その時だった。
「面白そうな連中が、面白そうな話をしてるじゃない」
幼くもそれに似合わぬ怜悧な声だった。
「私も混ぜてくれないかしら?」
幽々子は顔を引き締め、障子を開け放つ。
眼前に広がる、優雅な庭園。聳え立つ巨大な桜―――<西行妖>。
その枝に、一匹の蝙蝠がぶら下がっていた。
「盗み聞きとは、趣味が悪いわね」
気分を害したのか、呑気な幽々子にしては少々険のある物言いだった。
「御免遊ばせ、退屈でしょうがなかったもので」
驚いた事に、蝙蝠が返答する。
「…<化身(メタモーフィシス)>」
ジローが呟いた。
読んで字の如く、己の姿をまるで別の何かに変化させる異能力。
「吸血鬼の中でも、魔術に長けた者の得意技ですよ…」
「吸血鬼…?そういやさっきの声、どっかで聞いたような」
そこまで言って、レッドも思い至った。
かつて川崎市に降り立ち、ある意味レッドすら震撼させた、幼くも恐るべき吸血鬼―――
「あら、私を知っているのかしら?」
「ああ。川崎でプリン落っことして泣いてたガキだろ?」
紫と幽々子が思わず吹き出し、蝙蝠はぐっと言葉に詰まる。
「ま、まあいいわ…見せてあげましょう、私の高貴なる姿を!」
まるでTVのチャンネルを回すように、瞬時に蝙蝠が姿を変えた―――いや<元に戻った>というべきか。
そこにいたのは、齢10に満たない程の幼い少女―――されど、その内実は見た目とは程遠い。
そもそも彼女は、既に五百年を超える時を生きている。
月光を浴びて煌く蒼い髪。血のように紅い瞳が、端正な美貌に華を添えている。
その神々しいまでの姿は、その場の全員に否応なく認識させた。
彼女こそが、月下の支配者なのだと。
「れ、レッドさん…私を守ってくださいね!」
「何ヒロインっぽい事言ってんだ、悪の将軍が」
まあ、そんな正義と悪の馴れ合いはともかく。
「面白そうな連中が、面白そうな話をしてるじゃない」
幼くもそれに似合わぬ怜悧な声だった。
「私も混ぜてくれないかしら?」
幽々子は顔を引き締め、障子を開け放つ。
眼前に広がる、優雅な庭園。聳え立つ巨大な桜―――<西行妖>。
その枝に、一匹の蝙蝠がぶら下がっていた。
「盗み聞きとは、趣味が悪いわね」
気分を害したのか、呑気な幽々子にしては少々険のある物言いだった。
「御免遊ばせ、退屈でしょうがなかったもので」
驚いた事に、蝙蝠が返答する。
「…<化身(メタモーフィシス)>」
ジローが呟いた。
読んで字の如く、己の姿をまるで別の何かに変化させる異能力。
「吸血鬼の中でも、魔術に長けた者の得意技ですよ…」
「吸血鬼…?そういやさっきの声、どっかで聞いたような」
そこまで言って、レッドも思い至った。
かつて川崎市に降り立ち、ある意味レッドすら震撼させた、幼くも恐るべき吸血鬼―――
「あら、私を知っているのかしら?」
「ああ。川崎でプリン落っことして泣いてたガキだろ?」
紫と幽々子が思わず吹き出し、蝙蝠はぐっと言葉に詰まる。
「ま、まあいいわ…見せてあげましょう、私の高貴なる姿を!」
まるでTVのチャンネルを回すように、瞬時に蝙蝠が姿を変えた―――いや<元に戻った>というべきか。
そこにいたのは、齢10に満たない程の幼い少女―――されど、その内実は見た目とは程遠い。
そもそも彼女は、既に五百年を超える時を生きている。
月光を浴びて煌く蒼い髪。血のように紅い瞳が、端正な美貌に華を添えている。
その神々しいまでの姿は、その場の全員に否応なく認識させた。
彼女こそが、月下の支配者なのだと。
「れ、レッドさん…私を守ってくださいね!」
「何ヒロインっぽい事言ってんだ、悪の将軍が」
まあ、そんな正義と悪の馴れ合いはともかく。
「こんばんは、そして初めまして―――我こそは紅魔館の主レミリア・スカーレット」
彼女はまるで踊るように軽やかな足取りで、縁側で成り行きを見守る一同に歩み寄る。
「一応言っておくけれど、狼藉は赦しませんよ」
「そんなことしないわよ。顔見せに来ただけ―――あの方に、ね」
そしてコタロウの前で立ち止まり、その顔をまじまじと見つめる。
「当然と言えばその通りだけど…似てるわねえ、あの方に」
<あの方>というのが誰を指すのか、訊くまでもない。
「む~…なんだかさっきから、そんなことばかり言われてる気がする」
当のコタロウは不満げだ。事態が自分のよく分からない方向に動いているのがお気に召さないらしい。
レミリアはクスリと笑い、今度はジローに顔を向ける。
「あなたが望月ジロー。あの方より直々に血を受けた者、か」
「レミリア・スカーレット…そういえば、彼女も貴女の事を語っていましたよ」
「あら、そうなの?どんな風に言っていたのかしら」
「…褒めていましたよ」
嘘は言っていない。<お人形さんみたいに可愛い>は褒め言葉のはずだ。
「そう。あの方も私を覚えていてくださったのね―――嬉しいわ」
「一応言っておくけれど、狼藉は赦しませんよ」
「そんなことしないわよ。顔見せに来ただけ―――あの方に、ね」
そしてコタロウの前で立ち止まり、その顔をまじまじと見つめる。
「当然と言えばその通りだけど…似てるわねえ、あの方に」
<あの方>というのが誰を指すのか、訊くまでもない。
「む~…なんだかさっきから、そんなことばかり言われてる気がする」
当のコタロウは不満げだ。事態が自分のよく分からない方向に動いているのがお気に召さないらしい。
レミリアはクスリと笑い、今度はジローに顔を向ける。
「あなたが望月ジロー。あの方より直々に血を受けた者、か」
「レミリア・スカーレット…そういえば、彼女も貴女の事を語っていましたよ」
「あら、そうなの?どんな風に言っていたのかしら」
「…褒めていましたよ」
嘘は言っていない。<お人形さんみたいに可愛い>は褒め言葉のはずだ。
「そう。あの方も私を覚えていてくださったのね―――嬉しいわ」
彼女―――<賢者イヴ>の事は、彼女が幻想郷を訪れた際に一度会ったきりだが、よく覚えている。
その瞬間の感動は、未だに忘れられない。
全身の血が歓喜に沸き立つような、あの衝動は。
神との対話に成功した聖者の心地だった。
その瞬間の感動は、未だに忘れられない。
全身の血が歓喜に沸き立つような、あの衝動は。
神との対話に成功した聖者の心地だった。
「あの方は…まさに吸血鬼の頂点。紛う事無きカリスマだったわ」
吸血鬼という括りは同じでも、その存在はまるで別物だった。
自分になくて彼女にあるものはいくらでも挙げる事が出来たが、その逆は何一つ思い付かなかった。
「驚いたわね…傲岸不遜が牙を生やして歩いてる貴女が、そこまで言うなんて」
「吸血鬼ならぬ貴女でも分かるはずよ、八雲紫。そして西行寺幽々子。あの方の偉大さが」
逆に言えば―――吸血鬼だからこそ、レミリアはかくも<賢者イヴ>に敬意を払っているのだろう。
<始祖(ソース・ブラッド)>とは、あらゆる吸血鬼にとって神も同然の存在である。
そして<賢者イヴ>は始祖の中でも<真祖混沌>と並ぶ崇高な吸血鬼とされている。
それは天上天下唯我独尊を地で行くレミリア・スカーレットにしても例外ではないのだ。
「そして、望月ジロー…あなたは、私よりも深く理解しているはず」
「…否定はしません。彼女は…アリス・イヴは、素晴らしい方だった」
ジローは、黙祷するように目を閉じた。紫と幽々子、そしてレミリアもそれに続く。
「なんかぼくたち、話に入れないね…」
「ちょっと寂しいですねー、レッドさん」
「うるせえ!俺に話を振るんじゃねーよ」
「ではこうしたら如何でしょう。コタロウくんとヴァンプさんとレッドさん、そしてこの魂魄妖夢で<蚊帳の外カルテット>
を結成するというのは。しかしレッドさん、あなた主人公なのに蚊帳の外なんて地味にヤバい話ですよ。鰤市の苺くん
だってもうちょい話に絡んできますよ。もっと危機感を持ってください」
「…………」
返事のない所を見ると、自覚はあったようである。それはともかく。
「…そういえば、自己紹介もまだでしたね。改めて名乗らせて頂くとしましょう」
目を開いたジローは、レミリアに向き直って凛と背筋を伸ばし、あごを軽く引いた。
一度息を吸い、恭しく頭を下げる。
吸血鬼という括りは同じでも、その存在はまるで別物だった。
自分になくて彼女にあるものはいくらでも挙げる事が出来たが、その逆は何一つ思い付かなかった。
「驚いたわね…傲岸不遜が牙を生やして歩いてる貴女が、そこまで言うなんて」
「吸血鬼ならぬ貴女でも分かるはずよ、八雲紫。そして西行寺幽々子。あの方の偉大さが」
逆に言えば―――吸血鬼だからこそ、レミリアはかくも<賢者イヴ>に敬意を払っているのだろう。
<始祖(ソース・ブラッド)>とは、あらゆる吸血鬼にとって神も同然の存在である。
そして<賢者イヴ>は始祖の中でも<真祖混沌>と並ぶ崇高な吸血鬼とされている。
それは天上天下唯我独尊を地で行くレミリア・スカーレットにしても例外ではないのだ。
「そして、望月ジロー…あなたは、私よりも深く理解しているはず」
「…否定はしません。彼女は…アリス・イヴは、素晴らしい方だった」
ジローは、黙祷するように目を閉じた。紫と幽々子、そしてレミリアもそれに続く。
「なんかぼくたち、話に入れないね…」
「ちょっと寂しいですねー、レッドさん」
「うるせえ!俺に話を振るんじゃねーよ」
「ではこうしたら如何でしょう。コタロウくんとヴァンプさんとレッドさん、そしてこの魂魄妖夢で<蚊帳の外カルテット>
を結成するというのは。しかしレッドさん、あなた主人公なのに蚊帳の外なんて地味にヤバい話ですよ。鰤市の苺くん
だってもうちょい話に絡んできますよ。もっと危機感を持ってください」
「…………」
返事のない所を見ると、自覚はあったようである。それはともかく。
「…そういえば、自己紹介もまだでしたね。改めて名乗らせて頂くとしましょう」
目を開いたジローは、レミリアに向き直って凛と背筋を伸ばし、あごを軽く引いた。
一度息を吸い、恭しく頭を下げる。
「初にお目にかかる、レミリア・スカーレット。永遠に紅い幼き月。運命を操り司る吸血姫。遥か悠久の夜を生きる
古き血よ。私の名は、望月ジロー。<賢者イヴ>の血統に連なる者。また、香(こう)の港の戦よりのち<銀刀>
と呼ばれし者。百の齢を重ねしが、いまだ浅き脈動なれば、貴女の流れを妨げることなく、共に強き鼓動を刻まん
ことを」
古き血よ。私の名は、望月ジロー。<賢者イヴ>の血統に連なる者。また、香(こう)の港の戦よりのち<銀刀>
と呼ばれし者。百の齢を重ねしが、いまだ浅き脈動なれば、貴女の流れを妨げることなく、共に強き鼓動を刻まん
ことを」
その姿を、レッドは興味深げに眺めていた。古き吸血鬼―――所謂<古血(オールド・ブラッド)>同士が仁義を
交わす際の口上というのは、そうそう見れるものではない。コタロウやヴァンプも、いつもとまるで違うジローに
驚き、目を瞠っていた。
レミリアも気を良くしたのか、僅かに口元を綻ばせる。
「年長者に対する礼節は弁えているようね、望月ジロー。」
「恐縮です」
「最近の若い連中はその辺が疎かになっているから困るわ。例えば貧乏巫女とか魔法使いとか。きっちりと躾けて
くれる大人がいないからそうなるのかしらね?あなたはどうだったのかしら」
すうっと。レミリアはジローに近づき、その目を覗き込んだ。
「…っ!」
「心配しないで。野暮な真似はしないわ」
反射的に目を逸らそうとするジローに対し、レミリアは小さな子供に言い聞かせるような声で語る。
吸血鬼は目を合わせただけで、その内在を己の意のままに操る事が出来る―――
それが<視経侵攻(アイ・レイド)>と呼ばれる異能だ。
その精度は吸血鬼の力量によって左右されるが、レミリアともなれば、同じ吸血鬼であるジローですらも一瞬で忠実
な操り人形に堕としてしまえるだろう。
「そんな事をするつもりなんてないの。ちょっと視るだけよ」
有無を言わさずジローの頭を両手で挟み込み、その瞳をじっと見つめる―――それは、一瞬で終わった。
「クスクス」
何がおかしいのか、ジローから手を離した彼女は笑う。
「随分おっかない御爺様に育てられたのね?それに吸血鬼に成り立ての頃、先輩の女吸血鬼に随分苛められたよう
だし…ああ、その女には今でもイビられてるのね、可哀想に。それに、やたらと図体の大きい吸血鬼…鬱陶しがって
いながら、その実とても頼りに思ってるのね。素直じゃないんだから」
「…他にも、いらぬ事を覗いてはいないでしょうね?最後の辺りは既にいらぬ事の領域ですが」
「心配しないでと言ったでしょう?余計な物まで視るつもりもないわ。精々が世界恐慌の時に株で大損こいた記憶を
覗いたくらいよ」
「消せ!今すぐその記憶を抹消なさい!」
「さて、それはそうと」
レミリアは喚くジローを無視し、話を切り替えた。
「件のトーナメント、私も出場させてもらうわ―――あの方の遺品とあれば、是非ともこの手にしたいものね」
「はっ」
と、鼻で笑ったのは、レッドである。
「プリン落として泣いてたガキが生意気によー。どうせ出場しても恥とベソかくだけだからやめときな」
「…………」
レミリアは、張り付けたような笑顔でサンレッドを見つめる。
「もしかして、私に言ってるのかしら?聴き間違えならいいんだけど」
「ああ、悪りぃ。ガキに見えてもババァだから耳が遠いんだな?恥晒すから出場すんなって言ってんだよ」
挑発している、などというレベルではない。明らかにケンカを売っている。
しかも、別に理由もなく。この辺がチンピラヒーロー・レッドさんの悪い癖である。
「あはは」
レミリアは、笑う。明らかに笑っていない瞳で。
交わす際の口上というのは、そうそう見れるものではない。コタロウやヴァンプも、いつもとまるで違うジローに
驚き、目を瞠っていた。
レミリアも気を良くしたのか、僅かに口元を綻ばせる。
「年長者に対する礼節は弁えているようね、望月ジロー。」
「恐縮です」
「最近の若い連中はその辺が疎かになっているから困るわ。例えば貧乏巫女とか魔法使いとか。きっちりと躾けて
くれる大人がいないからそうなるのかしらね?あなたはどうだったのかしら」
すうっと。レミリアはジローに近づき、その目を覗き込んだ。
「…っ!」
「心配しないで。野暮な真似はしないわ」
反射的に目を逸らそうとするジローに対し、レミリアは小さな子供に言い聞かせるような声で語る。
吸血鬼は目を合わせただけで、その内在を己の意のままに操る事が出来る―――
それが<視経侵攻(アイ・レイド)>と呼ばれる異能だ。
その精度は吸血鬼の力量によって左右されるが、レミリアともなれば、同じ吸血鬼であるジローですらも一瞬で忠実
な操り人形に堕としてしまえるだろう。
「そんな事をするつもりなんてないの。ちょっと視るだけよ」
有無を言わさずジローの頭を両手で挟み込み、その瞳をじっと見つめる―――それは、一瞬で終わった。
「クスクス」
何がおかしいのか、ジローから手を離した彼女は笑う。
「随分おっかない御爺様に育てられたのね?それに吸血鬼に成り立ての頃、先輩の女吸血鬼に随分苛められたよう
だし…ああ、その女には今でもイビられてるのね、可哀想に。それに、やたらと図体の大きい吸血鬼…鬱陶しがって
いながら、その実とても頼りに思ってるのね。素直じゃないんだから」
「…他にも、いらぬ事を覗いてはいないでしょうね?最後の辺りは既にいらぬ事の領域ですが」
「心配しないでと言ったでしょう?余計な物まで視るつもりもないわ。精々が世界恐慌の時に株で大損こいた記憶を
覗いたくらいよ」
「消せ!今すぐその記憶を抹消なさい!」
「さて、それはそうと」
レミリアは喚くジローを無視し、話を切り替えた。
「件のトーナメント、私も出場させてもらうわ―――あの方の遺品とあれば、是非ともこの手にしたいものね」
「はっ」
と、鼻で笑ったのは、レッドである。
「プリン落として泣いてたガキが生意気によー。どうせ出場しても恥とベソかくだけだからやめときな」
「…………」
レミリアは、張り付けたような笑顔でサンレッドを見つめる。
「もしかして、私に言ってるのかしら?聴き間違えならいいんだけど」
「ああ、悪りぃ。ガキに見えてもババァだから耳が遠いんだな?恥晒すから出場すんなって言ってんだよ」
挑発している、などというレベルではない。明らかにケンカを売っている。
しかも、別に理由もなく。この辺がチンピラヒーロー・レッドさんの悪い癖である。
「あはは」
レミリアは、笑う。明らかに笑っていない瞳で。
「愉快な人ねえ、あなた。愉快すぎて…殺したくなってきたわ」
凍えるような声と同時に、レミリアが今まで抑えていた気配を解き放つ。
その瞬間、空気が一瞬にして魔界の瘴気に転じたかのようだった。
肌を刺すような殺気に、ヴァンプとコタロウは抱き合って産まれ立ての仔鹿のように震える。
ジローと妖夢は圧倒的な鬼気を前に思わず刀を抜き、構える。
今なお平然としているのは紫と幽々子、そしてサンレッドだけだ。
「本番の前に<不幸な事故>で参加者が一人くらい減っても、別に誰も困らないわよね?」
「ほー。どうするってんだ?」
「決まっているでしょう」
運命の吸血姫は、天を―――月を仰ぎ見る。
「今夜は丁度退屈してたし、気分もいい。それにほら、こんなに月も紅い―――」
だから。
「本気で殺すわよ」
「殺す殺すって連呼してる時点で小物臭丸出しなんだよ。やれるもんなら殺ってみな、クソガキ」
レッドは庭園に降り立ち、レミリアを挑発する。吸血姫の紅の唇が、三日月の形に歪んだ。
「その減らず口、縫いつけてやるわ―――!」
赤い風が、吹き抜ける。真紅の吸血姫が、牙を剥き出しにする。
その瞬間、空気が一瞬にして魔界の瘴気に転じたかのようだった。
肌を刺すような殺気に、ヴァンプとコタロウは抱き合って産まれ立ての仔鹿のように震える。
ジローと妖夢は圧倒的な鬼気を前に思わず刀を抜き、構える。
今なお平然としているのは紫と幽々子、そしてサンレッドだけだ。
「本番の前に<不幸な事故>で参加者が一人くらい減っても、別に誰も困らないわよね?」
「ほー。どうするってんだ?」
「決まっているでしょう」
運命の吸血姫は、天を―――月を仰ぎ見る。
「今夜は丁度退屈してたし、気分もいい。それにほら、こんなに月も紅い―――」
だから。
「本気で殺すわよ」
「殺す殺すって連呼してる時点で小物臭丸出しなんだよ。やれるもんなら殺ってみな、クソガキ」
レッドは庭園に降り立ち、レミリアを挑発する。吸血姫の紅の唇が、三日月の形に歪んだ。
「その減らず口、縫いつけてやるわ―――!」
赤い風が、吹き抜ける。真紅の吸血姫が、牙を剥き出しにする。
「―――<不夜城レッド>!」
叫びと同時にレミリアの身体から真紅の闘気が燃え上がり、周囲を薙ぎ払う。
吸血鬼にとっては基本的な技能といえる<力場思念(ハイド・ハンド)>―――
肉体ではなく魔力によって物理的な圧力を生み出す、俗にサイコキネシスと呼ばれる異能。
レミリアが行なったのは、本質的にはそれと同じ。
違うのは、放出された魔力の総量だ。そこらの吸血鬼では何十人が束になろうとも届かない程の圧倒的容量。
それを彼女は、呼吸をするような気軽さで解き放った。
「煙を巻き上げるだけかよ、しゃらくせえっ!」
だが、それをまともに受けてカスリ傷で済んだレッドも、やはり並ではない。
地を裂くほどの踏み込みでレミリアに肉薄する。その拳が今、炎を纏い夜空に煌く。
吸血鬼にとっては基本的な技能といえる<力場思念(ハイド・ハンド)>―――
肉体ではなく魔力によって物理的な圧力を生み出す、俗にサイコキネシスと呼ばれる異能。
レミリアが行なったのは、本質的にはそれと同じ。
違うのは、放出された魔力の総量だ。そこらの吸血鬼では何十人が束になろうとも届かない程の圧倒的容量。
それを彼女は、呼吸をするような気軽さで解き放った。
「煙を巻き上げるだけかよ、しゃらくせえっ!」
だが、それをまともに受けてカスリ傷で済んだレッドも、やはり並ではない。
地を裂くほどの踏み込みでレミリアに肉薄する。その拳が今、炎を纏い夜空に煌く。
「―――<ファイアー・ブロウ>!」
単純明快―――拳に炎を纏わせ、渾身の力で殴りつける。
鳩尾に受けたレミリアは吹っ飛ばされつつも、空中で姿勢を整える。
「ふふ…やるじゃない。ドレスが焦げちゃったわ」
黒き羽根を広げ、ひらりと舞い上がり、余裕の笑みを浮かべた。
「へっ―――そりゃあこっちのセリフだ。ちったあ面白え闘いになりそうじゃねーか…!」
対するレッドもトントンと足踏みし、ボクシングのような構えを取った。
いつになく真剣なヒーローの姿に、観戦してるヴァンプ様はたらたら汗を流す。
「レ…レッドさんが、真面目に闘ってる…!いつもタバコ吸いながらダラダラやってるのに…!」
なんて風に感動なさっていた。
「本気出せばレッドさん、あんな風に出来たんだ…」
「本気?あれが?」
その言葉を、紫は鼻で笑って否定する。
「あんなの、二人にとってはじゃれ合ってるようなものよ」
「え…」
「まあ、見ておきなさい―――化物同士の闘争というものを」
二人の闘いに目を戻すと、既に激しい攻防が始まっていた。
刹那に無数の拳が飛び交い、互いにその全てを見切り、受け止める。
千のフェイントの中に一つだけ混ぜた殺意を込めた一撃。
それをいなした瞬間、更に追撃。その間隙を縫っての反撃。
「しゃあっ!」
「クッ…!」
レッドの拳が、レミリアをガードごと弾き飛ばした。
均衡しているかに見えた闘いだが、次第にレッドが押し始めている。
リーチの差を利用して間合いを制し、徐々に追い詰めていく。
「格闘じゃそっちが有利か―――なら、こんなのはどう?」
宙に舞って距離を取り、両の掌に魔力を集中する。
鳩尾に受けたレミリアは吹っ飛ばされつつも、空中で姿勢を整える。
「ふふ…やるじゃない。ドレスが焦げちゃったわ」
黒き羽根を広げ、ひらりと舞い上がり、余裕の笑みを浮かべた。
「へっ―――そりゃあこっちのセリフだ。ちったあ面白え闘いになりそうじゃねーか…!」
対するレッドもトントンと足踏みし、ボクシングのような構えを取った。
いつになく真剣なヒーローの姿に、観戦してるヴァンプ様はたらたら汗を流す。
「レ…レッドさんが、真面目に闘ってる…!いつもタバコ吸いながらダラダラやってるのに…!」
なんて風に感動なさっていた。
「本気出せばレッドさん、あんな風に出来たんだ…」
「本気?あれが?」
その言葉を、紫は鼻で笑って否定する。
「あんなの、二人にとってはじゃれ合ってるようなものよ」
「え…」
「まあ、見ておきなさい―――化物同士の闘争というものを」
二人の闘いに目を戻すと、既に激しい攻防が始まっていた。
刹那に無数の拳が飛び交い、互いにその全てを見切り、受け止める。
千のフェイントの中に一つだけ混ぜた殺意を込めた一撃。
それをいなした瞬間、更に追撃。その間隙を縫っての反撃。
「しゃあっ!」
「クッ…!」
レッドの拳が、レミリアをガードごと弾き飛ばした。
均衡しているかに見えた闘いだが、次第にレッドが押し始めている。
リーチの差を利用して間合いを制し、徐々に追い詰めていく。
「格闘じゃそっちが有利か―――なら、こんなのはどう?」
宙に舞って距離を取り、両の掌に魔力を集中する。
「悪魔の晩餐―――<デモンズディナーフォーク>!」
放たれた魔力が無数の槍と化し、サンレッドを襲う。全てをかわす事は、如何にレッドでも不可能。
「それがどうしたっ!」
ならばとレッドは、多少のダメージを無視して魔槍の嵐の中に敢えて飛び込む。
その決断はレミリアにとっても驚きだったに違いない。攻勢に出たレッドの動きを捉え損ねた、その一瞬。
「らあっ!」
遠心力をたっぷり込めたローリング・ソバットが、レミリアの側頭部を痛打した。
悲鳴を上げながらレミリアは地に叩き付けられ、レッドは更に追い打ちをかけるべく猛進する。
だが、その動きが縫い止められたかのように制止する。見れば彼の手足に、何かが巻き付いていた。
「それがどうしたっ!」
ならばとレッドは、多少のダメージを無視して魔槍の嵐の中に敢えて飛び込む。
その決断はレミリアにとっても驚きだったに違いない。攻勢に出たレッドの動きを捉え損ねた、その一瞬。
「らあっ!」
遠心力をたっぷり込めたローリング・ソバットが、レミリアの側頭部を痛打した。
悲鳴を上げながらレミリアは地に叩き付けられ、レッドは更に追い打ちをかけるべく猛進する。
だが、その動きが縫い止められたかのように制止する。見れば彼の手足に、何かが巻き付いていた。
「運命は今、我が手に―――<ミゼラブルフェイト>!」
虚空より飛び出したそれは、真紅の鎖。
血のように赤い無数の鎖が、サンレッドの自由を完全に奪っていた。
「ちっ…!下らねー真似しやがって!」
「負け惜しみは男らしくないわよ?まあ、直にその口も利けなくなる」
レミリアは優位を確信し、レッドを見下ろす。その全身から沸き上がる、緋色の闘気。
血のように赤い無数の鎖が、サンレッドの自由を完全に奪っていた。
「ちっ…!下らねー真似しやがって!」
「負け惜しみは男らしくないわよ?まあ、直にその口も利けなくなる」
レミリアは優位を確信し、レッドを見下ろす。その全身から沸き上がる、緋色の闘気。
「ブチ抜いてあげるわ―――<バッドレディスクランブル>!」
闘気を纏い、自らを弾丸と化しての突撃―――
無防備で喰らえば、レッドとて無傷では済まないだろう。だが。
「らぁぁぁぁぁぁァァァっ!」
怒号と共に裂帛の覇気を放ち、鎖を消し飛ばした。そしてカっ飛んでくるレミリアに向けて、足裏で蹴り付ける。
「なっ…!」
「サンレッド・スーパーキック!」
とか言いつつ、実態は単なるヤクザキック―――されど、彼の脚力とレミリアの勢いが合わさったカウンターだ。
さしもの吸血姫も相当のダメージを被り、倒れこそはしなかったものの大きくよろめいた。
その表情には常に己の一つ上をいくレッドへの驚愕と苛立ち、そしてそれを良しとしない矜持が浮かんでいる。
「へっ! テメーの技は見栄えがいいだけで中身がスカスカなんだよ…そんなんじゃ俺には勝てねーな」
「言ってくれる。幻想郷の闘いというのはただ勝てばいいわけではないの。如何に美しく闘うかを競うのよ」
そう語る彼女の右手に魔力が結集していき、煌々と輝く。
「魅せてあげるわ、サンレッド。我が真の力を―――!」
解き放たれた魔力は槍の形状を取り、太陽の戦士に襲いかかる。
対するサンレッドは、両手を天高く掲げ、己の太陽闘気(コロナ)を凝縮した火炎球を作り出す。
其れはまさしく、地上に顕現した神の火―――即ち、太陽!
無防備で喰らえば、レッドとて無傷では済まないだろう。だが。
「らぁぁぁぁぁぁァァァっ!」
怒号と共に裂帛の覇気を放ち、鎖を消し飛ばした。そしてカっ飛んでくるレミリアに向けて、足裏で蹴り付ける。
「なっ…!」
「サンレッド・スーパーキック!」
とか言いつつ、実態は単なるヤクザキック―――されど、彼の脚力とレミリアの勢いが合わさったカウンターだ。
さしもの吸血姫も相当のダメージを被り、倒れこそはしなかったものの大きくよろめいた。
その表情には常に己の一つ上をいくレッドへの驚愕と苛立ち、そしてそれを良しとしない矜持が浮かんでいる。
「へっ! テメーの技は見栄えがいいだけで中身がスカスカなんだよ…そんなんじゃ俺には勝てねーな」
「言ってくれる。幻想郷の闘いというのはただ勝てばいいわけではないの。如何に美しく闘うかを競うのよ」
そう語る彼女の右手に魔力が結集していき、煌々と輝く。
「魅せてあげるわ、サンレッド。我が真の力を―――!」
解き放たれた魔力は槍の形状を取り、太陽の戦士に襲いかかる。
対するサンレッドは、両手を天高く掲げ、己の太陽闘気(コロナ)を凝縮した火炎球を作り出す。
其れはまさしく、地上に顕現した神の火―――即ち、太陽!
「穿ち貫け、神の槍―――<スピア・ザ・グングニル>!」
「燃え盛れ、神の火―――<コロナアタック>!」
「燃え盛れ、神の火―――<コロナアタック>!」
両者同時に放った、必殺の一撃。
片や全てを貫く神槍。
片や全てを焼く太陽。
二つの超エネルギーが激突すれば、辺り一面が焼け野原となってもおかしくはなかった。
だが。
片や全てを貫く神槍。
片や全てを焼く太陽。
二つの超エネルギーが激突すれば、辺り一面が焼け野原となってもおかしくはなかった。
だが。
「―――その辺にしときなさい。幽々子の家を壊すつもり?」
一瞬にして、相対する神の槍と神の火は消え去った。文字通りに跡形もなく消滅したのだ。
「…八雲紫…!」
レミリアは歯軋りし、いつの間にやら自分とレッドの間に陣取った紫を睨み付けた。
「何をやりやがった、テメエ…」
レッドも険を隠そうともせず問い詰める。大妖怪は事もなげに答えた。
「大したことじゃないわ。ちょいと境界を弄って別の空間に飛ばしただけよ」
そしてレミリアに向き直り、傲然と言い放つ。
「おいたもここまでにしなさい、レミリア・スカーレット。少し挑発されたくらいでこれ以上暴れるようなら私や幽々子
も黙っていないわよ」
「…………」
逡巡するが、答えは決まっていた。
少々熱くなってしまったが、所詮は暇潰しと気晴らし程度の意味しかない闘いだ。
それだけのために幻想郷屈指の実力者である八雲紫や西行寺幽々子を敵に回すほど、彼女は愚かではない。
漆黒の羽根で夜空に飛び上がり、月光を背にしてレッド達を高みより見下ろした。
「興が醒めたわね―――今夜の宴は御開きよ」
そして。
「覚悟しておくのね、サンレッド―――トーナメントで出会った時こそ、きっちりしっかり殺してあげる」
剣呑な言葉だけ残して、吸血姫は去っていく。
サンレッドは無言で、その背をただ静かに見送った。
「すっごーい!レッドさん、かっこよかったー!」
そんな彼にコタロウが駆け寄り、笑顔で抱き付く。
「まるで本物のヒーローみたいだったよ!」
「何だよ、その褒め方は…」
まるでいつもはヒーローじゃないかのようである。そして否定はできないのが悲しい。
「…レッドさん」
と。ヴァンプ様はジト目でレッドを見つめていた。そして、急にプリプリして文句を言いだす。
「もぉ~っ!レッドさん、何なんですか、今の闘い!」
「何を怒ってんだよ、お前…」
「何を、じゃありません!私達との対決じゃ、あんな派手なアクションしてくれないくせに、もう!私だってね、レッド
さんがいつもああいう感じで対決してくれてたらこんな文句は言いませんよ!ほんとにもう!」
「…………」
レッドさんは救い難い、とばかりに嘆息し、ゲンコツで無理矢理黙らせた。
「に、しても…確かに強かったよ、あのガキ」
今でもこの身に、闘いの余韻が残っている。
結果的には終始優位に立っていたとはいえ、見た目ほど余裕があったわけでもない。
気を抜いていれば、こちらがやられていてもおかしくはなかった。
「あいつが川崎に来た時にお前の言ってた事も、あながち過大評価ってわけでもなかったな、ジロー」
「…………」
「おい、何ボーっとしてんだよ」
「…申し訳ない。正直、圧倒されていました」
同じ吸血鬼だからこそ、レミリアとの格の違い―――否、桁の違いは傍から見るだけで理解できた。
そして、そのレミリアと互角以上に渡り合ったサンレッド。
「おまけに、あなた方は双方共に全力を見せたわけではない…はっきり言って、気が滅入りますよ」
「もう、兄者ったらそんな弱気じゃダメだよ!」
コタロウはそう言って励ますが、ジローの表情は暗い。
「そうは言いますが、コタロウ…兄はとても嫌な予感がするのです。私の扱いに困った作者が、ロクでもない末路
を用意してそうな…自分で言うのもなんですが、私の強さは雑魚散らしには丁度いいけど強敵にはボロボロになる
という、実に半端な強さなんですよ?サンレッドは素人から玄人まで扱いやすい圧倒的な強さですが、私のような
強さは素人には扱いが難しすぎるんです」
「だからメタ発言はやめましょう、ジローさん」
ぽんぽんと、妖夢はジローの肩を叩く。
「ジローさんのカッコいい所、私は全部分かってますから。主に原作小説で。だからこの腐れSSでどれだけ酷い
扱いを受けようとも、私は生暖かい視線で見守りますからね」
「5秒前に自分が仰った事を覚えていないんですか、あなたは…」
「ちなみに私はジロー×ケインよりジロー×陣内が好みです。好青年と渋いおじさま、いいですよね」
「死んでしまえ」
「おや、さてはゼルマン×ジローがいいのですか?美少年に強気責めされるのがいいんですね、このマゾ野郎め」
「殺す!必殺と書いて必ず殺す!」
「皆さんは男同士と見れば妄想カップリングに走る腐女子を毛嫌いしますが、あなた達だって女同士と見ればレズ
カップリング妄想をなさるでしょう?マリアリだの勇パルだの、幻想に過ぎないのに…我々の本質は結局の所同じ
なんですよ。現実を見ましょう、現実を」
「話を逸らすなぁっ!そしてハシさんを始めとする色んな方面を敵に回すなぁっ!」
「…八雲紫…!」
レミリアは歯軋りし、いつの間にやら自分とレッドの間に陣取った紫を睨み付けた。
「何をやりやがった、テメエ…」
レッドも険を隠そうともせず問い詰める。大妖怪は事もなげに答えた。
「大したことじゃないわ。ちょいと境界を弄って別の空間に飛ばしただけよ」
そしてレミリアに向き直り、傲然と言い放つ。
「おいたもここまでにしなさい、レミリア・スカーレット。少し挑発されたくらいでこれ以上暴れるようなら私や幽々子
も黙っていないわよ」
「…………」
逡巡するが、答えは決まっていた。
少々熱くなってしまったが、所詮は暇潰しと気晴らし程度の意味しかない闘いだ。
それだけのために幻想郷屈指の実力者である八雲紫や西行寺幽々子を敵に回すほど、彼女は愚かではない。
漆黒の羽根で夜空に飛び上がり、月光を背にしてレッド達を高みより見下ろした。
「興が醒めたわね―――今夜の宴は御開きよ」
そして。
「覚悟しておくのね、サンレッド―――トーナメントで出会った時こそ、きっちりしっかり殺してあげる」
剣呑な言葉だけ残して、吸血姫は去っていく。
サンレッドは無言で、その背をただ静かに見送った。
「すっごーい!レッドさん、かっこよかったー!」
そんな彼にコタロウが駆け寄り、笑顔で抱き付く。
「まるで本物のヒーローみたいだったよ!」
「何だよ、その褒め方は…」
まるでいつもはヒーローじゃないかのようである。そして否定はできないのが悲しい。
「…レッドさん」
と。ヴァンプ様はジト目でレッドを見つめていた。そして、急にプリプリして文句を言いだす。
「もぉ~っ!レッドさん、何なんですか、今の闘い!」
「何を怒ってんだよ、お前…」
「何を、じゃありません!私達との対決じゃ、あんな派手なアクションしてくれないくせに、もう!私だってね、レッド
さんがいつもああいう感じで対決してくれてたらこんな文句は言いませんよ!ほんとにもう!」
「…………」
レッドさんは救い難い、とばかりに嘆息し、ゲンコツで無理矢理黙らせた。
「に、しても…確かに強かったよ、あのガキ」
今でもこの身に、闘いの余韻が残っている。
結果的には終始優位に立っていたとはいえ、見た目ほど余裕があったわけでもない。
気を抜いていれば、こちらがやられていてもおかしくはなかった。
「あいつが川崎に来た時にお前の言ってた事も、あながち過大評価ってわけでもなかったな、ジロー」
「…………」
「おい、何ボーっとしてんだよ」
「…申し訳ない。正直、圧倒されていました」
同じ吸血鬼だからこそ、レミリアとの格の違い―――否、桁の違いは傍から見るだけで理解できた。
そして、そのレミリアと互角以上に渡り合ったサンレッド。
「おまけに、あなた方は双方共に全力を見せたわけではない…はっきり言って、気が滅入りますよ」
「もう、兄者ったらそんな弱気じゃダメだよ!」
コタロウはそう言って励ますが、ジローの表情は暗い。
「そうは言いますが、コタロウ…兄はとても嫌な予感がするのです。私の扱いに困った作者が、ロクでもない末路
を用意してそうな…自分で言うのもなんですが、私の強さは雑魚散らしには丁度いいけど強敵にはボロボロになる
という、実に半端な強さなんですよ?サンレッドは素人から玄人まで扱いやすい圧倒的な強さですが、私のような
強さは素人には扱いが難しすぎるんです」
「だからメタ発言はやめましょう、ジローさん」
ぽんぽんと、妖夢はジローの肩を叩く。
「ジローさんのカッコいい所、私は全部分かってますから。主に原作小説で。だからこの腐れSSでどれだけ酷い
扱いを受けようとも、私は生暖かい視線で見守りますからね」
「5秒前に自分が仰った事を覚えていないんですか、あなたは…」
「ちなみに私はジロー×ケインよりジロー×陣内が好みです。好青年と渋いおじさま、いいですよね」
「死んでしまえ」
「おや、さてはゼルマン×ジローがいいのですか?美少年に強気責めされるのがいいんですね、このマゾ野郎め」
「殺す!必殺と書いて必ず殺す!」
「皆さんは男同士と見れば妄想カップリングに走る腐女子を毛嫌いしますが、あなた達だって女同士と見ればレズ
カップリング妄想をなさるでしょう?マリアリだの勇パルだの、幻想に過ぎないのに…我々の本質は結局の所同じ
なんですよ。現実を見ましょう、現実を」
「話を逸らすなぁっ!そしてハシさんを始めとする色んな方面を敵に回すなぁっ!」
「はいはい、境界操作境界操作」
八雲紫が境界を弄ったおかげで、およそ十行ほどの駄文はなかったことにされた。
マリアリはジャスティスだし、勇パルはジェラシー。大丈夫、これが現実だよ。
「まあ、何はともあれ…一筋縄じゃあいかなそうだな」
「その通りよ、サンレッド」
幽雅に扇を広げ、幽々子は妖艶に微笑む。
「最強の吸血鬼たるレミリアですら、此処ではあくまで<屈指の実力者>でしかないわ―――幻想郷はまさに人外
の群雄割拠。幽々白書っぽくいうと<バカな…!これほどの力を持った奴らが何の野心も持たずに暮らしていたと
いうのか!?>よ」
「ポッと出のオッサンに優勝をかっ攫われそうな話だな…」
ま、そんなつもりはさらさらねーけどな。
サンレッドはそう言った。
「普段が普段だからよ―――ここらでヒーローらしい所をたっぷり見せてやるぜ」
マリアリはジャスティスだし、勇パルはジェラシー。大丈夫、これが現実だよ。
「まあ、何はともあれ…一筋縄じゃあいかなそうだな」
「その通りよ、サンレッド」
幽雅に扇を広げ、幽々子は妖艶に微笑む。
「最強の吸血鬼たるレミリアですら、此処ではあくまで<屈指の実力者>でしかないわ―――幻想郷はまさに人外
の群雄割拠。幽々白書っぽくいうと<バカな…!これほどの力を持った奴らが何の野心も持たずに暮らしていたと
いうのか!?>よ」
「ポッと出のオッサンに優勝をかっ攫われそうな話だな…」
ま、そんなつもりはさらさらねーけどな。
サンレッドはそう言った。
「普段が普段だからよ―――ここらでヒーローらしい所をたっぷり見せてやるぜ」
―――そしてトーナメントの噂は、瞬く間に幻想郷を駆け巡る。
次は、その参加者達のそれぞれの思惑を語るとしよう。
次は、その参加者達のそれぞれの思惑を語るとしよう。