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天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 ~惑いて来たれ、遊惰の宴~ 天体戦士サンレッドVS望月ジロー
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furari
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幻想郷最大トーナメントに向けて、各自が準備を進めているその頃。
―――神奈川県川崎市。いつもは善と悪の壮絶な闘いが繰り広げられている公園に、数人の人影。
「…どういうことかしら、これ」
「うーん…」
「急に四人もいなくなったと思ったら、ねえ…」
レッドさんの恋人・かよ子さん。
ジローとコタロウの雇い主にして扶養主・ミミコさん。
そしてフロシャイム川崎支部の戦闘員1号・2号。
彼らの手には、一通の手紙。差出人はそれぞれサンレッド・望月兄弟・ヴァンプ様である。
内容はかいつまんで言えば<少し留守にします。必ず戻ってくるので心配しないでください>とのことだ。
「まあ、ウチの人だけじゃ頼りないけど、ヴァンプさんもいるなら安心ね」
「そうですよね。ジローさんやコタロウくんだけじゃともかく、ヴァンプさんがいるんだもの」
「そうっすよねー。ヴァンプ様も一緒なら、滅多な事はないですよ」
「羽根を伸ばして旅行でもしてるんじゃないですかねー、ははは」
ははは、と四人は笑い合った。
こういう時にモノを言うのは、普段の行いと社会的信用である。
悪の将軍ヴァンプ。すっかり保護者扱いされているのであった。
―――神奈川県川崎市。いつもは善と悪の壮絶な闘いが繰り広げられている公園に、数人の人影。
「…どういうことかしら、これ」
「うーん…」
「急に四人もいなくなったと思ったら、ねえ…」
レッドさんの恋人・かよ子さん。
ジローとコタロウの雇い主にして扶養主・ミミコさん。
そしてフロシャイム川崎支部の戦闘員1号・2号。
彼らの手には、一通の手紙。差出人はそれぞれサンレッド・望月兄弟・ヴァンプ様である。
内容はかいつまんで言えば<少し留守にします。必ず戻ってくるので心配しないでください>とのことだ。
「まあ、ウチの人だけじゃ頼りないけど、ヴァンプさんもいるなら安心ね」
「そうですよね。ジローさんやコタロウくんだけじゃともかく、ヴァンプさんがいるんだもの」
「そうっすよねー。ヴァンプ様も一緒なら、滅多な事はないですよ」
「羽根を伸ばして旅行でもしてるんじゃないですかねー、ははは」
ははは、と四人は笑い合った。
こういう時にモノを言うのは、普段の行いと社会的信用である。
悪の将軍ヴァンプ。すっかり保護者扱いされているのであった。
―――そして、幻想郷。
白玉楼に絶賛居候中のレッドさん御一行。
「さあ皆さん。特にレッドさんとジローさんは今日に備えて、たーんと食べて下さい!」
すっかり料理当番となったヴァンプ様が持ってきたのは山盛りのご飯に、特大のステーキとトンカツ。
「テキにカツ、ですよ。ははは」
「わーい、いただきまーす!」
コタロウが元気よく手を合わせて、早速ステーキとトンカツをケチャップ塗れにしていた。
トーナメント本戦まで、あと三日に迫っている。
今日は本戦出場者を決定するための予選会が開かれるのだ。
「何しろ参加者の人数が当初の予定を大幅に超えてるのよ。ちょっと数を絞らないとね」
幽々子はそう言って、肉を口に放り込む。その途端、目を丸くした。
「あら、このお肉ってばすっごく柔らかくて美味しいわ!ヴァンプさん、どんなお肉を使ったの?」
「いえいえ、普通のお肉ですよ。ただ、ステーキは事前にパイナップルの搾り汁に漬け込んでおいたんです。そう
すると酵素の働きで驚くほど肉質が柔らかくなるんですね。トンカツは最初に強火でしっかりと揚げて肉汁を閉じ
込めてから、弱火でじっくりと二度揚げしたんです。これなら分厚くても中までしっかりと火が通りますし、肉汁も
タップリでジューシーな仕上がりになりますよ」
「なるほど、手間をかけたからこその美味さというわけですね。感動で思わず大阪城と合体してしまいそうです」
妖夢がよく分からない褒め方をするが、その顔は素直に<美味過ぎる>と告げていた。
「うふふ。いっその事、ヴァンプさんと結婚しちゃおうかしら。そしたら毎日美味しいご飯が食べ放題ね」
「もう。幽々子さんったら、こんなおじさんをからかっちゃダメですよ~(ポッ)」
そうは言うけど満更でもなさそうな御二人である。
まさかのヴァンプ様×ゆゆ様。
誰が得をするんだろうか、このカップリング。
「くっだらねー…」
そんなやり取りを冷やかに見つめて、メシをかっこむレッドさん。
ふと、先程から一言も発していないジローと目が合った。
「何だよ。いつになく無口じゃねーか、ジロー。メシも進んでねーし」
「これは失礼。少々、考え事をしていたもので」
「トーナメントの事か」
レッドは箸を置いて、顎に手を付く。
「なるようにしかならねーよ。当たって砕けろだ」
「そうだよ、兄者。ほら、ぼくの分もあげるから頑張ろうよ!」
ケチャップで真っ赤になったトンカツを一切れ差し出すコタロウ。そんな弟に苦笑しつつ、その小さな頭にジロー
はそっと手を置く。
「当たって砕ける気はないですよ、コタロウ。やるからには、勝ちにいきますとも」
白玉楼に絶賛居候中のレッドさん御一行。
「さあ皆さん。特にレッドさんとジローさんは今日に備えて、たーんと食べて下さい!」
すっかり料理当番となったヴァンプ様が持ってきたのは山盛りのご飯に、特大のステーキとトンカツ。
「テキにカツ、ですよ。ははは」
「わーい、いただきまーす!」
コタロウが元気よく手を合わせて、早速ステーキとトンカツをケチャップ塗れにしていた。
トーナメント本戦まで、あと三日に迫っている。
今日は本戦出場者を決定するための予選会が開かれるのだ。
「何しろ参加者の人数が当初の予定を大幅に超えてるのよ。ちょっと数を絞らないとね」
幽々子はそう言って、肉を口に放り込む。その途端、目を丸くした。
「あら、このお肉ってばすっごく柔らかくて美味しいわ!ヴァンプさん、どんなお肉を使ったの?」
「いえいえ、普通のお肉ですよ。ただ、ステーキは事前にパイナップルの搾り汁に漬け込んでおいたんです。そう
すると酵素の働きで驚くほど肉質が柔らかくなるんですね。トンカツは最初に強火でしっかりと揚げて肉汁を閉じ
込めてから、弱火でじっくりと二度揚げしたんです。これなら分厚くても中までしっかりと火が通りますし、肉汁も
タップリでジューシーな仕上がりになりますよ」
「なるほど、手間をかけたからこその美味さというわけですね。感動で思わず大阪城と合体してしまいそうです」
妖夢がよく分からない褒め方をするが、その顔は素直に<美味過ぎる>と告げていた。
「うふふ。いっその事、ヴァンプさんと結婚しちゃおうかしら。そしたら毎日美味しいご飯が食べ放題ね」
「もう。幽々子さんったら、こんなおじさんをからかっちゃダメですよ~(ポッ)」
そうは言うけど満更でもなさそうな御二人である。
まさかのヴァンプ様×ゆゆ様。
誰が得をするんだろうか、このカップリング。
「くっだらねー…」
そんなやり取りを冷やかに見つめて、メシをかっこむレッドさん。
ふと、先程から一言も発していないジローと目が合った。
「何だよ。いつになく無口じゃねーか、ジロー。メシも進んでねーし」
「これは失礼。少々、考え事をしていたもので」
「トーナメントの事か」
レッドは箸を置いて、顎に手を付く。
「なるようにしかならねーよ。当たって砕けろだ」
「そうだよ、兄者。ほら、ぼくの分もあげるから頑張ろうよ!」
ケチャップで真っ赤になったトンカツを一切れ差し出すコタロウ。そんな弟に苦笑しつつ、その小さな頭にジロー
はそっと手を置く。
「当たって砕ける気はないですよ、コタロウ。やるからには、勝ちにいきますとも」
―――そして空に月が昇る頃。
白玉楼の大庭園は、その広大な敷地を埋め尽くさんばかりの人妖で溢れ返っていた。
この全員が、トーナメントに参加を表明した者達である。
「えー。こんなにたくさん集まってくださり、まことにありがとうございます」
彼らの眼前では、いつの間にやら用意されたお立ち台に登った幽々子が挨拶を行っていた。
「さて、皆さん!この中で最強は誰なのか知りたいかー!?」
「「「「「おーーーーーーっ!!」」」」」
何百人という参加者から一斉に上がる雄叫び。
「賢者イヴの秘宝が欲しいかーーーっ!?」
「「「「「おーーーーーーっ!!」」」」」
まるで昔懐かしのクイズ番組のノリである。
「ったく、何だよこれ…」
早速イライラしてきたレッドさんであった。
「まるでノーテンキな女子校生の集会じゃねーか、おい」
「しかし…そこかしこから、強大な気配を感じます」
ジローは戦慄を隠しきれず、額に浮き出る汗を拭った。
「あなたもそれは分かっているでしょう、レッド」
「確かにな…」
その辺りは認めざるを得ない。軽く探ってみただけでも、八雲紫やレミリア・スカーレットに匹敵する怪物的な力
をいくつも感じ取れる。
「どっちにしろ優勝するには避けて通れねーよ。当たっちまったら、ブッ倒すだけだ」
「そうですね―――乱暴な言い方だが、間違いではない」
そう。
この場に立ったからには、相手が誰であっても退くわけにはいかないのだ。
「さて、それでは幻想郷最大トーナメント予選を開始します!ルールは簡単、相手を殺しちゃわない限りは何でも
ありのバーリ・トゥード!武器の使用も一切禁じません!医療班として優秀なスタッフも待機しておりますので、
ガンガンやっちゃいましょう!さあ、質問があるなら今のうちにどうぞ!」
白玉楼の大庭園は、その広大な敷地を埋め尽くさんばかりの人妖で溢れ返っていた。
この全員が、トーナメントに参加を表明した者達である。
「えー。こんなにたくさん集まってくださり、まことにありがとうございます」
彼らの眼前では、いつの間にやら用意されたお立ち台に登った幽々子が挨拶を行っていた。
「さて、皆さん!この中で最強は誰なのか知りたいかー!?」
「「「「「おーーーーーーっ!!」」」」」
何百人という参加者から一斉に上がる雄叫び。
「賢者イヴの秘宝が欲しいかーーーっ!?」
「「「「「おーーーーーーっ!!」」」」」
まるで昔懐かしのクイズ番組のノリである。
「ったく、何だよこれ…」
早速イライラしてきたレッドさんであった。
「まるでノーテンキな女子校生の集会じゃねーか、おい」
「しかし…そこかしこから、強大な気配を感じます」
ジローは戦慄を隠しきれず、額に浮き出る汗を拭った。
「あなたもそれは分かっているでしょう、レッド」
「確かにな…」
その辺りは認めざるを得ない。軽く探ってみただけでも、八雲紫やレミリア・スカーレットに匹敵する怪物的な力
をいくつも感じ取れる。
「どっちにしろ優勝するには避けて通れねーよ。当たっちまったら、ブッ倒すだけだ」
「そうですね―――乱暴な言い方だが、間違いではない」
そう。
この場に立ったからには、相手が誰であっても退くわけにはいかないのだ。
「さて、それでは幻想郷最大トーナメント予選を開始します!ルールは簡単、相手を殺しちゃわない限りは何でも
ありのバーリ・トゥード!武器の使用も一切禁じません!医療班として優秀なスタッフも待機しておりますので、
ガンガンやっちゃいましょう!さあ、質問があるなら今のうちにどうぞ!」
「―――予選の方式は?」
その声はざわめきの中でもはっきりと響き渡った。
すうっと、小さな影が上空へと舞い上がる。
「どうやって、本戦出場者を決めるのかしら?」
レッドとジローは、顔を見合わせる。
「あいつ…やっぱり、来てやがったか」
「そのようですね」
妖しく輝く月をバックに、彼女は悠然と大地を見下ろしていた。
レミリア・スカーレット―――紅き吸血姫。
「それは、私から説明しましょう」
彼女の問いに答えたのは、幽々子ではなかった。幽々子の背後、何もないはずの空間がぱっくりと裂ける。
そこからひょいっと、何気なしに一人の女が現れた。
八雲紫―――境界の妖怪。
その何気なさこそが、何よりも不気味だ。
「こんばんは、皆さん。今大会の主催者の一人にして参加者の一人、八雲紫です―――レミリア・スカーレット。
本戦出場者の決定方法について、だったわね」
「そうよ。勿体ぶってないでさっさと教えなさい、この若造りババアが」
レミリアからの悪態に特に気を悪くした様子もなく、紫はくすりと笑う。
「口で説明するより、やった方が早いわ―――こうするのよ」
瞬時―――全てが、巨大なスキマに呑み込まれた。
何もかもが暗く冷たいスキマに喰われていく中、妖怪の賢者の声だけが耳に届く。
「私も含めて、参加者は全32のブロックにそれぞれ無作為に振り分けられるわ―――そして、トーナメントは総勢
32名で行われる。ここまで言えば、分かるでしょう」
「バトルロイヤルって事だね」
そう言い放ったのは、額から長い角を突き出させた長身の鬼―――星熊勇儀だ。
「要はそのブロックで、最後まで立っていた一人だけが本戦に出場できる。そういう話だろう?」
「は。分かりやすくていいじゃないか」
彼女の傍にいた、小さな鬼―――伊吹萃香も余裕の笑みを浮かべる。
「文句はないみたいね?なら、始めましょうか…予選、開始よ」
声が遠ざかり、暗闇の先に光が射す。
そして―――
すうっと、小さな影が上空へと舞い上がる。
「どうやって、本戦出場者を決めるのかしら?」
レッドとジローは、顔を見合わせる。
「あいつ…やっぱり、来てやがったか」
「そのようですね」
妖しく輝く月をバックに、彼女は悠然と大地を見下ろしていた。
レミリア・スカーレット―――紅き吸血姫。
「それは、私から説明しましょう」
彼女の問いに答えたのは、幽々子ではなかった。幽々子の背後、何もないはずの空間がぱっくりと裂ける。
そこからひょいっと、何気なしに一人の女が現れた。
八雲紫―――境界の妖怪。
その何気なさこそが、何よりも不気味だ。
「こんばんは、皆さん。今大会の主催者の一人にして参加者の一人、八雲紫です―――レミリア・スカーレット。
本戦出場者の決定方法について、だったわね」
「そうよ。勿体ぶってないでさっさと教えなさい、この若造りババアが」
レミリアからの悪態に特に気を悪くした様子もなく、紫はくすりと笑う。
「口で説明するより、やった方が早いわ―――こうするのよ」
瞬時―――全てが、巨大なスキマに呑み込まれた。
何もかもが暗く冷たいスキマに喰われていく中、妖怪の賢者の声だけが耳に届く。
「私も含めて、参加者は全32のブロックにそれぞれ無作為に振り分けられるわ―――そして、トーナメントは総勢
32名で行われる。ここまで言えば、分かるでしょう」
「バトルロイヤルって事だね」
そう言い放ったのは、額から長い角を突き出させた長身の鬼―――星熊勇儀だ。
「要はそのブロックで、最後まで立っていた一人だけが本戦に出場できる。そういう話だろう?」
「は。分かりやすくていいじゃないか」
彼女の傍にいた、小さな鬼―――伊吹萃香も余裕の笑みを浮かべる。
「文句はないみたいね?なら、始めましょうか…予選、開始よ」
声が遠ざかり、暗闇の先に光が射す。
そして―――
気付けばレッドは、石畳の上にいた。
「ここは…神社か?つっても、ボロボロだな」
目の前には朽ち果てた社。足元の石畳も、所々が剥がれ落ちていた。
茫々に生い茂った雑草が、風に吹かれて寂しく揺れている。
「ここが、俺の割り振られたブロックってわけか…」
目を凝らすと、神社を中心として半透明の球形結界が張られている事に気付いた。
半径およそ100m程だろうか?どうやら、この中で闘えという事らしい。
結界に近づき、試しにコツコツと叩いてみるがビクともしない。本気を出せば壊せないこともないだろうが、さて
どうするか?
<一応言っておくけど、そんな事をしたら失格よ?>
「…どっから見てんだよ、スキマババア」
<どこからでもよ。この幻想郷で、私に見えない場所はない>
妖怪の賢者は、平然と言い放つ。
<さて、ではいきましょうか―――予選、開始よ>
宣言と同時に、レッドの眼前に異形の影が徒党を組んで現れる。
明らかに人間以外の姿をした者。特に人間と変わりなく見える者。
人間の姿を基本としつつ、人間ではありえない部分を持つ者。
ひゅう、とレッドは緊張した様子もなく、だらけきった態度で軽く口笛を吹く。
「早速お出ましか。群れてる所を見ると、大した連中でもねーな」
「作戦といってもらいたいね」
妖怪達の中の一匹が、そう言った。
「最初は手を組んで、邪魔な奴から倒す…バトルロイヤルの定石だろう?」
「ほー。まずは力を合わせてヨソ者の俺をやっちまおうってわけか?」
「そういう事さ。悪く思うなよ」
「いやいや、お構いなく―――」
バキバキと、レッドは拳を鳴らした。
「そういう事なら俺も、遠慮なくブッ飛ばしてやるからよ」
烈火の闘気が迸り、レッドを取り囲んでいた妖怪達が一斉に顔を引き攣らせる。そして、悟った。
例えば鬼の双璧。
例えば境界の妖怪。
例えば究極加虐生物。
眼前にいるのはそんな上級妖怪と比しても決して劣らぬ、真の怪物だという事実に。
覆しようのない階級制度(ヒエラルキー)。
それを一瞬で、拳を交わすまでもなく骨の髄まで、本能で理解させられた。
「さあ、来いよ。雑魚妖怪AからG」
くいくいと手招きしながら、レッドは壮絶な笑みを浮かべた。
恐怖と焦燥に耐え切れず、一団の中でも一際巨大な体躯を持つ妖怪が丸太のような腕を振り翳しながら突進する。
それに引きずられるようにして、各々が叫び声を上げながらレッドに飛びかかった。
対してレッドは拳をグッと握り締めて、大きく振りかぶり、前に突き出す。
発生した衝撃波は大地を割り、群れをなした妖怪達を一瞬で弾き飛ばした。
まさに圧倒―――正しく巨象と蟻の闘いだった。
倒れた妖怪達は、突如出現した黒いスキマに呑み込まれて消えていく。
「おいおい、どうなったんだよ。まさか、負けたら死ぬとか問答無用のルールじゃねーだろな?」
<そんな事はしないわよ。倒れた者は白玉楼に戻して、手厚く治療してあげるわ>
「そりゃ安心だ…つーか、あんたも闘いの真っ最中なんじゃねーのか?呑気に解説してていーのかよ」
<いいのよ。もう全員ブチのめしてあげたから>
「おい…まさか主催者権限で、自分のブロックに楽な相手ばっか割り振ったんじゃねーだろな」
<心外ね。ゲームは正々堂々やるから楽しいのよ。ズルして勝っても面白くもなんともないわ>
多分本心だとは思うが、今一つ信用できない。何しろ八雲紫は、胡散臭さの塊のような女なのだ。
その気になればどんなイカサマも思いのままの<境界を操る程度の能力>。
言った端から平然とインチキをしそうな気もするのだ。
<さて、あんまりあなたにばっかり構ってても贔屓になるからこの辺で失礼するわ。健闘を祈ってるわよ>
言いたい事だけ言って紫の声は消えた。
「…やっぱ、ヤな女」
レッドは舌打ちして、足元の小石を蹴り飛ばす。
その時。
「ここは…神社か?つっても、ボロボロだな」
目の前には朽ち果てた社。足元の石畳も、所々が剥がれ落ちていた。
茫々に生い茂った雑草が、風に吹かれて寂しく揺れている。
「ここが、俺の割り振られたブロックってわけか…」
目を凝らすと、神社を中心として半透明の球形結界が張られている事に気付いた。
半径およそ100m程だろうか?どうやら、この中で闘えという事らしい。
結界に近づき、試しにコツコツと叩いてみるがビクともしない。本気を出せば壊せないこともないだろうが、さて
どうするか?
<一応言っておくけど、そんな事をしたら失格よ?>
「…どっから見てんだよ、スキマババア」
<どこからでもよ。この幻想郷で、私に見えない場所はない>
妖怪の賢者は、平然と言い放つ。
<さて、ではいきましょうか―――予選、開始よ>
宣言と同時に、レッドの眼前に異形の影が徒党を組んで現れる。
明らかに人間以外の姿をした者。特に人間と変わりなく見える者。
人間の姿を基本としつつ、人間ではありえない部分を持つ者。
ひゅう、とレッドは緊張した様子もなく、だらけきった態度で軽く口笛を吹く。
「早速お出ましか。群れてる所を見ると、大した連中でもねーな」
「作戦といってもらいたいね」
妖怪達の中の一匹が、そう言った。
「最初は手を組んで、邪魔な奴から倒す…バトルロイヤルの定石だろう?」
「ほー。まずは力を合わせてヨソ者の俺をやっちまおうってわけか?」
「そういう事さ。悪く思うなよ」
「いやいや、お構いなく―――」
バキバキと、レッドは拳を鳴らした。
「そういう事なら俺も、遠慮なくブッ飛ばしてやるからよ」
烈火の闘気が迸り、レッドを取り囲んでいた妖怪達が一斉に顔を引き攣らせる。そして、悟った。
例えば鬼の双璧。
例えば境界の妖怪。
例えば究極加虐生物。
眼前にいるのはそんな上級妖怪と比しても決して劣らぬ、真の怪物だという事実に。
覆しようのない階級制度(ヒエラルキー)。
それを一瞬で、拳を交わすまでもなく骨の髄まで、本能で理解させられた。
「さあ、来いよ。雑魚妖怪AからG」
くいくいと手招きしながら、レッドは壮絶な笑みを浮かべた。
恐怖と焦燥に耐え切れず、一団の中でも一際巨大な体躯を持つ妖怪が丸太のような腕を振り翳しながら突進する。
それに引きずられるようにして、各々が叫び声を上げながらレッドに飛びかかった。
対してレッドは拳をグッと握り締めて、大きく振りかぶり、前に突き出す。
発生した衝撃波は大地を割り、群れをなした妖怪達を一瞬で弾き飛ばした。
まさに圧倒―――正しく巨象と蟻の闘いだった。
倒れた妖怪達は、突如出現した黒いスキマに呑み込まれて消えていく。
「おいおい、どうなったんだよ。まさか、負けたら死ぬとか問答無用のルールじゃねーだろな?」
<そんな事はしないわよ。倒れた者は白玉楼に戻して、手厚く治療してあげるわ>
「そりゃ安心だ…つーか、あんたも闘いの真っ最中なんじゃねーのか?呑気に解説してていーのかよ」
<いいのよ。もう全員ブチのめしてあげたから>
「おい…まさか主催者権限で、自分のブロックに楽な相手ばっか割り振ったんじゃねーだろな」
<心外ね。ゲームは正々堂々やるから楽しいのよ。ズルして勝っても面白くもなんともないわ>
多分本心だとは思うが、今一つ信用できない。何しろ八雲紫は、胡散臭さの塊のような女なのだ。
その気になればどんなイカサマも思いのままの<境界を操る程度の能力>。
言った端から平然とインチキをしそうな気もするのだ。
<さて、あんまりあなたにばっかり構ってても贔屓になるからこの辺で失礼するわ。健闘を祈ってるわよ>
言いたい事だけ言って紫の声は消えた。
「…やっぱ、ヤな女」
レッドは舌打ちして、足元の小石を蹴り飛ばす。
その時。
「ふふん。ヒーローだけあって、思ったよりやるわね」
背後から響く声。振り向けば、そこには四人の少女がいた。
一人目は青い服に青い髪、青い瞳と青ずくめのヒンヤリしてそうな幼子。
「あたいは氷の妖精チルノ!」
その隣には、昆虫のような羽根と触覚を生やした少女。
「ボクは蛍の妖怪リグル・ナイトバグ!」
彼女らの頭上には、羽根帽子を被った赤髪の少女が悠然と佇む。
「私は夜雀の妖怪ミスティア・ローレライ!」
そして一切の光を拒絶する闇を纏い、呆けたように笑う幼き妖怪。
「最後に宵闇の妖怪ルーミアなのかー!」
ビシィッ!と謎の四人組はポーズを決めた。
一人目は青い服に青い髪、青い瞳と青ずくめのヒンヤリしてそうな幼子。
「あたいは氷の妖精チルノ!」
その隣には、昆虫のような羽根と触覚を生やした少女。
「ボクは蛍の妖怪リグル・ナイトバグ!」
彼女らの頭上には、羽根帽子を被った赤髪の少女が悠然と佇む。
「私は夜雀の妖怪ミスティア・ローレライ!」
そして一切の光を拒絶する闇を纏い、呆けたように笑う幼き妖怪。
「最後に宵闇の妖怪ルーミアなのかー!」
ビシィッ!と謎の四人組はポーズを決めた。
「「「「我ら<頭脳派四天王>!」」」」
そう―――人は彼女らを<バカルテット>と呼ぶ!
言うまでもないが<バカのカルテット>の意である。
言うまでもないが<バカのカルテット>の意である。
レッドは四人にスタスタと近づき、脳天に一発ずつチョップをかました。
「ぎゃふん」
「扱い酷っ」
「ITEッ」
「救命阿なのかー」
「はい、終了」
ピクピク痙攣しているバカルテットを放置して踵を返し、社の前に立つ。中に向けて声を張り上げた。
「いるんだろ?そこに。レッドイヤーは高性能だからな。その中で小競り合いやってたことくれー分かってるよ。
隠れてねーで、出てきな」
「隠れていたつもりはありませんよ」
朽ちた社から現れたのは、赤いスーツを纏った長身の青年。その手には、銀でコーティングされた日本刀。
「精神統一していたんです。乱れた心であなたに勝てるわけがありませんからね」
「そうか―――やる気十分ってわけだな」
<銀刀>望月ジローは、天体戦士サンレッドを真っすぐに見据える。
レッドはその鋭い眼光を、真っ向から受け止めた。
此処で出会った運命の皮肉を嘆くつもりも、呪うつもりも二人にはない。
「ま、こうなっちまったもんはしょーがねーな…一応言っとくが、わざと負けてやる気はねーぞ」
「結構。道はこの剣にて、自ら斬り開こう」
ジローの身体から、濃密な霧が立ち昇った。それは唸りをあげて渦巻き、大地を抉り空を斬り裂く。
眩霧(リーク・ブラッド)―――強力な吸血鬼がその力を振るう際に見られる現象だ。
幻の霧を纏い、ジローは柄を握る手を顔の高さにまで上げて、自然体で銀刀を振り上げた。
古くより現代に伝わる一撃必殺の剣―――示現流・蜻蛉(トンボ)の型である。
対して、レッドは。
「―――変身」
短く呟くと、その全身が光に包まれた。太陽の如く光の中で、その姿が変化する。
だらしないTシャツ短パンから、ヒーローとしての真っ赤な戦闘服に0.001秒で蒸着。
「本気でいくぞ、ジロー」
「来なさい、サンレッド」
レッドは悠然と、ジローに向けて歩み出した―――
「ぎゃふん」
「扱い酷っ」
「ITEッ」
「救命阿なのかー」
「はい、終了」
ピクピク痙攣しているバカルテットを放置して踵を返し、社の前に立つ。中に向けて声を張り上げた。
「いるんだろ?そこに。レッドイヤーは高性能だからな。その中で小競り合いやってたことくれー分かってるよ。
隠れてねーで、出てきな」
「隠れていたつもりはありませんよ」
朽ちた社から現れたのは、赤いスーツを纏った長身の青年。その手には、銀でコーティングされた日本刀。
「精神統一していたんです。乱れた心であなたに勝てるわけがありませんからね」
「そうか―――やる気十分ってわけだな」
<銀刀>望月ジローは、天体戦士サンレッドを真っすぐに見据える。
レッドはその鋭い眼光を、真っ向から受け止めた。
此処で出会った運命の皮肉を嘆くつもりも、呪うつもりも二人にはない。
「ま、こうなっちまったもんはしょーがねーな…一応言っとくが、わざと負けてやる気はねーぞ」
「結構。道はこの剣にて、自ら斬り開こう」
ジローの身体から、濃密な霧が立ち昇った。それは唸りをあげて渦巻き、大地を抉り空を斬り裂く。
眩霧(リーク・ブラッド)―――強力な吸血鬼がその力を振るう際に見られる現象だ。
幻の霧を纏い、ジローは柄を握る手を顔の高さにまで上げて、自然体で銀刀を振り上げた。
古くより現代に伝わる一撃必殺の剣―――示現流・蜻蛉(トンボ)の型である。
対して、レッドは。
「―――変身」
短く呟くと、その全身が光に包まれた。太陽の如く光の中で、その姿が変化する。
だらしないTシャツ短パンから、ヒーローとしての真っ赤な戦闘服に0.001秒で蒸着。
「本気でいくぞ、ジロー」
「来なさい、サンレッド」
レッドは悠然と、ジローに向けて歩み出した―――
吸血鬼の剣士は迫り来るヒーローを見据えたまま、微動だにしない。
一歩。
また、一歩。
距離が縮まるたびに、身体がひりひりと焦げていくようだった。
サンレッドが放つ闘気は、日光に弱い吸血鬼にとっては猛毒も同然だ。
吸血鬼の源泉である黒き血の魔力を阻害し、焼き尽くす太陽。それが天体戦士サンレッド。
それでも、退く気は全くない。
(―――次か)
ジローは呼吸を整え、その瞬間を待ち受ける。
サンレッドを相手に最初の一太刀を外せば、もはや勝機はあるまい。
望む所だ。ジローはそう思った。
元より示現流は、二の太刀を持たぬ一撃必殺の剣―――全てを焼く烈火の剣だ。
―――太陽すらも、斬ってみせよう―――
不退転の決意と覚悟を以て、吸血鬼の剣士は太陽の戦士へ向け、渾身の一撃を振り下ろした。
一歩。
また、一歩。
距離が縮まるたびに、身体がひりひりと焦げていくようだった。
サンレッドが放つ闘気は、日光に弱い吸血鬼にとっては猛毒も同然だ。
吸血鬼の源泉である黒き血の魔力を阻害し、焼き尽くす太陽。それが天体戦士サンレッド。
それでも、退く気は全くない。
(―――次か)
ジローは呼吸を整え、その瞬間を待ち受ける。
サンレッドを相手に最初の一太刀を外せば、もはや勝機はあるまい。
望む所だ。ジローはそう思った。
元より示現流は、二の太刀を持たぬ一撃必殺の剣―――全てを焼く烈火の剣だ。
―――太陽すらも、斬ってみせよう―――
不退転の決意と覚悟を以て、吸血鬼の剣士は太陽の戦士へ向け、渾身の一撃を振り下ろした。
「―――チェストォォォォォォッ!」
髪の毛一本ほどの狂いもなく、真っすぐに突き進む刃。
その太刀筋はまさしく示現流の真髄―――<真・雲耀(うんよう)>に達していたといっていい。
彼の長い吸血鬼としての生においても、最高にして至高の一閃。
だがその時、もう一つの閃光が銀刀と交錯する。
キィン―――と。
甲高い音色と共に、銀刀の刀身が半ばからへし折れた。
ジローは剣を振り抜いた姿勢のまま、茫然と立ち尽くす。
視界には折れて宙を舞う刀身。そして、左手を振り上げた姿勢のままのサンレッド。
音すら遥か置き去りにした斬撃を見切り、手刀で叩き折った―――
言葉にすればそれだけだが、神業というより他にない。
レッドは更にもう一歩踏み込み、固く、硬く、堅く握りしめた右拳を真っすぐに撃ち抜く。
咄嗟に力場思念(ハイド・ハンド)により、ジローは前方に不可視の防壁を展開する。
その強度は、銃弾はおろか大砲すら無効化する―――だが。
太陽の戦士の鉄拳はそれを軽々と突破し、吸血鬼の心臓を真上から打ち据えた。
カタパルトから撃ち出されたような速度でジローの身体が吹き飛ばされ、社へ叩き付けられる。
その破壊力を示すかのように、社は跡形もなく倒壊した。
(…勝てないな、これは)
社の残骸と砂埃、そして己の血反吐に沈み、ジローは痛感した。
積み重ねてきた百年の歳月も修行も、何もかも無にする理不尽なまでの暴力。
生まれてくる世界を間違ったとしか思えない、常識も理屈も足蹴にする怪物。
それが、天体戦士サンレッド―――
だが。
「グッ…」
焼けるような痛みを訴える心臓を無視して。
もはや限界だと主張する全身を意志力で捻じ伏せて。
折れた銀刀を握り直して。
ジローは立ち上がり、再びサンレッドに向けて切っ先を向ける。霞む視界。歪む世界。
それでも、彼の瞳は太陽の戦士を確かに捉えていた。
「よせよ、ジロー。それ以上やったら、いくら吸血鬼でも死んじまうぞ」
「…バカな男…なんですよ…私は」
一言ごとに血を吐きながら、そう答えた。
言葉とは裏腹に、自嘲の響きは一切ない。
「人間だった頃から頑固で…融通が利かない…吸血鬼になって百年を越えても全く変わらない…三つ子の魂百
までとは、よく言ったものです…能があるとすれば、少しばかり剣を嗜んだくらいです」
その剣も、通じなかった。
「けれどね…本当に私は諦めの悪い男でして…勝てないと分かっていても、退きたくないんですよ」
「賢者の秘宝…か?」
「それもありますし…単純に、負けず嫌いだというのもあります…」
すうっと、大きく息を吸い込んだ。
「無理をしてでも立ち上がれる内は、倒れたくない―――それだけです」
「秘宝なんざ、俺には興味ねー」
レッドはそう吐き捨てた。
「欲しいってんなら、俺が優勝してお前に渡してやるよ。だから、もう倒れとけ」
乱暴な言い草だが、彼なりにジローを慮っているのだろう。それくらいは分かる。
だからといって、それで考えを改められるようなら苦労はない。
「…さあ、もう一勝負といきましょう」
返事はない。レッドは何を思うのか、マスクの上からでは計り知れない。
(こんな所で意地を張ったまま死んだら…本当に大バカ者だな…)
靄がかかったような意識の中で、何故か多くの思い出が次々に蘇った。
祖父の事。
軍人時代の上官の事。
人間・望月次郎の死。
吸血鬼・望月ジローの誕生。
それからの百年。
最愛の母との離別。
最愛の弟の誕生。
成長した弟と共に神奈川県川崎市にやってきて、アヒル口の少女の世話になった。
そして、今は―――幻想郷にいる。
(走馬灯か?)
これはいよいよまずいかもしれない。そう思った時、先日の妖夢とのやり取りが想起された。
その太刀筋はまさしく示現流の真髄―――<真・雲耀(うんよう)>に達していたといっていい。
彼の長い吸血鬼としての生においても、最高にして至高の一閃。
だがその時、もう一つの閃光が銀刀と交錯する。
キィン―――と。
甲高い音色と共に、銀刀の刀身が半ばからへし折れた。
ジローは剣を振り抜いた姿勢のまま、茫然と立ち尽くす。
視界には折れて宙を舞う刀身。そして、左手を振り上げた姿勢のままのサンレッド。
音すら遥か置き去りにした斬撃を見切り、手刀で叩き折った―――
言葉にすればそれだけだが、神業というより他にない。
レッドは更にもう一歩踏み込み、固く、硬く、堅く握りしめた右拳を真っすぐに撃ち抜く。
咄嗟に力場思念(ハイド・ハンド)により、ジローは前方に不可視の防壁を展開する。
その強度は、銃弾はおろか大砲すら無効化する―――だが。
太陽の戦士の鉄拳はそれを軽々と突破し、吸血鬼の心臓を真上から打ち据えた。
カタパルトから撃ち出されたような速度でジローの身体が吹き飛ばされ、社へ叩き付けられる。
その破壊力を示すかのように、社は跡形もなく倒壊した。
(…勝てないな、これは)
社の残骸と砂埃、そして己の血反吐に沈み、ジローは痛感した。
積み重ねてきた百年の歳月も修行も、何もかも無にする理不尽なまでの暴力。
生まれてくる世界を間違ったとしか思えない、常識も理屈も足蹴にする怪物。
それが、天体戦士サンレッド―――
だが。
「グッ…」
焼けるような痛みを訴える心臓を無視して。
もはや限界だと主張する全身を意志力で捻じ伏せて。
折れた銀刀を握り直して。
ジローは立ち上がり、再びサンレッドに向けて切っ先を向ける。霞む視界。歪む世界。
それでも、彼の瞳は太陽の戦士を確かに捉えていた。
「よせよ、ジロー。それ以上やったら、いくら吸血鬼でも死んじまうぞ」
「…バカな男…なんですよ…私は」
一言ごとに血を吐きながら、そう答えた。
言葉とは裏腹に、自嘲の響きは一切ない。
「人間だった頃から頑固で…融通が利かない…吸血鬼になって百年を越えても全く変わらない…三つ子の魂百
までとは、よく言ったものです…能があるとすれば、少しばかり剣を嗜んだくらいです」
その剣も、通じなかった。
「けれどね…本当に私は諦めの悪い男でして…勝てないと分かっていても、退きたくないんですよ」
「賢者の秘宝…か?」
「それもありますし…単純に、負けず嫌いだというのもあります…」
すうっと、大きく息を吸い込んだ。
「無理をしてでも立ち上がれる内は、倒れたくない―――それだけです」
「秘宝なんざ、俺には興味ねー」
レッドはそう吐き捨てた。
「欲しいってんなら、俺が優勝してお前に渡してやるよ。だから、もう倒れとけ」
乱暴な言い草だが、彼なりにジローを慮っているのだろう。それくらいは分かる。
だからといって、それで考えを改められるようなら苦労はない。
「…さあ、もう一勝負といきましょう」
返事はない。レッドは何を思うのか、マスクの上からでは計り知れない。
(こんな所で意地を張ったまま死んだら…本当に大バカ者だな…)
靄がかかったような意識の中で、何故か多くの思い出が次々に蘇った。
祖父の事。
軍人時代の上官の事。
人間・望月次郎の死。
吸血鬼・望月ジローの誕生。
それからの百年。
最愛の母との離別。
最愛の弟の誕生。
成長した弟と共に神奈川県川崎市にやってきて、アヒル口の少女の世話になった。
そして、今は―――幻想郷にいる。
(走馬灯か?)
これはいよいよまずいかもしれない。そう思った時、先日の妖夢とのやり取りが想起された。
―――私が心配してるのは、あなたが死んだら悲しむ人がいるんじゃないか、という事です
とんでもない毒舌少女だが、その時ばかりは、確かにジローを心配してくれていたのだ。
自分は彼女に、こう答えた。
自分は彼女に、こう答えた。
―――私にはまだ<使命>が残っていますから。それを果たすまでは、死んではならないんです
「…使命」
ふっと、力が抜けた。銀刀が手から滑り落ちる。
大地に仰向けに倒れ込む。真上に望む月は、ただただ美しかった。
まるで、今は亡き彼女のように。
どくん。
血が波打つ。
彼女から託された血。それに秘められた使命。
そして、自分の愛する者達。
「私は…正真正銘の愚か者になる所でしたね…」
己の人生の中で、命を賭けてでも何かを成し遂げねばならぬ時はあろう。
全てが終われば灰も残らぬような闘いに身を投じねばならぬ時も来よう。
だが、それは―――今ではない。
自分が何らかの物語の主人公として、その血の一滴まで流し尽す―――
そんな日が、いつか来るかもしれないが―――
それは、今ではない。
「サンレッド」
どこか清々しさを感じさせる微笑を浮かべ、ジローは己を見下ろすレッドに親指を立てた。
「応援しますよ―――どうか、優勝してください」
レッドもまた、親指を立て返した。
ふっと、力が抜けた。銀刀が手から滑り落ちる。
大地に仰向けに倒れ込む。真上に望む月は、ただただ美しかった。
まるで、今は亡き彼女のように。
どくん。
血が波打つ。
彼女から託された血。それに秘められた使命。
そして、自分の愛する者達。
「私は…正真正銘の愚か者になる所でしたね…」
己の人生の中で、命を賭けてでも何かを成し遂げねばならぬ時はあろう。
全てが終われば灰も残らぬような闘いに身を投じねばならぬ時も来よう。
だが、それは―――今ではない。
自分が何らかの物語の主人公として、その血の一滴まで流し尽す―――
そんな日が、いつか来るかもしれないが―――
それは、今ではない。
「サンレッド」
どこか清々しさを感じさせる微笑を浮かべ、ジローは己を見下ろすレッドに親指を立てた。
「応援しますよ―――どうか、優勝してください」
レッドもまた、親指を立て返した。
―――天体戦士サンレッド・トーナメント本戦出場。