す。
「もしあたしと当たったら、そん時は楽しくやろうじゃないのさ」
反射的にその手を握り返したレッドは、顔をしかめる。
まるで万力の如き圧力だ。
「やるね、あんた。並の奴ならこの時点で砕けてる」
「砕くつもりだったのかよ、メスゴリラが」
「そう言うなって。強そうな奴を見れば力比べしたくなるのが鬼の性(サガ)―――」

「このくらいで砕けちまうようなヤワい拳なら、興味はないね」

勇儀は拳を離し、にぃっと剛毅な笑みを見せる。
「当たるかどうかは組み合わせ次第だけど―――あんたとのケンカ、楽しみにしてるよ」

<語られる怪力乱神>星熊勇儀。
彼女とサンレッドの死闘は幻想郷最大トーナメントの開幕を飾るに相応しき大一番として、後々まで語り継がれる事
となるのだった。


―――白玉楼・邸内。
そこは怪我人で溢れて臨時の病院と化していた。所々から、呻き声が響く。
本戦出場者達が解散した後で、レッドはこの場所を訪れていた。
「予選で怪我を負った者のうち、症状の重い者はここに残って治療を受けています」
と、ここまで案内してくれた妖夢が解説する。
「中でも風見幽香にやられた者達は特に酷い有様です。生きているのが奇跡というか死んでた方が楽だったという
べきなのか」
「風見…あいつか」
血に濡れたあの笑顔を、レッドは思い出していた。
「出会ったのですか?」
「ああ。予選が終わった後、あっちから声をかけてきたんだよ。見るからに危ねー女だった」
「ふーん…あっちから、ねえ…」
妖夢は<それは気の毒に>とでも言いたげな視線を向ける。
「あなた、最悪にも彼女に気に入られたかもしれませんよ。可哀想に」
「最悪ね…面白え」
レッドは空になったタバコの箱を握り潰す。それは音もなく燃え上がり、灰と化した。
「おお。やる気満々ですね、レッドさん」
「ああ。ちーと、どうしても優勝しなきゃならなくなっちまったんでな…」
「それは、ここに重症で運ばれてきたジローさんの事と関係があるんですか?」
「…まあな」
「シリアスっぽい空気なので軽口は控えましょう―――この先です。ヴァンプさんとコタロウくんもいるので、見れば
分かると思います」
「そっか、案内してくれてありがとよ」
「いえいえ、御気になさらず」
妖夢はにっこり微笑んだ。
「所詮あなたは女性に寄生しないと生命の維持もままならないヒモ野郎ですから、どうぞ私に頼って下さい」
―――結局、軽口を控えるつもりなど更々ない妖夢さんだった。


「あ、レッドさん!こっちこっち!」
少し歩いた先。とある部屋の前で、ヴァンプ様が慌てた様子で手招きする。
「デケー声出すんじゃねーよ、テメーはよ」
「そんな事言ってる場合ですか!ジローさんが酷い傷で運ばれてきたんですよ!」
「…………」
「幸い命に別状はありませんでした。今はコタロウくんが付き添ってますが…誰がやったか知りませんけど、何で
あそこまで痛めつける必要があるんですか…!?」
「…あー、その、まあ真剣勝負なわけだし、相手も今頃やりすぎたって反省してっかも…」
「だからってあんな…!やったのはきっとロクデナシでチンピラでヤカラのヒモ野郎ですよ!」
「おい…」
「レッドさん、きっと仇を討ってくださいね!ジローさんの無念を晴らし」
「うるせえ!やったのは俺だよ!」
「え…」
「予選で当たっちまって…まあ、見ての通りだよ」
それを聞き、ヴァンプ様は目をパチクリさせ、次に怒り出した。
「レッドさん、あなたって人は何て事をするんですか!」
「しょーがねーだろ、ジローはお前らみてーに軽くゲンコツ一発でハイお終いってわけにゃいかねーんだよ!」
「だからって、あんな―――」

「…いいんです、ヴァンプ将軍」

その声は、部屋の中からだった。
「ジローさん…」
「レッドは責められるような事などしていない。これはあくまで、正々堂々勝負した結果です」
「はあ…」
そう言われると、ヴァンプ様も黙るしかない。レッドは一つ咳払いして、襖に手をかける。
「ちょっと…入るぞ」
「どうぞ」
「あ、じゃあ私はどうしましょう?ここにいても邪魔なだけかもしれませんし…」
「あの大食い亡霊に夜食でも作ってやれよ…」
「そ、そうですね!幽々子さん、予選の準備やら何やらでお腹も空いてるだろうし!」
そそくさと去っていくヴァンプ様をジト目で見送り、レッドは部屋へと入った。
中央には布団が敷かれ、上半身に包帯を巻かれたジローが寝かされている。
その傍らには、コタロウの姿があった。
いささか後ろめたい気持ちで、襖を閉める。

―――己の<兄>があなたに倒されたなんて知れば、あの方はどう思うかしらね?

「怪我…大丈夫か?」
「何、心配はいりません。優秀で美しい女医が手当てしてくださいましたからね…つっ…!」
流石に痛みが酷いのか、ジローは顔を歪める。
「…悪かったな。やっぱ、ちょっとやりすぎたわ」
「気にしないで下さい。弟も、怒ってなどいませんよ」
ジローは身を起こし、そう言った。コタロウは首を曲げて、レッドを見つめている。
「あのよ、コタロウ…何つーか、なあ…」
口ごもるレッド。だがコタロウは穏やかに笑って。

「分かってる」

コタロウは―――否。
それはコタロウであって、コタロウではなかった。
「レッドさん。あなたはジローと、きっちり正面から向き合ってくれたんだね」
「コタロウ…お前…」
彼は今、ジローを<兄>でなく<ジロー>と呼んだ。
その瞳のどこまでも深い蒼さに、レッドは思わずたじろぐ。
ジローはただ茫然と、弟の姿を見つめていた。
本能的にレッドは理解した。
これは。今、自分の目の前にいるこいつは―――

(これが…賢者イヴだってのか…!?)

レッドは驚いていた。それ以上に―――感動していた。
理屈を越えて湧き上がる<賢者>への畏敬。
神との対話に成功した聖者は、こういう気持ちなのかもしれない。そんな事を思った。
だが。
(違う…)
それでも。
(こんなん、俺の知ってるコタロウじゃねーだろ…!)

「トーナメント、勝ってね。レッドさん」
「…勝つに決まってんだろ。<コタロウ>」
額に、軽くデコピンしてやった。
「レッドさんに任せときな。あっさり優勝してやっからよ」
<賢者>は目をパチクリさせて、屈託なく笑った。
「うん!兄者の分まで頑張ってよ、レッドさん!」
そこにいたのは、いつものコタロウだった。ふわあ、と大きな欠伸を一つ。
「あーあ…何だかぼく、眠くなっちゃった…」
「そ、そうですか…ではもう眠りなさい、コタロウ」
「うん、お休み…」
コタロウは目を擦りながら、部屋を後にする。
「コタロウ」
レッドはその背に、思わず問いかけた。
「お前は…望月コタロウだよな?」
「え?うん、そうだよ…レッドさんも、お休み…ふわ~ぁ…」
早速眠りに落ちかけているのか、ふらふらしながら歩いていき、柱に頭をぶつけた。
タンコブを押さえながら、コタロウは危うい足取りで奥へと消えていく。
その後姿を見送り、レッドはジローに向き直った。
彼は固く唇を引き結び、微動だにしない。
「…なあ、ジロー。今のは」
「灰より転生した<賢者イヴ>は、しばらくの間はただの子供とほとんど変わりありません…普通の人間のように
成長し、育っていきます」
「今は、その途中だって事か?」
「そう。そして十分に成長した時、再び<賢者>として覚醒する日を迎えるのです」
ならば、まさか―――今のが、そうだったのか?
「…もしかして、あのままにしといた方がよかったか?」
「いえ。どっちにしろ、今はまだ<孵化>にまでは至らなかったでしょう」
ジローは残念だ、とでも言いたげに力なく首を振った。
「本当に<賢者>として覚醒の時を迎えていたなら、あの程度で止まりはしないでしょうからね」
「そっか。俺が余計な事しちまったってんじゃねーんだな」
「ただ…ああして賢者としての意識が表に出てきたということは、その時も遠からず訪れるのかもしれません」
吸血鬼はそっと目を閉じる。いずれ来たるべき<その日>に、想いを馳せるかのように。
「お前はどうなるんだよ、ジロー」
「…………」
「その時になったら…お前はどうするんだ?それまでと同じように、あいつの兄貴のままでいられるのか?」
「…………」
「今みてーに、あいつの傍にいてやれるのかよ?」
「…………」
「三点リーダ四回ばっかで返事してんじゃねーぞ、おい!」
「私は、あやつの兄です」
ジローは目を開けて、その瞳をレッドに向けた。
そして、言った。
「あやつがどうなっても―――私はずっと、望月コタロウの兄、望月ジローですよ」
「…信じていいんだろうな?」
「勿論です」
胸を張って、にやりと笑った口元から牙を覗かせ、ジローは堂々と語る。
その表情には、一片の曇りもなかった。

「私、嘘なんてつきませんよ。正直なだけが取り柄ですから」


―――数年後。
訪れた<その日>サンレッドは、望月ジローという男が大嘘つきだという事実を痛感する事になるのだが、
それはまた別の話である。


―――さて。
次に、トーナメント開催に向けて闘う裏方達を紹介しよう。